結論
スギホールディングスは、関東・中部・関西に約 2,300 店を構えるドラッグストアだ。売上の約 3 割を調剤が占める。筆者の結論は、ほぼ適正。成長は本物だが、利益が薄く、買収への依存が深いからだ。
2026 年 2 月期の売上は初めて 1 兆円を超えた。営業利益は 486 億円。ただ、純利益 450 億円は実力より大きい。阪神調剤(I&H)の合併で、税金の前払い分を資産に計上した一回きりの押し上げが入っている。会社の今期予想は 328 億円で、こちらが実力に近い。
ここからの伸びは、調剤と買収が支える。既存店の調剤は、1 割を超える伸びが続く。2026 年 9 月には埼玉のセキ薬品が加わる。会社は 2031 年 2 月期に、売上 1.6 兆円と営業利益 880 億円を掲げた。
筆者は、この計画をそのままは信じない。ドラッグストアの利益率は、構造的に薄い。調剤報酬は国が決めるので、伸びには天井がある。買収が続けば、統合のつまずきも出る。中立の見立てでは、10 年後の純利益は約 540 億円。資本コスト 7.0% で今に割り戻すと、本質価値は今の時価総額を 5% ほど下回る。安全域と呼べる差ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うのは「10 年後も強いか」だ。スギは調剤と地域の密度という、崩れにくい足場を持つ。ただ、物販の利益率は薄く、規模ではイオン連合に及ばない。堀は中程度と見る。
次に、株主のものになる利益を見る。店を増やし、買収を続けるには、利益の相当部分を再投資に回す必要がある。今期の純利益は 328 億円の予想で、このうち配当は 2 割弱だ。残りは事業に残り、成長を支える。
経営の資本配分は、これから試される。買収は、価格を払いすぎれば価値を壊す。I&H の統合は順調だが、セキ薬品はこれからだ。
安全域は、今の値段にはない。中立の見立てで、本質価値は今を 5% ほど下回る程度だ。わからない部分が多い買収の成功に、余裕を乗せて払うのは危うい。楽観の筋書きでも、やや楽観にとどまる。10 年後に強くなっているかを見極めたい会社だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 2 つある。店で売る物販と、薬局で出す調剤だ。物販は化粧品・医薬品・日用品・食品で、売上の約 7 割を占める。調剤は約 3 割で、薬を出すたびに国が定めた報酬が入る。
店の置き方に特徴がある。関東・中部・関西の 3 地域に、店を面で集めている。同じ地域に何店も出せば、物流と広告が効率よくなり、調剤の患者も囲い込める。「スギ薬局」の店名で、調剤併設の店を軸に広げてきた。
もう 1 つの特徴は、買収で調剤を厚くしてきたことだ。2024 年に阪神調剤(I&H)を子会社にした。2026 年 2 月期は調剤薬局 72 店を取った。同年 9 月には、埼玉中心のセキ薬品を連結する予定だ。
店数は 2026 年 2 月期末で 2,321 店。この年は 110 店を出し、46 店を閉めた。会社は、スマホのアプリと店を結び、客の来店と購買を管理することにも力を入れる。
創業家系の資産管理会社スギ商事が、株の約 35% を持つ。経営は創業家と近い。大きな買収を素早く決められる一方、少数株主の目からは、資本の使い道を見張る必要がある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、調剤と店の密度にある。調剤は薬剤師と許認可が要るので、新規参入が難しい。同じ地域に店が集まるほど、薬剤師の融通や配送が効く。
既存店の勢いは強い。2026 年 3 月の既存店売上は、ドラッグストアが 3.2% 増、調剤が 12.0% 増だった。調剤の伸びが全体を引っ張っている。買収した I&H の営業利益も、予算の 9 割まで進んだ。
一方で、堀は深くない。営業利益率は 4.8% で、都市型の同業より低い。物販の中心は、どの店でも買える日用品だ。価格で競われると、利益はすぐ削られる。
資本効率は中程度だ。過去 10 年の ROE は 9〜10% 台で、今期の 15% は税効果の一回きりだ。自己資本比率は 47% で、借金は軽い。ただ、会社は買収と出店のために借金を使う方針を示した。
筆者が評価するのは、買収をただの数合わせにせず、統合の進み具合を数字で見せている点だ。ただ、買収を重ねるほど、統合の難しさは増す。この 2 点が、優良さの分かれ目になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ドラッグストアは、まだ伸びている成熟産業だ。2024 年度の市場は約 10 兆円で、初めて 10 兆円を超えた。業界団体は、2030 年度に 13 兆円を目指す。食品の取り扱いが増え、調剤も 1 兆円台後半まで伸びた。
競争の形は、再編で変わっている。イオンがツルハを連結子会社にし、ウエルシアとの統合が進む。この連合は、仕入れと価格で、スギを上回る規模になる。マツキヨココカラとコスモス薬品も、売上 1 兆円を超えた。
スギの立ち位置は、その次の層にある。売上は市場の約 1 割で、都市部の調剤併設型に強い。規模では大連合に劣るが、地域の密度と調剤で戦う。
数量を決めるのは、店の数と客の数だ。店は 2 万 3,000 店を超え、飽和に近い。人口は減るので、既存の店の客数は増えにくい。伸ばせるのは、調剤の処方箋と、買収で増える店だ。
価格は、物販が物価とともに上がる。食品や日用品は、まとめ買いの安さで競われる。調剤は報酬改定の影響を受ける。薬価の引き下げや調剤基本料の見直しは、数年おきに起こる。ここが、業界全体の利益を左右する。
資本政策と M&A
資本の使い方は、買収と出店に重心がある。2026 年 2 月期の設備投資は約 260 億円。今期は約 320 億円の計画だ。買収は I&H、セキ薬品、薬日本堂など、段階的に積み上げている。
還元は控えめだ。配当性向は 2 割弱にとどまり、自社株買いは 2026 年 2 月期にゼロだった。新しい中計では ROE 15% 以上を掲げる。ただ、ROE を上げる手段が、還元の増加か、借金の増加かは明らかでない。
財務の規律も示された。純有利子負債を EBITDA の 3 倍以下、純負債を自己資本の 0.6 倍以下に収める。今は純現金なので、買収の余力は大きい。
再編の主役になるか、対象になるかも論点だ。創業家系が株の約 35% を持つので、同意なしの買収は難しい。一方、イオン連合との規模差が広がれば、提携や再編の話は出うる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
調剤の伸びと、店の密度の組み合わせは強い。調剤は高齢化で処方箋が増え、薬剤師を確保できる大手が患者を集める。既存店の調剤は 12% 増と、勢いが落ちていない。調剤を軸に医療・介護・ウェルネスへ広げる会社の構想も、地域の店網があって初めて成り立つ。
買収も、これまでは成功してきた。I&H は予算の 9 割まで利益が進み、統合の腕を示した。セキ薬品が埼玉の店網に加われば、関東の密度が上がる。買収の失敗が目立った過去もない。
アプリで来店と購買を管理する取り組みは、物販の客単価と来店回数を押し上げる。仕入れも、売上 1 兆円を超えたことで交渉力が増す。営業利益率は、中計の 5.5% に届く。
財務にも余裕がある。純現金で、買収の余力が大きい。ROE 15% の目標に向けて、還元も増える。10 年後の売上は 2 兆円を超え、純利益は 700 億円台になる。調剤とドラッグストアの両方で稼ぐ会社として、評価が上がる。
慎重な見方
伸びの中身は、買収と税効果だ。今期の純利益 450 億円は、一回きりの税金資産の計上で膨らんだ。本業の実力は 330 億円前後にすぎない。会社の今期予想も 328 億円と、減益を見込む。
調剤は国が価格を決める。薬価の引き下げや調剤基本料の見直しが続けば、調剤の利益率は削られる。1 兆円を超えた売上の 3 割がここにあるので、影響は大きい。調剤の伸びは、報酬の裏付けがあってこそだ。
物販は、イオン連合の価格攻勢にさらされる。連合は規模で仕入れが有利で、体力勝負になれば不利だ。営業利益率は 4.8% と薄く、わずかな値引きで利益が消える。
買収を重ねるほど、統合の失敗は増える。のれんの減損や、店舗網の整理が出れば、利益は一気に落ちる。創業家が約 35% を持つため、経営のけん制も効きにくい。ROE 15% の目標は、今期の税効果を除くと遠い。
調剤と物販のどちらか一方でなく、両方が同時に重くなる形が最も怖い。そのとき、買収で膨らんだ借金と家賃の約束が、利益の下ぶれを深くする。
どちらに重みを置いたか
成長の力は、強気の見方に分がある。既存店の調剤が 12% 伸び、I&H の統合も計画どおりに進んだ。一方、利益の薄さと買収頼みという指摘は、慎重な見方がそのまま当たっている。
確率は中立に最も厚く置き、やや楽観とやや悲観をほぼ同じにした。10 年は、調剤報酬の圧縮と大連合との競争を重く見て、やや悲観を厚くした。
その結果、本質価値と今の時価総額の差は小さい。結論は「適正」だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 2,190 円8,149 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 402 円1,498 億円)。 今の値に割り戻すと 1,400 円5,210 億円、今との差 +13.4%、 期待の年率 +7.7%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 3,443 円1.28 兆円 | 557 円2,072 億円 | +224.0% | +12.5% | 360 円1,340 億円 |
| やや楽観 | 23% | 2,929 円1.09 兆円 | 490 円1,822 億円 | +177.0% | +10.7% | 786 円2,927 億円 |
| 中立 | 36% | 2,473 円9,204 億円 | 432 円1,607 億円 | +135.3% | +8.9% | 1,046 円3,892 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,273 円4,736 億円 | 312 円1,160 億円 | +28.3% | +2.5% | 349 円1,297 億円 |
| 悲観 | 10% | 356 円1,325 億円 | 157 円585 億円 | −58.4% | −8.4% | 51 円191 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,190 円8,149 億円 | 402 円1,498 億円 | +110.0% | +7.7% | 2,592 円9,647 億円 |
今の株価時価総額 1,235 円4,595 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:調剤と買収が両立する成長会社 利益 722 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 3,443 円1.28 兆円
調剤が高齢化で伸び続け、買収で関東・中部・関西の店網が厚くなる。10 年後、売上は 2 兆円を超え、営業利益率は 5.7% で中計の水準を保つ。調剤の報酬は引き下げられても、在宅と専門薬局で利益を補う。アプリが来店と購買を管理し、物販の客単価が伸びる。イオン連合には規模で劣るが、地域の密度と調剤で差別化し、「規模ではなく収益性で勝つ第三極」として評価される。純利益は 720 億円ほどで、還元も増える。ROE は 11% 台に乗り、成長と還元を両立する会社になる。買収は、買った店を自社の仕組みに乗せる形で、価値を壊さずに積み上がる。
- ドラッグストア物販:数量 540(年間の来店客数(百万人))× 価格 0.26(客単価(万円))→ 売上 14,294 億円・営業利益 772 億円。営業利益率 5.4%
- 調剤:数量 5,200(処方箋枚数(万枚))× 価格 1.14(1 枚当たり売上(万円))→ 売上 5,932 億円・営業利益 451 億円。営業利益率 7.6%
倍率:事業の純利益 722 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.75 倍、時価総額 12,816 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:調剤と買収の両方がうまく回り、利益率も上がる上振れ。実績で一部は支えられるが、10 年続く保証はないので 9% とした。
やや楽観 23% やや楽観:計画に近い成長 利益 627 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 2,929 円1.09 兆円
調剤の伸びが続き、買収も大きな失敗なく進む。売上は 1.9 兆円に達し、営業利益率は 5.3% になる。調剤報酬は緩やかに引き下げられるが、在宅や専門薬局の収益で補う。物販はアプリと食品の強化で客単価が伸びる。イオン連合との競争は続くが、価格競争に巻き込まれない領域で稼ぐ。純利益は 630 億円ほどで、還元も少し増える。中計の 1.6 兆円は、数年遅れで達成される。ROE は 10% 台で、目標の 15% には届かないが、資本効率は今より上がる。調剤の処方箋は、高齢化で増え続け、在宅の患者も取り込める。買収した店の利益も、統合の効果で育つ。
- ドラッグストア物販:数量 510(年間の来店客数(百万人))× 価格 0.26(客単価(万円))→ 売上 13,398 億円・営業利益 670 億円。営業利益率 5.0%
- 調剤:数量 4,900(処方箋枚数(万枚))× 価格 1.12(1 枚当たり売上(万円))→ 売上 5,500 億円・営業利益 396 億円。営業利益率 7.2%
倍率:事業の純利益 627 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.26 倍、時価総額 10,822 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の筋書きの手前で、調剤と買収が概ね計画どおりに進む姿。10 年は報酬改定の影響を考えて 23% とした。
中立 36% 中立:驚きの少ない堅実な 10 年 利益 540 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 2,473 円9,204 億円
10 年後、店数は増えても客数は人口の減少で伸びない。伸びるのは調剤と、買収で積んだ店だ。売上は 1.76 兆円で、会社の 2031 年 2 月期の目標(1.6 兆円)をやや上回る水準に達する。営業利益率は 4.9% で、中計の 5.5% には届かない。調剤報酬の引き下げと、イオン連合との競争が、利益率の上昇を抑える。純利益は 540 億円ほどで、ROE は 9% 台になる。自己資本が積み上がり、ROE は目標の 15% には届かない。堅実だが、驚きの少ない 10 年になる。市場の約 1 割というシェアは、おおむね保たれる。
- ドラッグストア物販:数量 480(年間の来店客数(百万人))× 価格 0.26(客単価(万円))→ 売上 12,518 億円・営業利益 576 億円。営業利益率 4.6%
- 調剤:数量 4,600(処方箋枚数(万枚))× 価格 1.10(1 枚当たり売上(万円))→ 売上 5,078 億円・営業利益 345 億円。営業利益率 6.8%
倍率:事業の純利益 540 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.72 倍、時価総額 9,029 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:調剤の伸びと買収の効果が、報酬の圧縮と競争で一部削られる中心の筋書き。
やや悲観 22% やや悲観:報酬の圧縮と競争で薄利に 利益 384 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 1,273 円4,736 億円
調剤報酬が繰り返し引き下げられ、調剤の利益率は 6% 割れまで下がる。イオン連合の価格攻勢で、物販の利益率も 4% を割る。買収した店の統合に時間がかかり、のれんの減損も出る。売上は 1.58 兆円にとどまり、営業利益率は 4.0% に下がる。純利益は 380 億円ほどで、今期の会社予想から大きく伸びない。出店は絞られ、還元も増えない。事業は続くが、優良な成長会社とは評価されなくなる。中計の目標とは、大きく離れた 10 年になる。薬剤師の確保も費用がかさみ、調剤の拡大はゆっくりになる。ただし赤字には落ちず、調剤の安定した収益が下を支える。店の数も、整理しながら保たれる。
- ドラッグストア物販:数量 450(年間の来店客数(百万人))× 価格 0.25(客単価(万円))→ 売上 11,385 億円・営業利益 433 億円。営業利益率 3.8%
- 調剤:数量 4,300(処方箋枚数(万枚))× 価格 1.03(1 枚当たり売上(万円))→ 売上 4,431 億円・営業利益 257 億円。営業利益率 5.8%
倍率:ROE 7.3%(純利益 384 億円 ÷ 自己資本 5,261 億円)。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 7.0% + 残る割合 1/2 ×(7.3 − 7.0)= 7.1%、長期の成長率 g 3.5% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 14.6 倍。報酬の圧縮と競争で利益の質が落ち、新しい投資が価値を生みにくいので、やや悲観は上限の 8 割 の 11.7 倍に置いた。
確率:調剤報酬の圧縮と大連合との競争が同時に来る下振れ。薄利の会社が 10 年続けて圧縮と競争を受ける姿として、やや厚めの 22% とした。
悲観 10% 悲観:構造的に優良でなくなる 利益 141 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 356 円1,325 億円
構造的に負ける筋書きだ。店が過剰になり、イオン連合との価格競争で物販の利益が消える。調剤報酬は繰り返し引き下げられ、調剤の利益も細る。買収で積んだのれんを大きく減損し、統合に失敗した店を閉める。売上は 1.34 兆円で止まり、営業利益率は 1.9% まで下がる。純利益は 140 億円ほどにとどまる。還元は大きく減り、再編の対象として見られる。事業は続くが、もう優良とは呼ばれない。創業家が株を持つので、すぐに買収されることはないが、提携や再編の話が出る立場になる。人手不足の賃金上昇が、薄い利益をさらに削る。
- ドラッグストア物販:数量 410(年間の来店客数(百万人))× 価格 0.24(客単価(万円))→ 売上 9,893 億円・営業利益 198 億円。営業利益率 2.0%
- 調剤:数量 3,800(処方箋枚数(万枚))× 価格 0.92(1 枚当たり売上(万円))→ 売上 3,496 億円・営業利益 119 億円。営業利益率 3.4%
倍率:ROE 3.3%(純利益 141 億円 ÷ 自己資本 4272 億円)の谷の利益。構造的に優良さを失う筋書きで、やや悲観の PER 11.7 倍より低い 9.4 倍(その 8 割)に置いた。売って得る資産の床は、家賃の約束・借入・減損を引くと小さいので別に立てない(従来の判断のまま)。
確率:出店の飽和と買収の失敗、報酬の圧縮が重なり、構造的に優良でなくなる筋書き。薄利で買収が多い会社なので 10% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ドラッグストア物販
医薬品・化粧品・日用品・食品を、関東・中部・関西の店とネットで売る事業。
| 数量年間の来店客数(百万人) | 価格客単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 365 | 0.19 | 7,103 | 298 |
| 10 年後 中立 | 480 | 0.26 | 12,518 | 576 |
取り方:物販は客数の開示が無いため推定。全社売上 10,103 億円から調剤約 3,000 億円(報道の見出しの比率 3 割)を除いた物販約 7,100 億円を、客単価約 0.195 万円で割り、来店客数約 3.65 億人と置いた。営業利益は物販 4.2% と置いた推定。客数は人口の減少で実質は横ばいだが、出店と買収で増える。客単価は物価で上がる(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)。
調剤
調剤併設店と調剤薬局で、処方箋に基づく薬を出す事業。価格は国が決める調剤報酬と薬剤費。
| 数量処方箋枚数(万枚) | 価格1 枚当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3,260 | 0.92 | 2,999 | 210 |
| 10 年後 中立 | 4,600 | 1.10 | 5,078 | 345 |
取り方:調剤売上は約 3,000 億円(報道の見出し、売上の 3 割)。1 枚当たり売上は薬剤費と技術料の合計で約 0.92 万円と置き、処方箋枚数を約 3,260 万枚と推定した。営業利益率 7% は推定。調剤報酬は国が決め、物価ほど上がらないので、価格は 3 年 1.05 倍・10 年 1.20 倍と物価より低く置く。
リスクと懸念
調剤報酬の引き下げ
調剤は売上の約 3 割で、価格は国が決める。薬価や調剤基本料の見直しは数年おきにあり、引き下げが続けば調剤の利益率は削られる。物販より儲かる部分なので、全体の利益への影響が大きい。薬剤師の確保にも費用がかかる。
買収の統合の失敗
I&H は順調だが、セキ薬品などの買収は続く。買う値段が高すぎたり、店の統合が遅れたりすれば、のれんの減損や費用が出る。買収が増えるほど、現場の統合の難しさは上がる。会社は買収の数を増やす方針なので、この危うさは年々大きくなる。
イオン連合との価格競争
ツルハとウエルシアの統合で、規模で上回る連合ができる。仕入れが有利になり、価格攻勢が強まる恐れがある。スギの営業利益率は 4.8% と薄く、値引きの影響を受けやすい。商圏が重なる関東と中部で、特に影響が出やすい。
利益の実力の見誤り
今期の純利益 450 億円は、税金資産の計上という一回きりの押し上げを含む。実力は会社予想の 328 億円に近い。見かけの高い ROE(15%)を基準にすると、価値を高く見誤る。過去の平均の ROE は 9〜10% 台だ。
人手不足と費用の上昇
薬剤師と店員の確保は難しく、賃金の上昇は避けられない。調剤は薬剤師が足りないと拡大できない。物流や建築のコストも上がっており、新しい店の採算を押し下げる。人件費は物価で上がるが、調剤の報酬は物価ほど上がらない。
店舗の家賃という固定の約束
店の多くは借りたもので、家賃は売上が落ちても減らない。有報の数字は確認できなかったが、売上の 4〜5% と推定する。不況では利益が売上より深く落ちる。2028 年 2 月期からはリース負債として貸借対照表に載り、自己資本比率は下がる。
今後の分かれ目
- 調剤報酬の改定で、調剤基本料や薬剤料が大きく引き下げられたら
- 調剤の利益率を下げ、やや悲観側の筋書きに重みを移す。
- セキ薬品の統合が計画どおり進み、営業利益が早期に積み上がったら
- 買収の成功を確認できるので、やや楽観側に重みを移す。
- イオン連合が、スギの商圏で大きな値下げを始めたら
- 物販の利益率を下げ、やや悲観側に重みを移す。
- 自社株買いや増配で、ROE 15% の目標に向けた還元が実際に始まったら
- 資本の使い方の評価を上げ、ROE の見通しを引き上げる。
- 買収のために借金が増え、純有利子負債が EBITDA の 3 倍に近づいたら
- 財務の余裕が薄れるので、悲観側の確率を厚くする。
- 不況で既存店の客数が大きく落ちたら
- 家賃の固定費が利益を削るので、悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 既存店売上高と調剤の伸び(月次)
- 調剤基本料・薬価の改定の動き
- セキ薬品の連結後の営業利益と統合の進み具合
- イオン連合(ツルハ・ウエルシア)の価格戦略
- 純有利子負債÷EBITDA(3 倍以下の規律)と株主還元
- 地代家賃の年額と、2028 年 2 月期に載るリース負債の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は、数量×価格で積んだ利益とその時の ROE から、正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(k 7.0%)を出し、中立は上限の 8 割 5 分に置いた(ROE が k を上回る幅が小さく、1÷k を大きく割らせない)。今の株価と PER は最後に比べただけで、筋書きに寄せていない。悲観は市場の倍率でなく、その筋書きの稼ぐ力(純利益 141 億円÷k)で置いた。一回きりの税効果は除いて利益を置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.1→17.75 倍・やや楽観 PER 14.2→17.26 倍・中立 PER 13.9→16.72 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality −0.5% を足した 7.0%。必需性で循環を −0.5%、値決め・借金・寿命は普通の 0。事業は黒字で存続に疑いは無く、上乗せ(extra)は置かない。買収の統合や調剤報酬の改定といった個別のリスクは k に足さず、利益率と確率で表した。