結論
ソフトウェア・サービスは、病院向け電子カルテで国内第2位の導入実績を持つ医療情報システム専業会社である。筆者の結論は「やや割高」だ。病院の診療記録を長年支えてきた強みは確かだが、AIエージェントが人の作業を代替する時代には、過去10年の増収増益をそのまま将来に延ばせない。
同社の強さは顧客の業務に深く入り込んでいることにある。2025年10月時点の導入施設は1,000、2026年4月には1,031施設に増えた。徳洲会、国立病院機構、地域医療機能推進機構などの病院で、診療記録から医事会計、部門システムまでを支えている。病院が電子カルテを切り替えるには、過去の診療データの移行だけでなく、院内の多くの職種の仕事を組み直す必要がある。この乗り換えの難しさは、10年先も残りやすい。
ただし、電子カルテが必要であり続けることと、同じ会社が同じ利益を稼ぎ続けることは別である。売上の相当部分は導入作業とハードウェア販売に依存する。AIが設定や開発の工数を減らせば、従来の導入費用を維持することは難しくなる。標準仕様とクラウド化が進めば、病院が従来型のサーバーをまとめて購入する機会も減る。2026年10月期第3四半期には、ハードウェア売上が増える一方、調達コスト上昇で営業利益が減った。この実績は数量だけを追う成長の危うさを示している。
財務は非常に強い。2026年には約79億円の自己株式取得を実行し、長年ためた現金を株主に戻す姿勢も見せた。これは評価すべき変化だが、一度の大型還元を毎年続くものとは扱わない。10年後の中立では売上約406億円、純利益約44億円を見込み、低成長でも残る現金資産を評価する。5つの筋書きの確率加重後の現在価値は約448億円で、基準時価総額約534億円を約16%下回る。よい会社であっても、株主が払う値段には安全域が必要である。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方では、まず事業が10年先にも必要かを問う。病院が患者の診療記録を持たなくなることは考えにくい。診療録、検査結果、処方、会計を安全に結びつける仕組みには強い必要性がある。ソフトウェア・サービスは、この必要性の高い領域に半世紀以上集中し、1,000施設規模の顧客基盤を作った。顧客の業務を理解する人員と実装経験には価値があり、単に似た機能の製品を作るだけでは奪えない地位がある。
だが、必要不可欠な製品でも、その会社の利益が永遠に増えるとは限らない。診療記録というデータの正本は病院側にあり、メーカーだけが独占できる財産ではない。標準APIやデータ移行技術が進めば、記録を保持したまま画面や業務処理だけを別の会社のAIへ移す選択肢が増える。長い導入経験は強みであっても、競争を永久に排除する免許ではない。
筆者が評価するのは、かつて自己資本を増やしながら二桁のROEを維持し、無借金に近い経営を続けた点である。利益が実際に現金になることも確認できる。ただし、今後の株主の取り分は会計上の利益だけでは測れない。制度変更への開発費、顧客の更新を守るための保守費用、建物の更新投資を払い終えた後の現金が重要になる。2026年の大型還元は、ためた資本を株主に返せることを示した反面、蓄積した現金をどう評価するかという問題も明らかにした。
10年後の中立では、事業の純利益が以前ほど増えなくても、ためた現金の価値が大きく残る。それでも将来の利益と還元を必要な利回りで現在へ戻すと、今の時価総額を下回る。経営基盤が強いことと、現在の値段に安全域があることは同じではない。筆者は医療ITの専門性を高く評価するが、AI時代の稼ぐ力を確認せずに過去の成長を買うことには慎重である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、病院が診療記録と業務を管理するためのシステムである。主力製品の「e-カルテ」は、医師の診療記録だけでなく、看護、薬剤、検査、医事会計など院内の幅広い業務とつながる。「NEWTONS」はオーダリングシステムであり、医師の指示を各部門へ伝える。医用画像を扱う「SeavoPACS」や介護関連製品も提供している。顧客は病院や病院グループが中心で、一般診療所向けの個別販売を主戦場としていない。
会社の公式な報告セグメントは医療情報システム事業の一つだけだが、商売の性格は四つに分かれる。2025年10月期の連結売上423億円のうち、ソフトウェア販売が約118億円、ハードウェア販売が約191億円、保守サービスが約101億円、その他が約12億円であった。ソフトウェアは製品の使用権だけでなく、病院ごとの設定、接続、移行、導入支援を伴う。ハードウェアはサーバーなどを納入する仕事で、売上規模は大きいが仕入れ負担も大きい。保守は既存施設から継続して料金を受け取る収益源である。
この会社を見る際には、導入施設数と新規導入売上を混同してはいけない。既存顧客が増えれば保守収入の土台は広がるが、新しい導入案件は病院の予算や更改時期に左右される。厚生労働省の資料では、病院システムの更改は一般に5〜7年周期とされる。したがって新規開拓だけでなく、既存病院での更新を何件獲得するかが重要になる。2026年7月末の受注残高は約252億円あり、短期の売上には一定の見通しがあるものの、これを10年の成長率に直結させることはできない。
利益の源は医療業務への専門性と既存製品の再利用にある。顧客が違っても、診療、看護、検査、会計には共通した処理が多く、標準機能を使い回せれば開発費を広い顧客基盤で回収できる。病院グループへの展開では、既存の導入経験が次の案件の営業や設定にも役立つ。一方で、各病院固有の運用に合わせる作業が増えるほど、人手に依存する収益構造に戻ってしまう。製品会社としての利益率を維持できるかは、この標準化と個別対応の割合にかかっている。
子会社を含むグループ全体でも事業は医療情報システムに集中している。分野を広げないことは専門性を守る利点があるが、医療機関の投資予算が縮むと逃げ道が少ない。なお、本分析の数量と単価は開示された売上区分、導入施設数、病院システムの更改周期から推定しており、会社が開示していない契約単価や人月数を実績値として扱ってはいない。
優良さと弱いところ
最大の堀、つまり競合が簡単には奪えない強みは、病院業務に組み込まれた既存システムと専門知識である。徳洲会グループでは2025年10月時点で90施設中79施設、カマチグループでは25施設に導入されている。大きな医療法人グループで採用が広がると、次の病院も同じ仕組みを選ぶ利点が生まれる。病院のシステム更新は一般的な事務ソフトの買い替えとは異なり、診療を止めない移行と安全確認が必要である。
過去の資本効率もよい。2015年から2025年にかけて、純利益は約19億円から61億円に、自己資本は約133億円から419億円に増えた。この間の純利益の増分は自己資本の増分に対して約15%に相当し、資本コストを上回ってきたことを示唆する。ただし、これは厳密な増分ROICではない。余った現金も自己資本に含まれるため、事業そのものへ新たに投じた資金の収益率とは区別する必要がある。
売上成長に比べ、利益率は安定している。過去10年余りの営業利益率はおおむね16〜20%の範囲にあり、長期に営業赤字を出していない。借入金への依存もほとんどなく、2025年10月期の自己資本比率は約80%だった。病院の投資が一時的に止まっても、研究開発と保守体制を維持する余力がある点は競争上の利点である。
一方、値決め力には慎重である。病院は診療報酬制度の制約を受け、自由に販売価格を上げられる企業ではない。電子カルテの更改時には富士通Japan、NEC、CSIなどとの競争が起こり、公的病院では調達手続も重要になる。会社が法改正ごとに値上げを実現した定量的実績や、年5%未満といった解約率を開示していることは確認できなかった。顧客との関係は強いが、価格を自由に決められるとまでは言えない。
もう一つの弱点は、医療制度への対応が競争力であると同時に費用でもあることだ。電子処方箋、電子カルテ情報共有、標準仕様、セキュリティ対策が更新されるたびに開発人員が必要になる。AIによって一部の開発工数を減らせても、それが顧客への値下げとして吸収されれば超過利益にはならない。堀は現時点で十分な厚さを持つが、10年後に広がっていると断定するための証拠はまだ足りない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
病院向け電子カルテ市場は、必要性が高まる一方、数量の成長余地は次第に小さくなる市場である。矢野経済研究所によると、2024年度の国内医療情報システム市場は約3,018億円だった。この金額には電子カルテ以外の部門システムや診療所向けシステムも含まれる。2024年度の中小規模一般病院向け電子カルテ市場は約678億円で、2027年度には732億円になると予測されている。大きな市場ではあるが、過去の二桁成長が当然に続く市場ではない。
病院の電子カルテは既に普及段階にある。厚生労働省の2023年調査では一般病院の導入率が65.6%であり、大規模病院ほど普及率が高い。未導入病院は中小規模に多く、導入費用の負担が重い。人口減少に伴う病院の統合や病床再編も進むため、電子カルテの必要性が増しても契約施設数が同じ速さで増えるとは限らない。
競争では富士通Japanが最大手であり、同社が公表した資料では病院向け電子カルテの全体シェアは約32%、500床以上では約56%とされる。ソフトウェア・サービスは稼働施設数で第2位を掲げ、CSIやNECも主要競合である。2025年時点の導入実績1,000施設は全国の病院数に対して一割強に相当するが、電子カルテ以外の導入施設も含むため、この数字をそのまま電子カルテの製品シェアとはみなせない。今後のシェアは新規契約よりも既存顧客の更新を守れるかによって左右される。
制度面では追い風と脅威が同時に進んでいる。政府は全国医療情報プラットフォーム、電子カルテ情報の標準化、医療機関のクラウド化を進めている。標準仕様は異なるベンダー間でデータを引き継ぎやすくする方向にある。これは電子カルテの普及を促すが、既存ベンダーの乗り換え障壁を低くする可能性もある。富士通Japanのような大手がAIエージェントと医療データの活用を組み合わせれば、単なる記録画面の競争から病院全体の業務を自動化する競争へ移る。
価格については、物価3%の世界でも一律の値上げは難しい。標準製品や保守の一部には値上げ余地がある一方、導入工数や画面操作に対する対価にはAIによる下押し圧力が働く。ハードウェアは半導体価格が上がっても調達費用の増加をすべて転嫁できるわけではない。中立では業界全体の実質的な導入・更新需要が伸び悩み、同社も案件数を維持するために価格と利益率を犠牲にする部分があると見る。
2036年にも病院の診療記録は必要だ。しかし、病院が買うものは院内サーバーと操作画面の一式から、クラウド上のデータ基盤、標準API、AIによる業務実行へと移っている可能性が高い。患者記録を安全に保存し、制度変更に対応する仕事は残る。その仕事を誰が担い、どこに利益が落ちるかが今後10年の競争の中心になる。
資本政策と M&A
資本政策は2026年に大きく変わった。従来は利益の大半を内部留保し、2025年10月期の配当性向は約14%だった。2026年10月期も配当を増やす計画だが、DOEや総還元性向について、一定水準を長期的に保証する数値方針は確認できない。独立した中期経営計画として、複数年度の売上高、利益、ROE、還元率を一体で約束する資料も確認できなかった。数字の約束があるのは主として単年度の業績予想である。
2026年3月に30万株、7月に40万株の自己株式取得を実行し、同年7月末までの取得支出は約78.5億円となった。2026年7月末の自己株式数は約94.5万株で、発行済株式548.8万株から差し引いた株数は約454.3万株である。現金を減らして株数を大きく減らしたため、長期保有する既存株主には一株当たりの取り分を増やす効果があった。ただし、買付価格が本質価値を上回っていた場合には、残る株主にとっての利益は小さくなる。
2026年10月22日には、代表取締役会長の保有株式を同氏の資産管理会社が取得する予定が公表された。法令上は公開買付けに準ずる買集め行為に当たるが、不特定多数の株主を対象とする通常のTOBではなく、上場廃止計画も公表されていない。この異動は議決権の集約に関係するため、少数株主の利益をどう扱うかを引き続き見る必要がある。
事業投資では大阪のオフィスビル建て替えや拠点の拡充を進めている。国内医療情報システムへの専門特化を維持しており、大型買収によって事業領域を転換した実績は確認できない。無理なM&Aをしなかったことは評価できるが、将来AIやクラウドの技術を補うための買収が必要になれば、投じた金額と追加利益を厳しく確認する必要がある。
中立の10年間では配当を中心に約90億円を株主へ還元すると考える。2026年の大型自己株買いは現在の株数と自己資本に反映済みであり、将来の還元額に重ねて足していない。残る利益は設備、運転資金、新しい医療システムへの投資と現金として蓄積される。過去の現金の積み上がりと2026年の株式取得実績から、最終的に余剰現金を株主価値に反映できる会社と判断するが、利益が減っても同額の自社株買いを繰り返すとは想定しない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
病院向け電子カルテの仕事は、一般の事務ソフトよりはるかに代替しにくい。診療情報の安全性、医師や看護師の業務、院内の各部門との接続、診療報酬制度への対応が必要だからだ。患者情報を誤って移行するリスクを考えれば、病院が安価な新製品へ簡単に乗り換えるとは考えにくい。長年の導入実績は営業上の信用であり、病院グループにまとめて採用される利点も大きい。
同社は2025年に1,000施設の導入実績を達成し、その後も施設数を伸ばしている。国内には電子カルテが未導入の病院が残り、既存システムの更改需要も継続する。政府の医療DX政策は標準化の負担を増やすが、制度を理解した専業メーカーには製品更新の需要をもたらす。富士通JapanやNECが大規模病院に強い中で、同社は地域の中核病院や医療法人グループで独自の地位を築いてきた。
AIエージェントも必ずしも敵ではない。記録の作成を自動化するほど、信頼できる診療データの保存先と周辺システムが必要になる。既存製品にAI機能を組み込み、設定作業を減らせば、同社が効率化の成果を利益として取り込む余地はある。特に保守基盤を維持したまま導入原価を減らせれば、開発費を回収する力は強まる。
財務面の安心感は競合との大きな違いである。多額の借金を持たず、長期間利益を積み上げてきた。2026年の大規模な自己株式取得は、資本を株主に返す判断もできることを示した。AIによる導入工数の削減を吸収し、ハードウェア調達費を改善できれば、長期にわたって高い利益率と豊かなキャッシュフローを維持する余地がある。
慎重な見方
電子カルテ市場の構造は、同社にとって最も重要な変化の時期を迎えている。長年の病院業務の知識があっても、標準仕様によってデータの持ち運びが容易になれば、顧客を囲い込む力は弱まる。病院が求めるものも、画面を操作するためのソフトから、AIが診療文書を作り、情報を検索し、必要な業務を実行する仕組みへ変わっていく。従来のSI作業や画面機能に対して同じ対価を払う理由は薄くなる。
同社の売上には、利益の質が異なるものが混在している。2025年10月期のハードウェア売上は約191億円で、全体の45%を占める。サーバーや端末の売上が伸びれば売上高は増えるが、仕入れコストも増える。2026年10月期第3四半期には実際にハードウェア売上が増える中で、営業利益が前年を下回った。高い売上成長率をそのまま高い利益成長率とみなすことはできない。
病院側の財務も厳しい。人件費、医療材料費、光熱費が上がる一方、診療報酬は自由価格ではない。特に中小病院は大規模なシステム更改を遅らせたり、初期費用の小さいクラウド型を選んだりする。人口減少が進めば病院統合によって契約先そのものが減る可能性もある。未導入施設が残っていることは、そのすべてが採算のよい顧客になることを意味しない。
競争相手も従来の電子カルテメーカーだけではなくなる。富士通Japanは既に医療向けAIエージェントの開発を進めている。政府が標準APIと共通仕様を整えれば、クラウド事業者やAI企業が記録機能の周辺から入り込める。ソフトウェア・サービスがAI関連サービスを構想していることは確認できるが、AIエージェント製品による大きな売上実績はまだ確認できない。導入実績と現金の厚さを評価しつつも、従来の商売の利益が大幅に薄れる筋書きを無視できない。
どちらに重みを置いたか
顧客基盤、無借金に近い財務、制度対応力は強気の見方を支える。しかし、2026年のハードウェア構成比上昇による減益と、標準化・クラウド化の進行は具体的な逆風である。中立の数量には既にAIエージェント代替を織り込んでおり、確率で同じリスクを再度過大評価しない。それでも病院の投資抑制とベンダー変更が重なる可能性があるため、上側28%に対して下側40%と慎重側に寄せた。計算上の現在価値は約448億円となり、基準時価総額に対して約16%の不足である。強い事業であることを認めたうえで、現在の価格に十分な安全域は見いだせない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/10 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 17,441 円792 億円(+ 還元の換算額還元の合計 1,705 円77 億円)。 今の値に割り戻すと 9,863 円448 億円、今との差 −15.0%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 31,932 円1,451 億円 | 2,752 円125 億円 | +198.7% | +12.2% | 3,468 円158 億円 |
| やや楽観 | 18% | 26,565 円1,207 億円 | 2,311 円105 億円 | +148.7% | +10.1% | 5,198 円236 億円 |
| 中立 | 32% | 20,313 円923 億円 | 1,981 円90 億円 | +92.0% | +7.1% | 7,134 円324 億円 |
| やや悲観 | 25% | 10,146 円461 億円 | 1,321 円60 億円 | −1.2% | −0.1% | 2,867 円130 億円 |
| 悲観 | 15% | 2,862 円130 億円 | 330 円15 億円 | −72.5% | −12.6% | 479 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 17,441 円792 億円 | 1,705 円77 億円 | +64.9% | +5.4% | 19,146 円870 億円 |
今の株価時価総額 11,610 円527 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 既存基盤を守り、医療DXの更新需要を取り切る 利益 77 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 31,932 円1,451 億円
病院の電子カルテ更改が本格化し、同社は医療法人グループとの長年の関係を生かして更新案件を獲得し続ける。国立病院機構や地域医療機能推進機構などの公的病院でも採用施設が増え、富士通JapanやCSIとの競争で大きな失点をしない。標準仕様への対応が進み、既存製品を広い病院群に再利用できるため、個別対応費用が抑えられる。
AIによるカルテ入力の自動化は進むが、医療データの保存や院内の基幹業務との連携には従来の製品が使われ続ける。導入作業の有償工数を現在と同程度に維持でき、AIによる作業効率改善の一部を利益として取り込める。ただし、AIエージェント製品の新規売上実績が十分に確認できないため、ソフトウェアと保守の数量が現在を超えるほどの成長は想定しない。
病院の更新需要が強く、サーバーや周辺機器の納入案件数も増える。調達先との交渉力が改善し、ハードウェアの粗利が回復する。保守部門は高い利益率を維持し、経営は大型M&Aに依存せず自社製品の更新と研究開発に集中する。期間中の利益留保によって現金は厚くなり、配当と機動的な株主還元が続く。2036年にも高い事業収益性を保つ、同社に最も有利な展開である。
- 電子カルテ・医療情報ソフトウェア:数量 9,600(年間の有償導入・開発工数相当(人月、推定))× 価格 0.02(有償工数相当1人月当たりのソフトウェア売上(億円、製品使用権と導入作業を含む))→ 売上 159 億円・営業利益 70 億円。AIエージェント代替の楽観上限として有償工数は現状並み。名目単価1.34倍、標準製品の再利用で利益率44%。
- 病院向けハードウェア・システム基盤:数量 176(年間のシステム機器一式の納入・更新案件数(件、推定))× 価格 1.60(一案件当たりハードウェア売上(億円))→ 売上 282 億円・営業利益 15 億円。更新案件は現在の1.10倍、価格は物価上昇相当。調達効率の改善で営業利益率5.5%。
- 医療情報システム保守・運用支援:数量 1,000(年間の有償保守施設数相当(施設年、推定))× 価格 0.12(一施設一年当たり保守・運用支援売上(億円))→ 売上 116 億円・営業利益 45 億円。既存施設相当の契約数量を維持、価格1.15倍。定型対応を効率化し営業利益率39%。
- その他医療IT関連サービス:数量 950(導入施設に対応する年間の付帯サービス契約相当数(施設年、推定))× 価格 0.02(一施設年当たり付帯サービス売上(億円))→ 売上 16 億円・営業利益 1 億円。付帯サービス数量0.95倍、価格1.34倍。
倍率:資本コストk=7.25%、長期名目成長率g=min(式の成長率,g_long)=0%。余剰現金490億円を除く事業純利益は76.5−490×1.4%=69.64億円で、事業自己資本439億円に対するROEは約15.9%。moat=normalの残存割合1/2によりRONIC=約11.6%。正当化PER=(1−g/RONIC)/(k−g)=13.7931倍。事業価値約960.6億円に余剰現金490億円を戻り方1.0で加え、時価総額約1,450.6億円。
確率:既存顧客の更新を高率で守りながら、標準化への対応と調達効率の改善を同時に実現する筋書き。AIによる有償工数削減を回避できる実績がまだ十分に示されていないため、楽観の確率を10%にとどめる。
やや楽観 18% 顧客基盤を維持しながら効率化を進める 利益 60 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 26,565 円1,207 億円
電子カルテ市場ではクラウド化と標準化が進むが、同社は大口の医療法人グループとの関係を維持する。富士通JapanやNECが大規模病院の新規案件を獲得する一方、同社は既存の地域中核病院と民間病院を中心に更新契約を守る。病院全体の電子化は進み、導入済み顧客から追加機能や制度対応の仕事も発生する。
AIエージェントによって設定や導入に要する有償工数は減る。それでも医療機関との調整や実運用確認は残り、作業時間を減らした分のすべてが売上減少になるわけではない。標準製品への移行が進むことで開発・導入費用が抑えられ、ソフトウェアの利益率は比較的高く保たれる。保守契約は一部が縮むものの、多くの病院で継続する。
ハードウェア販売はクラウド移行の影響で案件数が少し減るが、更新機器の高機能化と物価上昇で販売額は維持される。調達コストをある程度転嫁できるようになり、2026年に見られた利益率の悪化は定着しない。買収で急拡大するのではなく、既存製品、開発人材、営業網への再投資によって収益力を保つ。大きな成長はないが、財務と顧客基盤の強さが株主価値を支える展開となる。
- 電子カルテ・医療情報ソフトウェア:数量 7,584(年間の有償導入・開発工数相当(人月、推定))× 価格 0.02(有償工数相当1人月当たりのソフトウェア売上(億円、製品使用権と導入作業を含む))→ 売上 123 億円・営業利益 49 億円。AI代替で工数は現状の0.79倍、価格1.31倍。標準化の成果で利益率40%。
- 病院向けハードウェア・システム基盤:数量 152(年間のシステム機器一式の納入・更新案件数(件、推定))× 価格 1.55(一案件当たりハードウェア売上(億円))→ 売上 236 億円・営業利益 12 億円。案件数0.95倍、単価は約1.30倍。営業利益率5%。
- 医療情報システム保守・運用支援:数量 950(年間の有償保守施設数相当(施設年、推定))× 価格 0.12(一施設一年当たり保守・運用支援売上(億円))→ 売上 110 億円・営業利益 41 億円。保守施設相当数0.95倍、価格1.15倍。利益率37%。
- その他医療IT関連サービス:数量 850(導入施設に対応する年間の付帯サービス契約相当数(施設年、推定))× 価格 0.02(一施設年当たり付帯サービス売上(億円))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。周辺サービスの数量0.85倍、価格1.25倍。
倍率:k=7.25%、g_long=0%。余剰現金470億円の税後利息6.58億円を引いた事業純利益は53.42億円。事業自己資本396億円に対するROEは約13.5%、moat=normalのRONICは約10.4%。gが0%なので正当化PERは13.7931倍となる。事業価値約736.8億円と余剰現金470億円の合計約1,206.8億円。
確率:電子カルテの更新需要と既存顧客の強さは確認できるが、人月売上と保守単価の下押し圧力が残る。価格転嫁と原価改善が比較的うまく進む確率として18%。
中立 32% 電子カルテは残るが、導入作業の価値が薄れる 利益 44 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 20,313 円923 億円
2036年にも病院は電子カルテと患者の診療記録を必要としている。ソフトウェア・サービスは既存顧客の多くと取引を続け、医療法人グループにおける実績も残る。ただし、標準仕様によって一部の病院は別のクラウド製品へ移行し、新しい契約では価格競争が強まる。病院の統合や経営難で施設数も減るため、過去のような導入施設の増加は続かない。
AIエージェントは設定作業、データ移行、定型的な問い合わせ対応を自動化し、病院が支払う工数の総額を減らす。ソフトウェアの有償工数相当量は現在の約65%になり、価格は物価に近い速度では上がるものの数量減少を補えない。保守では顧客の一部がクラウドへ移り、同社の契約数量は約85%に縮む。重要な診療記録の管理は残るため、保守収入がなくなるわけではない。
ハードウェアの更新案件は現状より減る。サーバーや端末の販売価格は上がるが、仕入れも高く、利益率の改善は限定的である。社員や開発体制の固定費は簡単には減らせず、営業利益率は近年より下がる。2027年に予定されるオフィス関連投資や、その後の設備更新にも現金が必要になる。
それでも急な財務危機には至らない。配当を続けながら利益のかなりの部分を留保し、2036年には大きな余剰現金が残る。事業そのものの稼ぐ力は現在より弱くなるが、過去の利益で築いた財務基盤が時価総額の下支えとなる。現金を多く残しているため会計上の自己資本は増える一方、ROEは低下する展開である。
- 電子カルテ・医療情報ソフトウェア:数量 6,240(年間の有償導入・開発工数相当(人月、推定))× 価格 0.02(有償工数相当1人月当たりのソフトウェア売上(億円、製品使用権と導入作業を含む))→ 売上 95 億円・営業利益 34 億円。AIエージェント代替の人月・工数型。数量0.65倍、価格1.24倍。開発効率化は進むが利益率36%。
- 病院向けハードウェア・システム基盤:数量 128(年間のシステム機器一式の納入・更新案件数(件、推定))× 価格 1.60(一案件当たりハードウェア売上(億円))→ 売上 205 億円・営業利益 7 億円。クラウド移行で納入案件0.80倍、価格1.34倍。仕入れ競争で利益率3.5%。
- 医療情報システム保守・運用支援:数量 850(年間の有償保守施設数相当(施設年、推定))× 価格 0.11(一施設一年当たり保守・運用支援売上(億円))→ 売上 96 億円・営業利益 33 億円。画面・定型支援型のAI代替。数量0.85倍、価格1.12倍、利益率34%。
- その他医療IT関連サービス:数量 700(導入施設に対応する年間の付帯サービス契約相当数(施設年、推定))× 価格 0.01(一施設年当たり付帯サービス売上(億円))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。周辺サービスの有償数量0.70倍、価格約1.17倍。
倍率:k=7.25%、AI代替による長期の名目成長上限g_long=0%。余剰現金400億円の税後利息5.6億円を除く事業純利益は37.9億円。事業自己資本399億円に対するROEは約9.5%でkを上回る。moat=normalとしてRONIC=k+0.5×(ROE−k)=約8.4%。g=0%の正当化PER=(1−0/RONIC)/(0.0725−0)=13.7931倍。事業価値522.8億円と、2026年の大型自己株買い実績を踏まえて戻り方1.0で評価する余剰現金400億円を合算し、時価総額約922.8億円とする。現金と利益の二重計上を避けるため、現金利息はPER対象の利益から控除している。
確率:病院向け電子カルテの必要性は続く一方、AIエージェント代替で導入工数が縮み、クラウド化で機器販売の数量も減る。過去の成長を延長せず、顧客基盤がある程度残る中心の筋書きとして32%。
やや悲観 25% クラウド化で導入売上と収益性が後退する 利益 20 億円 · PER 11.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 10,146 円461 億円
医療機関のクラウド移行が進み、従来型のサーバーを中心としたシステム構成が縮小する。病院は新しい電子カルテの標準仕様に対応する製品を選び、更新時に複数ベンダーの条件を比較するようになる。富士通Japanやクラウド型の新興製品が価格競争を強め、ソフトウェア・サービスは既存顧客の一部を失う。病院の統合も重なり、導入施設数の伸びは止まる。
AIエージェントが院内の設定作業、データ変換、問い合わせ対応を大幅に自動化する。導入工数は現在より大きく減り、同社が従来型の案件で請求できる金額も低下する。保守契約の一部はクラウド利用料へ置き換わり、同社が得る支援収入は細る。制度改正への対応とセキュリティ維持には人員が必要なため、売上が減っても費用が同じ割合では減らない。
サーバーや周辺機器の販売案件数も減り、調達価格の上昇を十分に転嫁できない。営業利益率は低下し、自己資本に対する収益性は資本コストを下回る。経営は大規模買収を避け、事業を維持するための研究開発と既存顧客の保守を優先する。配当は減益に応じて小さくなるが、過去の蓄積があるため財務危機には至らない。
2036年の事業は現在より小さく、利益もかなり減る。それでも医療法人グループへの既存システム、専門人材、残存現金が価値を支える。縮小した利益に高い成長価値を与えず、現金のうち株主に帰属する部分を慎重に評価する筋書きである。
- 電子カルテ・医療情報ソフトウェア:数量 5,280(年間の有償導入・開発工数相当(人月、推定))× 価格 0.01(有償工数相当1人月当たりのソフトウェア売上(億円、製品使用権と導入作業を含む))→ 売上 77 億円・営業利益 21 億円。AIによる有償工数縮小で数量0.55倍。価格上昇は1.18倍にとどまり、利益率27%。
- 病院向けハードウェア・システム基盤:数量 112(年間のシステム機器一式の納入・更新案件数(件、推定))× 価格 1.53(一案件当たりハードウェア売上(億円))→ 売上 171 億円・営業利益 3 億円。オンプレミス案件数0.70倍、価格約1.28倍。調達費用の負担で利益率2%。
- 医療情報システム保守・運用支援:数量 740(年間の有償保守施設数相当(施設年、推定))× 価格 0.11(一施設一年当たり保守・運用支援売上(億円))→ 売上 78 億円・営業利益 23 億円。保守数量0.74倍、価格1.04倍。クラウド移行と自動化で利益率29%。
- その他医療IT関連サービス:数量 600(導入施設に対応する年間の付帯サービス契約相当数(施設年、推定))× 価格 0.01(一施設年当たり付帯サービス売上(億円))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。数量0.60倍、価格約1.05倍。
倍率:k=7.25%、g_long=0%。余剰現金290億円の税後利息4.06億円を除く事業純利益は15.54億円。事業自己資本419億円に対するROEは約3.7%でk以下。成長価値を含めない稼ぐ力の上限1/k=13.7931倍を守り、病院の更新案件獲得に失敗する不確実性と採算の低さから11倍とする。事業価値170.94億円と余剰現金290億円の合計460.94億円。資産の床145億円も上回る。
確率:下に寄せる理由:2026年には売上の増加にもかかわらず、ハードウェアの仕入れコストで営業減益となった。病院のクラウド移行と標準仕様が重なれば、導入工数だけでなくハードウェア収益も弱る。顧客基盤は残るが採算が下がる筋書きとして25%。
悲観 15% 電子カルテ基盤の優位を失い、事業が構造的に縮む 利益 −8 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,862 円130 億円
医療情報システムの標準化が予想以上の速度で進み、病院のデータ移行が容易になる。富士通Japanをはじめとする大手ベンダーやクラウド型の新興製品が、AIによる診療文書作成、情報検索、患者管理を一体で提供する。従来の操作画面を中心に設計された電子カルテは競争力を失い、同社の既存顧客でも別システムへの更新が相次ぐ。病院統合と経営難によって、市場の契約施設数も減少する。
同社は医療分野の専門性を持つが、製品のクラウド移行とAI対応で競合に後れを取る。導入作業の人月収入は現在の4割程度まで縮み、保守対象も減る。業務の自動化で顧客が求める支援作業は少なくなる一方、セキュリティや法令対応の固定費は残る。サーバーなどのハードウェア販売も大幅に減り、規模縮小と調達価格の不利が重なって採算が悪化する。
経営は拠点の縮小、開発方針の転換、余剰人員や設備の整理を迫られる。早い段階で収益が落ち込むため、10年間の累計利益は直近の高収益から想像するほど大きくならない。再建のための設備・資産の減損や事業整理費用も発生する。新しい医療AI企業を買収して失地を取り戻す可能性はあるが、買収費用を回収できるという前提は採らない。
それでも借入金がほとんどない財務基盤と、保有する現預金、流動有価証券、不動産が残る。収益を失った事業の利益に高い倍率を付けず、売却可能な資産の税後回収額を下限として評価する。過去の優良企業としての評価は失われるが、直ちに価値がゼロになる会社ではない。
- 電子カルテ・医療情報ソフトウェア:数量 3,840(年間の有償導入・開発工数相当(人月、推定))× 価格 0.01(有償工数相当1人月当たりのソフトウェア売上(億円、製品使用権と導入作業を含む))→ 売上 50 億円・営業利益 6 億円。AIとクラウド標準化で工数量0.40倍、価格約1.05倍。固定費負担で利益率12%。
- 病院向けハードウェア・システム基盤:数量 77.0(年間のシステム機器一式の納入・更新案件数(件、推定))× 価格 1.40(一案件当たりハードウェア売上(億円))→ 売上 108 億円・営業利益 −5 億円。サーバー更新案件0.48倍、価格約1.17倍。規模縮小と調達難で営業赤字。
- 医療情報システム保守・運用支援:数量 580(年間の有償保守施設数相当(施設年、推定))× 価格 0.10(一施設一年当たり保守・運用支援売上(億円))→ 売上 57 億円・営業利益 7 億円。保守数量0.58倍、価格も現状を下回り、固定費負担で利益率12%。
- その他医療IT関連サービス:数量 400(導入施設に対応する年間の付帯サービス契約相当数(施設年、推定))× 価格 0.01(一施設年当たり付帯サービス売上(億円))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。周辺サービス数量0.40倍、価格約0.97倍。
倍率:事業純利益が赤字となるため、正当化PERによる継続企業価値ではなく純現金と売却可能資産の税後回収額130億円を評価の床とする。2025年10月期末の自己資本419億円を分母とした床のPBRは130÷419=0.31026倍。2026年7月末の自己株買い後の自己資本371億円、さらに将来の減損を含む2036年自己資本351億円を使って床の価値をかさ上げしない。
確率:病院の標準仕様・クラウド移行が急速に進み、AIエージェントが従来型の操作画面と人手の導入作業を大幅に代替する複合シナリオ。全国の導入実績と財務の強さがあるため直ちに消滅する確率は高くないが、今の利益構造が壊れる確率として15%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子カルテ・医療情報ソフトウェア
e-カルテ、NEWTONS、医事会計や部門システムの販売と導入作業。AIエージェント代替では、人月・工数型の性格が強い収益と判断する。
| 数量年間の有償導入・開発工数相当(人月、推定) | 価格有償工数相当1人月当たりのソフトウェア売上(億円、製品使用権と導入作業を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 9,600 | 0.01 | 118 | 47 |
| 10 年後 中立 | 6,240 | 0.02 | 95 | 34 |
取り方:2025年10月期連結決算短信の製品別外部売上高11,845百万円を使用する。会社は導入工数とソフトウェアライセンス収入を分離開示していないため、年間約160件の新規導入・更改案件、案件当たり60人月相当という作業量の仮説から9,600人月に換算した。年間160件は導入施設1,000と一般的な5〜7年の更改周期、施設の純増約74を参考にしたが、実際の受注件数ではない。売上を工数で割った約123万円/人月は製品対価込みの換算値であり、実際の人月単価を示さない。営業利益46.5億円は単一セグメントのため推計配賦。中立の工数数量はAIエージェント代替の人月・工数型に従い現在の0.65倍とする。
病院向けハードウェア・システム基盤
病院向けのサーバー、端末、ネットワーク設備などの仕入販売と更新。物理設備の納入はAIエージェントによる人月代替の直接対象ではないが、クラウド移行と病院統合に伴う数量減少リスクがある。
| 数量年間のシステム機器一式の納入・更新案件数(件、推定) | 価格一案件当たりハードウェア売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 160 | 1.20 | 191 | 10 |
| 10 年後 中立 | 128 | 1.60 | 205 | 7 |
取り方:2025年10月期連結決算短信のハードウェア売上19,129百万円を基準とする。契約単位や台数は非開示のため、ソフトウェアと同じ病院導入・更新案件約160件に対応するサーバー、端末、周辺設備の一式納入と仮定した。一件当たり約1.20億円は案件平均の推計である。2026年7月末までの9か月にはハードウェア売上16,368百万円、仕入14,489百万円が計上され、仕入コストが利益を圧迫した。中立の数量はクラウド化を考慮して0.80倍、単価は物価相当の1.34倍とする。
医療情報システム保守・運用支援
電子カルテ等を導入済みの病院への保守、問い合わせ対応、更新、運用支援。診療記録の正本を支える部分には堀があるが、定型的な画面操作支援と保守作業はAIエージェント代替の対象になる。
| 数量年間の有償保守施設数相当(施設年、推定) | 価格一施設一年当たり保守・運用支援売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 1,000 | 0.10 | 101 | 35 |
| 10 年後 中立 | 850 | 0.11 | 96 | 33 |
取り方:2025年10月期の連結保守サービス売上10,083百万円を、同年10月末の医療情報システム導入実績1,000施設で割り、一施設当たり年間約1,008万円と推定した。全施設の保守契約額が同じという意味ではなく、保守対象の数と売上の対応を示す推計である。営業利益は単一セグメントのため推計配賦。診療記録の正本としての重要性と医療法人グループへの導入実績は確認できるが、解約率、継続的値上げ、排他的データ保有の定量的証拠が足りないため、全額をAI耐性の高い記録の正本型とは認定しない。中立は席・画面型に準じ、数量0.85倍、価格1.12倍とする。
その他医療IT関連サービス
連結開示のその他の医療情報関連売上。明細が十分に開示されておらず、周辺業務支援や付帯サービスを含む収益として保守的に扱う。
| 数量導入施設に対応する年間の付帯サービス契約相当数(施設年、推定) | 価格一施設年当たり付帯サービス売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 1,000 | 0.01 | 12 | 2 |
| 10 年後 中立 | 700 | 0.01 | 10 | 1 |
取り方:2025年10月期の連結製品別開示にあるその他売上1,240百万円を使用する。数量は導入施設1,000を共通の契約基盤として用いる推定であり、実際のサービス契約数の開示ではない。利益は単一セグメントのため推計配賦。内容が不明な部分を高付加価値のAI製品売上と推認せず、保守的に人月・工数型の周辺サービスとして評価する。
リスクと懸念
AIエージェント代替による導入工数と操作画面の価値低下
AIが病院システムの設定、データ移行、文書作成、問い合わせ対応を自動化すれば、人月で請求できる作業量が減る。操作画面を人が使う前提の機能も、AI経由で実行できるようになる。病院の診療記録という正本は残っても、同社が従来の導入作業と画面機能から得ていた利益は縮む。自社のAI製品による売上実績が明確になるまでは、AIを純粋な増収要因と評価しない。
電子カルテ標準化とクラウド化による乗り換え障壁の低下
政府は電子カルテの標準仕様、医療情報共有、クラウド化を進めている。標準化は導入を促す一方、データの引き継ぎを容易にし、長年同じベンダーを使い続ける必要性を下げる可能性がある。中小病院が初期費用の少ないクラウド製品を選べば、ソフトウェアの導入費用とハードウェア販売の両方が減る。
病院経営悪化と人口減少による顧客数の縮小
病院は医療従事者の確保、人件費、医療材料費、光熱費の負担に直面する。システム更改を遅らせる病院が増えれば、同社の受注時期が後ろ倒しになる。地域医療再編で病院が統合されると、電子カルテの利用者数が減らなくても、契約施設数やサーバー更新案件は減少しうる。
ハードウェアの仕入れコストと利益率低下
2025年10月期の売上の約45%をハードウェアが占める。2026年10月期第3四半期にはハードウェアの販売比率上昇と半導体価格の高騰が利益を圧迫した。仕入れコストを病院に十分に転嫁できない場合、売上が増えても利益が減る構造が続く。ハードウェアの売上成長を高収益なソフトウェアの成長と混同してはならない。
サイバーセキュリティと医療情報の停止リスク
診療記録を扱う会社にとって、情報漏えいやランサムウェア、システム停止は通常のソフトウェア障害より重い。病院の診療と患者情報に影響するため、信用低下や追加のセキュリティ費用、損害対応につながりうる。保守契約が継続する理由でもある安全性を失えば、既存顧客の維持率と新規受注の両方に影響する。
創業家関係の株主構成と資本配分
2026年の大型自己株買いは株主への現金還元という点で評価できるが、売却者が誰であり、どの価格で会社資金を使ったかは検証が必要である。同年10月には資産管理会社への株式移転による筆頭株主の異動も公表された。議決権の集約が進む中で、少数株主に対する還元とガバナンスの透明性が維持されるかを確認する必要がある。
今後の分かれ目
- 保守サービス売上が導入施設数の伸びを上回り、施設当たり売上が継続的に増えたら
- 医療記録の正本と規制対応に値決め力がある証拠となる。保守の数量減少と単価の前提を改善し、中立の利益と長期成長率を再検討する。
- AIエージェントを組み込んだ製品の売上額と継続契約額が明確に開示されたら
- 従来の人月・操作画面売上の代替ではなく、自社が新しい利益を獲得できていると判断する材料になる。AIによる数量減少の前提を見直す。
- ソフトウェア受注残高が減り続け、保守売上まで前年割れになったら
- 一時的な検収時期のずれではなく顧客基盤の弱体化を疑う。やや悲観と悲観の確率を引き上げ、更新案件での失注理由を確認する。
- ハードウェア売上が増えても営業利益率が15%を下回る状態が続いたら
- 2026年の利益率低下が一時的な調達問題ではなく構造的な変化である可能性が高まる。中立のハードウェア利益率と全社利益を下方修正する。
- 病院向け標準仕様とクラウド対応で、新規導入施設数が競合を上回り続けたら
- 既存の医療業務ノウハウが新しいシステム構造でも通用する証拠となる。シェア維持の確信度を上げ、楽観側の確率を再評価する。
- 余剰現金を使った大型買収や追加の自己株買いが発表されたら
- 買収では投じる資本に対する追加利益と既存事業との相乗効果を確認する。自己株買いでは本質価値との価格差を評価し、株主価値を増やす資本配分かどうかを判断する。
見ておくもの
- 月次の受注高と受注残高の推移、特にソフトウェア受注残高とハードウェア受注残高の違い
- 四半期ごとのソフトウェア・ハードウェア・保守サービスの売上構成比と営業利益率
- 導入施設数の純増、既存施設の更新契約、電子カルテ以外のシステムのみの導入施設数
- 一施設当たりの保守サービス売上と顧客維持率の開示
- 医療向けAIエージェント製品の有償契約数、売上額、導入工数削減の実績
- 電子カルテ標準仕様の認証取得状況、電子処方箋・医療情報共有サービスへの対応
- クラウド型電子カルテへの移行に伴うサーバー販売件数と調達原価率
- 自己株買い後の現預金・有価証券・自己資本と、追加の配当・自社株買いの実行
- 新しいオフィス投資の最終支出、減価償却費、維持更新の設備投資額
- 富士通Japan、NEC、CSIなどとの電子カルテ稼働施設数シェアの推移
倍率と資本コストの決め方
現在の時価総額約534億円を使って10年後の利益や倍率を逆算していない。まず2025年10月期の連結製品別売上118.45億円、191.29億円、100.83億円、12.40億円を基礎とし、導入工数相当数、病院向け機器一式の案件数、保守施設数で数量を推定した。AI代替に該当するソフトウェアと保守は指定された数量・単価の範囲に収めた。2026年の売上増加と営業減益から、ハードウェアの低利益率も別に織り込んだ。
倍率は市場の過去PER・PBRを根拠とせず、資本コスト7.25%、10年より先の名目成長率0%、事業のROEと新規投資の利益率から決めた。楽観から中立までは正当化PERの上限13.7931倍をそのまま使用している。余った現金を事業利益から税後利息相当だけ除き、現金の額面を別に足すことで二重計上を避けた。2026年の約78.5億円の自己株式取得は現在株数に反映済みで、将来還元に含めていない。
基準株数4,542,800株は添付の値を優先した。2026年7月末短信の発行済548.8万株から自己株94万5,247株を控除した4,542,753株との差は47株で、丸めの範囲である。新リース会計基準で将来の貸借対照表の表示が変わる可能性があるが、事業価値を家賃控除後の利益で測る考え方は変えない。悲観のPBRは将来ためる自己資本には掛けず、2025年の自己資本419億円を基準に税後売却可能資産の床を評価した。5つの現在価値は確率加重で約448億円となり、基準時価総額より約16%低い。結論はこの差と一致している。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%の合計7.5%を出発点に、事業の循環、値決め力、借金、寿命の評価−0.25%を反映した。個別のAI代替や競争リスクは数量、利益率、長期成長率、筋書きに反映し、資本コストへ二重に加算しない。