結論
東映は、実写映画・特撮・テレビドラマを作る老舗の映像会社だ。連結の営業利益361億円のうち、およそ9割は子会社の東映アニメーションが稼ぐ。筆者の結論は割高である。決め手は、東映の株主に回る取り分の小ささだ。
東映が持つ東映アニメの議決権は約41%にとどまる。残る約59%は市場の株主のものだ。連結の営業利益が大きく見えても、東映の純利益はその半分ほどにしかならない。過去10年の平均がそうだった。
東映アニメは、ワンピースやドラゴンボールの版権で稼ぐ高収益の会社だ。東映本体は違う。映画やテレビの製作費を先に払い、映画館、催事、不動産で薄い利益を足している。2027年3月期は、会社自身が営業利益の2割減を見込む。
10年後の中立では、東映の株主の純利益は230億円弱と置いた。株主への還元は軽く、現金は子会社にたまる。自己資本が厚くなるぶんROEは5%台にとどまる。資本コストに届かない会社に、高い倍率は付けられない。
東映アニメの株と上場株式の持ち分だけで、今の時価総額のかなりの部分を占める。ここに本体の事業の値打ちを足しても、今の値段は取り分より先を行く。親子上場の解消などで構造が変われば、見方は変わりうる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東映は「割安に見える持株会社」の形をした会社だ。筆者が目を向けるのは、堀よりも先に、取り分である。
東映アニメの営業利益は東映の連結の9割近くを占めるが、東映の株主のものになるのはその約4割にすぎない。同じ1億円の利益でも、東映を通して持つと取り分は半分以下に削られる。この差を値段が織り込んでいるかどうかが、判断の中心になる。
オーナーとして持ち続けたいかと言えば、東映アニメのほうだ。版権は少ない元手で稼ぎ、現金が積み上がる。一方の東映本体は、製作費を先に出す商売で、配当も軽い。たまった現金が株主の手に戻らないなら、帳簿の厚みは価値にならない。
安全域は、持っている資産の側に見える。東映アニメの株、555億円の上場株式、不動産が、悪い年でも値段を支える。ただし東映アニメの株は、アニメの版権の出来に左右される。
筆者の見立てはこうだ。事業は存続し、東映アニメは当面強い。それでも、今の値段は、取り分と還元の軽さを考えると払いすぎである。
何で稼ぐ会社か
東映は1951年に映画会社として生まれた。いまの稼ぎ方は5つの事業に分かれる。映像関連、興行関連、催事関連、観光不動産、建築内装だ。
映像関連が売上の7割弱、営業利益のほぼ全部を占める。実写では「仮面ライダー」などの特撮、テレビドラマ、劇場映画の企画・製作・配給と、配信向けの権利販売がある。アニメは東映アニメが担う。ワンピース、ドラゴンボール、プリキュアなどの版権を、国内外の配信会社・玩具会社・ゲーム会社に貸して稼ぐ。東映アニメは東映の連結子会社だが、東映が持つ議決権は約41%だ。
興行関連は映画館の運営だ。ティ・ジョイが23館・230スクリーンを持つ。東宝のような全国規模の寡占ではなく、都市部に絞った中堅である。2026年3月期は「鬼滅の刃」や「国宝」など他社の大ヒットが映画館を押し上げた。
催事関連は、東映太秦映画村、特撮の展覧会、ヒーローショー、キャラクターグッズの店だ。観光不動産は、渋谷東映プラザなど約20の物件の賃貸とホテルを含む。建築内装は商業施設や映画館の内装工事で、受注が伸びている。
顧客は事業ごとに違う。映像は配信会社・テレビ局・玩具会社、興行と催事は個人の来場者、不動産は都心のテナントである。映像は当たり外れが大きく、不動産と催事が下支えをする作りだ。
優良さと弱いところ
東映の堀は、作品を企画し、撮り、配り、二次利用で何度も稼ぐ流れを一社で持つことだ。東西の撮影所、ポストプロダクション、特撮の蓄積がある。劇場映画は4,400作品以上、テレビ映画は3.8万話を超える。ここから「仮面ライダー」やアニメの版権が生まれ、世代をまたいで稼ぐ。
ただし堀の中身は偏っている。利益の9割近くは東映アニメで、そこはワンピースとドラゴンボールという少数の長寿IPに寄る。東映本体の映像は、製作費を先に払う商売なので、ヒットしても利益が残りにくい。映像関連のうち東映アニメを除く部分は、利益がほとんど出ていない計算になる。
資本の効率はよくない。ROEは過去10年の中央値で6.5%、2026年3月期の8.0%も不動産の売却益に支えられた数字だ。純現金は868億円と厚いが、うち764億円は東映アニメの現金で、その約59%は他の株主のものである。東映のものとして見える現金は、見かけよりずっと少ない。
経営の資本配分には疑問が残る。配当性向は1割前後と低く、中長期ビジョンは大型投資の資金を当面は借金で賄うとしている。稼いだ現金を子会社にためたまま、投資を増やす姿勢だ。業績連動の株式報酬や指名・報酬委員会を置くなど、統治の形は整えている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の映画産業は、人口減と配信への時間の移りという逆風の中にある。2025年は「鬼滅の刃」「国宝」で興行が過去最高になったが、これは2本の例外が重なった年だ。東映の映画館事業も、その追い風を受けただけである。
東映の稼ぎを決めるのは、国内の映画館よりも世界のアニメと特撮の需要だ。世界のアニメ関連市場は拡大が続き、配信各社は日本のアニメを競って買っている。東映アニメは2031年3月期に売上2,000億円・営業利益500億円を掲げ、海外の版権収入を伸ばす。東映の長期ビジョンも、海外比率を約30%から約50%に高める構えだ。
競合は領域ごとに違う。実写・配給では東宝と松竹、アニメではソニーグループのアニプレックス、KADOKAWA、集英社などの原作側、海外ではディズニーやNetflixのような自社制作を強める勢力が相手になる。東宝は映画館網という強い武器を持つが、東映は作品と版権の厚みで戦う。
構造的な変化は2つある。ひとつは配信大手の自社制作の強化で、日本のアニメの買い手が、同時に競争相手にもなる。もうひとつは生成AIで、制作費を下げる一方、作る側の参入障壁も下げる。景気の影響は、広告ほど大きくない。ただし映画やテーマ施設は娯楽支出なので、不況では来場者が落ちる。
不動産は、都心の賃料と金利の動きに左右される。2022〜2025年の都心オフィスは底堅いが、金利が3%台になる世界では、買い手が求める利回りも上がる。
資本政策と M&A
株主還元は軽い。2026年3月期は特別配当を加えて増配したが、配当性向は1割に満たない。自社株買いも小さい。会社は「安定・継続的な配当」を掲げ、利益が出た年は特別配当で応える方針だ。
投資は拡大の方向だ。長期ビジョン「TOEI NEW WAVE 2033」は、2033年までにコンテンツへ2,400億円、製作設備と不動産に600億円を投じるとする。資金は当面、借金を優先する。2033年3月期の営業利益は250〜400億円、ROEは8%以上が目標だ。利益の目標が低いのは、ヒット頼みの映像のならしを見ているためだ。
M&Aは、買う側の話が中心だ。海外パートナーとの共同制作や合弁は進めているが、大型の買収はまだない。東映自身が買われる可能性は、kabufuの推計で10年以内に14.7%と低い。
最大の論点は東映アニメとの関係だ。東映は約41%を持ち、東映ビデオなどの分を足して約40%となる。東映アニメの時価総額を考えれば、この持ち分は東映の時価総額の約3分の2に当たる。親子上場の見直しが進めば、東映が残りを買い取るのか、持ち分を市場に売るのか、東映アニメが独立するのかで、東映の株主の取り分は大きく変わる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
東映アニメは、ワンピースとドラゴンボールという世界級の版権を持つ。配信各社が日本のアニメを求める限り、版権の値段は上がりやすい。2031年3月期に営業利益500億円という会社の計画も、勢いのある海外の契約を見れば、無理な数字ではない。東映の営業利益はその9割近くを東映アニメが占め、持ち分の価値はその成長を丸ごと受け取る。
東映本体も、これまでの低収益を抜け出す土台がある。長期ビジョンは、毎年実写2本・アニメ1本以上の大型作品を出す。海外パートナーとの共同制作で、特撮の海外展開も進む。東映は世界へ向けて作品を出す方向に舵を切っており、新しい版権が増えれば、二次利用の収益が積み上がる。
不動産は、都心の賃料の底堅さで利益を支える。会社は10年後に不動産の営業利益を倍にすると言う。再整備が進む京都太秦と大泉の撮影所は、制作の効率を高める。
資本の面でも変化の余地がある。純現金は868億円で、借金の余力もある。親子上場の見直しが進めば、東映アニメの完全子会社化で連結の取り分が一気に増える。上場株式555億円の売却や特別配当の拡大も、株価の見直しにつながる。強気に立てば、東映は取り分が見えにくいだけの優良な映像会社である。
慎重な見方
東映の稼ぎの大半は、東映アニメの数本の版権に寄っている。ワンピースやドラゴンボールの勢いが落ちれば、利益は一気に細る。2027年3月期の営業利益は、会社自身が2割減を予想する。アニメの製作費が増えるうえ、前期の不動産売却益の反動が出る。
東映の株主は、その利益の約4割しか受け取れない。連結の営業利益を見て評価すると、取り分を倍近く見誤る。東映本体の映像は製作費を先に払う商売で、利益はほぼ出ていない。映画館は他社の大ヒットで一時的に潤っただけで、普段は薄利である。
資本の使い方にも不安が残る。配当性向は1割前後と低く、稼いだ現金は子会社にたまる。ビジョンは3,000億円の投資を掲げ、資金は借金を優先すると言う。投資が資本コストを超える稼ぎを生まなければ、自己資本が膨らむだけでROEは下がる。
構造の面では、配信大手の自社制作の強化と生成AIの拡大が、日本のアニメの値段を押し下げる。親子上場の見直しでは、東映アニメの少数株主を買い取るのに数千億円が要る。東映が買う側に回れば、値段より先に借金が増える。弱気に立てば、東映は割高な持ち分と薄い事業の寄せ集めである。
どちらに重みを置いたか
東映アニメの強さと、不動産の底堅さについては強気の見方が優勢だ。一方で、取り分の小ささと還元の軽さは、慎重な見方の指摘が正しい。2つの見方が一致するのは、東映アニメの版権が当面は強いという点だけだ。
確率は、東映アニメのシナリオに沿って置き、東映本体の事業の薄さと不動産の下支えは相殺した。中立に最も重みを置き、慎重側の筋書きにやや多めに振った。取り分と還元の軽さが10年変わらなければ、倍率は高く付かないからだ。
親子上場の見直しや東映アニメ株の売却は、上振れにも下振れにも働くので、確率は動かさず、条件の分岐として書いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,966 円3,728 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 848 円530 億円)。 今の値に割り戻すと 3,412 円2,132 億円、今との差 −43.6%、 期待の年率 +1.2%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 11,403 円7,125 億円 | 1,623 円1,014 億円 | +115.3% | +8.0% | 1,563 円977 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,638 円4,773 億円 | 1,144 円715 億円 | +45.2% | +3.8% | 1,932 円1,207 億円 |
| 中立 | 30% | 6,014 円3,758 億円 | 826 円516 億円 | +13.1% | +1.2% | 2,052 円1,282 億円 |
| やや悲観 | 23% | 3,862 円2,413 億円 | 515 円322 億円 | −27.7% | −3.2% | 1,007 円629 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,727 円1,079 億円 | 274 円171 億円 | −66.9% | −10.5% | 260 円163 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,966 円3,728 億円 | 848 円530 億円 | +12.6% | +1.2% | 6,814 円4,258 億円 |
今の株価時価総額 6,050 円3,780 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 海外の版権が伸び、東映アニメと本体の映像が同時に当たる 利益 437 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 11,403 円7,125 億円
東映アニメが版権の値上げと新しいIPで、売上を今の3倍近くに伸ばす。ワンピースとドラゴンボールに続く柱ができ、営業利益は1,000億円を超える。東映の持ち分は、その約4割が純利益に回る。
東映本体も変わる。海外パートナーとの共同制作が増え、特撮と実写の二次利用が積み上がる。映像の利益率は14%まで上がる。不動産は再整備が進んで利益が倍に近づき、催事と映画館も今より多くを稼ぐ。
それでも、東映の株主に回る純利益は、連結の営業利益の4割にとどまる。ROEは9.9%と資本コストを上回るが、配当を厚くしても自己資本は膨らむ。親子上場の整理に踏み込めば、さらに上振れる余地はあるが、この筋書きでは織り込まない。
- 東映アニメーション(連結):数量 21.4(主力IPの事業量(IP換算。版権・映像・商品を束ねた数量))× 価格 136(1事業量あたりの年間売上(億円))→ 売上 2,913 億円・営業利益 1,008 億円。版権の値上がりと新IP
- 実写・特撮・その他映像:数量 125(年間の新作と二次利用の件数(本・推定))× 価格 4.82(1本あたり売上(億円))→ 売上 603 億円・営業利益 84 億円。営業利益率14.0%
- 興行(映画館):数量 1,450(入場者数(万人・推定))× 価格 0.23(1人あたり売上(万円。チケット+売店+広告))→ 売上 326 億円・営業利益 29 億円。営業利益率9.0%
- 催事(映画村・展覧会・店舗):数量 880(来場・購入客数(万人・推定))× 価格 0.22(1人あたり売上(万円))→ 売上 192 億円・営業利益 27 億円。営業利益率14.0%
- 観光不動産・建築内装:数量 50.0(賃貸・宿泊・内装工事の床面積換算(万㎡・推定))× 価格 8.04(1㎡あたり年間売上(万円))→ 売上 402 億円・営業利益 64 億円。営業利益率16.0%
倍率:事業の純利益 431 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)292 億円。全体の PER 15.57 倍、時価総額 6,802 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 14.55 倍・時価総額 6,357 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:東映アニメの海外契約と東映の海外共同制作が同時に噛み合う必要があり、連続して成功する確度は高くない。ただし実現した時の上振れは大きい。
やや楽観 22% 東映アニメが計画に近づき、本体も黒字を積む 利益 306 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 7,638 円4,773 億円
東映アニメは版権の値段が物価を超えて上がり、売上が2,000億円を超える。会社が掲げる2031年3月期の売上2,000億円・営業利益500億円に、10年遅れずに届く道筋だ。営業利益は650億円前後になる。
東映の映像は大型作品の数が増え、利益率が12%まで改善する。特撮の海外販売が少しずつ積み上がる。不動産は再整備が進み、会社が言う利益の倍増に近づく。
東映アニメの取り分の約4割が純利益に回る点は変わらない。純利益は300億円ほどに伸びるが、ROEは7%台で資本コストにわずかに届かない。還元を3割台に強めても、現金が積み上がる構造は残る。競合の東宝や東映アニメの同業と比べても、東映の利益率は特に高くならない。この筋書きでは大型の買収も入れていない。
- 東映アニメーション(連結):数量 18.7(主力IPの事業量(IP換算。版権・映像・商品を束ねた数量))× 価格 117(1事業量あたりの年間売上(億円))→ 売上 2,192 億円・営業利益 657 億円。計画に近い伸び
- 実写・特撮・その他映像:数量 112(年間の新作と二次利用の件数(本・推定))× 価格 4.82(1本あたり売上(億円))→ 売上 540 億円・営業利益 65 億円。営業利益率12.0%
- 興行(映画館):数量 1,350(入場者数(万人・推定))× 価格 0.23(1人あたり売上(万円。チケット+売店+広告))→ 売上 304 億円・営業利益 23 億円。営業利益率7.5%
- 催事(映画村・展覧会・店舗):数量 820(来場・購入客数(万人・推定))× 価格 0.22(1人あたり売上(万円))→ 売上 179 億円・営業利益 22 億円。営業利益率12.5%
- 観光不動産・建築内装:数量 45.0(賃貸・宿泊・内装工事の床面積換算(万㎡・推定))× 価格 8.04(1㎡あたり年間売上(万円))→ 売上 362 億円・営業利益 53 億円。営業利益率14.5%
倍率:事業の純利益 300 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)292 億円。全体の PER 13.67 倍、時価総額 4,178 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:東映アニメの中期計画の延長線上で、会社の言う道筋に近い。本体の薄利が少し改善する程度の穏やかな上振れとして置いた。
中立 30% 東映アニメが堅調に伸び、本体は薄利のまま 利益 227 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 6,014 円3,758 億円
東映アニメの売上は倍近くの1,800億円になる。版権は物価並みに値上がりし、作品の数量も増える。営業利益は480億円前後で、会社の中期計画より少し低い水準にとどまる。
東映本体の映像は、大型作品が年に数本ずつ当たるものの、製作費が重く、利益率は10%で止まる。映画館は人口減で来場者が緩やかに減り、薄利のままだ。催事は太秦映画村を軸に堅調に推移する。不動産は再整備で営業利益がほぼ6割増えるが、会社が言う倍には届かない。
東映の営業利益は570億円で今の約1.6倍になる。それでも株主の純利益は、東映アニメ分の約4割と本体の分を足して230億円弱である。還元は3割ほどに強まるが、自己資本が4,100億円まで厚くなり、ROEは5%台にとどまる。
- 東映アニメーション(連結):数量 17.3(主力IPの事業量(IP換算。版権・映像・商品を束ねた数量))× 価格 105(1事業量あたりの年間売上(億円))→ 売上 1,805 億円・営業利益 479 億円。物価並みの値上がりと数量増
- 実写・特撮・その他映像:数量 100(年間の新作と二次利用の件数(本・推定))× 価格 4.82(1本あたり売上(億円))→ 売上 482 億円・営業利益 48 億円。営業利益率10.0%
- 興行(映画館):数量 1,250(入場者数(万人・推定))× 価格 0.23(1人あたり売上(万円。チケット+売店+広告))→ 売上 281 億円・営業利益 17 億円。営業利益率6.0%
- 催事(映画村・展覧会・店舗):数量 760(来場・購入客数(万人・推定))× 価格 0.22(1人あたり売上(万円))→ 売上 166 億円・営業利益 18 億円。営業利益率11.0%
- 観光不動産・建築内装:数量 42.0(賃貸・宿泊・内装工事の床面積換算(万㎡・推定))× 価格 8.04(1㎡あたり年間売上(万円))→ 売上 338 億円・営業利益 44 億円。営業利益率13.0%
倍率:事業の純利益 221 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.9% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)292 億円。全体の PER 13.88 倍、時価総額 3,149 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界ノートの中立(国内は緩やかに縮み、配信とIPが相殺する)を、東映アニメが7割近くを占める構造に当てた。最も重みを置いた筋書き。
やや悲観 23% 東映アニメの版権が伸び悩み、本体の映像と映画館が重くなる 利益 131 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 3,862 円2,413 億円
配信大手の自社制作が強まり、東映アニメの版権の値段が上がらなくなる。売上は1,300億円台にとどまり、営業利益は270億円を下回る。ワンピースやドラゴンボールの次の柱が育たない。
東映本体では、製作費の増加が利益を食う。映像の利益率は7%まで下がる。映画館は人口減と配信で来場者が1割強減り、固定の家賃が重くのしかかる。催事も客足が弱まる。不動産は底堅いが、金利上昇で再整備の採算が悪化する。
東映の営業利益は310億円前後と、今を下回る。株主の純利益は130億円ほどに減る。配当は軽いままで、ROEは3%台に下がる。東映アニメの約4割の持ち分の価値も、利益の減少に合わせて目減りする。
- 東映アニメーション(連結):数量 14.4(主力IPの事業量(IP換算。版権・映像・商品を束ねた数量))× 価格 92(1事業量あたりの年間売上(億円))→ 売上 1,326 億円・営業利益 266 億円。版権の値段が頭打ち
- 実写・特撮・その他映像:数量 88.0(年間の新作と二次利用の件数(本・推定))× 価格 4.68(1本あたり売上(億円))→ 売上 412 億円・営業利益 29 億円。営業利益率7.0%
- 興行(映画館):数量 1,100(入場者数(万人・推定))× 価格 0.22(1人あたり売上(万円。チケット+売店+広告))→ 売上 240 億円・営業利益 7 億円。営業利益率3.0%
- 催事(映画村・展覧会・店舗):数量 680(来場・購入客数(万人・推定))× 価格 0.21(1人あたり売上(万円))→ 売上 144 億円・営業利益 12 億円。営業利益率8.0%
- 観光不動産・建築内装:数量 40.0(賃貸・宿泊・内装工事の床面積換算(万㎡・推定))× 価格 7.50(1㎡あたり年間売上(万円))→ 売上 300 億円・営業利益 33 億円。営業利益率11.0%
倍率:事業に要らない資産292億円(上場株式の税後、戻り方0.5)を分けると、事業の純利益127億円・事業のROE3.6%。ROEがk7.75%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=12.9倍まで。上限は事業127億円×12.9倍+余った資産146億円=1,788億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の8.0割に置き、時価総額1,431億円、全体のPERに直して10.89倍。
確率:東映アニメの版権は少数のIPに寄り、世代交代と配信大手の自社制作で伸びが鈍る可能性が現実的にある。本体の薄利が、その時に赤字へ傾く点を重く見た。
悲観 13% 版権の山が過ぎ、映画館と製作は赤字に近づく 利益 31 億円 · PER 32.8 倍 · 株価時価総額 1,727 円1,079 億円
ワンピースとドラゴンボールの勢いが落ち、後を継ぐ柱が育たない。配信大手は自社制作に移り、日本のアニメの買い値が下がる。東映アニメの売上は800億円台に縮み、営業利益は70億円まで落ちる。
東映本体の映像は、製作費を回収できずに利益がほぼ消える。映画館は来場者が大きく減り、家賃の固定費で赤字になる。催事も縮む。不動産だけが底堅く、都心の賃料に支えられて利益を保つ。
東映の営業利益は60億円にとどまり、株主の純利益は30億円ほどになる。それでも、持っている東映アニメの株と上場株式が、値段の下支えになる。事業の稼ぐ力よりも、持っている資産の値打ちが評価の中心になる。
- 東映アニメーション(連結):数量 12.4(主力IPの事業量(IP換算。版権・映像・商品を束ねた数量))× 価格 68(1事業量あたりの年間売上(億円))→ 売上 844 億円・営業利益 66 億円。版権の山が過ぎる
- 実写・特撮・その他映像:数量 70.0(年間の新作と二次利用の件数(本・推定))× 価格 4.14(1本あたり売上(億円))→ 売上 290 億円・営業利益 6 億円。営業利益率2.0%
- 興行(映画館):数量 850(入場者数(万人・推定))× 価格 0.20(1人あたり売上(万円。チケット+売店+広告))→ 売上 171 億円・営業利益 −3 億円。営業利益率-2.0%
- 催事(映画村・展覧会・店舗):数量 560(来場・購入客数(万人・推定))× 価格 0.20(1人あたり売上(万円))→ 売上 109 億円・営業利益 3 億円。営業利益率3.0%
- 観光不動産・建築内装:数量 35.0(賃貸・宿泊・内装工事の床面積換算(万㎡・推定))× 価格 6.60(1㎡あたり年間売上(万円))→ 売上 231 億円・営業利益 19 億円。営業利益率8.0%
倍率:悲観は版権の山が過ぎる筋書きで、事業の純利益30億円÷k7.75%の稼ぐ力は約393億円にとどまる。一方、東映アニメの持ち分(東映アニメの悲観の時価総額857億円×41%)約350億円、上場株式555億円の約8割、東映単体の純現金約100億円を足した売れる資産の床は約1,000億円(floor_assets_oku。賃貸不動産の含み益の一部を含む)で、稼ぐ力より大きいので、その大きい方の1,000億円まで置く。ROEがk以下で、全体のPERは見かけ上高く出る。
確率:東映アニメの版権が少数のIPに寄る構造に、配信大手の自社制作の強化と、日本のアニメの値段の下落が重なる複合の筋書き。一度始まると10年で戻りにくい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
東映アニメーション(連結)
ワンピース・ドラゴンボールなどの版権・アニメ製作・商品。東映が約41%を持つ連結子会社。
| 数量主力IPの事業量(IP換算。版権・映像・商品を束ねた数量) | 価格1事業量あたりの年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 78 | 937 | 290 |
| 10 年後 中立 | 17.3 | 105 | 1,805 | 479 |
取り方:東映アニメの2026/03期の売上937億円・営業利益310億円(同社の決算)。東映の連結では内部取引の調整があるため営業利益は約20億円低い290億円と推定した。稼ぐ主力IPを12本と数え、1本あたり約78億円(版権・映像・商品の合計)。東映アニメの分析(4816)の筋書きと数字をそろえ、価格は版権の値上がりと競争を反映した。連結の営業利益は東映のものとして100%入るが、純利益の約59%は少数株主に出る。
実写・特撮・その他映像
特撮・テレビドラマ・劇場映画の企画製作・配給、配信向けの権利販売、撮影所の運営。東映アニメを除く映像関連。
| 数量年間の新作と二次利用の件数(本・推定) | 価格1本あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 95.0 | 3.60 | 342 | 35 |
| 10 年後 中立 | 100 | 4.82 | 482 | 48 |
取り方:映像関連の売上1,279億円から東映アニメの937億円を引いた約342億円。営業利益は映像関連324.5億円から東映アニメ分290億円を引いた約35億円(推定)。作品数・1本あたりの売上は非開示なので、年間に公開・放送・配信する新作と二次利用を約95本と見て、1本約3.6億円とした。
興行(映画館)
ティ・ジョイ(2026/4に東映ジョイ・エンタテインメントへ商号変更)が運営する23館・230スクリーンの映画館。
| 数量入場者数(万人・推定) | 価格1人あたり売上(万円。チケット+売店+広告) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,500 | 0.17 | 252 | 24 |
| 10 年後 中立 | 1,250 | 0.23 | 281 | 17 |
取り方:興行関連の売上252.3億円・営業利益24.0億円(2026/03期、前期比+33%・+207%)。入場者は非開示で、1人あたり約0.17万円(入場料と売店・広告)と見て約1,500万人と推定した。2026/03期は他社の大ヒットで押し上げられた高い年。
催事(映画村・展覧会・店舗)
東映太秦映画村、特撮などの展覧会、ヒーローショー、キャラクターグッズ店。
| 数量来場・購入客数(万人・推定) | 価格1人あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 0.16 | 130 | 16 |
| 10 年後 中立 | 760 | 0.22 | 166 | 18 |
取り方:催事関連の売上130.1億円・営業利益16.2億円(2026/03期)。客数は非開示で、約800万人・1人約0.16万円と推定した。
観光不動産・建築内装
渋谷東映プラザなど都心の約20物件の賃貸、ホテル、商業施設・映画館の内装工事。
| 数量賃貸・宿泊・内装工事の床面積換算(万㎡・推定) | 価格1㎡あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 6.00 | 240 | 27 |
| 10 年後 中立 | 42.0 | 8.04 | 338 | 44 |
取り方:観光不動産の売上122.4億円・営業利益13.9億円(2026/03期)に、建築内装の売上約120億円・営業利益約13億円(上半期の実績から推定)を加えた。床面積は非開示で、賃貸・ホテル・工事を床面積に換算した約40万㎡と推定した。会社の長期ビジョンは10年後に不動産の営業利益の倍増を目指す。
リスクと懸念
東映アニメ頼みの利益構造
連結営業利益の約9割は東映アニメが稼ぐ。その版権はワンピースやドラゴンボールなど少数の長寿IPに寄っており、どれか1つの勢いが落ちるだけで連結の利益が大きく動く。東映本体の分散は、この偏りを埋める力が弱い。
取り分の小ささ
東映が持つ東映アニメの議決権は約41%で、約59%は他の株主のもの。連結の営業利益が増えても、東映の株主に回る純利益は半分ほどだ。親子上場の整理でこの比率が変われば、価値は上下どちらにも大きく動く。
映像の製作費と回収の遅れ
東映本体の映像は、製作費を先に払い、公開後に回収する。会社は2027年3月期の映像関連の営業利益を17%減と見込む。アニメの製作費が増えるためで、大型投資の計画が続けば、利益を圧迫し続ける。
還元の軽さと投資の重さ
配当性向は1割に満たず、長期ビジョンは3,000億円の投資を掲げて資金を借金から先に調達するとしている。投資が資本コストを超える稼ぎを生まなければ、自己資本が膨らむだけでROEが下がる。
映画館と催事の固定費
ティ・ジョイは23館・230スクリーンを運営する。人口減と配信で来場者が減ると、家賃や人件費が固定費として残り、悲観の局面では赤字になる。2026年3月期の好調は、他社の大ヒットに乗った一時的な面が大きい。
不動産の集中と金利
観光不動産は渋谷東映プラザなど都心の約20物件とホテルで、金利が上がると買い手の求める利回りも上がり、評価は下がりやすい。ホテルは人件費の上昇も受ける。再整備の採算が金利で悪化する恐れもある。
配信大手の自社制作と生成AI
配信大手が自社制作を強めると、日本のアニメの買い手が競争相手になり、版権の値段が頭打ちになる。生成AIは制作費を下げる半面、参入障壁も下げ、東映の優位の一部を揺るがしうる。
今後の分かれ目
- 東映アニメが2027年3月期の営業利益250億円の予想を大きく超えたら
- 10年の中立の東映アニメの前提を上げ、やや楽観の確率を厚くしてよい。ただし1年の上振れで決めず、版権の海外契約の積み上がりを確認する。
- 東映が東映アニメの残りの株を買い取る方針を出したら
- 取り分は大きく増えるが、買収に数千億円が要り、借金が増える。買収価格と資金の出所を見て、筋書きの純利益と確率を引き直す。
- 東映が東映アニメの持ち分を市場に売る方針を出したら
- 売却益と特別配当で短期は上振れる。ただし稼ぎの大半を手放すので、10年の筋書きは本体の事業だけで置き直す。
- 配当性向が3割を超え、総還元の方針が明示されたら
- 現金が株主に戻る道が見え、倍率の上限が上がる。還元を強める筋書きに重みを移す。
- 映像関連の営業利益率が2期続けて5%を下回ったら
- 本体の映像が稼げない構造が固まったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 政策保有の上場株式555億円の売却が進み、投資か還元に回ったら
- 資本配分の改善と見て、楽観側の確率をやや上げる。売却益が一度限りの特別利益かどうかも確認する。
見ておくもの
- 東映アニメの営業利益と海外版権の売上の推移(2031年3月期の営業利益500億円との差)
- 映像関連の営業利益率(東映アニメを除く部分の黒字化)
- 東映の配当性向と総還元額、東映アニメ株の持ち分の扱い
- ティ・ジョイの来場者数と家賃などの固定費
- 観光不動産の営業利益(長期ビジョンの倍増目標との差)
倍率と資本コストの決め方
東映アニメの筋書き(4816の分析)を、東映の持ち分41%で純利益に入れ、本体の4事業を数量と価格で足して置いた。倍率は式の上限(k7.75%、堀は並みで残る割合1/2、ROEがk以下なら1÷k)に対する位置で置き、今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。悲観は稼ぐ力と、東映アニメの持ち分・上場株式・単体の現金の合計とで、大きい方を取った。新リース会計基準(2028/03期から)は10年後の数字を今と同じ家賃を費用に入れる形にそろえている。 上場株式の税後(389億円)を余った資産とし、戻り方0.5で足した。賃貸不動産の含み益の税後約235億円は、賃料が純利益に残るので足さず、悲観の床にだけ使った。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。