結論
日本瓦斯(ニチガス)は、関東を中心にLPガス105万件、都市ガス61万件、電気40万件を売る地域のエネルギー会社だ。筆者の結論は、今の値段は割高ということである。いちばんの理由は、足元の高い利益率と22%のROEが、規制の変更と利益の全額還元という二つの事情に支えられている点にある。
稼ぎの源は単純だ。家庭や店舗にガスと電気を届け続け、月々の料金を受け取る。2024年7月の液石法の省令改正で、営業の過当競争が抑えられ、営業費が減った。その分、2026年3月期の営業利益は213億円と過去最高になった。ただし会社自身が、次の期は原料高で減益と見ている。
LPガスの契約件数は、M&Aと営業で伸びている。一方、1件あたりの使用量は省エネと世帯の縮小で細る。しかも省令改正は料金を透明にした。顧客は料金を比べやすくなり、中長期では値決めの力を弱める側にも働く。
資本の使い方は誠実だ。利益をほぼ全額、配当と自社株買いで返し、自己資本は10年ほぼ増えていない。だから高いROEが出るが、これは事業が急に強くなったからではない。10年後の利益は、中立で今の1.4倍ほどと見る。それでも払う値段が高く、今の水準は楽観の筋書きにほぼ見合うだけだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ニチガスは「いい商売だが、縮む池で釣りをしている」会社だ。ガスと電気を毎月使ってもらう契約は、景気に左右されにくい。配送網と保安の仕組みも、小さな同業には作りにくい。経営は利益を返すことに躊躇がなく、買収にも節度がある。ここは評価できる。
しかし、10年後にこの事業が今より強いとは言い切れない。契約件数は買収で増やせるが、1件あたりの使用量は減り、電化の流れも止まらない。2024年の省令改正が作った高い利益率は、料金の透明化とともに、いずれ削られる可能性が高い。
22%のROEは魅力的に見えるが、全額還元でためない結果でもある。ためない会社が成長するのは、売上そのものが伸びる時だけだ。筆者が見る10年後の利益は、今の1.4倍ほどにとどまる。
安全域という点では、今の時価総額は、強気の筋書きが半分ほど実現して初めて見合う水準だ。配当の利回りは約4%あり、持ち続ける間の見返りは悪くない。それでも、払う値段には余裕がない。
何で稼ぐ会社か
ニチガスは1955年に東京・八丁堀でLPガス会社として創業した。LPガスとは、ボンベや配管で各戸に届けるプロパン系のガスで、都市ガスの導管が届かない地域で多く使われる。2026年3月期の売上2,085億円のうち、LPガスが44%、都市ガスが32%、電気が25%を占める。
都市ガスは2017年の小売自由化で参入した。2018年には東京電力グループと組み、電気とガスのセット販売を始めた。同じ家庭に複数のエネルギーを売れば、配送や検針や問い合わせ対応の費用を分け合える。ここがニチガスの組み立ての要である。契約件数はLPガス105万件、電気40万件、都市ガス61万件だ。
もう一つの特徴が、デジタル化への投資だ。保安の見回りや配送の経路をシステムで効率化し、契約者向けのアプリで手続きを済ませる。新しい中期経営計画(2029年3月期まで)では、この自社の基盤を同業の小さなLPガス会社に提供する「プラットフォーム事業」を独立した事業にする。
成長の手段は二つある。ひとつは営業とM&Aによる契約件数の積み増し。もうひとつは、買った事業を自社の配送網とシステムに載せて利益率を上げることだ。逆に言えば、数量そのものを伸ばす力は弱い。人口と世帯が減る国内の需要を、買収で追いかける構図である。
優良さと弱いところ
優良さの核は、地域に密集した配送網と、料金を毎月受け取る継続的な契約にある。ボンベ交換や保安の見回りは、配送の密度が高いほど1件あたりの費用が下がる。同業の中小事業者より規模で勝つ構造だ。ROEは2026年3月期に22%まで上がった。
ただし筆者は、この数字を堀の証拠とは見ていない。理由は二つある。まず、利益を全額近く返してきたため、自己資本が10年間ほとんど増えていない。分母が小さいのでROEは高く出る。次に、2024年の省令改正で営業の費用が減った効果が今の利益率を押し上げている。この追い風は永続する保証がない。
弱い所もはっきりしている。LPガスの価格は原料の国際相場に連れて動く。会社は2027年3月期に原料高で20億円ほど利益が削られると見る。料金を比べやすくなった今、値上げの転嫁も以前ほど自由ではない。電気も市場価格の影響を受け、事業者の差が出にくい。
経営は資本配分に堅実だ。新しい中計でも、社長は資本効率を損なう案件には手を出さないと述べ、自己資本比率40%を保つ方針を示した。ガスを使う家庭が減るなかで、高い還元と買収で数量を補う。この一貫した姿勢は評価できるが、堀が広がっているとまでは言えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
LPガスは、全国の世帯の約4割で使われている。ただし使う世帯の数は年々減っている。人口減少に加え、オール電化や都市ガスへの切り替えが進むからだ。直近の家庭向け販売量は前年同月比で3%台のマイナスの月もあり、市場は静かに縮んでいる。
この縮む市場の中で、LPガスの事業者は全国に多数、しかも多くが小さい。後継者難と保安の人手不足で、売りに出る事業が増えている。ニチガスのような大手が事業を買い、配送をまとめて費用を下げる。業界の再編は、10年かけて進む構造変化だと筆者は見る。
制度の面では、2024年7月に省令が改正され、過大な営業行為が制限された。不動産会社への利益供与や、ガス料金に他の費用を上乗せする慣行が問題にされた。大手にとっては、顧客獲得の過当競争が止まる追い風になった。一方で、料金の内訳の開示が進み、価格の比較が進む点は逆風である。
都市ガスと電気は、東京ガスや東京電力といった巨大な事業者と同じ土俵で戦う。自由化後の競争は価格を決めにくい。ニチガスは電気とガスのセット販売と、費用の低い営業で食い込んできた。ただし、原料や卸電力の相場が荒れると、この二つの利益は大きく振れる。10年で見ると、LPガスは件数の買い増しと使用量の減少が打ち消し合い、電気と都市ガスが件数を伸ばす構図になる。
資本政策と M&A
還元は厚い。新しい中計では、3年間で配当を360億円以上とする。前の中計は300億円だった。2027年3月期の年間配当は、前の期より増やす計画だ。配当に加えて自社株買いも行い、利益の全額に近い額を返している。
同時に、自己資本比率は40%程度を維持する。つまり、借金を増やしてM&Aの資金を確保し、増えた事業の規模に自己資本を合わせる設計だ。社長は、規模だけを追わず、資本効率を損なわない案件にだけ投資すると述べている。
買収の対象は、後継者のいない地域のLPガス事業者だ。買った顧客を自社の配送とシステムに載せれば、利益率が上がる。この単純な型を繰り返せるかが、成長の質を決める。他社に基盤を貸すプラットフォーム事業は、買収を伴わない収益の柱になりうる。
政策保有株や含み益の大きい不動産は、特に目立たない。会社ごと買われる可能性は、別の試算で10年に2割弱とされる。筆者は、買う側として動く会社だと見ており、自ら売られる筋書きは厚く置かない。
還元の置き方:新中計は3年で配当360億円以上に自社株買いを足し、利益の全額に近い額を返す。10年の中立は純利益の合計の85%。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ニチガスの強みは、規制の変化を味方につけられる点にある。2024年の省令改正で、営業費を使った顧客の奪い合いが止まった。体力のある大手には、これほどの追い風はない。買った事業の顧客は、自社の配送とシステムに載せれば、利益率が一段上がる。同じ型を繰り返せば、契約件数は10年で5割ほど積み増せる。
後継者のいない地域のLPガス事業者は、これから売りに出る数が増える。ニチガスはすでに100万件を超える顧客と、買った会社を取り込む運用の経験を持つ。新しい中計で独立させるプラットフォーム事業は、買わなくても同業の基盤を担えるため、投下資本が小さくて済む。ここに需要があれば、ROEはさらに上がる。
電気とガスのセット販売も、東京電力グループとの関係で他社が簡単にまねできない。電気の収益性は改善が続き、関東の電力・ガス市場でシェアを伸ばす余地がある。1件あたりの使用量は減るが、契約を増やす力のほうが勝る。会社は営業利益250億円を狙い、それは今の延長線にある。
配当は3年で360億円以上と、前の計画より厚い。自己資本比率40%を保ったまま返すので、買収で稼ぐ力が増えれば、配当も伸びていく。成長と厚い還元の両方が得られる会社は少ない。この組み合わせが続くなら、今の倍率にも根拠が生まれる。
慎重な見方
ニチガスの今の利益は、いくつかの追い風が重なった結果だ。2024年の省令改正で営業の費用が減った効果は、いずれ価格競争に吸収される。料金の内訳が見えるようになった今、顧客は他社の料金と比べやすい。LPガスの値決めの力は、むしろ弱まる方向にある。
数量の天井も低い。LPガスの契約件数は買収で増やせるが、全国の需要家は年々減っている。1件あたりの使用量も、省エネとオール電化で細る。買って積み増した顧客が、時間とともに目減りしていくのは避けられない。買収の単価が上がれば、資本効率を損なわない案件は減る。会社自身が、そう言い切れる案件だけを選ぶと認めている。
電気と都市ガスは、東京電力や東京ガスという巨人と同じ土俵にある。卸電力と原料の相場が荒れれば、小さな会社の利益は先に傷む。実際、2027年3月期は原料高で20億円の利益減が見込まれており、減益の予想である。
さらに、ROEの高さは利益を全額返してためない結果でもある。利益が減っても配当を維持すれば、自己資本比率40%を保つための借金が増える。今の時価総額は、PER19倍という高い水準だ。成長が減速し倍率が下がるだけで、価値は大きく目減りする。
どちらに重みを置いたか
事業の堅実さと資本配分の誠実さを評価する見方は、確かに説得力がある。ただし、価値を決めるのは10年後の利益の大きさだ。今の利益率は規制の追い風で高く、使用量の減少と料金の透明化で中長期は削られやすい。この点では慎重な見方のほうが重い。
そのため、確率は中立と、やや悲観の側に厚く置いた。楽観は、買収と基盤事業が噛み合う場合に限って成り立つため、確率は低めにした。配当の利回りは約4%ある。それでも10年の総還元を割り戻した価値は、今の時価総額を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 883 円2,819 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 439 円1,402 億円)。 今の値に割り戻すと 721 円2,302 億円、今との差 −22.8%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,499 円4,790 億円 | 523 円1,670 億円 | +116.6% | +8.0% | 162 円517 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,243 円3,971 億円 | 504 円1,610 億円 | +87.2% | +6.5% | 349 円1,116 億円 |
| 中立 | 35% | 1,089 円3,477 億円 | 470 円1,500 億円 | +66.9% | +5.3% | 545 円1,742 億円 |
| やや悲観 | 27% | 438 円1,400 億円 | 419 円1,340 億円 | −8.1% | −0.8% | 232 円740 億円 |
| 悲観 | 10% | 147 円468 億円 | 188 円600 億円 | −64.2% | −9.8% | 33 円107 億円 |
| 加重平均 | 100% | 883 円2,819 億円 | 439 円1,402 億円 | +41.6% | +3.5% | 1,322 円4,222 億円 |
今の株価時価総額 933 円2,982 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 買収と基盤事業が噛み合い、件数が5割増える 利益 278 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 1,499 円4,790 億円
買収と基盤事業が噛み合う。後継者のいない地域のLPガス事業者を毎年のように取り込み、LPガスの契約は10年で140万件ほどになる。買った顧客は自社の配送網とシステムに載せ、費用が下がって利益率は15%まで上がる。
プラットフォーム事業は同業の小さな会社に広がり、買わずに収益が積み上がる。電気は東京電力グループとの関係を軸に62万件、都市ガスも85万件近くまで増える。1件あたりの使用量は減るが、値段は物価並みに上がる。
営業利益は400億円を超え、ROEは25%前後を保つ。厚い還元も続き、10年で自己資本は1,100億円ほどになる。
- LPガス:数量 132(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 12(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,524 億円・営業利益 229 億円。件数140万件・使用量-6%・価格1.34倍
- 都市ガス:数量 81.6(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 15(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,190 億円・営業利益 101 億円。件数85万件・使用量-4%・価格1.34倍
- 電気:数量 62.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 17(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,056 億円・営業利益 79 億円。件数62万件・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 278 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.23 倍、時価総額 4,790 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収の型が10年続き、基盤事業が同業に広がる場合。省令改正後の高い利益率が保たれることが前提で、確率は8%にとどめる。
やや楽観 20% 買収が着実に進み、利益率を保つ 利益 234 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 1,243 円3,971 億円
買収は計画どおり進むが、強気ほどの速さではない。LPガスの契約は128万件ほどに増え、利益率は14%を保つ。省令改正の追い風が、長く残る筋書きである。
電気は57万件、都市ガスは80万件。電気の利益率は卸電力の相場に振られながらも、6%台を維持する。プラットフォーム事業は同業数社の利用にとどまり、利益への寄与は小さい。
営業利益は350億円ほど。会社の営業利益250億円の目標を、10年で4割上回る姿だ。配当は計画どおり厚く、自己資本比率は40%付近を保つ。
競争は続くが、顧客を取り込んだあとの解約は少ない。ガスを使う世帯が減っても、買収で件数を補う型が10年にわたって機能し、利益は物価と買収の二つで着実に積み上がっていく。
- LPガス:数量 119(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 12(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,378 億円・営業利益 193 億円。件数128万件・使用量-6%・価格1.34倍
- 都市ガス:数量 76.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 15(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,108 億円・営業利益 89 億円。件数80万件・使用量-5%・価格1.34倍
- 電気:数量 57.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 17(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 971 億円・営業利益 63 億円。件数57万件・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 234 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍。全体の PER 16.97 倍、時価総額 3,971 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収が計画どおり進み、利益率も大きく崩れない場合。中計の営業利益250億円を超えて伸びる姿で、確率は2割と置く。
中立 35% 縮む使用量を買収が埋め、利益は4割増 利益 206 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 1,089 円3,477 億円
LPガスの契約は買収で125万件ほどになる。ただし1件あたりの使用量は1割近く減る。買収で増えた数量の大半を、使用量の減少が打ち消す。
値段は物価並みの1.34倍になる。利益率はLPガスで13%に戻り、省令改正の追い風の一部が価格競争に吸収される。電気は52万件、都市ガスは75万件で、利益率はそれぞれ6%台、7%台と今より低くなる。
営業利益は300億円ほどと、今より4割増える。成長のほとんどは、物価による値上がりと買収によるものだ。会社は利益の大半を返し続け、自己資本は900億円台にとどまる。
- LPガス:数量 115(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 12(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,332 億円・営業利益 173 億円。件数125万件・使用量-7%・価格1.34倍
- 都市ガス:数量 71.2(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 15(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,038 億円・営業利益 78 億円。件数75万件・使用量-5%・価格1.34倍
- 電気:数量 52.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 17(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 886 億円・営業利益 53 億円。件数52万件・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 206 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.88 倍、時価総額 3,477 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:件数は買収で増え、使用量の減少と料金競争で利益率が少し下がる姿。強気と慎重の落としどころとして最も厚くした。
やや悲観 27% 料金競争で利益率が戻り、件数は伸び悩む 利益 140 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 438 円1,400 億円
料金の透明化が効き始め、価格競争が10年続く。LPガスの値上げは物価に届かず、10年の価格は1.28倍にとどまる。利益率は11%と、省令改正の前に近い水準へ戻る。
契約件数は108万件と伸び悩む。買える事業の数が減り、買収の単価も上がるためだ。電気は44万件、都市ガスは66万件で、原料と卸電力の相場に利益が削られる。
営業利益は200億円台前半と、今とほぼ同じ。物価で増えた分を、利益率の低下が食う。ROEは20%を切り、会社は配当を保つために借金に頼る場面が増える。
それでも事業は残り続ける。ガスと電気を毎月使う家庭の契約は簡単には動かず、配送網の価値も残る。ただ、強気の見方が描く高い利益率と成長の両方は実現しない。
- LPガス:数量 97.2(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 11(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 1,075 億円・営業利益 118 億円。件数108万件・使用量-9%・価格1.28倍
- 都市ガス:数量 62.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 14(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 877 億円・営業利益 57 億円。件数66万件・使用量-6%・価格1.3倍
- 電気:数量 44.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 17(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 728 億円・営業利益 33 億円。件数44万件・価格1.3倍
倍率:事業の純利益140億円・ROE 17.9%。RONIC=k 7.75%+1/2×(ROE−k)=13.1%、g 3.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.7倍。堀は普通。利益の質(規制の追い風で高い利益率・原料と卸電力の相場に振れる利益)を考え、上限の約6.8割の10.0倍に置いた。
確率:料金の透明化で価格競争が起き、利益率が省令改正前に近づく筋書き。今の利益率が規制の追い風で高いため、確率を厚めの27%にした。
悲観 10% 電化と価格競争で縮む地域インフラになる 利益 52 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 147 円468 億円
オール電化と料金競争が重なり、LPガスの契約は95万件に減る。1件あたりの使用量も2割近く減り、料金は物価の半分ほどしか上がらない。利益率は7%まで落ちる。
電気と都市ガスは、東京電力や東京ガスなどの巨大事業者との価格競争に負ける。電気の利益率は2%、都市ガスは4%まで下がる。配送網は使われない設備が増え、固定費が重くなる。
営業利益は80億円ほどに沈む。買った顧客が目減りし、買収の資本は回収できない。借金は返せるが、優良な地域インフラの地位は失われる。利益は今の3分の1になり、配当は大きく切り下がる。
- LPガス:数量 77.9(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 9.94(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 774 億円・営業利益 54 億円。件数95万件・使用量-18%・価格1.15倍
- 都市ガス:数量 49.5(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 13(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 646 億円・営業利益 26 億円。件数55万件・使用量-9%・価格1.2倍
- 電気:数量 35.0(契約件数 × 使用量(万件相当))× 価格 15(1件あたり年間料金(万円))→ 売上 534 億円・営業利益 11 億円。件数35万件・価格1.2倍
倍率:純利益52億円で、ROE 8.0%はk 7.75%を下回る。ROEがk以下の会社のPER上限は1÷k=12.1倍。構造的に負けて稼ぐ力が落ちた姿で、9.0倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k)は約630億円。
確率:オール電化と料金競争で契約も使用量も縮み、電気・都市ガスも相場に負ける構造的な負け筋。5%以上の確率を置き、10%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
LPガス
関東中心に家庭・店舗へボンベと配管でLPガスを届け、保安と配送を担う中核事業。
| 数量契約件数 × 使用量(万件相当) | 価格1件あたり年間料金(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 105 | 8.64 | 908 | 125 |
| 10 年後 中立 | 115 | 12 | 1,332 | 173 |
取り方:2026/03末のLPガス契約105.1万件。売上908億円(開示)を件数で割ると1件8.64万円。件数×使用量の指数を実質の数量とし、価格は料金の名目単価(1件あたり)。営業利益125億円はセグメント別が見つからず、全社213億円からの推定(LPガスが約6割)。
都市ガス
2017年の自由化で参入した都市ガス小売。東京電力グループとの提携で電気とセット販売する。
| 数量契約件数 × 使用量(万件相当) | 価格1件あたり年間料金(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.9 | 11 | 663 | 53 |
| 10 年後 中立 | 71.2 | 15 | 1,038 | 78 |
取り方:2026/03末の都市ガス契約60.9万件。売上663億円(開示)から1件10.88万円。営業利益53億円は推定(約25%)。
電気
2018年に始めた電力小売。電気とガスのセット販売で契約を増やしている。
| 数量契約件数 × 使用量(万件相当) | 価格1件あたり年間料金(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.4 | 13 | 514 | 35 |
| 10 年後 中立 | 52.0 | 17 | 886 | 53 |
取り方:2026/03末の電気契約40.4万件。売上514億円(開示)から1件12.72万円。営業利益35億円は推定(約16%)。卸電力の相場に利益が左右される。
リスクと懸念
料金の透明化と価格競争
2024年の省令改正で営業の過当競争は止まったが、料金の内訳が見えるようになった。顧客は他社と比べやすくなり、LPガスの値決めの力が弱まれば、今の高い利益率は省令改正前の水準へ戻る。
原料高と相場の影響
LPガスは国際相場、電気は卸電力の相場に連れて動く。会社は2027年3月期に原料高で20億円の利益減を織り込んでいる。転嫁が遅れる期間は、利益率が大きく削られる。
使用量と世帯の減少
LPガスは全国の約4割の世帯が使うが、世帯数は減り、オール電化への切り替えも進む。1件あたりの使用量も省エネで細り、買収で積んだ契約件数の効果を打ち消す。
買収の質の低下
売りに出る地域事業者の数が減り、買収単価が上がると、資本効率を保てる案件は減る。買った顧客の定着が想定を下回れば、買収で得た利益率の改善が出ない。
電気・都市ガスの競争
電気と都市ガスは、東京電力や東京ガスなど巨大事業者と同じ市場で戦う。卸電力の高騰時に調達で後れを取ると、セット販売で積んだ契約が一気に不採算になる恐れがある。
高い還元と借金の関係
利益の全額に近い額を返しながら、自己資本比率40%を保つ設計だ。利益が落ちても配当を維持すれば、借金への依存が強まり、金利の上昇が利益を削る。
今後の分かれ目
- 買収した事業の契約が自社の配送網に載り、費用が計画どおり下がった場合
- LPガスの利益率が15%に近づき、強気の筋書きに寄る。
- 料金の比較が進み、LPガスの値上げが物価に届かない状態が続いた場合
- 利益率が省令改正前に戻り、やや悲観の筋書きに寄る。
- プラットフォーム事業が同業数十社に広がった場合
- 買わずに稼ぐ収益が増え、資本効率の高さが長く保たれる。
- 原料や卸電力の高騰が長引き、電気・都市ガスの利益が赤字に転じた場合
- セット販売の前提が崩れ、悲観の筋書きに近づく。
- 他社が会社ごと買収を提案した場合
- 受取額の高さを、この分析の10年の本質価値と比べる。
- オール電化と省エネが想定より早く進み、LPガスの件数が買収を含めても減り始めた場合
- 数量の天井が意識され、倍率は中立より下がる。
見ておくもの
- LPガス・電気・都市ガスの契約件数と1件あたり使用量
- 省令改正後のLPガスの利益率(営業費の動き)
- 原料価格・卸電力の相場と転嫁の時間差
- M&Aの件数・単価とプラットフォーム事業の採用社数
- 配当・自社株買いの額と自己資本比率40%の維持
倍率と資本コストの決め方
倍率は正当化PER(RONIC・g 3%・k 7.75%)の上限の8割を中立に置き、今のPER19倍・過去の倍率は見ていない。10年後の数字は今と同じ形(家賃・リースを営業費用に入れた形)で置いた。新リース会計基準(2028/03期から)でBSの形が変わっても、PERで測る価値はほぼ変わらない。中立の時価総額は今を下回るが、これは今の利益率が規制の追い風で高いと見た結果で、株価に寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→17.23 倍・やや楽観 PER 13.2→16.97 倍・中立 PER 12.3→16.88 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの合計+0.75%を足した(決まり v2)。個別のリスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。