結論
ビックカメラは、都市の駅前に大型店を持つ家電量販の大手だ。傘下に郊外型のコジマとパソコンのソフマップを抱え、売上は約 1 兆円ある。営業利益率は 3% 台の、薄利の商売だ。
筆者の結論は「割高」だ。足元の業績は過去最高で、訪日客の免税売上も好調だ。ただ、その好調は今の時価総額にほぼ入っていると見る。
稼ぐ力の中身は、ヤマダなど他の大手と大きくは変わらない。同じ冷蔵庫は、他の店でもネットでも買える。値段を自分で決められない商売で、利益が物価を超えて伸びる理由は乏しい。
強みは立地とブランドだ。池袋・有楽町・新宿のような一等地の旗艦店は、他社がまねできない。訪日客の買い物の受け皿にもなっている。
10 年後の中立の姿は、営業利益 460 億円ほどだ。会社の計画(2029 年 8 月期に 400 億円)は超えるが、利益率は上がらない。資本効率が資本コストをわずかに上回る程度の会社に、高い倍率は付けにくい。今の値段に見合うには、訪日需要が長く続く強気の筋書きが要る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ビックカメラは「悪くない大きな店」であり、「長く持ちたい会社」とまでは言えない。理由は、利益が物価を超えて伸びる仕組みがないことだ。
オーナーとして持ちたいかを問えば、答えは中立だ。立地とブランドは本物で、会社が行き詰まる心配は小さい。経営も無理な拡大をしていない。ただ、利益率は薄く、値段を決める力がない。
本質価値は、足元の過去最高益ではなく、ならした稼ぐ力で決める。純利益で 250 億円前後が、10 年後の姿だ。物価で伸びるだけだと、ROE は資本コストをわずかに上回る程度だ。
会社の計画が実現しても、景色は大きくは変わらない。営業利益 400 億円、ROE 10.5% は、いまの延長にある。ここで払う値段に安全域があるかが問題だ。
安全域は、今の時価総額にはないと筆者は考える。純有利子負債は軽く、自己資本の裏付けもある。それでも、10 年先の稼ぎから見れば、今の値段は先に好調を織り込んでいる。より低い値段での再評価を待つのが筋だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎのほとんどは物品販売だ。駅前の大型店とネット通販で、家電・携帯・ゲーム・パソコン・酒・日用品まで幅広く売る。ビックカメラ 42 店、コジマ 139 店、ソフマップ 22 店の計 203 店を持つ。
ビックカメラ本体は、都市の旗艦店が強い。単体の売上は 4,700 億円ほどで、ネット通販はその約 12% を占める。ポイントの会員を店とネットで共有し、買い替え需要を取り込む。訪日客の免税売上は、第 1 四半期と第 3 四半期累計のどちらでも過去最高だった。
コジマは、ロードサイドの郊外店を担う。ビックカメラが議決権の 50.5% を持つ連結子会社で、株式は上場したままだ。売上は 2,800 億円、営業利益は 70 億円台で、本体より郊外・地方の客に頼る。
ソフマップはパソコンと中古、じゃんぱらは中古の携帯とパソコンを扱う。ラネットは携帯ショップを運営し、2025 年 9 月に TD モバイルを吸収合併した。BS11 を運営する BS デジタル放送も傘下にあり、売上は 110 億円、利益率は高い。
店の 186 店は賃借で、建物の年間の賃借料は約 250 億円にのぼる。売上が落ちても、家賃は払い続ける固定の約束だ。
優良さと弱いところ
筆者がまず見るのは堀、つまり他社がまねできない強みだ。ビックカメラの堀は、立地とブランドにある。有楽町・池袋・新宿の駅前の旗艦店は、ほかが同じ場所を取ることはできない。訪日客の買い物の受け皿として、免税売上の過去最高を支えている。
ただし、堀は価格を決める力まで届いていない。客から見れば、同じ家電はヤマダでもアマゾンでも買える。値段は市場が決め、ビックカメラは物価に合わせて上げるのがせいぜいだ。強い堀とは言えない。
資本の使い方は悪くない。ROE は 2025 年 8 月期に 10% 台に乗った。ただ、過去 10 年では 2% から 13% まで揺れ、中央値は 10% に届かない。赤字の期は少ないが、利益が安定して厚い会社ではない。
経営の姿勢にも触れておく。コジマを 2012 年に子会社にして以降、大きな買収は控え、中古や携帯など周辺の小さな買い足しにとどめている。無理な拡大をしない点は、安心材料だ。一方、コジマを上場させたままで、少数株主の取り分が利益の一部を持っていく点は気になる。
従業員は連結で 1.2 万人。賃上げを 9 年続けており、人件費の負担は構造的に重い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の家電量販店市場は約 10 兆円だ。2024 年は 3 年ぶりに 10 兆円を超え、省エネ家電への買い替えが支えた。人口は減るので、数量は 10 年で横ばいから微減と筆者は見る。物価の分は価格に乗るが、利益が増えるとは限らない。
競争は上位に集まりつつある。ヤマダが最大手で、ビックカメラ・ノジマ・エディオン・ケーズデンキが続く。ノジマは携帯で、ビックカメラは都市の旗艦店と免税で強い。各社が「家電以外」を伸ばそうとする。
外からの圧力はネット通販だ。家電のネット通販比率は 4 割を超える。アマゾンや楽天は価格が丸見えで、店は商品を試すだけの場所になりかねない。ビックカメラは、設置・保証・ポイント・当日配達で店との併用客を取りにいく。
訪日客は追い風だが、不安定だ。中国の客が減っても、東南アジアと北米が補っている。為替や外交の状況で、一気に変わりうる。
景気の波も受ける。家電は買い替えを延ばせる耐久財で、リーマン時は大手でも既存店売上が 2 割ほど落ちた。店の家賃と人件費は固定に近く、売上の落ち込みは利益に大きく響く。
再編は続く。中堅の統合や提携が進む中で、ビックカメラは買う側にも、受け皿にもなりうる。
資本政策と M&A
筆者が評価するのは、買収で規模を追わなかったことだ。大きな買収は、2012 年のコジマで止まっている。中古のじゃんぱらや携帯のラネットなど、周辺の小さな買い足しが続く。
還元は配当が中心だ。配当性向は 40% 前後で、2025 年 8 月期の配当は前の期から増えた。自社株買いの実績は確認できなかった。
借金は純額で 378 億円、時価総額の 1 割ほどだ。金利が上がっても、利払いの増加は 10 年後で年 9 億円ほどにとどまる。これは重くない。
むしろ重いのは家賃だ。賃借料は年 250 億円で、残りの年数をかけると数千億円の約束になる。2028 年 8 月期からは新しい会計基準でこれが貸借対照表に載り、借金が見かけ上膨らむ。自己資本比率 34% は、見た目より薄い。
持ち合い株もある。TBS ホールディングス株を 227 億円分(計上額)持つ。含み益の額は確認できていないが、売ればその分は資本に戻せる。
TOB・買収の可能性は、kabufu の見立てでは 10 年以内に 17% ほどだ。コジマの少数株主の整理(完全子会社化)が次の再編の候補と筆者は見る。
株主優待は、所有株数に応じて年3千円〜5万円分の買物優待券(長期保有は加算)。年10.8億円と見込む(2025年8月末の有報(個人その他の株主 313,055 人・約171.1万単元)から受け取る約31万人の額面合計を約14.4億円とみて、開示のある小売(西松屋0.6・USMH0.9)の費用/額面の平均0.75を掛けた。会社の費用の開示は無い)。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立・やや楽観・楽観1.0、やや悲観0.75、悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
訪日需要は一時のブームでなく、構造の変化だ。円安と日本の商品の質を求める客は、東南アジア・北米・欧州へと広がっている。中国の減少を他の国が埋めても、免税売上は過去最高を更新した。
ビックカメラは、この客の最初の受け皿だ。有楽町・池袋・新宿の旗艦店は、免税の売上が過去最高を更新している実績がある。観光地や駅前に小型店を出す計画もあり、取れる客は増える。
ネット通販は、送料無料と当日配達で新規顧客が 5 割増えた。店とネットの併用客は、1 人あたりの買い物額が多い。ポイントの会員基盤がそれを支える。
利益の質も上がる。ソフマップの中古、携帯、酒、BS11 の広告と、粗利の厚い事業が積み上がっている。営業利益率は 2020 年の 1.4% から 2025 年の 3.1% へ倍増し、今期の予想は 3.4% だ。4% 台は、過去の山にあった数字だ。
借金は軽く、金利が上がっても利払いの増加は小さい。還元も増えている。計画が予定どおり進めば、10 年後の営業利益は 550 億円を超え、ROE は 10% 台を保つ。
慎重な見方
利益率 3% 台は、すでに過去の山の水準だ。2018 年 8 月期の 3.2%、2007 年の 3.4% に並んでいる。そのあとは、必ず下がった。2020 年には 1.4% に落ちた。今回だけ山が続くと見る根拠は薄い。
訪日客は、為替と国際関係で簡単に変わる。中国の客の減少は、すでに始まっている。東南アジアや北米が補っているのは、今の円安があるからだ。為替が動けば、免税の高額品は鈍る。
ネット通販は価格が丸見えで、店は試す場所になっていく。ビックカメラは送料を負担し、当日配達も広げる。客は増えても、利益率は上がらない。ネットで伸ばすほど薄利になる構造だ。
店の家賃は年 250 億円で、売上が落ちても減らない。賃上げは 9 年連続で、人件費も構造的に重い。景気が悪くなれば、売上が 1 割落ちるだけで利益は半分以下になる。
コジマは、人口減の地方に頼る。少数株主が利益の一部を持っていくので、本体の取り分は薄い。
過去 10 年の ROE の中央値は 10% に届かない。今の ROE の高さは、利益の山にあるだけだ。10 年後の純利益は、250 億円を大きくは超えない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強いと筆者は判断した。理由は、利益率が山の水準にあり、値段を決める力がないことだ。
強気の見方が言うとおり、訪日需要と店・ネットの相乗は本物だ。ただ、それは物価並みの成長に収まる筋書きで、利益率が上がり続ける筋書きではない。確率は、中立に 4 割弱を置き、強気側は 3 割強とした。やや強気に厚みを持たせたのは、足元の勢いと中計の達成に妥当性があるためだ。
一方、会社が行き詰まる確率は小さい。借金が軽く、ブランドと立地がある。悲観でも、保有株と不動産が床を支える。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/08 期)
確率で加重した株価時価総額 1,892 円3,241 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 655 円1,122 億円)。 今の値に割り戻すと 1,322 円2,265 億円、今との差 −22.6%、 期待の年率 +4.1%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,244 円5,555 億円 | 939 円1,608 億円 | +144.8% | +9.4% | 418 円716 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,562 円4,387 億円 | 793 円1,358 億円 | +96.4% | +7.0% | 738 円1,264 億円 |
| 中立 | 36% | 2,170 円3,716 億円 | 659 円1,128 億円 | +65.6% | +5.2% | 1,018 円1,744 億円 |
| やや悲観 | 22% | 894 円1,531 億円 | 573 円981 億円 | −14.1% | −1.5% | 323 円553 億円 |
| 悲観 | 10% | 265 円454 億円 | 236 円404 億円 | −70.7% | −11.5% | 50 円86 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,892 円3,241 億円 | 655 円1,122 億円 | +49.1% | +4.1% | 2,547 円4,363 億円 |
今の株価時価総額 1,709 円2,926 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 訪日需要が定着し、利益率が 4% 台に乗る 利益 365 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 3,244 円5,555 億円
訪日客の買い物が一過性でなく、日本の買い物の定番として定着する。東南アジアや北米の客が中国の減少を埋めるだけでなく、さらに積み上がる。大型店は客 1 人あたりの買い物額が上がり、小型の訪日客向け店も広がる。
ネット通販は送料無料と当日配達で顧客が増え、店とネットが互いに客を送る。ソフマップの中古やコジマの郊外店も、同じ仕組みで客単価が上がる。
営業利益率は 4% を超え、中計の 400 億円は通過点になる。稼いだお金は自社株買いと配当で厚く返し、ROE は 12% 台に乗る。ただ、利益率が景気と為替に左右される事業であることは変わらない。
この筋書きでは、ヤマダやノジマとの差も開く。立地と会員基盤を持つビックカメラが、都市の買い物の中心になる。競合が同じ訪日客を取りにいっても、旗艦店の集客力は簡単には崩れない。
- ビックカメラ本体(都市型の大型店とネット通販):数量 18.9(年間の会計件数(百万件))× 価格 42,000(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 7,933 億円・営業利益 301 億円。訪日客・ネットの伸びと人口減の差し引き
- コジマ(郊外型の家電店・50.5% 出資の上場子会社):数量 10.3(年間の会計件数(百万件))× 価格 38,080(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 3,923 億円・営業利益 149 億円。郊外・地方の客数の動き
- ソフマップ・携帯ショップ・その他の子会社(連結調整を含む):数量 11.5(年間の会計件数(百万件))× 価格 27,600(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 3,165 億円・営業利益 196 億円。中古・携帯・ネットの動き
- BS デジタル放送(BS11):数量 8.8(年間の放送時間(千時間))× 価格 151(1 時間あたりの売上(万円))→ 売上 132 億円・営業利益 22 億円。広告の単価。視聴の細りと広告市況で、物価ほどは伸びない
倍率:事業の純利益 365 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.22 倍、時価総額 5,555 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:訪日需要の定着と店・EC の相乗が揃い、中計の目標を大きく超える筋。薄利の小売で利益率 4% 台は過去の山(4.2%)に並ぶ水準なので、1 割にとどめた。
やや楽観 22% 計画どおりに進み、ROE が 10% 台を保つ 利益 300 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 2,562 円4,387 億円
会社の計画が、ほぼ予定どおり進む。訪日客の売上は伸び、免税の比率が高まる。ネット通販は 860 億円(単体)の目標に届き、店舗とネットの併用客が増える。
家電の数量は人口減で細るが、省エネ家電への買い替えと携帯・ゲームなどの周辺が補う。コジマは出店と改装で売上を伸ばし、営業利益率は 3% を超える。
営業利益は 550 億円ほどで、ROE は 10% 台を保つ。還元は配当性向 40% 台を続け、機動的に自社株買いも入れる。ただし、新しい強みが生まれるわけではない。物価を少し上回って伸びる、まじめな小売として続く。
コジマの完全子会社化など、資本の整理が進めば、利益の取り分は少し増える。一方で、賃上げと送料の負担が利益率の伸びを抑える。
- ビックカメラ本体(都市型の大型店とネット通販):数量 17.6(年間の会計件数(百万件))× 価格 41,100(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 7,246 億円・営業利益 232 億円。訪日客・ネットの伸びと人口減の差し引き
- コジマ(郊外型の家電店・50.5% 出資の上場子会社):数量 10.1(年間の会計件数(百万件))× 価格 37,800(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 3,818 億円・営業利益 130 億円。郊外・地方の客数の動き
- ソフマップ・携帯ショップ・その他の子会社(連結調整を含む):数量 10.9(年間の会計件数(百万件))× 価格 27,000(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 2,955 億円・営業利益 165 億円。中古・携帯・ネットの動き
- BS デジタル放送(BS11):数量 8.8(年間の放送時間(千時間))× 価格 151(1 時間あたりの売上(万円))→ 売上 132 億円・営業利益 21 億円。広告の単価。視聴の細りと広告市況で、物価ほどは伸びない
倍率:事業の純利益 300 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.4 倍、時価総額 4,320 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計(2029 年 8 月期に営業利益 400 億円)が、ほぼ予定どおり進む筋。足元の勢いと中計の数字に最も近く、強気側では最も厚く置いた。
中立 36% 物価並みに伸びる、薄利の大手のまま 利益 255 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 2,170 円3,716 億円
家電の客数は人口減で伸び悩む。訪日客の買い物とネット通販が、それを補う。価格は物価並みに上がり、売上は年 3% ほどで伸びる。
賃上げと送料の負担が重く、営業利益率は 3% 台半ばで横ばいになる。営業利益は 460 億円ほど。中計の 400 億円は超えるが、利益率は上がらない。
店舗網と立地、ポイント、仕入れの規模は強く、利益が崩れることはない。ただ、他の大手と大きな差はない。還元は配当を中心に、自社株買いを少し入れる。ROE は 9% 近くまで下がるが、資本コストはわずかに上回る。強気にも弱気にも当たらない、地味な 10 年になる。
コジマの郊外店は客数が細り、ソフマップの中古や携帯は小さく伸びる。BS11 の広告収入は、視聴の細りで物価ほどは伸びない。各事業が少しずつ違う方向に動き、全体では物価並みの成長に収まる。 還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年10.8億円×10年×1.0=108億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- ビックカメラ本体(都市型の大型店とネット通販):数量 16.7(年間の会計件数(百万件))× 価格 40,200(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 6,707 億円・営業利益 195 億円。訪日客・ネットの伸びと人口減の差し引き
- コジマ(郊外型の家電店・50.5% 出資の上場子会社):数量 9.7(年間の会計件数(百万件))× 価格 37,520(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 3,638 億円・営業利益 109 億円。郊外・地方の客数の動き
- ソフマップ・携帯ショップ・その他の子会社(連結調整を含む):数量 10.4(年間の会計件数(百万件))× 価格 26,800(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 2,794 億円・営業利益 140 億円。中古・携帯・ネットの動き
- BS デジタル放送(BS11):数量 8.8(年間の放送時間(千時間))× 価格 151(1 時間あたりの売上(万円))→ 売上 132 億円・営業利益 20 億円。広告の単価。視聴の細りと広告市況で、物価ほどは伸びない
倍率:事業の純利益 255 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.7 倍、時価総額 3,494 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は人口減で横ばい、価格は物価並み、利益率は今の 3% 台半ばにとどまる筋。足元の実績と中計の中間で、最も実績に近い。
やや悲観 22% 訪日客が細り、ネットに値段を押される 利益 145 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 894 円1,531 億円
訪日客の買い物が一巡する。中国の客の減少を、ほかの国が埋めきれない。為替が動かなくても、免税の高額品の売れ行きは鈍る。
ネット通販の価格比較が強まり、店は商品を試す場所になっていく。ビックカメラは送料や当日配達の負担を続けるが、客数は戻らない。コジマの郊外店は人口減で客数が 1 割ほど減る。
借りた店の家賃と人件費は売上が落ちても減らない。店の維持費が重くのしかかり、営業利益率は 2% 台に下がる。営業利益は 290 億円ほどで、ROE は資本コストを下回る。還元は配当を守るのが精いっぱいで、自社株買いはなくなる。
再編の動きも出るが、規模の優位を取り戻すほどの力はない。会社の計画(2029 年 8 月期に営業利益 400 億円)は、達成が遅れるか、届かないまま目標を引き直すことになる。
- ビックカメラ本体(都市型の大型店とネット通販):数量 15.4(年間の会計件数(百万件))× 価格 39,000(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 6,016 億円・営業利益 120 億円。訪日客・ネットの伸びと人口減の差し引き
- コジマ(郊外型の家電店・50.5% 出資の上場子会社):数量 8.9(年間の会計件数(百万件))× 価格 35,840(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 3,185 億円・営業利益 64 億円。郊外・地方の客数の動き
- ソフマップ・携帯ショップ・その他の子会社(連結調整を含む):数量 9.4(年間の会計件数(百万件))× 価格 26,000(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 2,440 億円・営業利益 98 億円。中古・携帯・ネットの動き
- BS デジタル放送(BS11):数量 8.3(年間の放送時間(千時間))× 価格 138(1 時間あたりの売上(万円))→ 売上 115 億円・営業利益 14 億円。広告の単価。視聴の細りと広告市況で、物価ほどは伸びない
倍率:(家賃を営業費用に入れた今と同じ形)ROE 6.2%(純利益 145 億円 ÷ 自己資本 2,333 億円)。事業の ROE が k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍が上限。ネットに値段を押され、固定費が重い筋なので、上限の 8 割の 9.7 倍に置いた。
確率:訪日需要が一巡し、ネットの価格比較で店の値段が押される筋。利益率が低い業態で、少しの値下げが利益に大きく響くので、強気側と同じ厚さに置いた。
悲観 10% 店がコモディティ化し、構造的に負ける 利益 3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 265 円454 億円
家電がネットで売られるのが当たり前になり、店は価格競争に飲み込まれる。訪日客の買い物も細り、旗艦店の売上が大きく落ちる。客数は 2〜3 割減り、店の閉鎖と減損が続く。
借りている店の家賃は、売上が落ちても払い続ける約束だ。年 250 億円ほどの賃借料が重く、営業利益はほぼ消える。リースの解約には費用がかかり、店を畳んでも負担は残る。
もはや優良な小売ではなく、規模があるだけの会社になる。配当は借入と資産の売却で細く維持する。保有する TBS の株式と自社の不動産が、床を支える。
この筋書きの怖さは、店の数が多いことにある。203 店のうち 186 店は賃借で、家賃の約束は店を閉じても残る。閉店の費用と減損が一度に出て、自己資本も大きく減る。
- ビックカメラ本体(都市型の大型店とネット通販):数量 11.8(年間の会計件数(百万件))× 価格 36,000(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 4,250 億円・営業利益 21 億円。訪日客・ネットの伸びと人口減の差し引き
- コジマ(郊外型の家電店・50.5% 出資の上場子会社):数量 7.1(年間の会計件数(百万件))× 価格 33,600(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 2,376 億円・営業利益 7 億円。郊外・地方の客数の動き
- ソフマップ・携帯ショップ・その他の子会社(連結調整を含む):数量 7.3(年間の会計件数(百万件))× 価格 24,000(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 1,752 億円・営業利益 26 億円。中古・携帯・ネットの動き
- BS デジタル放送(BS11):数量 7.4(年間の放送時間(千時間))× 価格 126(1 時間あたりの売上(万円))→ 売上 94 億円・営業利益 8 億円。広告の単価。視聴の細りと広告市況で、物価ほどは伸びない
倍率:(家賃を営業費用に入れた今と同じ形)谷の底で純利益 3 億円にすぎず、稼ぐ力(3 億円 ÷ k)はほぼゼロ。家賃が固定費として残り、売れる資産の税後から純有利子負債と閉店の費用を引いた約 450 億円(floor_assets_oku)を床とし、今の自己資本 1,683 億円に対する PBR 0.27 倍で測った。EV ÷ 営業利益(EV = 時価総額+純有利子負債)で見ると 26 倍と高いが、谷の営業利益が小さいので意味を持たない。借金と家賃の重さは、床の薄さで見た。
確率:家電が完全にネットの価格競争に飲まれ、訪日需要も崩れる筋。店を借りる固定費が重い業態で、一度崩れると立て直しに時間がかかるので 1 割に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ビックカメラ本体(都市型の大型店とネット通販)
池袋・有楽町・新宿などの大型店と自社ネット通販で、家電・携帯・ゲーム・酒などを売る。訪日客の免税売上の受け皿でもある。
| 数量年間の会計件数(百万件) | 価格1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 15.7 | 30,000 | 4,722 | 95 |
| 10 年後 中立 | 16.7 | 40,200 | 6,707 | 195 |
取り方:単体売上 4,722 億円を 1 会計約 3 万円(推定。免税の高額品と日用品の混在)で割って約 1,570 万件。営業利益 95 億円は単体の営業利益。件数は人口減とインバウンド・EC・シェアの差し引きで、中立は 10 年で 6% 増。1 会計の金額は物価並みの 1.34 倍。
コジマ(郊外型の家電店・50.5% 出資の上場子会社)
全国 139 店の郊外・ロードサイド型家電店。ビックカメラが議決権の 50.5% を持つ連結子会社で、少数株主が残る。
| 数量年間の会計件数(百万件) | 価格1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 10.1 | 28,000 | 2,828 | 73 |
| 10 年後 中立 | 9.7 | 37,520 | 3,638 | 109 |
取り方:コジマ単体の売上 2,828 億円・営業利益 73 億円(2025 年 8 月期の決算短信)。1 会計約 2.8 万円(推定)で割って約 1,010 万件。郊外・地方の客は人口とともに細り、中立は 10 年で 4% 減。1 会計の金額は物価並みの 1.34 倍。
ソフマップ・携帯ショップ・その他の子会社(連結調整を含む)
ソフマップ(パソコン・中古)、じゃんぱら、携帯ショップのラネット、酒販などの子会社と、連結の調整。
| 数量年間の会計件数(百万件) | 価格1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 10.4 | 20,000 | 2,085 | 115 |
| 10 年後 中立 | 10.4 | 26,800 | 2,794 | 140 |
取り方:連結売上 9,745 億円から、ビックカメラ本体・コジマ・BS 放送を引いた残り 2,085 億円。営業利益 115 億円も、連結 303 億円から他を引いた残りで、連結消去の差を含む推定。1 会計約 2 万円(推定)で割って約 1,040 万件。中古・携帯・ネットの伸びで、中立は 10 年で横ばい。
BS デジタル放送(BS11)
BS11 の広告放送。ビックカメラの商品を宣伝する場でもある。
| 数量年間の放送時間(千時間) | 価格1 時間あたりの売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 8.8 | 126 | 110 | 20 |
| 10 年後 中立 | 8.8 | 151 | 132 | 20 |
取り方:売上 110 億円(2025 年 8 月期、有価証券報告書)。24 時間放送の約 8,760 時間で割った 1 時間あたり約 126 万円。放送時間は一定で、視聴の細りと広告市況で単価が決まる。物価ほどは伸びず、中立は 10 年で 1.2 倍。
リスクと懸念
訪日需要の反転
免税売上は過去最高だが、中国の客の減少を東南アジアや北米が補っている状態だ。為替や外交の状況で一気に細りうる。旗艦店の利益率は高く、反転の影響は本体の利益に大きく響く。
ネットの価格競争
家電のネット通販比率は 4 割を超える。アマゾンや楽天は価格が丸見えで、店は試す場所になる。ビックカメラは送料負担と当日配達で対抗するが、ネットを伸ばすほど利益率が薄くなる構造がある。
家賃と人件費の固定費
186 店が賃借で、建物の賃借料は年 250 億円ほどだ。売上が落ちても払う約束で、残りの年数分は数千億円になる。賃上げも 9 年続いており、不況時は利益が大きく削られる。2028 年 8 月期から新しい会計基準で貸借対照表に載る。
コジマと少数株主
コジマは 50.5% 出資で、上場したまま少数株主が残る。利益の約半分は外に出る。郊外・地方の客は人口減で細り、改装と出店の投資が続くので、本体の取り分が増えにくい。
景気の波と買い替えの先送り
家電は耐久財で、景気が悪いと買い替えを延ばせる。リーマン時は大手でも既存店売上が 2 割ほど落ちた。利益率が低い業態で、売上 1 割の落ち込みは利益の大きな減りにつながる。
利益の質と山の水準
営業利益率 3% 台は、過去の山(2007 年 3.4%、2018 年 3.2%)に並ぶ水準だ。山の利益に高い倍率を掛けると、値段が先に伸び切る。中計の達成に近づくほど、割高の度合いは大きくなりうる。
今後の分かれ目
- 免税売上が前年を割り、為替と国際関係でインバウンドが細り始める
- 旗艦店の利益が減り、やや悲観の確率が上がる。10 年の中立も、営業利益 400 億円台前半へ下がる。
- 2026 年 8 月期の営業利益 344 億円を達成し、2027 年 8 月期も 360 億円を超える
- 中計の 400 億円が見える。やや楽観の確率を 3 割近くまで上げる。ただし、中立の見立てが大きく変わるほどではない。
- ネットの売上が目標の 860 億円(単体)に届き、利益率も上がる
- ネットが店の客を奪うのでなく、併用客の買い物額を増やすと確かめられる。強気の筋書きの確率が上がる。
- コジマを完全子会社にして少数株主を整理する
- 利益の取り分が増え、純利益が 1 割ほど増える。ただし、買い取りの費用が資本を使う。
- TBS 株などの持ち合い株を売却して自社株買いに回す
- 資本効率が改善し、ROE が 1 ポイントほど上がる。倍率を高く置ける。
- ネットの価格競争が強まり、既存店の客数が 2 年続けて減る
- 店の価値が崩れ始めたと判断し、やや悲観・悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 免税売上と客数(インバウンドの国別構成)
- 既存店売上高と客数(ビックカメラ・コジマ別)
- 営業利益率(3% 台半ばの定着)
- ネット通販の売上と利益率(単体 860 億円の目標)
- 賃借料と人件費(賃上げの負担)
- コジマの少数株主の取り分と完全子会社化の動き
- 持ち合い株(TBS)の動きと自社株買い
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価ではなく、その時点の ROE と資本コスト 8%(基本 7.5% に品質の調整 +0.75%)から、上限の 9 割台に置いた。ROE が資本コストをわずかに上回る中立では、下限の 1÷k(12.1 倍)に近い 12.3 倍になる。今の PER(16 倍台)は根拠にしていない。
結果として中立は今の時価総額を下回り、割高に出る。足元の純利益 175 億円から、数量の横ばいと物価並みの価格で 10 年後に 255 億円まで伸ばした。
純有利子負債(378 億円)は純現金ではないので、余った現金は立てていない。店舗の家賃は固定の約束で、悲観では売上が落ちても残るとして営業利益率に入れた。10 年後の数字は家賃を営業費用に入れた今と同じ形で置いた。2028 年 8 月期からの新リース会計で営業利益が少し増え、純有利子負債がリース負債の分だけ増える点は、比較のときに注意が要る。悲観は市場の倍率や過去の底でなく、売れる資産の税後から純有利子負債と閉店の費用を引いた床(概算 450 億円)で置いた。在庫と不動産の簿価は有価証券報告書で確かめきれておらず、床の額は概算である。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。訪日需要への依存やコジマの少数株主といった個別のリスクは k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。赤字や存続の疑いはないので上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。