結論
ヌーラボは、プロジェクト管理ソフト「Backlog」を中心に、企業の共同作業を支えるクラウドサービス会社である。筆者の結論は「割高」だ。優れた製品と継続課金の仕組みは認めるが、10年後も今と同じ画面や契約単位に対価が支払われるとは限らない。確率を加重した現在の本質価値は約27.7億円で、基準時点の時価総額約80.4億円を約66%下回る。
Backlogは2026年3月期の売上高の約92%を占める。年度末の有料契約数は15,676件、利用者は150万人を超え、月次の売上ベース解約率は0.27%だった。長年の課題、会話、文書が仕事の履歴として残るため、導入企業には乗り換えを避ける理由がある。しかも主力プランは利用人数ではなく契約スペースに課金する。人員削減だけで直ちに売上が減る一般的な席課金SaaSとは異なる。
しかし、AIエージェントは課題の作成、進捗確認、報告、担当者の調整を人の代わりに行える。顧客がBacklogを記録の置き場として使い続けても、画面を使う人数や管理するスペースが減り、価格交渉力が弱まる可能性がある。2026年3月に自社AIアシスタントを正式提供した点は前向きだが、AI収益の独立した実績金額はまだ開示されていない。
会社は2029年3月期に売上高70億円、営業利益18億円を目指す。一方、従来の売上目標は達成時期が1年後ろ倒しになっている。2036年の中立では既存製品の契約数量が縮み、売上高は約41.2億円、営業利益は約5.0億円と考えた。会社計画を否定するための数字ではない。数年先の成長計画が実現しても、その収益構造が10年間維持されるとは限らないという判断である。
約30億円の現預金は重要な防御力だが、約18.7億円の前受収益を抱え、すべてが自由に分配できる現金ではない。さらに大規模な買収構想と未行使の新株予約権がある。事業が良いことと、現在の少数株主が十分な値段でその利益を受け取れることは、分けて考える必要がある。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主にとっての出発点は、Backlogが10年後にも顧客に必要とされるかである。仕事を管理し、責任を明らかにし、過去の判断を残す必要性は消えない。問題は、その必要性に対して顧客がヌーラボへ直接料金を払い続けるかだ。AIエージェントが別の入り口を提供し、Backlogを裏側の保存場所として使うようになれば、存在価値と価格交渉力は異なる動きをする。
堀、つまり競合が容易に奪えない強みは確かにある。20年間利用されてきた製品には履歴が積み重なり、利用者が多くの取引先を招待する仕組みも自然な普及につながる。しかし、記録の保存先には移行手段があり、法令上の独占的地位もない。経営陣が述べる「ナレッジ基盤」が本当に他社へ乗り換えられない資産なのか、それとも顧客が自由に持ち運べる情報なのかで、10年先の利益率は大きく変わる。
株主のものになる利益にも注意が要る。2026年3月期は営業キャッシュフローが約2.8億円、投資キャッシュフローが約マイナス3.5億円で、単純な差額はマイナスだった。ソフトウェア開発への投資は将来の収益を生む可能性があるが、AIへの対応を続けるには開発費が反復して必要となる。会計上の利益をすべて分配可能な現金と見なすことはできない。
さらに、手元にある現金の取り扱いが投資家の取り分を決める。約30億円の現預金は心強いが、前受収益、従業員や開発への支払い、海外拠点の整理、買収資金を考えると、自由に使える額はずっと小さい。2026年に自社株買いをしたことは評価するが、長年の無配と大きな買収構想を考えると、少数株主に残る現金の価値を満額には数えにくい。
筆者が求めるのは、値上げ後も低い解約率を維持し、AI製品の追加売上を金額で示し、買収を含む増分の投下資本利益率が資本コストを上回る証拠である。それが確認されるまでは、製品の良さに高い永続価値を支払わない。現在の時価総額には、その証拠が将来そろうことへの期待がかなり含まれている。
何で稼ぐ会社か
収益の中心はBacklogである。企業はプロジェクトごとに課題を作り、担当者、期限、進行状況、コメント、関連ファイルを共有する。WikiやGitとの連携もでき、開発部門だけでなく営業、制作、管理部門でも使われる。2026年3月期の売上高は約40.4億円で、全社の約92%を占めた。大部分は継続課金であり、案件ごとに人員を派遣して稼ぐ受託開発とは性質が異なる。
Backlogの契約の基本単位は有料スペースである。主力プランでは利用人数に上限を設けず、同じ企業の別部門や取引先も参加しやすい。この仕組みは利用者の広がりを促すが、150万人をそのまま課金対象のID数と見てはいけない。年度平均の有料契約数を約15,220件と推定すると、実績売上高から逆算した平均契約単価は年約26.6万円となる。プラン構成や契約期間を含む平均であり、公開料金表の単価ではない。
第二の製品Cacooは、オンラインで図、工程、アイデアを共同編集する道具である。売上高は約1.1億円と小さく、2026年3月期も前年割れだった。MiroやFigJam、Microsoftの共同編集機能などとの競争が厳しい。既存の小口契約を新しいスペース型料金に移す方針だが、単価の上昇が解約の増加を上回るかはまだ確認できない。
第三のNulab Passは、シングルサインオンとアクセス管理、監査ログなどを提供する。2026年3月期の売上高は約2.4億円で前年比61%増加し、年度末の有料ライセンスは約10.1万に達した。Backlogの既存顧客へ追加販売できる点が魅力だが、Microsoft Entra IDやOktaなど、企業全体の認証基盤を提供する大手と機能が重なる。認証ログの価値と、独立した製品として残る価格交渉力は別問題である。
かつて提供したチャットサービスTypetalkは2025年12月に終了した。2026年3月期には約0.02億円の売上が残ったが、将来の収益源とは見ない。2026年にはBacklog AIアシスタントを正式提供し、ワークフロー自動化のNulab Flowbaseも打ち出した。ただし、両者の独立した売上と契約数量は十分に開示されておらず、既存製品とは別の成長事業として価値を加算していない。
優良さと弱いところ
ヌーラボの最も確かな強みは、顧客が長年にわたって使い続けてきたBacklogという製品そのものである。2025年に提供開始20周年を迎え、2026年3月の売上ベース月次解約率は0.27%だった。課題とコメントが積み重なるほど、新しい道具へ移行する際に説明し直す手間が増える。利用者を無制限に招待できる仕組みも、組織内外に利用経験を広める助けとなる。
もっとも、低い解約率だけで強い独占力が証明されたわけではない。件数ベースの同月解約率は1.07%で、少額契約ではより頻繁に入れ替わりが起きている。顧客の履歴は貴重だが、その情報は本来顧客のものであり、BacklogにはAPIやCSVなどのデータ持ち出し手段もある。法令によってBacklogの利用が義務づけられているわけでもない。移行が困難な独占的記録基盤と認定するには証拠が足りない。
値決め力については実際の試験が始まる。2027年1月からBacklogのプランを再編し、新しい月額料金はエコノミー2.1万円、ビジネス3.63万円、プロフェッショナル10万円となる。高額プランへの移行が進めば単価は上がる。しかし、改定時点では既存顧客が新料金を受け入れた実績はまだない。解約率が低いまま収益単価が上昇するかどうかが、堀の強さを測る有力な証拠になる。
財務は有利子負債がほぼなく、純現金が厚い。一方、2026年3月期には営業利益が約3.5億円へ減少した。前年の約6.4億円からの減益には戦略投資が影響し、海外拠点の整理でも一時費用を計上した。ROEは期によって大きく変動するため、過去の高い数値だけを将来の投下資本利益率と見なせない。今後の増分利益が資本コストを上回るかは、値上げ後の契約純増と買収後の現金創出力によって判断する必要がある。
顧客への定着度は高く、資金繰りも堅い。しかし、AI時代に価格を決め続ける能力はまだ検証中である。経営者が製品を理解していることと、少数株主の資本を高い利回りで再投資できることも、同一視しない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の共同作業ソフト市場は拡大している。ITRによる2025年度の国内コラボレーション・スイート市場は1,776.8億円で、2030年度まで年率12.1%の成長が予測されている。ただし、この市場には広範な共同作業基盤が含まれ、Backlogに限定した市場規模ではない。Backlogの売上約40.4億円をこの市場で割った約2.3%は周辺市場との規模比較にすぎず、厳密な市場シェアではない。
プロジェクト管理ツールの競合はAtlassianのJira、Asana、Microsoft Planner、Notion、ClickUp、クラウドログなどである。BOXILの2025年導入調査では、クラウドログ13.21%、Asana7.07%、Backlog6.47%という利用割合が示された。これは調査回答者が選んだ製品の割合で、売上高や契約スペース数のシェアではない。したがって6.47%をそのまま国内市場全体の収益シェアとは扱わないが、競争が分散していることを示す参考材料にはなる。
Backlogの10年後の数量を決める主因は、日本企業の新規導入よりも、既存の契約スペースが必要であり続けるかだ。AIエージェントが複数のプロジェクトを横断して仕事を管理するなら、顧客は履歴を残したままスペースを統合できる。MicrosoftやAtlassianは共同作業基盤、認証、開発環境までを束ねられる。価格競争は単なる機能の多さでなく、仕事全体を引き受けられるかという競争に変わる。
Cacooの市場はMiro、FigJam、Microsoft Whiteboardなどと重なり、国内の直接比較できる売上市場規模と各社シェアは確認できなかった。共同編集機能は大きな基盤ソフトへ組み込まれやすく、Cacooの独立した契約数が長期的に減ることを中立の前提とする。料金体系の切り替えで一部の高単価利用者を確保できても、画面自体の代替は避けられない。
Nulab Passが属する国内IDaaS市場は、ITRによれば2024年度に303.5億円だった。同社の2026年3月期売上約2.4億円は、この過去の市場規模との比較では1%未満に相当する。年度が異なり製品範囲も完全には一致しないため、正確なシェアではない。競合のMicrosoft Entra ID、Oktaなどは顧客の認証基盤全体に入り込んでいる。Nulab Passには既存顧客への販売余地があるものの、全社的な認証標準を奪うには高い壁がある。
AIエージェントはこれらの市場を一様に縮小させるわけではない。人間の操作画面への需要が減る反面、機械の実行履歴やアクセス権の管理は重要になる。ヌーラボがその基盤として選ばれれば数量の縮小は穏やかになる。しかし、既存製品の利用者増加と同じ速度で会社の売上が増えると考えるのは危険である。
資本政策と M&A
2026年6月の中期経営計画では、2029年3月期の売上高70億円、営業利益18億円、営業利益率25.7%を目標とした。2027年3月期は売上高47.34億円、営業利益6.5億円、純利益4.84億円を見込む。2028年3月期の売上高は61.4億円、営業利益は12億円である。以前掲げた2028年3月期の売上高70億円という達成時期は、2029年3月期へ変更された。
経営陣は2030年3月までの累計で最大80億円規模の成長投資を構想している。内訳はM&A45〜55億円、事業開発15〜25億円、資本政策10億円、運転資金10億円という目安である。調達側には手元現金約30億円、3年の営業キャッシュフロー約30億円、借入約30億円を想定する。これは確定した買収や資金調達ではなく、上限と使途の構想である。
買収は3年間で3社を想定するが、対象会社と買収価格、期待する投下資本利益率は確定していない。買収した会社の売上を増やすだけでは株主価値は増えない。のれんや追加借入を負担した後でも、取得事業が資本コストを超える現金利益を生む必要がある。過去のM&A実績だけから将来の優れた資本配分を証明することはできない。
2026年3月期には約1億円で自己株式を129,600株取得した。一方、配当は実施しておらず、会社は当面の再投資優先を明記している。中期計画の資本政策10億円は還元の検討枠であって、配当性向、DOE、総還元性向、確定した自社株買い額についての数字の約束はない。経営側への株式集中も強く、2026年3月末の上位10株主の保有比率は73.55%だった。
潜在株式数655,784株に相当する新株予約権が開示されている。成長する筋書きではその行使による既存株主の持分低下を見込み、払込金の会社への流入も資本の道筋に含めた。海外事業では米国とオランダの子会社を清算する方針で、2027年3月期以降の費用削減には合理性がある。もっとも、大きな買収に踏み出す前に、既存サービスだけで増分資本利益率を確かめたいところである。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
Backlogは、日本のソフトウェア企業のなかでも珍しい利用習慣を築いた製品である。単に課題表を表示するだけではなく、20年にわたり企業の仕事の履歴を保存してきた。月次の売上ベース解約率0.27%は、少なくとも現在の利用者が価値を感じている強い証拠だ。150万人を超える利用者のなかには、別の企業へ移ってからもBacklogの導入を提案する人がいる。新規顧客の獲得が広告だけに依存しない点も、長期的な獲得費用を抑えられる。
特に重要なのは、主力のBacklogが一般的な席課金ではないことだ。利用者が減っても、顧客が一つのスペースで事業を継続する限り料金は残る。AIエージェントを顧客の組織に導入しても、作業内容の正しい記録とアクセス権管理は必要になる。2026年3月に正式提供したAIアシスタントは、外部の汎用AIが提供しにくい過去の課題、コメント、文書の文脈を利用できる。顧客の仕事の中心に残る道がある。
2027年のプラン改定は、既存顧客からより多くの収益を得る機会である。ビジネスプランへの移行やAI機能の利用が進めば、契約件数が大幅に増えなくても売上は伸びる。Nulab Passはすでに有料ライセンスが10万を超え、Backlogの顧客基盤に追加する事業として育ち始めた。海外拠点の整理によって利益率が改善し、国内顧客の深掘りに資源を集中できる点も合理的だ。
会社が掲げる2029年3月期の営業利益18億円は、2026年3月期から大きく伸びる計画である。これが実現し、さらに買収先の収益も着実に加われば、今の事業規模は大きく変わる。買収費用を慎重に管理し、余った現金の還元も進めれば、現在の株主が受け取る価値は中立を上回る。現時点の価格が高くても、製品基盤を長く守れるなら時間が味方になるという見方は十分に成り立つ。
慎重な見方
低い解約率は過去の強みを証明するが、これから始まる仕事の変化にはまだ答えていない。人がBacklogを開き、課題を更新し、進捗を確認するという一連の仕事は、AIエージェントが最も置き換えやすい作業の一つである。顧客の履歴がBacklogに残っていても、業務の入り口がMicrosoftやAtlassianなどの製品に移れば、顧客が支払う総額はそちらに集中する。ヌーラボは裏側の保管先として残っても、強い値決め力を失いかねない。
主力製品の単価は長く上昇してきたが、2027年の改定は一部の利用者に大きな負担増を伴う。プラン統合と同時に企業がスペースを減らし、管理対象をまとめれば、値上げの効果は相殺される。月次0.27%という解約率も年率ではなく、その月の売上に対する解約額の割合である。値上げ後の顧客行動を確認しないまま、今の定着度が維持されると信じることはできない。
会社の収益はBacklogに大きく集中している。Cacooは売上が減少し、Nulab Passは伸びているものの、まだ全社の数%を占めるにすぎない。Nulab Passの競合には大手認証基盤があり、利用権限を会社全体で統合する流れが強まれば追加販売の余地も狭まる。新しいFlowbaseやAIアシスタントについても、独立した売上の開示がない段階で、将来の柱として利益を積み上げる根拠は弱い。
資本配分も不透明である。会社は最大80億円の成長投資を構想し、うち45〜55億円を買収に使う可能性を示した。現預金が厚くても、それは買収に使われてしまえば株主への安全資産ではなくなる。買収先の事業がAIで傷めば、のれんの減損と追加資金が必要になる。一方、少数株主は配当や清算を強制できない。2026年の自己株買いだけで今後の高い還元率を約束したことにはならない。
現在の時価総額は、直近の営業利益だけでなく将来の改善を大きく織り込んでいる。2029年の会社目標自体も、以前の計画から達成時期が変更された。中期的な増益が起こることと、それが2036年以降も持続することは別である。競争と技術変化が速い事業に対し、現時点で長期間の超過利益を前払いするのは危うい。
どちらに重みを置いたか
製品の利用実績、低い解約率、利用人数無制限の料金構造は明確な強みである。一方、値上げ後の定着実績、AI関連売上の金額、買収後の投下資本利益率はまだ確認できない。10年の中立にはAIエージェント代替による数量減少と価格圧力をすでに反映し、長期成長率にも同じ構造変化を織り込んだ。確率ではそのリスクをさらに二重に罰していない。下側を40%、上側を29%としたのは、会社目標の達成時期変更、Cacooの契約減少、還元方針の不確実性という個別の材料による。現状では慎重な見方に分があり、本質価値と株価の差は大きい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 713 円45 億円(+ 還元の換算額還元の合計 140 円9 億円)。 今の値に割り戻すと 434 円28 億円、今との差 −64.4%、 期待の年率 −3.8%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,939 円123 億円 | 541 円34 億円 | +103.3% | +8.5% | 248 円16 億円 |
| やや楽観 | 19% | 1,317 円84 億円 | 313 円20 億円 | +33.6% | +3.3% | 310 円20 億円 |
| 中立 | 31% | 652 円42 億円 | 71 円5 億円 | −40.7% | −5.3% | 224 円14 億円 |
| やや悲観 | 26% | 203 円13 億円 | 16 円1 億円 | −82.1% | −16.2% | 57 円4 億円 |
| 悲観 | 14% | 99 円6 億円 | 0 円0 億円 | −91.9% | −22.2% | 14 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 713 円45 億円 | 140 円9 億円 | −30.1% | −3.8% | 853 円54 億円 |
今の株価時価総額 1,220 円78 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% BacklogがAI時代の仕事の記録基盤として残る 利益 11 億円 · PER 12.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,939 円123 億円
Backlogは、人とAIが共同で進める仕事の記録先としての地位を守る。AIエージェントは課題を作成し、更新し、過去の判断を参照するが、顧客は履歴を安全に保持するためにBacklogを使い続ける。利用する人数が増えても契約スペースは増えないため、料金構造を活かして高付加価値プランを定着させることが収益の中心になる。
2027年の新料金は既存顧客に受け入れられ、AI機能の導入後も大口顧客の解約率は低い。Nulab Passは既存の企業顧客へ着実に広がり、Microsoft Entra IDとの競争では補完的な用途を確立する。Cacooも一定の共同作図需要を維持するが、単独で会社の成長を牽引するほどにはならない。
海外拠点の整理で固定費が軽くなり、製品開発の効率も改善する。買収は企業文化や製品の相性を優先し、借入負担やのれんによる損失を最小限に抑える。営業利益率は25%台に上がる。取得した収益を守りながら株主還元も進め、長期保有者が成長の成果を受け取れる筋書きである。
- Backlog(プロジェクト・タスク管理):数量 15,200(年度平均の有料契約スペース数(件))× 価格 0.00(有料契約スペース1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 52 億円・営業利益 21 億円。有料スペース数量は現在の約1.00倍、実現単価は1.30倍。AIによる数量増は認めず、改定プランへの移行と上位契約の構成改善を想定。
- Cacoo(オンライン共同作図):数量 3,100(年度平均の有料契約数(件・推定))× 価格 0.00(有料契約1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。有料契約数量は現在の約0.96倍、実現単価は1.20倍。高単価のスペース契約へ移行する。
- Nulab Pass(ID管理・認証):数量 85,000(年度平均の有料ユーザーライセンス数(ID))× 価格 0.00(有料ライセンス1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。有料ID数量は現在の約1.00倍、実現単価は1.22倍。監査・認証の追加機能への支払いを見込む。
- Typetalk(終了したチャットサービス):数量 0.0(終了前の有料契約換算数(件・便宜的代理値))× 価格 0.00(換算契約1件当たり2026年3月期認識売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2025年12月にサービス終了済み。
倍率:資本コストkは7.75%、2036年以降の名目成長率gはAIエージェント代替を織り込んだマイナス0.5%。余剰現金4億円を除く事業純利益は10.50438億円、事業自己資本は97.70038億円、事業ROEは約10.75%。堀の残存割合2分の1からRONICは約9.25%となる。ROEがkを超えるため正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限約12.78倍を使用した。事業純利益にこのPERを掛け、余剰現金4億円に戻り方0.5を掛けた2億円を加える。2027年以降の純利益累計約114.65億円から還元38億円を引き、予約権行使の想定払込約5.35億円を加えた自己資本の道筋である。
確率:新料金体系への移行、AI機能の利用定着、国内での高付加価値契約の維持、海外整理後の高い利益率がそろう必要がある。現時点で独立したAI売上金額は確認できないため、楽観でも契約数量の拡大は想定しない。
やや楽観 19% 値上げが定着し、利益率の改善が続く 利益 7 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,317 円84 億円
Backlogの新プランは一部で解約や契約統合を招くが、大部分の大口顧客は利用を継続する。プロジェクトの履歴や社外との共同作業は依然として重要で、AIエージェントもBacklog内の記録を参照する。新規スペースの獲得は以前ほど伸びないものの、上位プランへの移行によって売上の減少を補う。
Nulab Passは、既存のBacklog顧客がアクセス管理を強化する際の選択肢として残る。独立した大企業向け認証基盤でMicrosoftやOktaに勝つわけではない。Cacooは小口契約の整理が続き、単価改善の効果は限定的となる。全社の売上高は現在を上回り、海外拠点の整理と開発工程の合理化で利益率が改善する。
買収は小規模な製品補完を中心にとどめ、巨額ののれんは抱えない。経営陣は現金を慎重に使い、純利益の一部を配当や自己株買いへ回す。AIに仕事の一部を奪われても顧客の履歴を守る事業は残り、成長と安定の双方をほどほどに実現する展開となる。
- Backlog(プロジェクト・タスク管理):数量 14,500(年度平均の有料契約スペース数(件))× 価格 0.00(有料契約スペース1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 17 億円。契約数量は約0.95倍、単価は1.20倍。新料金と上位プランへの移行が一部の契約統合を補う。
- Cacoo(オンライン共同作図):数量 2,750(年度平均の有料契約数(件・推定))× 価格 0.00(有料契約1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。契約数量は約0.85倍、単価は1.12倍。共同作図の独立課金はやや細る。
- Nulab Pass(ID管理・認証):数量 81,000(年度平均の有料ユーザーライセンス数(ID))× 価格 0.00(有料ライセンス1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。有料ID数量は約0.95倍、単価は1.16倍。顧客内での利用拡大と価格改善が競争圧力を補う。
- Typetalk(終了したチャットサービス):数量 0.0(終了前の有料契約換算数(件・便宜的代理値))× 価格 0.00(換算契約1件当たり2026年3月期認識売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。終了したサービスの売上は計上しない。
倍率:k7.75%、gマイナス0.5%。余剰現金4億円の税後想定利息0.056億円を除く事業純利益は約7.037億円、事業自己資本は約81.483億円で、事業ROEは約8.64%。超過ROEの2分の1が続くRONICは約8.19%となり、正当化PERの上限は約12.86倍。現金については4億円の半分に当たる2億円を別に加える。2027年から2036年の純利益累計約82.43億円と還元22億円、予約権払込約5.35億円を反映した自己資本を用いる。
確率:海外事業整理による費用削減と2027年の価格改定は具体的な施策であり、ある程度の利益改善は合理的である。ただし、AI業務への移行が進んだ後も契約数をほぼ維持できることを必要とする。
中立 31% 顧客の履歴は残るが、契約スペースは集約される 利益 4 億円 · PER 12.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 652 円42 億円
Backlogは、2036年にも日本企業のプロジェクト履歴を保管し、チームの仕事を支える。しかし、仕事の入り口はAIエージェントや企業全体の共同作業基盤へ移り、人が画面を開く頻度が減る。顧客は複数の契約スペースを統合し、必要な履歴を少ない契約で管理するようになる。利用者は残っても、課金対象であるスペースの数は緩やかに減る。
2027年のプラン改定は一部の顧客には受け入れられ、実現単価を押し上げる。ただし、ソフトウェア価格が一般物価に完全には追随するほどの交渉力はない。Nulab Passも企業内で使われるが、全社の認証基盤としてMicrosoftなどを置き換えることはできず、利用数量は縮小する。Cacooは共同編集機能の標準装備化によって独立契約を減らす。
海外拠点の整理で費用は減るが、国内でのAI開発とセキュリティ対応を続けるため、利益率の大幅な上昇は長続きしない。買収による成長は実現する可能性があるものの、価格、案件、収益性が未確定のため中立の独立収益には加算しない。会社は存続し、現金も残る。しかし、2030年代後半の稼ぐ力は2029年の計画目標を大きく下回る。
- Backlog(プロジェクト・タスク管理):数量 13,000(年度平均の有料契約スペース数(件))× 価格 0.00(有料契約スペース1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 38 億円・営業利益 13 億円。契約スペース数量は現在の約0.85倍、実現単価は1.10倍。AIエージェントによる契約統合とプラン改定による単価改善を両方反映する。
- Cacoo(オンライン共同作図):数量 2,500(年度平均の有料契約数(件・推定))× 価格 0.00(有料契約1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。契約数量は約0.77倍、単価は1.08倍。共同作図機能が大手基盤に統合される。
- Nulab Pass(ID管理・認証):数量 75,000(年度平均の有料ユーザーライセンス数(ID))× 価格 0.00(有料ライセンス1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。有料ID数量は約0.88倍、単価は1.10倍。認証の必要性は残るが、大手基盤への統合が進む。
- Typetalk(終了したチャットサービス):数量 0.0(終了前の有料契約換算数(件・便宜的代理値))× 価格 0.00(換算契約1件当たり2026年3月期認識売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。終了したサービスの売上は計上しない。
倍率:k7.75%、gマイナス0.5%。余剰現金4億円の税後想定利息0.056億円を除く事業純利益は約3.616億円、事業自己資本は約61.162億円で、事業ROE約5.91%は資本コストを下回る。この場合は再投資で超過価値を創出しないため、gが負の企業の稼ぐ力の上限1÷(k−g)=約12.12倍を使用する。余剰現金4億円には戻り方0.5を適用し2億円を足す。2027年から2036年の純利益累計約45.11億円から還元5億円を引き、予約権の推定払込5.35億円を加えた自己資本を用いる。
確率:月次解約率の低さと利用人数無制限の料金構造から急激な消滅は見込まない。一方、AIエージェントが複数プロジェクトを横断し、契約スペースと共同作図の単独利用を減らすという中心的な構造変化を織り込む。
やや悲観 26% AIによる契約統合と価格競争が重なる 利益 1 億円 · PER 12.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 203 円13 億円
AIエージェントが実際に課題の作成、進捗報告、情報整理を引き受け、企業は複数のスペースを一つにまとめる。Backlogは履歴の保管先として残るが、契約スペースを維持する必要が薄れ、値上げを受け入れない顧客も増える。MicrosoftやAtlassianの共同作業基盤が企業全体の管理業務を取り込み、Backlogの用途は限定された部門へと縮小する。
Cacooは独立した契約を大きく減らし、利益をほとんど残せない。Nulab Passは大手の認証管理サービスとの競争に苦しみ、追加IDの獲得より契約維持が中心になる。海外事業の整理による改善効果は最初の数年間は出るが、AIへの対応と顧客サポートの費用が残るため、全社利益率は低下する。
会社は買収計画を縮小し、現金流出を抑える。2027年以降の初期の黒字によって自己資本は一定程度増えるものの、2036年には利益をわずかに確保するだけとなる。配当と買戻しはごく小さく、長期株主にとっては事業を持ち続けること自体の利益が乏しい状態である。
- Backlog(プロジェクト・タスク管理):数量 10,800(年度平均の有料契約スペース数(件))× 価格 0.00(有料契約スペース1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 29 億円・営業利益 9 億円。契約スペース数量は約0.71倍、単価は1.02倍。価格改定の効果が契約統合と割引要求で失われる。
- Cacoo(オンライン共同作図):数量 1,900(年度平均の有料契約数(件・推定))× 価格 0.00(有料契約1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。契約数量は約0.59倍、単価は0.98倍。既存契約の防衛が主目的となる。
- Nulab Pass(ID管理・認証):数量 60,000(年度平均の有料ユーザーライセンス数(ID))× 価格 0.00(有料ライセンス1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。有料ID数量は約0.70倍、単価は据え置き。大手認証基盤への統合が進む。
- Typetalk(終了したチャットサービス):数量 0.0(終了前の有料契約換算数(件・便宜的代理値))× 価格 0.00(換算契約1件当たり2026年3月期認識売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。サービス終了済み。
倍率:k7.75%、gマイナス0.5%。2036年の事業純利益は余剰現金3億円の税後想定利息0.042億円を除く約0.941億円で、事業自己資本約31.723億円に対するROEは約2.96%と資本コストを下回る。したがって事業の稼ぐ力の上限1÷(k−g)=約12.12倍を用いる。事業価値約11.40億円に、余剰現金3億円のうち株主に戻ると見る1.5億円を加える。床の資産価値6.3億円を上回るが、将来の自己資本に床のPBRを掛けて評価することはしない。
確率:下に寄せる理由:Cacooは既に売上と契約数が減少しており、Backlogの以前の成長目標も達成時期が後ろ倒しになった。2027年の新料金を顧客が受け入れるか不明で、買収投資の収益率も未確定である。AIの影響そのものは数量、単価、g_longに織り込み済みであり、確率でさらに同じ損失を重ねていない。
悲観 14% 主力製品の価値が保存機能だけに縮み、赤字へ転落 利益 −3 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 99 円6 億円
Backlogの課題管理画面は、2030年代に企業内AIエージェントの背後へ追いやられる。過去の記録を参照する需要は残っても、新しい仕事の管理先はMicrosoftやAtlassianなどの大きな基盤へ集中する。顧客は既存の記録を段階的に移し、新規スペースの契約を控える。低い解約率という強みは長年の顧客をつなぎとめるが、料金を維持する力までは守れない。
Cacooは共同作図の標準機能化によって大幅に規模を縮め、Nulab Passは全社認証基盤への統合で有料IDを失う。会社は海外拠点に続いて国内の開発体制も縮小するが、セキュリティ対応や既存顧客へのサービス提供を止められず、2036年には営業赤字となる。
前半には2027年の会社計画に沿った増益があり、一時的に現金と自己資本は増える。しかし、その後の契約減少と開発投資の損失が蓄積し、10年間の利益累計はほぼゼロとなる。買収は見送り、配当も自社株買いも実施しない。経営は会社の存続を優先し、少数株主が持つ価値は、現在の現預金から負債を差し引いた換金可能資産に近づく。
- Backlog(プロジェクト・タスク管理):数量 7,400(年度平均の有料契約スペース数(件))× 価格 0.00(有料契約スペース1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 4 億円。契約スペース数量は約0.49倍、単価は0.98倍。大手基盤への移行で事業規模がおおむね半減する。
- Cacoo(オンライン共同作図):数量 1,400(年度平均の有料契約数(件・推定))× 価格 0.00(有料契約1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。契約数量は約0.43倍、単価は0.90倍。採算を失う。
- Nulab Pass(ID管理・認証):数量 43,000(年度平均の有料ユーザーライセンス数(ID))× 価格 0.00(有料ライセンス1件当たり年間実現売上高(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。有料ID数量は約0.50倍、単価は0.94倍。認証基盤の競争に敗れる。
- Typetalk(終了したチャットサービス):数量 0.0(終了前の有料契約換算数(件・便宜的代理値))× 価格 0.00(換算契約1件当たり2026年3月期認識売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。サービス終了済み。
倍率:2036年は営業赤字で純利益も赤字のため、正のPERによる継続利益価値は認めない。床は2026年3月期の自己資本約19.7億円ではなく、現預金29.76億円から全負債25.41億円を差し引き、回収可能な売掛金と有形資産を加えた約6.30億円である。PBR0.32倍は過去の市場PBRではなく、この換金価値6.30億円を現在の自己資本19.7億円で表示する換算値である。2036年に積み上げた大きな自己資本を分母とする評価ではない。10年間の初期利益と後半損失がほぼ相殺され、還元も行使払込もないため、自己資本は現在とほぼ同額のままとする。
確率:AIエージェントへの業務移行、値上げ失敗、大手プラットフォームによる機能統合が同時に起こる複合的な負け筋である。破綻を前提とするのではなく、当初数年間の利益を後半の損失がほぼ打ち消し、売れる資産の価値が企業評価を支える場合とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
Backlog(プロジェクト・タスク管理)
課題、進捗、コメント、Wiki、Git連携などの共同作業基盤。主力プランは利用人数無制限の契約スペース課金で、単純なID課金ではない。AI代替の分類は操作画面中心の業務SaaSとする。
| 数量年度平均の有料契約スペース数(件) | 価格有料契約スペース1件当たり年間実現売上高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15,220 | 0.00 | 40 | 12 |
| 10 年後 中立 | 13,000 | 0.00 | 38 | 13 |
取り方:売上40.41631億円は2026年3月期有価証券報告書のBacklog販売実績4,041,631千円。年度末の有料契約数は2025年3月末14,763件、2026年3月末15,676件。両端の平均約15,220件を年間契約数量の代理値とし、実現平均単価は40.41631億円÷15,220件=約26.6万円/年。契約途中の増減、年額割引、旧プランの構成による差があるため実測の平均契約単価ではない。営業利益12.125億円は製品別利益が未開示のため、サービス固有の利益率30%を仮定した分析用の配賦額であり、別途全社共通費用を差し引く。2025年のBOXIL導入調査におけるBacklog利用割合6.47%は売上市場シェアではない。AI代替の中立数量は契約スペースを基準に現状の約0.85倍とする。
Cacoo(オンライン共同作図)
複数人が図表や構想を共有するビジュアル共同編集ソフト。Miro、FigJam、Microsoftの製品と競合し、操作画面中心の業務SaaSに分類する。
| 数量年度平均の有料契約数(件・推定) | 価格有料契約1件当たり年間実現売上高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,230 | 0.00 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,500 | 0.00 | 1 | 0 |
取り方:売上1.11292億円は有価証券報告書のCacoo販売実績111,292千円。2025年3月末の有料契約約3,693件と、2026年3月末の全製品契約18,906件からBacklog15,676件およびNulab Pass等の契約を除いて見積もる期末約2,766件を使い、年度平均を約3,230件とした。Pass契約数の正確な年度末値を同じ基準で検証した推計ではなく、Cacooの直接開示数量ではない。実現単価は約3.45万円/年。営業利益0.05565億円は製品別の開示利益ではなく5%の仮定配賦。2026年のスペースプランへの料金移行と旧契約の混在を考え、公開料金をそのまま平均単価とはしない。
Nulab Pass(ID管理・認証)
Backlogなどの利用者のアクセス管理、シングルサインオン、監査ログを提供する追加課金サービス。ID課金の業務SaaSとして評価する。
| 数量年度平均の有料ユーザーライセンス数(ID) | 価格有料ライセンス1件当たり年間実現売上高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 85,193 | 0.00 | 2 | 1 |
| 10 年後 中立 | 75,000 | 0.00 | 2 | 1 |
取り方:売上2.38274億円は有価証券報告書の販売実績238,274千円。会社の決算説明資料に示された有料ライセンス数は2025年3月末69,732、2026年3月末100,653で、年度平均を両端平均の約85,193IDと推定した。年間実現単価は2.38274億円÷85,193ID=約2,797円/年であり、定価でも開示されたARPUでもない。営業利益0.59569億円は利益率25%を仮定した製品別配賦である。比較市場としてITRの国内IDaaS市場2024年度303.5億円を用いるが、対象年度と製品範囲が異なるため厳密な市場シェアは算出できない。
Typetalk(終了したチャットサービス)
2025年12月に提供を終了したビジネスチャット。2026年3月期に残った販売実績のみを計上し、将来売上はゼロとする。
| 数量終了前の有料契約換算数(件・便宜的代理値) | 価格換算契約1件当たり2026年3月期認識売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
取り方:2026年3月期の販売実績2,464千円を換算契約100件で割った分析上の表示であり、2026年の実測年間平均契約数ではない。終了したサービスの残存収益を他の製品に紛れ込ませないために独立表示した。営業利益は製品別未開示であり、将来収益とともにゼロとする。
リスクと懸念
AI エージェント代替
Backlogは主力プランが人数無制限であり、単純な席数減少には比較的強い。しかし、課題の起票、進捗確認、会議後の整理をAIが行うようになると、企業は契約スペースを統合できる。Cacooは共同編集画面の独立課金を失いやすく、Nulab Passも企業全体の認証基盤に吸収される危険がある。3製品ともAI代替の対象とし、数量、価格、長期成長率へ反映した。
値上げ後の顧客行動
2027年のBacklog新プランでは料金と利用人数の上限が一部変更される。従来の月次売上解約率が低くても、大幅な料金変更を受けた既存顧客の行動を示すものではない。プランの移行時に契約数が減り、売上の伸びが期待を下回れば、同社の値決め力についての評価を下げる必要がある。
Backlogへの売上集中
2026年3月期の売上の約92%をBacklogに依存する。Nulab Passは高成長だが規模がまだ小さく、Cacooは縮小した。主力製品が大手プラットフォームとの競争に負けても、短期間でその穴を埋める第二の収益源は確認できない。会社全体の業績は一つの製品の競争力に強く左右される。
大型M&Aと資本配分
経営陣はM&Aに45〜55億円を振り向ける構想を示している。現状の会社規模に対して大きな投資額であり、対象企業の収益性が十分でなければ株主資本を損なう。追加借入の金利やのれんの減損、統合作業による開発の停滞も起こりうる。買収売上高の増加ではなく、買収後の投下資本利益率と現金回収を検証すべきである。
前受収益と現金の取り違え
2026年3月末の現預金約29.8億円には、顧客から先に受け取った利用料に対応する資金が含まれる。前受収益約18.7億円は即時返済を要する借金ではないが、将来サービスを提供する責務と結びついている。手元現金全額を事業から分離できる余剰資産とすると、運転資金と株主の取り分を過大評価する。
新株予約権の希薄化
2026年の有価証券報告書には潜在株式655,784株に相当する新株予約権が記載されている。成長する筋書きでは行使によって資金が会社に入る一方、現在の株主が持つ取り分は減る。既存の自己株式処分を重複して数えず、行使時期や権利失効の可能性も考慮しなければ、1株に帰属する価値を過大評価する。
ソフトウェア開発投資と現金創出力
2026年3月期は営業キャッシュフロー約2.8億円に対し、投資キャッシュフローは約マイナス3.5億円だった。AI機能、セキュリティ、基盤更新の開発費が継続するなら、会計上の利益が増えても株主に分配できる現金は増えない。開発投資を削りすぎれば製品の競争力を失うため、費用削減と品質維持の両立が課題となる。
今後の分かれ目
- 2027年のBacklog新料金へ既存顧客が移行しても、売上ベース月次解約率が0.3%前後にとどまり、契約当たり実現単価が明確に上昇したら
- 値決め力の証拠が一つ増える。Backlogの中立単価と利益率を上方修正し、やや楽観の確率を引き上げる余地が生まれる。
- Backlogの有料契約スペース数が継続して減少し、利用人数やAI利用量だけが増えている状態になったら
- 課金単位と製品利用の関係が弱まったと判断する。中立の数量をさらに減らし、やや悲観の筋書きに近づいたか確認する。
- Backlog AIアシスタントまたはNulab Flowbaseの追加売上と有料契約数が独立した金額として継続開示されたら
- AIを守りの機能ではなく、実際に収益を生む製品として認定できる。既存の操作画面SaaSとは別の数量と単価を積み上げ、長期成長率の再評価も検討する。
- 2029年3月期の営業利益18億円に近づき、しかも営業キャッシュフローから開発投資を引いた後の現金が着実に増えたら
- 利益率改善が会計だけの成果ではないと確認できる。中立の利益率、必要運転資金、株主還元余力を見直す。
- M&Aに多額の資金を使い、取得事業の増分利益が資本コストを下回るか、大きなのれん減損が発生したら
- 会社の現金を満額の株主価値として評価しにくくなる。買収事業の将来利益を減らし、資本配分の失敗をやや悲観と悲観へ反映する。
- 自己株式取得や配当が継続し、5年間の株数減少が明確に2%を超えるか、配当の増額が実現したら
- 現在0.5としている余剰現金の株主への戻り方を見直す。継続的な還元が十分なら0.75または1.0へ引き上げる。
- Nulab Passの有料ライセンス数と売上高がともに増え、単価も下がらず、大企業の認証基盤として独立利用が広がったら
- Backlog依存を薄める第二の収益源として評価を高める。ただしMicrosoft Entra IDやOktaへの依存関係、解約率、実際の収益性は別途確認する。
見ておくもの
- Backlogの有料契約スペース数、2027年プラン改定後の実現単価、売上ベースと件数ベースの月次解約率
- Backlogの有料利用者数と契約スペース数の乖離、1スペース当たり売上の推移
- 2029年3月期の売上高70億円・営業利益18億円・営業利益率25.7%への進捗
- Backlog AIアシスタントとNulab Flowbaseの独立した売上金額、有料契約数、解約抑制効果
- Nulab Passの有料ライセンス数、契約企業数、1ライセンス当たり実現売上高
- Cacooの契約件数とスペース型契約への移行後の売上高
- 買収金額、取得先の利益・営業キャッシュフロー、のれん、追加借入、投下資本利益率
- 営業キャッシュフローとソフトウェア開発投資の差額、現預金と前受収益の差
- 配当、自社株買い、自己株式処分、新株予約権の行使による既存株主持分の変化
- Microsoft、Atlassian、Asana、NotionなどのAI機能統合とBacklogの連携状況
倍率と資本コストの決め方
今の株価や過去・同業のPERから2036年の倍率を決めていない。最初に製品ごとの有料契約スペース数、共同作図の契約数、認証ID数と実現単価から売上を求め、そこから利益と自己資本の道筋を考えた。Backlogが席課金ではない点を尊重しつつ、AIエージェント代替による契約統合を中立の数量と価格に反映した。倍率は資本コスト7.75%、2036年以降の名目成長率マイナス0.5%、残存する増分資本利益率から求めた。現在の純現金約29.8億円もそのまま余剰資産とせず、前受収益と運転資金を分けて評価した。悲観の時価総額は現在の換金可能資産約6.3億円を下回らず、積み上がる将来の自己資本に床のPBRを掛けていない。確率加重した現在価値は約27.65億円、時価総額約80.44億円との差はマイナス65.6%であり、結論は割高となる。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。共通の無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、利益変動と純現金から算定したqualityの0.25%を加えた。規模や株価のベータによる加算、AIリスクの二重加算、M&A固有リスクの上乗せはしない。