結論
MITホールディングスは、公共・金融・通信・エネルギーなどの基幹システムを開発する独立系IT企業である。長期株主の目では、仕事そのものは残っても請求できる人月が減る危険が大きく、今の時価総額約21億円は割高と判断する。2025年11月期の売上51.2億円の約86%を受託開発・運用が占める。大手顧客との長い取引は受注の土台だが、顧客に代わってシステムの記録を独占する立場にはない。
会社は2030年に売上100億円、営業利益率10%を目指す。しかし、その前段の2025年目標さえ、売上60億円に対して実績51.2億円、営業利益3億円に対して1.69億円と届かなかった。さらに2026年10月、技術者不足や案件延期を受け、2026年11月期売上予想を57億円から49.56億円へ引き下げた。国内IT投資の拡大を、そのまま小規模SI企業の取り分の増加とみなしてはいけない。
自社製品WisebookとDynaCADには長年の顧客と継続収入があるが、全社の収益を支えるにはまだ小さい。AIエージェントが開発工程、図面作成、画面操作を代行する10年間では、生き残るための製品改良費もかかる。悲観に偏らせた確率を通すと、配当と優待を含めた現在価値は概ね10億円前後にとどまり、今の評価に十分な安全域は見当たらない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主は、社名よりも「何を独占的に提供できるか」を見る。MITには生活や産業を支える基幹システムの実務経験があるが、受注の多くは技術者の時間と顧客との関係によって決まる。顧客がAIを使って開発の要件整理や試験を内製化すれば、既存システムが稼働し続けても請求できる人月は細る。仕事がなくならないことと、株主の利益が保たれることは別の話である。
DynaCADの互換性やWisebookの既存契約は、この中で守りの候補となる。だが、製品が値上げしても解約されない実績や、顧客の記録を移すには年単位の作業が必要という証拠を確認できない。2025年に主力SIで収益の大半を生み、DXの自社製品の比率がまだ一割台という事実を重く見る。新製品を生かした長期の再投資利回りが資本コストを超えるかも、現時点では立証できない。
純現金が生じたことは評価するが、これは給与や外注費を払うための運転資金と切り離せない。余剰のすべてを株主のものとして二重に数えてはいけない。配当性向の約束、近年の増配、優待は株主への配慮を示す一方、薄い営業利益率の下で配当を固定し続けることにも限界がある。中立の収益力と保守的な終価に対して現在の値段には余白が小さく、経営陣の製品転換が数字で実証されるまでは高い評価を正当化しにくい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は株式会社システムイオと株式会社エーピーエスが担うシステムインテグレーションである。大手メーカーや大手SI企業を経由し、公共、保険・証券、通信、電力、運輸・物流の設計・開発・試験・運用保守を引き受ける。2025年11月期の実績は6,534人月、売上43.78億円で、平均すると一人月当たり約67万円の仕事である。開発工数を顧客に請求する割合が高いため、人員を増やせば必ず利益が増えるわけではない。
残るDXソリューションは、企業資料を電子化して制作・配信するWisebook、土木・建築向けDynaCADと図面作成サービス、学校ICT支援や食事予約のThe Mealなどのクラウド事業である。2025年11月期の売上は順に約1.43億円、3.86億円、2.10億円だった。Wisebookの月額・年額契約やDynaCADの保守は積み上がるが、専用サーバーの個別開発や学校向け入札は年度によって振れる。図面DXの売上には、操作ソフトのライセンスと人手の製図が混在する。
連結では情報サービス事業という単一の報告セグメントであり、各製品の営業利益は公表されていない。したがって以下の売上区分は有報の内訳を使い、営業利益だけは推定配賦としている。2026年の第3四半期累計でもSIが85.1%、DXが14.9%を占め、経営が掲げる「製品中心への転換」はまだ事業全体を変えるほど進んでいない。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、35年以上にわたり社会インフラ系の案件を受けてきたことだ。電力や金融の現行システムを知らない新参企業には、仕様の理解と運用上の信頼を得るまで時間がかかる。2025年の会社資料では大手メーカー・上場企業からの受注が約76%とされ、既存取引の継続性は一定の価値を持つ。ただし、大口顧客の購買部門や元請け企業が価格を決めやすく、仕様変更を自社だけで決められるほどの堀ではない。
Wisebookは文書の制作・配信・解析を、DynaCADは図面互換性と自治体向けの利用実績を強みにする。会社は過去の計画資料でDynaCADの累計12万超のライセンス導入を掲げており、完全な新規参入には導入実績の差がある。しかし現役利用率、年間解約率、値上げ後の継続率は確認できない。「記録の正本」として扱うのに必要な低解約率、規制対応の移行負担、共同利用の基盤などの証拠が二つそろわないため、強い堀とは見なさない。
財務は改善した。2025年には純有利子負債が小幅なマイナスへ転じ、2026年8月末も現預金約8.2億円に対して有利子負債約7.0億円である。一方、自己資本は7億円台と厚くなく、利益率は長年1~4%台を行き来した。増分利益が資本コストを十分上回るかは、製品の販売単価よりも、元請けからの受注単価、技術者の稼働、外注費、開発費を引いた後で判定する必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場全体の追い風と、会社の単価・工数の追い風は違う。IDCの国内ITサービス市場は2025年約7.57兆円、2030年約10.25兆円の見通しであり、老朽基幹システムの刷新やクラウド移行は続く。MITの2025年SI売上43.78億円をその市場と単純比較すると約0.058%で、規模はごく小さい。TISの2026年3月期売上は約5,965億円で、国内市場に対する単純比は約7.9%だが、海外・周辺事業を含むため厳密な国内シェアではない。NTTデータ、TIS、BIPROGY、大手メーカー系SIに対し、MITは社会インフラの二次受託と小回りで戦う。
国内IT支出の名目増加には、賃金と単価の上昇も含まれている。AIエージェントが設計、コード生成、試験、保守の一部をこなせば、同じ顧客案件を少ない人月で納められる。成果報酬型への移行を示す金額開示は確認できないため、IT市場の高成長率をMITの人月数量に転写しない。中立では人月が減り、価格は賃金上昇の一部を転嫁するにとどまる。社会インフラの難しい現場調整は残るが、一般的な開発工数の減少を打ち消すほどのシェア拡大は証明されていない。
製品側にも成長市場と激しい競争が同居する。広義の国内CAD/EDA市場は2025年度推計約2,436億円で、MITの図面DX売上はその約0.16%相当だが、分子には製図役務、分母には半導体EDAも含まれるため市場シェアではない。Autodesk系や国産CADとの互換性競争が続く。学校ICT支援は全国約3万校に年間100万円ずつの保守を仮定して約300億円の市場となるが、クラウド事業の全売上2.10億円を学校向けとみなしても0.7%ほどで、実際は食堂予約等を含むためさらに小さい。Wisebookはebook5、ActiBook、meclibなどと競い、電子カタログ制作・配信の狭義市場を仮に年40~80億円と見れば、同社売上は約2~4%相当である。ただし市場の独立統計が乏しく、双方とも推計以上の確実性はない。
資本政策と M&A
2023年公表の中期経営計画は2025年11月期に売上60億円、営業利益3億円、ROE15%以上、DX売上比率20%を掲げたが、実績は売上51.2億円、営業利益1.69億円、DX比率14.4%で未達となった。長期目標の2030年売上100億円、営業利益率10%、DX比率30%以上は引き続き掲げられているが、達成を前提に価値を付けられる段階ではない。
還元方針は連結配当性向30%以上という数字の約束がある。2025年は普通配当と記念配当を合わせて年間約0.6億円、2026年も普通配当として同水準を予定する。300株以上を対象とする5,000円分のQUOカード優待もあり、対象者を仮に800人程度と見れば年間約0.04億円の株主還元となる。実際の対象人数が不明なため費用は概算であり、10年間の還元には各筋書きに応じて減額して織り込んだ。
買収では2022年のエーピーエス、2023年のネットウィンクス加入で技術者や図面制作を補い、2024年末にはNetValueをシステムイオに統合した。2026年8月末にはのれんと顧客関連資産の簿価が計約0.85億円残る。財務は改善したものの買収後の全社利益率が安定して高まった証拠は弱く、追加買収は資本効率を慎重に検証する必要がある。株主構成と過去の配当・自社株買い実績から、将来余る現金が株主に戻る割合は0.75とする。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
企業がシステムを捨てるわけではない。特に電力、金融、自治体では停止できない基幹システムが多く、契約の更新と環境の移行に専門技術者が欠かせない。MITは1990年以来の顧客案件のノウハウを持ち、2026年の業績悪化も案件の延期と要員不足という一時的要因が中心である。上流工程の案件を増やし、技術者単価が上がれば、AIによる作業短縮を収益率の改善に転換できる。現に会社は2026年の第3四半期説明で技術者単価の上昇と粗利率の改善を報告している。
さらにDXの三領域には育てる価値がある。Wisebookは企業内の文書配信や教育教材、DynaCADは自治体の土木図面と三次元化、The Mealは学校や食堂の運用現場に接点を持つ。図面の互換性と導入済み資産は、汎用AIにはすぐに代替されない部分もある。足場図面の受注、学校ICT入札の獲得、食事予約サービスの導入実績は、顧客との結びつきの存在を示す。製品改良と小規模買収が的確なら、事業の割合は自社製品へ緩やかに移る。
こうした取り組みで固定費の伸びを抑えれば、売上が会社の長期目標に届かなくても、利益と配当は増やせる。財務改善によって買収時の選択肢も広がり、現在の割安に見える資産規模とは違う収益力を持つ企業に育つ可能性がある。ただしAIを売って有償の新規受注が既に拡大したという金額開示はないため、数量の大幅成長まで先取りしない。
慎重な見方
従来の成長策である「技術者を増やし、人月単価を上げる」という方程式が、AIエージェントによって壊れ始めている。設計・コード作成・試験・社内文書の検索まで自動化されれば、顧客が同じ成果物に払う総額は縮む。顧客のIT支出全体が増えても、MITが担当する工数は逆に減り得る。受託先は大手メーカーや元請け企業が多いため、生産性改善の利益は顧客側が回収しやすく、単価引き上げだけで対抗できない。
2026年10月の大幅な下方修正は、AIが本格普及する前から同社が案件延期や人材確保に弱いことを示した。2025年の利益率は3.3%で、人件費・外注費・クラウド費用が少し上がるだけで営業利益が大きく動く。経営が1990年から培ったノウハウと比べ、上場後に約束した2025年計画の未達は厳しく受け止めるべきだ。買収した会社の統合が終わっても、営業利益率が高く安定する体質には至っていない。
Wisebookは汎用文書管理とAI検索に、DynaCADの操作画面は自動作図に、GIGAスクールのシステム構築は入札単価の切り下げに直面する。解約率や継続単価が開示されない以上、これらを安全な継続課金として扱えない。新たな自社製品の開発投資が不発に終われば、ソフトウェア資産の減損もありうる。現金は事業の支払いに必要で、帳簿の純資産がそのまま少数株主に戻る保証はない。
どちらに重みを置いたか
社会インフラの顧客基盤は本物だが、価値を左右するのは顧客が必要とする人月の量である。主力の年間6,534人月に対し、AIで工数を削る圧力の方が強く、製品売上だけではまだ補えない。確率は楽観側28%に対して悲観側40%へ寄せた。下に寄せる理由は、2026年10月の業績予想下方修正と、収益の約85%が人月型SIに残る会社固有の構成にある。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/11 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 671 円13 億円(+ 還元の換算額還元の合計 234 円5 億円)。 今の値に割り戻すと 470 円9 億円、今との差 −56.4%、 期待の年率 −2.0%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,897 円38 億円 | 490 円10 億円 | +121.4% | +9.5% | 239 円5 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,162 円23 億円 | 370 円7 億円 | +42.1% | +4.1% | 276 円6 億円 |
| 中立 | 32% | 616 円12 億円 | 250 円5 億円 | −19.7% | −2.5% | 277 円6 億円 |
| やや悲観 | 26% | 227 円5 億円 | 120 円2 億円 | −67.8% | −12.3% | 90 円2 億円 |
| 悲観 | 14% | 116 円2 億円 | 50 円1 億円 | −84.6% | −18.9% | 23 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 671 円13 億円 | 234 円5 億円 | −16.1% | −2.0% | 905 円18 億円 |
今の株価時価総額 1,078 円22 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 公共案件の深耕と製品の改善が両立 利益 3 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,897 円38 億円
公共・金融・エネルギー分野の基幹システム刷新が続き、会社は既存顧客からの案件を失わない。設計・開発・テストにはAIを活用するが、顧客との品質責任や要件調整を高単価で請け負う方向へ移り、減った人月を価格で補う。積み上がるWisebookの契約とDynaCADの保守は更新率を守り、The MealやGIGAスクール支援も継続案件を増やす。ただし、AIそのものの有償販売が開示されていないため、どの製品も実質数量の倍増は見込まない。
システムイオ統合後の管理効率が改善し、受注の選別と外注費の管理で稼ぐ力が強まる。大規模買収に頼らず、研究開発と配当を両立させる。サービス需要は消えないが、会社が目指した2030年売上100億円には達しない。それでも現在より高い営業利益と株主還元を残す上振れの10年となる。
- システムインテグレーションサービス:数量 6,534(年間請求人月工数(人月))× 価格 0.01(人月当たり平均売上(億円/人月))→ 売上 59 億円・営業利益 4 億円。SIの請求人月は維持、単価は物価上昇の上限1.34倍。DXの数量は高くても1倍。
- デジタルマーケティング・Wisebook:数量 500(有料年契約に換算した提供件数(件、推定))× 価格 0.00(契約換算1件当たり年売上(億円/年契約))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。既存契約を維持するが実質数量の拡大は前提にしない。
- 図面DX・DynaCAD/製図サービス:数量 7,000(ライセンス販売・更新と製図役務を合わせた年間案件換算件数(推定))× 価格 0.00(案件換算1件当たり平均売上(億円/件))→ 売上 4 億円・営業利益 1 億円。既存契約を維持するが実質数量の拡大は前提にしない。
- クラウドシステム・教育ICT等:数量 180(クラウド契約と教育支援を合わせた年間契約換算数(推定))× 価格 0.01(年契約換算1件当たり平均売上(億円/年契約))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。既存契約を維持するが実質数量の拡大は前提にしない。
倍率:資本コスト8%・長期成長率g_long=0%なので、AIエージェント代替後の永続的な新規投資の超過利潤を見込まず、正当化PER=(1−0/RONIC)/(0.08−0)=12.5倍。弱い堀はRONICの残存率1/3に反映するがg=0のとき倍率は変わらない。現在の市場PERは参照しない。
確率:2030年の収益目標は未達リスクが高いが、社会インフラの難案件を確保し、製品改良によって固定費を吸収できる可能性は残す。AI有償新製品の金額実績はないので数量は現在以下に限定する。
やや楽観 18% 受託縮小を高付加価値化が部分的に補う 利益 2 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,162 円23 億円
社会インフラの更改案件は継続するが、顧客は開発工数の削減を要求する。MITは公共・電力・金融を中心に高付加価値の案件へ移り、受託する人月の一部を失っても単価上昇で収益の落ち込みを防ぐ。Wisebookの専用構築は時期によって動くものの、配信契約と保守で底を支える。DynaCADでは自治体向け互換性を生かし、図面電子化サービスの受注も継続する。
一方、会社の製品がAIエージェントの操作対象として完全に標準化されるわけではなく、価格交渉に譲歩する案件もある。エーピーエスやネットウィンクスの統合効果は緩やかに生まれ、追加買収は小規模にとどまる。営業利益は増えるが、売上100億円という長期目標にはなお届かず、堀は強い企業ほどには広がらない。
- システムインテグレーションサービス:数量 5,750(年間請求人月工数(人月))× 価格 0.01(人月当たり平均売上(億円/人月))→ 売上 51 億円・営業利益 3 億円。主力人月は12%減、単価は物価相当近くまで改定。
- デジタルマーケティング・Wisebook:数量 470(有料年契約に換算した提供件数(件、推定))× 価格 0.00(契約換算1件当たり年売上(億円/年契約))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。既存契約を維持するが実質数量の拡大は前提にしない。
- 図面DX・DynaCAD/製図サービス:数量 6,650(ライセンス販売・更新と製図役務を合わせた年間案件換算件数(推定))× 価格 0.00(案件換算1件当たり平均売上(億円/件))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。既存契約を維持するが実質数量の拡大は前提にしない。
- クラウドシステム・教育ICT等:数量 171(クラウド契約と教育支援を合わせた年間契約換算数(推定))× 価格 0.01(年契約換算1件当たり平均売上(億円/年契約))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。既存契約を維持するが実質数量の拡大は前提にしない。
倍率:資本コスト8%・長期成長率g_long=0%なので、AIエージェント代替後の永続的な新規投資の超過利潤を見込まず、正当化PER=(1−0/RONIC)/(0.08−0)=12.5倍。弱い堀はRONICの残存率1/3に反映するがg=0のとき倍率は変わらない。現在の市場PERは参照しない。
確率:高単価案件への移行と固定費管理が一定の成果を上げるが、顧客によるAI活用で人月は減るとする。
中立 32% 人月の減少が価格改定を上回る 利益 1 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 616 円12 億円
MITが得意とする電力や公共の基幹系には維持更新が続くが、顧客と元請けは設計・試験・保守の作業時間をAIで圧縮する。会社は単価の値上げを通すものの、人月の減少を埋め切れない。通信顧客の方針変更や物流案件の終了といった揺れも繰り返され、当初の2030年計画より小さな会社にとどまる。
Wisebookの有料契約は一定数残るが、電子カタログや文書検索がAI製品に組み込まれ、画面ごとの料金は伸び悩む。DynaCADの互換性とCAD製図の現場ノウハウは維持するものの、作図時間の短縮に価格が追い付かない。学校ICTの契約も入札で更新される。経営は買収より既存製品の改善に資金を回し、増配ペースを落とす。利益は赤字には転じず、配当を払いながら事業が一回り小さくなる10年である。
- システムインテグレーションサービス:数量 4,443(年間請求人月工数(人月))× 価格 0.01(人月当たり平均売上(億円/人月))→ 売上 38 億円・営業利益 2 億円。SI人月を0.68倍、平均単価を1.27倍。製品もAIで数量が減る。
- デジタルマーケティング・Wisebook:数量 400(有料年契約に換算した提供件数(件、推定))× 価格 0.00(契約換算1件当たり年売上(億円/年契約))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
- 図面DX・DynaCAD/製図サービス:数量 5,460(ライセンス販売・更新と製図役務を合わせた年間案件換算件数(推定))× 価格 0.00(案件換算1件当たり平均売上(億円/件))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
- クラウドシステム・教育ICT等:数量 148(クラウド契約と教育支援を合わせた年間契約換算数(推定))× 価格 0.01(年契約換算1件当たり平均売上(億円/年契約))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
倍率:資本コスト8%・長期成長率g_long=0%なので、AIエージェント代替後の永続的な新規投資の超過利潤を見込まず、正当化PER=(1−0/RONIC)/(0.08−0)=12.5倍。弱い堀はRONICの残存率1/3に反映するがg=0のとき倍率は変わらない。現在の市場PERは参照しない。
確率:公共と金融の更改需要は残る一方、2025年計画未達と2026年の下方修正が示す受託の脆さを重視する。主力人月0.68倍はAI代替の標準レンジ内。
やや悲観 26% 案件の発注体制が変わり利益が薄くなる 利益 0 億円 · PER 10.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 227 円5 億円
大手SI企業と顧客がAIエージェントを標準装備し、下請けに発注していた設計と試験のかなりの部分を自社側で処理するようになる。MITは契約を維持しても請求工数が縮み、固定的な技術者賃金を支えるため案件を安値で受ける。人材不足の時期に採用を増やした反動で待機時間が生じ、値上げの余地が小さくなる。
Wisebookの個社向け開発は契約時期が読めず、DynaCADの更新数もAI搭載の競合CADと比べて減少する。クラウド事業は学校支援やThe Mealの顧客を残すが、入札価格を切り下げられる。追加買収による立て直しは行わず、既存の保守と図面サービスの採算改善を優先する。配当と優待は徐々に縮め、会社は存続するものの、資本コストを下回る収益に沈む。
- システムインテグレーションサービス:数量 3,659(年間請求人月工数(人月))× 価格 0.01(人月当たり平均売上(億円/人月))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。SIの請求人月0.56倍、値上げ1.12倍。営業利益率は1%台まで縮む。
- デジタルマーケティング・Wisebook:数量 335(有料年契約に換算した提供件数(件、推定))× 価格 0.00(契約換算1件当たり年売上(億円/年契約))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
- 図面DX・DynaCAD/製図サービス:数量 4,550(ライセンス販売・更新と製図役務を合わせた年間案件換算件数(推定))× 価格 0.00(案件換算1件当たり平均売上(億円/件))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
- クラウドシステム・教育ICT等:数量 126(クラウド契約と教育支援を合わせた年間契約換算数(推定))× 価格 0.01(年契約換算1件当たり平均売上(億円/年契約))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
倍率:ROEは3%弱で資本コスト8%を大幅に下回る。PERの上限1/k=12.5倍より低い10.5倍で、長期の設備・人的投資が価値を生みにくいという構造的下振れを表す。
確率:2026年の顧客都合の要員削減と技術者不足を起点に、元請けがAIで工数をより強く削る場合。下に寄せる理由:直近の計画未達と主力SI依存。
悲観 14% 受託の構造的敗北と開発資産の減損 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 116 円2 億円
主要顧客と大手SIがAIを組み込んだ開発環境を内製化し、MITの請求人月は長期で大きく減る。残る仕事は障害対応と顧客固有の旧システムだが、低価格で受けざるを得ず、売上は現在の半分以下となる。賃金と保守開発費はすぐには削れないため営業赤字が常態化する。
Wisebookは文書の自動生成・検索に埋没し、DynaCADの操作ライセンスと外注図面の両方が減る。学校ICT・食堂システムも競合の汎用品に置き換わる。エーピーエスやネットウィンクスで得た顧客関連資産、開発ソフトウェアの回収可能額が下がり、減損が自己資本を傷つける。経営は大きな買収を避けて現金を守り、期中の早い段階の配当を最後に株主還元を停止する。
- システムインテグレーションサービス:数量 2,614(年間請求人月工数(人月))× 価格 0.01(人月当たり平均売上(億円/人月))→ 売上 18 億円・営業利益 0 億円。主力人月0.40倍、製品数量0.48〜0.50倍。固定費が残り赤字化。
- デジタルマーケティング・Wisebook:数量 240(有料年契約に換算した提供件数(件、推定))× 価格 0.00(契約換算1件当たり年売上(億円/年契約))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
- 図面DX・DynaCAD/製図サービス:数量 3,500(ライセンス販売・更新と製図役務を合わせた年間案件換算件数(推定))× 価格 0.00(案件換算1件当たり平均売上(億円/件))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
- クラウドシステム・教育ICT等:数量 90.0(クラウド契約と教育支援を合わせた年間契約換算数(推定))× 価格 0.01(年契約換算1件当たり平均売上(億円/年契約))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量を減らし、単価は物価以下の改定。
倍率:赤字でPERは不適切なので2025年11月期自己資本7.23億円に0.32倍を適用し、約2.314億円。2026年8月末の純現金約1.17億円を下回らず、売掛金の回収見込み等を加えた保守的な処分価値2.2億円より上。のれん・顧客関連資産・開発ソフトウェアは清算時の額面回収を見込まない。
確率:単なる景気後退ではなく、AIエージェントによる人月課金の代替と製品の競争敗北が重なる。清算価値に相当する売れる資産だけを守りの価値にする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
システムインテグレーションサービス
公共・金融・通信・エネルギー等の基幹系受託開発、構築、運用・保守。AIエージェント代替の「人月・工数で売る」型。
| 数量年間請求人月工数(人月) | 価格人月当たり平均売上(億円/人月) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 6,534 | 0.01 | 44 | 2 |
| 10 年後 中立 | 4,443 | 0.01 | 38 | 2 |
取り方:2025年11月期有報には人月工数6,534、SI売上4,378,494千円の両方が開示される。単価は43.78494億円÷6,534人月=約67.0万円/人月。営業利益の事業別額は非開示で1.55億円は配賦推定。中立はAIエージェント代替により人月0.68倍、単価は物価1.34倍を下回る1.27倍。将来の人月は市場が大きくなっても減ると見る。市場規模のIDC値は2025年国内ITサービス7兆5,663億円で、MIT売上との単純比率は0.058%。出典の再掲は https://lumierre.jp/research/market/market-size/ 。
デジタルマーケティング・Wisebook
文書制作・デジタルブック配信、個社向け私設サーバー、利用契約と保守。席課金・画面操作・制作役務の型であり、記録の正本の型の証拠は不足。
| 数量有料年契約に換算した提供件数(件、推定) | 価格契約換算1件当たり年売上(億円/年契約) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 500 | 0.00 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 400 | 0.00 | 1 | 0 |
取り方:有報の売上142,673千円は事実。実契約数は非開示で、500件は契約・個別開発・保守を合わせた「年契約換算」の推定であり実顧客数ではない。単価は1.42673億円÷500=28.53万円。公式Wisebook ONEの年額12.54万~174.24万円等の料金を参照(https://wisebook.jp/service/wisebook-one/)。AIエージェント代替の席・画面型として中立数量0.80倍、単価1.08倍。営業利益0.14億円は配賦推定。
図面DX・DynaCAD/製図サービス
土木・自治体向け2D/3D CAD製品の販売保守、足場の仮設図面作成、電子化・ドローン講習。ソフトの席課金と人月制作の混合型。
| 数量ライセンス販売・更新と製図役務を合わせた年間案件換算件数(推定) | 価格案件換算1件当たり平均売上(億円/件) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 7,000 | 0.00 | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 5,460 | 0.00 | 3 | 0 |
取り方:有報の図面DX売上386,414千円は事実。ライセンス・保守と作図の販売件数は未開示。年間約7,000件の混合案件換算はモデル仮定であり、過去累計12万超ライセンスを当年販売件数とは見なさない。推定単価5.52万円。会社計画の「国内11県庁・約200自治体に導入」は当時の実績であって2025年末の更新値ではない。画面操作・作図のAI代替により中立数量0.78倍、価格1.12倍。営業利益は配賦推定。広義CAD/EDA市場規模は矢野経済研究所2025年11月調査(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3962)を参照。
クラウドシステム・教育ICT等
The Meal、自治体認証・駐輪場管理、学校向けGIGA支援、中小企業向け受託サービス。操作画面SaaSと入札役務の混合型。
| 数量クラウド契約と教育支援を合わせた年間契約換算数(推定) | 価格年契約換算1件当たり平均売上(億円/年契約) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 180 | 0.01 | 2 | 0 |
| 10 年後 中立 | 148 | 0.01 | 2 | 0 |
取り方:有報のクラウドシステム売上210,243千円は事実。料金体系と受注件数が混在し実数は非開示。180件は学校案件・運用契約を平均化した年契約換算の仮定で、単価約117万円。AIエージェント代替の画面課金・受託混合として中立数量0.82倍、単価1.10倍。学校支援等の現場業務もあるため完全消滅とはしない。営業利益は配賦推定。
リスクと懸念
AIエージェント代替と人月収入の縮小
設計・テスト・保守・文書検索の自動化で、同じ業務をこなすのに必要な人月が減る。技術者数を増やす従来の成長策が効かなくなり、顧客が節約額を回収すれば単価も十分上がらない。会社がAIで効率化を進める事実と、AIを商品として有償販売した金額実績とは区別すべきである。
元請け集中と技術者の稼働率
大手メーカー・上場企業の取引比率が高く、通信顧客の要員計画変更や運輸・物流の大型案件終了で業績が動く。2026年の下方修正では、必要な技術者を集められず機会損失が出た。受注だけあっても要員を手配できなければ収益にならない。
自社製品の堀が確認できない
Wisebookは電子カタログ各社と、DynaCADは国内外のCADと競合する。直近の有料継続率や値上げ後の解約率を開示していないため、導入の歴史だけで価格支配力があるとは判断できない。AIで画面操作が省略されれば、製品を使う人数や更新単価がさらに縮む。
ソフトウェア資産・買収の減損
2026年8月末の貸借対照表にはソフトウエア・仮勘定に加えてのれんと顧客関連資産が残る。新製品の投入が不発、または買収先の顧客が離れれば、開発投資を費用化するうえ減損が純資産を圧迫する。帳簿の自己資本7億円台をそのまま現金の床にできない。
人件費・外注費・クラウド維持費の上昇
会社は3期連続の賃上げを行い、2025年には平均5.9%のベースアップを実施した。値上げ交渉で吸収できなければ、既に薄い営業利益率がさらに低下する。開発用クラウドや製品改良の継続投資も固定的に必要になる。
株主還元と運転資金の両立
2026年の普通配当は会社予想純利益に対して高い割合を占める。株主優待も費用が先に発生するため、受注が細る局面では現金の積み上げが鈍る。資本が薄い企業が増配と新製品投資、買収を同時に続けると安全余力を失う。
今後の分かれ目
- 年間請求人月が2期連続で減るのに平均単価がインフレ未満しか上がらなければ
- AIエージェント代替と価格交渉力不足の両方が確認されたとみて、中立の人月数量と利益率をさらに引き下げる。
- WisebookとDynaCADの年間継続売上と解約率が公表され、年5%未満の低解約率が定着すれば
- 製品領域だけを再評価する。移行費用や独自データといったもう一つの証拠も確認してから、堀と長期成長率を引き上げる。
- 受託開発から成果報酬契約への移行により、AI関連の受注金額と利益率改善が開示されれば
- 人月縮小の一部を相殺できる。数字を確認した対象サービスのみ、楽観側の数量・利益率を上方修正する。
- 営業利益率が3期続けて5%を超え、粗利改善が賃上げ後も維持されれば
- 上流工程への転換と開発効率化が収益につながった証拠として、中立の営業利益率と期間中のオーナー利益を見直す。
- 借入金が再び増え、ソフトウェア資産の減損や大型買収が発生すれば
- 純現金の床、資本配分の評価、悲観の損失と株主還元を再計算する。買収価格とその後の増分利益を必ず照合する。
- 2026年11月期以降も、2030年に向けたDX比率が15%程度で足踏みすれば
- 製品主導への転換が遅れたと判断し、会社目標の売上100億円・利益率10%を上振れの根拠から外したままにする。
見ておくもの
- 年間の人月工数と一人月単価の変化(2025年は6,534人月・約67万円)
- SIのプライム案件比率、要員の稼働率、主要顧客の方針変更
- Wisebookの継続課金売上・有料契約数・解約率・料金改定後の継続率
- DynaCADの年間新規・更新ライセンス、CAD製図サービス受注量
- DXソリューション売上比率(2025年14.4%)と営業利益への寄与
- 2026年10月下方修正後の2026年11月期業績と翌期ガイダンス
- 営業キャッシュフロー、のれん・開発資産、配当と株主優待費用
倍率と資本コストの決め方
売上を全社の名目成長率で伸ばす方法は採らない。SIは有報の6,534人月と単価約67万円を出発点に、10年間の実質工数と名目単価を別々に動かした。Wisebook、図面DX、クラウドの案件数は非開示なので推定を明記し、実績と取り違えない。AI代替の負担は数量とg_longの二か所に限定し、資本コストの寿命や確率で同じ縮みを機械的に重ねていない。確率は2026年の会社固有の下方修正と依存度で非対称にした。
資本コスト8%は基本7.5%に価格交渉力の弱さ0.5%を加えた値で、株価や他社のPERから導いていない。10年を超える長期成長率は0%なので、楽観・やや楽観・中立のPERは正当化式の上限12.5倍をそのまま使う。悲観は現金・売掛金の回収額から負債と清算費を控除した床を確認し、のれん・ソフトウェアを額面評価しない。新リース基準の適用で表示が変わっても家賃を二重には加えない。2026年8月末短信の発行済2,134,400株から自己株130,050株を控除すると2,004,350株だが、basisは依頼添付の基準株数2,000,400株を維持し、差約0.2%を株式分割や将来希薄化と誤認しない。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%から7.5%、値決め力の弱さ+0.5%を加える。規模やβを足さず、個別の業績下振れは筋書きと確率で考慮する。