結論
アルペンは、ゴルフ5・スポーツデポ・アルペンアウトドアーズなどを全国に 400 店ほど展開するスポーツ用品の小売大手だ。創業家が株式の過半を握る。筆者の結論は、事業は堅いが利益が薄すぎ、10 年の本質価値は今の時価総額を下回るというものだ。
稼ぐ力が弱い。売上は 2,860 億円まで育ったが、営業利益率は 3% にすぎない。過去 10 年の純利益は赤字から 108 億円まで振れ、中央値は 40 億円ほどだ。自己資本が 1,264 億円と厚いため、ROE は 5% にとどまる。資本コストの 8.5% には届かない。
足元は悪くない。2026 年 6 月期は増収で、2027 年 6 月期は営業利益 105 億円(今期比 +23%)を会社は見込む。EC は 300 億円を超え、ランニングや中古ゴルフ、ラケット競技が客を集めている。それでも、粗利率はセールと在庫処分で下がった。売上の増加が利益に変わりにくい構造は変わっていない。
10 年後の中立は、営業利益 135 億円・純利益 94 億円・ROE 5% 台。資本コストを下回る会社に払える倍率は低く、時価総額は今を下回る。帳簿の自己資本に対して 0.75 倍の値段は、安さの根拠にならない。ためた利益がそのままの価値を生むのは、資本コスト以上で稼げる会社だけだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、アルペンは「悪くはないが、持ち続けて増える会社ではない」と見る。
良い点は三つある。財務が堅い(自己資本比率 59%、純現金)。創業家が経営の責任を負い、安易な増資や大型買収をしない。そして店舗網と会員基盤という、数年では築けない資産を持つ。
問題は、稼いだお金を事業にもう一度つぎ込んでも、資本コストを超えて増えないことだ。営業利益率が 3% 前後で、自己資本の ROE が 5% では、利益を事業に回しても、その額より小さい価値にしかならない。こうした会社の本質価値は、帳簿の自己資本より低くなる。
オーナー利益(成長の維持に要る投資を引いた利益)は小さい。毎年の出店・改装・物流投資が営業 CF とほぼ同じ額に達し、配当に回る分は 20 億円前後だ。安全域は、純現金が薄く、家賃という固定の約束(年 190 億円前後と推定)がある分だけ見かけより小さい。
中計 2029 が示す「テクノロジーによる事業革新」が利益率を 4% へ押し上げれば、評価は変わる。いまはその証拠が足りない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、ゴルフ・競技スポーツ・スポーツライフスタイル・アウトドア・ウインターの 5 つの商品部門だ。売上の約 3 分の 1 がゴルフ、残りが競技・一般スポーツ、ランニングやアパレルなどのスポーツライフスタイル、アウトドアに分かれる。店は大きく 3 つ。ゴルフ5(ゴルフ業態 196 店)、スポーツデポとアルペン(スポーツ業態 190 店)、アルペンアウトドアーズ(21 店)だ。
商品の多くはナイキ・アディダス・ミズノなどメーカーの品を仕入れて売る。自社で値段を決められる商品は少なく、売れ筋の仕入れ価格と粗利は、メーカーの値上げ方針に左右される。自社企画(PB)や、中古クラブの買い取りと販売は、粗利を取りやすい分野だ。
店はほぼすべてが郊外の路面店・大型店で、家賃や人件費という固定費が重い。売場は 26 万坪を超える。小売の中でも、売上が少し落ちるだけで利益が大きく動く形だ。
EC は約 300 億円で、売上の約 1 割。会員は 1,600 万人を超え、LINE や SNS で店と通販の双方向に客を送る。2026 年 6 月期は物流の整備と店舗の出店・改装を続け、設備投資は約 90 億円に達した。事業の「その他」には、スキー場・ゴルフ場・フィットネスクラブの運営がある。ウインター商品は雪の降り方で売上が揺れる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、あまり深くない。筆者は、アルペンの優良さを次の三つで見ている。
まず規模。大型店を全国に持ち、品揃えの広さ(ゴルフからスキー、ランニング、キャンプまで)と、会員 1,600 万人超のデータは、中小の専門店には真似しにくい。ただし、規模が利益率に変わっていない。ゴルフ専門のゴルフパートナーや、ヴィクトリアなどを抱えるゼビオが近い客層を取り合い、値引きで差をつけにくい。
次に値決め力。メーカーが決めた上代で売る品が中心で、アルペンが値段を決められる範囲は狭い。メーカーの値上げは売上を増やすが、同時に仕入値も上がる。物価高で客数が落ちれば、在庫処分のセールで粗利が削られる。2026 年 6 月期の粗利率の低下がその例だ。
三つ目は資本効率。ROE は過去 10 年の中央値が 3.6% にすぎない。自己資本比率は 59% と堅いが、効率の悪さの裏返しでもある。
良い点は、財務が堅く、創業家が長期の目線で経営していること。弱い点は、利益率が 3% を超えた期間が短いことだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のスポーツ用品市場は、物価でかさ上げされながら緩やかに伸びている。矢野経済研究所によると、2025 年の国内出荷額は約 1.7 兆円で前年比 3% 増だった。ただし伸びの大半は値上げによる単価の上昇で、数量は横ばいから微減だ。人口が減る国内では、実需の増加は期待しにくい。
分野で明暗が分かれる。ゴルフは 2020 年のコロナ期に初心者が増えたが、その後は落ち着き、人口の細りと高齢化が長期の逆風になる。一方で中古クラブは回転が速く、小売の粗利を取りやすい。ランニング、ラケット競技、アウトドアは堅調だ。ウインターは雪不足で前年を下回った。
競争の形が変わりつつある。メーカーは直販サイトを強め、ナイキ・アディダスは自社 EC と大手モールに力を入れる。アルペンの店は「商品を試す場所」になりやすい。同じ売場で ZOZO や Amazon と比べられる。一方、ユニクロやワークマンがスポーツ衣料に入り込み、カジュアル衣料は弱い。
同業ではゼビオが最大のライバルで、ゴルフでは専門店のゴルフパートナー、ゴルフドゥが競う。再編はこれまでゼビオ中心で、アルペンは自力で出店する。人手不足と最低賃金の上昇で、郊外大型店の運営費は毎年 3〜5% の勢いで上がる。物流の自動化と店の省人化が、利益率を守れるかの分かれ目だ。
資本政策と M&A
創業家が過半を保有する会社だ。大量保有報告書によれば創業者の水野泰三氏の保有比率は 54.89%(2026 年 1 月)で、2016 年の開示では創業家と資産管理会社の議決権が合わせて 6 割を超えていた。浮動株が少ないため、市場で買える株は限られる。
配当は連結純利益の 3 割台を目安に出している。自社株買いは今回の調べで確認できなかった。株主優待は 2025 年に拡充している。2026 年 6 月期は営業 CF 107 億円に対して投資 CF が 106 億円で、フリーキャッシュはほぼゼロだ。出店・改装・物流への投資で、手元資金は純現金 32 億円と薄い。長期借入金も増えた。
新リース会計基準の適用(2028 年 6 月期から)で、使用権資産とリース負債が BS に載る。数字上の自己資本比率は下がり、営業利益は少し増えるが、価値は変わらない。
M&A はこれまで自前の出店が中心で、大型の買収は目立たない。創業家の持株が厚く、非上場化やファンドの買収は否定できないが、その報道は確認できていない。kabufu の推計では 10 年以内の買収の確率は 18% だが、筆者は評価に織り込まない。
株主優待は年約1.2億円(会社の費用ベース。優待券年4,000円×単元株主約4.4万人(額面1.8億円)×使われ率7割)。優待の費用は販管費として利益から引き済みなので、株主が受け取る分として10年の還元に「年額×10年×続く見込み(中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5)」を足した(中立+12億円)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アルペンは伸びる分野に正しく張っている。ランニング、ラケット競技、中古クラブ、アウトドアは客が増え、店舗は旗艦型への入れ替えで 1 店当たりの売上が上がる。2027 年 6 月期は営業利益 105 億円を見込み、過去 10 年で最高に近い水準だ。EC は 300 億円を超え、年 2 割近く伸びている。会員 1,600 万人超のデータは、販促の無駄を減らし、粗利の高い PB や中古を的確に勧める武器になる。人件費は上がるが、物流の自動化と店の省人化で吸収できる。
財務は堅く、自己資本比率は 59%、純現金で、借り換えの金利上昇にも耐える。創業家が過半を持ち、短期の株価より長期の店づくりを優先できる。ゴルフ人口は細っても、中古・用品・レッスンの組み合わせで客を囲い込める。営業利益率が 4% に届けば、純利益は今の 2 倍以上になる。売上は物価で毎年 3% 伸びる環境が味方だ。
さらに、ミズノなど大手メーカーとの取引関係は長く、新製品や限定品の優先配分を受けやすい。大型の旗艦店は、試せる・体験できる売場として、ネット通販との差を作れる。中計 2029 の「売上確保、シェア拡大」は、規模の経済を利益へつなげる方針だ。
慎重な見方
利益率が 3% の小売は、変動が大きすぎる。過去 10 年で営業利益率が 3% を超えたのは 2021 年(コロナ特需)と直近 2 期だけで、それ以外は 1〜2% 台の低さだ。粗利率は 2026 年 6 月期もセールと在庫処分で下がった。人件費は毎年 3〜5% 上がり、家賃は固定だ。売上が増えても利益に残らない。
メーカーの直販 EC は拡大しており、実店舗は試す場所になる。ナイキやアディダスが直接さばく比率が上がるほど、アルペンの粗利は減る。ゴルフは人口の細りが避けられず、ゴルフパートナーやゼビオとの値引き競争が続く。ウインターは雪不足で落ち込み、気候への依存も高い。
投資は営業 CF を使い切り、フリーキャッシュは薄い。純現金はわずか 32 億円なのに、家賃の約束は年 190 億円前後ある。ROE は 5% で資本コストに遠く、積み上げた自己資本は価値を生んでいない。中計 2029 の数値目標は示されていない。
一度の増益で構造が変わったと見るのは危ない。2027 年 6 月期の予想営業利益 105 億円も、過去には 2021 年の 151 億円がすぐ 72 億円まで戻った例がある。利益が伸びる局面ほど、固定費を増やす出店が続き、次の谷が深くなる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。理由は、経営の良し悪しではなく、稼ぐ力そのものにある。営業利益率が 3% 前後で、ROE が資本コストを下回る会社は、利益が増えても倍率が上がらない。
強気の根拠のうち、EC とランニングの伸びは確かだ。ただ利益率を 4% に押し上げる材料が、筆者にはまだ見えない。確率は中立に 35%、やや悲観と悲観を合わせて 35% 弱に置き、上振れ(楽観とやや楽観)は 3 割とした。悲観は、固定費の重さを考えて 12% まで厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 2,680 円1,033 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 786 円303 億円)。 今の値に割り戻すと 1,804 円696 億円、今との差 −25.3%、 期待の年率 +3.7%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 4,726 円1,822 億円 | 1,120 円432 億円 | +141.9% | +9.2% | 526 円203 億円 |
| やや楽観 | 21% | 3,795 円1,463 億円 | 991 円382 億円 | +98.0% | +7.1% | 1,005 円388 億円 |
| 中立 | 35% | 3,163 円1,220 億円 | 835 円322 億円 | +65.4% | +5.2% | 1,399 円540 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,049 円405 億円 | 620 円239 億円 | −30.9% | −3.6% | 384 円148 億円 |
| 悲観 | 12% | 908 円350 億円 | 353 円136 億円 | −47.9% | −6.3% | 151 円58 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,680 円1,033 億円 | 786 円303 億円 | +43.4% | +3.7% | 3,466 円1,336 億円 |
今の株価時価総額 2,417 円932 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 9% ランニングと中古ゴルフが伸び、EC が店と噛み合う 利益 141 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 4,726 円1,822 億円
ランニング・ラケット・中古クラブという伸びる分野でシェアを取り、店舗は旗艦型への入れ替えが進む。自社 EC は件数が倍に近づき、会員 1,600 万人超のデータで販促の無駄が減る。セールで落とす値引きが減って粗利率が戻り、人件費の上昇を売上の伸びが吸収する。ゴルフ人口は細るが、アルペンは中古と用品の両輪で客を集め、ゴルフ専門店としての存在感を保つ。結果、営業利益率は 4% を超える。ただし自己資本が厚く、ROE は資本コストに届かない。利益が増えても、倍率は低いままだ。
店の数も増える。旗艦型の大型店が関西・九州・東海へ広がり、不採算の郊外店は閉めて入れ替える。メーカーの値上げは仕入値に転嫁でき、PB と中古の比率が上がって粗利が改善する。10 年後の売上は 4,700 億円近く、営業利益は 200 億円規模になる。
- ゴルフ業態(ゴルフ5):数量 206(ゴルフ業態の店舗数(店))× 価格 5.44(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 1,121 億円・営業利益 73 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.36 倍、営業利益率 6.5%
- スポーツ・アウトドア業態:数量 238(スポーツ・アウトドア業態の店舗数(店))× 価格 11(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,589 億円・営業利益 111 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.36 倍、営業利益率 4.3%
- EC(自社サイト・モール):数量 520(年間の注文件数(万件))× 価格 1.62(1 件当たり売上(万円))→ 売上 843 億円・営業利益 38 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 4.5%
- その他(フィットネス・スキー場・ゴルフ場ほか):数量 28.0(施設数)× 価格 4.56(1 施設当たり年間売上高(億円))→ 売上 128 億円・営業利益 4 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 141 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 1,808 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:楽観の中身は、数量の増加(店と EC の件数)と粗利率の改善が同時に起きること。中計 2029 の成功だけでなく、メーカーの値上げ通過と在庫のさばき方の改善も要る。実現は難しいが無視できない上振れとして 9% に置いた。
やや楽観 21% 店の入れ替えと EC の成長で、利益率が 3% 台後半へ 利益 113 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 3,795 円1,463 億円
出店は旗艦型を中心に年数店のペースで続き、EC は年 6〜7% の件数増を保つ。粗利率は在庫処分の一巡で少し戻る。ゴルフは中古と用品で横ばいから微増、競技スポーツはサッカーなどのイベントで底上げされる。人件費は上がるが、物流の自動化と店舗の省人化で営業費の比率は大きく悪化しない。利益率は 3% 台後半に乗り、純利益は今の 1.8 倍ほどになる。それでも ROE は 6% 台にとどまり、資本コストには遠い。
ゴルフ人口の減少は、中古の回転と用品の高単価化で相殺する。自社 EC の売上は 6 年ほどで倍になり、店との相乗効果で粗利率も上がる。ただ、資本コストを超える稼ぎには届かず、倍率は低いままだ。
- ゴルフ業態(ゴルフ5):数量 202(ゴルフ業態の店舗数(店))× 価格 5.32(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 1,075 億円・営業利益 64 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.33 倍、営業利益率 6.0%
- スポーツ・アウトドア業態:数量 230(スポーツ・アウトドア業態の店舗数(店))× 価格 11(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,447 億円・営業利益 93 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.33 倍、営業利益率 3.8%
- EC(自社サイト・モール):数量 480(年間の注文件数(万件))× 価格 1.62(1 件当たり売上(万円))→ 売上 778 億円・営業利益 29 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 3.7%
- その他(フィットネス・スキー場・ゴルフ場ほか):数量 26.0(施設数)× 価格 4.56(1 施設当たり年間売上高(億円))→ 売上 118 億円・営業利益 3 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 2.8%
倍率:事業の純利益 113 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 1,449 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計 2029 が概ね計画どおり進む筋書き。2027/06 期予想の増益が定着する前提で、中立より少し上に確率を置いた。
中立 35% 店は微増、EC は伸びるが、利益率は 3% 前後のまま 利益 94 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 3,163 円1,220 億円
中立では、アルペンはこれまでと同じ会社のままだ。店舗は旗艦型の出店と不採算店の閉鎖が相殺し、売場面積はわずかに増える。客数は人口減で細るが、値上げと客単価で売上は物価並みに伸びる。EC は年 5% 前後の件数増で、売上の 17% ほどを占める。粗利率はメーカーの値上げを転嫁できる範囲に収まり、人件費の上昇が営業費を押す。営業利益率は 3% 台前半で、中計の目標が実現しても 10 年後に 3.2% 程度だ。純利益は今の 1.5 倍で、自己資本はその分ふくらむ。ROE は 5% 台で、資本コストを下回り続ける。
中計 2029 の成果は、利益率の 0.3 ポイントほどの改善にとどまる。大きな買収も、非上場化も起きない。株主への還元は純利益の 3〜4 割で続く。10 年後に会社を見たとき、筆者は今と同じ姿の会社だと感じるだろう。 株主優待の費用は利益から引き済みで、還元には受け取り分(年約1.2億円×10年)を足している。
- ゴルフ業態(ゴルフ5):数量 199(ゴルフ業態の店舗数(店))× 価格 5.20(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 1,035 億円・営業利益 57 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.30 倍、営業利益率 5.5%
- スポーツ・アウトドア業態:数量 222(スポーツ・アウトドア業態の店舗数(店))× 価格 10(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,309 億円・営業利益 81 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.30 倍、営業利益率 3.5%
- EC(自社サイト・モール):数量 440(年間の注文件数(万件))× 価格 1.62(1 件当たり売上(万円))→ 売上 713 億円・営業利益 21 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 3.0%
- その他(フィットネス・スキー場・ゴルフ場ほか):数量 25.0(施設数)× 価格 4.56(1 施設当たり年間売上高(億円))→ 売上 114 億円・営業利益 3 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 2.5%
倍率:事業の純利益 94 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 1,205 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 10 年の営業利益率の中央値が 2% 台、2027/06 期予想でも 3.4% という実績を踏まえ、構造が大きく変わらない筋書きを最も厚く置いた。
やや悲観 23% 競争と人件費で粗利が削られ、利益は今の 7 割ほどに 利益 58 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 1,049 円405 億円
メーカーの直販サイトとモールが、ナイキ・アディダスなどの売れ筋を直接さばく比重を高める。実店舗は「試す場所」になり、売上は伸びても粗利が痩せる。ゴルフは用品の値上げで客数が落ち、競合のゴルフパートナー・ゴルフドゥとの値引き合戦が続く。人件費の上昇を転嫁できず、営業利益率は 2% 台前半に沈む。売上の数字は伸びるが、純利益は今を下回り、10 年を通して ROE は 3% 台にとどまる。家賃は固定で、売上が落ちた時に利益が先に削られる。
同業の再編が進めば、ゼビオなど大手との価格競争はさらに強まる。アルペンは出店を絞り、改装と物流の投資を続けざるを得ず、フリーキャッシュは薄いままだ。配当は維持できても、増配の余力は小さい。
- ゴルフ業態(ゴルフ5):数量 190(ゴルフ業態の店舗数(店))× 価格 4.88(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 927 億円・営業利益 44 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.22 倍、営業利益率 4.8%
- スポーツ・アウトドア業態:数量 210(スポーツ・アウトドア業態の店舗数(店))× 価格 9.76(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,050 億円・営業利益 57 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.22 倍、営業利益率 2.8%
- EC(自社サイト・モール):数量 380(年間の注文件数(万件))× 価格 1.57(1 件当たり売上(万円))→ 売上 598 億円・営業利益 13 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.30 倍、営業利益率 2.2%
- その他(フィットネス・スキー場・ゴルフ場ほか):数量 22.0(施設数)× 価格 4.25(1 施設当たり年間売上高(億円))→ 売上 94 億円・営業利益 2 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.25 倍、営業利益率 2.0%
倍率:事業の純利益 58 億円・事業 ROE 3.5% は k 7.8% 以下なので、上限は 1÷k=11.8倍。粗利の低下と固定費で利益の質が弱いため、上限の約5.5割の6.5倍に置いた。
確率:粗利率の低下は 2026/06 期にすでに出ている(セール・在庫処分)。EC・メーカー直販と同業の安売りは構造的に続くため、中立よりやや薄い確率を置いた。
悲観 12% 構造的な負け:メーカー直販と競合に客を奪われ、赤字寸前 利益 9 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 908 円350 億円
ゴルフ人口の減少と、メーカー直販・中古専門店・EC への客の流出が重なる。ゴルフ業態の客数が 3 割近く減り、スポーツ業態もランニング以外で値引き競争に巻き込まれる。閉店を進めても家賃と人件費は売上ほど減らず、営業利益率は 1% を切る。在庫の評価減と店舗の減損で自己資本も削れ、株主への還元は細る。利益で価値を測れなくなり、売れる資産(在庫・現金・不動産)の価値が値段の下限になる。
残る強みは会員 1,600 万人超の基盤だが、それだけでは粗利の低下を止められない。創業家は店の整理を迫られ、新しい投資は止まる。もう優良な小売ではなく、地方の大型店を抱えた低収益のチェーンとして評価される。
- ゴルフ業態(ゴルフ5):数量 165(ゴルフ業態の店舗数(店))× 価格 4.40(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 726 億円・営業利益 22 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.10 倍、営業利益率 3.0%
- スポーツ・アウトドア業態:数量 175(スポーツ・アウトドア業態の店舗数(店))× 価格 8.80(1 店当たり年間売上高(億円))→ 売上 1,540 億円・営業利益 18 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.10 倍、営業利益率 1.2%
- EC(自社サイト・モール):数量 300(年間の注文件数(万件))× 価格 1.45(1 件当たり売上(万円))→ 売上 436 億円・営業利益 4 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.20 倍、営業利益率 1.0%
- その他(フィットネス・スキー場・ゴルフ場ほか):数量 18.0(施設数)× 価格 3.74(1 施設当たり年間売上高(億円))→ 売上 67 億円・営業利益 0 億円。1 店(件)当たり売上は今の 1.10 倍、営業利益率 0.0%
倍率:稼ぐ力は純利益 8 億円前後で、資本コスト 7.8% で割ると 100 億円に満たない。値段の下限は売れる資産に置く。減損後の自己資本 1,100 億円に 0.32 倍(今の自己資本 1,264 億円に対しては 0.28 倍)で、商品の在庫と現金の換金価値(下の floor_assets)で測る。
確率:経営に問題があるわけではない。ただし粗利の薄い小売業で、家賃が固定費としてのしかかる以上、売上が 1 割落ちると利益はほぼ消える。そのために 12% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ゴルフ業態(ゴルフ5)
ゴルフ用品と中古クラブを売る専門店。全国で約 200 店。
| 数量ゴルフ業態の店舗数(店) | 価格1 店当たり年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 196 | 4.00 | 784 | 43 |
| 10 年後 中立 | 199 | 5.20 | 1,035 | 57 |
取り方:ゴルフ5を中心とするゴルフ業態 196 店(2026/06 末)。業態別の売上は開示が無いので、ゴルフ部門の売上(総売上の約 33%)のうち、スポーツ業態の店内売場と EC に回る分を除いた約 785 億円を 196 店で割って 1 店当たり約 4.0 億円とした推定。10 年は店舗数の増減と、客数(人口減とゴルフ人口の細り)を物価で上げた客単価の差で 1 店当たりの売上を置く。
スポーツ・アウトドア業態
スポーツデポ・アルペン・アルペンアウトドアーズ。競技・ランニング・衣料・アウトドア・ウインターを売る総合店。
| 数量スポーツ・アウトドア業態の店舗数(店) | 価格1 店当たり年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 211 | 8.00 | 1,688 | 54 |
| 10 年後 中立 | 222 | 10 | 2,309 | 81 |
取り方:スポーツ 190 店とアウトドア 21 店の計 211 店。総売上から EC・ゴルフ業態・その他を除いた約 1,688 億円を 211 店で割り、1 店当たり約 8.0 億円とした推定(大型店中心)。
EC(自社サイト・モール)
自社 EC と外部モールの通販。会員 1,600 万人超のデータを使う。
| 数量年間の注文件数(万件) | 価格1 件当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 250 | 1.21 | 303 | 6 |
| 10 年後 中立 | 440 | 1.62 | 713 | 21 |
取り方:EC 等の売上は約 303 億円(前期比 +18.9%)。1 件当たり 1.2 万円前後と置いて、件数を約 250 万件と推定した。件数は実質の量、1 件当たりの売上は物価で上がる名目。 数量は実物(注文件数)で、伸びは出店計画など事業の事実による。市場の名目の伸びを数量に置いたものではなく、価格に物価を掛けても二重がけにならない。
その他(フィットネス・スキー場・ゴルフ場ほか)
フィットネスクラブ・スキー場・ゴルフ場の運営と、業態に入らない店。
| 数量施設数 | 価格1 施設当たり年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 25.0 | 3.40 | 85 | 2 |
| 10 年後 中立 | 25.0 | 4.56 | 114 | 3 |
取り方:フィットネス 2 店・クイックフィットネス直営 5 店・FC 13 店・その他の店 2 店・スキー場などを合わせて 25 拠点と置き、総売上との差額の約 85 億円を割った推定。
リスクと懸念
メーカー直販 EC と価格比較に客を奪われる
ナイキやアディダスなど主力メーカーが直販サイトと大手モールに力を入れている。店は試す場所になり、売れ筋の粗利が薄くなる。2026 年 6 月期の粗利率の低下は、その兆しだ。
ゴルフ人口の減少と値引き競争
売上の約 3 分の 1 を占めるゴルフは、高齢化とプレー人口の細りで長期の逆風にある。ゴルフパートナーやゼビオとの値引きが続けば、中古・用品の粗利を取る強みも薄れる。
人件費と家賃という固定費の重さ
最低賃金の上昇が続き、店の運営費は毎年 3〜5% 増える。家賃は年 190 億円前後と推定でき、売上が落ちても減らない。営業利益 85 億円は、この固定費にわずかに乗っているだけだ。
気候への依存(ウインター・アパレル)
ウインター商品は雪不足で前年の 98.3% にとどまった。アパレルは気温で売れ行きが振れ、在庫処分のセールが粗利を削る。気候はアルペンの利益率を毎年のように動かす。
投資が営業 CF を使い切る
2026 年 6 月期は営業 CF 107 億円に対して投資 CF が 106 億円。旗艦店・改装・物流への投資が続く間、株主に回る余力は小さい。投資の回収が遅れれば、長期借入金の負担も増える。
創業家の持株が厚い会社の資本政策
創業家が過半を持つため、少数株主の意見が通りにくい。非上場化や関連会社との取引が起きれば、条件次第で少数株主に不利になりうる。現時点で報道は確認できない。
今後の分かれ目
- 2027 年 6 月期に営業利益 105 億円を達成し、利益率が 3.4% に乗る
- 中立の営業利益率 3.2% が保守的だったことになる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし ROE が資本コストを超えるには 5% 台の純利益率が要り、倍率の上限は動かない。
- 中計 2029 で営業利益率 4% 超の数値目標が示され、粗利率が戻る
- 利益の質が改善したとみて、やや楽観の筋書きへ寄せる。利益が今の 2 倍に近づく。
- メーカー直販の比率が上がり、粗利率が低下し続ける
- やや悲観の確率を上げる。EC とモールで価格比較が進み、利益率は 2% 台前半に沈む。
- 創業家が非上場化や TOB を発表する
- 公開買付けの価格は、利益で測った本質価値より高くなりうる。本質価値の評価は変えない。応じるかは別の問題だ。
- ゴルフ業態の客数が 2 年続けて減る
- ゴルフ業態の 1 店当たり売上を下げ、やや悲観〜悲観に寄せる。
- 新リース会計の適用で純負債とリース負債が数字に出る
- 数字の見かけは悪化するが、家賃は営業費に入っていたので価値は変わらない。固定費の重さを再確認する機会になる。
見ておくもの
- 2027 年 6 月期の営業利益 105 億円の達成度と粗利率の推移
- EC 売上(約 300 億円)の伸びと、EC 経由の粗利率
- ゴルフ業態の 1 店当たり売上と中古クラブの比重
- 中計 2029 の数値目標の開示(営業利益率・ROE・還元)
- 創業家の持株比率と、非上場化・資本再編の開示
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとの店数(件数)× 1 店当たり売上で 10 年を積んだ。業態別の売上は開示が無く推定のため、今の売上 2,860 億円に合うよう置き、1 店当たり売上の伸びは物価 1.34 倍から人口減の分を引いた 1.30 倍とした。事業の ROE が資本コスト 7.8% を下回るので、倍率は上限の 1÷k=11.8倍に対し、楽観で9割、中立で8割、やや悲観で5.5割に置き、今の PBR や市場の倍率は使っていない。純現金は時価総額の 3% で、家賃の約束が大きいため現金を分けていない。新リース会計の形の変化は、10 年後の数字を今と同じ形(家賃を営業費に入れる)でそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.82 倍・やや楽観 PER 9.4→12.82 倍・中立 PER 9→12.82 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した(決まり v2)。個別のリスクは筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.80%。