結論
ネクソンは「メイプルストーリー」「ダンジョン&ファイター(DNF)」「FCオンライン」といった長寿命IPの運営型収益を核としつつ、2021年に完全子会社化したスウェーデンのEmbark Studiosが開発した新作抽出系シューター「ARC Raiders」が2025年末に発売2週間で400万本を超える記録的ヒットとなり、2026年12月期はメイプルストーリーも過去最高を更新する好決算が続いている。これを受けて会社は26年12月期の年間配当を前期比で10倍超となる水準へ大幅に上方修正し、大部分を特別配当として出す方針を示した。
ここでは世界ゲーム市場(PC・コンソールとモバイルに分けたCESA基準の市場規模)×ネクソンのシェアで事業を積み上げ、その時点のROEと資本コスト(基本7.5%に優良度の調整+1%を足した8.5%)から倍率を決めた。市場の金額は物価並みに膨らませ、純現金の受取利息の増加も純利益に入れた。ARC Raidersの成功は本物だが、抽出系シューターというジャンルは発売直後の熱狂が1〜2年で剥落しやすい前例が多く、DNFは中国でTencentが運営するモバイル版が弱含みという固有の懸念もある。自己資本は「今+期間の純利益−還元」で流し、ROEはその結果として出すと、厚い純現金のため全体では中立で8%台にとどまる。ただし事業に要らない現金4,400億円を分けて帳簿の値で足すと、事業のROEは中立で11〜13%ある。最後は利益で測り、今の利益はそのまま残り新しく投じるお金の稼ぎだけが先で半分に薄れるとした上限の8割(床は資本コストの逆数で、中立はそれを下回らせない)を事業の利益に当てると、中立は全体のPERで14倍台になる。中立の筋書きでは、ARC Raidersの勢いが徐々にならされ、DNFの構造的な縮小も続くとみると、10年後の本質価値は今の時価総額を3割強下回り、総合では割高(-33%)と出た。ネクソンは通期の業績予想を開示しない方針(四半期レンジ形式のみ)を取っており、コナミ同様に長期の数値計画を会社から得られない点が見通しの不確実性を高めている。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の観点では、ネクソンは開発投資を継続しながらも無借金・純有利子負債-4,989億円という強い現金創出力を背景に高水準の株主還元を実行できており、26年12月期の大幅増配はその現れである。ただし開発投資の多くは「次のヒットを当てる」ための先行投資であり、その成否が読みにくい点は資本財企業の設備投資とは異なる不確実性を伴う。
堀の持続性については、メイプルストーリー・DNFという長寿命IPを20年以上運営し続ける実行力に加え、Embark Studiosの買収でARC Raiders・The Finalsという新しい世界級IPを生み出せた点を高く評価できる。一方で「10年後も新しいヒットを生み出し続けられるか」「DNFの中国での構造的な縮小は止まるか」という一次審査では慎重にならざるを得ない。
資本配分については、無収益スタジオへの先行投資というリスクを取った経営判断が結果的に成功した点は評価できるが、安全域の観点では、現在の株価がARC Raidersの発売直後の熱狂とそれに伴う特別配当を強く織り込んでいる可能性が高く、ジャンルとしての抽出系シューターの人気が1〜2年で陰る前例を踏まえると、今払う値段に対する安全域は乏しいという判断になる。ガチャ確率操作の制裁歴とTencent買収観測という2つの固有の不確実性も、確信度を下げる要因として悲観側の確率に反映した。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は大きくPC・コンソール部門とモバイル部門の2つに分かれる。PC・コンソール部門は「メイプルストーリー」(韓国発、20年以上運営されるMMORPGで2026年にも過去最高収益を更新)、「ダンジョン&ファイター(DNF)」(中国ではTencentが運営し一時代の主力収益源だったが近年は中国モバイル版が弱含み)、サッカーゲーム「FCオンライン」、そして2025年に発売されたばかりの新作抽出系シューター「ARC Raiders」(開発は2021年に完全子会社化したスウェーデンのEmbark Studios)が中心で、2026年12月期第2四半期の売上構成では全体の72%を占める。
モバイル部門は「Blue Archive(ブルーアーカイブ)」(自社スタジオ開発のキャラクターIP運営型タイトルで日本・海外双方でファンを持つ)、DNFのモバイル版、「HIT2」などが中心で、全体の28%を占める。両部門ともガチャ・DLC・大会運営・ライセンスからの継続課金が収益の主体で、新作(パッケージ・買い切り型を含む)が発売年に収益を押し上げる構造は業界共通である。ネクソンはコナミのような非ゲーム事業(カジノ機器・フィットネス等)を持たず、ゲーム専業である点が同業他社との違いである。
優良さと弱いところ
堀の中心はメイプルストーリー・DNF・FCオンラインといった20年前後の歴史を持つ長寿命IP群と、それを多地域(韓国・中国・日本・北米欧州・その他)で同時に運営し続ける体制にある。近年はEmbark StudiosのARC RaidersやThe Finals、自社スタジオのBlue Archiveなど新しいIPを継続的に生み出せている点が、新規IP創出力という同業他社がしばしば抱える弱点を相対的に補っている。
資本効率はROE8.7%(2025年12月期)、自己資本比率75.0%、純有利子負債-4,989億円(時価総額比-23.1%)という無借金・厚い純現金の財務体質で、会社は株主還元方針としてROE目標を現状の10%以上から中長期で15%へ引き上げる方針を掲げている。前期営業利益の33%以上を配当・自社株買いで還元する方針も明確で、26年12月期は特別配当を含め大幅増配となった。
弱点は、収益がメイプルストーリー・DNF・ARC Raidersといった少数の主力タイトルに依存する構造が続いている点と、2024年に韓国公正取引委員会からガチャ(強化アイテム「キューブ」)の当選確率を予告なく下げていたとして116億ウォンの罰金を科された事実が示すとおり、確率型課金アイテムの運営をめぐる規制・レピュテーションのリスクを抱えている点である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界のゲーム市場はCESA基準で2025年に32兆円規模とされ、モバイルゲームが過半を占める。国内市場は人口動態からほぼ横ばいだが、海外(特に欧米・中国)のモバイル・PC市場の拡大が市場全体の数量の伸びを支える。ネクソンは同じ国内ゲーム大手(コナミ・カプコン・スクウェア・エニックス・コーエーテクモ等)とも競うが、韓国発の会社として国内では韓国のネットマーブル・クラフトン等とも直接競合し、海外ではTencent・ソニー・EAなど海外大手とも間接的に競合する。
循環は薄いがヒット・ミスの振れは大きい。ARC Raidersの大ヒットでPC・コンソール部門は好調だが、DNFは中国でTencentがモバイル版の開発・運営を担う体制に移行して以降、中国での勢いがやや弱含んでおり、好調事業と不調事業が同時に存在する構図はコナミのヒット依存構造と似ている。技術面では生成AIがゲーム開発のコスト構造を変える最大の変数で、開発工程の効率化が追い風になる一方、海外インディー・新興スタジオの開発力向上が既存IPの優位性を削るリスクも同時にある。
規制面では、確率型課金アイテム(ガチャ)の確率表示義務化(韓国で2024年3月施行)や各国の未成年課金規制、Apple・Googleのアプリストア課金(売上の約30%)に関する訴訟・規制の行方が収益の取り分に直接効く。ネクソンは2024年の確率操作問題で既に制裁を受けており、同種の規制強化に対する脆弱性は同業他社より相対的に高いとみられる。
資本政策と M&A
株主還元は前期営業利益の33%以上を配当・自社株買いで還元する方針を据え置き、ROE目標は現状の10%以上から中長期で15%へ引き上げる方針を示している。26年12月期は年間配当を前期の約10倍の水準へ大幅に上方修正し、その大部分を特別配当として出すと発表し、ARC Raidersの成功と厚い純現金を背景にした株主還元姿勢の強さを示した。
M&Aでは2018年から出資し2021年に完全子会社化したEmbark Studios(スウェーデン)が最大の成功例で、当時は無収益・無製品のスタジオへの投資に社内外から強い反対があったとされるが、結果的にARC Raidersの記録的ヒットにつながった。コナミのようなオーガニック路線一辺倒ではなく、外部スタジオの買収で新規IPを作る戦略を継続する可能性が高い。
資本政策・ガバナンス上の固有の懸念として、2022年の創業者・金正宙氏の急逝以降、持株会社NXCコーポレーション(韓国、ネクソンの46.25%を保有する最大株主)の体制が変わり、2019年・2025年と複数回Tencentによる買収観測が報じられたが、いずれも実現せずTencent側は直近(2025年6月)も公式に否定している。facts(kabufuのMC)が示す10年以内のTOB・買収確率15.0%は、この経緯を反映したものと考えられる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ARC Raidersは発売2週間で400万本を超える記録的ヒットとなり、The Finalsに続きEmbark Studiosという「無収益・無製品」だった買収先から2つ目の世界級新規IPを生み出すことに成功した。これはコナミのような既存IP運営一辺倒の会社にはない、外部スタジオM&Aによる新規IP創出力を示すものであり、今後も同様の賭けに出る余地を持つ。メイプルストーリーは2026年第2四半期に過去最高収益を更新し前年比62〜63%増という驚異的な成長を見せており、20年を超えるIPでもなお成長できることを証明している。
DNFは中国モバイル版が弱含みだが、本家PC版は安定的な収益基盤を保ち、新作「ダンジョン&ファイター:アイドルRPG」の年内発売も控えている。無借金・純現金4,989億円(時価総額比23%)という強い財務基盤を背景に、26年12月期は年間配当を前期の約10倍の水準へ大幅増配すると決定し、ROE目標も現状の10%以上から中長期で15%へ引き上げる方針を示すなど、株主還元と成長投資を同時に拡大できる余力がある。Blue ArchiveというキャラクターIPの持続的な人気も、メイプルストーリー・DNF・ARC Raidersという大型IPに次ぐ収益の多様化に貢献しており、複数のIP・事業が同時に当たる好循環が続く可能性は十分にある。
慎重な見方
ARC Raidersの成功は本物だが、抽出系シューター(エクストラクションシューター)というジャンルは、発売直後の熱狂的な話題性に比べてプレイヤーの継続率(リテンション)が1〜2年で急速に落ち込む前例がジャンル全体として多く、現在の勢いがそのまま持続するとは限らない。DNFは中国でTencentがモバイル版の開発・運営を担う体制に移行して以降、中国での勢いが弱含んでおり、かつての主力収益源の構造的な縮小が既に進行している。メイプルストーリーの驚異的な成長も、既存の長寿命IPである以上、いずれ成長ペースが平常化する時期が来る。
2024年に韓国公正取引委員会からメイプルストーリー等のガチャ(強化アイテム「キューブ」)の当選確率を2011年から2021年までの長期間にわたり予告なく下げていたとして116億ウォンの罰金を科された事実は、確率型課金アイテムの運営をめぐる規制・レピュテーションのリスクが同業他社より相対的に高いことを示している。各国で確率表示義務化や未成年課金規制が強化される流れは、運営型タイトルのARPUに直接効いてくる。加えて、2022年の創業者急逝以降、持株会社NXCの体制下で2019年・2025年と複数回Tencentによる買収観測が報じられており、いずれも実現していないものの、ガバナンスと資本政策の先行きに対する不確実性が常に市場の話題になる構造自体が、本質価値の評価を難しくしている。通期の業績予想を開示しない方針も、会社自身が数年先の事業環境を自信を持って見通せていないことの裏返しと解釈できる。
どちらに重みを置いたか
ARC RaidersとBlue Archiveという2つの新規IPを継続的に生み出せている実行力は強気の見方に説得力を持たせるが、抽出系シューターというジャンルの継続率の前例とDNFの中国での構造的な縮小という2つの懸念は、慎重な見方がより的を射ている。コナミと同様に「ヒットの有無で利益が大きく振れる」構造が続いている点は変わらず、ARC Raidersの熱狂が10年という長い時間軸でならされると置くのが本質価値の計算では妥当である。確率はコナミと同じ重み(中立を最も重く、やや悲観にも相応の重みを残す)を置きつつ、ガチャ確率操作の制裁歴とTencent買収観測という固有の不確実性は、資本コストに上乗せせず悲観の確率を1%厚くして表し、ヒット依存と中国でのTencent運営への偏りは優良度の調整+1%で資本コストに入れた。厚い現金を分けて事業の利益で測ると、事業のROEは11〜13%で資本コストを上回り、資本コスト7.25%で測った中立の倍率は全体でPER14倍台となり、本質価値は今の時価総額を4割近く下回って結論は割高になった。厚い純現金は悲観でも半分が残るが、下支えは事業の稼ぐ力に純現金を足した額までである。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,561 円3.50 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 744 円5,709 億円)。 今の値に割り戻すと 2,789 円2.14 兆円、今との差 −0.9%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 10,146 円7.78 兆円 | 1,261 円9,673 億円 | +305.4% | +15.0% | 1,369 円1.05 兆円 |
| やや楽観 | 27% | 6,363 円4.88 兆円 | 927 円7,108 億円 | +159.0% | +10.0% | 1,968 円1.51 兆円 |
| 中立 | 33% | 3,780 円2.90 兆円 | 663 円5,086 億円 | +57.9% | +4.7% | 1,466 円1.12 兆円 |
| やや悲観 | 18% | 1,942 円1.49 兆円 | 519 円3,984 億円 | −12.5% | −1.3% | 443 円3,398 億円 |
| 悲観 | 10% | 281 円2,158 億円 | 305 円2,340 億円 | −79.2% | −14.5% | 59 円450 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,561 円3.50 兆円 | 744 円5,709 億円 | +88.5% | +6.5% | 5,305 円4.07 兆円 |
今の株価時価総額 2,814 円2.16 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 12% 複数の世界級IPが同時に運営型として定着 利益 3,685 億円 · PER 21.1 倍 · 株価時価総額 10,146 円7.78 兆円
ARC Raidersに続きEmbark Studiosや自社スタジオからさらに新しい世界級IPが生まれ、メイプルストーリーも20年を超えてなお成長を続ける。世界ゲーム市場はPC・コンソール32.2兆円・モバイル40.2兆円まで拡大する中でネクソンのシェアはPC3.8%・モバイル1.0%まで広がる。DNFも中国での立て直しに成功し、生成AIによる開発効率化を取り込んで新規IPの創出ペースも上がる。株主還元と研究開発投資を同時に拡大し、ROE目標の15%を上回る水準を10年にわたり維持する、ネクソンにとって最も理想的な10年になる。
- PC・コンソール:数量 32.2(世界PC・コンソールゲーム市場(名目の兆円))× 価格 3.8%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 12,221 億円・営業利益 4,155 億円。世界市場32.2兆円×シェア3.8%
- モバイル:数量 40.2(世界モバイルゲーム市場(名目の兆円))× 価格 1.0%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 4,020 億円・営業利益 1,085 億円。世界市場40.2兆円×シェア1.0%
倍率:事業の純利益 3,623 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)4,400 億円。全体の PER 21.12 倍、時価総額 77,827 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の間にARC Raidersの長期定着・メイプルストーリーの持続成長・DNFの立て直し・さらなる新規IP創出が同時に実現する必要があり、強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 27% 主力IPが世界で安定成長 利益 2,409 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 6,363 円4.88 兆円
ARC Raiders・メイプルストーリーを中心に主力IPの運営型収益が安定成長を続け、世界市場はPC・コンソール28.1兆円・モバイル34.8兆円に拡大する中でシェアはPC3.2%・モバイル0.9%に改善する。DNFは本家中心に緩やかな回復を続け、Blue Archiveも定着する。全てが世界的ヒットには至らないが、現実的に強い10年になる。研究開発費も着実に増え続け、新規IPへの再投資と株主還元の両立が続き、ROE目標15%にも徐々に近づいていく。Embark Studiosに続く外部スタジオとの協業も緩やかに広がり、新規IP創出の間口が1社・1スタジオに依存しない体制になっていく。
- PC・コンソール:数量 28.1(世界PC・コンソールゲーム市場(名目の兆円))× 価格 3.2%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 9,005 億円・営業利益 2,702 億円。世界市場28.1兆円×シェア3.2%
- モバイル:数量 34.8(世界モバイルゲーム市場(名目の兆円))× 価格 0.9%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 3,136 億円・営業利益 721 億円。利益率23%
倍率:事業の純利益 2,347 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)4,400 億円。全体の PER 20.26 倍、時価総額 48,806 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:既存の主力IPが安定して成長を続け、ARC Raidersの一部も長期定着するという、現実的な強気シナリオ。
中立 33% 中立:市場は拡大するがDNFの縮小が全社の重荷として残る 利益 1,419 億円 · PER 19.7 倍 · 株価時価総額 3,780 円2.90 兆円
世界ゲーム市場は10年でPC・コンソール24.8兆円・モバイル29.5兆円まで構造的に拡大するが、ネクソンのシェア改善はPC2.6%・モバイル0.75%と小幅にとどまる。メイプルストーリー・ARC Raidersは安定成長を保つが、DNFの中国での縮小が全社の重荷として残り、PC・コンソール部門の利益率は25%程度に平常化する。新規IPは年に数本生まれるが、世界的な大ヒットに育つのはそのうち一部にとどまる。会社の優良さ(長寿命IP・新規IP創出力)は維持されるものの、「普通に強い優良企業」としての評価に収まる10年になる。
- PC・コンソール:数量 24.8(世界PC・コンソールゲーム市場(名目の兆円))× 価格 2.6%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 6,445 億円・営業利益 1,611 億円。利益率25%に平常化
- モバイル:数量 29.5(世界モバイルゲーム市場(名目の兆円))× 価格 0.8%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 2,211 億円・営業利益 398 億円。DNF縮小が重荷として残る
倍率:事業の純利益 1,357 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)4,400 億円。全体の PER 19.68 倍、時価総額 27,926 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界ゲーム市場自体の構造的拡大と、DNFの中国での長期的な縮小・ヒット依存構造の平常化を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 18% 新規IPの創出力が鈍り、DNFの縮小が止まらない 利益 755 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 1,942 円1.49 兆円
新規IPの創出力が鈍り、ARC Raidersに続く世界級の新作が生まれないまま、DNFの中国での縮小は止まらない。各国でのガチャ規制強化がARPUをさらに圧迫し、世界市場自体もPC21.4兆円・モバイル24.1兆円にとどまる中でネクソンのシェアはPC1.9%・モバイル0.58%までしか改善しない。メイプルストーリー・Blue Archiveの看板IPの地位自体は保つが、新しい柱が育たないまま10年が過ぎる展開になる。株主還元は維持するが、自社株買いの規模は縮小し、ROE目標15%には届かない水準で推移する。
- PC・コンソール:数量 21.4(世界PC・コンソールゲーム市場(名目の兆円))× 価格 1.9%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 4,074 億円・営業利益 896 億円。新規IP不振で利益率22%
- モバイル:数量 24.1(世界モバイルゲーム市場(名目の兆円))× 価格 0.6%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 1,399 億円・営業利益 210 億円。ガチャ規制強化で利益率15%
倍率:事業に要らない現金3,300億円(戻り方1.0)を分けると、事業の純利益709億円(現金の税後利息を除く)・事業のROE6.1%。ROEがk7.25%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=11.8倍まで。上限は事業709億円×11.8倍+余った現金3,300億円=11,638億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の9.5割に置き、時価総額12,931億円、全体のPERに直して14.6倍。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 17.13 倍・時価総額 12,931 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:新規IPの創出力が10年の間に鈍り、DNFの中国での縮小が止まらず、ガチャ規制の強化も重なる想定。セクター的な長期見通しの弱めのレンジに相当。
悲観 10% 構造的に優良さを失う 利益 37 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 281 円2,158 億円
新規IPの創出が止まり、ARC Raiders・メイプルストーリー・DNFといった主力IPも海外大手・生成AIを駆使した新興勢力との競争とガチャ規制強化で価値が削られ、世界市場自体もPC17.4兆円・モバイル18.8兆円にとどまる中でシェアはPC1.0%・モバイル0.3%まで低下する。PC・コンソール・モバイル両部門の利益率が急落し、全社でほぼ収支が成り立たない状態になる。長寿命IPのブランド自体は残るが、かつての「新規IPを生み出す会社」という評価は市場から外れ、普通のコンテンツ企業として評価されるようになる10年になる。配当は保有する現金・有価証券の一部売却も含めて維持する方針を取るが、自社株買いは停止する。
- PC・コンソール:数量 17.4(世界PC・コンソールゲーム市場(名目の兆円))× 価格 1.0%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 1,742 億円・営業利益 87 億円。新規IP創出停止で利益率5%
- モバイル:数量 18.8(世界モバイルゲーム市場(名目の兆円))× 価格 0.3%(ネクソンのシェア(%))→ 売上 563 億円・営業利益 −17 億円。規制強化で赤字化
倍率:事業に要らない現金2,200億円(戻り方1.0)を分けると、事業の純利益6億円(現金の税後利息を除く)・事業のROE0.1%。ROEがk7.25%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=11.8倍まで。上限は事業6億円×11.8倍+余った現金2,200億円=2,272億円。主力IPが衰え営業赤字に落ちる筋書きで、稼ぐ力(事業の純利益÷k)に半分に減る純現金を足した額を超えない。悲観は上限の9.5割に置き、時価総額2,158億円、全体の今の自己資本で測ったPBRに直して0.2倍。値は残る現金の床(floor_assets_oku 2,200 億円)で付くので、やや悲観より倍率を高くしなくてよい。
確率:新規IPの創出が完全に止まり、既存の主力IPも生成AI時代の競争・ガチャ規制強化で価値を失う構造的な負け筋と、循環の谷が同時に来る複合シナリオ。技術・creativeの優位喪失は一度始まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
PC・コンソール
メイプルストーリー、ダンジョン&ファイター(DNF)、FCオンライン、ARC Raiders、The Finalsなどのパソコン・コンソール向けタイトル群。
| 数量世界PC・コンソールゲーム市場(名目の兆円) | 価格ネクソンのシェア(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 15.0 | 2.4% | 3,553 | 927 |
| 10 年後 中立 | 24.8 | 2.6% | 6,445 | 1,611 |
取り方:世界ゲーム市場32兆円(CESA、2025年)のうちPC・コンソール比率を約47%とみて市場規模15.04兆円を置き、PC・コンソール部門売上3,553億円(2026年12月期第2四半期の部門比率72%を2025年12月期の売上4,751億円に適用した推定)からシェアを逆算した。筋書きでは市場の金額を物価並み(10年で1.34倍)に膨らませ、その上に実質の伸び・縮みを掛けた。
モバイル
Blue Archive(ブルーアーカイブ)、DNFモバイル、HIT2などのスマートフォン向け運営型タイトル群。
| 数量世界モバイルゲーム市場(名目の兆円) | 価格ネクソンのシェア(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 17.0 | 0.7% | 1,197 | 313 |
| 10 年後 中立 | 29.5 | 0.8% | 2,211 | 398 |
取り方:世界ゲーム市場のモバイル比率を過半(約53%)とみて16.96兆円を置き、モバイル部門売上1,197億円(同じく26年第2四半期の部門比率28%を適用)からシェアを逆算した。筋書きでは市場の金額を物価並み(10年で1.34倍)に膨らませ、その上に実質の伸び・縮みを掛けた。
リスクと懸念
ヒット依存の循環構造
ARC Raiders・メイプルストーリーの好調が同時に重なった結果、2026年12月期は記録的な好決算となっているが、過去にもDNFの不振期など「ヒットの有無で利益が大きく振れる」構造は消えていない。抽出系シューターというジャンルはプレイヤーの継続率が発売後1〜2年で急落する前例が多く、ARC Raidersの勢いがそのまま持続するとは限らない。
DNFの中国での構造的な縮小
DNFは中国でTencentがモバイル版の開発・運営を担う体制に移行して以降、中国での勢いが弱含んでおり、かつての主力収益源の縮小が既に進行している。本家PC版の立て直しが進まなければ、全社の増益ペースを長期にわたり押し下げる重荷になり得る。
確率型課金アイテムの規制・レピュテーション
2024年に韓国公正取引委員会からメイプルストーリー等のガチャ(強化アイテム「キューブ」)の当選確率を長期間にわたり予告なく下げていたとして116億ウォンの罰金を科された事実があり、確率表示義務化や未成年課金規制が各国で強化される流れは運営型タイトルのARPUに直接効いてくる。
プラットフォーム手数料依存
Apple・Googleのアプリストア課金(売上の約30%)への依存は業種共通のリスクで、各国でのプラットフォーム手数料訴訟の行方次第でネクソンの取り分がさらに削られる可能性がある。Steam等のPC向けプラットフォームへの依存度もARC Raidersの成功で相対的に高まっており、手数料構造の変化は複数のプラットフォームにわたって業績に効いてくる。
持株会社NXCの体制とTOB観測
2022年の創業者・金正宙氏の急逝以降、持株会社NXCコーポレーション(ネクソンの46.25%を保有する最大株主)の体制下で、2019年・2025年と複数回Tencentによる買収観測が報じられており、いずれも実現していないが、ガバナンス・資本政策の先行きに対する不確実性が市場の話題になりやすい構造が続いている。
通期業績予想の非開示
ネクソンは通期の業績予想を開示せず、四半期ごとのレンジ形式のみを採用する方針を取っており、コナミ同様に投資家が参照できる会社自身の長期の数値計画が他社より少ない点が、見通しの不確実性を高めている。中期経営計画の原文も公表されておらず、将来の方向性は決算説明会のコメントや新作発表から推測するしかない。
生成AIによる競争構造の変化
生成AIはゲーム開発のコスト構造を変える最大の変数で、開発効率化の追い風になる一方、海外インディー・新興スタジオの開発力向上により既存IPの優位性が削られるリスクも同時に存在する。開発コストの優位性がどちらに働くかは業界全体でまだ見通せておらず、ネクソンの多スタジオ体制が強みにも弱みにもなり得る。
今後の分かれ目
- ARC Raidersのアクティブプレイヤー数が発売2年目以降も高水準を維持したら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。ただし1作の持続だけで次の新規IP創出力の証明にはならないと留意する。
- DNFの中国モバイル版が3期連続で売上回復を示したら
- 中立シナリオの前提(DNFの縮小が続く)を見直し、価値を上方修正する。
- 各国でガチャ確率表示義務化・未成年課金規制がさらに強化されたら
- モバイル部門の利益率前提を下方修正し、やや悲観側に重みを移す。
- Tencent等によるNXC株・ネクソン株の買収交渉が実際に具体化したら
- TOBプレミアムを考慮した上振れシナリオの確率を一時的に上げる。ただし過去の観測がいずれも不成立だった経緯を踏まえ、実現までは慎重に扱う。
- 2〜3年連続で世界級の新規IP発表・ヒットがないままだったら
- 新規IP創出力の枯渇が進んでいるとみて、やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。
- Embark Studiosに続く外部スタジオの大型買収を再び実行したら
- 新規IP創出力への評価を上方修正してよいが、買収直後は収益化までの先行投資負担も合わせて考慮する。
見ておくもの
- ARC Raidersのアクティブプレイヤー数・継続率の推移(発売2〜3年目の落ち込み方)
- DNFの中国モバイル版の売上動向とTencent運営体制下での回復度合い
- メイプルストーリーの成長率(前年比62〜63%増が続くか平常化するか)
- 各国のガチャ確率表示義務化・未成年課金規制の強化動向
- NXCコーポレーションの株主構成・Tencent等による買収観測の進展
倍率と資本コストの決め方
世界ゲーム市場×シェアで積んだ。純現金のうち4,400億円を余った現金とし、戻り方1.0で足した。悲観では谷で食う・買収に使うとして半分にした。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k7.25%、堀は並みで残る割合1/2)に対する位置で置いた。楽観は上限の7割、やや楽観7割、中立9.3割、やや悲観9.5割、悲観は事業の純利益÷kの稼ぐ力(と純現金)の9.5割。今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.04→21.12 倍・やや楽観 PER 13.95→20.26 倍・中立 PER 12.99→19.68 倍・やや悲観 PER 14.65→17.13 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。
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