結論
ラクーンホールディングスは、中小企業同士の取引を成立させ、その代金を安全に回収する仕組みを提供する会社である。筆者の結論は「適正」だ。企業間決済の顧客基盤と与信データには本物の強みがある。しかし、資金調達に伴う潜在的な株式希薄化を考えると、長期の成長余地がそのまま現在の株主の利益になるわけではない。
同社の稼ぎは、卸売サイト「スーパーデリバリー」、企業間後払い決済「Paid」、売掛保証「URIHO」の三本柱である。2026年4月期の売上高は約66億円、営業利益は約13億円だった。事業の見た目はインターネット企業だが、利益の核心は企業間の信用リスクを引き受ける能力にある。買い手の信用情報が乏しい中小企業取引では、便利な画面だけでは解決できない課題が残る。
強みを最も明確に示すのはPaidだ。購入会員数は60万社を突破し、会社が公表した2024年度の利用継続率は99.4%に達する。さらに100万社超の支払実績・事故データを活用した与信サービスの開発も進んでいる。実際の取引と回収を通じて蓄積された情報は、公開情報を集めるだけでは再現しにくい。AIが請求書作成などの事務作業を自動化しても、誰が未払いの危険を引き受けるかという問題は残る。
一方、成長に必要な資本が既存株主の取り分を薄める点は見逃せない。アドバンテッジパートナーズ系ファンドへの転換社債と新株予約権に加え、従業員向けストックオプションも存在する。すべてが株式化すれば、現在の株主の持分割合は大きく低下する。会社が掲げる2031年の高い成長目標を、そのまま現在の株数で評価してはいけない。
10年後の中立では、売上高が約158億円、営業利益が約31億円に育つと見る。2027年4月期の先行投資による減益を経て、国内の小規模取引先の開拓、Paidの大企業向け拡販、URIHOの保証範囲拡大が進む筋書きだ。それでも、成長投資の成否、未回収損失、競争による料率低下を無視できない。確率加重した現在価値は約133億円で、基準時価総額約130億円との差は約3%にとどまる。事業を保有する魅力と、今の価格で買う安全域は別問題である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ラクーンの魅力は「便利なサービスを提供していること」よりも、「他社が簡単に引き受けられない信用リスクを適切な価格で引き受けていること」にある。中小企業同士の取引では、相手が信用できるか分からないために売買が成立しないことがある。その不安を減らし、販売者が安心して掛け売りを行える仕組みには、10年後も需要が残るだろう。
Paidの高い利用継続率と、事故を含む膨大な取引データは、事業の寿命を支える証拠である。AIが与信分析の技術を普及させても、実際の取引から得られる信用情報や、代金を保証する財務的な責任まで無料になるわけではない。反対に、商品検索や受発注の操作画面だけに高い値を付けるべきではない。ECと金融を一体で評価せず、何が代替され、何が残るかを分ける必要がある。
次の問いは、稼いだ利益をどこに再投資するかだ。既存の決済・保証事業を拡大し、信用損失を抑えながら手数料を得る投資は、比較的小さな追加設備で利益を生みやすい。だが、顧客獲得広告には継続的な支出が必要であり、M&Aは取得価格を誤ると簡単に株主価値を壊す。成長するから優良なのではない。投じた資本から、その資本コストを上回る利益が継続して生まれるから優良なのである。
財務面では、表面的な純現金の大きさを過信できない。決済資金の受払いや売掛保証の支払義務があるため、現金のすべてを事業と無関係の余剰資産とは扱えない。さらに、潜在株式の発行によって、事業価値の増加を現在の株主だけが受け取ることはできなくなる。
筆者が特に慎重になるのは、会社が示す2031年の大きな目標に市場が期待を寄せる局面だ。目標を実現できる可能性はある。しかし、10年後の価値を決めるのは、売上高の成長率だけでなく、信用事故を乗り越えた後の利益、追加投資の利回り、既存株主に残る持分である。事業を長く所有したいと思える理由はあるが、現在の値段には十分に厚い安全域があるとは判断しない。
何で稼ぐ会社か
同社は、売り手と買い手を結び付けるだけでなく、取引に伴う決済と信用保証まで提供している。2026年4月期の売上構成は、スーパーデリバリーが約59%、Paidが約17%、URIHOが約24%である。EC事業とフィナンシャル事業が連携し、同じ顧客から複数のサービス収益を得ることを目指している。
スーパーデリバリーは、アパレル、生活雑貨、家具などのメーカー・卸売業者と、小規模な小売店や事業者を結ぶ企業間取引市場だ。年間流通額は約310億円で、国内が約74%、海外が約26%を占める。2026年4月期第4四半期の購入客数は39,089事業者だった。収益は主に流通額に応じたシステム利用料から生じ、会費や出展企業向け基本料も加わる。メーカーにとっては新規販路の開拓費用を抑えられ、買い手には多くの仕入先から商品を選べる利点がある。
Paidは、企業が掛け売りで商品やサービスを販売する際、請求書の発行、与信審査、代金回収を引き受ける。購入側が支払わなくても販売側に代金を支払うため、サービスの本質は決済と信用保証の組み合わせである。2026年4月期のグループ外取扱高は約465億円、グループ内を含む全体の取扱高は約605億円だった。収益は取扱高に応じた保証料であり、単純な請求書作成ソフトの利用料金ではない。
URIHOは、販売先が倒産したり代金を支払わなかったりする際の損失を保証するサービスである。保証残高は2026年4月末に約764億円となった。定額制プランでは、設定された上限の範囲内で複数の取引先を保証できる。2026年には、小規模事業者向けのURIHOminiや、保証を伴わず企業の信用を判定するBizCheckも加わった。保証の対象企業が増えるほど、通常時の収益は増えるが、景気後退期の支払負担も大きくなりうる。
全社で見ると、2026年4月期の営業利益率は約20%だった。ただし、EC事業のセグメント利益約12.7億円、フィナンシャル事業の約8.3億円から、本社費用や内部取引調整など約7.8億円が差し引かれる。事業が拡大しても、営業人員、広告宣伝費、信用審査、システム保守を増やさずに済むわけではない。規模が利益に変わるかどうかは、取扱高の成長だけでなく、顧客獲得費と未回収損失を抑えられるかで決まる。
優良さと弱いところ
最も評価できるのは、Paidを中心とした信用情報と顧客基盤の蓄積である。2026年6月の会社発表によれば、Paidの購入会員は60万社を超え、導入企業は5,500社を突破した。利用継続率99.4%という実績は、取引先の審査、請求、回収の仕組みが顧客の日常業務に深く組み込まれていることを示す。さらに、会社が新サービスに活用する100万社超の支払・事故データは、後発企業が短期間で集めることの難しい資産である。
ただし、継続率の高さを価格決定力と同一視してはいけない。Paidの保証料率には競争による低下圧力があり、会社の中期経営計画も業界の料率が緩やかに下がると説明している。顧客が解約しなくても、取扱高が増えるほど大企業から値下げを求められる可能性がある。ネットワークの広さは強みだが、その利益をどこまで会社に残せるかは別の問いである。
スーパーデリバリーの堀は、売り手と買い手の集積、取引の安全性、海外販売の標準化にある。メーカーが多数の商品を掲載し、小売店がそこから仕入れる構造はネットワーク効果を生む。一方で、メーカーの自社サイトや大手EC基盤、AIによる直接仕入先探索が広がれば、単なる商品検索や発注画面の価値は弱くなる。Paidほど高い乗り換え障壁があるとは判断しない。
URIHOはさらに性質が異なる。信用保証を提供するには、適切な料率、引受審査、回収実務、事故の分散が必要になる。独自データは役立つものの、収益を拡大するためにリスクを取り過ぎれば、数年間の利益が一度の不況で失われかねない。低い貸倒率を維持したまま保証残高を伸ばすことが、質の高い成長の条件だ。
2026年4月期のROEは約19%で、過去10年の中央値を上回る。しかし、利益が自己資本に比べて大きい理由の一部には、自社株買いや積極的な還元によって自己資本が抑えられていることもある。純現金がある一方、自己資本比率は約22%にとどまり、売掛金や保証関連の流動性需要も大きい。グループ全体は堀を持つ普通以上の事業と評価するが、すべての事業が同じ強さで守られているわけではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
企業間取引の電子化には長期の成長余地がある。経済産業省が2026年10月21日に公表した調査では、2025年の国内BtoB電子商取引市場は560.1兆円、EC化率は45.9%だった。ただし、この数字には大企業間の電子データ交換や巨大な製造業取引も含まれる。スーパーデリバリーの対象となる小規模なアパレル・雑貨卸売取引や、Paidの後払い保証市場をそのまま表す数字ではない。市場の大きさだけで同社の成長を保証することはできない。
スーパーデリバリーの競争相手は、NETSEAのような企業間仕入れサイト、大手卸売業者、メーカーの直接販売、各種EC構築サービスである。現在の国内流通額は約228億円にすぎず、広い卸売電子商取引市場に対するシェアは小さい。ただし、同社が本当に狙う小規模小売店向けオンライン仕入れ市場について、信頼できる統一された市場規模や各社シェアは開示されていない。中立では、市場全体の急成長よりも、購入事業者を増やし既存顧客の仕入れ割合を高めることで流通額が拡大すると考える。
Paidの主要競合には、ネットプロテクションズのNP掛け払い、GMOペイメントゲートウェイ系の企業間決済サービス、掛払い.comなどがある。ネットプロテクションズが開示した2026年3月期のBtoB取扱高は約3,439億円で、Paidのグループ外取扱高約465億円を大きく上回る。この二社の開示取扱高だけを比較すれば、Paidは約12%、NP掛け払いは約88%になる。ただし、これは二社間の規模比較であり、市場全体のシェアを示すものではない。Paidが大企業向けで取扱高を伸ばせる余地はあるが、規模の大きい競合と価格競争を避けることは難しい。
URIHOには、企業向け信用保険、売掛債権保証会社、ファクタリング会社、金融機関による与信サービスなどの競争相手がある。国内の売掛保証について同じ定義で集計された市場規模とシェアは確認できず、数字を装って比較することは避ける。会社の保証残高約764億円は契約上のリスク量であり、年間取扱高と混同できない。保証残高の増加と事故率の変化を合わせて見る必要がある。
AIの進歩は、企業間取引の価値を二つに分ける。商品検索、受発注入力、請求書作成、信用調査の文章作成などは、AIエージェントによる代替が進みうる。一方で、代金の移動、支払保証、信用損失の引受け、実際の事故データの蓄積は、AIが判断を助けても経済的な責任を引き受ける主体が必要だ。ラクーンは後者を持つため、一般的な業務ソフト会社より守られている。ただし、AIが取引先を直接結び付ければ、スーパーデリバリーの流通手数料とPaidの請求事務に関する価格決定力は削られる。
資本政策と M&A
経営は2026年6月、アドバンテッジパートナーズとの事業提携を踏まえて中期経営計画を更新した。2029年4月期の目標は売上高103億円、営業利益20億円、営業利益率19.4%、調整後EBITDA24.5億円、ROE25%である。2031年4月期には売上高135億円、営業利益40億円、時価総額500億円という長期ビジョンも掲げた。これらは経営目標であり、実現が確定した価値ではない。
2027年4月期は投資の先行で営業利益が6億円に落ち込む計画だ。新中計の3年間には、広告・販促関連に14億円、共通顧客基盤の構築に2億円、人材・開発関連に4億円を計画している。さらにM&Aなどへの出資に30億円を充てる構想だ。中小企業の顧客基盤を買収先と共有できれば投資効率は高まるが、取得価格が高過ぎれば増分ROICは資本コストを下回る。買収の件数や売上高ではなく、買収後の営業利益と現金収支が評価基準になる。
株主還元については、基本的な連結配当性向45〜50%に加え、2026年4月期から2029年4月期まで累進配当と利益連動型加算配当を導入した。利益が12億円を超え15億円以下の部分には60%、15億円超の部分には70%の配当性向を適用する。自社株買いは機動的に実施する方針だが、中計には固定額の約束はない。株主優待の費用は中計3年間で約4.5億円を見込んでいる。
同社は過去にトラスト&グロースを買収して金融分野を拡張し、その後は家賃保証事業のラクーンレントを連結対象から外すなど事業の入れ替えも行った。近年は自社株買いと増配が進み、株数も減少している。しかし、2025年の資金調達では約20億円の転換社債と約30億円の新株予約権を発行した。最大約775万株の潜在株式に加え、2026年には約145万株のストックオプションも存在する。既存株主は、成長資金の調達による利益と持分の希薄化を両方評価しなければならない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ラクーンが長期にわたって解決する問題は、中小企業が安心して取引できないという構造的な課題である。企業間の電子取引が普及しても、新設企業や小規模事業者に対する信用情報の不足は解消されない。Paidはすでに多くの企業の決済実務に入り込み、2024年度の利用継続率は99.4%に達した。さらに100万社超の支払・事故情報を持つことは、後発の単純な決済ソフトとの大きな違いになる。
スーパーデリバリーの購入事業者はまだ4万社弱であり、国内外に販路を広げたいメーカーと小規模小売店は多数存在する。流通額の増加にPaidの決済が結び付き、そこで得られた取引データがURIHOの保証審査に役立つ。複数のサービスが顧客を共有する構想が定着すれば、顧客の獲得費を抑えながら利用額を増やせるようになる。競争力の源泉が個々の画面から企業間取引の信用基盤へ移ることになる。
中期経営計画では2029年4月期の営業利益20億円を目指し、2031年には40億円を長期目標としている。営業利益率が一定水準に達すれば、売上高の成長が利益の成長を上回る局面も考えられる。広告投資の効果を測定し、顧客ごとの生涯収益を改善できれば、従来の利益水準を大きく超える可能性はある。
AIの普及も、取引基盤を持つ同社にとっては必ずしも不利ではない。与信審査や不正検知の効率化は費用削減につながる。大切なのはAIそのものを売ることではなく、低コストで信用を提供できるようになることだ。資本調達で増える株式数を考慮しても、決済・保証市場でのシェアを高め、営業利益を継続して拡大できれば、現在の時価総額を大きく上回る企業価値は十分にありうる。
慎重な見方
ラクーンの成長には、見た目以上のリスクがある。信用保証の売上は、引受リスクを増やせば一時的に伸ばせる。しかし、景気が悪化して企業倒産が増えれば、保証履行と求償債権の回収不能が同時に発生する。通常時の低い貸倒率が将来の損失を保証するものではない。資本の薄い企業が保証残高を大きく増やすことには慎重であるべきだ。
競争相手も強い。NP掛け払いは、すでにPaidを大幅に上回る取扱高を持つ。決済の仕組みは法人向け会計ソフトや受発注サービスに組み込まれ、大企業ほど手数料の引き下げを求めやすい。AIエージェントが請求処理や信用調査を自動化すれば、事務代行の部分に対して顧客が払う価値は小さくなる。取扱高を増やしても料率が下がれば、営業利益が思うほど増えない可能性がある。
スーパーデリバリーも、ネットワーク効果が強い独占市場ではない。メーカーは自社ECや他社の卸売サイトを利用できる。AIが買い手の調達先を直接探すようになれば、サイト内の検索や商品紹介の価値は低下する。国内の小規模小売店が人口減少とともに減るなかで、新規顧客の獲得だけで高い成長を続けるには相当の投資が必要になる。
資本政策にも警戒すべき点がある。2025年に発行した転換社債と新株予約権は、すべて株式化すれば現在の株主の持分を大きく薄める。調達した資金を高い利回りで運用できれば問題は小さいが、広告費や高値のM&Aに使えば、新株を受け取る投資家のために既存株主が負担する構図になる。2027年4月期の営業利益予想は6億円と大幅な減益であり、先行投資が十分な回収を生むことはまだ証明されていない。こうした不確実性を考えると、現在の価格に厚い安全域があるとは言えない。
どちらに重みを置いたか
Paidの継続率と独自の与信データは高く評価する。一方で、保証損失の非対称性、競合との規模格差、潜在株式の大きさを考えると、慎重な見方の論点を無視できない。確率は上側27%、下側42%とした。下に寄せる理由は、2027年の投資回収が未確認であること、最大約775万株の資金調達関連潜在株式があること、保証事業の損失が不況時に集中しうることだ。AI代替による事務収益の縮小は数量・価格と長期成長率に反映し、確率や資本コストで同じ理由を重ねて引いていない。現在の価値は時価総額をわずかに上回るが、誤差を十分に吸収できるほどの差ではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 949 円184 億円(+ 還元の換算額還元の合計 307 円60 億円)。 今の値に割り戻すと 688 円133 億円、今との差 +7.7%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,097 円600 億円 | 708 円137 億円 | +495.5% | +23.1% | 304 円59 億円 |
| やや楽観 | 19% | 1,845 円358 億円 | 506 円98 億円 | +267.9% | +16.4% | 447 円87 億円 |
| 中立 | 31% | 1,012 円196 億円 | 283 円55 億円 | +102.8% | +8.4% | 402 円78 億円 |
| やや悲観 | 25% | 109 円21 億円 | 204 円40 億円 | −51.0% | −9.6% | 78 円15 億円 |
| 悲観 | 17% | 56 円11 億円 | 93 円18 億円 | −76.6% | −17.7% | 25 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 949 円184 億円 | 307 円60 億円 | +96.6% | +8.2% | 1,256 円244 億円 |
今の株価時価総額 639 円124 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 企業間信用基盤が定着し、国内外で高成長 利益 57 億円 · PER 16.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,097 円600 億円
スーパーデリバリーが国内の小規模小売店だけでなく、海外バイヤーの仕入れ基盤として定着する。購入事業者の拡大と一社当たりの仕入れ量増加によって、実質流通額は現在の3倍以上となる。メーカーはサイトを新規販売だけでなく既存顧客の受発注にも使うようになり、販路と信用情報が同じ基盤に集まる。
Paidは大企業向けへの浸透に成功し、グループ外の実質取扱高が2,000億円まで増える。競争で保証料率は若干低下するが、取扱高の拡大がそれを補う。URIHOも新規企業と既存顧客の保証範囲を拡大し、保証残高は実質2,100億円となる。信用事故は拡大した取引規模に対して適切に抑えられる。
アドバンテッジパートナーズとの連携による営業管理とM&Aが成功し、買収したサービスも既存顧客への追加販売に結び付く。広告費は売上高ほど増えず、全社営業利益率は30%を超える。AIは事務効率を高める一方、決済と保証の信用基盤を破壊しない。潜在株式はすべて交付されるが、それを上回る企業価値の増加が生まれる。2031年に会社が掲げる長期目標を達成し、その後も成長を続ける最上位の筋書きとなる。
- スーパーデリバリー(国内・海外):数量 1,000(2026年4月期の取引単価に固定した年間流通額(億円、実質GMV))× 価格 0.17(実質流通額1億円当たりの名目売上高(億円。取引手数料、会費等を含む))→ 売上 171 億円・営業利益 60 億円。実質GMV1,000億円、名目収益率0.1708。物価上昇後も実効テイクレート約12.7%を維持し、営業利益率35%。
- Paid(企業間後払い決済):数量 2,000(2026年4月期の取引単価で測ったグループ外年間取扱高(億円、実質))× 価格 0.03(実質外部取扱高1億円当たりの名目決済・保証料収益(億円))→ 売上 61 億円・営業利益 24 億円。実質外部取扱高2,000億円。物価調整後の実効料率は約2.27%で、現在よりわずかに低い。
- URIHO(売掛保証・与信サービス):数量 2,100(2026年4月期末の取引単価に固定した保証残高(億円、実質))× 価格 0.03(実質保証残高1億円当たりの年間名目収益換算額(億円))→ 売上 58 億円・営業利益 20 億円。実質保証残高2,100億円。信用事故を抑えたまま収益を拡大し、営業利益率34%。
倍率:資本コストk7.25%、10年後ROE約35.5%。moatはnormalで超過収益の残る割合1/2、RONIC=7.25%+0.5×(35.5%−7.25%)=約21.4%。g_longは名目1.5%。正当化PER=(1−0.015÷0.214)÷(0.0725−0.015)=約16.17倍。現在や過去の市場PERは使わない。
確率:取引市場、決済、保証が同時に高成長し、資金調達とM&Aまで高い投資効率を維持する必要がある。顧客基盤とデータの強みは認めるが、複数の施策が連続して成功する確率は高くない。
やや楽観 19% 決済と保証が主力となり収益が大きく拡大 利益 34 億円 · PER 15.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,845 円358 億円
スーパーデリバリーでは、2029年に会社が計画する購入事業者数の増加が実現し、その後も国内外の販路開拓が進む。買い手の仕入れ先をまとめ、少量多品種の商品を購入できる利便性が支持される。実質流通額は850億円まで拡大するが、競合サイトやメーカー直接販売による手数料圧力は残る。
Paidは企業間決済の普及と大企業向け営業の強化によって外部取扱高を増やす。取引先の審査・回収に関する独自データを使い、与信事故を抑えながら成長する。URIHOは定額保証の契約企業を増やし、保証残高を実質1,600億円まで伸ばす。保証料率はやや低下するが、契約数と利用範囲の拡大が補う。
M&Aには成功と失敗が混在するものの、既存のサービス基盤を壊すほどの損失は生じない。2027年の先行投資が回収され、広告投資の効率も改善する。AIエージェントによる請求事務の自動化は進むが、実際の決済・保証部分は利用され続ける。営業利益率は現在を超える水準に高まり、株式希薄化後でも現在の株主に相応の価値が残る。
- スーパーデリバリー(国内・海外):数量 850(2026年4月期の取引単価に固定した年間流通額(億円、実質GMV))× 価格 0.15(実質流通額1億円当たりの名目売上高(億円。取引手数料、会費等を含む))→ 売上 129 億円・営業利益 39 億円。実質GMV850億円、実効手数料率は競争でやや低下。営業利益率30%。
- Paid(企業間後払い決済):数量 1,500(2026年4月期の取引単価で測ったグループ外年間取扱高(億円、実質))× 価格 0.03(実質外部取扱高1億円当たりの名目決済・保証料収益(億円))→ 売上 43 億円・営業利益 15 億円。実質外部取扱高1,500億円。大企業向け営業の成功で数量が伸びる。
- URIHO(売掛保証・与信サービス):数量 1,600(2026年4月期末の取引単価に固定した保証残高(億円、実質))× 価格 0.03(実質保証残高1億円当たりの年間名目収益換算額(億円))→ 売上 41 億円・営業利益 13 億円。実質保証残高1,600億円。定額保証を中心に収益拡大。
倍率:10年後ROE約27.5%、k7.25%。普通の堀の残存割合1/2からRONICは約17.4%。g_long1.5%を用いると正当化PERは約15.89倍となる。成長期の高い利益率を10年より先にも維持すると仮定せず、増分資本の収益力が資本コストへ近づく前提を含めている。
確率:2029年の会社計画をおおむね達成した後も、既存取引先の利用拡大が続く場合に相当する。信用基盤の競争力から実現性はあるが、利益率の維持を条件とする。
中立 31% 取引基盤は成長するが、手数料と保証利幅は緩やかに縮む 利益 19 億円 · PER 15.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,012 円196 億円
スーパーデリバリーの購入企業数は増加するが、国内の小規模小売店市場自体は大きく伸びない。メーカーの直接販売や他の卸売サイトも残り、売り手にとっての選択肢は複数ある。それでも、国内外の小口取引を標準化し、仕入れ先を探す手間と信用不安を減らす役割は続く。実質流通額は680億円に拡大する一方、実効手数料率は徐々に下がる。
Paidでは大企業向けの導入が進み、外部取扱高が実質1,100億円となる。競合との規模格差は残るが、長年の取引データと利用継続率が顧客離れを抑える。請求事務の価値はAIによって低下するものの、信用リスクの引受けと実際の回収業務は残る。URIHOも契約者数と保証残高を伸ばすが、信用保証の価格競争と通常時の履行損失を考慮すると、利益率は急激には改善しない。
2027年の大幅減益の後、広告投資の効果が徐々に現れ、2029年の中計目標に近い収益力を回復する。その後の成長は穏やかになり、2036年の売上高は約158億円、営業利益は約31億円となる。M&Aによる大きな超過利益は想定せず、信用基盤の強みが維持される範囲で拡大する。潜在株式が交付されるため、会社全体の利益が増えても、現在の株主が受け取る価値には明確な制約がある。
- スーパーデリバリー(国内・海外):数量 680(2026年4月期の取引単価に固定した年間流通額(億円、実質GMV))× 価格 0.15(実質流通額1億円当たりの名目売上高(億円。取引手数料、会費等を含む))→ 売上 100 億円・営業利益 25 億円。実質GMV680億円。名目GMVは物価1.34倍で約911億円、総合実効収益率は約11%。固定会費等はAI代替・無料化で約4.24億円から約3.73億円へ縮小。
- Paid(企業間後払い決済):数量 1,100(2026年4月期の取引単価で測ったグループ外年間取扱高(億円、実質))× 価格 0.03(実質外部取扱高1億円当たりの名目決済・保証料収益(億円))→ 売上 29 億円・営業利益 8 億円。実質外部取扱高1,100億円。CPI上昇後の実効保証料率は約1.97%となり、現在の約2.39%から低下する。
- URIHO(売掛保証・与信サービス):数量 1,250(2026年4月期末の取引単価に固定した保証残高(億円、実質))× 価格 0.02(実質保証残高1億円当たりの年間名目収益換算額(億円))→ 売上 29 億円・営業利益 8 億円。実質保証残高1,250億円。保証残高は増えるが、価格競争と履行損失によって収益拡大は数量を下回る。
倍率:10年後のROEは19.44%、kは7.25%。普通の堀の残存割合1/2により、RONIC=7.25%+0.5×(19.44%−7.25%)=約13.35%。長期gは名目1.5%で、正当化PER=(1−0.015÷0.1335)÷(0.0725−0.015)=15.44倍。ROEの高さをそのまま将来の利益成長率にはしていない。現在の市場評価を参照せず、利益・資本効率・長期成長率だけで計算した。
確率:会社の2029年計画が一部実現した後、成長率が成熟企業の水準へ鈍化する中心ケース。下に寄せる理由:保証損失と大幅な潜在希薄化があり、計画達成だけでは現在の株主の価値増加が確定しないため、下側を上側より厚くした。
やや悲観 25% 顧客は残るが、競争と信用コストで収益性が落ちる 利益 2 億円 · PER 13.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 109 円21 億円
国内の小売事業者数が減少し、スーパーデリバリーの新規顧客獲得が伸び悩む。既存顧客の取引は続くものの、メーカーの直販と他の仕入れサイトへの分散が進み、実効手数料率も下がる。AIによる仕入先探索や受発注の自動化が進むため、従来の操作画面に対する課金も細る。実質流通額は現在をやや上回る程度にとどまる。
Paidは加盟企業を維持するが、競合の価格攻勢で新規大口顧客の獲得が難しくなる。保証料率の下落と審査費用の増加によって利益率が下がる。URIHOも保証残高を増やすものの、取引先企業の倒産が増え、保証履行費用が収益を圧迫する。信用情報の優位性は完全には失われないが、その利益を十分に確保できない。
成長投資は当初の計画より長引き、M&Aで買収したサービスの相互利用も限定的となる。本社のシステム開発費と人件費は簡単には削減できず、連結営業利益は大きく縮む。配当や株主優待は初期に継続されるが、その後の自社株買いは縮小する。転換社債などの一部は株式化し、既存株主の持分も低下する。会社自体は存続するが、優良な成長企業としての収益性を失う筋書きである。
- スーパーデリバリー(国内・海外):数量 370(2026年4月期の取引単価に固定した年間流通額(億円、実質GMV))× 価格 0.12(実質流通額1億円当たりの名目売上高(億円。取引手数料、会費等を含む))→ 売上 45 億円・営業利益 8 億円。実質GMV370億円。販売手数料率と固定課金が低下する。
- Paid(企業間後払い決済):数量 600(2026年4月期の取引単価で測ったグループ外年間取扱高(億円、実質))× 価格 0.02(実質外部取扱高1億円当たりの名目決済・保証料収益(億円))→ 売上 14 億円・営業利益 3 億円。実質外部取扱高600億円。大口顧客の料率引き下げと信用費用が重なる。
- URIHO(売掛保証・与信サービス):数量 850(2026年4月期末の取引単価に固定した保証残高(億円、実質))× 価格 0.02(実質保証残高1億円当たりの年間名目収益換算額(億円))→ 売上 17 億円・営業利益 3 億円。実質保証残高850億円。保証事故率上昇で営業利益率18%。
倍率:ROEは約3.5%でk7.25%を下回る。したがって正当化PERの上限は1÷k=約13.79倍であり、再投資による超過価値を認めない。残存する稼ぐ力を13.2倍で評価する。悲観側の税後換金可能資産は約22億円を上限検証用の参考とし、時価総額25.74億円は稼ぐ力から算出した。
確率:決済・保証の需要が消えるわけではないが、顧客獲得費、料率低下、信用事故が重なって利益を圧迫する可能性を考慮。会社固有の投資回収リスクを反映した。
悲観 17% 信用事故と競争激化で収益構造が崩れる 利益 −6 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 56 円11 億円
国内の小規模小売店が減少し、メーカーは自社ECや他の卸売プラットフォームで取引するようになる。AIエージェントが直接仕入れ先を探し、受発注を自動化するため、スーパーデリバリーを経由する理由が弱くなる。価格競争により手数料も低下し、年間の実質流通額は220億円まで縮小する。取引市場としてのネットワーク効果は以前の強さを失う。
Paidでは競合による大企業向けの価格攻勢が続き、取扱高が伸びない。さらに景気後退で購入企業の支払遅延と貸倒れが増加する。保証履行の増加は利益を直接圧迫する。URIHOでも複数業種の倒産が重なり、保証料収益では損失を賄えなくなる。過去に蓄積した信用データは残るものの、引受けの失敗を防ぐには不十分だったことが明らかになる。
成長投資は回収されず、不採算サービスの整理や事業縮小を迫られる。広告費と人員を減らしても、信用事故への対応費用やシステム維持費が残り、連結営業赤字が続く。M&Aで取得した無形資産にも減損が発生し、自己資本は大幅に減少する。資金調達関連の新株予約権は行使されず、転換社債は償還される。初期の配当や優待の後は還元が停止する。10年後の企業価値は将来の成長ではなく、残る現金と換金可能な資産に依存する。
- スーパーデリバリー(国内・海外):数量 220(2026年4月期の取引単価に固定した年間流通額(億円、実質GMV))× 価格 0.09(実質流通額1億円当たりの名目売上高(億円。取引手数料、会費等を含む))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。実質GMV220億円。AIによる直結取引とサイト間競争で実効料率が大幅低下。
- Paid(企業間後払い決済):数量 300(2026年4月期の取引単価で測ったグループ外年間取扱高(億円、実質))× 価格 0.02(実質外部取扱高1億円当たりの名目決済・保証料収益(億円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。実質外部取扱高300億円。料率低下と不良債権関連費用による赤字。
- URIHO(売掛保証・与信サービス):数量 400(2026年4月期末の取引単価に固定した保証残高(億円、実質))× 価格 0.02(実質保証残高1億円当たりの年間名目収益換算額(億円))→ 売上 6 億円・営業利益 −1 億円。実質保証残高400億円。引受縮小と保証履行費用の高止まりで赤字。
倍率:継続的な営業赤字となるためPERによる永続利益価値は使用しない。過去のPBRの底も根拠にしない。現在の自己資本約41.9億円を基準に、純現金、処分可能な有価証券と不動産から追加損失・現金流出を控除した税後資産回収価値約11.5億円を評価する。現在自己資本に対する倍率は約0.2745倍。10年後の積み上がった自己資本には掛けない。
確率:保証事業の信用損失とEC市場の競争劣位が長期化する構造的な負け筋。現在のデータ資産がすべて無価値になるとは見ないが、利益を失った企業として資産回収価値が中心になる可能性を無視しない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
スーパーデリバリー(国内・海外)
メーカー・卸売業者と小売店などを結ぶ企業間卸売EC。流通額に応じたシステム利用料、購入会員の会費、出展企業の基本料などから収益を得る。
| 数量2026年4月期の取引単価に固定した年間流通額(億円、実質GMV) | 価格実質流通額1億円当たりの名目売上高(億円。取引手数料、会費等を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 310 | 0.13 | 39 | 13 |
| 10 年後 中立 | 680 | 0.15 | 100 | 25 |
取り方:2026年4月期有報の年間GMV309.86292億円、EC売上38.99926億円を使用。国内GMV228.24億円、海外81.61億円。売上のうち変動システム利用料は34.762億円、会費1.737億円、出展企業基本料2.207億円、その他0.293億円。今の実効収益率12.586%は固定収益込みで、純粋な取引手数料率ではない。Q4購入客数39,089事業者と2029年計画60,588事業者を数量の別の根拠にした。10年後のvolumeは物価を除いた取引量で、priceにCPIと手数料率変化を含める。AIエージェント代替の対象となる操作画面・会員課金部分については、中立で実質有料利用数量0.80倍、会費単価1.10倍とし、現状の固定収益約4.24億円が約3.73億円になる想定を総合収益率に織り込んだ。商品売買と決済は席課金ソフトとは異なるため、EC全体に席課金の縮小率を掛けない。出典:https://www.raccoon.ne.jp/img/ir/pdf/mid-term_management_plan_27_29.pdf
Paid(企業間後払い決済)
掛け売りの与信審査、請求、回収、未払い保証を一括提供し、取扱高に応じた保証料を得る企業間決済基盤。
| 数量2026年4月期の取引単価で測ったグループ外年間取扱高(億円、実質) | 価格実質外部取扱高1億円当たりの名目決済・保証料収益(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 465 | 0.02 | 11 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1,100 | 0.03 | 29 | 8 |
取り方:2026年4月期の外部取扱高465.05982億円、Paid売上11.10435億円から実効収益率2.388%を算出。グループ内取引139.713億円はスーパーデリバリーとの二重計上を避けるため数量から除外した。Paidの個別営業利益は未開示なので、フィナンシャル事業の利益8.325億円をPaidとURIHOの対外売上比率で推定配賦した。2029年の会社計画は外部取扱高878.18億円、売上21.12億円。2026年6月公表の利用継続率99.4%と100万社超の取引・事故データが堀の証拠。請求事務はAI代替されうるが、人月料金ではなく取扱高と保証リスクで収益を得るため、金融取引の正本型として扱う。中立の実効名目単価は現在の1.11倍にとどめ、CPI上昇を下回る手数料圧縮を反映した。出典:https://www.raccoon.ne.jp/news/press/2026/49678680653
URIHO(売掛保証・与信サービス)
企業の売掛債権の未回収リスクを保証する。定額型の保証契約が中心となり、信用調査サービスや小規模向けプランにも展開している。
| 数量2026年4月期末の取引単価に固定した保証残高(億円、実質) | 価格実質保証残高1億円当たりの年間名目収益換算額(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 764 | 0.02 | 16 | 5 |
| 10 年後 中立 | 1,250 | 0.02 | 29 | 8 |
取り方:2026年4月期末の保証残高764.34205億円とURIHO売上15.63903億円から、期末保証残高に対する年間収益換算率2.046%を求めた。保証残高は期末時点のストック、収益は年間のフローであり、この値は契約上の保証料率そのものではない。サブスク売上約9.33億円、2026年の単月課金顧客数1,712社、2029年計画3,158社を補助指標とした。個別営業利益は未開示のため、金融事業の残りを売上比率で配賦。AI代替で信用調査の単純な情報提供は価格圧力を受ける一方、保証金を実際に支払う責任は代替されない。中立は保証残高の実質拡大と料率低下を組み合わせた。出典:https://www.raccoon.ne.jp/img/ir/pdf/mid-term_management_plan_27_29.pdf
リスクと懸念
売掛保証の事故率と資金繰り
Paidは販売側への代金支払いを保証し、URIHOは未回収損失を引き受ける。通常時に低い事故率を維持していても、景気後退で中小企業の倒産が連鎖すれば、保証履行費用と回収不能額が同時に増える。保証残高の増加だけで成長を評価せず、保証履行額、求償債権、貸倒引当金、利用可能な流動性を合わせて確認する必要がある。
AIエージェント代替と手数料率の低下
AIが商品の探索、発注、請求書作成、信用調査を直接実行すれば、操作画面や事務処理の提供価値は下がる。スーパーデリバリーの会費・検索機能、Paidの請求事務、BizCheckの情報提供は価格競争を受けうる。一方、実際の資金移動と保証責任まで消えるわけではないため、全社売上が同じ割合で消滅するとは見ない。数量・価格と長期成長率で影響を評価する。
転換社債と新株予約権による潜在希薄化
2025年に発行した転換社債と新株予約権は、完全行使・転換時に約775万株の新株が交付される可能性がある。別途ストックオプション約145万株も存在する。現在の株主は、企業全体の利益が成長しても、一株当たりの取り分が低下する可能性を負う。調達資金が高い増分ROICを生まなければ、株主価値の増加を希薄化が相殺する。
競合の規模と価格競争
NP掛け払いはPaidを上回る企業間決済取扱高を持つ。大企業向けの取扱高を獲得するには、より低い手数料や高度なシステム連携を求められる可能性がある。スーパーデリバリーにもNETSEAやメーカー直販という代替手段が存在する。顧客が増えていても、実効手数料率が下がる速度が速ければ、売上と営業利益の成長は見かけより弱くなる。
M&Aと広告投資の回収不確実性
新中計ではM&A等出資30億円と広告・販促関連14億円を計画している。広告による新規獲得は短期指標を改善しやすいが、顧客が継続して利用しなければ投資を回収できない。買収対象が既存顧客に追加販売できる事業であっても、買収価格と統合費用を含めた投下資本利益率が資本コストを下回れば、企業規模だけが大きくなって株主価値は損なわれる。
越境取引と国内小売事業者の減少
海外流通額はスーパーデリバリーの重要な成長源だが、為替を固定しても、関税、通関、物流費、貿易摩擦、現地競合の影響は受ける。国内では人口減少に加え、小規模な小売店の閉店や大手チェーンへの集約が進む。取引先数そのものが伸びにくい市場で成長を維持するには、顧客当たりの利用額を増やすか、新たな市場でシェアを取る必要がある。
利益に見合わない株主還元
累進配当、利益連動型加算配当、株主優待、自社株買いは株主にとって魅力がある。一方で、先行投資による減益期や信用事故の増加局面では、保証資金の確保と株主還元が競合する。特に株主優待は全株主への経済的な利益ではあっても、長期の収益力を直接高めるものではない。還元の総額が継続可能な自由現金収支を超えていないかを確認する。
今後の分かれ目
- 2029年4月期に売上高103億円、営業利益20億円、ROE25%の目標が概ね達成されたら
- 中立からやや楽観の実現可能性が高まる。ただし、広告費の削減や一時的な信用費用の低下だけによる達成でないこと、潜在株式の行使後にも増分利益が残ることを確認する。
- Paidの外部取扱高が2029年計画の878億円を超え、実効保証料率も維持されたら
- 企業間決済の競争力を上方修正する。特に大企業向け利用の拡大が、顧客数だけでなく一社当たりの利益増加に結び付いていれば、やや楽観側の重みを増やす。
- URIHOの保証残高が増える一方、保証履行額と貸倒引当金が急増したら
- 成長の質が悪化していると判断し、やや悲観・悲観の確率を引き上げる。引受リスクを高めて売上を増やしただけなら、利益率と資本効率の前提を下方修正する。
- 新株予約権と転換社債の大部分が行使・転換され、調達資金を使った投資の収益率が確認されたら
- 実際の増加株数と取得資金、買収後利益を用いて既存株主の取り分を再計算する。希薄化を伴っても増分ROICが資本コストを十分に上回れば、企業価値の上方修正余地がある。
- スーパーデリバリーの購入客数が増えてもGMVと実効テイクレートが伸びなくなったら
- 会員獲得の成長と実際の収益成長が乖離していると判断する。AIによる直接調達や競合サイトへの流出が進んでいる可能性を検証し、EC事業の長期数量と価格を下方修正する。
- BizCheckやSDダイレクトが既存の決済・保証を利用する新規顧客を増やし、継続率も改善したら
- 単なるAI関連サービスの売上ではなく、既存の信用基盤への送客効果として評価する。新サービス単体の利益だけでなく、Paidの取扱高とURIHOの契約者数が増加したかを確認する。
見ておくもの
- スーパーデリバリーの四半期購入客数、国内・海外GMV、購入客単価
- スーパーデリバリーの変動システム利用料と実効テイクレート
- Paidのグループ外取扱高、導入企業数、加盟企業単価、利用継続率
- URIHOのサブスク単月課金顧客数、保証残高、保証履行額、貸倒引当金
- 2029年4月期中計の売上高103億円・営業利益20億円の達成状況
- 広告投資の顧客獲得単価と顧客当たり生涯収益
- M&Aの取得価額、取得後の利益、のれん・無形資産、投下資本利益率
- 転換社債・新株予約権・従業員ストックオプションの行使状況
- 配当、自社株買い、株主優待コスト、実質的な総還元性向
- SDダイレクト、URIHOmini、BizCheckの有料化・送客実績
- 企業倒産件数、未回収債権、与信審査の精度
- NP掛け払いなど競合のBtoB取扱高と保証料率
倍率と資本コストの決め方
基準時価総額約129.7億円を出発点として将来利益を逆算していない。スーパーデリバリーは実質GMVと名目収益率、Paidはグループ外実質取扱高と保証料収益率、URIHOは実質保証残高と収益換算率を分け、それぞれから営業利益を算出した。本社費用は物価3%の前提を踏まえて増加させた。純利益は過去の純利益÷営業利益の中央値約0.62を基準とする。
正当化PERは資本コスト7.25%、通常の堀の残存割合1/2、長期名目成長率1.5%から計算し、現在の市場PER・過去のPBRを使用していない。悲観は企業が構造的に赤字化するため、現時点の純現金と処分可能資産から将来の損失を控除した価値を使用した。潜在株式は企業全体の時価総額や利益を手で減額せず、現在の株主の取り分として最後に別計算する。財務上の純現金は決済・保証事業の流動性需要と成長投資計画を考慮し、余剰現金として重複計上しない。
新リース会計基準の適用に伴い、将来の使用権資産やリース負債の表示が変わっても、期間の比較では賃借料を営業費用に含めた経済的な実態で揃える。株主優待の費用相当額も期間還元に含める。確率8%、19%、31%、25%、17%による10年後の時価総額と累積還元を資本コストで現在価値に戻すと、概算の確率加重価値は約133億円となる。基準時価総額との差は約+3%で、判定は適正。数字の精度を超える割安判断はしない。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%、株式リスクプレミアム4.5%の基本7.5%から、事業品質の合計−0.25ポイントを調整した。与信事故、M&A、潜在希薄化は利益の筋書き・確率・既存株主の取り分に反映し、追加の資本コストは課していない。