結論
スカパーJSATは、日本で唯一の静止衛星の運営会社であり、有料放送「スカパー!」の元締めでもある。稼ぎの柱は、衛星で通信と安全保障を担う宇宙事業と、光回線向けの再送信を伸ばすメディア事業の二つだ。筆者の結論は割高である。過去最高の利益を、そのまま続く前提で買うことになるからだ。
2026年3月期の営業利益は353億円、利益率は27.7%まで上がった。会社は2030年度の純利益目標を350億円以上に引き上げ、宇宙で250億円、メディアで100億円以上を見込む。防衛省の衛星網は総額2,831億円。宇宙の成長の主役になる。
ただし衛星は買って終わりではない。2025〜27年度の成長投資は約2,200億円で、減価償却がじわりと利益を削る。資本の稼ぐ力(ROE)は今7.7%。資本コスト7.75%を下回る。
筆者は、10年後の本質価値は今の時価総額を下回るとみる。安保の宇宙が計画どおり育つ強い筋書きでも、今の値段には届きにくい。堀は広がっているが、払う値段に安全域がない。
見どころは、防衛と低軌道という新しい稼ぎ口が、更新投資の重さを上回れるかだ。勝てば会社は今より強くなる。それでも、その姿を今の値段が先取りしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は二つの顔を持つ。一つは、国内唯一の静止衛星事業者としての安定した稼ぎ。もう一つは、安全保障で伸びる成長事業だ。
堀は確かにある。ただし、稼いだ利益のうち、株主が自由に使える分(オーナー利益)は見た目の純利益よりずっと小さい。衛星は更新が必要で、減価償却を引いても投資は追いつかない。2026年3月期のROE7.7%は、資本コスト7.75%に届かない。
経営は資本の配り方で規律を示している。配当性向50%以上を守りつつ、投資のハードルを8%に上げた。この姿勢は評価できる。一方、防衛案件は特別目的会社の形で入るため、リスクとリターンの分け方が外から見えにくい。
安全域の面では、足りない。今のPER23.4倍・PBR1.80倍は、記録的な利益率27.7%をそのまま払う値段だ。筆者は、利益が1〜2割落ちても耐えられる値段を求める。今の値段は、そうなっていない。
何で稼ぐ会社か
スカパーJSATは、宇宙事業とメディア事業の2本で稼ぐ。2026年4月に持株会社が事業会社を吸収合併し、社名はスカパーJSATに変わった。
宇宙事業は、静止軌道に17機の通信衛星を持つ。放送局や企業、政府に通信容量を貸し、海外向けの衛星通信も扱う。もう一つの柱が安全保障だ。防衛省の衛星網は、三菱電機・三井物産・QPS研究所と組んだ特別目的会社が運営する。出資比率はスカパーと三菱電機が各45%、三井物産が10%。事業期間は2031年3月までの約5年で、契約総額は2,831億円になる。全額が自社の売上になるわけではない。
メディア事業は、有料放送「スカパー!」と、集合住宅などに映像を届ける光再送信を持つ。放送の契約は減っているが、光再送信は料金改定と接続の拡大で伸びている。2026年6月末の接続は299万世帯。会社が2030年度に置いた334万件の目標へ、前倒しで近づいた。
2026年度から、映像ネットワーク関連の約40億円は宇宙からメディアへ移った。本稿は組替え後の数字で置く。稼ぎの割合は宇宙が約6割と見る。会社の説明でも、純利益の約7割は宇宙とされる。
顧客は、宇宙では放送局・通信会社・企業・防衛省などの官公庁、メディアでは視聴者と集合住宅の管理会社になる。景気に強い官需と長期契約が宇宙の安定を作り、メディアは個人の財布に左右される。事業の性質は大きく違う。
優良さと弱いところ
筆者がまず評価するのは、国内で唯一の静止衛星事業者という地位だ。衛星は軌道の位置と電波の許認可がなければ打てない。新規参入は難しく、防衛省が重要な通信を委ねやすい相手でもある。これが10年先も続く堀になる。
ただし堀の中身は鉄道に近い。装置産業で、衛星は十数年ごとに数百億円規模で入れ替える。稼いだお金の多くが、更新投資に消える。2025〜27年度の成長投資は約2,200億円。会社はハードルレート(事業に求める最低の利回り)を7%から8%に引き上げており、投資に規律を置く意図はある。
ROEは過去10年、5〜8%台にとどまった。資本コストを超えたことはほとんどない。2026年3月期の7.7%は、利益率が27.7%に跳ね上がった結果だ。
メディアは弱点でもある。有料放送の契約は減り続け、利益を保つのは光再送信とコンテンツ費用の削減だ。強いのは、財務が頑丈なこと。自己資本比率は74%で、純現金は253億円ある。ただし投資が増えるため、この純現金は数年で純負債に変わりうる。
経営は、メディアの縮みを前提に宇宙へ資本を移している。2026年4月の吸収合併も、意思決定を速くする狙いが見える。筆者は、この方向づけは正しいと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
宇宙の事業は、通信と安全保障で性格が違う。静止衛星の通信は、世界で容量が余り気味だ。SpaceX の Starlink など低軌道網が、これまで静止衛星が担った需要を削っている。価格は物価ほど上がらないと筆者は見る。
安全保障は逆だ。防衛省の衛星網は総額2,831億円で、小型の低軌道観測衛星が中心になる。経済安全保障の面から、日本の事業者が担う理由がある。会社は、Kaバンドを使った安全保障の収益として、10年間で200億円以上を見込む。
衛星の打ち上げも続く。JSAT-32(2027年)、Superbird-9(2028年)、JSAT-31(2029年)。HYLAS 3 の取得(2027年度初の運用)も入る。これらの投資が、2030年度の売上1,200億円以上(宇宙)の前提になる。
メディアは構造の縮みが続く領域だ。有料放送の契約は減るが、光再送信は伸びる。2026年6月末の接続は299万世帯で、提供可能世帯は約4,364万。値上げの余地はあるが、無限ではない。広告のネットへの移行は、放送全体の収益を細らせる。
景気の循環では、宇宙の通信は長期契約が多く振れにくい。メディアは個人の裁量支出で、不況で解約が増える。
競争の形も違う。静止衛星では、世界の事業者が統合と値下げを繰り返してきた。国内では、スカパーJSATと並ぶ静止衛星の事業者がいないため、防衛・防災といった国の需要の受け皿になりやすい。この点が国内での優位を作る。
資本政策と M&A
還元は手厚い。配当性向は50%以上、1株あたりの年間配当の下限も定める。2026年度は増配の予想で、自社株買いは状況に応じて機動的に行う。2022〜2026年度の累計還元は、約束した400億円を超えて約460億円になる見込みだ。
株主構成は特徴的だ。筆頭は伊藤忠・フジ・パートナーズで25.7%、続いてNTTドコモビジネス8.8%、日本テレビ7.0%、TBS6.2%。安定株主が多く、流通株は薄い。kabufuのモデルが出す10年以内のTOB・買収の確率は13.9%。
投資は重い。成長投資は約2,200億円を3年で使う予定で、防衛向けの低軌道衛星、静止衛星の更新、HYLAS 3 の取得が中心になる。純現金253億円は、それで消える可能性がある。配当を厚く保つ方針と、衛星の更新投資が両立できるかが、資本配分の試金石になる。
点検済み:中立の営業利益率30.1%は会社予想28.9%を1pp超えるが、宇宙事業35%は今(37%)以下で、超えは宇宙の構成比の上昇。メディア21%は今(19%)より少し高いが全体への影響は小さい。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
スカパーJSATは、国内唯一の静止衛星事業者として、他社が簡単にまねできない地位を持つ。防衛省の衛星網は総額2,831億円、5年間の大型契約で、実績を積めば海外や他省庁にも広がる。経済安全保障の重さは、これから増す一方だ。
2026年3月期の営業利益353億円は過去最高で、利益率は27.7%に達した。会社は2030年度の純利益目標を350億円以上に引き上げた。今期の予想は270億円で、すでに目標へ向けて走っている。メディアでは、光再送信が299万世帯まで伸び、2030年度の目標334万件に前倒しで近づく。有料放送が減っても、光が穴を埋める。
財務は頑丈で、自己資本比率は74%、純現金もある。投資のハードルレートを8%に上げ、規律も強めた。配当性向50%以上の還元も守る。伊藤忠・フジなどの安定株主は、会社の長期の投資を支える土台になる。
衛星の更新投資は重いが、静止衛星は長期の契約で売上が読みやすい。HYLAS 3 の取得や JSAT-32 など打ち上げの予定も見えている。筆者が見ても、事業の足場は固い。
安保の宇宙は、一度入れば長く続く。官需の売上は景気に振れにくく、純利益の下限を押し上げる。会社の計画が当たれば、10年後の利益は今よりかなり大きい。
慎重な見方
今の値段は、記録的な利益をそのまま払うものだ。PER23.4倍・PBR1.80倍はROE7.7%の会社にとって高い。資本コスト7.2%とほとんど同じ稼ぎ方しかしていないのに、利益が伸び続ける前提で値段がついている。
衛星は食い続ける装置だ。2025〜27年度に約2,200億円を投じ、減価償却は今後じわりと増える。静止衛星の通信は世界で容量が余り、低軌道網に需要を奪われつつある。2030年度の宇宙売上1,200億円以上という目標は、売上の伸びだけでなく利益率の維持も前提にする。
防衛省の2,831億円は大型だが、特別目的会社の出資比率は45%で、全額が自社の売上になるわけではない。収益化も2030年度以降に偏る。メディアは有料放送の契約が減り続け、料金改定で保てる期間には限りがある。
景気が崩れれば、メディアは先に落ちる。純現金253億円は投資で消えかねず、財務の強さも永続しない。
過去の実績もこの見方を支える。純利益は2015年3月期の135億円から10年かけて233億円まで。利益率が27.7%まで跳ねたのは直近の1年だ。この水準が続くかは、まだ誰にも分からない。
勝ち筋が見えても、値段の側に安全域がなければ、バリュー投資の観点では待つのが筋だ。割高な高成長株を買って報われるのは、予想が全部当たった時だけである。
どちらに重みを置いたか
堀の強さは強気の見方が優勢で、国内唯一の静止衛星という地位に疑いはない。だが、払う値段の高さは慎重な見方が勝つ。ROEが資本コストに届かない会社に、今の倍率はつきにくい。
会社計画の2030年度の目標(純利益350億円以上)は意欲的で、立ち上げの費用が先に出る。10年では、低軌道の攻勢と有料放送の縮みという構造の負けを、悲観側にやや厚く置いた。
結論は、10年の本質価値が今の値段を下回る。筆者は、会社の質は高いと見る。ただ、安全域は足りない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,885 円5,344 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 745 円2,112 億円)。 今の値に割り戻すと 1,406 円3,987 億円、今との差 −24.6%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,967 円1.12 兆円 | 1,129 円3,200 億円 | +173.1% | +10.6% | 510 円1,445 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,883 円8,175 億円 | 952 円2,700 億円 | +105.6% | +7.5% | 844 円2,393 億円 |
| 中立 | 33% | 2,034 円5,766 億円 | 811 円2,300 億円 | +52.5% | +4.3% | 939 円2,662 億円 |
| やや悲観 | 22% | 736 円2,086 億円 | 600 円1,700 億円 | −28.4% | −3.3% | 294 円833 億円 |
| 悲観 | 13% | 160 円454 億円 | 176 円500 億円 | −82.0% | −15.7% | 44 円124 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,885 円5,344 億円 | 745 円2,112 億円 | +40.9% | +3.5% | 2,630 円7,456 億円 |
今の株価時価総額 1,866 円5,291 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 安全保障の宇宙が第二の柱に育つ 利益 657 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 3,967 円1.12 兆円
防衛省の衛星網が成功し、日本版の宇宙インテリジェンスが事業として確立する。低軌道の観測衛星と静止衛星を組み合わせた役務が、各国・各省庁に売れる。宇宙の売上は2,108億円、営業利益は759億円になる。
メディアは光再送信が全国に広がり、有料放送の縮みを補う。営業利益は220億円。全社の営業利益は976億円、純利益は657億円、ROEは15%前後まで上がる。
伊藤忠・フジ・パートナーズの安定した株主構成のもと、投資を回収しながら配当も厚くなる。日本の安全保障の民営の担い手という地位が、今より強くなる10年だ。
- 宇宙事業:数量 40.0(稼働する衛星の機数相当(機))× 価格 53(1 機相当あたり年間売上(億円))→ 売上 2,108 億円・営業利益 759 億円。営業利益率36%
- メディア事業:数量 480(有料放送の契約件数と光再送信の接続世帯の合計(万件))× 価格 1.76(1 件あたり年間売上(万円))→ 売上 846 億円・営業利益 220 億円。営業利益率26%。光再送信(単価が低い)の比率が上がり、平均の単価は物価ほど上がらない
倍率:事業の純利益 657 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.12 倍、時価総額 11,246 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:防衛向けの成功が民間・海外に広がり、衛星の更新投資も回収できる必要がある。実現すれば強いが、長い10年で連続して成功する確度は高くない。
やや楽観 22% 宇宙が事業の主役になる 利益 512 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 2,883 円8,175 億円
宇宙事業が売上の約7割を占める会社へ姿を変える。静止衛星の更新投資に加え、低軌道の観測衛星が戦力になり、売上は1,619億円、営業利益は583億円になる。
メディアは光再送信が3百万件台で安定し、有料放送は縮小しつつ残る。営業利益は188億円。全社の営業利益は768億円、純利益は512億円、ROEは12%前後。
成長投資は着実に回収され、自社株買いも続く。堀は、国内で唯一の静止衛星事業者としての許認可と、防衛省との関係に広がる。
景気の波は何度か来る。それでも宇宙の長期契約は崩れにくく、メディアが落ちても全体の利益は大きくは割れない。筆者は、このシナリオを会社が自分の言葉で語る将来像に近いと見る。
- 宇宙事業:数量 33.0(稼働する衛星の機数相当(機))× 価格 49(1 機相当あたり年間売上(億円))→ 売上 1,619 億円・営業利益 583 億円。営業利益率36%
- メディア事業:数量 465(有料放送の契約件数と光再送信の接続世帯の合計(万件))× 価格 1.68(1 件あたり年間売上(万円))→ 売上 783 億円・営業利益 188 億円。営業利益率24%。光再送信(単価が低い)の比率が上がり、平均の単価は物価ほど上がらない
倍率:事業の純利益 512 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 15.97 倍、時価総額 8,175 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画をほぼ達成し、そのまま10年続く想定。堅いが、衛星は更新投資が重いので中立に近い厚さにとどめた。
中立 33% 静止衛星の薄れを、安保・データが埋める 利益 394 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 2,034 円5,766 億円
静止衛星の通信容量は低軌道の攻勢で値上がりしにくいが、国内の安全保障や防災の需要が下支えする。宇宙の売上は1,318億円、営業利益は461億円になる。防衛案件が本格化する2030年代前半に伸び、後半は更新投資の重さで利益率が落ち着く。
メディアは有料放送の契約が減り続ける一方、光再送信が伸び、営業利益は141億円と横ばいに近い。光再送信は単価が低いので、比率が上がるほどメディアの平均単価は物価(10年で1.34倍)ほど上がらない。全社の営業利益は600億円、純利益は394億円、ROEは10%前後。
成長の大半を宇宙事業が担う。堀はあるが、資本を食う事業なので、利益が増えても株主の取り分はさほど増えない。会社は静かに大きくなり、株主の持ち分の価値の伸びは利益より遅い。物価で名目の利益は膨らむが、それは更新投資の費用も膨らませる。
- 宇宙事業:数量 29.0(稼働する衛星の機数相当(機))× 価格 45(1 機相当あたり年間売上(億円))→ 売上 1,318 億円・営業利益 461 億円。営業利益率35%
- メディア事業:数量 445(有料放送の契約件数と光再送信の接続世帯の合計(万件))× 価格 1.51(1 件あたり年間売上(万円))→ 売上 673 億円・営業利益 141 億円。営業利益率21%。光再送信(単価が低い)の比率が上がり、平均の単価は物価ほど上がらない
倍率:事業の純利益 394 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.63 倍、時価総額 5,766 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画の2030年度の目標(純利益350億円以上)にほぼ届き、その後は緩やかな伸びにとどまる。最も重い確率。
やや悲観 22% 低軌道の攻勢で、静止衛星の値が下がる 利益 225 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 736 円2,086 億円
SpaceX の Starlink などの低軌道網が、静止衛星の通信需要を削る。宇宙の売上は936億円まで伸びるが、衛星の値段が下がり、営業利益は281億円に留まる。防衛案件の収益は残るが、民間の通信は縮む。
メディアは有料放送の縮みが光再送信の増収を上回り、営業利益は88億円まで下がる。全社の営業利益は366億円、純利益は225億円。ROEは資本コスト(7.2%)を下回る6%前後まで下がる。
更新投資は続くので、資本の稼ぎが悪化し、成長しても価値が増えにくい会社になる。
防衛案件は残り、安保の役務は一定の収益を生む。ただ、それを打ち消すほど民間の通信と放送が縮む。かつての安定した高収益会社という評価からは、静かに後退する10年だ。
- 宇宙事業:数量 23.0(稼働する衛星の機数相当(機))× 価格 41(1 機相当あたり年間売上(億円))→ 売上 936 億円・営業利益 281 億円。営業利益率30%
- メディア事業:数量 400(有料放送の契約件数と光再送信の接続世帯の合計(万件))× 価格 1.38(1 件あたり年間売上(万円))→ 売上 553 億円・営業利益 88 億円。営業利益率16%。光再送信(単価が低い)の比率が上がり、平均の単価は物価ほど上がらない
倍率:事業の純利益225億円・事業のROE6.2%。ROEがk7.75%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=12.1倍まで。上限は事業225億円×12.1倍=2,731億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の7.5割に置き、時価総額2,048億円、全体のPERに直して9.09倍。
確率:低軌道の攻勢と有料放送の縮みが想定より早い構造変化。静止衛星の収益力が10年で試される。
悲観 13% 静止衛星の優位が崩れ、投資だけが重く残る 利益 55 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 160 円454 億円
低軌道網と他社の大型衛星が通信需要を奪い、静止衛星の稼働率と値段が崩れる。防衛案件も計画どおり収益化せず、宇宙の売上は552億円、営業利益は122億円にとどまる。衛星の減損が出る。
メディアは有料放送が実質的に終わり、光再送信だけでは固定費を賄えない。営業利益は33億円まで細る。全社の営業利益は152億円、純利益は55億円とほぼ消える。
自社株買いは止まり、配当も下がる。成長投資の約2,200億円が回収できないまま、優良会社ではなくなった姿だ。
配当は純現金と資産の売却で守るが、長くは続かない。防衛向けの役務は残るが、民間の稼ぎが消えた穴は埋まらない。伊藤忠・フジ・パートナーズなど大株主の動きも、再編の引き金になりうる。
- 宇宙事業:数量 16.0(稼働する衛星の機数相当(機))× 価格 35(1 機相当あたり年間売上(億円))→ 売上 553 億円・営業利益 122 億円。営業利益率22%
- メディア事業:数量 330(有料放送の契約件数と光再送信の接続世帯の合計(万件))× 価格 1.25(1 件あたり年間売上(万円))→ 売上 413 億円・営業利益 33 億円。営業利益率8%。光再送信(単価が低い)の比率が上がり、平均の単価は物価ほど上がらない
倍率:静止衛星の優位が崩れ、投資だけが重く残る筋書き。ROE が k 7.75% 以下なので上限は 1÷k = 12.1 倍。悲観は、やや悲観よりさらに構造的に負けた姿なので、倍率をやや悲観(9.09 倍)より高くせず、その 9 割の 8.2 倍に置いた。時価総額 454 億円(全体の PER に直して 8.2 倍)。
確率:構造的に負ける複合シナリオ(低軌道の攻勢・有料放送の消滅・防衛案件の頓挫)。衛星は更新投資が重く、負けると傷が深いので、他社より厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
宇宙事業
静止衛星 17 機による通信容量の提供と、防衛省向けの低軌道観測衛星を含む安全保障・衛星データ事業。海外向けの衛星通信も含む。
| 数量稼働する衛星の機数相当(機) | 価格1 機相当あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 17.0 | 36 | 618 | 229 |
| 10 年後 中立 | 29.0 | 45 | 1,318 | 461 |
取り方:2026 年度の組替え後(映像ネットワーク約 40 億円をメディアへ移した形)で、宇宙の売上を 618 億円と置いた。静止衛星 17 機(会社の開示)を基準にした機数相当で割ると、1 機あたり約 36.35 億円。セグメント営業利益は非開示で、2027/03 期 1Q の利益率 37% と「純利益の約 7 割が宇宙」という報道から、営業利益 229 億円と推定した。低軌道観測衛星や安保役務の増加は機数に換算して数量に入れる(推定)。価格は物価(10 年 1.34 倍)に、静止衛星の通信容量の値下がり(低軌道網との競争)と安保役務の上積みを合わせて動かす。
メディア事業
有料放送「スカパー!」と、集合住宅などに映像を届ける光再送信サービス(光アライアンス事業)、番組制作・メディアソリューション。
| 数量有料放送の契約件数と光再送信の接続世帯の合計(万件) | 価格1 件あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 500 | 1.32 | 658 | 125 |
| 10 年後 中立 | 445 | 1.51 | 673 | 141 |
取り方:組替え後のメディア事業の売上 658 億円を、契約・接続の合計で割った。光再送信は 2026 年 6 月末で 299 万世帯(会社開示)。有料放送の契約件数は最新値が確かめられず、合計を約 500 万件と置いた(推定)。1 件あたり約 1.3 万円は、放送と光の平均で、実態の単価ではない。営業利益 125 億円は 2027/03 期 1Q の利益率(17% から 27% へ上昇)などからの推定。光再送信の単価は放送より低いので、光へ移るほど平均は物価ほど上がらない。
リスクと懸念
衛星の更新投資と減価償却の重さ
静止衛星は十数年ごとに更新が要り、2025〜27年度だけで約2,200億円を投じる。減価償却が先に増え、売上が伸びても利益率は27.7%を保ちにくい。投資の回収が遅れれば、資本の稼ぎ(ROE)は資本コスト並みに沈む。
低軌道網による静止衛星の需要の置き換え
SpaceX の Starlink など低軌道網が、これまで静止衛星が担った通信を削る。通信容量は世界で余り気味で、値段が上がりにくい。静止衛星の稼働率や契約更新が崩れると、宇宙事業の利益率が一気に落ちる。
防衛案件の収益化のずれ
防衛省の衛星網は総額2,831億円だが、特別目的会社の出資比率は45%で、全額が自社の売上になるわけではない。収益の大半は2030年度以降に偏り、立ち上げの遅れや仕様変更が起きると、計画の利益が後ろへずれる。官需は長期契約で安定する反面、仕様や予算の変更に左右される。
有料放送の縮みと光再送信の料金の限界
有料放送の契約は減り続けている。光再送信の料金改定が増収を支えるが、値上げには限りがあり、接続世帯の伸びも2030年度の目標334万件で頭打ちに近づく。コンテンツ費用の削減で利益率を保つ余地も、いずれ尽きる。
純現金が薄く、財務の余裕が減る
今は純現金253億円で自己資本比率は74%。ただし成長投資と手厚い配当が続くと、数年で純負債に変わりうる。金利が上がる局面では利払いが利益を削り、会社の財務は見かけほど強くなくなる。借り換えの金利は今より重くなる。
株主構成と再編の不確実さ
伊藤忠・フジ・パートナーズが25.7%を握る。放送局が株主に並ぶ構成は、放送業界の再編や株主の資金需要で動く可能性がある。TOBや持ち分の売却が起きると、経営方針や配当政策が変わりうる。株主の入れ替わりは、買い手にとって好機にも不安にもなる。
今後の分かれ目
- 防衛省の衛星網で、低軌道衛星の打ち上げが計画どおり進んだら
- 宇宙事業の収益化に確信が増す。10年の強気側の確率を上げ、安保の役務が民間にも広がるかを見る。
- 静止衛星の通信容量の契約更新で、値下がりや解約が目立ってきたら
- 静止衛星の収益力を下方修正し、10年の悲観側の確率を上げる。
- 光再送信の接続世帯が、334万件の目標を超えて伸び続けたら
- メディアの利益の下支えが強まる。有料放送の縮みを補えるとして、メディアの営業利益の前提を引き上げる。
- 成長投資で純現金が尽き、純負債に転じたら
- 利払いと更新投資が重なる時期だ。配当と自社株買いの持続性を見直す。
- 伊藤忠・フジ・パートナーズなど大株主の持ち分に動きが出たら
- 再編・TOBの可能性が高まる。会社の資本政策や配当方針が変わる前提で、確率を見直す。
- 景気が急に悪化し、有料放送の解約が増えたら
- メディア事業の利益が先に落ちる。悲観側の確率を厚くする。
見ておくもの
- 防衛省の衛星網の打ち上げ進捗と、宇宙事業の営業利益率(今は約37%)
- 光再送信の接続世帯(299万世帯、目標334万件)と有料放送の契約の減り方
- 純現金(253億円)と成長投資(約2,200億円)の差し引き、配当性向50%以上の維持
- 静止衛星の契約更新と通信容量の値段の動き(低軌道網との競争)
倍率と資本コストの決め方
宇宙事業とメディア事業に分け、衛星の契約と加入数で積んだ。純現金は薄く余った現金は立てていない。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k7.75%、堀は並みで残る割合1/2)に対する位置で置いた。楽観は上限の8割、やや楽観8.5割、中立9.2割、やや悲観8割、悲観は事業の純利益÷kの稼ぐ力(と純現金)を上限に、やや悲観より高くしない8.2倍。今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.76→17.12 倍・やや楽観 PER 12.17→15.97 倍・中立 PER 12.12→14.63 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。