結論
ジャパンアイウエアホールディングスは、福井・鯖江の職人の手仕事を軸にした高級メガネの会社である。金子眼鏡とフォーナインズ(ブランド名は999.9)の2つを抱え、国内の直営店を中心に、中国・香港・台湾・シンガポールにも店を広げている。
筆者の結論は、事業の質は一流で、今の値段はそれをほぼ正しく映している、というものだ。割安とも割高とも言いにくい。営業利益率は32%と、メガネ小売では突出している。フレームとレンズの一式で8万円を超える単価を通し、粗利率は約79%に達する。店の投資は4,000万〜5,000万円と軽く、多くが約1年で回収できる。
一方で、売上の約2割をインバウンド(訪日客)が占め、中国との関係悪化がすでに影を落としている。海外店舗の収益化も道半ばだ。筆頭株主の持ち株比率が約38%と高く、売買の厚みが薄い点も気になる。
10年の中立では、売上が約350億円、営業利益が約100億円まで育つ。これは国内の物価上昇と出店の積み上げで説明できる範囲だ。10年で割り戻した価値は今の時価総額に近く、成長の期待と値段が釣り合っている。
バリュー投資の観点から
この会社で、バリュー投資の観点から評価できるのは、儲かる仕組みの単純さである。鯖江で作り、直営店で売る。値段は自分で決める。1店の投資が軽く、回収が早い。この3つが揃っている会社は、そう多くない。経営は、大きな買収に走らず、小さな内製化に資金を使っている。資本の使い方は、堅実だと筆者は見る。
一方、10年先を見通せるかと問われれば、慎重になる。眼鏡は、流行で売れるファッション品と、視力矯正という生活の必需の中間にあり、高価格帯の客は景気や訪日客の動向に左右される。ブランドの希少性は、店を増やすほど薄まる危険もある。会社自身が「年10%成長が、ブランドを薄めない水準」と言うのは、その表れだろう。
オーナー利益(成長の投資を引いた株主のものになる利益)は、今の営業利益のうち、おおむね6割から7割とみる。高い利益率が10年続く保証はないので、安全域を見るなら、中立の筋書きで評価する。そうすると、今の値段は、事業の質と成長の不確かさをほぼ釣り合わせた水準にある。安全域が厚いとは言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、鯖江でつくるフレームを、自社の直営店で売ることにある。金子眼鏡は、メーカー兼小売で、売上の約7割を占める。フォーナインズはチタンのフレームで知られ、売上の約3割を占める。どちらも、フレームの設計から店頭の接客まで自社で握る。
フォーナインズは直営店と卸の2本立てだが、卸は国内で縮んでいる。会社は卸の減収を受け入れ、直営の比率を上げる方針だ。直営なら、価格を自分で決めて、ブランドの見せ方も守れる。
一式の単価は金子眼鏡が約8.2万円、フォーナインズが約8.7万円で、コロナ前に比べてそれぞれ3割、2割ほど上がった。値上げをしても客が離れていない。
海外は中国本土・香港・台湾・シンガポールに直営店を出し、卸も組み合わせている。海外の顧客向け売上は、インバウンドを含めて連結の約34%を占める。内製化も進めている。2024年にタイホウを、2025年にハンズ(メッキ加工)を子会社にし、鯖江の工程を自社に取り込んでいる。2026年夏には、鯖江に旗艦店を開く予定だ。
新店の費用が軽いのも、このモデルの特徴だ。1店あたりの投資は約4,500万円で、多くの店が約1年で元を取る。出店計画は、2027年1月期が国内5店と海外2店。出店は国内外とも直営が中心で、現地の提携企業との組み方も検討している。
優良さと弱いところ
堀は、鯖江の産地とつくり手の技術、そしてブランドの希少性にある。眼鏡は、人の顔に毎日乗せるものだ。フィッティングと目の測定を合わせた接客の質が、価格競争に巻き込まれにくい理由になる。他社がすぐに真似できるものではない。
数字にもそれが出ている。粗利率は約79%、営業利益率は32%、ROEは約21%。眼鏡の低価格チェーンは営業利益率が1桁から10%程度なので、桁が違う。1店あたりの投資が軽く、1年ほどで回収できるのも強みだ。
ただし、弱いところもはっきりしている。第1に、規模が小さい。連結売上は約190億円で、世界の高級眼鏡ブランドと比べれば、まだ小粒である。第2に、インバウンド頼みの面が強い。訪日客の売上は約39億円で、連結の2割にあたる。第3に、国内卸が縮み、フォーナインズの成長が鈍い。第4に、筆頭株主が約38%を持ち、経営と株主構成が近い。創業家の世代交代と、その持ち株の動きは、長い目で注意しておく点である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のメガネ小売市場は約5,000億円で、コロナ前の水準に戻った。人口は減るが、高齢化で眼鏡を使う人は増えるため、数量は横ばいに近い。この市場は、JINS(国内約480店)、Zoff、眼鏡市場といった大手の低価格チェーンが店数を競う世界だ。金子眼鏡とフォーナインズは、その上の高価格帯にいる。国内の市場のうち、同社が取っている割合は2〜3%にすぎない。
高価格帯は、価格の高さそのものが顧客の選ぶ理由になる。大手チェーンと真正面から競わないので、客を奪い合いにくい。一方で、同じ価格帯の新興ブランドや、海外の高級ブランドは、いくらでも参入できる。
海外はこれから開く市場だ。中国本土は、日中関係の悪化で需要が弱まった。香港・台湾・シンガポールは直営店を出し始めたばかりで、欧州はまだ手探りである。業界の循環は、景気の悪化で高価格帯の買い替えが遅れる程度で、リーマン級の谷でも、生活必需品の側面があるため、洋服ほど深くは落ちない。
インバウンド売上は、訪日客の国籍の入れ替わりで揺れる。中国向けは2025年12月から前年割れで、台湾・韓国が一部を補っている。この揺れは、今後も続くと見る。
資本政策と M&A
配当は、利益の約4割を目安にすると会社は言う。ところが2026年1月期は、配当性向が約54%と、目安を上回った。2027年1月期は、増配の計画だ。自社株買いの実績は確認できなかった。
投資は軽い。1店の投資が約4,500万円なので、年間の出店は10店前後でも、投資額は数億円に収まる。M&Aは、鯖江の工程を取り込む小型のものに限られている。2024年にタイホウ、2025年5月にハンズを子会社にした。借入は純負債で約89億円、自己資本の約半分だ。利益が厚いので、返済には困らない。
注意したいのは株主構成である。筆頭株主の金子インベストが約38%を持つ。ファンドの日本企業成長投資1号の持ち分は、1年で約14%から約5%に下がった。売り出しや売却が進んだ形で、市場に出回る株は増える方向にある。TOBの可能性は、参考値の確率で10年以内に約2割とされる。創業家が経営の主導権を手放さない限り、外部から買われる展開は考えにくい。
還元の点検(P3 2026-10-19):方針は配当性向約4割の目安(2026年1月期は約54%)で、自社株買いの実績は無い。中立の還元を純利益の合計の53%から45%に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金子眼鏡は、世界で売れる日本の工芸品だ。粗利率は約79%で、営業利益率は32%。店の投資が約4,500万円と軽く、約1年で回収できるので、出店を増やしても財務は傷まない。2027年1月期は売上206億円・営業利益68億円の計画で、2030年1月期には売上280億円・営業利益100億円、ROE25%以上を目指すという道筋も見えている。
海外はまだ始まったばかりだ。海外の顧客向け売上はすでに連結の3割を超え、海外卸も1割近く伸びている。香港と上海に直営店を出し、欧州の主要都市への出店も視野にある。10年後に直営185店、売上470億円まで育てば、会社が掲げる500億円の絵図にほぼ届く。
鯖江の内製化も効いてくる。タイホウとハンズの取り込みで、フレームの品質と原価の両方を握り、他社が真似できない価格を維持できる。インバウンドが揺れても、国内の客は値上げに耐えてきた。単価はコロナ前より3割上がったのに、客が離れていない。筆頭株主の持ち株が厚く、長期の視点で経営できる点も強みだ。
慎重な見方
この数字は、今が最高潮だという前提で読むべきだ。営業利益率32%は、小売としては異常に高い。インバウンドの売上は連結の約2割で、うち中国の需要は2025年12月から前年割れが続く。経営陣自身が、2027年の計画を「非常に困難」と言っている。訪日客頼みの利益は、為替と外交の気分で消える。
海外店舗の収益化も、まだ証明されていない。中国本土に4店、欧州はこれからで、1店ごとの売上が国内の水準に届くかは未知数だ。出店ペースを上げるほど、新店の比率が上がり、全体の店ごと売上と利益率は下がる。
国内は、人口減で数量が伸びない。フォーナインズの国内卸は約10%の減収で、規模の成長が鈍い。賃料と人件費は物価で上がり続けるので、売上が伸びなければ利益率が確実に圧迫される。
株の流動性にも難がある。筆頭株主が約38%を持ち、ファンドの持ち分は縮小しつつあるため、株の需給は読みにくい。小さな会社が、10年にわたって年10%の成長を続けられるのか。そこが最大の疑問である。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の言い分が勝つが、成長の持続力では慎重な言い分に分がある。粗利率79%、投資の回収約1年という実力は本物だ。しかし、インバウンドの揺れと海外の収益化の遅れは、10年の道筋をはっきり不確実にする。
確率は、中立に最も重く置き、やや楽観とやや悲観はほぼ同じ重さにした。楽観は、会社の計画にほぼ沿う筋書きなので、慎重な側の指摘を踏まえて確率を抑えた。悲観は、粗利率の高さがすぐには崩れないため、1割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 4,041 円978 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 898 円217 億円)。 今の値に割り戻すと 2,483 円601 億円、今との差 +15.6%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 6,925 円1,676 億円 | 1,215 円294 億円 | +279.1% | +14.3% | 977 円236 億円 |
| やや楽観 | 23% | 5,577 円1,350 億円 | 1,062 円257 億円 | +209.2% | +12.0% | 1,527 円370 億円 |
| 中立 | 35% | 4,498 円1,089 億円 | 934 円226 億円 | +153.0% | +9.7% | 1,901 円460 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,595 円386 億円 | 686 円166 億円 | +6.2% | +0.6% | 456 円110 億円 |
| 悲観 | 10% | 338 円82 億円 | 438 円106 億円 | −63.9% | −9.7% | 78 円19 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,041 円978 億円 | 898 円217 億円 | +130.0% | +8.7% | 4,939 円1,195 億円 |
今の株価時価総額 2,147 円520 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 海外が育ち、500億円企業へ 利益 93 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 6,925 円1,676 億円
海外店舗が金子眼鏡の中心的な稼ぎ手に育つ。中国本土・香港・台湾に加え、欧州の主要都市にも直営店を持ち、10年後の店舗数は185店に達する。1店の投資が約4,500万円と軽く、回収も早いので、出店を急いでも財務は崩れない。福井・鯖江の内製化が進み、フレームの品質と原価の両方でライバルを引き離す。フォーナインズも直営比率を高め、卸の減収を店の増収が埋める。会社が掲げる売上500億円の絵図にほぼ届き、高い営業利益率を保ったまま、株主への配当も厚く続く。筆者から見ても、ここまで行けば小さな高級ブランドではなく、世界で通用するメガネの工芸ブランドである。
- 金子眼鏡:数量 185(直営店数(店))× 価格 1.88(1店あたり売上(億円。卸・インバウンドを含む))→ 売上 348 億円・営業利益 132 億円。営業利益率38%
- フォーナインズ(999.9):数量 36.0(直営店数(店))× 価格 3.41(1店あたり売上(億円。卸を含む))→ 売上 123 億円・営業利益 33 億円。営業利益率27%
倍率:事業の純利益 93 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.8 倍、時価総額 1,655 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外店舗の連続成功と、鯖江の内製化での利益率維持が両方必要で、確度は高くない。会社の中期計画にほぼ沿う想定。
やや楽観 23% 計画に少し届かないが高収益を保つ 利益 76 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 5,577 円1,350 億円
海外直営が着実に増え、店舗数は160店になる。会社の中期計画のペースには少し届かないが、国内でも値上げが通り、一式の単価は物価並みに上がり続ける。インバウンドは国別の入れ替わりを繰り返しながらも、売上の2割前後で底堅い。鯖江の内製化は利益率を守る方向に働くが、新店の比率が高まるぶん、店ごとの売上は伸びきらない。フォーナインズは国内卸の縮小を直営で補い、規模は2倍に届かない。営業利益率は30%を保ち、ROEも16%前後に収まる。成長する小型の高収益企業として、市場の評価が続く10年である。会社の計画より遅い歩みでも、物価と出店で売上は3倍近くに増える。
- 金子眼鏡:数量 160(直営店数(店))× 価格 1.85(1店あたり売上(億円。卸・インバウンドを含む))→ 売上 297 億円・営業利益 108 億円。営業利益率36.5%
- フォーナインズ(999.9):数量 33.0(直営店数(店))× 価格 3.24(1店あたり売上(億円。卸を含む))→ 売上 107 億円・営業利益 28 億円。営業利益率26%
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.35 倍、時価総額 1,324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外展開が計画より少し遅れ、国内の値上げが定着する想定。ここ数年の実績に近いので、楽観より重く置いた。
中立 35% 国内は堅実、海外は半分の速さで伸びる 利益 63 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 4,498 円1,089 億円
国内は直営店が95店ほどまで増え、海外は45店ほどまで育つ。海外は中国の需要が弱く、欧州は手探りが続くため、出店のペースは会社計画の半分程度にとどまる。単価は物価並みに上がるが、新店の売上が低いぶん、店ごとの売上の伸びは物価をやや下回る。インバウンドは訪日客の国籍が入れ替わりながら、全体では横ばいに近い。フォーナインズは国内卸の縮小を直営で補い、30店ほどの規模になる。営業利益率は今の32%から29%に下がるが、メガネ小売としてはなお突出している。ROEは14%台で、資本コストを上回る優良企業として評価される10年になる。フォーナインズは国内卸の縮小で、1店あたり売上の伸びが物価(1.34倍)を下回り、10年で約1.07倍にとどまる。
- 金子眼鏡:数量 140(直営店数(店))× 価格 1.83(1店あたり売上(億円。卸・インバウンドを含む))→ 売上 256 億円・営業利益 90 億円。営業利益率35%
- フォーナインズ(999.9):数量 30.0(直営店数(店))× 価格 3.04(1店あたり売上(億円。卸を含む))→ 売上 91 億円・営業利益 23 億円。営業利益率25%。卸の縮小で店あたり売上は物価未満
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.89 倍、時価総額 1,057 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内は堅実、海外は半分の速さという最も起こりやすい姿。中心に最も大きな確率を置いた。
やや悲観 20% インバウンドが戻らず、利益率が一段下がる 利益 36 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 1,595 円386 億円
インバウンドの回復が止まり、海外の直営店も思うように収益化できない。店舗数は115店にとどまり、国内の既存店は値上げへの反応が鈍る。中国では現地のメガネ工房やSHEINのような低価格ECが追い上げ、ブランドの値段を保ちにくくなる。賃料と人件費は物価で上がり続け、売上が伸びないぶん利益率が圧迫される。フォーナインズは卸の減収が直営の増収を上回り、規模が縮む。営業利益は今より少し低い水準に落ち着き、ROEは10%台前半に下がる。事業は崩れないが、成長株としての評価は消える。配当は利益に合わせて絞られ、鯖江の内製化投資も回収は遅れる。創業家は経営を続けるので、強い売り手は出ず、株価は低い倍率で落ち着く。
- 金子眼鏡:数量 115(直営店数(店))× 価格 1.71(1店あたり売上(億円。卸・インバウンドを含む))→ 売上 197 億円・営業利益 55 億円。営業利益率28%
- フォーナインズ(999.9):数量 26.0(直営店数(店))× 価格 2.79(1店あたり売上(億円。卸を含む))→ 売上 72 億円・営業利益 13 億円。営業利益率18%
倍率:事業の純利益36.0億円・ROE 10.5%。RONIC=k 8.0%+1/2×(ROE−k)=9.3%、g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.2倍。ROEは資本コストをわずかに上回るだけで、利益の質も落ちる。上限の約75%の10.7倍に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9.8 倍・時価総額 353 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:インバウンド依存と海外の収益化の遅れが重なる想定。経営陣自身がインバウンド計画を「非常に困難」とするので、やや重く置いた。
悲観 10% 高価格帯の座を失い、普通の眼鏡店になる 利益 9 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 338 円82 億円
日中関係の悪化や円高でインバウンドが細り、高価格帯のブランドとしての値段を守れなくなる。海外の直営店は赤字が続き、撤退が相次ぐ。国内は同じ価格帯の新興ブランドやJINSなど大手の上位ラインに客を奪われ、店ごとの売上は物価に追いつかない。店舗の家賃は固定で残るので、売上が落ちても費用は減らず、営業利益率は金子眼鏡で12%、フォーナインズで8%に沈む。鯖江の内製化投資は回収しきれず、重荷になる。創業者の世代交代を経て、ブランドの求心力も弱まり、普通の眼鏡チェーンとして評価される。初めの数年は今の高い利益から配当を払い続けるため、10年の還元の合計は終盤の利益の水準に比べて大きく見える。前半の配当は、その時期の高い利益と手元の現金で払う。
- 金子眼鏡:数量 95.0(直営店数(店))× 価格 1.54(1店あたり売上(億円。卸・インバウンドを含む))→ 売上 147 億円・営業利益 18 億円。営業利益率12%
- フォーナインズ(999.9):数量 21.0(直営店数(店))× 価格 2.42(1店あたり売上(億円。卸を含む))→ 売上 51 億円・営業利益 4 億円。営業利益率8%
倍率:事業の純利益9.3億円・事業 ROE 3.7% は k 8.0% 以下なので、上限は 1÷k=12.5倍。構造的な競争劣位で、店舗の家賃が固定費として残る筋書きのため。上限の約7割の8.8倍に置いた。(還元を方針に合わせて再計算:還元 160→106 億円、自己資本 250→304 億円、事業の ROE 3.7%→3.1%、正当化 PER の上限 12.5→12.5 倍。上限に対する置き方の割合は変えず 8.80 倍)
確率:高価格帯のブランドが失速して普通の眼鏡チェーンになる筋書き。小さな会社で単一カテゴリのため無視はできないが、粗利率78%の構造がすぐ崩れる確率は低い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
金子眼鏡
福井・鯖江の職人のフレームを、自社の直営店と卸で売る。売上の約7割、利益率の高い主力。
| 数量直営店数(店) | 価格1店あたり売上(億円。卸・インバウンドを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 94.0 | 1.40 | 132 | 52 |
| 10 年後 中立 | 140 | 1.83 | 256 | 90 |
取り方:2026/01期の売上約186億円のうち金子眼鏡を約7割の132億円(Q1の構成比約71%から推定)とし、期末の直営店94店で割って1店あたり売上を逆算した。国内外の卸とインバウンドも店の売上に含めた形。セグメント利益率は約39.5%(四半期の開示は37.7〜40.3%)と置いた。先の1店あたり売上は物価1.34倍に、新店と海外の比率が上がる分を引いて中立で10年1.30倍。 数量は実物(店数)で、伸びは出店計画など事業の事実による。市場の名目の伸びを数量に置いたものではなく、価格に物価を掛けても二重がけにならない。
フォーナインズ(999.9)
チタンのフレームのブランド。直営店と卸の2本立てで、国内卸は縮小して直営へ移す途中。
| 数量直営店数(店) | 価格1店あたり売上(億円。卸を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 19.0 | 2.84 | 54 | 14 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 3.04 | 91 | 23 |
取り方:2026/01期の売上186億円からフォーナインズを約29%の54億円と置き、期末の直営店19店で割って1店あたり売上を逆算した。卸の売上(国内卸は約10%減)を店の売上に含めた形のため、卸が縮むと1店あたり売上の伸びは物価より下がる。セグメント利益率は約26.5%。
リスクと懸念
インバウンドの揺れ
売上の約2割を訪日客が占める。中国向けは日中関係の悪化で2025年12月から前年割れで、台湾・韓国が一部を補う。為替と外交の変化で、利益率の高い売上が急に落ちる。会社自身も2027年1月期の計画を「非常に困難」とみている。
海外の収益化
中国本土・香港・台湾・シンガポールに直営店を増やしているが、国内の水準に届くかは証明されていない。欧州は手探りの段階で、新店の比率が上がるほど、全体の店あたり売上と利益率は下がりやすい。
高い利益率の持続
営業利益率32%はメガネ小売で突出する。賃料と人件費は物価で上がり続けるので、店あたり売上が伸びなければ、利益率はすぐ圧迫される。悲観では、店の家賃が固定費として残る。
ブランドの希薄化
高価格帯のブランドは、店を増やしすぎると希少性が薄まる。会社が年10%成長を目安とするのも、そのため。急いで広げれば、客の評価を損なう。
国内卸の縮小
フォーナインズの国内卸は約10%の減収だった。会社は直営への切り替えを進めるが、切り替えが遅れれば、同社の規模の成長が鈍る。
株主構成と流動性
筆頭株主の金子インベストが約38%を持つ。ファンドの日本企業成長投資1号の持ち分は、1年で約14%から約5%に下がった。売買の厚みが薄く、売りが出れば株価が大きく動く恐れがある。
創業家の世代交代
両社の経営は創業家の主導で成り立ってきた。世代交代の過程で、ブランドの方針や資本の使い方が変わる恐れがある。
今後の分かれ目
- インバウンド売上が2四半期以上続けて前年を割ったら
- やや悲観・悲観の筋書きに確率を移す。利益率の高い売上が減るので、営業利益の落ち込みは売上の落ち込みより大きい。
- 海外の直営店が1年ほどで投資を回収し、国内並みの店あたり売上に近づいたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。海外の収益化が証明されれば、10年の成長の根拠が固まる。
- 国内の直営店の既存店売上が値上げ後も伸び続けたら
- ブランドの値決め力が保たれているとみて、中立の確度を上げる。
- 筆頭株主やファンドの大量の売り出しが出たら
- 事業の価値は変わらないが、短期の需給は崩れる。価値の判断は変えず、需給の落ち着きを待つ。
- 鯖江の内製化の追加投資(M&A)が大型化したら
- 資本の使い方の規律を点検する。回収の見込みが立たない買収は、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 金子眼鏡の国内・海外の直営店数と1店あたり売上
- インバウンド売上(四半期)と国別の動き
- フォーナインズの国内卸と直営の比率
- 配当性向と1店の投資額、回収期間
- 筆頭株主・ファンドの持ち株の変化
倍率と資本コストの決め方
店数(実質)× 1店あたり売上(物価込みの名目)でセグメントごとに積み、利益率は物価で動かさなかった。自己資本は今の値+期間の純利益−還元で流した。ROE は結果で、10年中立で約14%、過去5年の中央値(16.7%)を下回る。倍率は式(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g))の上限の7〜9割で、利益の質に応じて置き、今の株価(PER約14倍)と比べるのは最後にした。純有利子負債は約89億円で純現金ではないため、余った現金は分けていない。店舗の賃借(113店)は家賃が営業費用に入る今の形のままそろえ、2028/03期以降の新リース会計基準で営業利益・純負債の形が変わることは、10年後の数字には反映していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.38→17.8 倍・やや楽観 PER 13.84→17.35 倍・中立 PER 12.5→16.89 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。