結論
電通総研は、企業の基幹システム、ソフト製品、製造業向けの設計解析を手がけるITサービス会社だ。売上は10期連続で過去最高を更新し、営業利益も8期連続で最高になった。筆者の結論は、事業は堅いが、利益で測った本質価値は今の時価総額を4割近く下回る、というものだ。理由は単純で、今のPERがすでに34倍と高いからだ。
今の値段には事情がある。2026年8月、伊藤忠商事が株式の約38%を買い取る公開買付け(TOB)を発表した。買付総額は約2,150億円、時価総額に直すと約5,600億円になる。親会社の電通グループは約62%を持ち続け、上場は2027年3月ごろ終わる見通しだ。市場の値段は、この買付けの値段に張り付いている。
稼ぎの源は4つある。金融機関向けの受託開発、連結会計ソフトを軸にした製品、製造業向けの設計解析(CAE)と製品情報管理(PLM)、そして広告・マーケティング向けのシステムだ。このうち製品は利益率が高く、会社は製品の伸びで2030年に営業利益率20%を狙う。筆者は10年で16%前後に上がる、というあたりが現実的とみる。
財務は強い。自己資本比率は6割を超え、純現金は時価総額の1割を超える。ただ、景気が深く落ちる筋書きでは、時価総額は今の2割まで下がる。非公開になれば、資本の使い方を決めるのは電通グループと伊藤忠だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず事業の質を見る。電通総研の製品と設計解析の事業は、顧客の業務に組み込まれて乗り換えにくく、10年後も存在する確度は高い。稼いだ利益のうち、成長のために再投資が必要な分は多くない。純現金も厚いので、オーナー利益は見た目の純利益に近い。
資本の使い方には、まだ評価を決めきれない部分がある。大きな買収で失敗した経歴はなく、配当も増やしてきた。一方で、これからは電通グループと伊藤忠の都合で資本の使い方が決まる。少数の株主が口を挟める余地は、上場廃止でほぼなくなる。
安全域の目では、今の値段が問題になる。利益で測った中立の価値は今の時価総額に届かず、やや強気の筋書きでようやく上回る。払う値段に見合う余裕は乏しい、というのが筆者の見立てだ。ただし、TOBが成立すれば少数株主は買付けと同じ値段で現金化されるので、市場の値段と本質価値の差が埋まるのを待つ必要はない。事業そのものは持ち続けたいと思える質だが、値段が先に走った、と筆者はみる。
何で稼ぐ会社か
電通総研は、企業のシステムを作る会社として、4つの事業で稼ぐ。旧社名はISID(電通国際情報サービス)で、電通グループの一員だ。
金融ソリューションは、メガバンクや信託銀行、証券会社の基幹システムを請け負う。人が作業した分を請求する受託開発が中心で、近年は英国のQuant Network社と組み、プログラム可能な決済の分野にも入った。
ビジネスソリューションは、自社のソフト製品を売る事業だ。連結会計の「STRAVIS」が代表で、商社を中心に大企業へ広がっている。一度入れると会計の処理ごと組み込まれるので、乗り換えが難しい。利益率は4つの中で最も高い。
製造ソリューションは、自動車・機械・電機メーカーが製品を設計する時の解析(CAE)と、設計データの管理(PLM)を支える。CAEは1982年から手がける古い事業で、PLMはSiemensの「Teamcenter」を中核にしている。ただしSAP関連の需要が弱く、2025年12月期は減益になった。
コミュニケーションITは、広告・マーケティング向けのシステムを作る。親会社の電通グループ向けの比重が高いとみられる。売上と利益は足元で大きく伸びているが、利益率はまだ1ケタ台だ。
4つを合わせた売上は約1,650億円、営業利益は約230億円。連結の従業員は4,618人で、年に4〜5%ずつ増えている。顧客は金融機関、商社、製造業、広告会社など幅広く、大型の一括請負より、長く続く保守・運用や追加の開発で稼ぐ割合が大きい。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、顧客のデータと業務に深く入り込んだ製品と、長い付き合いにある。
連結会計のソフトは、一度入れると決算の手順が製品に合わせて固まる。乗り換えのたびに数か月の並行運用が要るので、顧客は動きにくい。CAEとPLMは40年以上の取引があり、製造業の設計部門に根を張っている。メガバンクの開発も、長く続く関係に支えられている。
数字の面でも質は良い。ROEは16%、営業利益率は14%で、営業利益は8期連続で最高を更新している。自己資本比率は6割を超え、純現金もある。
一方、弱い所もある。第一に、規模が小さい。NRIやNTTデータが握る大型の基幹システムの案件に、電通総研は届きにくい。第二に、製造ソリューションが苦しい。海外の解析ソフトの販売と、SAP関連の導入に依存し、2025年12月期は営業利益が1割以上減った。第三に、広告系の売上は親会社の動きに連動しやすい。受託開発の利益は技術者の数と単価で決まり、生成AIが工数を減らせば、そこが最初に押される。
筆者は、製品の比率が上がり続けるかどうかを、優良さの分かれ目とみている。製品が増えれば利益率は上がり、堀も厚くなる。逆に、人の数で稼ぐ受託開発が中心のままなら、同業の平均並みの会社にとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のITサービス市場は7兆円台の半ばで、年6%前後の成長が続くと見込まれている。老朽化した基幹システムの刷新、データの活用、AIの実装が需要を引っ張る。
この市場は人手の取り合いだ。IT人材が足りないので、単価は物価をやや上回って上がりやすい。電通総研も年に4〜5%ずつ人員を増やしているが、採用の速さがそのまま成長の速さを決める。
競合は分野ごとに違う。金融の大型案件ではNRI、NTTデータ、日立、富士通が相手になる。製造向けでは、設計ソフトの販売代理店が並ぶ。連結会計では、ディーバのような専業が競う。電通総研は、どの分野でも1位ではないが、製品とサービスを組み合わせた中堅の強みを持つ。
生成AIは、この業界で最大の論点だ。開発の工数が減れば、人月で稼ぐ会社は単価の引き下げを迫られる。逆に、AIを使って導入の期間を半分にできれば、製品を売る側には追い風になる。電通総研は後者を狙い、全工程にAIを使って導入件数を倍にする計画を立てている。
もう一つの動きが、親子上場の解消だ。CTC、NTTデータ、SCSKなど、大手のIT会社で親会社による非公開化や完全子会社化が続いてきた。電通総研もこの流れの中にいる。
景気の影響は、IT業界では緩やかだが、新規の開発案件は不況のたびに先送りされる。2008〜2009年の前回の谷では、業界の営業利益が3〜5割落ちた。電通総研は製造業と広告会社に顧客が偏るので、景気の影響は金融中心の同業より大きく出やすい。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、いま進んでいる伊藤忠のTOBだ。買付者は伊藤忠が8割、子会社が2割を出す合同会社で、買付総額は約2,150億円。電通グループは約62%を持ち続け、非公開化後は電通グループと伊藤忠の2社が株主になる。応募しない株主も、株式併合を経て、買付けと同じ値段で現金を受け取る見込みだ。
買付けの値段は、直前の終値に約5%を上乗せした水準だ。上乗せは小さい。電通グループは上場子会社という形を終わらせ、伊藤忠はCTCとの連携やグループのIT需要、買収の経験を持ち込む。
還元は、配当性向を2027年12月期に50%へ上げる方針で、2025年12月期までは自社株買いをしていない。現金は厚く、会社は3年で750億円の成長投資の枠を置いている。
買収の実績は小さい。2024年にUI・UXのミツエーリンクスを84億円で買い、国内の子会社を2026年に統合した程度だ。買収で大きな減損を出した例は、調べた範囲では見当たらない。非公開になれば、伊藤忠のM&Aの網を使った買収が増えるだろう。
点検済み:中立の営業利益率16.0%は、会社が2030年に狙う20%(製品の伸び)より低く、利益率は2018年から14.8%まで改善した実績がある。会社予想の14.1%を1.9pp超えるが、製品比率の上昇で説明がつく。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電通総研は、10期連続の増収と8期連続の最高益という実績を持つ。ビジネスソリューションは売上が2割近く伸び、営業利益は3割以上増えた。連結会計のソフトが商社に広がっている。会社の製品戦略は、AIを導入の全工程に使い、導入期間を半分に、導入件数を倍にするというものだ。実現すれば、製品の比率が上がり、営業利益率は中期経営計画の15%から、2030年の20%へ進む。
製造ソリューションの弱さは一時的で、2026年の下期から持ち直す。金融ソリューションも、メガバンク向けの開発が戻る。純現金が厚く、配当性向は50%へ上がる。
伊藤忠が加われば、グループのIT需要とCTCの基盤運用との組み合わせが売上の上乗せになる。伊藤忠のM&Aの経験は、技術者の確保にも使える。非公開になれば、四半期の数字に縛られずに、製品への大きな投資を続けられる。10年後には、人月の会社から、製品の会社へ変わっているはずだ。金融機関向けの決済の新領域も、メガバンクとの長い付き合いを土台に伸びる余地がある。
慎重な見方
いちばんの問題は、倍率だ。今のPERは34倍で、同じ領域の他社の中立の倍率が15〜28倍にとどまる中、すでに高い。利益が会社の計画どおり伸びても、倍率が20倍台へ縮めば、時価総額は伸びない。
製品の比率が上がるという見立ては、まだ証明されていない。ビジネスソリューションは全体の売上の2割弱で、他の3つの事業は人が作業した分を請求する形が中心だ。製造ソリューションは海外のソフトの販売に頼り、減益になっている。
生成AIは、受託開発の工数を減らす。顧客は単価の引き下げを求め、人月で稼ぐ会社の利益は押される。広告系のコミュニケーションITは親会社の景気に連動する。景気が深く落ちれば、新規の開発は止まる。
非公開化のあとも、電通グループは株主として残る。少数株主の声は、上場廃止でなくなる。TOBの上乗せは、直前の終値の約5%にすぎない。買付けが成立すれば、値上がりの余地は買付けの値段で打ち切られる。この値段を払って持ち続ける理由は、利益の伸びだけでは説明しにくい。
どちらに重みを置いたか
製品と設計解析の堀と、足元の成長の勢いは、強気の見方が正しい。強い事業であることに疑いはない。一方、倍率の高さと、製品比率の上昇がまだ証明されていないという指摘には説得力がある。
確率は、他のITサービス会社と同じ物差しに揃えた。生成AIの影響が出る筋書きと不況の筋書きを、やや厚めに置いた。事業の堅さで倍率は中立で上限の8割まで評価しているが、それでも利益で測った価値は今の時価総額に届かない。慎重な見方が勝つのは、今の値段が高いという一点だ。強気の見方が勝つのは、製品の比率が上がり、営業利益率が19%に届く場合に限られる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,472 円6,787 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 642 円1,255 億円)。 今の値に割り戻すと 2,177 円4,255 億円、今との差 −24.2%、 期待の年率 +3.7%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,220 円1.22 兆円 | 874 円1,708 億円 | +147.1% | +9.5% | 709 円1,387 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,907 円9,593 億円 | 761 円1,487 億円 | +97.4% | +7.0% | 1,133 円2,216 億円 |
| 中立 | 32% | 3,907 円7,639 億円 | 668 円1,305 億円 | +59.4% | +4.8% | 1,464 円2,862 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,254 円4,407 億円 | 567 円1,109 億円 | −1.7% | −0.2% | 705 円1,379 億円 |
| 悲観 | 13% | 418 円818 億円 | 363 円709 億円 | −72.8% | −12.2% | 102 円199 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,472 円6,787 億円 | 642 円1,255 億円 | +43.3% | +3.7% | 4,114 円8,042 億円 |
今の株価時価総額 2,871 円5,613 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 10% 製品とAIで高収益のソフト会社になる 利益 557 億円 · PER 21.6 倍 · 株価時価総額 6,220 円1.22 兆円
10年かけて、人月で稼ぐ会社から、製品で稼ぐ会社へ変わる。連結会計をはじめとするビジネスソリューションが営業利益の3分の1を占め、営業利益率は19%台に乗る。会社が掲げる2030年の売上3,000億円・営業利益率20%を、数年遅れで達成する姿だ。生成AIが開発の生産性を高め、同じ人数で多くの案件をこなせる。伊藤忠のM&Aの経験と網を使った買収も実を結ぶ。売上は3,888億円、営業利益は750億円になる。競合との差も広がる。NRIやNTTデータが大型案件を取り合う間に、電通総研は製品を持つ中堅として、利益率で上回る。非公開になって資本の制約が緩み、採用と開発に大きな費用を先行して使える点も効く。
- 金融ソリューション:数量 1,550(担当エンジニア数(人))× 価格 5,051(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 783 億円・営業利益 133 億円。営業利益率17.0%
- ビジネスソリューション:数量 1,636(担当エンジニア数(人))× 価格 5,137(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 840 億円・営業利益 252 億円。営業利益率30.0%
- 製造ソリューション:数量 1,755(担当エンジニア数(人))× 価格 6,808(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 1,195 億円・営業利益 215 億円。営業利益率18.0%
- コミュニケーションIT:数量 2,700(担当エンジニア数(人))× 価格 3,961(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 1,070 億円・営業利益 150 億円。営業利益率14.0%
倍率:事業の純利益 556 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.6 倍。全体の PER 21.57 倍、時価総額 12,004 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10%の確率。製品化の成功とAIの生産性向上と買収の成功が10年続く必要があり、全部そろう確度は低い。
やや楽観 20% 製品の比率が上がり、利益率が17%台に乗る 利益 448 億円 · PER 21.0 倍 · 株価時価総額 4,907 円9,593 億円
国内のITサービス市場が年6%前後で伸びる中、電通総研は市場より速く成長する。ソフト製品の比率が上がり、営業利益率は17%台に乗る。製造ソリューションはCAEとPLMの更新需要を取り込み、金融ソリューションは決済などの新領域が育つ。エンジニアは年4%ずつ増え、売上は3,463億円になる。営業利益は606億円。人材の確保が成長の天井になるものの、採用力の強さがそれを抑える。電通グループと伊藤忠の下で、顧客の紹介や共同の案件が増える。ただし、グループ内の取引に頼る部分が増えれば、外の顧客での競争力が試される。製品の価格を保てるかどうかが、利益率を17%台に乗せる条件になる。
- 金融ソリューション:数量 1,450(担当エンジニア数(人))× 価格 4,946(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 717 億円・営業利益 111 億円。営業利益率15.5%
- ビジネスソリューション:数量 1,472(担当エンジニア数(人))× 価格 4,966(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 731 億円・営業利益 205 億円。営業利益率28.0%
- 製造ソリューション:数量 1,625(担当エンジニア数(人))× 価格 6,667(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 1,083 億円・営業利益 173 億円。営業利益率16.0%
- コミュニケーションIT:数量 2,400(担当エンジニア数(人))× 価格 3,879(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 931 億円・営業利益 116 億円。営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 448 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.0 倍。全体の PER 21 倍、時価総額 9,416 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:20%の確率。過去10年の増収の実績を延ばす形で、強い方に寄せた。ただし採用と製品化の両方が要る。
中立 32% 市場並みに伸び、利益率は16%に落ち着く 利益 363 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 3,907 円7,639 億円
売上は年6%台の伸びで、市場の成長並みに落ち着く。エンジニアは年3%ずつ増え、単価は物価を少し上回って上がる。ソフト製品の比率は上がるが、会社が掲げる2030年の営業利益率20%には届かず、16%で止まる。製造ソリューションの利益率は14%台に戻る程度だ。売上は3,065億円、営業利益は491億円になる。電通グループと伊藤忠のもとで大型の買収が行われても、買収後の統合の成果は数字には入れていない。人手不足による単価の上昇は続くが、生成AIが工数を減らす力と相殺される。製品の拡大も、顧客数の増加より、すでに入れた顧客への追加販売が中心になる。10年後には、堅実だが目立たない中堅のITサービス会社として評価される。
- 金融ソリューション:数量 1,350(担当エンジニア数(人))× 価格 4,807(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 649 億円・営業利益 91 億円。営業利益率14.0%
- ビジネスソリューション:数量 1,309(担当エンジニア数(人))× 価格 4,794(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 628 億円・営業利益 170 億円。営業利益率27.0%
- 製造ソリューション:数量 1,495(担当エンジニア数(人))× 価格 6,480(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 969 億円・営業利益 141 億円。営業利益率14.5%
- コミュニケーションIT:数量 2,175(担当エンジニア数(人))× 価格 3,770(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 820 億円・営業利益 90 億円。営業利益率11.0%
倍率:事業の純利益 363 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍。全体の PER 20.46 倍、時価総額 7,433 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:32%の確率。過去の成長の実績と業界の見通しを素直に延ばした中心の筋書き。
やや悲観 25% 生成AIが単価を押し下げ、利益率が12%台に戻る 利益 236 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 2,254 円4,407 億円
生成AIで開発の工数が減り、顧客が単価の引き下げを求める。エンジニアは年1〜2%の増員にとどまり、単価の伸びは物価を下回る。ソフト製品は伸びるものの、同じ領域に大手のクラウド型ソフトが入り込み、価格を保てなくなる。営業利益率は12%台に戻り、売上は2,475億円どまり。営業利益は315億円で、今の1.4倍にしかならない。製造ソリューションでは、海外の解析ソフトとの競争が強まる。電通グループと伊藤忠の下での取引が増えても、外部の顧客での競争力の低下を補い切れない。採用は続けるものの、新人の生産性が落ちる中で利益率の改善は止まる。それでも、製品の保守収入があるので、会社が傾くほどではない。
- 金融ソリューション:数量 1,200(担当エンジニア数(人))× 価格 4,528(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 543 億円・営業利益 60 億円。営業利益率11.0%
- ビジネスソリューション:数量 1,104(担当エンジニア数(人))× 価格 4,521(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 499 億円・営業利益 110 億円。営業利益率22.0%
- 製造ソリューション:数量 1,300(担当エンジニア数(人))× 価格 6,104(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 794 億円・営業利益 91 億円。営業利益率11.5%
- コミュニケーションIT:数量 1,800(担当エンジニア数(人))× 価格 3,552(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 639 億円・営業利益 54 億円。営業利益率8.5%
倍率:事業の純利益236億円・事業のROE12.4%。RONIC=k7.25%+残る割合1/2×(ROE12.4%−k7.25%)=9.9%、長期の成長率g4.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=17.1倍。堀は並み。上限は事業236億円×17.1倍+余った現金0億円=4,027億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の9.5割に置き、時価総額4,262億円、全体のPERに直して18.06倍。
確率:25%の確率。この業界の10年の最大の論点が生成AIによる人月商売の崩れで、その一歩手前の筋書きを厚めに置いた。
悲観 13% 人月商売の前提が崩れ、普通の受託開発会社になる 利益 88 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 418 円818 億円
構造的に負ける筋書き。生成AIと海外のクラウド型ソフトが、受託開発と連結会計などの製品の両方を侵食する。エンジニアは減り、価格は物価の上昇に追いつかない。製造向けの解析ソフトも、海外の大手が直接顧客に売る形へ移る。営業利益率は6%台まで下がり、売上は1,682億円と今とほぼ同じ。営業利益は110億円まで縮む。優良な成長企業ではなくなり、自己資本の価値を少し下回って評価される。電通グループと伊藤忠の下で再編が進み、事業の一部が売却される可能性もある。優良な事業ではなく、グループの下請けに近い位置づけになる。それでも純現金があるため、自己資本の8割ほどの評価には届く。
- 金融ソリューション:数量 900(担当エンジニア数(人))× 価格 4,006(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 361 億円・営業利益 18 億円。営業利益率5.0%
- ビジネスソリューション:数量 818(担当エンジニア数(人))× 価格 4,110(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 336 億円・営業利益 47 億円。営業利益率14.0%
- 製造ソリューション:数量 1,040(担当エンジニア数(人))× 価格 5,400(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 562 億円・営業利益 28 億円。営業利益率5.0%
- コミュニケーションIT:数量 1,350(担当エンジニア数(人))× 価格 3,142(エンジニア1人当たり売上(万円))→ 売上 424 億円・営業利益 17 億円。営業利益率4.0%
倍率:事業の純利益88億円・事業のROE5.9%。ROEがk7.25%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=13.3倍まで。上限は事業88億円×13.3倍+余った現金0億円=1,168億円。構造的に負けて利益が実質で縮み続ける筋書きなので、稼ぐ力(事業の純利益÷k)の全額は見ず、縮む分を割り引いてその7割に置く。悲観は上限の7.0割に置き、時価総額818億円、全体のPERに直して9.3倍。
確率:13%の確率。技術の置き換えは一度始まると10年で進みやすい。この会社は製品の比率が高く、押し込まれる場合は製品の価格から崩れる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
金融ソリューション
メガバンク・信託銀行・証券・保険向けの受託システム開発と、決済などの新しい金融サービスの開発。
| 数量担当エンジニア数(人) | 価格エンジニア1人当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,000 | 3,483 | 348 | 45 |
| 10 年後 中立 | 1,350 | 4,807 | 649 | 91 |
取り方:2025年12月期の売上348億円・営業利益45億円(新区分)。連結従業員4,618人のうち、このセグメントの人員を1,000人と推定し、売上を割って1人当たり売上を出した(人員の内訳は2024年末の開示でコミュニケーションITが最大1,306人という情報だけが確かめられ、他は推定)。
ビジネスソリューション
連結会計の「STRAVIS」、人事・ワークフローなどの自社ソフト製品の販売と、その導入・運用の支援。
| 数量担当エンジニア数(人) | 価格エンジニア1人当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 818 | 3,425 | 280 | 70 |
| 10 年後 中立 | 1,309 | 4,794 | 628 | 170 |
取り方:2025年12月期の売上280億円・営業利益70億円(前期比で売上19%増・営業利益32%増)。人員818人は推定(連結4,618人を4セグメントに配分)。ソフト製品はライセンス・保守の比率が高く、1人当たり売上は人月型より伸びやすい。
製造ソリューション
自動車・機械・電機メーカー向けの設計解析(CAE)、製品情報管理(PLM)、SAP関連の導入支援。
| 数量担当エンジニア数(人) | 価格エンジニア1人当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,300 | 4,695 | 610 | 76 |
| 10 年後 中立 | 1,495 | 6,480 | 969 | 141 |
取り方:2025年12月期の売上610億円・営業利益76億円(営業利益は前期比12%減)。人員1,300人は推定。海外の解析ソフトの販売が売上に入るので、1人当たり売上は他より高く出る。
コミュニケーションIT
広告・マーケティング、メディア向けのシステム開発と運用。親会社の電通グループ向けの比重が高いとみられる(開示の割合は未確認)。
| 数量担当エンジニア数(人) | 価格エンジニア1人当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,500 | 2,732 | 410 | 39 |
| 10 年後 中立 | 2,175 | 3,770 | 820 | 90 |
取り方:2025年12月期の売上410億円・営業利益39億円(売上19%増・営業利益39%増)。人員1,500人は推定(2024年末は1,306人で最大、2025年の人員増を加えた)。人月型の開発が中心で、1人当たり売上は4つの中で最も低い。
リスクと懸念
今の倍率が高い
今のPERは34倍と、同じ領域の他社より高い。利益が計画どおり伸びても、倍率が20倍台に縮めば時価総額は伸びない。上場廃止まで株を持つ限り、買付けの値段が上限になるので、値上がりの余地は小さい。逆に、利益が崩れた時の下げは倍率の縮みと重なって大きくなる。
伊藤忠のTOBが不成立になる
買付けは2026年11月上旬に始まり、日本・中国・EUの競争法の手続きを経る。下限は電通グループの持ち分を除いた株式の1割強と低く、成立の確度は高い。ただし不成立なら、市場の値段は今の水準から外れる。非公開化を前提に動いている値段なので、反動も大きい。
製造ソリューションの回復が遅れる
売上の4割近くを占める製造ソリューションは、SAP関連の需要が弱く、2025年12月期は営業利益が1割以上減った。海外のCAEソフトの販売に依存しているので、顧客のソフト選びが変わると収益が崩れる。立て直しには、新しい製品やサービスの投入が要る。
生成AIで人月商売が崩れる
開発の工数が減れば、顧客は単価の引き下げを求める。受託開発は売上の大半を占めるので、単価が物価を下回れば利益率は上がらない。製品の導入にAIを使えるかどうかが、強みにも弱みにもなる。同業も同じ道具を使うので、先に使いこなした側が単価を守る。
電通グループへの依存
コミュニケーションITは、親会社の広告事業向けの比重が高いとみられる。親会社が組織や投資を見直せば、売上が動く。非公開になれば、電通グループと伊藤忠の経営判断に左右される面が強まる。外の顧客でも選ばれ続けているかを、数字で確かめたい。
人材の確保と費用
エンジニアは年に4〜5%ずつ増やす計画で、採用が成長の速さを決める。人件費は物価で上がるので、採用が追いつかなければ売上が伸びず、追いつけば費用が先に出て利益率が下がる。新人が戦力になるまでの期間は、稼働の低さとして利益に出る。
景気後退でIT予算が絞られる
新規の開発案件は、不況のたびに先送りされる。前回の谷(2009年)には、この会社の自己資本倍率が0.5倍まで下がった。製造業と広告会社が主な顧客なので、景気の影響を受けやすい。金融中心の同業より、谷は深く出やすい。
今後の分かれ目
- 伊藤忠のTOBが2026年11月に始まり、12月上旬に成立したら
- 上場廃止が決まり、少数株主は買付けと同じ値段で現金化される。以後は市場の値段ではなく事業の価値だけを見る。
- 買付けの下限に届かず、不成立になったら
- 市場の値段は買付けの値段から外れる。事業の価値は変わらないので、利益で測った本質価値との差を改めて見る。
- ビジネスソリューションの売上が年15%以上で伸び続けたら
- 製品の比率が上がる筋書きに重みを移す。営業利益率が16%を超えて続けば、強気の筋書きの確率を上げる。
- 製造ソリューションが2026年12月期に増益へ戻ったら
- 中立の営業利益率の前提を上げてよい。減益が続けば、製造は構造の問題とみて、やや悲観側に寄せる。
- 人月単価が下がり始めたら
- 生成AIによる値崩れが始まったと見る。10年の悲観側の確率を上げ、受託開発の利益率の前提を下げる。
- 伊藤忠が大型の買収を実施したら
- のれんの規模と買った事業の利益率を確かめる。海外の大型買収で価値を壊した過去のIT会社の例があるので、安易に上振れとは見ない。
見ておくもの
- 伊藤忠のTOBの開始時期と成立の状況(2026年11月上旬の開始、12月上旬の成立見込み)
- ビジネスソリューション(連結会計などのソフト製品)の売上の伸びと営業利益率
- 製造ソリューションの営業利益(SAP関連需要の回復、CAEとPLMの更新)
- エンジニア数の増え方と1人当たり売上(生成AIによる単価への影響)
倍率と資本コストの決め方
事業をセグメントごとに人数×1人当たり売上で積んだ。純現金は成長投資枠と還元に使うので、余った現金は立てていない。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k7.25%、堀は並みで残る割合1/2)に対する位置で置いた。楽観は上限の9.5割、やや楽観8.5割、中立8割、やや悲観9.5割、悲観は事業の純利益÷kの稼ぐ力(と純現金)の7割。今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 19.4→21.57 倍・やや楽観 PER 16.67→21 倍・中立 PER 14.99→20.46 倍・やや悲観 PER 16.21→18.06 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。