結論
アスクルは、オフィス用品や事業所の消耗品を法人にネットで売る国内の老舗だ。個人向けのLOHACOも持つ。筆者の結論は、10年後の価値は今の時価総額をやや下回る、である。一番の理由は、利益の薄さだ。
2025年10月のランサムウェア被害で受注と出荷が止まり、2026年5月期は営業赤字が174億円に膨らんだ。顧客は戻りつつあるが、売上はまだ前年を下回る。直近の四半期も前年比で8%減った。通期の黒字化計画は、下期の急な回復に頼っている。
この会社の営業利益率は、過去10年で3.6%を超えたことがない。中期計画は4〜5%を掲げる。だが扱う商品は価格を比べやすく、アマゾンビジネスやモノタロウも迫る。値段を自分で決める力は弱い。
中立の筋書きでは、10年後の売上を7千億円台、営業利益を200億円強と見る。赤字で縮んだ自己資本に利益が戻るため、ROE(自己資本利益率)は14%ほどになる。ただ資本コストを上回る幅は小さく、倍率は12倍にとどまる。
悲観の確率は小さくない。顧客がアマゾンやモノタロウへ移り、利益が出ない会社に固定される筋だ。筆者はこの確率を軽く見ていない。LINEヤフーが約47%を持つ点は、買い手になりうる支えだ。ただし価値の前提には置かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、アスクルは持ち続けたい会社に入らない。稼ぐ力が薄く、その薄さを事業の構造が決めているからだ。
オーナーが見るのは、追加の資金を入れずに手元に残る利益の大きさだ。アスクルは物流センターと在庫に資金を縛られ、売上が1割動くだけで利益が消える。営業利益率が3%台に届かない会社は、少しの値引き競争で赤字へ落ちる。
良い点もある。10年後も、法人が消耗品を注文する場は必要だ。事業そのものは続く。顧客を失った後に戻す力も、今回の障害で見えた。ただし、その回復は大きな値引きという代価を払って買ったものだ。
安全域の面では、筆者が妥当と見る価値は、利益が200億円規模へ戻る筋書きを織り込んでも、今の時価総額に届かない。回復が計画どおりに進むことを前提にしても、この水準だ。計画どおりに進まない確率は低くない。
確信を持ちにくい会社でもある。利益の水準は、価格競争と物流費という二つの変数で決まる。どちらも会社が選べない。
何で稼ぐ会社か
アスクルは、法人向けのネット通販を柱に、個人向けのLOHACOと、歯科流通や購買代行の子会社を持つ。2026年5月期の売上4,001億円のうち、法人向けのASKUL事業が2,829億円、LOHACOが280億円、グループ会社が820億円だった。
法人向けの強みは、注文の翌日に届く物流だ。文具、コピー用紙、飲料、清掃用品、梱包材、作業用品と、事業所で毎日使うものを広く扱う。小さな事務所から大企業まで、総務の担当者が日々の発注をここで済ませる。中堅・大企業向けには購買管理を担うSOLOEL ARENAがあり、いまASKULの売り場との統合を進めている。
稼ぎ方は、仕入れて売る小売の形だ。粗利率は2割台前半と薄く、物流費と人件費が重い。売上が増えても、物流の効率が落ちれば利益は消える。2026年5月期は、物流費の悪化だけで営業利益が約90億円削られた。
LOHACOは、LINEヤフーと組んで消費者に日用品を届ける。長く赤字に苦しみ、近年は採算を優先する方針に改めた。グループ会社では、歯科医院向けのFEEDと購買代行のアルファパーチェスが売上を伸ばしている。
自前の物流センターを持つ点が、同業との大きな違いだ。持つことで速さと品質を保てる反面、売上が落ちると固定費が重くのしかかる。2026年3月に日高DCを閉め、板橋DCも2027年1月に閉める予定で、拠点の整理を急いでいる。
優良さと弱いところ
優良さは、筆者の目では中程度だ。強みは物流と顧客基盤、弱みは値決めの力と事故への備えである。
翌日に届く物流網と、長く積み上げた法人顧客の数は、すぐにはまねできない。オリジナル商品の比率は約4割で、他社と価格を直接比べにくい品を増やしている。2032年5月期に5割へ上げる目標だ。
ただ、堀と呼べるほど深くはない。扱う商品の多くは、アマゾンビジネスやモノタロウでも買える。総務の担当者は価格と届く速さで選ぶので、乗り換えの手間は小さい。被害後に大幅な値引きで顧客を呼び戻したことが、値決めの弱さを物語る。
資本の効率は平凡だ。過去10年のROEの中央値は11%台で、2024年5月期の24%は、純利益が営業利益を上回る特殊な年だった。営業利益率は2〜3%台で、物流費と人件費の上昇を価格に移しきれない年が多い。
経営の面では、2025年のランサムウェア被害が重い。侵入口は、多要素認証のない業務委託先の管理者アカウントだったと報じられた。個人情報の漏えいは約74万件に追加の約60万件が加わり、個人情報保護委員会から行政指導も受けた。失った信頼のコストは、決算の数字より長く残る。
財務の余裕も薄れた。赤字で自己資本は778億円から478億円へ減り、純現金はほぼ尽きた。自己資本比率は21%だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
法人向けの消耗品通販は、市場が大きく、成長はゆるやかだ。間接資材の国内市場は5〜10兆円とされ、オフィス用品だけでも約9千億円(2021年度)ある。紙と文具は減り、清掃・衛生・飲料・梱包材は増える。中身が入れ替わる中で、店や訪問販売からネットへの切り替えが成長を支える。
競争は三方向から来る。工場の消耗品ではモノタロウが強く、国内で3千億円規模の売上を持つ。価格の安さと品ぞろえで中小の工場を取り込んだ。オフィス用品では、たのめーる(大塚商会)とカウネット(コクヨ)が長年の相手だ。そして、アマゾンビジネスが法人購買の入り口を握ろうとしている。
筆者が最も気にするのは、アマゾンの動きだ。品ぞろえと配送の速さで同じ土俵に立ち、価格の比較も容易だ。顧客は一度離れると戻りにくい。今回の障害をきっかけに、取引先が発注先を複数に分ける動きが広がった可能性がある。
景気との関係では、オフィス用品は影響を受けにくいが、工場の消耗品は生産に連動する。従業員数が減る国内では、1社あたりの数量はほとんど伸びない。成長は、医療・介護・飲食・宿泊のような新しい顧客層の開拓と、取り扱い品目の拡大からしか出てこない。
物流は人手不足で、費用が年3〜5%上がる。自動化と拠点の集約で吸収できる会社が勝つ。アスクルは拠点の整理を進めているが、障害からの復旧と同時進行になっている点が重い。
資本政策と M&A
還元の方針は、総還元性向45%を目安に、安定した配当と自社株買いを組み合わせることだ。2026年5月期は赤字のため配当を抑え、2027年5月期は倍増させる計画である。株数は自社株買いで約9千万株まで減ってきた。
買収は、大型案件ではなく、歯科のFEEDや購買代行のアルファパーチェスなど、小さな案件を積む形だ。2026年5月期には、FEEDの持株会社の減損損失を48億円出した。顧客基盤の拡大が鈍ったためで、買った事業の質には注意が要る。
筆者が重く見るのは、株主の構成だ。LINEヤフーが議決権の約47%、プラスが約12%を持つ。2019年には、この2社の反対で創業社長が事実上退任した。独立性を巡る争いの記憶は残っている。
一方で、親会社が完全子会社化に動く可能性は消せない。持ち分がすでに約47%あり、TOB(株式公開買い付け)の負担は小さい。ただ、いつ、いくらでという話は何も出ていない。筆者はこれを価値の前提に置かず、筋書きの外の可能性として扱う。
取締役は13人から10人に減らす予定だ。大きな赤字を出した後の、体制の絞り込みである。
株主優待は年約2.3億円(会社の費用ベース。割引クーポン年4,000円×株主約8.2万人(額面3.3億円)×使われ率7割)。優待の費用は販管費として利益から引き済みなので、株主が受け取る分として10年の還元に「年額×10年×続く見込み(中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5)」を足した(中立+23億円)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アスクルの顧客基盤は、今回の障害を経ても失われていない。受注を再開した後、顧客数は2026年2月に被害前の9割まで戻った。法人の消耗品は、取引口座を一度開けば、発注先を変える手間が付きまとう。総務の担当者は、毎月の注文を同じ画面で済ませたい。
売上が落ちた分は、一過性の問題だ。販促で得た顧客が定着し、販促を終えれば粗利率は戻る。2027年5月期の計画は、売上の回復で約90億円、粗利率の改善で約65億円、物流費の削減で約90億円の営業利益を積み上げる。物流費は、障害で効率が落ちた分の戻りであり、構造的な悪化ではない。
10年では、成長の余地がある。医療・介護・飲食・宿泊などの対人サービス業種は、まだ入り口にいる。オリジナル商品の比率は約4割から5割に上がる。他社と比べにくい商品が増えれば、粗利率は上がる。AIを使った営業支援は検証の段階だが、顧客ごとの提案で購入額を伸ばせる。
LINEヤフーとPayPayの集客力も使える。中小企業向けの販売で協業が進めば、新規顧客の獲得費用を抑えられる。中期計画が掲げる2029年5月期の営業利益率3.7〜5.0%は、被害前の2024年5月期の3.6%を少し上回る水準だ。届かない目標ではない。
慎重な見方
アスクルの営業利益率は、この10年で3.6%を超えたことがない。3%台は天井であり、被害前の水準に戻っても、薄利の会社であることは変わらない。物流費と人件費が毎年3〜5%上がる中で、価格を比べやすい商品を売る会社が、利益率を上げ続けるのは難しい。
被害後の動きは、その弱さを示している。顧客を呼び戻すために大幅な値引きを行い、直近の四半期でも売上は前年を8%下回り、粗利率は1.5ポイント落ちた。通期の計画は売上が22%増える前提で、下期の急回復を描いている。外れる余地は大きい。
競争も厳しい。アマゾンビジネスは配送と品ぞろえで同じ土俵に立ち、モノタロウは工場向けの消耗品で顧客を広げている。障害の間に別の発注先を試した顧客は、戻らないことがある。個人情報の漏えいと行政指導で、大企業の購買部門の目も厳しくなる。
資本にも余裕がない。赤字で自己資本は778億円から478億円に減り、純現金はほぼ消えた。自己資本比率は21%で、物流センターの家賃は固定の支払いとして残る。もう一度大きな障害が起これば、耐えられない。
株主構成にも不安がある。LINEヤフーとプラスで6割近くを持ち、少数株主の意見は経営に届きにくい。2019年の社長退任は、その力を示した。
どちらに重みを置いたか
回復の道筋は確かだが、利益の水準を決めるのは慎重な見方だ。顧客基盤が戻りつつある点は、強気の見方が正しい。ただ、直近の四半期は前年を下回り、計画は下期の急回復を求めている。粗利率も戻っていない。
10年を通して、営業利益率が3%を超える状態を保てるかが分かれ目になる。過去の実績と競争の構図を重く見て、確率は慎重な側に寄せた。楽観とやや楽観を合わせて24%、悲観とやや悲観を合わせて42%とした。親会社による買収の可能性は、価値の前提に入れていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 1,846 円1,652 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 419 円375 億円)。 今の値に割り戻すと 1,095 円980 億円、今との差 −8.4%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 4,990 円4,468 億円 | 810 円725 億円 | +385.3% | +17.1% | 348 円312 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,362 円3,010 億円 | 621 円556 億円 | +233.3% | +12.8% | 717 円642 億円 |
| 中立 | 34% | 2,139 円1,915 億円 | 472 円423 億円 | +118.5% | +8.1% | 888 円795 億円 |
| やや悲観 | 28% | 643 円576 億円 | 309 円277 億円 | −20.3% | −2.2% | 267 円239 億円 |
| 悲観 | 14% | 240 円215 億円 | 80 円72 億円 | −73.2% | −12.3% | 45 円40 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,846 円1,652 億円 | 419 円375 億円 | +89.5% | +6.6% | 2,264 円2,027 億円 |
今の株価時価総額 1,195 円1,070 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 中期計画を超える回復と対人サービスの開拓 利益 272 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 4,990 円4,468 億円
顧客基盤が被害前を大きく上回る。ASKULとSOLOEL ARENAを統合した売り場で、大企業から医療・介護・飲食・宿泊まで取引口座が増える。オリジナル商品が5割に達し、粗利率は厚くなる。AIによる営業支援とPayPayとの協業で、新規顧客を安く獲得できる。物流は拠点の集約と自動化で、売上に対する費用が下がる。FEEDやアルファパーチェスは、自力の成長と小さな買収で売上を伸ばす。LOHACOはLINEヤフーとの連携で採算の取れる事業になる。営業利益率は5%に届く。アマゾンやモノタロウとの競争には勝ち、障害は被害後の一時の揺れだったと分かる。会社が掲げた上限が、そのまま実現する筋である。
- ASKUL事業(法人向け通販):数量 150(稼働顧客数(万社・推定))× 価格 40(1社あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 5,986 億円・営業利益 317 億円。顧客+58%・名目単価+34%
- LOHACO事業(個人向け通販):数量 90.0(年間購入顧客数(万人・推定))× 価格 5.36(1人あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 482 億円・営業利益 14 億円。顧客数が約1.3倍
- グループ会社・物流:数量 6.5(取引先(万社・推定))× 価格 265(1社あたり年間取扱額(万円・名目))→ 売上 1,725 億円・営業利益 86 億円。取引先が約1.4倍
倍率:事業の純利益 272 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 14.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.9 倍、時価総額 4,325 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画の上限に近い営業利益率を、10年の途中で達成し維持する筋書き。過去10年で一度も届かなかった水準なので、確率は低く置いた。
やや楽観 18% 回復は計画より遅いが、利益率4%に届く 利益 197 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 3,362 円3,010 億円
回復は計画より1〜2年遅れるが、顧客は被害前の水準を超える。値引きに頼った販促を終えると、粗利率が少しずつ戻る。オリジナル商品の比率は4割台後半まで上がる。対人サービス業種の開拓は進むが、大企業の購買はアマゾンビジネスと分け合う形になる。物流センターの再編で費用は下がり、営業利益率は4%近くに乗る。グループ会社は歯科と購買代行で売上が伸びる。LOHACOは赤字を脱し、小さな黒字を出す。ROEは15%台に戻るが、資本コストを大きく超える水準には届かない。事業の質は被害前より少しよい程度で、安定した薄利の会社として続く。
- ASKUL事業(法人向け通販):数量 142(稼働顧客数(万社・推定))× 価格 40(1社あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 5,667 億円・営業利益 238 億円。顧客+49%・名目単価+34%
- LOHACO事業(個人向け通販):数量 84.0(年間購入顧客数(万人・推定))× 価格 5.36(1人あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 450 億円・営業利益 9 億円。顧客数が約1.2倍
- グループ会社・物流:数量 6.0(取引先(万社・推定))× 価格 265(1社あたり年間取扱額(万円・名目))→ 売上 1,592 億円・営業利益 64 億円。取引先が約1.3倍
倍率:事業の純利益 197 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.92 倍、時価総額 2,939 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画の目標にほぼ沿って回復する筋書き。顧客基盤は戻りつつあるが、直近の四半期は前年を下回っており、計画より遅れる前提で置いた。
中立 34% 薄利のまま、ゆるやかに戻る 利益 138 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,139 円1,915 億円
顧客数は被害前を少し上回る水準まで戻り、その後は市場並みに伸びる。法人の消耗品は人口の減る国内で数量が伸びず、成長は新しい顧客層と取り扱いの拡大からしか出ない。値段は物価並みに上げられるが、粗利率は被害前の水準へ戻る程度にとどまる。営業利益率は3%を割る年が多く、10年の終わりでも3%に届かない。物流の集約で費用は下がるが、人件費の上昇がその効果を打ち消す。LOHACOは採算がほぼ均衡、グループ会社が小さな利益を足す。配当は純利益の4〜5割を保ち、自己資本は赤字で縮んだ分を取り戻す。会社は存続し、薄利の優良とは呼べない平凡な会社に落ち着く。 株主優待の費用は利益から引き済みで、還元には受け取り分(年約2.3億円×10年)を足している。
- ASKUL事業(法人向け通販):数量 135(稼働顧客数(万社・推定))× 価格 40(1社あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 5,387 億円・営業利益 178 億円。顧客+42%・名目単価+34%
- LOHACO事業(個人向け通販):数量 78.0(年間購入顧客数(万人・推定))× 価格 5.36(1人あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 418 億円・営業利益 2 億円。顧客数が約1.1倍
- グループ会社・物流:数量 5.6(取引先(万社・推定))× 価格 265(1社あたり年間取扱額(万円・名目))→ 売上 1,486 億円・営業利益 45 億円。取引先が約1.2倍
倍率:事業の純利益 138 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.78 倍、時価総額 1,902 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の見方の落としどころ。顧客は戻るが、価格競争で利益率は過去の天井に届かない。3つの筋書きの中で最も確率が高い。
やや悲観 28% アマゾンとモノタロウに押され、価格が上がらない 利益 64 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 643 円576 億円
アマゾンビジネスとモノタロウに、中小法人と工場向けの顧客を一部取られる。値引きで顧客を守るため、名目の購入額は物価ほど上がらない。粗利率は被害前の水準に戻らず、物流費の削減は人件費の上昇に食われる。営業利益率は2%を割り込む年が出る。LOHACOはLINEヤフーとの連携でも採算が取れず、赤字が続く。グループ会社は歯科と購買代行で小さな利益を出すが、全体を支えるには足りない。物流センターの家賃は固定費として残り、売上が伸びない分だけ利益を削る。配当は維持するが、自己資本はほとんど積み上がらない。会社は続くが、資本コストを稼げない普通の会社になる。
- ASKUL事業(法人向け通販):数量 118(稼働顧客数(万社・推定))× 価格 38(1社あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 4,498 億円・営業利益 90 億円。顧客+24%・名目単価+28%(値引きで物価に届かず)
- LOHACO事業(個人向け通販):数量 62.0(年間購入顧客数(万人・推定))× 価格 5.00(1人あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 310 億円・営業利益 −3 億円。顧客は横ばい圏・単価も物価未満
- グループ会社・物流:数量 4.6(取引先(万社・推定))× 価格 257(1社あたり年間取扱額(万円・名目))→ 売上 1,184 億円・営業利益 30 億円。取引先が約1.0倍
倍率:事業の純利益約60億円、ROEはk(8.5%)並み以下。構造的に利益率が上がらない筋書きで、倍率はkを稼げない会社のPERとして1÷kより低く置いた。式の上限(約11〜12倍)の約8割より下に置いた。利益の質が低く、ためた利益を額面どおりには評価しない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9 倍・時価総額 576 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:競争の構図から見て、慎重な見方が当たる確率として重く置いた。直近の四半期が前年を下回っていること、過去10年で利益率が3.6%を超えなかったことを根拠にする。
悲観 14% 顧客基盤が崩れ、利益の出ない会社に固定される 利益 4 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 240 円215 億円
アマゾンビジネスとモノタロウに顧客を奪われ、取引口座は被害直後の水準から増えない。値引きを続けるため、名目の購入額は物価の半分ほどしか上がらない。大企業の購買は、情報漏えいを理由に発注先を分散し、アスクルの比率は下がる。物流センターの稼働率が落ち、家賃と人件費が固定費として重くのしかかる。営業利益率はほぼゼロになる。LOHACOは縮み、赤字が続く。グループ会社も顧客の伸びが止まる。買収した事業の減損が出て、自己資本は縮む。配当は数年で止まり、最低限にとどまる。会社は続くが、稼ぐ力がほとんどなく、価値は資産の一部を回収できる額に近づく。親会社が完全子会社化を急ぐ動機も薄い。
- ASKUL事業(法人向け通販):数量 95.0(稼働顧客数(万社・推定))× 価格 34(1社あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 3,253 億円・営業利益 16 億円。顧客は被害期のまま・単価+15%
- LOHACO事業(個人向け通販):数量 45.0(年間購入顧客数(万人・推定))× 価格 4.80(1人あたり年間購入額(万円・名目))→ 売上 216 億円・営業利益 −6 億円。顧客が縮む・単価+20%
- グループ会社・物流:数量 4.0(取引先(万社・推定))× 価格 238(1社あたり年間取扱額(万円・名目))→ 売上 950 億円・営業利益 14 億円。取引先の伸びが止まる
倍率:事業の純利益は数億円でROEは約1%。稼ぐ力ではなく、今の自己資本に掛ける形で置いた。倍率は今の自己資本の約0.45倍(減損後の自己資本ではなく今の478億円に掛ける)。
確率:構造的な負け。大きな障害の再発や、アマゾンへの顧客の流出が重なれば起こりうる。過去20年に赤字の期が2回あり、直近の被害が実際に顧客を失わせたことを踏まえ、確率は軽くない値に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ASKUL事業(法人向け通販)
オフィス用品・飲料・清掃用品・梱包材・作業用品などを、事業所へ翌日届けるネット通販。中堅・大企業向けのSOLOEL ARENAを含む。
| 数量稼働顧客数(万社・推定) | 価格1社あたり年間購入額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 95.0 | 30 | 2,829 | −150 |
| 10 年後 中立 | 135 | 40 | 5,387 | 178 |
取り方:稼働顧客数は非開示のため推定。被害前の2025年5月期の売上は約3,590億円で、顧客は約119万社相当(1社約30万円)と置き、被害期の顧客の落ち込みを平均95万社として2026年5月期の売上2,829億円に合わせた。セグメント損益は非開示で、eコマース全体の赤字162億円を事業の売上規模で割り振って推定した。
LOHACO事業(個人向け通販)
LINEヤフーと組み、日用品・飲料・ペット用品などを個人に届ける通販。採算重視へ転換中。
| 数量年間購入顧客数(万人・推定) | 価格1人あたり年間購入額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 70.0 | 4.00 | 280 | −22 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 5.36 | 418 | 2 |
取り方:顧客数は非開示のため推定。売上280億円を、購入顧客約70万人×年間約4万円と置いた。損益は非開示で、eコマース全体の赤字162億円のうち約22億円と推定した。
グループ会社・物流
歯科向け流通のFEED、購買代行のアルファパーチェスなどの子会社と、物流受託などのロジスティクス事業。
| 数量取引先(万社・推定) | 価格1社あたり年間取扱額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 4.5 | 198 | 891 | −1 |
| 10 年後 中立 | 5.6 | 265 | 1,486 | 45 |
取り方:グループ会社等の売上820億円とロジスティクス・その他71億円の合計891億円。取引先約4.5万社×年約198万円と置いた(歯科医院や購買代行先など法人が中心という前提の推定)。損益はグループ会社が小幅の黒字、ロジスティクスが約11億円の赤字で、合わせてほぼ均衡と置いた。
リスクと懸念
障害の再発と信頼の回復
侵入口は多要素認証のない委託先の管理者アカウントだった。再び受注が止まれば、固定費の重い物流が赤字を一気に広げる。個人情報の漏えいと行政指導で、大企業の購買部門が発注先を分ける動きも出うる。
アマゾンビジネスとモノタロウ
品ぞろえと配送速度で同じ土俵に立つ相手が増えた。法人購買は価格の比較が容易で、乗り換えの手間も小さい。障害の間に他社を試した顧客が戻らなければ、販促費だけが残る。
計画の下期偏重
2027年5月期は売上が22%増える計画だが、直近の四半期は前年を8%下回った。粗利率も1.5ポイント落ちている。下期に思うほど戻らなければ、黒字化は遅れ、固定費の重さが表に出る。
物流費と人件費の上昇
物流費は人手不足で年3〜5%上がる。拠点の集約で吸収する計画だが、価格に転嫁しにくい商品が多い。効率化が遅れれば、利益率は2%台に沈む。
支配株主との関係
LINEヤフーが議決権の約47%、プラスが約12%を持つ。2019年には、この2社の反対で創業社長が退任した。親会社の都合で事業の切り分けや買い取りが進めば、少数株主の取り分は読みにくい。
買収した事業の減損
FEEDの持株会社で減損損失を48億円出した。小さな買収を重ねる戦略なので、顧客基盤の拡大が鈍れば、同じ種類の損失が続く恐れがある。
今後の分かれ目
- 月次売上が前年同月を上回り、粗利率が被害前の水準へ戻った場合
- 販促に頼らず顧客が定着した証拠になり、中立から強気側の筋書きに近づく。
- 2027年5月期の営業黒字化が達成できず、計画を下方修正した場合
- 回復の遅れが固定費の重さと重なり、やや悲観から悲観側の筋書きの確率が上がる。
- アマゾンビジネスが国内の中小法人向け送料と価格を一段と下げた場合
- 値引きで顧客を守る展開になり、利益率は2%台に沈む。やや悲観の筋書きに近づく。
- LINEヤフーが完全子会社化を目的にTOBを発表した場合
- 少数株主には買い取り価格の見極めが焦点になる。価値の前提には入れていないが、上振れ要因だ。
- 再び大きなシステム障害や情報漏えいが起きた場合
- 顧客基盤が二度傷つき、構造的な負けの筋書き(悲観)に一気に近づく。
- オリジナル商品の比率が5割に近づき、粗利率が1ポイント以上上がった場合
- 値決めの弱さが和らぎ、営業利益率4%台の筋書きが現実味を帯びる。
見ておくもの
- 月次売上の前年同月比と、ASKUL事業の顧客数・1社あたり購入額
- 粗利率(被害前の水準へ戻るか)と、物流費の対売上比率
- 2027年5月期の営業損益と通期計画の修正の有無
- オリジナル商品の比率と、対人サービス業種の売上の伸び
- LINEヤフー・プラスの持ち株比率と、完全子会社化への言及
倍率と資本コストの決め方
倍率は、中立・楽観側を正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限の9割前後に置き、やや悲観と悲観は構造的な負けの筋書きから別に置いた。今の株価や同業の倍率は見ていない。先に3つのセグメントを顧客数×1社あたり購入額で積み、その時点の利益と自己資本からROEを出した。顧客数と購入額は非開示のため推定で、売上の合計に合わせた。結果として、10年後の価値は今の時価総額をやや下回った。今の株価に寄せるなら、回復を計画どおりと置けば済むが、それはしていない。リースは、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえ、2028年3月期からの新リース会計基準で営業利益が少し増え純負債が増える点は反映していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→15.9 倍・やや楽観 PER 13→14.92 倍・中立 PER 12→13.78 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの合計+1.0%を足した。会社固有の事故やガバナンスのリスクはkに足さず、筋書きと確率で表した。