結論
コスモス薬品は、九州で生まれた食品ディスカウント型のドラッグストアだ。売上の 6 割強が食品で、郊外の大型店で毎日安く売って客を集める。筆者の結論は「やや割高」で、いちばんの理由は、成長の力は本物でも、利益の薄さが今の値段にすでに映っていることだ。
強みは、買収に頼らず自前の出店だけで売上 1 兆円を超えた点にある。35 期続けて増収で、のれん(買収で積み上がる上乗せ額)は無い。販管費率は大手で最も低い水準だ。
弱みは利益率の低さだ。売上高営業利益率は 3.9% で、都市型の同業の半分ほどにとどまる。新しい店は黒字になるまで 3〜5 年かかり、出店には毎年 700 億円台の設備投資が要る。稼ぎが投資に追いつかず、純現金は純負債に変わった。
10 年後の中立の見立てでは、店は 2,500 店台、純利益は約 570 億円になる。成長は続くが、人件費の上昇とイオン系連合との価格競争が、利益率の上げ幅を抑える。資本コスト 7% で今に割り戻した本質価値は、今の時価総額を 1 割半ほど下回る。成長の確かさは認めても、今の値段に安全域は無い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業はよいが、値段で得をする会社ではない、というのが筆者の見立てだ。
事業の質から言う。35 期続けて増収で、買収もせず、のれんもない。10 年後も食品を安く売る店は必要とされる。ただ、堀は深くない。強みは費用の低さで、これは安さで勝負する限り、いつも誰かに追われる。
次に、株主のものになる利益、つまり店の維持に要る分を引いた残りを見る。出店に毎年 700 億円台を投じ、純利益の倍を超える。稼いだ現金の多くが次の店に消える。いまの利益は「成長のための利益」で、すべてを株主が自由に使えるわけではない。出店が止まれば現金は一気に余る。続く限りは、余らない。
経営については、筆者は評価している。買収で価値を壊したことがなく、土地を持つ資産の厚みもある。一方で、還元は薄く、人手不足という弱点も見えている。
値段はどうか。中立の筋書きで 10 年後の純利益は約 570 億円だ。資本コスト 7% で今に割り戻すと、本質価値は今の時価総額を 1 割半ほど下回る。安全域と呼べるほどの余裕は無い。持ち続けたい会社だが、買い増す根拠を値段は与えない。
何で稼ぐ会社か
主力は食品だ。2026 年 5 月期の売上は約 1.1 兆円で、一般食品が 6,917 億円、構成比 62.9% を占める。雑貨が 14.3%、医薬品が 13.1%、化粧品が 8.9% と続く。客を呼ぶのは食品の安さで、利益は医薬品・化粧品・雑貨で稼ぐ。薬を売る店というより、薬も置いてある安売りの食品店に近い。
店の形は決まっている。人口 1 万人ほどの小さな商圏に、売り場 1,000〜2,000 平方メートルの大型店を建てる。場所は郊外のロードサイドで、駐車場は広く、生鮮は置かない。生鮮を置かない分、惣菜や加工食品を厚くして人手を減らす。期末の店は 1,708 店で、九州が 673 店と最も多い。関西・中部・関東は合わせて 647 店で、いまの出店の中心だ。
特売日とポイントは廃止し、毎日同じ低価格で売る。発注の自動化、セルフレジ、勤務時間の細かい管理で人件費を抑える。プライベートブランドは売上の 16.8% まで育った。
店の建物は自社で建て、土地は借りるのが基本だった。最近は土地を買う動きも強い。九州を中心に帳簿で 500 億円を超える土地を持ち、総資産の 1 割に当たる。宮崎では、ドラッグストアに宿泊特化型のホテルを併設する計画も進む。調剤を併設した店はまだ 50 店あまりで、育て始めた段階だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、費用の低さにある。販管費率は大手上場企業で最も低く、その差を値段に回して客を取る。売上は 11 年で約 2.7 倍、純利益も約 2.7 倍に伸びた。利益率は 4% 前後で動かず、規模が増えても薄さは変わらない。「安く売り、薄い利益を大量に積む」型の会社だ。
強さの出どころは三つある。一つ目は、郊外の大型店という同じ形を 1,700 回近く繰り返してきた運営の慣れだ。二つ目は、買収をせず、のれんも持たない身軽さだ。三つ目は、食品を入口に、利益の厚い医薬品・化粧品・雑貨を売る組み立てだ。
ただし、この堀は深くない。安さで築いた強みは、もっと安い相手が来れば削られる。ROE は 11% 前後と悪くないが、以前の 15〜19% からは下がってきた。出店の資金が自己資本より速く増えたためだ。
経営は創業家の色が濃い。創業者の宇野正晃氏が会長、横山英昭氏が社長を務める。M&A をせず、配当は控えめにして出店へ回す姿勢は一貫している。資本の使い方は堅実だが、株主への還元は同業より薄い。
いちばんの弱点は人だ。店長を担う社員の採用が出店の速さに追いつかない。人件費は前期に 10% 余り増え、利益を食っている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ドラッグストア業界の売上は、2024 年度に初めて 10 兆円を超えた。店は 2.37 万店ほどで、増える余地は狭くなった。伸びの中身は食品と調剤だ。食品は前年比 13% 増、調剤は 9% 増だった。業界団体は 2030 年度に 13 兆円を目指す。
勢力図は組み変わった。ツルハとウエルシアがイオンの主導で統合し、売上 2 兆円を超える最大手連合ができた。仕入れを束ねれば、安さでも対抗してくる。都市型で化粧品に強いマツキヨココカラは、利益率で別格の位置を保つ。
コスモス薬品が戦うのは、そのどちらとも違う場所だ。郊外で食品を安く売る土俵では、クスリのアオキ、ゲンキー、カワチ薬品といった食品強化型の同業に加え、地場の食品スーパーやディスカウント店とぶつかる。九州ではトライアルのような安売りの食品店も強い。薬の棚は客を呼ぶ道具で、本当の相手はスーパーだ。
景気の波には強い。食品と日用品が中心なので、リーマンのような不況でも客は減りにくく、むしろ安い店へ流れてくる。弱いのは費用の側だ。賃金の上昇は食品の値上げでは取り戻しにくく、人手不足で出店が遅れる。
10 年の負け筋は、イオン系連合が仕入れの力で価格を押し下げ、郊外の食品でも消耗戦になることだ。調剤報酬の引き下げは、調剤の比重が小さい同社には打撃になりにくい。薬局の制度の風を受けにくいのは、この会社の特徴だ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、出店に全力だ。2026 年 5 月期の設備投資は 768 億円で、純利益の 2 倍を超える。土地の帳簿価額も 1 年で 532 億円から 675 億円へ増えた。稼ぎが投資に追いつかず、純現金は 174 億円の純負債に変わった。
還元は控えめだ。配当性向は 20% 前後で、累進配当、つまり減らさず増やす方針をとる。今期も増配の予想だ。自社株買いの実績は確認できていない。利益の大半は新しい店に回る。
M&A は創業以来、一度もしていない。買う側に回る気配もなく、買われる側になる可能性も低い。筆頭株主は有限会社萬緑で、2021 年 5 月時点で約 4 割を持ち、宇野姓の個人も上位に並ぶ。外から買収を仕掛けにくい株主構成だ。
新しい動きは、宮崎でのホテル併設だ。創業者の長男の之崇氏が率いる新組織で、1 号店は 2028 年ごろを見込む。実物の土地を生かす試みだが、ドラッグストアとは別の事業で、成否はまだ見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
安さの会社は、不況でも物価高でも強い。売上の 6 割強が食品で、節約の局面ほど客が集まる。この 11 年で売上は約 2.7 倍になり、35 期連続の増収が続いている。しかも、買収には一度も手を出さなかった。のれんが無いので、減損の心配が無い。
出店の余地もまだ大きい。九州には 673 店あるが、関西・中部・関東は合わせて 647 店で、人口の多い地域がこれから育つ。関東にはディスカウント型の競合が少ない。福島、長野に入り、次は宮城、新潟だ。今期は 120 店の出店を予定している。
新しい店は 3〜5 年で黒字になる。直近の 2 年で開いた店が成熟すれば、会社全体の利益率は自然に上がる。いまの 3.9% は、育ちきっていない店が混じった低めの数字だ。西日本の本拠の店だけを見れば、利益率はもっと高い。
PB は売上の 16.8% まで育ち、粗利を押し上げる。食品の仕入れに強い会社が、自社の商品を持った意味は大きい。調剤の併設も、集客の道具として全店に広げる構想がある。
創業家が約 4 割を持ち、短期の株価に振り回されない。店と土地に長く投資できる体制は、買収で膨らむ同業にはまねできない。10 年後に店が 2,800 店近くまで育てば、利益は今の 2.5 倍に届く。
慎重な見方
利益率の薄さが、すべてを狭くしている。売上高営業利益率は 3.9% で、都市型の同業の半分ほどだ。売上が 1 割伸びても、利益が伸びなければ株主には何も残らない。今期の会社予想も、売上は 8% 増えるのに純利益は 4% 減る。
出店の資金も重い。設備投資は純利益の 2 倍を超え、純現金は純負債に変わった。金利が 3% 台へ上がる世界では、借り入れで店を増やすほど利息が利益を削る。出店のたびに新しい店が既存店の客を奪う。自社競合も起きている。
人の問題は構造的だ。店長を担う社員の採用は、出店の数に追いつかない。人件費は前期に 10% 余り増え、売上の伸びを上回った。食品の値上げで賃金を取り返せる保証は無い。
競争は強まる。イオン系の連合は売上 2 兆円を超え、仕入れの力で価格を下げてくる。食品の安さだけで勝つ会社は、より安い相手が現れれば価値が下がる。堀は深くない。
ホテル事業は本業から離れた賭けだ。創業家の色が濃い会社が、実績のない分野へ土地を振り向けることに、株主の目は厳しくあるべきだ。PER 16 倍は、薄利で成長に資金を食う会社にはすでに高い。
どちらに重みを置いたか
成長力は強気の見方に分がある。35 期の増収と、買収に頼らない出店の実績は軽くない。一方で、薄い利益率と重い投資、人手不足という指摘は、慎重な見方がそのまま当たっている。
確率は中立に最も厚く置いた。10 年は、価格競争と人件費で利益率が崩れる筋書きを、強気の筋書きより少し厚くした。やや悲観に 25%、悲観に 11% を置き、悲観は、投資が回収できないまま店が過剰になる形で測った。
その結果、本質価値は今の時価総額を 1 割半ほど下回り、結論は「やや割高」だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 10,242 円8,117 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,513 円1,200 億円)。 今の値に割り戻すと 6,285 円4,982 億円、今との差 −0.6%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 18,792 円1.49 兆円 | 2,523 円2,000 億円 | +237.1% | +12.9% | 1,705 円1,352 億円 |
| やや楽観 | 20% | 15,363 円1.22 兆円 | 2,145 円1,700 億円 | +176.8% | +10.7% | 3,502 円2,775 億円 |
| 中立 | 36% | 11,899 円9,431 億円 | 1,577 円1,250 億円 | +113.1% | +7.9% | 4,851 円3,845 億円 |
| やや悲観 | 25% | 4,804 円3,808 億円 | 1,009 円800 億円 | −8.1% | −0.8% | 1,453 円1,152 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,647 円1,305 億円 | 568 円450 億円 | −65.0% | −10.0% | 244 円193 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,242 円8,117 億円 | 1,513 円1,200 億円 | +85.9% | +6.4% | 11,755 円9,317 億円 |
今の株価時価総額 6,324 円5,012 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 東日本で食品ディスカウントの代表格になる 利益 813 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 18,792 円1.49 兆円
関東・中部・関西で出店が続き、10 年後の店は 2,820 店になる。東日本には郊外型のディスカウントの競合が少なく、新しい店の売上が本拠の水準に近づく。PB と惣菜が成長し、調剤の併設も全店に広がって、利益の厚い売上が増える。新成長圏の営業利益率は 4.8% に届き、全社で 4.7% になる。仕入れ、物流、店の運営の費用差が価格に生き、イオン系連合が仕掛ける価格競争にも耐える。売上は約 2.5 兆円、純利益は約 810 億円になる。創業家の保有を背景に長く投資できた分が、10 年かけて実る筋書きだ。
- 西日本の本拠(九州・中国・四国):数量 1,300(期末店舗数(店))× 価格 9.45(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 12,279 億円・営業利益 639 億円。営業利益率 5.2%(推定)
- 新成長圏(関西・中部・関東):数量 1,520(期末店舗数(店))× 価格 8.19(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 12,447 億円・営業利益 597 億円。営業利益率 4.8%(推定)
倍率:事業の純利益 813 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍。全体の PER 18.32 倍、時価総額 14,894 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:関東・東北・北陸に出店が広がり、利益の厚い店が連続して育つ必要がある。実現すれば強いが、連続して成功する確度は高くない。
やや楽観 20% 東日本が育ち、本拠との利益率の差が縮む 利益 693 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 15,363 円1.22 兆円
10 年後の店は 2,680 店。関東・中部の店が成熟して、新成長圏の営業利益率が 4% を超える。本拠の九州では出店余地を使い切り、1 店あたりの売上は物価並みに伸び続ける。調剤併設とホテル併設は小さな上乗せにとどまるが、土地を活かす余地は広がる。人手不足は賃金の上昇で吸収し、利益率は全社で 4.3% まで上がる。イオン系連合との競争は続くが、郊外の食品という土俵の住み分けが定着する。売上は約 2.3 兆円、純利益は約 690 億円で、ROE も 11% 台を保つ。強気の筋書きほどの飛躍は無いが、薄利の会社が資本コストを上回る稼ぎを 10 年続ける、安定した姿だ。
- 西日本の本拠(九州・中国・四国):数量 1,280(期末店舗数(店))× 価格 9.31(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 11,915 億円・営業利益 584 億円。営業利益率 4.9%(推定)
- 新成長圏(関西・中部・関東):数量 1,400(期末店舗数(店))× 価格 7.96(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 11,141 億円・営業利益 479 億円。営業利益率 4.3%(推定)
倍率:事業の純利益 693 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍。全体の PER 17.57 倍、時価総額 12,176 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:出店の主戦場が東日本に移り、成熟が計画に近い速さで進む想定。業界の食品強化の上位レンジに近い。
中立 36% 中立:出店は鈍化しながら、利益率は今の水準で定着 利益 574 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 11,899 円9,431 億円
10 年後の店は 2,530 店。出店は年 100 店から 60 店前後へ減り、東日本の店の成熟で利益率の低い店は減っていく。ただ、賃金は物価を上回って上がり続け、利益率の改善は小さい。営業利益率は 3.9% でほぼ今のままだ。人口が減る九州では、1 店あたりの客数は伸びず、客単価の物価分だけで伸びる。イオン系連合とは棲み分けが続くが、価格での綱引きは絶えない。設備投資は売上の 5% 台で続き、純負債は 2,000 億円前後まで増えうる。配当性向は 25% 前後まで上がる。売上は約 2.1 兆円、純利益は約 570 億円で、ROE は 9% 台に落ち着く。
- 西日本の本拠(九州・中国・四国):数量 1,260(期末店舗数(店))× 価格 9.17(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 11,556 億円・営業利益 532 億円。営業利益率 4.6%(推定)
- 新成長圏(関西・中部・関東):数量 1,270(期末店舗数(店))× 価格 7.73(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 9,814 億円・営業利益 363 億円。営業利益率 3.7%(推定)
倍率:事業の純利益 574 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.43 倍、時価総額 9,431 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の成長鈍化と、出店余地の減少の中心値。ここまで続いた増収が、速度を落としながら続く。
やや悲観 25% イオン系連合の価格攻勢で、郊外の食品が消耗戦に 利益 334 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 4,804 円3,808 億円
イオン系連合は共同仕入れと PB で食品の価格を下げ、郊外のロードサイドにも店を広げる。同社は安さを守るが、価格を物価ほど上げられず、1 店あたりの売上の伸びは鈍る。店は 2,300 店まで増えるが、新しい店は黒字化が遅れ、閉じる店も出る。賃金は上がり続け、営業利益率は 2.6% へ下がる。土地の賃借料は売上が鈍っても減らない。出店の資金は借り入れが中心になり、利息が利益を削る。売上は約 1.87 兆円を保つが、純利益は約 330 億円と今と変わらない。ROE は資本コストを下回り、成長の価値が消える 10 年になる。
- 西日本の本拠(九州・中国・四国):数量 1,220(期末店舗数(店))× 価格 8.76(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 10,688 億円・営業利益 385 億円。営業利益率 3.6%(推定)
- 新成長圏(関西・中部・関東):数量 1,080(期末店舗数(店))× 価格 7.38(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 7,972 億円・営業利益 159 億円。営業利益率 2.0%(推定)
倍率:(賃借料を営業費用に入れた今と同じ形)ROE 6.3%(純利益 334 億円 ÷ 自己資本 5,307 億円)。事業の ROE が資本コスト 7.0% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 14.3 倍。費用の低さという堀は価格競争に削られうる。出店の資金が稼ぎを上回る間は株主が自由にできる利益が少なく、伸びと堀の持ちを低く見て、やや悲観は上限の 8 割 の 11.4 倍に置いた。
確率:仕入れ統合の効果が 10 年かけて出る。競合の連合が同じ土俵に来るので、同社の粗利が削られる確度は低くない。
悲観 11% 薄利のまま店が過剰になり、投資が回収できない 利益 32 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,647 円1,305 億円
出店を急いだ結果、店が過剰になり、新しい店の多くが黒字化できない。イオン系連合の価格攻勢と、人手不足による賃金上昇が同時に襲う。九州の本拠でも利益率は 1.8% まで下がり、新成長圏は赤字になる。店は 2,050 店で止まり、出店の資金は借り入れで賄ってきたので、利息が利益をほぼ消す。純利益は約 30 億円まで細る。増配は止まり、閉店には契約の残りの賃借料がかかる。事業は続くが、もう優良とは呼ばれず、再編の対象として見られる立場になる。九州の本拠の店と土地は残り、食品を安く売る需要自体は消えないため、倒れるのではなく、利益が出ない会社として長く続く姿になる。
- 西日本の本拠(九州・中国・四国):数量 1,150(期末店舗数(店))× 価格 7.87(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 9,052 億円・営業利益 163 億円。営業利益率 1.8%(推定)
- 新成長圏(関西・中部・関東):数量 900(期末店舗数(店))× 価格 6.46(1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目))→ 売上 5,813 億円・営業利益 −17 億円。営業利益率 -0.3%(推定)
倍率:ROE 0.8% と利益はほぼ消え、稼ぐ力(事業の純利益 32 億円 ÷ k 7.0%)は 457 億円と小さい。事業は続くが、土地を持つ資産は売れば現金になるので、売れる資産の税後から純有利子負債を引いた約 1,300 億円(floor_assets_oku)を床とし、今の自己資本 2,837 億円に対する PBR 0.46 倍で測った。
確率:出店が飽和して新店が既存店を食い、賃金上昇も重なる複合のシナリオ。薄利で投資が重い会社なので、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
西日本の本拠(九州・中国・四国)
九州・中国・四国で運営する、同社の本拠。九州だけで 673 店。郊外の大型店が成熟しており、利益の大半を稼ぐ。
| 数量期末店舗数(店) | 価格1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 1,061 | 6.84 | 7,262 | 365 |
| 10 年後 中立 | 1,260 | 9.17 | 11,556 | 532 |
取り方:2026 年 5 月期の地域別売上(九州 4,715・中国 1,518・四国 1,029 億円。合計 7,262 億円)を期末店舗数 1,061 店(673+229+159)で割り、1 店あたり売上 6.85 億円を出した。期末の店数で割るため、期中に開いた店の分だけ実際より低めに出る。営業利益は地域別の開示が無く、全社の営業利益 423 億円を、成熟した本拠の店ほど高く、新しい店ほど低いと見て、本拠 5.0%(365 億円)・新成長圏 2.1%(78 億円)・全社費用 −19 億円と推定した(推定)。1 店あたり売上は、客数が横ばいで客単価に物価が乗るとして、中立で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍。
新成長圏(関西・中部・関東)
関西・中部(北陸を含む)・関東の新しい出店地域。店の多くが開いて数年で、まだ利益率が低い。今の出店の中心。
| 数量期末店舗数(店) | 価格1 店あたり年間売上高(億円。物価の分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 647 | 5.77 | 3,731 | 78 |
| 10 年後 中立 | 1,270 | 7.73 | 9,814 | 363 |
取り方:2026 年 5 月期の地域別売上(関西 1,514・中部 1,096・関東 1,121 億円。合計 3,731 億円)を期末店舗数 647 店(244+201+202)で割り、1 店あたり売上 5.77 億円を出した。今期に開いた店が多いので、実際の成熟店の売上はこれより高い(期末の店数で割る推定)。営業利益は 2.1%(78 億円)と推定した(推定)。価格の欄は 1 店あたり売上で、物価の分を含めて中立で 3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍。新店の成熟による上振れと、新店の薄まりは相殺するとみて、上乗せはしない。 数量は実物(店数)で、伸びは出店計画など事業の事実による。市場の名目の伸びを数量に置いたものではなく、価格に物価を掛けても二重がけにならない。
リスクと懸念
人手不足と人件費の上昇
人件費は 2026 年 5 月期に 10.5% 増え、売上の伸びを上回った。店長を担う社員の採用が、年 100 店超の出店に追いつかない。賃金は食品の値上げでは取り戻しにくく、利益率を直接削る。出店の遅れ(建設の人手不足による着工遅れも含む)が成長の速さも落とす。
薄い利益率と出店の資金負担
売上高営業利益率は 3.9% と薄い。設備投資は 2026 年 5 月期に 768 億円で、純利益の 2 倍を超え、純現金は純負債に変わった。金利が上がる世界で、借り入れで出店を続けるほど利息が利益を削る。出店が止まれば現金は余るが、続く限りは余らない。
イオン系連合の価格攻勢
ツルハとウエルシアの統合で、売上 2 兆円を超える最大手連合ができた。仕入れの統合と PB の刷新で、食品の価格を押し下げてくるおそれがある。同社の強みは費用の低さなので、より安い相手が現れた時の守りは薄い。食品スーパーやディスカウント店との競争も重なる。
新店の黒字化の遅れと自社競合
新しい店は黒字化まで 3〜5 年かかる。出店を速めるほど、赤字の店が増え、近くの自社の店の客を奪う自社競合も起きる。会社自身が、出店のために一時的な収益性の低下を許していると話す。東日本の店が本拠の水準に育たなければ、投資は報われない。
土地・店の固定費(賃借料と減価償却)
店の建物は自社所有、土地は賃借が基本で、近年は土地の購入も増えた。賃借料の総額は有価証券報告書で確認できていない。筆者の推定は年 100〜150 億円規模だ。売上が落ちても賃借料と償却は減らず、不況では利益が売上より深く落ちる。新リース会計基準で 2028 年 5 月期から、この約束が貸借対照表に載る。
創業家の持ち株と事業の広がり
筆頭株主は有限会社萬緑で、2021 年 5 月時点で約 4 割を持つ。長期の投資には向くが、少数株主の意向は届きにくい。ホテル併設という本業から離れた事業への土地の振り向けが、資本効率を下げる可能性がある。還元が薄い点も、同業と比べた弱みだ。
食品の比重が高いことの両面
食品が売上の 62.9% を占める。不況に強いが、食品は利益率が低く、価格比較もされやすい。食品の値上がりが一巡すると、売上の伸びが鈍る。備蓄米のような一時的な追い風が薄れた後の姿は、まだ見えていない。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 3% を割り、販管費の伸びが売上の伸びを上回る年が続いたら
- やや悲観・悲観の筋書きに重みを移す。出店の速さより、利益率の悪化が先に値段に響く。
- 関東・中部の新しい店の黒字化が計画より早く進み、新成長圏の利益率が上がったら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。本拠との利益率の差が縮めば、全社の利益率が上がる。
- イオン系連合が郊外の食品で値下げを始め、同社の既存店の客数が前年を下回ったら
- やや悲観の確率を上げる。食品中心の同社が最初に影響を受ける。
- 出店のペースが人手不足で年 100 店を大きく割り込んだら
- 成長の速さが落ちるため、中立と楽観の利益を引き下げる。ただし、資金の負担は軽くなる。
- 設備投資が純利益の 2 倍を超える状態が続き、純負債が自己資本の半分を超えたら
- 財務の余裕が減ったとみて悲観の確率を上げる。金利上昇の影響を見直す。
- 配当性向の引き上げや自社株買いなど、還元の強化を発表したら
- 資本の使い方が株主寄りに動いたと評価し、やや楽観側に重みを移す。
- 2028 年 5 月期に新リース会計基準が適用され、リース負債の額が初めて開示されたら
- 筆者の推定と比べる。大きければ悲観側の利益率と床を下げる。自己資本比率の低下そのものは形の変化で、本質価値は変えない。
見ておくもの
- 毎月の既存店売上高と客数(前年比)
- 営業利益率と販管費率(人件費の伸びと売上の伸びの差)
- 新規出店数と閉店数、期末の店舗数(関東・中部・関西・東北の店の伸び)
- 設備投資額と純有利子負債、利払い
- イオン系連合(ツルハ・ウエルシア)の仕入れ統合の進み具合と食品の価格
- PB の売上比率と粗利率、調剤併設店の数
- 地代家賃とリースの約束の額、2028 年 5 月期に載るリース負債
倍率と資本コストの決め方
倍率は、地域別に店数×1 店あたり売上で積んだ利益と、その時点の ROE から、正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(k 7.0%)を出し、中立は上限の 8 割 5 分に置いた。ROE が k を超える会社なので中立の PER は 1÷k を大きく下回らせていない。今の株価・PER(16 倍)は最後に比べただけで、倍率に寄せていない。地域別の営業利益は開示が無く、全社の営業利益 423 億円を成熟度で配分した推定。純現金ではなく純負債 174 億円で、余った現金は立てない。賃借料は有価証券報告書で確認できておらず、筆者の推定(年 100〜150 億円)で、悲観では固定費として残した。2028 年 5 月期からの新リース会計基準で営業利益は増え、リース負債が載るが、10 年後の数字は今と同じ形(賃借料を営業費用に入れた形)でそろえた。本質価値は形の変化では変わらない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.3→18.32 倍・やや楽観 PER 14.1→17.57 倍・中立 PER 14→16.43 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality −0.5% を足した 7.0%。食品・日用品の必需性で循環を −0.5%、値決め・借金・寿命は普通の 0。事業は黒字が続き存続に疑いは無く、上乗せ(extra)は置かない。人手不足・イオン系との競争・出資の資金負担といった個別のリスクは k に足さず、利益率と確率で表した。