結論
トーセは、ゲームメーカーの依頼を受けてソフトを開発・運営する京都の独立系開発会社である。長期保有の観点では割高と判断する。開発実績と財務の厚さは評価できるが、10年後も現在の開発工数に十分な対価が支払われるとは限らないからだ。
同社は累計2,400以上のゲーム・モバイルコンテンツの開発に携わり、家庭用ゲーム機からスマートフォンまで幅広く対応してきた。自社のヒット作品に頼らず、多数のゲームメーカーと取引できることが強みである。一方、作品の知的財産権を原則として顧客が握り、同社の収益は開発・運営の委託料に大きく依存する。ゲーム市場が成長しても、その利益を比例して受け取れる会社ではない。
2026年8月期は売上高63.16億円、営業利益2.84億円だった。海外向け大型案件の停止と成功報酬の反動減が響き、営業利益は前年比で約6割減少した。純利益7.17億円には不動産売却に伴う特別損益が含まれるため、継続的な収益力を示していない。翌期の会社予想は営業利益4.15億円、純利益2.80億円である。
長期の焦点はAIエージェントによる開発生産性の変化だ。プログラミング、テスト、素材制作などの必要工数が減れば、顧客が支払う開発費も圧縮される。大型案件の統括や品質保証には人の価値が残るが、工数削減を利益率の改善として独占できる証拠はまだ乏しい。
中立では10年後の売上高を約53億円、純利益を約2億円と見込む。確率加重した現在価値は約28億円で、基準時価総額約48億円を約4割下回る。現金や保有資産が下値を支えるものの、事業の稼ぐ力が資本コストを下回る状態では、帳簿上の自己資本の厚さだけを割安の根拠にはできない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主にとって最も大切なのは、事業が10年後にも必要とされ、追加の資本を投じたときに十分な利益を生むかどうかである。トーセのゲーム開発技術は今後も必要とされるだろう。しかし、ゲーム制作という仕事が残ることと、現在と同じ数の開発者に同じ対価が支払われることは別である。
同社の最大の弱点は、優れたゲームの経済的価値を継続的に所有する仕組みが弱い点にある。ゲームの権利を顧客が握り、トーセは開発の対価を受け取る。レベニューシェア契約から追加利益を得ることもあるが、金額が変動しやすく、同社が作品の成功を独占的に享受する構造ではない。顧客が開発会社を変更する費用は存在するものの、値上げを自由に通せるほどの堀ではない。
一方、財務的な存続力には価値がある。豊富な現金と保有資産があり、一時的な開発失敗や受注停止を乗り越える余力を持つ。大型案件を安定的に受注できる企業の信用も簡単には作れない。しかし、現金を長く抱え込むだけでは株主の利益にならない。重要なのは、その資本を高い利回りで再投資するか、不要なら株主へ返すことである。
筆者は新オフィスへの投資も同じ基準で評価する。社員の連携が改善すること自体は望ましいが、その結果として契約単価、稼働率、開発採算が改善しなければ、建物への投資は株主価値を増やさない。将来の減価償却負担だけでなく、更新投資や維持費まで含めて確かめる必要がある。
現在の時価総額は純資産より小さいが、それだけで十分な安全域があるとは言えない。低いROEのまま成長機会が限られるなら、自己資本の帳簿額はそのまま株主価値にならない。優れた開発実績と強い財務を認めたうえで、現在の価格にはなお慎重である。
何で稼ぐ会社か
トーセの収益源は、自社でゲームを販売することではなく、ゲームメーカーから依頼された開発・運営を引き受けることにある。顧客から開発工程に応じた対価を受け取り、完成後の運営委託料や販売実績に連動するレベニューシェアも得る。後者は作品の販売本数や利用者の課金額に応じた成功報酬であり、追加原価が小さいため、発生した年には利益率を大きく押し上げる。
2026年8月期のゲーム事業は売上高58.79億円で、連結売上の約93%を占めた。内訳は家庭用ゲーム機・PC関連47.51億円、スマートフォン関連11.24億円、その他約0.05億円である。家庭用ゲーム機・PC関連では、企画、プログラミング、デザイン、移植、リメイクなどを扱う。スマートフォン関連は新規開発よりも既存タイトルの運営に軸足が移っている。
顧客にはアトラス、スクウェア・エニックス、バンダイナムコ関連会社、タカラトミーなどが含まれる。2026年の決算説明資料には、受注済みで総売上5億円以上を見込む大型開発案件が7件掲載された。ただし、そのうち1件は海外顧客の判断で停止し、再開時期が未定である。長期間の取引関係があっても、案件の発注継続を保証する契約ではない。
その他事業は売上高4.38億円、営業利益0.37億円だった。ゲーム開発技術を転用した教育コンテンツ、企業向けシステム、音楽配信、家庭用カラオケ関連サービスなどを手掛ける。2026年10月には神戸学院大学と共同開発した薬学部生向けのAI模擬患者との対話学習ツールを提供開始した。大学向けの独自商品へ発展する可能性はあるが、2026年8月期の収益貢献はなく、契約数や金額の実績はまだ確認できない。
収益構造は開発人員の稼働率に左右される。社員を抱えている以上、案件が突然止まっても給与や開発設備の固定費は直ちには減らせない。2024年8月期の営業赤字と2026年8月期後半の急減速は、その脆さを示している。逆に案件が順調に進み、成功報酬も入れば利益は急回復する。ただし、株主が長く受け取れる利益は好調時の利益ではなく、稼働の空きや開発失敗を含めた平均的な利益で判断すべきである。
優良さと弱いところ
最大の強みは、長年積み重ねた開発経験と顧客との関係である。累計2,400以上の開発関与タイトルは、幅広いジャンルや複数のゲーム機への対応力を裏付ける。大型案件では仕様調整、品質管理、複数職種の連携が必要であり、実績のない小規模開発会社が簡単に受注できるものではない。
ただし、強みと経済的な堀は同じではない。顧客が完成したゲームの権利を持つ場合、作品の成功から得る長期利益の中心は発売元に残る。トーセが工程管理や技術力を高めても、顧客には他の開発会社への発注、内製化、AIによる作業削減という選択肢がある。開発単価を継続的に引き上げられたという定量的な証拠も乏しい。
財務は強い。2026年8月期末の自己資本は約67.80億円で、現金預金は約25.07億円、流動有価証券は約0.50億円ある。投資有価証券も約7.21億円保有しており、有利子負債への依存は小さい。開発案件の停止が重なっても資金繰りだけで直ちに窮地へ陥る可能性は低い。
一方、過去10年のROE中央値は約3.7%にとどまる。これは事業の資本効率が十分高くないことを示す。2025年8月期には営業利益6.89億円を確保したが、翌期には大きく減少した。安定して資本コストを超える利益を生み出す力が確認できるまでは、強い堀を持つ企業とは評価しない。
新オフィスへの拠点集約は生産性向上につながる可能性がある。しかし、建設投資に見合う増分利益が実現するかは未確認である。開発技術や人的資本の蓄積は競争上の強みだが、それが高い増分ROICに結び付くかを継続して確かめる必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ゲーム産業そのものとゲーム受託開発産業は分けて考える必要がある。CESAによると、2024年の世界ゲームコンテンツ市場は約31兆円で、モバイルゲームが約18.4兆円を占めた。PCゲームの存在感も拡大している。需要市場は大きく、長期的には成長の余地がある。
しかし、この31兆円は消費者がゲームに支払った金額であり、開発会社が受け取る外注費ではない。開発委託市場を直接網羅する統計は確認できない。仮にゲーム売上の5〜10%が外部開発への支払いに相当するとすれば、世界の委託市場は約1.6〜3.1兆円という粗い規模になる。トーセのゲーム売上はその約0.2〜0.4%に相当するが、外注比率も対象企業の範囲も推定であり、確定した市場シェアではない。
国内ゲーム産業の中核企業の就業人口は約5.8万〜8.3万人と推計されている。トーセのゲーム関連開発稼働を約490人年と推定すると、国内ゲーム中核産業の開発人員に対して約0.6〜0.8%に相当する。ただし分母にはメーカーの内製人員も含むため、受託開発市場だけのシェアではない。競合にはディンプス、ヘキサドライブ、海外のVirtuos、Keywords Studiosなどがあり、各社の同一定義の受託売上やシェアは十分に開示されていない。
今後の追い風はNintendo Switch 2、PCとのマルチプラットフォーム展開、旧作のリマスター、大型作品の制作規模拡大である。トーセは移植やリメイク、複数機種への対応を強化している。大型ゲームの品質要求が高まるほど、実績ある開発会社への需要は残りやすい。
最大の変化はAIエージェントの普及だ。コード生成、テスト、素材作成、翻訳、運営作業の自動化により、従来の人月を必要としない開発工程が広がる。ゲームが大型化しても、必要な人員数や委託金額は比例して増えなくなる可能性がある。トーセが生産性向上を販売単価や利益率として保持できれば勝機はあるが、顧客が工数削減分を価格交渉で回収する可能性も高い。
中立では世界ゲーム市場の成長を認めながらも、トーセの実質的な請求対象工数は減少するとみる。ゲームの完成品質に対する責任や複雑な案件統括は残るが、作業時間を売る従来型の収益モデルは10年後に縮小している公算が大きい。
資本政策と M&A
資本配分は安定配当を重視してきた。年間配当総額は近年おおむね1.9億円で推移し、赤字となった2024年8月期も維持した。2027年8月期の会社予想では配当性向67.7%となる。過去の配当性向は半数を超える年度が多く、余剰利益の株主還元実績はある。
ただし、長年にわたり配当水準がほぼ据え置かれており、増配による資本効率改善は進んでいない。大規模な自社株買いによる発行株数の縮小も確認できない。上位10株主の保有比率は2026年8月末で約41%であり、少数株主が全く資本政策へ働き掛けられないほどの集中ではない。配当を維持する姿勢は評価するが、低ROEのまま余剰資本を抱え続けることは望ましくない。
2026年には長岡京の新オフィス建設と京都府内の拠点集約を進めた。建物本体の建築費用は約28.3億円とされ、土地・既存開発拠点・旧本社などの売却収入約57億円を建設資金や関連費用に充てる計画である。関連費用は約22億円と見込み、残る約7億円について成長投資や株主還元を検討する方針を示した。ただし、この余剰額は建設費上昇や工事進捗によって変動する。
中期的な数値目標として、会社は安定的なROE8.0%以上をめやすとしている。2025年8月期の営業利益6.89億円を安定的に維持することが当面の基準である。一方、売上高や営業利益について年度を定めた中期の数値約束は確認できず、DOE、総還元性向、自社株買い金額についても数値の約束はない。
大型M&Aに頼った成長は確認できず、新事業創出と内部の開発能力強化が中心である。将来的にはゲームメーカーや外部の開発会社による買収対象となる可能性があるが、現時点で成立済みまたは進行中のTOB・MBOは確認できない。買収プレミアムは中立の本質価値に加えていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
トーセは国内でも長い歴史を持つ独立系ゲーム受託開発会社であり、累計2,400以上のタイトルに関わった経験は簡単に再現できない。ゲームメーカーが重要な作品を外部に任せる際には、単に安いプログラマーを集めるだけでは足りず、大規模な開発体制、技術、品質管理、納期の信頼性が求められる。トーセはその条件を備えている。
Nintendo Switch 2の普及、PC市場の拡大、過去の人気作品のリマスターは追い風になる。開発規模が大型化するほど、複数の機種に対応できる外部パートナーの役割が大きくなる。2026年の海外向け案件停止は痛手だったが、受注済みの新規大型案件があり、国内既存顧客からの需要も続いている。稼働率が回復すれば、既存の人員でも利益は大きく改善しうる。
AIは競争上の脅威だけではない。プログラミングやテストの自動化によって、同じ人数でより大きな案件を完了できる可能性がある。トーセが成果物単位の契約や付加価値の高い工程へ移り、開発効率改善の利益を保持できれば、収益性は現在より高まる。ただし、AIを使った新規事業の受注金額が十分に開示されていない以上、楽観側でもAIによる請求工数の純増は前提にできない。
財務の強さも忘れてはならない。現金と有価証券が厚く、開発プロジェクトの中止が重なっても継続的な投資を行える。土地・拠点の売却と新オフィスへの集約を計画どおり進め、余剰資金を還元できれば、事業利益の改善と株主への資金移転が同時に実現する。収益力を安定化させれば、現在の低いROEを改善する余地はある。
慎重な見方
トーセの実績は立派だが、その大半は顧客の作品を開発した実績であり、自社が長期にわたって収益を得られる知的財産ではない。開発契約を失えば、過去に携わったタイトルが多くても翌年の売上は保証されない。実際、2024年8月期には赤字となり、2026年8月期にも海外向け大型案件の停止で利益が急減した。売上の規模に対して固定人件費の負担が大きい。
ゲーム業界では生成AIとAIエージェントが開発工程を根本的に変える。コード作成、デバッグ、映像素材、翻訳、運営の定型作業などが自動化されれば、これまで人月で発注されていた仕事の相当部分が不要になる。ゲームメーカーは自社でもAIを使えるため、トーセだけが効率化の利益を独占できるわけではない。必要工数が減れば、顧客は開発委託料の削減を要求する。
トーセは自社IPを多数所有するゲーム会社ではないため、世界ゲーム市場が拡大しても利益の取り分が増えるとは限らない。競合する受託開発会社も同じAI技術を利用できる。経験豊富な開発者の価値は残るとしても、それが現在の社員数を支えるだけの受注量につながるかは不明である。
さらに、近年のROEは低い。自己資本を積み上げても、追加資本から十分な利益を得られない状態が続いている。新オフィス建設は拠点効率化につながる可能性があるが、開発需要が縮小した場合には過剰設備になる。2026年の土地売却益も継続的な利益ではない。現金を持っていることと、持続的に価値を生み出すことを混同してはならない。
どちらに重みを置いたか
開発実績、顧客基盤、財務の強さでは前向きな見方に説得力がある。しかし、受託開発が売上の大半を占め、顧客に価格決定力が偏っていることは長期評価で重い。AIエージェントによる必要工数の減少は中立の数量と長期成長率に反映し、確率では同じ理由をさらに重ねていない。2024年の赤字、2026年の大型案件停止、低ROEという会社固有の実績を理由に、上側27%に対し下側38%と慎重側へ寄せた。現金が損失を和らげても、今の時価総額を正当化するには十分な持続的利益が必要である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/08 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 498 円38 億円(+ 還元の換算額還元の合計 226 円17 億円)。 今の値に割り戻すと 392 円30 億円、今との差 −37.3%、 期待の年率 +1.8%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 1,084 円82 億円 | 290 円22 億円 | +119.9% | +9.4% | 124 円9 億円 |
| やや楽観 | 18% | 782 円59 億円 | 251 円19 億円 | +65.2% | +6.0% | 186 円14 億円 |
| 中立 | 35% | 456 円35 億円 | 250 円19 億円 | +12.9% | +1.5% | 247 円19 億円 |
| やや悲観 | 24% | 264 円20 億円 | 222 円17 億円 | −22.3% | −3.2% | 117 円9 億円 |
| 悲観 | 14% | 264 円20 億円 | 100 円8 億円 | −41.7% | −6.0% | 51 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 498 円38 億円 | 226 円17 億円 | +15.9% | +1.8% | 724 円55 億円 |
今の株価時価総額 625 円47 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 開発の高度化で採算を取り戻す 利益 6 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,084 円82 億円
家庭用ゲーム機とPCのマルチプラットフォーム開発が拡大し、トーセは実績ある独立系開発会社として重要な案件を獲得し続ける。Nintendo Switch 2の次の世代に移っても移植、リメイク、大型作品の開発需要が続き、顧客との関係を維持する。海外で停止していた案件の損失は新規受注によって補われ、開発スタッフの稼働が安定する。
AIエージェントによって一部の工数は減少するが、同社は設計、品質保証、複数機種対応という高付加価値工程へ人員を移す。契約の一部は工数課金から成果物・品質重視の対価へ移り、削減された開発費をすべて顧客に渡さずに済む。成功報酬も分散して発生し、過去のような特定年度への集中を減らせる。
非ゲーム事業では教育向け学習ツールやコンテンツ開発が一定の市場を得る。ただし、AI新製品による大幅な売上増はまだ裏付けがないため、開発数量の上振れは限定する。拠点集約後の稼働改善と費用管理が進み、営業利益は8億円台へ増える。M&Aによる新規収益は期待せず、内部成長と配当を中心に株主価値が改善する。
- 家庭用ゲーム機・PC向け受託開発:数量 390(年間請求対象相当の開発人年(人年、推計))× 価格 0.16(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、成功報酬を含む))→ 売上 61 億円・営業利益 7 億円。稼働相当人年は今の約95%。価格は約1.34倍まで回復し、成果物単位の採算改善で営業利益率11.5%。
- スマートフォンゲーム運営・関連開発:数量 72.0(運営・開発の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.18(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、運営報酬と成功報酬を含む))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。運営工数は0.90倍、単位売上は1.30倍。複数タイトルの運営報酬・成功報酬が残る。
- その他事業・非ゲーム向け開発:数量 27.0(非ゲーム受託開発・運営の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.20(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、コンテンツ収入を含む))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。非ゲームの請求対象工数は0.90倍。価格は物価相当の1.34倍で、営業利益率8%。
倍率:2036年のROEは約6.4%で、資本コスト7.75%を下回る。AIエージェント代替後の長期名目成長率g_longは0%。したがって継続利益の正当化PERの上限は1÷0.0775=12.90倍となる。楽観でもこの上限を人為的に割り引かない。余剰現金5億円の税後運用益0.07億円を継続純利益から外し、残余利益5.59億円にPERを掛け、余剰現金5億円を戻り方1.0で加える。
確率:大型案件の安定受注、開発品質の向上、AIによる生産性改善の利益を会社が保持するという複数の条件が必要である。受託開発への競争圧力は残るため低めの確率とする。
やや楽観 18% 大型案件を維持しながら効率化 利益 4 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 782 円59 億円
主力の家庭用ゲーム機・PC向け開発は、大型案件の完了と新規案件の立ち上げを繰り返しながら、比較的安定した稼働を維持する。マルチプラットフォーム対応やリメイクへの需要は継続するが、顧客の開発予算が無制限に増えるわけではない。ゲームメーカーの内製化と競合する開発会社の増加によって、受注の選別も進む。
AIエージェントの利用によって作業量は現在より減少する。それでも複雑な設計と品質保証の担当者は残り、トーセは技術の高度化によって付加価値の高い案件を確保する。新オフィスの利用開始後は人員配置の柔軟性が高まり、開発の空き時間と外注費を削減できる。
スマートフォンの運営事業は縮小しつつも、残存タイトルの運営と新しい開発委託を維持する。教育関連の非ゲーム事業も少額ながら事業として定着する。ROEは依然として資本コストに届かないものの、利益は2027年の会社予想を上回り、安定配当も維持できる。大型M&Aや不確実な新事業の急成長には依存しない。
- 家庭用ゲーム機・PC向け受託開発:数量 328(年間請求対象相当の開発人年(人年、推計))× 価格 0.15(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、成功報酬を含む))→ 売上 50 億円・営業利益 5 億円。工数は現在の0.80倍、価格は1.32倍。稼働率改善で営業利益率9%。
- スマートフォンゲーム運営・関連開発:数量 64.0(運営・開発の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.18(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、運営報酬と成功報酬を含む))→ 売上 11 億円・営業利益 1 億円。数量0.80倍、価格1.25倍。運営対象の縮小を単価改善で補う。
- その他事業・非ゲーム向け開発:数量 25.5(非ゲーム受託開発・運営の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.19(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、コンテンツ収入を含む))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。非ゲームの工数0.85倍、価格1.30倍。教育領域の成果は限定的。
倍率:2036年ROE約4.5%、k7.75%、長期g0%。資本コストに届かないため、成長による超過利益を評価せずPERは1÷k=12.90倍を上限そのものとする。余剰現金の税後利息0.07億円を除いた3.55億円を評価し、現金5億円を別に加える。
確率:開発の継続受注と拠点集約の効果が現れることは十分ありうる。ただし工数削減に伴う値下げ要求をすべて避けることは難しく、楽観より一段抑えた筋書きとする。
中立 35% ゲーム市場は成長しても開発工数の価値は縮む 利益 2 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 456 円35 億円
世界のゲーム市場は緩やかに拡大し、家庭用ゲーム機とPC向けの開発需要も残る。トーセは既存顧客との取引を維持し、リメイク、移植、大型ゲームの一部工程を受託する。ただし、パブリッシャー側のAI利用が進み、従来と同じ作品を作るために必要な外注工数は少なくなる。
トーセ自身も開発工程を効率化するが、その効果の多くは顧客からの単価交渉や案件数の削減に吸収される。人材の高度化によって一定の価格上昇を確保しても、請求対象の実質工数は現在の約3分の2となる。ゲーム市場の拡大をそのままトーセの売上成長とはみなさない。
スマートフォン運営は成熟タイトルの終了と運営自動化が続き、非ゲーム開発も安定した収益の柱になるまでには至らない。新オフィスへの集約は運営上の効率化につながるが、受注単価を大幅に引き上げるほどではない。営業利益は約3億円、純利益は約2億円となる。配当は現金を活用して維持するが、ROEは資本コストを大きく下回り、利益の再投資による価値創造は限定的である。
- 家庭用ゲーム機・PC向け受託開発:数量 271(年間請求対象相当の開発人年(人年、推計))× 価格 0.15(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、成功報酬を含む))→ 売上 40 億円・営業利益 3 億円。AIエージェント代替の人月型。数量は410人年の0.66倍、価格は1.28倍、営業利益率6.5%。
- スマートフォンゲーム運営・関連開発:数量 56.0(運営・開発の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.17(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、運営報酬と成功報酬を含む))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。運営工数0.70倍、単位売上1.20倍。成熟タイトルの減少で利益率3.5%。
- その他事業・非ゲーム向け開発:数量 19.5(非ゲーム受託開発・運営の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.18(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、コンテンツ収入を含む))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。受託型業務の数量0.65倍、単価1.25倍。新しい独自商品の大幅な上振れは含めない。
倍率:2036年ROEは約2.8%でk7.75%を大幅に下回る。AIエージェント代替に対応した長期成長率g0%のもとで、正当化PERの上限は1÷k=12.90倍。長期の成長による超過価値は数えない。純利益2.03億円から余剰現金利息0.07億円を除き、事業価値を求め、余剰現金5億円を別に加える。倍率は市場のPER・PBRではなく稼ぐ力から決めた。
確率:2026年時点の受託開発型の収益構造が大きく変わらない中心的な筋書き。AIエージェント代替による工数減少を既に数量へ織り込んでいるため、同じ理由だけで追加の利益率低下や確率の二重引きはしない。下に寄せる理由:2024年の赤字、2026年の海外大型案件停止、低い増分資本効率というトーセ固有の実績があるため。
やや悲観 24% 受注単価への圧力と稼働不足が続く 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 264 円20 億円
家庭用ゲーム機やPCのゲーム開発市場は存続するが、外部開発会社への発注は少数の大型案件へ集約される。トーセは長年の顧客との取引を維持するものの、新作開発の一部が内製化され、競合への発注も増える。受注の空白期間が頻繁に生じ、開発スタッフを常時高い稼働率で維持することが難しくなる。
AIエージェントによって従来の工数の多くが不要になり、顧客が支払う開発費は抑制される。トーセも生産性を改善するが、人件費や設備費を需要に合わせてすぐには減らせない。スマートフォン向け運営契約も縮小し、成功報酬による利益の上振れは乏しくなる。
教育や非ゲーム事業は新規契約を獲得するものの、ゲーム事業の落ち込みを補える規模にはならない。新オフィスは維持されるが、設備の稼働効率は想定を下回る。営業利益率は2%程度となり、事業の利益だけでは従来の配当を十分に賄えない。2027年の純利益は会社予想の2.8億円程度を確保しても、その後の案件減少によって早期に収益が細る。会社は現金を使って一時的に配当を維持し、その後は減配を進める。10年間の累計純利益は約9億円にとどまり、還元総額約16.8億円を下回るため、自己資本は2026年8月期末の約67.8億円から約60億円に減少する。事業価値は小さくなるものの、残存する現金や換金可能資産が下値を支える。
- 家庭用ゲーム機・PC向け受託開発:数量 221(年間請求対象相当の開発人年(人年、推計))× 価格 0.13(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、成功報酬を含む))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。数量0.54倍、価格1.15倍。開発人員の稼働不足で営業利益率2.5%。
- スマートフォンゲーム運営・関連開発:数量 44.0(運営・開発の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.15(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、運営報酬と成功報酬を含む))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。数量0.55倍、価格1.10倍。運営業務の自動化とタイトル終了で利益はほぼ残らない。
- その他事業・非ゲーム向け開発:数量 16.5(非ゲーム受託開発・運営の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.17(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、コンテンツ収入を含む))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。数量0.55倍、価格1.15倍。新事業の固定費負担で小幅赤字。
倍率:2036年のROEは純利益0.49億円÷自己資本60億円=約0.8%で、資本コスト7.75%を大幅に下回る。継続純利益による稼ぐ力は約6.3億円であり、余剰現金の戻り方を考慮しても約9億円にとどまる。したがって、純現金と売却可能資産の税後回収価値20億円を悲観側の床とする。2026年8月期末自己資本67.8億円から、10年間の累計純利益約9億円を加え、配当・自社株買いの累計約16.8億円を差し引くと、2036年自己資本は60億円となる。床の20億円をこの60億円で割った表示上のPBRは約0.3333倍となる。これは検査上の直近自己資本約61億円を下回る自己資本に掛けており、将来積み上がった自己資本を床の分母としていない。時価総額は資産床の20億円を超えない。過去の市場PBRや株価から倍率を決めていない。
確率:2024年の赤字と2026年の大型案件停止により、受託開発の固定費負担の大きさが確認されている。AIによる委託額の縮小に加え、顧客による発注集約で稼働が悪化する場合を考える。
悲観 14% 受託開発の構造的な競争力低下 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 264 円20 億円
主要ゲームメーカーがAIエージェントを開発工程へ深く組み込み、大型ゲームの制作で必要な外部人員を大きく減らす。トーセは過去の開発実績を生かして一部の案件を受注するが、価格と発注量の両面で顧客への交渉力を失う。大型プロジェクトの継続的な受注が途切れ、社員数を縮小しながら収益基盤を守る段階に入る。
家庭用ゲーム機・PC向けの請求対象工数は現在の4割程度に縮小する。スマートフォン運営では自動化とサービス終了が進み、既存タイトルからの成功報酬もほぼ消える。教育ツールなどの非ゲーム事業も収益化が進まず、全社売上は現在の半分以下となる。
人員整理や拠点縮小が必要になるが、新オフィスへの投資や固定費が重荷となる。10年の途中には遊休設備・建物の減損を約9億円計上し、累計利益を圧迫する。損失が継続するため配当は途中で停止する。期末には年間約1億円の純損失が生じているものの、過去から保有していた現金や換金可能資産が残る。経営が事業を維持する限り株主が直ちに資産を回収できるわけではなく、事業価値は実質的な回収可能額に近づく。
- 家庭用ゲーム機・PC向け受託開発:数量 164(年間請求対象相当の開発人年(人年、推計))× 価格 0.13(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、成功報酬を含む))→ 売上 21 億円・営業利益 −1 億円。数量0.40倍、価格1.12倍。固定費の削減が追い付かず営業赤字。
- スマートフォンゲーム運営・関連開発:数量 33.6(運営・開発の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.15(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、運営報酬と成功報酬を含む))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。数量0.42倍、価格1.08倍。運営タイトルの減少で赤字。
- その他事業・非ゲーム向け開発:数量 13.5(非ゲーム受託開発・運営の年間請求対象相当人年(人年、推計))× 価格 0.16(請求対象相当1人年当たり売上高(億円、コンテンツ収入を含む))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。数量0.45倍、価格1.07倍。非ゲーム事業の固定費負担が残る。
倍率:期末純損失0.95億円で継続事業の収益還元価値はほぼない。2026年の現金・有価証券と換金可能な不動産から負債、工事関連支出、税金等を控除した回収可能額20億円を床として採用。10年間の通常損益に加え、事業縮小による新ビル等の減損約9億円を累計純損益に含め、配当総額7.6億円を控除した結果、自己資本は約60億円となる。60億円×PBR約0.3333=20億円であり、今の自己資本61億円より大きい積み上がり資本に床の倍率を掛けていない。
確率:AIと内製化で開発受託市場が大幅縮小し、主要顧客の喪失や固定費削減の遅れまで重なる厳しい筋書き。純現金に支えられた事業継続力があるため、倒産や完全な事業消滅までは想定しない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
家庭用ゲーム機・PC向け受託開発
家庭用ゲーム機、PC向けゲームの企画、制作、移植、リメイクなどの受託開発。売上は開発案件に対応する工数の対価と、一部の販売実績連動型成功報酬から生じる。
| 数量年間請求対象相当の開発人年(人年、推計) | 価格請求対象相当1人年当たり売上高(億円、成功報酬を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 410 | 0.12 | 48 | 2 |
| 10 年後 中立 | 271 | 0.15 | 40 | 3 |
取り方:2026年8月期決算短信の家庭用ゲーム機・PC関連売上4,750,746千円を採用。実際の工数・案件別単価は非開示のため、連結592人のうち同領域の請求対象相当稼働を年間410人年と推定した。残る人員はスマートフォン、非ゲーム、管理業務、非稼働時間などに相当する。売上47.5075億円÷410人年=0.115872億円を単位売上とした。これは契約で定められた人月単価ではなく、成功報酬を含む売上を実質稼働量で割った代理指標である。大型受注案件7件の開示は受注継続の根拠として使うが、案件当たりの実際の人員配置は非開示。ゲーム事業の営業利益2.4726億円は家庭用ゲーム機・PCとスマートフォンに区分開示されないため、当領域に2.05億円を暫定配賦した。AIエージェント代替の分類は人月・工数型。中立の数量は410人年の0.66倍、価格は1.28倍とする。
スマートフォンゲーム運営・関連開発
スマートフォンゲームの運営、追加コンテンツ開発、課金収入に連動するレベニューシェアなど。新規開発よりも既存タイトルの運営業務が中心となっている。
| 数量運営・開発の年間請求対象相当人年(人年、推計) | 価格請求対象相当1人年当たり売上高(億円、運営報酬と成功報酬を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 80.0 | 0.14 | 11 | 0 |
| 10 年後 中立 | 56.0 | 0.17 | 9 | 0 |
取り方:2026年8月期決算短信のスマートフォン関連売上1,123,767千円を採用。タイトル別運営人員、運営契約数、成功報酬の金額は非開示である。家庭用ゲーム機・PCへの人員移行が進んでいるという会社説明を踏まえ、年間80人年相当の運営・開発活動を仮定し、売上を除して代理単価を算出した。2026年4月に長期運営タイトル1件が終了し、成功報酬も減少したため、従来の売上を将来に延長しない。セグメント利益は非開示のためゲーム事業利益から暫定配賦した。AIエージェント代替の分類は運営工数型で、中立の数量は0.70倍、価格は1.20倍とする。
その他事業・非ゲーム向け開発
教育向けコンテンツ、システム開発、家庭用カラオケ楽曲配信、ゲーム以外のエンタテインメント関連サービスなど。2026年10月に大学向けAI模擬患者学習ツールの提供を始めた。
| 数量非ゲーム受託開発・運営の年間請求対象相当人年(人年、推計) | 価格請求対象相当1人年当たり売上高(億円、コンテンツ収入を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 30.0 | 0.15 | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 19.5 | 0.18 | 4 | 0 |
取り方:2026年8月期決算短信のその他事業売上437,513千円、営業利益37,122千円を採用。教育、システム、音楽配信の個別件数と単価は非開示のため、年間30人年相当の開発・運営活動へ換算した代理指標である。家庭用カラオケなどの利用料収入も含むため、純粋な人月単価とは異なる。神戸学院大学とのAI模擬患者ツールは2026年10月提供開始で、2026年8月期の売上には含まれない。契約数・単価・解約率の定量開示がなく、記録の正本型に必要な堀の証拠も2つに達しないため、中立では開発受託・運営工数型として数量0.65倍、価格1.25倍に抑える。
リスクと懸念
AI エージェント代替
ゲーム開発のプログラミング、デバッグ、翻訳、素材制作、運営などにAIエージェントが導入されれば、従来の請求対象工数が減少する。トーセがAIを使って生産性を高めても、顧客も同じ技術を利用できるため、価格交渉で削減効果を奪われる可能性がある。中立の数量と長期成長率に反映し、資本コストの寿命要素で再度引かない。
大型開発案件の停止・顧客集中
2026年8月期には海外クライアント向け大型プロジェクトが一時停止し、再開時期未定となった。大型受託案件は長期の売上を生むが、途中で中止されると開発者の稼働が急に空く。顧客側の事業判断をトーセは支配できず、次の案件に人員を移すまで固定人件費が利益を圧迫する。
知的財産権と価格決定力の弱さ
ゲーム作品の権利と販売戦略の中心は顧客にある。トーセは制作能力に価値を持つものの、長期にわたり人気作品の利益を受け取り続ける構造ではない。レベニューシェア契約は利益率を押し上げるが、タイトル別の契約条件や成功報酬額は安定していない。作品が売れても取り分を十分に保持できないリスクがある。
固定費と開発稼働率
開発スタッフの給与や開発拠点の維持費は、案件が停止しても直ちには減らせない。2024年8月期の営業赤字、2026年8月期後半の利益急減がこの構造を示した。事業規模が小さくなった場合、新オフィスの建設費・減価償却・維持費が利益を圧迫する可能性がある。
拠点集約投資と資本効率
長岡京の新オフィス建設は約28億円規模の投資であり、土地と既存拠点の売却収入を資金源としている。人員配置の効率化につながれば価値を生むが、建設費の増加、移転費用の超過、稼働縮小が重なれば回収期間が延びる。減価償却は会計上の利益を左右し、将来の更新投資は現金流出につながる。
余剰資産の滞留と低ROE
自己資本は厚いが、過去のROEは資本コストを下回る年度が多い。余剰資金を低利回りで保有し続ければ、株主資本の帳簿額が増えても本質価値は比例して増えない。過去の安定配当は評価できるが、長年の配当据え置きと自社株買いの乏しさは資本配分の課題である。
今後の分かれ目
- 大型開発プロジェクトの停止が解消し、受注済み案件の進捗と稼働率が複数年度にわたり安定したら
- 家庭用ゲーム機・PC関連の数量見通しを引き上げる。利益率の改善が伴えば、やや楽観側の確率を増やす。ただし単なる一年度の案件集中による上振れは恒常利益にしない。
- AIを使った開発で請求対象工数が減っても、成果物単位の契約で粗利益額を維持できたら
- 数量の減少に対して価格・利益率で補える能力が証明されたと判断する。成果報酬の継続売上と増分ROICを確認し、中立の営業利益率と長期成長率を見直す。
- ゲーム事業の営業利益率が継続して10%を超え、翌期以降も新規案件へ円滑に人員を移せたら
- 受注獲得力と工程管理能力が改善した証拠として評価する。2025年の一時的な好調と区別するため、成功報酬を除いた受託開発の利益率を優先して確認する。
- 新オフィス建設・拠点整理が予定額で完了し、余剰資金が増配または自社株買いに充てられたら
- 資本配分への評価を改善する。株主へ戻る現金が増えれば、低ROEによる余剰資本の滞留が軽減される。工事費や物件売却代金の最終額も確認する。
- 神戸学院大学とのAI模擬患者ツールが複数大学で有料導入され、契約額と継続率が開示されたら
- 非ゲーム事業のうち独自商品の比率を分離して評価する。単純な受託開発と異なる継続課金や独自データの証拠があれば、その部分の数量と長期成長率を上方修正する。
- 2027年8月期以降に営業赤字が再発し、純現金が拠点維持費と配当で減り続けたら
- 資産床を再計算し、やや悲観・悲観の確率を高める。特に新オフィスの減損、配当政策の変更、開発者数の減少が同時に起きるかを確認する。
見ておくもの
- 家庭用ゲーム機・PC関連の売上高と大型開発案件の進捗、停止案件の再開・中止
- スマートフォン運営売上、終了タイトル数、レベニューシェアの発生状況
- ゲーム事業の成功報酬を除いた粗利益率と開発スタッフ稼働率
- 受注済み大型開発案件の数、企画段階から本制作段階への移行率
- AIによる開発生産性改善と成果物単位契約の受注実績
- 新オフィス建設費、土地・既存拠点の最終売却額、資金余剰と株主還元
- 会社のROE8%以上という目標に対する、一時益を除く実績の進捗
- 非ゲーム向けAI模擬患者ツールの有料導入大学数、契約金額、継続率
倍率と資本コストの決め方
基準株価628円と基準時価総額約47.60億円は、5つの将来シナリオの売上・利益・倍率を決定した後の比較にのみ使用した。2026年8月期の最新実績を起点とし、純利益7.17億円に含まれる土地売却等の一時益を継続的な稼ぐ力として扱っていない。数量は決算短信のセグメント売上、連結従業員592人、受注済み主要案件の情報から推計した請求対象相当人年であり、実際の契約人月の開示値ではない。物価上昇は価格に入れ、数量には重複して加算していない。
資本コストは7.75%、AIエージェント代替後の長期名目成長率は0%で、楽観〜中立のPER上限は12.90倍となる。ROEが資本コスト以下のため、市場のPERやPBRの過去水準を倍率の根拠としていない。余剰現金5億円は利益に含まれる運用益を除いて別に評価した。やや悲観の時価総額は、稼ぐ力約9億円と換金可能資産の税後回収価値20億円の大きい方である20億円とした。やや悲観の2036年自己資本は60億円で、検査上の直近自己資本約61億円を上回らない。悲観も同じ資産床20億円を使い、将来積み上がる自己資本に床の倍率を掛けていない。2027年度以降の新リース会計基準による表示変更は評価額の増加とはみなさず、同じ経済実態で比較する。5つのシナリオの確率加重現在価値は約28.04億円、基準時価総額47.60億円に対する差は約マイナス41.1%となる。やや悲観の修正によって評価額は減少したが、結論は引き続き割高である。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3.0%と株式リスクプレミアム4.5%を合計した基本7.5%に、事業品質による0.25ポイントを加えた7.75%。βや時価総額規模の上乗せは行わない。2024年の赤字や2026年の大型開発停止は個別シナリオで扱い、事業継続に差し迫った財務危機はないためdistressの上乗せもしない。