結論
TORICOは、漫画の全巻セットを販売する「漫画全巻ドットコム」と、人気作品の展示・物販イベントを営む会社である。結論は「割高」だ。イベント事業の伸びは評価できるが、長期保有する株主にとっては、紙の漫画市場の縮小、暗号資産への大きな投資、将来の株式希薄化が重い。確率を加味した現在の本質価値は約9.1億円で、基準時価総額の約19.8億円を約54%下回る。
事業の変化は大きい。2026年3月期は売上高31.9億円に対して営業損失が約0.7億円だった。営業赤字は3期続いている。一方、イベントは増収を維持し、販管費削減によって営業損益は前期から改善した。既存事業が完全に立ち直ったとまでは言えないが、赤字の縮小は事実である。
もう一つの柱はイーサリアムの保有・運用だ。2026年3月末に約2,475ETHを保有し、10月23日公表の保有量は約3,129ETH、時価は約11.7億円に達した。漫画の販売会社でありながら、企業価値の相当部分が暗号資産の市場価格と運用成績で決まる構造になっている。保有資産そのものの価値は無視できないが、それを収益力と二重に数えるべきでもない。
筆者が特に慎重になるのは、資産を買い増すために株式を発行する仕組みである。会社全体のETHが増えても、既存株主が受け取るETHの割合まで増えるとは限らない。中立の10年後にはイベントの拡大と本業の黒字化を見込む。それでも既存株主の取り分と時間価値を考慮すると、現在の値段には十分な安全域が見えない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主なら、まず漫画の全巻セットを買う行動が10年後にも残るかを考えるだろう。熱心な読者が好きな作品を紙で所有する需要は消えない。しかし、その需要をTORICOだけが独占できる理由は弱い。商品の価格を自由に決められず、顧客は大手ECや電子書籍へ簡単に移る。購入経験者の多さは資産だが、値上げしても離れない顧客の多さとは違う。
イベント事業の方には、もう少し魅力がある。作品の世界観を現実の場所で体験し、限定商品を買う需要は、電子コミックへの移行と必ずしも競合しない。開催回数を増やしても権利元との関係を保ち、十分な営業利益を残せるなら、再投資に意味がある。ただし、売れる作品を選ぶ力は、その年の流行に左右される。長く続く独占的な権利や高い継続購入率が確認できなければ、強い堀とは判定しにくい。
もっとも難しいのはETHの扱いだ。暗号資産は時価のある資産なので、利益を生まないからといって価値をゼロにはできない。一方、保有しているだけで継続的な超過利益を生むとも考えない。ステーキングによる利回りは運用コストと税金を差し引き、元本の時価は別に評価すべきである。株式を発行してETHを増やした場合、取得した資産と新株主に渡した持分を同時に見る必要がある。
結果として、現段階では将来のオーナー利益を高い確度で予測できない。事業の一部には成長の芽があるが、経営資源の使い道が漫画事業から暗号資産運用へ大きく変わったことで、長期の収益の見通しはむしろ難しくなった。十分な安全域を要求する会社である。
何で稼ぐ会社か
法定の報告セグメントは「マンガ事業」と「暗号資産事業」の二つである。マンガ事業の中心は、漫画をまとめて購入したい読者向けのECだ。出版社や取次から仕入れた作品を、自社サイトと楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングなどで販売する。全巻セットの品ぞろえ、古い作品の発見しやすさ、限定特典が差別化の材料になる。
2026年3月期の監査済み売上内訳では、EC物販が約21.48億円、電子販売が約1.11億円、電子アプリが約0.25億円だった。これらを合わせたEC関連売上は約22.83億円になる。2025年3月時点の漫画全巻ドットコムには購入経験のある会員が約52.9万人おり、同月の平均購入単価は8,966円だった。ただし、この単価は自社サイトの特定月の実績であり、2026年3月期の全販路の平均単価ではない。
次の柱がイベントだ。作品と権利元の許諾を得て、展示会、期間限定店舗、限定商品などを企画する。監査済みのイベント売上は2026年3月期に約8.23億円だった。会社の説明資料では、国内イベントと海外・新規事業を分けて成長を説明しているが、有報の売上区分とは集計範囲が一致しない。海外展開は有望でも、海外売上を監査済みのイベント売上にもう一度足すことはできない。
暗号資産事業では、保有ETHのステーキング、運用、関連調査やコンサルティングを行う。2026年3月期の暗号資産事業売上は約0.016億円と小さいが、期末に保有したETHの評価額は約8.26億円あった。つまり、当面は営業売上よりも保有元本の価格変動が財務への影響を左右する。2027年3月期第1四半期にもETH評価損が大きく発生しており、漫画事業の営業改善と最終損益の改善は一致していない。
優良さと弱いところ
会社の強みは、漫画の全巻購入という目的を絞った専門性と、作品の権利元との取引関係にある。人気作品の限定特典やイベントを組み合わせれば、単なる書籍販売よりも顧客との接点を増やせる。イベントでは企画力と権利元との信頼関係が一定の参入障壁になる。ただし、作品そのものの著作権を広く保有しているわけではなく、人気コンテンツを使える条件は権利元の判断に左右される。
ECの堀は広いとは言えない。読者はAmazon、楽天ブックス、電子書籍サービス、書店などに簡単に移れる。書籍の価格も出版社が決める部分が大きく、独自の値上げ力には乏しい。2026年3月期の販売先別売上では楽天経由が約25%、Amazon経由が約11%、LINEヤフー経由が約9%を占める。顧客との接点の相当部分を大手プラットフォームに依存している。
資本効率にも継続的な強さは確認できない。2021年3月期と2022年3月期には利益を出したが、2024年3月期から3期連続で営業赤字になった。2026年3月期の赤字縮小は経営努力として評価する一方、持続的に資本コストを上回る増分投資収益率の証拠にはまだならない。会員数の増加だけでは、購入頻度や利益率の改善を証明できない。
ETHを保有してステーキングする行為自体にも、独占的な堀はない。大手投資家や他社も同様の資産を取得できる。運用の仕組みを高度化するほど、利回り改善の可能性と同時に保管、流動性、取引相手のリスクも増える。現在の資本効率を判断するときは、株式発行で増えた資産と、事業が内部で生み出した利益を分ける必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
漫画市場全体は成長市場とは言い切れない。出版科学研究所によれば、2025年の国内コミック推定販売額は約6,925億円で前年比1.7%減だった。電子コミックは約5,273億円と増えたが、紙のコミックスとコミック誌は合わせて約1,652億円に縮小した。TORICOの主力商品に近い紙のコミックス単行本だけを見ると、約1,260億円で前年比14.4%減である。
TORICOの2026年3月期のEC物販売上約21.48億円を紙コミックス市場約1,260億円と比べると、比率は約1.7%になる。ただし、会社の物販売上と業界統計は対象商品や集計方法が異なり、これは市場に対する規模感の参考値であって、厳密なシェアではない。Amazon、楽天ブックス、一般書店、電子書籍のLINEマンガやebookjapan、BookLiveなどが競合する。10年後には、紙を大量に所有したい熱心な読者は残っても、一般読者のデジタル移行は続くと考える。
イベントとキャラクター商品の需要は別の動きをしている。矢野経済研究所は2025年度の国内キャラクタービジネス市場を約2兆8,767億円と推計している。この数字には商品化権や幅広い商品が含まれ、TORICOの漫画ポップアップイベント市場そのものではない。実際の競争相手はアニメイト、ムービック、出版社・権利元の直販、商業施設の催事企画会社などであり、狭い市場の企業別シェアを比較できる公表値は見つからない。
イベントの成長余地は、国内の新規開催だけでなく、海外の日本作品ファンとの接点にある。ただし、権利料、会場費、物流費、人件費が物価とともに上がるため、売上が増えただけで利益率も上がるわけではない。今後10年は数量として開催回数を増やせるかが重要になる。価格については、物価上昇のすべてを顧客へ転嫁できるとは想定しない。
暗号資産業界では、ETHの保有とステーキングは世界中の投資家に開かれている。TORICOの約3,129ETHは自社の規模に対して大きいが、世界市場ではごく小さく、保有量による価格決定力はない。保有資産を増やす競争で強いのは、低い資本コストで資金を集められる企業だ。TORICOは暗号資産価格だけでなく、資金調達条件でも競争することになる。
資本政策と M&A
経営陣は過去2年間、売上規模の拡大よりも利益を残す構造改革を優先してきた。採算の悪いサービスや店舗を整理し、2026年3月期には販管費を前期より約2.7億円減らした。イベントの増収とともに営業赤字が縮小した点は評価できる。しかし、撤退後も3期連続の赤字であり、2027年3月期の会社予想も売上高29.1億円、営業利益ゼロである。
資本政策は慎重に見る必要がある。2025年3月期と2026年3月期には株式数が大きく増え、2026年9月末時点では第11回新株予約権の未行使分として約831万株が残っていた。行使によって会社へ現金が入ることは価値の増加要因だが、同時に既存株主の持分が薄まる。ETH保有量だけでなく、既存株式数を分母とする保有量の変化を見るべきだ。
会社はETH保有量を約6,000枚へ増やし、運用利回りを5~10%に引き上げる目標を説明している。一方、2026年10月23日基準のダッシュボードに示された直近6か月のステーキング実績利回りは約1.95%だった。ヘッジファンドへの出資も進めているが、そこで示された目標利回りは確定した株主利益ではない。
会社には継続的な配当や自社株買いの実績が乏しい。創業20周年のQUOカード優待は単発の施策と見なし、将来も毎年続く還元とは扱わない。売上・営業利益以外の中期的なROE、配当性向、DOE、総還元性向、自社株買い額について、確認できた開示には数値の約束がない。大型M&AやTOBを前提とした上乗せもしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
構造改革の効果は始まったばかりである。2026年3月期には売上が減っても営業損失が大きく縮小した。高収益が期待できるイベントへ人員と資金を集中し、採算の合わないサービスを整理する方針は筋が通っている。漫画全巻ドットコムには長年の顧客基盤があり、紙の漫画市場が縮小しても、専門サイトとして残る需要を取り込める。限定特典の企画や作品ごとの販売促進は、単純な価格競争を避ける材料になる。
イベントは国内だけに限られない。日本の漫画やアニメのファンが海外で増える中、アジアの都市で催事を定期開催できれば、同じ作品の魅力を複数の地域で収益化できる。企画、物流、権利交渉を標準化できれば、開催回数が増えても費用が同じ割合では増えず、利益率も改善する。権利元との関係は外部に見えにくく、実際の企画実績を積んだ会社が次の企画を任されやすいという利点もある。
ETH投資も、常に悪い資本配分とは限らない。保有する資産の時価が上がり、ステーキングや外部運用から安定した収入が入れば、従来の漫画事業だけでは得られなかった資金余力が生まれる。会社が掲げる保有目標を達成し、実際の運用利回りが上昇すれば、保有資産と収益事業を併せ持つ形ができる。株式発行による資金調達が、既存株主にとって十分有利な条件で実施される可能性もある。
10年の上振れでは、ECが残る需要を守り、イベントが国内外で大きく成長する。同時にETH価格の上昇と運用収益の改善が重なる。この組み合わせなら、現在の時価総額を大きく超える企業価値は十分に考えられる。問題は可能性の有無ではなく、三つの成功が同時に続く確率である。
慎重な見方
紙の漫画販売は、短期的な不況ではなく構造的な縮小市場にいる。2025年に紙のコミックス単行本市場は大幅に減り、電子コミックの伸びも鈍くなった。TORICOのECにはニッチなブランドがあるが、出版社の商品を仕入れて売る以上、価格や供給を自分で支配できない。ECモールへの依存も高く、配送費、広告費、販売手数料の上昇を十分に顧客へ転嫁できる保証はない。売上を維持するための販促を再び強めれば、構造改革で削った費用が戻ってしまう。
イベントにも限界がある。人気作品の権利を持つのはTORICOではなく権利元だ。成功した企画ほど出版社や大手のイベント会社が直接扱う誘因が強くなる。アニメイトや出版社系企業との競争で、会場費、商品原価、権利料が上がれば、開催回数が増えても利益率は下がる。海外展開には現地の人材、税制、物流、在庫処分という新しい難しさも加わる。
最大の不安は暗号資産事業である。ETHの価格は経営努力では決められない。2026年3月期の最終赤字にはETH評価損が大きく影響し、翌年度の第1四半期にも同じ問題が起きた。運用利回りを高めようとしてヘッジファンドや分散型金融へ資金を移せば、取引相手、保管、資産回収のリスクが増す。外部ファンドにETHを預けても会社全体の元本が増えたことにはならない。
さらに、資金調達による株式の希薄化がある。新株予約権の行使でETH保有量が増えても、1株当たりの持分は減りうる。株価が低い局面で追加発行を繰り返せば、既存株主は資産価格が回復しても十分な利益を受け取れない。3期連続赤字で還元の数値目標もない以上、現金や暗号資産を保有しているだけでは、少数株主の安全域にならない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方を優勢とする。イベント事業には実際の増収と費用削減の成果があるため、上振れの可能性は無視しない。しかし、紙の漫画市場の縮小、3期連続赤字、ETH価格への依存、未行使新株予約権という会社固有の材料が重い。確率は楽観とやや楽観の合計28%に対し、やや悲観と悲観の合計を44%とした。下に寄せる理由は、事業が立ち直っても保有資産の価格下落や株式の希薄化が既存株主の価値を減らしうるためである。AIエージェント代替は受託業務に適用するが、全社評価を下げる主因として重ねてはいない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 135 円22 億円(+ 還元の換算額還元の合計 2 円0 億円)。 今の値に割り戻すと 56 円9 億円、今との差 −53.1%、 期待の年率 +1.3%(資本コスト 9.4%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 517 円83 億円 | 10 円2 億円 | +339.0% | +16.2% | 53 円8 億円 |
| やや楽観 | 18% | 255 円41 億円 | 4 円1 億円 | +115.2% | +8.0% | 46 円7 億円 |
| 中立 | 28% | 81 円13 億円 | 1 円0 億円 | −31.4% | −3.7% | 23 円4 億円 |
| やや悲観 | 28% | 36 円6 億円 | 0 円0 億円 | −70.1% | −11.4% | 10 円2 億円 |
| 悲観 | 16% | 30 円5 億円 | 0 円0 億円 | −75.0% | −12.9% | 5 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 135 円22 億円 | 2 円0 億円 | +14.2% | +1.3% | 137 円22 億円 |
今の株価時価総額 120 円19 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 海外イベントが大きく育ち、ETH運用も成功 利益 8 億円 · PER 11.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 517 円83 億円
漫画全巻ドットコムは、紙を所有したい読者への専門性を保ち、限定特典や絶版に近い作品の品ぞろえで大手ECとの違いを明確にする。市場全体の紙の販売数量は減っても、固定客との関係を維持することで大幅なシェア喪失を避ける。価格には物価上昇に加えて付加価値の改善が反映され、ECは高い採算を取り戻す。
イベントは台湾や東南アジアなどで定期開催の体制を築く。企画の再利用、現地企業との提携、権利元との信頼の積み上げによって年間開催回数が大きく増える。開催を増やしても本社費が同じ速さでは膨らまず、イベントの高い利益率が全社を支える。関連商品も海外ファンへの販売が伸びる。
ETHは約7,000枚まで積み上がり、長期の市場価格が大きく上昇する。運用実績も会社が掲げてきた高い目標の下限に近づき、価格変動による一時的な評価損益を除いても利益の柱となる。ただし、追加取得の一部は新株予約権や増資で賄う。既存株主の持分は減るが、成長した本業と資産価値の増加がそれを大きく上回る。国内外で企画力が認められ、買収される可能性はあっても、その価格を価値に上乗せはしない。
- 漫画EC・電子販売:数量 22.0(年間注文相当件数(万件、推計))× 価格 1.45(注文相当1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 32 億円・営業利益 3 億円。注文相当22万件、平均14,500円。専門性と限定特典が価格を支え、営業利益率9%。
- 漫画・アニメ関連イベント:数量 220(年間催事・企画換算回数(回、推計))× 価格 0.15(催事・企画換算1回当たり売上(億円、名目))→ 売上 32 億円・営業利益 10 億円。国内外で企画換算220回、1回1,450万円。標準化と海外規模拡大で利益率32%。
- 漫画関連のその他商品・付帯サービス:数量 6.0(関連商品・付帯取引件数(万件、推計))× 価格 0.85(関連商品・付帯取引1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 1 億円。関連商品6万件、平均8,500円。海外との連携商品が伸長。
- 受託開発・調査・コンサルティング等:数量 20.0(年間請求可能な人月(人月、仮推計))× 価格 0.01(人月当たり売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。AI代替下でも工数売上は現状規模まで。AI商品を自社販売しているとの未確認の成長は加えない。
- ETH保有・ステーキング等の暗号資産運用:数量 7,000(運用対象ETH保有量(ETH))× 価格 0.00(ETH1枚当たり年間運用売上(億円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。ETH時価80万円、運用総利回り5%相当。元本時価56億円は余剰資産として別建て。
倍率:資本コストk=9.25%、g_long=1%、弱い堀の残存割合1/3。余剰金融資産56.5億円の税後想定利息0.791億円を除く事業純利益7.409億円、事業自己資本10.5億円から事業ROE約70.6%、RONIC約29.7%。正当化PER=(1−0.01/RONIC)/(0.0925−0.01)=約11.71倍。時価総額=(8.2−56.5×0.014)×11.7129+56.5×0.75=約129.16億円。
確率:海外での大型企画の連続成功、ECの踏みとどまり、ETH価格の上昇、運用利回り改善、比較的有利な増資という条件が重なる必要がある。個々は可能でも同時成立の確率は高くない。
やや楽観 18% イベントが成長軌道に乗り、暗号資産にも追い風 利益 3 億円 · PER 11.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 255 円41 億円
紙の漫画市場は縮小するが、全巻セットという商品には一定の固定需要が残る。TORICOは広告費と物流費を抑え、採算の悪い注文を無理に追わなくなる。購入件数は今より減るものの、物価に応じた単価の上昇と限定商品によって売上の大幅な減少は避けられる。大手ECとの競争は続くが、専門サイトの居場所は保てる。
イベントは海外開催を含めて増え、会社の中心的な利益源になる。人気作品の当たり外れはあるものの、複数の作品と地域に企画を広げることで、一つの作品が不振でも事業全体への影響を小さくできる。大規模な買収を前提にせず、権利元との契約と現地提携の積み重ねによって成長する。
ETH保有量は会社の目標に近い約6,000枚になる。市場価格は現在より上昇し、ステーキングなどの運用も一定の改善を示す。ただし、高い利回りが無条件で続くとは考えない。資産を取得するための増資により既存株主の持分は薄まるが、本業の黒字化と金融資産の積み上がりが、会社全体の利益と純資産を増やす。継続配当は限定的で、成長への再投資が優先される。
- 漫画EC・電子販売:数量 21.0(年間注文相当件数(万件、推計))× 価格 1.30(注文相当1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 27 億円・営業利益 2 億円。注文相当21万件、平均13,000円。採算優先のEC運営が定着。
- 漫画・アニメ関連イベント:数量 160(年間催事・企画換算回数(回、推計))× 価格 0.13(催事・企画換算1回当たり売上(億円、名目))→ 売上 20 億円・営業利益 6 億円。催事換算160回、1回1,250万円。海外開催の拡大と販管費効率化。
- 漫画関連のその他商品・付帯サービス:数量 4.5(関連商品・付帯取引件数(万件、推計))× 価格 0.70(関連商品・付帯取引1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。関連商品4.5万件、平均7,000円。
- 受託開発・調査・コンサルティング等:数量 16.0(年間請求可能な人月(人月、仮推計))× 価格 0.01(人月当たり売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。AI代替により人月は20から16に減少。単価上昇も限定的。
- ETH保有・ステーキング等の暗号資産運用:数量 6,000(運用対象ETH保有量(ETH))× 価格 0.00(ETH1枚当たり年間運用売上(億円、名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。ETH時価55万円、運用総利回り4.5%相当。元本時価33億円は別建て。
倍率:資本コスト9.25%、長期g1%、堀が弱いため残存割合1/3。余剰金融資産34億円の税後利息0.476億円を除く事業純利益は2.824億円。事業自己資本6億円でROE約47.1%、RONIC約21.9%、正当化PER約11.57倍。時価総額=(3.3−34×0.014)×11.5666+34×0.75=約58.16億円。
確率:イベントの成長は既に実績があり、その延長で利益改善が進む可能性はある。しかし海外拡大とETH運用の双方で持続的な成功を要するため、中立より低い確率とする。
中立 28% イベントは伸びるが、EC縮小と希薄化が重い 利益 0 億円 · PER 10.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 81 円13 億円
漫画ECは全巻セットを買う固定客によって生き残るが、紙の市場そのものの縮小は避けられない。購入相当件数は約25万件から約18万件に減る。価格は10年間の物価上昇をおおむね反映するものの、楽天やAmazonとの競争でそれ以上の値上げは難しい。ECの売上は少し縮み、利益率は低いまま安定する。
イベントは国内の企画数が増え、海外での開催も定着する。年間の催事換算回数は増えるが、権利料、会場費、現地物流費も上がる。人気作品を連続して独占的に扱えるとは考えず、イベントの利益が本社費を補う形になる。漫画事業全体は赤字から脱するが、資本コストを十分に上回る利益率には達しない。
ETHは約5,000枚まで積み上がる。保有する金融資産には相応の市場価値が残るが、運用利回りは現在の実績から少し改善する程度にとどまる。暗号資産の時価評価益が永続的に発生するという期待は持たない。追加資金調達で既存株主の持分は減り、会社全体の資産増加がそのまま既存株主の利益になるわけではない。2036年の最終利益は小幅な黒字となるが、高い成長率を永久に維持する会社にはならない。
- 漫画EC・電子販売:数量 17.5(年間注文相当件数(万件、推計))× 価格 1.20(注文相当1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 21 億円・営業利益 1 億円。注文相当17.5万件。今の25.47万件から数量約31%減、平均単価は物価3%の10年分にほぼ沿う。
- 漫画・アニメ関連イベント:数量 125(年間催事・企画換算回数(回、推計))× 価格 0.10(催事・企画換算1回当たり売上(億円、名目))→ 売上 13 億円・営業利益 3 億円。企画換算125回、1回1,000万円。権利料競争で単価は一般物価ほど上がらない。
- 漫画関連のその他商品・付帯サービス:数量 2.5(関連商品・付帯取引件数(万件、推計))× 価格 0.53(関連商品・付帯取引1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。関連商品2.5万件、平均5,300円。
- 受託開発・調査・コンサルティング等:数量 13.0(年間請求可能な人月(人月、仮推計))× 価格 0.01(人月当たり売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替の人月型。請求可能人月は20から13へ0.65倍、単価は約1.17倍、2036年以降の名目成長は0%。
- ETH保有・ステーキング等の暗号資産運用:数量 5,000(運用対象ETH保有量(ETH))× 価格 0.00(ETH1枚当たり年間運用売上(億円、名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。ETH時価40万円、運用総利回り2.5%相当。元本時価20億円と可処分現金1億円を別建て。
倍率:資本コスト9.25%、長期成長率1%。余剰金融資産21億円の税後利息0.294億円を除く事業純利益は0.126億円。余剰資産を除いた事業自己資本6億円に対するROEは約2.1%でkに届かないため、正当化PERの上限は1/k=10.8108倍。時価総額=(0.42−21×0.014)×10.8108+21×0.75=約17.11億円。ETHの値上がりを利益倍率に重ねない。
確率:イベントの増収、販管費削減、紙の漫画市場の縮小、会社のETH保有方針を合わせた中心的な筋書きである。2027年3月期の営業損益ゼロという会社計画から急激な成長を仮定せず、2036年にようやく低収益ながら黒字を残す。
やや悲観 28% 紙の販売減少が続き、ETHの価値も下がる 利益 −3 億円 · PBR 0.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 36 円6 億円
紙の漫画をまとめ買いする読者の減少が続く。TORICOは品ぞろえを維持するため在庫と物流の費用を負担するが、大手ECの販促に対抗できず販売件数は大幅に減る。価格は少し上がっても数量の減少を補えない。自社サイトとモールの運営費が重くなり、ECは赤字となる。
イベントは事業として残るものの、年間企画数は十分に増えない。人気作品をめぐる競争が激しくなり、権利元の取り分と会場費が上昇する。海外では現地企業との競争に直面し、一度始めた拠点や倉庫の固定費が利益を圧迫する。売上が減る局面でも賃料や人件費はすぐには減らないため、全社の赤字が再び拡大する。
ETHの市場価格は現在より低く、会社は運用益を得ても元本の下落を補えない。暗号資産の外部運用でも十分な超過収益を実現できず、保有量の増加が株主価値の増加につながらない。追加発行の規模は強気の筋書きほど大きくないが、既存株主の持分はなお薄まる。会社には現金化可能な資産が残るものの、赤字事業を続ける間にその一部を消費する。評価の中心は利益成長ではなく、負債と閉鎖費用を差し引いた売却可能資産になる。
- 漫画EC・電子販売:数量 12.0(年間注文相当件数(万件、推計))× 価格 1.03(注文相当1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円。購入件数が半減近くとなり、価格転嫁も不十分。物流の固定費が残る。
- 漫画・アニメ関連イベント:数量 90.0(年間催事・企画換算回数(回、推計))× 価格 0.09(催事・企画換算1回当たり売上(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。開催回数は現状程度、物価上昇に見合う単価改善ができない。
- 漫画関連のその他商品・付帯サービス:数量 1.7(関連商品・付帯取引件数(万件、推計))× 価格 0.46(関連商品・付帯取引1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。関連商品の取引件数が伸びず利益は小さい。
- 受託開発・調査・コンサルティング等:数量 8.0(年間請求可能な人月(人月、仮推計))× 価格 0.01(人月当たり売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。AI代替で人月20から8へ縮小。残る固定費で赤字。
- ETH保有・ステーキング等の暗号資産運用:数量 3,500(運用対象ETH保有量(ETH))× 価格 0.00(ETH1枚当たり年間運用売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。ETH時価25万円、運用総利回り1.75%相当。資産時価8.75億円は別建て。
倍率:慢性的な赤字により純利益を永久利益として資本化しない。今の自己資本約16.2億円に対し、2036年に売却可能な資産の税後・負債控除後価値6.6億円を基準にPBR約0.4074倍とする。将来の自己資本12億円に過去の谷のPBRを掛けたものではない。
確率:紙コミックス市場の大幅な縮小が継続し、イベント収益だけでは固定費を吸収できなくなる可能性は現実的である。ETH価格の下落が同時に起これば、資産の支えも弱まるため中立と同じ重みを付ける。
悲観 16% 主力ECが構造的に負け、資産を取り崩す 利益 −3 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 30 円5 億円
紙の漫画をネットで全巻購入する需要はさらに細り、大手ECと出版社の直販が残る顧客を吸収する。TORICOは独自サイトの知名度を保てず、販売件数は現在の3割弱となる。値上げもできず、在庫の処分と事業縮小を迫られる。紙の市場だけでなく、顧客を囲い込む力そのものを失った状態である。
イベントでも人気作品との大型契約を継続できなくなる。権利元は大手の企画会社を選び、TORICOには小規模で採算の厳しい企画が残る。海外拠点は縮小し、店舗や人員を削減する費用が発生する。経営は大幅な撤退を進めるものの、赤字をすぐに消すことはできない。
ETHは大きく値下がりし、運用を高度化するために外部へ預けた資産の回収にも慎重さが必要になる。会社は追加取得を抑え、保有量も減らす。すでに発行した株式を元に戻せないため、資産価格が多少反発しても、既存株主に帰属する利益は限定される。経営継続と部分的な資産売却を前提とした場合にも、利益を生む事業としての価値はほとんど残らない。
この筋書きは、会社が倒産して資産をすべて失う最悪ケースよりは緩い。保有ETHと回収可能な運転資産が一定程度残り、金融負債と撤退費用を払った後に小さな価値が残ると考える。資産の保管不能や追加の巨額損失が起きれば、この床さえ守られる保証はない。
- 漫画EC・電子販売:数量 7.0(年間注文相当件数(万件、推計))× 価格 0.88(注文相当1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。注文相当7万件。数量喪失と値引きでECの稼ぐ力が崩れる。
- 漫画・アニメ関連イベント:数量 45.0(年間催事・企画換算回数(回、推計))× 価格 0.07(催事・企画換算1回当たり売上(億円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。企画換算45回。権利獲得の競争に負ける。
- 漫画関連のその他商品・付帯サービス:数量 0.5(関連商品・付帯取引件数(万件、推計))× 価格 0.35(関連商品・付帯取引1件当たり売上(万円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。関連商品は縮小し、残る固定費を回収できない。
- 受託開発・調査・コンサルティング等:数量 4.0(年間請求可能な人月(人月、仮推計))× 価格 0.01(人月当たり売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。AI代替によって人月は5分の1になり、受託利益は消える。
- ETH保有・ステーキング等の暗号資産運用:数量 2,400(運用対象ETH保有量(ETH))× 価格 0.00(ETH1枚当たり年間運用売上(億円、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。ETH時価15万円、運用総利回り1%相当。運用利益は費用で相殺される。
倍率:継続的な赤字のため利益倍率による事業価値はゼロに近い。2036年の保有ETH、現金、在庫・売掛金の税後回収可能額から金融負債と撤退費用を差し引くと約5.0億円となる。現在の自己資本16.2億円に対するPBR約0.30864倍であり、過去の株価やPBRの谷は使っていない。
確率:漫画ECの競争力喪失、イベントの停滞、ETH価格の大幅な下落が重なる複合シナリオである。事業と運用資産の双方に依存する構造を考えると、低頻度として片づけられない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
漫画EC・電子販売
漫画全巻ドットコムと外部ECモールでの紙の漫画販売に、電子販売・電子アプリを含めた事業。紙の全巻セットが中心で、仕入れ・物流・販促費が採算を左右する。
| 数量年間注文相当件数(万件、推計) | 価格注文相当1件当たり売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.5 | 0.90 | 23 | 1 |
| 10 年後 中立 | 17.5 | 1.20 | 21 | 1 |
取り方:有価証券報告書のEC物販21.47878億円、EC電子1.10852億円、電子アプリ0.24548億円の合計22.83278億円を使用。2025年3月の会社開示にある漫画全巻ドットコムの平均購入単価8,966円で割り、年約25.47万件の注文相当数を逆算した。実際の注文数は非開示で、複数販路と電子売上を含むため実件数ではない。営業利益0.55億円は事業別非開示のため本社費控除前の推計。
漫画・アニメ関連イベント
作品の権利元との協力による展示、期間限定店舗、限定商品の販売など。海外開催分を含めた監査済みイベント売上を一括して扱う。
| 数量年間催事・企画換算回数(回、推計) | 価格催事・企画換算1回当たり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 0.09 | 8 | 2 |
| 10 年後 中立 | 125 | 0.10 | 13 | 3 |
取り方:2026年3月期有価証券報告書の顧客との契約から生じる収益の内訳にあるイベント売上822,919千円を使用。年間開催回数は非開示のため、大小の催事を平均的な企画に換算して90回と仮定し、1回約914万円の売上とした。会社説明資料の国内イベント704百万円とは集計範囲が異なるため合算しない。営業利益1.65億円は権利料・会場費等控除後、本社共通費控除前の推計。
漫画関連のその他商品・付帯サービス
監査済みのマンガ事業『その他』売上のうち、個別の工数販売と推定した部分を除く関連商品、付帯取引など。海外企画の売上がイベントに含まれる部分とは重複させない。
| 数量関連商品・付帯取引件数(万件、推計) | 価格関連商品・付帯取引1件当たり売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 0.40 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 0.53 | 1 | 0 |
取り方:有価証券報告書のマンガ事業『その他』売上0.79699億円から、受託・調査関連の仮推計0.18億円を差し引いた残差。会社はこの内訳と取引件数を公表していないため、1.55万件、平均約3,981円という数量・価格は検証可能な仮説であり実績数量を示さない。次回の開示でその他売上の内訳が判明すれば更新する。
受託開発・調査・コンサルティング等
受託システム開発や暗号資産関連の調査・助言のうち、主に人の作業時間で対価を得る可能性のある部分。会社は独立した売上を開示していないため小さな推計部分として分ける。
| 数量年間請求可能な人月(人月、仮推計) | 価格人月当たり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 0.01 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 13.0 | 0.01 | 0 | 0 |
取り方:過去の受託開発案件の説明と有報の暗号資産関連調査・コンサルティングという事業内容を踏まえ、マンガ事業『その他』0.79699億円のうち0.18億円を作業対価と仮定。実際の契約件数、従業員人月、受託売上額は非開示で、20人月×90万円は推計である。AIエージェント代替の『人月・工数』型に分類し、中立の10年後数量は20人月から13人月へ縮小させる。
ETH保有・ステーキング等の暗号資産運用
イーサリアムを保有し、ステーキングや関連運用で収益を得る。保有ETHの元本価値と運用売上を分け、ETH価格変動による評価損益を恒常的な営業売上には含めない。
| 数量運用対象ETH保有量(ETH) | 価格ETH1枚当たり年間運用売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,475 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 5,000 | 0.00 | 1 | 0 |
取り方:有報の暗号資産事業売上1,623千円、営業損失2,381千円と2026年3月末の保有約2,474.9ETHを使用。年度途中に開始した事業の売上を期末保有量で割った参考値なので通年利回りではない。保有ETHの時価約8.26億円は売上に含めず、余剰金融資産として別に評価する。2026年10月23日公表値は3,129.2155ETH、時価約11.7億円、直近6か月のステーキング年率換算利回り1.95%。
リスクと懸念
ETH価格と保有資産の時価変動
ETHは会社の意思で価格を決められない金融資産である。2026年3月期には約2.54億円の暗号資産評価損が最終損益を圧迫し、翌年度の第1四半期にも大きな評価損が発生した。保有枚数が増えるほど、価格下落による自己資本への影響も大きくなる。資産の時価と運用利回りを分けて追う必要がある。
新株予約権の行使と既存株主の希薄化
2026年9月末時点の第11回新株予約権の未行使分は約831万株相当だった。これは2026年6月末時点の既存株数に対して大きい。調達資金でETHを買えば会社の資産は増えるが、株式数も増える。会社全体のETH保有量ではなく、既存株主1人当たりの取り分の変化を確認しなければならない。
紙の漫画市場の構造的縮小
2025年の紙コミックス市場は前年比14.4%減であり、電子への移行は長期的な変化である。全巻セットの専門性は残っても、顧客の総数や購入頻度が減れば固定費を吸収しにくい。書籍価格は出版社が主に決めるため、物流費や広告費の上昇を自社の値上げだけで吸収する余地は限られる。
イベントの権利元依存と固定費
イベントを増やすには作品の権利元から許諾を得る必要がある。企画が成功しても、次回の開催権を同じ条件で確保できるとは限らない。競争相手には出版社系企業や大手物販・催事企業がいる。会場費、物流費、在庫処分費用が膨らむと、売上が増えても利益が残らなくなる。海外展開では現地の税務や運営負担も加わる。
運用利回り目標と外部ファンドのリスク
会社が説明するETH運用利回り5~10%の目標と、2026年10月時点の直近6か月のステーキング実績約1.95%には差がある。高い利回りを追うほど、流動性の低い取引、取引相手の信用、スマートコントラクトの不具合、保管上の事故といったリスクが増える。外部ファンドへの資産移管自体を新たな利益や元本の増加と見なしてはならない。
AIエージェント代替
受託開発、調査、コンサルティングなど、人の作業時間に対して対価を得る部分にはAIエージェントによる代替圧力がある。会社はこの部分の独立売上を開示しておらず、規模は小さな推計にとどまる。中立では請求可能な人月を10年間で65%に縮め、その部分の2036年以降の名目成長をゼロとした。漫画の著作権付き商品や実際の会場運営にはこの縮小率を機械的に適用しない。
財務の見かけの強さと継続赤字
2026年3月期末には自己資本約16.2億円、純現金約5億円があったが、漫画事業の運転資金、在庫、事務所や催事会場の契約、暗号資産運用に伴う費用が必要である。有報には継続企業の前提に関する重要事象等が記載されている。正式な継続企業の前提に関する注記は該当なしだが、3期連続赤字という事実は軽く扱えない。
今後の分かれ目
- 漫画ECの注文相当件数が減っても、既存客の再購入率と粗利率が同時に改善したら
- 全巻セット専門店としての堀が残っている証拠になる。中立のEC数量と利益率を上方修正する。ただし会員登録者数の増加だけでは判断しない。
- 国内外イベントの開催回数、企画当たり売上、営業利益が3年続けて増えたら
- イベント事業が独立した利益の柱になったと判断し、やや楽観側の確率を増やす。権利料や会場費の上昇後にも利益が残るかを確認する。
- 会社のETH保有枚数は増えているのに、既存株主1株当たりのETH数が減り続けたら
- 増資の資本配分効率が低いと判断する。会社全体の資産増加だけで評価を引き上げず、既存株主の取り分を下げる。
- 暗号資産の実現運用利回りが、運用費用と税金を引いた後でも継続的に上昇したら
- 暗号資産事業の営業利益を上方修正する。ただしETH元本の価格上昇は別途金融資産の時価として扱い、利益倍率に二重計上しない。
- 新株予約権の大半が行使され、発行条件と調達資金の投資成果が判明したら
- 払込金額、実際に増えたETH、希薄化後の株式数を照合し、各筋書きのholder_shareと純資産の流れを更新する。発行済株数だけを増やして資産を増やさない計算はしない。
- 2027年3月期以降も本業の営業赤字が続き、ETHの時価も大幅に下落したら
- やや悲観と悲観を中心に見直す。営業キャッシュフローと資金繰りを優先し、売れる資産から負債、リースの約束、撤退費用を引いた床を再評価する。
見ておくもの
- 漫画全巻ドットコムの購入経験者数、月間利用者数、購買率、平均購入単価と年間EC売上の関係
- イベントの国内・海外別売上、開催企画数、企画当たり売上、権利料・会場費控除後の利益
- 紙コミックス市場の実質販売数量と電子コミックへの移行速度
- 暗号資産事業の保有ETH枚数、ETH時価、帳簿取得原価、評価損益
- 運用実績利回りと会社が掲げる5~10%の目標の差、外部ファンドへの出資状況
- 第11回新株予約権の未行使残高と月次行使株数、既存株主1株当たりETH保有量
- 本業の営業キャッシュフロー、現預金、借入金、解約不能な賃貸借の支払い約束
- 会社予想の2027年3月期営業利益ゼロからの進捗と、正式な継続企業の前提に関する注記の有無
倍率と資本コストの決め方
価値の起点を株価や過去のPER・PBRには置いていない。2026年3月期の監査済み売上をEC、イベント、付帯取引、推計した工数販売、ETH運用に分け、各事業の数量と名目価格から2036年の営業利益を求めた。ETH元本は金融資産として時価評価し、運用利益を事業利益に入れる際には税後想定利息を除いて二重計上を避けた。楽観から中立のPERはk=9.25%、長期g=1%、RONICの式で決め、悲観側は税後換金可能な資産を床にした。新株予約権などによる希薄化は会社全体の価値の後で既存株主の取り分に反映する。2028年3月期以降の新リース会計基準による表示変更では利益を水増しせず、賃料は事業の固定費として各筋書きに残した。最後に初めて基準時価総額約19.8億円と比較した。
資本コスト 9.4% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%による基準7.5%に、事業品質+0.75%と継続赤字の上乗せ1%を加えた。ETH価格の上下、株式希薄化、イベント権利の獲得失敗は別途シナリオに織り込み、資本コストへ重複して加算しない。
同じ業種(小売業)の AI 分析
読んだ資料
- TORICO 2026年3月期有価証券報告書:セグメント売上、損益、暗号資産、継続企業の前提に関する重要事象等
- TORICO 2026年3月期通期決算説明資料・事業計画及び成長可能性に関する事項
- TORICO 2027年3月期第1四半期決算短信
- TORICO 2025年3月期決算説明資料:会員数、月間利用者数、平均購入単価
- TORICO暗号資産事業ダッシュボード:ETH保有量、取得額、運用実績、株式数
- TORICO 第11回新株予約権の2026年9月月間行使状況
- 出版科学研究所:2025年コミック市場の推定販売額速報
- 矢野経済研究所:2026年キャラクタービジネス市場調査
- TORICO ETH建てヘッジファンドへの出資に関するお知らせ