結論
データホライゾンは、自治体の医療費適正化を支え、蓄積した診療・健診データを製薬企業の研究にも役立てる会社である。筆者の結論は明確に割高だ。事業の社会的必要性は高いものの、株主が受け取れる利益と資金繰りの危うさを考えると、現在の時価総額に見合う稼ぎを十年後までに作る道は細い。
強みは、過去五年間に取引した約690自治体との関係と、利用許諾を得て蓄積した約1,913万人分の医療データである。受診勧奨や重症化予防は高齢化が進む社会で消えない。製薬会社が高齢者を含む実臨床データから治療効果を調べる仕事にも需要がある。ただし、長年の取引先数は当年度の契約件数ではなく、データの大きさそのものが独占を保証するわけでもない。
財務はこの魅力を大きく削る。2026年3月期の営業利益はほぼゼロで、最終黒字には子会社借入の債務免除益が含まれた。自己資本は約4億円なのに純有利子負債は約43億円あり、翌四半期には自己資本がさらに縮んだ。親会社DeNAの融資枠は当面の支えだが、少数株主の持分価値を保証するものではない。
十年の価値は、自治体から受ける分析・通知などの工数がAIで減る一方、独自データの活用と一部の対人指導が残る姿から考えた。会社の2030年度営業利益率目標には届かない可能性を中心に据え、非常に厳しい下振れも無視しない。現金の創出力と株主還元の証拠が揃うまでは、安全域を認めにくい。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方では、最初に尋ねるべきなのは十年後の売上より、利払いと継続投資を終えたあと何が手元に残るかである。データホライゾンは社会に必要なサービスを提供するが、2026年3月期は営業活動だけでは現金を生まず、ソフトウエア開発には追加の資金が出ていった。単なる赤字からの黒字転換だけでは、所有者に渡せる利益の回復を意味しない。
評価できるのは、保険者との信頼と実務の履歴が医療データの蓄積に結び付き、そのデータを研究に活用できる構造だ。高齢者を含む匿名加工データの蓄積は一朝一夕に真似できず、法令順守にも経験が要る。一方、翌年継続率約80%では価格決定力まで証明されない。行政の予算と案件ごとの入札が残る限り、需要が増えても利幅を守れるとは限らない。
再投資の成績も厳しく見る。DeSC取得で事業の見通しは広がったが、巨額減損と親会社融資への依存を招いた。新しいAI商品は既に売上を立てたものの、その額や反復利用率は公開されていない。したがって、未来の技術的な可能性を今の持分価値に大きく足すより、実際に利益として残るまで待つ考え方が合う。
最も重いのは財務上の安全域である。資産の相当部分がソフトウエアと換金しにくいのれんで、借入金は現預金を大幅に上回る。会社が存続しても、再建費用や希薄化を既存株主が負担する道は残る。親会社の存在を安心材料には数えても、少数株主のための無条件の保証とは扱わない。
何で稼ぐ会社か
会社の仕事は電子カルテの販売ではない。主軸のデータヘルス関連サービスは、市町村国保、後期高齢者医療広域連合、健康保険組合などから保健事業を受託する。レセプトと健診の情報を整え、医療費の分析、対象者の抽出、通知、保健指導、効果検証を行う。自治体への訪問営業や看護師の指導は、人が介在するからこそ成り立つ部分である。
2026年3月期の市町村国保等向け売上は20.52億円で、対象となる保険者1,716に対する2025年度事業の受注件数は365件だった。その他の保険者・健康増進サービスは12.67億円、同年度のその他受注件数は166件である。健康増進アプリ「kencom」もこの系列に入るが、アプリの個別売上や利用者当たり料金は開示されていない。受注件数と会計期間にはずれがあるため、契約単価は厳密な請求単価ではなく年換算の近似値である。
もう一つの柱はDeSCヘルスケアを軸とするデータ利活用サービスだ。製薬企業や大学に、匿名加工された保険者データ、解析、研究支援、データ基盤づくりを提供する。年間取引先は94社へ増え、医療データを用いた論文・学会発表は累積400件を超えた。健康保険組合に偏りがちな競合データに対し、国保や後期高齢者の情報を含む点が特徴だ。会社の「その他」売上0.89億円は分析上、この売上系列に加えている。
稼ぎの姿はデータ使用許諾料だけではない。研究課題ごとに専門家が加工・解析し、営業担当者が案件を獲得するため、人件費や開発費が重い。受診確率を予測するAIの自治体向け売上はすでに計上されたが、金額は非開示である。新しいAI商品が既存業務を上回る利益源になるかは、まだ検証の途中にある。
優良さと弱いところ
堀、すなわち他社が簡単に奪えない強みは、医療情報を集める権利と顧客との現場接点にある。レセプトの傷病名と診療行為を結び直す独自技術、プライバシーマークやISMSの運用、十年以上の保険者支援実績は、単なる分析外注より模倣しにくい。DeNAのkencomや人材との連携も、自治体への商品提案を広げる材料になる。
しかし、強い独占力とは呼べない。開示された翌年継続率は約80%で、ほぼ解約しない基幹システムとは違う。入札と年度予算の影響を受け、値上げが継続して通った証拠もない。独自データの蓄積は確認できるが、全顧客が何年も移行できない共同基盤になっている証拠は足りない。データ利活用にも、研究成果を納める労働集約的な部分が相当含まれる。
資本効率の見た目には注意がいる。2026年3月期の高いROEは、直前の巨額減損で自己資本が極端に小さくなった結果で、余裕のある高収益の証明ではない。営業利益はわずか0.2億円、営業キャッシュフローはマイナスだった。ソフトウエア開発への現金支出は償却費を上回り、会計上の利益がそのまま所有者の自由な現金になるわけではない。
会社はAIで一人当たり生産性を倍増させる方針を示す。それを達成すれば利益率は上がるが、同じ技術を自治体と競合が使えば、発注する分析の工数そのものも減る。改善した費用構造を低価格競争に奪われず、株主の利益として残せるかが試金石となる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の医療費は高齢化で増え、保険者には予防と重症化抑制の必要が続く。会社資料は2025年度のデータヘルス関連市場を約2,405億円、より広い保健事業支出を約7,000億円と紹介している。ただし、医療費や保健事業予算が増えることと、民間業者への委託単価が増えることは別問題だ。自治体は価格競争と調達規則に縛られる。
同社は2025年度事業に市町村国保等向け365件を受注した。対象1,716保険者の約21%に相当するが、複数発注の可能性があるため厳密な契約者シェアではない。約690自治体は五年累計の取引先であり、当年度シェアに足してはいけない。売上33.18億円を関連市場にそのまま比べると約1.4%にすぎず、調査対象と事業範囲が違う点に留意する。
競争相手は、保険者のデータ基盤と保健指導を展開するJMDC、健診・健康経営を支援する各社、地域の受託業者、自治体自身の内製部門である。JMDCは2026年3月期に442の健保組合等と継続契約し、約2,076万人の加入者をカバーすると開示した。ただし主戦場は健保組合であり、国保に強いデータホライゾンの自治体受注件数と直接足し引きできない。製薬研究向けデータではJMDCやメディカル・データ・ビジョンが競合するが、データ源が重複しうるため公表された人数から売上市場シェアは計算できない。
会社資料が挙げる医療ビッグデータ関連市場は2022年約2,000億円から2035年約7,000億円へ成長する予測だが、同社が実際に狙える範囲は数百億~1,000億円にとどまる。現在の利活用売上はその数%程度で、伸びる余地はある。反面、匿名加工情報の扱いの厳格化と、公的データ利用の仕組みの変化は参入機会にも競争圧力にもなる。最大の構造変化はAIエージェントがデータ抽出、レポート作成、研究の定型解析を顧客側で代替することだ。
資本政策と M&A
資本配分は厳しい評価になる。2022年にDeNAの連結子会社となり、同年にDeSCを子会社化して、保険者への営業接点と医療データ事業をまとめた。しかし、この投資で増えた無形資産は2025年3月期の巨額減損で傷み、当時の高成長期待が株主利益に結び付かなかったことを示した。2026年3月期には子会社借入の債務免除益が最終利益を押し上げ、kencomの耐用年数延長も償却費を約0.26億円軽くした。
2026年3月末の自己資本は約4.2億円、純有利子負債は約42.7億円である。2026年9月、DeSCは資金不足への備えとしてDeNAからの借入枠を28億円から36億円に増やした。金利は一か月TIBORに0.5%を加える変動金利だ。過半数を持つ親会社の支援は資金繰りを助けるが、借金の返済、追加増資、親子上場の解消をめぐる少数株主の立場には注意が要る。
会社は2027年3月期に売上60億円、営業利益4億円、純利益2.6億円を予想している。2030年度へ向けては営業利益率15%超、AI関連売上比率20%以上という構造目標を掲げる。一方、同計画にROE、配当性向、DOE、総還元性向、自社株買い金額の数字の約束はない。近年は無配であり、まず借入と資本の厚みを改善すべき段階だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
医療費適正化は景気によって消えない社会課題であり、保険者が限られた職員で予防施策を回す必要はむしろ高まる。データホライゾンには長年の自治体営業、看護師などの専門職、レセプト加工技術が同居している。これらの組み合わせは、単に生成AIへ質問できる会社にはすぐに用意できない。保険者が許諾したデータを長期で連ね、高齢者に強い研究材料を提供できる点にも希少性がある。
約690自治体との接点は、既存保健事業の更新だけでなく、kencomや特定健診の受診確率予測AIを横に広げる入口になる。受診確率予測AIは既に売上を生み、ノボ ノルディスク ファーマとの共同開発も動き出した。会社が一人当たり生産性を倍増させる改革に成功すれば、受託工数は縮んでも粗利を厚くできる。新規開発を止めるのではなく、以前の事業の知識をより高付加価値の商品へ変えられる。
DeNAは資本だけでなく人材と営業の面でも支えており、2026年の融資枠増額は短期的な倒産リスクを抑える。借金の負担を徐々に減らし、四半期の季節変動を乗り切れば、2030年度の営業利益率目標が達成できる。こうなれば費用削減で生まれた利益を借金の返済に回した後、ようやく普通の株主還元を検討できる。競争力の種は現に存在しており、再建だけの企業と切り捨てるのは早い。
慎重な見方
社会に必要な仕事であることと、外注する会社の利益が残ることは同じではない。自治体は調達を毎年度見直し、国保財政も厳しい。データを読み込んで対象者を選ぶ作業や通知文を作成する仕事は、AIエージェントが著しく安く処理できる。従来の専門家が時間を掛けることに対価を払っていた顧客ほど、自ら処理する動機が強い。製薬企業の研究支援でも、標準的な抽出と集計は自動化が進む。
「独自データ」の価値も無敵ではない。保険者が二次利用に同意して初めて使えるため、許諾の撤回や取得条件の厳格化で使える範囲が変わる。JMDCには健保組合の広い顧客基盤があり、公的な匿名医療データの利用制度も変化している。解約率が極端に低いという証拠もなく、データの保有だけで強い価格支配力を認めることはできない。
さらに、財務が利益改善を待ってくれるとは限らない。純有利子負債は自己資本の十倍を超え、2027年3月期第1四半期には再び純損失を出した。DeSCはその後も運転資金不足に備え親会社への融資枠を増やしている。仮に事業の価値が保たれても、資本注入や借金の条件変更で少数株主の取り分は減りうる。減損した資産を帳簿上だけ回復させて価値を生むことはできず、最悪の場合は上場の継続自体が問題になる。
どちらに重みを置いたか
データの蓄積と自治体への継続的な営業力は本物だが、利益への転換と財務の回復はまだ実証段階にある。AIが競争相手にも同じ生産性改善をもたらすため、数量を過去の売上成長の延長で伸ばさない。確率は上側24%より下側46%を厚くした。これはAIによる需要の縮みを二度織り込むためではなく、自己資本の薄さ、四半期赤字、親会社融資への依存という個別の再建リスクがあるためだ。現在の時価総額と比べた割高という判断は、上振れの筋書きが実現しても容易に解消しない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 205 円26 億円(+ 還元の換算額還元の合計 6 円1 億円)。 今の値に割り戻すと 79 円10 億円、今との差 −88.7%、 期待の年率 −11.4%(資本コスト 10.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 779 円99 億円 | 47 円6 億円 | +17.6% | +1.7% | 66 円8 億円 |
| やや楽観 | 16% | 494 円63 億円 | 16 円2 億円 | −27.4% | −3.2% | 82 円10 億円 |
| 中立 | 30% | 185 円23 億円 | 0 円0 億円 | −73.7% | −12.5% | 56 円7 億円 |
| やや悲観 | 28% | 24 円3 億円 | 0 円0 億円 | −96.6% | −28.8% | 7 円1 億円 |
| 悲観 | 18% | 8 円1 億円 | 0 円0 億円 | −98.9% | −36.2% | 1 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 205 円26 億円 | 6 円1 億円 | −69.9% | −11.4% | 211 円27 億円 |
今の株価時価総額 703 円89 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% AIで人件費が減り、独自データの採算が開く 利益 8 億円 · PER 9.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 779 円99 億円
AIエージェントに任せられる報告書作りと定型解析を社内で徹底的に自動化し、保健師や自治体営業の仕事は難しい案件に集中する。自治体の保健指導の成果を見せる力が上がり、調達更新でも既存の取引基盤を維持できる。kencomの導入は広がるが、ID数の増加をそのまま売上急増とは見ない。製薬企業には1,913万人超の許諾済みデータから再現性のある研究材料を継続して届け、単価を維持する。
ノボ ノルディスク ファーマとの共同開発や受診確率予測AIが事業の顔となり、会社が掲げる2030年度の営業利益率15%超も実現する。DeNAの融資支援が続く間に負債の返済を進め、累積黒字が自己資本を厚くする。自治体の保険者数には上限があり、工数型事業がAIで置き換わるため、楽観でも既存の年間案件・取引社数は現在を超えない。利益の伸びは主に生産性の改善から生まれ、十年後には配当を再開する余裕が出る。
- 市町村国保・国保組合向けデータヘルス:数量 365(市町村国保等の年間受注件数(件、顧客年度、契約数の近似))× 価格 0.08(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 27 億円・営業利益 7 億円。自治体向けの受注数量と代理単価を別々に想定。AIによる定型分析・通知の代替を反映。
- その他保険者・kencom・保健指導:数量 166(その他保険者向け年間受注件数(件、顧客年度、代理数量))× 価格 0.10(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 17 億円・営業利益 4 億円。操作画面・運用の代替と対人指導が残る混合商流。
- 医療データ利活用・研究支援・その他:数量 94.0(過去12カ月のデータ利活用取引社数(社、重複なし))× 価格 0.26(取引社1社当たり連結関連売上の近似値(億円/社、名目))→ 売上 24 億円・営業利益 7 億円。独自データは残るが顧客の解析内製化で人月型を減らす。
倍率:資本コスト10.5%、AI代替を反映した10年以降の名目g=0%。終点の事業ROEは8.37÷42.0=19.9%、通常の堀が半分残るRONICは15.7%。正当化PER=(1−0÷RONIC)÷(0.105−0)=9.52倍、上限そのもの。余剰現金はゼロで二重加算なし。負債の利払いを純利益から控除済み。
確率:AI予測サービスの売上計上実績、独自データ1,913万人とDeNA協業の強みを最大限生かし、2030年度の会社目標を上回る利益率へ改善する場合。ただし完全な価格支配力や大量の商品売上が未開示のため小さな確率とした。
やや楽観 16% 既存商品で生産性改善が先行 利益 5 億円 · PER 9.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 494 円63 億円
自治体の報告書と通知は自動化が進むが、保険者の制度や予算に沿って運用できる人材は残る。市町村国保の受注件数はやや減るものの、全国への営業体制と既存データの品質によって競合への流出を小さく抑える。保健指導やkencomは必要とされ続け、追加機能の導入が単価の目減りを補う。
製薬・大学向けは独自データを含む研究支援に仕事を絞り、取引社数は緩やかに減る。案件当たりの付加価値を引き上げるため、売上は今より名目で大きくなるが、数量をAI以前の伸びで外挿しない。組織の再編と既存ソフトの再利用で費用率を下げ、利益は2026年から着実に改善する。DeNAからの運転資金を規律ある返済計画に切り替え、わずかな株主還元が復活する。ただし、独占的な共同基盤には至らず、価格と契約更新には競争が残る。
- 市町村国保・国保組合向けデータヘルス:数量 320(市町村国保等の年間受注件数(件、顧客年度、契約数の近似))× 価格 0.07(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 24 億円・営業利益 5 億円。自治体向けの受注数量と代理単価を別々に想定。AIによる定型分析・通知の代替を反映。
- その他保険者・kencom・保健指導:数量 155(その他保険者向け年間受注件数(件、顧客年度、代理数量))× 価格 0.10(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 16 億円・営業利益 3 億円。操作画面・運用の代替と対人指導が残る混合商流。
- 医療データ利活用・研究支援・その他:数量 88.0(過去12カ月のデータ利活用取引社数(社、重複なし))× 価格 0.25(取引社1社当たり連結関連売上の近似値(億円/社、名目))→ 売上 22 億円・営業利益 6 億円。独自データは残るが顧客の解析内製化で人月型を減らす。
倍率:終点事業ROEは5.27÷29=18.2%、k10.5%、通常の堀でRONIC約14.35%。g_long0%で正当化PERは9.52倍となり、AIによる工数収入の寿命をPERとkの双方で重ね引きしない。余剰現金を独立に計上しない。
確率:会社のAI活用方針が作業時間短縮に実を結び、データ保有の価値が残る想定。改善の方向は確かめられる一方、営業黒字の実績がまだ浅く親会社資金に依存するため、楽観の範囲として重みを限定した。
中立 30% 顧客基盤は残るが工数型収入が細る 利益 2 億円 · PER 9.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 185 円23 億円
自治体の保健事業は続くが、支出の多くを占める報告書、定型的な通知文、データ抽出はAIで自動化される。データホライゾンは保険者との関係を保つ一方、従来と同じ仕事量の発注は得られない。市町村国保の受注量は現状の約三分の二となり、付加価値の高い重症化予防を中心に残る。kencomなども操作画面を介する業務は競争が増すが、対人指導は一定量維持される。
データ利活用では、国保・後期高齢者を含む長年の蓄積が研究には役立ち、JMDCと真正面から同じ客層を取り合うだけではない。それでも解析を人手で請け負う仕事は減り、年間の取引社数は縮む。売上総額は名目でも今を下回る一方、AIを自社の作業削減に使うことで営業利益率は改善する。会社が示す2030年度目標は達成しないが、融資を更新しながら小幅の本業黒字を積み重ね、十年間は配当より財務の立て直しを優先する。
- 市町村国保・国保組合向けデータヘルス:数量 245(市町村国保等の年間受注件数(件、顧客年度、契約数の近似))× 価格 0.07(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 17 億円・営業利益 3 億円。自治体向けの受注数量と代理単価を別々に想定。AIによる定型分析・通知の代替を反映。
- その他保険者・kencom・保健指導:数量 132(その他保険者向け年間受注件数(件、顧客年度、代理数量))× 価格 0.10(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 13 億円・営業利益 2 億円。操作画面・運用の代替と対人指導が残る混合商流。
- 医療データ利活用・研究支援・その他:数量 68.0(過去12カ月のデータ利活用取引社数(社、重複なし))× 価格 0.23(取引社1社当たり連結関連売上の近似値(億円/社、名目))→ 売上 16 億円・営業利益 4 億円。独自データは残るが顧客の解析内製化で人月型を減らす。
倍率:終点事業ROE2.01÷17=11.8%でk10.5%を僅かに上回り、通常の堀でRONIC11.2%。長期g0%により正当化PERは9.52倍である。10年後の実質案件数減少と名目単価上昇は利益の量にすでに反映されている。現金の別建て加算はしない。
確率:既存の受注件数と顧客基盤を起点に、AI代替の型に従い市町村国保の分析事務を0.67倍、その他保険者の混合サービスを0.80倍、研究支援を0.72倍へ縮める。高齢化の需要と価格維持が一部下支えする中心の筋書き。
やや悲観 28% AIと入札の同時圧力で再び赤字 利益 −2 億円 · PBR 0.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 24 円3 億円
多くの自治体は保健事業を続けるものの、年度ごとの分析計画や通知文の作成は自治体の職員がAIを使って処理する。競合受託会社も同じ道具を使い、入札単価は物価ほどは上がらない。長く取引した自治体でも更新時に仕事を減らすため、年間受注件数は現在の半分ほどに縮む。kencomは一部の利用者に残るが、汎用アプリと自治体ポータルへの機能統合が進む。
製薬企業では独自データが必要な臨床研究は残るものの、定型解析を外注する件数が減る。データ更新と情報セキュリティの固定費は削りきれず、連結営業利益が再び赤字になる。過去のDeSC買収で膨らんだソフトウエアと債務の処理が重荷となり、親会社融資の条件変更または追加資本注入が議題に上る。十年後に事業そのものは残っていても、普通株主の取り分は売上高以上の速さで目減りする。
- 市町村国保・国保組合向けデータヘルス:数量 185(市町村国保等の年間受注件数(件、顧客年度、契約数の近似))× 価格 0.07(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 13 億円・営業利益 2 億円。自治体向けの受注数量と代理単価を別々に想定。AIによる定型分析・通知の代替を反映。
- その他保険者・kencom・保健指導:数量 105(その他保険者向け年間受注件数(件、顧客年度、代理数量))× 価格 0.09(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。操作画面・運用の代替と対人指導が残る混合商流。
- 医療データ利活用・研究支援・その他:数量 50.0(過去12カ月のデータ利活用取引社数(社、重複なし))× 価格 0.22(取引社1社当たり連結関連売上の近似値(億円/社、名目))→ 売上 11 億円・営業利益 2 億円。独自データは残るが顧客の解析内製化で人月型を減らす。
倍率:純利益が赤字で正当化PERが意味を持たないため、残存する事業資産と赤字を前提にPBRで算定する。現在の自己資本約4.2億円×PBR0.714=約3億円。2036年の自己資本10億円は過去の積み上げであり、長期赤字時の清算価値には使わない。純現金と売却可能資産から負債を控除した床を下回らない。通常事業の稼ぐ力を高倍率で見ない。
確率:下に寄せる理由:自己資本がわずか4億円台まで減った直後、2027年3月期第1四半期には再赤字となり、親会社から追加融資枠を確保した。AIで案件当たりの工数が減る間、固定費を十分に削れない固有の経営リスクが大きい。
悲観 18% 保険者データを生かせず資本再編へ 利益 −5 億円 · PBR 0.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 8 円1 億円
保険者の調達は官公庁の共通基盤や大手の共同利用サービスへ集まり、データホライゾンの受注件数は現在の四割以下に落ちる。生成AIで保健事業の分析と資料作成が内製化されるだけでなく、保険者が匿名加工データの二次利用を厳しく制限する。累積データは古くなり、更新の権利と費用を確保できず、製薬企業向けの研究支援も細る。
看護師が行う指導は必要とされるが、事務所、情報管理、人員再配置にかかる固定費を賄えない。DeNAはグループ全体の合理性を優先して、債権回収や事業売却、少数株主に不利な条件の資本再編を選ぶ可能性がある。過去の利益である程度は自己資本を維持できたとしても、終点の営業損失が続けばその帳簿価額は普通株主の換金価値にはならない。倒産に近い再編ケースでは純現金がなく、ソフトウエアやのれんも売りにくいため、悲観的な持分価値は極めて小さい。
- 市町村国保・国保組合向けデータヘルス:数量 135(市町村国保等の年間受注件数(件、顧客年度、契約数の近似))× 価格 0.07(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。自治体向けの受注数量と代理単価を別々に想定。AIによる定型分析・通知の代替を反映。
- その他保険者・kencom・保健指導:数量 70.0(その他保険者向け年間受注件数(件、顧客年度、代理数量))× 価格 0.09(年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。操作画面・運用の代替と対人指導が残る混合商流。
- 医療データ利活用・研究支援・その他:数量 38.0(過去12カ月のデータ利活用取引社数(社、重複なし))× 価格 0.20(取引社1社当たり連結関連売上の近似値(億円/社、名目))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。独自データは残るが顧客の解析内製化で人月型を減らす。
倍率:倒産に近い状況なので利益倍率は使えない。今の自己資本約4.2億円を基準に、借入金が資産を上回りやすい処分価値と株主取り分の劣後性を見てPBR0.238倍、時価総額約1.0億円とする。十年間で増えた帳簿純資産を無条件の床には用いない。
確率:下に寄せる理由:親会社からの資金援助が必要な状態で、許諾データと研究支援の競争優位を同時に失うと少数株主持分の毀損が大きい。近年の減損、負債超過寸前まで薄くなった自己資本を重視した。破綻を確実視するわけではない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
市町村国保・国保組合向けデータヘルス
市町村等の保険者に対するレセプト分析、データヘルス計画、受診勧奨、通知と運用。AI代替の主対象である分析・事務工数型。
| 数量市町村国保等の年間受注件数(件、顧客年度、契約数の近似) | 価格年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 365 | 0.06 | 21 | 2 |
| 10 年後 中立 | 245 | 0.07 | 17 | 3 |
取り方:会社の2026年5月説明資料p.22で2025年度事業の市町村国保向け受注365件、対象保険者1,716件、p.38で2026年3月期の当該顧客区分の認識売上20.52億円を確認した。認識の時期と発注年度は一致せず、20.52÷365=約0.0562億円は年間請求単価ではなく規模把握用の代理値である。受注対象ベース約21.3%は案件数比率であり自治体数の市場シェアとは区別。AIエージェント代替の型は人月・工数(分析・レポート・通知・運用)。中立で数量0.67倍、価格1.27倍。営業利益は事業別非開示のため、本社共通費控除前の分析上の寄与利益2.2億円と概算した。3商流の寄与利益5.7億円から共通費5.48億円を控除すると全社営業利益0.22億円となる。
その他保険者・kencom・保健指導
健康保険組合・広域連合向け保健事業、健康増進アプリkencom、看護師等による保健指導。人的運用と操作画面型ソフトの両方を含む。
| 数量その他保険者向け年間受注件数(件、顧客年度、代理数量) | 価格年間受注1件当たり認識売上の近似値(億円/件、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 166 | 0.08 | 13 | 1 |
| 10 年後 中立 | 132 | 0.10 | 13 | 2 |
取り方:同説明資料p.22にその他保険者等の2025年度受注166件、対象2,833保険者、p.38に売上12.67億円。12.67÷166=約0.0763億円は契約単位・会計期間がそろわないため代理単価。kencomの132団体導入は累計の別指標であり166件には足さない。AI代替はID・操作画面を介する業務ソフトの数量0.70~0.90倍、工数の0.55~0.75倍、対人保健指導の現場部分は従来型と分け、構成比は非開示なので混合した中立0.80倍、価格1.26倍を使う。寄与営業利益1億円は非開示の推定。
医療データ利活用・研究支援・その他
DeSCの匿名加工レセプト・健診DB、製薬企業・大学向け研究解析、データ整備、AIプロダクト。未分類の小規模売上も分析上ここに含める。
| 数量過去12カ月のデータ利活用取引社数(社、重複なし) | 価格取引社1社当たり連結関連売上の近似値(億円/社、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 94.0 | 0.19 | 18 | 3 |
| 10 年後 中立 | 68.0 | 0.23 | 16 | 4 |
取り方:同説明資料p.9・p.21に直近12カ月の取引先94社、p.38にデータ利活用売上17.34億円とその他0.89億円が開示される。連結全社売上との一致のため小規模なその他0.89億円だけ便宜上含め18.23÷94=約0.194億円を代理単価とした。純粋な利活用サービスの平均売上は17.34÷94=0.1845億円であり、顧客毎の単価・契約額ではない。固有データは契約済累積1,913万人、論文等400件超だが、低解約率5%未満や年単位の移行証明はなく「記録の正本」型の二証拠を満たさない。案件解析・DB整備という人月工数型が主とみて中立数量0.72倍、価格1.20倍、g_long0%。AI商品に売上実績はあるが金額は非開示、楽観でも数量1.0倍を越えない。寄与営業利益2.5億円は非開示の推定。3商流の開示売上を合計した51.42億円と全社売上51.41億円の0.01億円差は百万円表示の端数差とみる。
リスクと懸念
AIエージェント代替
レセプトの抽出、定型レポート、受診通知の文章作成、製薬企業の標準的な解析はAIエージェントが直接処理しうる。自治体向け市町村国保の受注案件数と製薬企業向け研究支援の取引数を同時に減らす。独自データや対人保健指導は残るが、作業時間を売る部分の値決め力は弱くなる。
親会社融資と自己資本の薄さ
2026年3月期の純有利子負債約43億円に対し自己資本は約4億円で、翌四半期はさらに薄くなった。DeNAからの融資枠は2026年9月に36億円へ拡大し、当面の運転資金を守る一方で借換えや親子間取引への依存も強い。追加増資なら普通株主の取り分が薄まる。
許諾と医療データの競争力
匿名加工された医療データの二次利用は保険者との契約、個人情報保護法、医療情報に関する運用指針に左右される。データを蓄積しただけでは永久の利用権は得られず、許諾の条件変更、更新費の増加、漏洩事故のいずれかで、研究向けの差別化と顧客の信用が同時に損なわれる。
保険者の調達・計画策定周期
第3期データヘルス計画の策定年度には受注が先行し、その反動を翌年度以降に受けた。自治体の財政悪化や制度変更で外部委託予算は変わり、値上げに十分な自由度はない。公的な共通分析ツールが整えば、保健事業が必要なままでも同社の受注金額だけが縮む可能性がある。
のれん減損と開発投資の再発
DeSC取得後の投資で無形資産が膨らみ、2025年3月期には巨額の減損損失を出した。2026年3月期はその後の償却軽減が黒字回復を助けたが、ソフトウエア開発のための現金支出は続く。新しいAI商品も売上・粗利の継続性が未検証であり、再投資が資本コストを下回るおそれがある。
親子上場と少数株主の利益相反
DeNAは過半数の株式を持ち、子会社には資金を融通する。DeNAが完全子会社化を選ぶ可能性はあるが、公表されたTOB予定や価格は確認できない。会社再編、債務条件の変更、子会社売却に当たり、連結グループに好都合な条件がそのまま少数株主に公正とは限らない。独立役員の審査の実効性を見守る。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益4億円の会社予想を、特別利益に頼らず達成したら
- 本業の固定費削減に実効性があるとみて、中立の営業利益率と純利益を引き上げる。ただし営業キャッシュフローが黒字かも同時に確かめる。
- 2030年度に営業利益率15%超とAI関連売上比率20%以上を、継続売上で実現したら
- 単純な工数代替以上の値決め力を検証し、やや楽観側を厚くする。AI商品の顧客数と売上金額が開示されるまでは長期成長率を引き上げない。
- 市町村国保の年間受注件数が365件から大きく減り、更新率も下がったら
- 自治体シェアの堀が削れている証拠として、市町村国保向けの数量を下方修正し、やや悲観の確率を高める。
- 研究支援取引先数が94社から増えても顧客単価が縮んだら
- AIによる解析外注単価の低下が始まったと評価し、データ利活用の単価と利益率を引き下げる。会社数だけの増加では収益力の改善と見なさない。
- DeNA融資の借換え条件が悪化したり、財務改善を理由に第三者割当増資を決議したら
- 利払いと既存株主の希薄化を別々に評価し、普通株主に残る価値を下げる。調達による現金流入を企業価値の無償の増加とは数えない。
- 親会社によるTOBや株式交換、上場廃止の正式な予定が公表されたら
- 長期の事業価値分析より具体的な取得条件と少数株主の対価の検証を優先し、この十年シナリオによる判断を停止する。
見ておくもの
- 市町村国保の年間受注件数365件、その他166件を起点とした更新推移と新規受注
- データ利活用の年間取引94社・製薬企業等43社と上位20社の顧客当たり取引額
- 契約済み累積1,913万人分のデータの利用許諾の増減と共同研究の継続率
- 2030年度営業利益率15%超・AI関連売上比率20%以上の達成と実額の開示
- 営業キャッシュフロー、ソフトウエア開発投資、親会社融資枠と借換金利
- 2027年3月期第1四半期以降の自己資本比率、第三者割当・優先株・株式交換の発表
- 正式なTOB、MBO、上場廃止予定、継続企業の前提に関する注記の有無
倍率と資本コストの決め方
2026年10月22日の株価と株数は最後の比較にのみ使い、各事業の数量には自治体向け年間受注365件と166件、医療データ利活用の年間取引94社を使った。受注件数は継続契約や収益認識と一致しないため、売上を割った数値は代理単価であり実際の契約価格ではない。会社が公表した単一の会計セグメントを、売上を開示する三つの商流に細分化した。物価上昇は名目の単価にだけ反映した。
AIエージェント代替による収入の縮みは中立の数量と10年先のg_longに入れ、追加のkの寿命には入れない。事業に固有の財務再建リスクは別途distressと確率で見た。PERは10年後のROEと資本コストから算出するが、g_longが0%のため、楽観から中立の正当化上限は1÷10.5%となる。会社の負債が重く、直近のEV約133億円を直近営業利益約0.22億円で割ると600倍前後となるが、営業利益がほぼゼロなので安定した比較倍率とは扱わない。純負債約43億円を時価総額に別途足さず、将来の利払いを純利益から控除する。新リース会計基準で表示上の負債が増えても、家賃をすでに営業費用とする収益力は二重に減額しない。
資本コスト 10.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。