結論
ソフトマックスは、病院向け電子カルテ「PlusUs」を核に、医事会計、院内システムの導入、機器販売、保守まで担う医療IT企業だ。10年保有する株主の立場では、現在の時価総額約71億円は割高と判断する。病院の診療記録を安全に保存し、医療従事者が共有する機能は10年後も必要だ。しかし、その仕組みを構築するために人が費やす時間まで、今と同じだけ必要とは限らない。
同社には本物の強みがある。2026年9月末の電子カルテ・オーダリング稼働施設は325施設に達した。院内の診療情報、会計、検査、処方を結ぶシステムは簡単には取り替えられない。2026年上期にはソフトウェアの受注が大きく伸び、受注残も増えた。少なくとも足元の需要が消えた会社ではない。
それでも、長期の見通しは慎重になる。全国の病院数は限られ、既存システムの更新周期は長期化している。AIエージェントが画面操作や帳票作成を代行すれば、導入・改修に必要な工数と席単位のソフトウェア価値には下押し圧力がかかる。官主導の医療情報標準化も、システム間の乗り換えを容易にする方向に働く可能性がある。
さらに、2025年には賃貸不動産を大きく取得した。開示された時価は帳簿価額を下回り、賃貸損益の利回りも高くない。病院向けソフトウェアで培った競争力と、不動産投資の資本効率は分けて考えたい。定期預金を含めると財務には一定の余裕があるが、それだけで成長投資の質まで保証されるわけではない。
中立の2035年12月期は、売上約64億円、純利益約5億円を見込む。現在からの名目成長を当然視せず、導入案件の実質数量が減る一方で保守が比較的残る姿だ。5つの筋書きの価値を現在に割り戻すと、概ね現在の時価総額を4割強下回る。病院に必要な製品であることと、株主が現在の値段で十分な利益を得られることは、別の問題である。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主にとって最初の問いは、10年後も顧客がお金を払う仕事かどうかである。病院の診療記録、処方・検査情報の連携、会計の正確性は社会に欠かせない。この意味で、ソフトマックスは単なる流行のアプリを売る会社ではない。導入したシステムが長く使われ、障害対応や制度変更への対応が続く点には確かな事業価値がある。
ただし、必要な仕事と、その仕事を現在の費用構造で請け負う会社の利益は同じではない。AIエージェントが書類作成や画面操作、コード修正を引き受ければ、病院が支払う対価は人月から成果や安全な記録基盤へ移っていく。ソフトマックスがその移行を主導できれば強いが、同社にしか提供できないデータや、継続的な値上げ能力を実証する開示はまだ乏しい。現在の高いROEを、そのまま10年先の新規投資利回りと考えたくない。
次に、利益を稼いだ後の使い道を見る。医療ソフトウェアは研究開発、セキュリティ、人材の確保が欠かせないが、工場を大量に持つ産業ほどの設備投資は通常必要ない。その利点を生かして製品力を高め、余った資金を還元できれば、少数株主の取り分は大きくなる。ところが、2025年の大きな不動産取得は事業の本来の強みとは距離があり、開示された収益性も満足しにくい。
悲観のときには、不動産や定期預金を含む換価可能資産が一定の下支えになる。しかし、物件を売るか、借入を返すか、さらに買い増すかを決めるのは経営陣であり、株主が好きな時点で現金化できるわけではない。したがって帳簿上の資産をそのまま株主価値に足さない。
結論として、事業の存続可能性は比較的高いが、利益成長の予測可能性と資本配分には留保が付く。今の価格には、電子カルテ需要の継続だけでなく、導入収益の維持と高い資本効率の持続も必要になる。安全域を重視する株主なら、製品の社会的な必要性だけを理由に現在の評価を正当化することは難しい。
何で稼ぐ会社か
同社の事業は、法定開示では医療情報システムを中心とする単一セグメントである。ただし、稼ぎ方を理解するには三つに分ける必要がある。2025年12月期のソフトウェア売上は約29.1億円、ハードウェア売上は約21.0億円、保守・クラウドなどは約19.2億円だった。前二者は病院の新規導入や更新という案件に左右され、後者は稼働中のシステムから継続して得る収入である。
主力の「PlusUs」は、診療記録、検査・処方の指示、医事会計などをつなぐ。病院は電子カルテだけを買って終わるわけではない。既存データの移行、院内機器との接続、職員への教育、本番稼働後の障害対応まで必要になる。この工程を一体で引き受けられる点が、同社の商機であり顧客との関係を長く保つ理由でもある。
半面、売上の約7割はソフトウェア導入と機器販売に由来する。病院が新しいシステムに切り替える時期によって、検収と売上計上が集中する。2025年には一つの病院向け売上が全社の1割を超えた。多数の小口課金が均等に積み上がる企業とは異なり、数件の大型案件が年度の業績を左右する。
保守は比較的安定している。2026年9月末の電子カルテ・オーダリング稼働施設は325施設、医事会計システムの稼働施設は510施設と公表されている。ただし両者には重複があり、835施設の独立顧客がいるという意味ではない。また、施設数は契約ID数や請求単位と一致しない。施設数を数量の代理指標として使う際には、この違いを残す必要がある。
2026年上期はソフトウェア売上が前年同期比約22%増えた一方、ハードウェア売上は約31%減った。受注残は増加しているが、営業利益は前年同期を下回った。人員確保、開発、販売機器の構成によって利益率が動くことを示している。10年後の価値は、電子カルテの導入件数だけでなく、導入後にどれだけ継続収益を残し、同じ案件を少ない工数で提供できるかにかかっている。
優良さと弱いところ
最も評価できるのは、病院の日常業務の奥深くに製品が組み込まれていることだ。電子カルテの変更には診療データの移行と院内業務の再設計が伴う。誤りが患者の安全に影響するため、単純な価格差だけで事業者を替えにくい。2024年の電子カルテ稼働施設303施設が2026年9月には325施設になったことも、顧客基盤がなお拡大している証拠だ。
しかし、強い堀と断定するには証拠が足りない。解約率5%未満という数値、年単位の移行期間、法改正のたびに値上げを通した実績、競合には利用できない独自データといった裏付けは確認できない。患者の診療情報を扱うことと、会社がその情報を独占的な資産として所有することも違う。医療情報の標準化が進めば、乗り換えの費用そのものが下がる可能性がある。
過去の資本効率には見るべきものがある。2025年の純利益は約5.7億円で、添付の期末自己資本に対するROEは約14.6%だった。2019年以降は利益水準を切り上げ、自己資本も積み上げてきた。一方、2025年は売上が大きく伸びたのに営業利益率が2024年の12.2%から10.7%に低下した。増収のすべてが高い限界利益を生んだわけではない。
資本配分の評価はさらに厳しい。2025年の賃貸等不動産は帳簿価額約27.3億円に対し、開示時価が約20.3億円だった。年間賃貸損益約0.61億円は帳簿価額に対して約2.2%である。医療IT事業が資本コストを上回る利益を生んでも、稼いだ資金を低利回り資産へ振り向け続ければ株主全体の増分リターンは落ちる。財務の余裕と経営の投資判断は別々に評価すべきである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
医療情報システムの需要は消えないが、市場の伸びは一様ではない。会社資料によると、2024年の国内病院8,156施設のうち電子カルテ導入済みは4,386施設で、普及率は約54%だった。残る未導入施設は3,770施設だが、比較的小規模な病院が多い。導入できなかった理由には費用負担や人員不足があり、未導入数のすべてを同じ単価で獲得できる市場と考えるべきではない。
矢野経済研究所が示した2024年度の医療情報システム市場は約3,018億円である。中小規模病院向け電子カルテ市場は約678億円、2027年度には約732億円と予測された。更新周期はおよそ8年に長期化しており、市場全体が毎年二桁成長する局面とは違う。10年の数量を考える際には、初回導入の余地だけでなく、更新の延期と病院統廃合を差し引く必要がある。
競争相手には富士通Japan、NEC、ソフトウェア・サービス、シーエスアイなどがいる。ソフトウェア・サービスは電子カルテ稼働病院が1,000を超えると公表しており、同社の325施設を上回る。ただし各社で集計製品や集計時点が違うため、単純な施設数比を厳密な市場シェアとみなすことはできない。2024年の公表施設数で単純比較したソフトマックスの電子カルテ設置シェアは約6.9%で、全国首位級ではなく中堅の位置にある。
政策は追い風と逆風を同時にもたらす。厚生労働省は電子カルテの普及と医療情報の共有を進めている。未導入施設への普及支援や標準仕様への対応は新規導入・更新の機会になる。一方、標準型電子カルテ、情報連携基盤、共通仕様が広がれば、既存ベンダー固有の画面や独自接続に依存する部分の価格は下がりうる。
AIエージェントはこの競争をさらに変える。医師の判断と責任、正確な診療記録の保存はなくならないが、問診内容の構造化、紹介状の下書き、画面入力、帳票作成、システム間の転記は自動化される可能性が高い。病院のIT支出が増えても、受託開発の人月や操作画面の数に比例してソフトマックスの売上が増えるとは限らない。中立では全国病院市場の大幅拡大を見込まず、同社の実質案件数量と契約単価を別々に保守的に評価する。
資本政策と M&A
配当実績は一定の評価ができる。2021~2025年の配当性向は概ね3~4割台で推移し、2025年は約42%だった。増配の実績がある一方、株数を大きく減らす自社株買いは確認できない。2025年に公表された事業計画・成長可能性資料には事業施策が示されているが、中期経営計画としての複数年の売上・利益・ROE目標や、配当性向・DOE・総還元性向・自社株買い金額の数値の約束は確認できない。2026年12月期の単年度業績予想とは区別する。
2025年の賃貸不動産取得は、過去10年の資本配分を考える上で最大の論点だ。新たに取得した不動産は約17.8億円に上り、年末の賃貸等不動産全体の帳簿価額は約27.3億円になった。開示時価はこれを約6.9億円下回る。取得時点で会計上の減損が決まったという意味ではないが、株主は営業利益率だけでなく、この資産が借入金利と資本コストを超える収益を生むかを追う必要がある。
現金同等物だけを見ると2025年末の純有利子負債は約0.3億円である。ただし有報の現金・預金には現金同等物に含まれない定期預金相当額約6.7億円があり、これを加えた実質純現金は約6.4億円となる。この金額を無条件の余剰現金とはしない。仕入代金、前受金、更新工事の運転資金を残す必要があるからだ。支配株主側への持分集中も考慮し、将来蓄積する余剰現金が少数株主に戻る割合は75%と評価する。
近年の価値創造は主として自社製品の販売と保守基盤の積み上げによるもので、大型の企業買収による急拡大は確認できない。今後、他社による買収や非公開化の可能性は否定しないが、発表済みの取引は確認できず、買収プレミアムを本質価値に上乗せしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内には電子カルテ未導入の病院がなお多く、医療の人手不足は情報化を遅らせる理由であると同時に、導入を急ぐ理由でもある。ソフトマックスは1970年代から医事会計を扱い、電子カルテと院内業務を結ぶ実務を蓄積してきた。診療データの整合性と安全な本番移行は、汎用的なソフトウェアだけでは容易に置き換えられない。病院に深く入り込んだ経験が、今後も更新案件を獲得する際の優位になる。
足元には具体的な需要の証拠がある。2026年上期のソフトウェア売上は前年同期比約22%増え、同分野の受注は約83%増えた。病院のシステム更新が止まっているわけではない。クラウド化、医療情報の全国的な連携、政府の標準化に必要な改修が重なれば、既存顧客からの追加発注も増えうる。顧客が一度システムを導入した後の保守収入は、年度ごとの大型案件の振れを緩和する。
AIについても、脅威だけを想定する必要はない。会社は2026年に診療文書の作成を補助するAI機能を公表した。医療現場の安全性を確保しつつ業務を減らす製品を提供できれば、他社への乗り換えを防ぐ手段になる。ただしAI機能単独の有償受注額は確認できないため、新しい収益源としての上乗せはまだ認めない。楽観でも導入案件の実質数量を現在以上に増やさず、価格転嫁と収益性の改善を利益増加の主因とする。
財務面では、定期預金を含めた純現金と、換価可能な賃貸不動産が残る。病院の設備更新が予定どおり進めば、現在の事業基盤を保ちながら配当を増やすことも可能だ。大型案件を継続的に取り、固定費を吸収できれば、営業利益率は過去最高期に近い水準へ戻るだろう。
慎重な見方
最大の問題は、顧客に必要な医療情報基盤と、ソフトマックスが従来の方法で稼ぐ利益を混同することだ。売上の約7割はソフトウェア導入とハードウェア販売であり、毎月必ず入る利用料ではない。病院の更新間隔が8年程度に延び、予算不足で更新が先送りされれば、売上が特定年度に集中する構造は変わらない。2025年に全社売上の1割を超えた顧客がいたことも、大口案件への依存を示す。
医療情報の標準化は、既存ベンダーが長年享受してきた乗り換えの難しさを削る可能性がある。富士通Japan、NEC、ソフトウェア・サービスなどの有力企業は製品開発、人材、販売網で優位な部分を持つ。病院の統合や共同調達が進めば、地場の関係だけで案件を守るのは難しくなる。ソフトマックスの設置施設数は着実に増えているが、全国の電子カルテ市場を左右するほどの支配力はまだない。
AIエージェントによる代替は、導入・改修を人月で売る仕事に直接及ぶ。既存の操作画面を人が一つずつ触る必要が減れば、席単位での値上げも難しくなる。病院にとっては生産性向上でも、システムベンダーにとっては単価下落になりうる。記録の正本としての価値が残ることを認めても、解約率や値上げ実績という裏付けなしに、現在のソフトウェア売上全体を守られた収益と評価するのは危険だ。
資本配分にも懸念がある。2025年の不動産取得で帳簿上の資産は増えたが、賃貸不動産全体の開示時価は帳簿価額を下回っている。金利が3%の世界では、年間賃貸損益が約0.6億円という収益力に高い資産価値を認めにくい。医療ITの投資に使える資金が不動産へ回り、借入も増えれば、株主の期待する増分リターンは下がる。2026年上期の減益は、この会社の成長が決して一直線でないことを改めて示した。
どちらに重みを置いたか
電子カルテの社会的な必要性と導入実績では強気の見方に説得力がある。しかし、受託導入と機器販売が売上の約7割を占めること、大型顧客への依存、低利回り不動産への大きな投資を考えると、利益成長の持続性には慎重な見方が勝る。確率は楽観・やや楽観26%に対して、やや悲観・悲観42%と下側に寄せた。AI代替の影響は10年間の数量・単価と、その先の成長率に織り込み、確率や資本コストに重複して上乗せしていない。下側への追加の傾きは、会社固有の案件集中と資本配分に由来する。長期保有できる事業ではあるが、現在の時価総額に十分な安全域はない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 329 円79 億円(+ 還元の換算額還元の合計 77 円19 億円)。 今の値に割り戻すと 205 円49 億円、今との差 −26.2%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 579 円139 億円 | 135 円32 億円 | +156.8% | +11.3% | 64 円15 億円 |
| やや楽観 | 17% | 511 円123 億円 | 112 円27 億円 | +123.9% | +9.5% | 106 円25 億円 |
| 中立 | 32% | 400 円96 億円 | 90 円22 億円 | +76.3% | +6.5% | 157 円38 億円 |
| やや悲観 | 27% | 169 円41 億円 | 58 円14 億円 | −18.3% | −2.3% | 61 円15 億円 |
| 悲観 | 15% | 110 円27 億円 | 12 円3 億円 | −55.9% | −8.2% | 18 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 329 円79 億円 | 77 円19 億円 | +46.3% | +4.3% | 407 円98 億円 |
今の株価時価総額 278 円67 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 顧客基盤を守り、導入採算と保守収益が改善 利益 9 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 579 円139 億円
PlusUsは既存病院との関係を維持し、制度対応やクラウド移行に伴う更新を継続して獲得する。電子カルテの普及支援で中小病院にも導入機会が生まれ、ソフトマックスは競争入札で一定の勝率を保つ。富士通Japan、NEC、ソフトウェア・サービスとの競争は続くが、診療情報の移行と運用支援の品質が評価され、顧客の大きな流出は起きない。
導入案件の実質数量は現在程度にとどまるものの、物価転嫁と案件構成の改善によって名目売上を増やす。保守・クラウドの稼働施設も概ね維持でき、遠隔運用と障害対応の効率化で採算が改善する。AIは導入作業を省力化するが、追加料金による新事業の収益を前提にせず、提供コストの低下を通じて利益率に反映する。
大型買収や不動産の追加取得を繰り返さず、投資資金を医療システムの品質とセキュリティへ向ける。配当も利益成長に応じて増え、医療IT企業としての資本効率を保つ。現状の事業構造で考えられる上位の10年だが、案件数量自体が急拡大する姿ではない。
- 病院向けソフトウェア・導入SI:数量 50.0(病院システムの新規導入・更新を通算した案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.78(導入案件相当1件当たりのソフトウェア売上(億円/件、名目))→ 売上 39 億円・営業利益 9 億円。実質案件数量は50件で維持。導入単価は物価3%を10年反映して現在の1.34倍。AIによる工数縮小を生産性向上と案件採算の改善で吸収するが、AI新製品の未実証売上は加えない。
- 導入機器・ハードウェア販売:数量 50.0(病院システム導入・更新に対応する機器案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.54(機器案件相当1件当たり売上(億円/件、名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。機器案件は50件相当。平均機器構成の価格は1.28倍に上昇し、調達と設置の効率化で採算を維持する。
- 保守・クラウド・データセンターサービス:数量 510(医事会計システムの稼働病院施設数(施設、契約数量の代理指標))× 価格 0.04(施設当たり年間保守・クラウド等売上(億円/施設、名目))→ 売上 22 億円・営業利益 7 億円。稼働施設数を維持し、画面価値への価格圧力を踏まえて施設当たり単価は1.15倍にとどめる。自動運用と保守の標準化で採算改善。
倍率:資本コストk=8.0%。10年後のROEは約10.9%でkを超えるが、AIエージェント代替を含む事業構造から10年より先の名目成長g_long=0%とした。RONIC=k+0.5×(ROE−k)で将来の増分資本収益性を平準化すると、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.5倍。楽観の上限そのものを使用し、賃貸不動産の評価はrental欄に分離して二重計上しない。
確率:既存病院での高い更新継続率、導入費用の価格転嫁、保守収益性の改善が同時に必要である。医療需要の持続性は高いが、競合と標準化を踏まえると達成には相応の難しさがある。
やや楽観 17% 更新案件はやや減るが、保守と価格転嫁が補う 利益 7 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 511 円123 億円
既存顧客の更新が中心となり、病院向けの新規導入余地は徐々に狭まる。政府の医療情報標準化に沿った製品改修とクラウド対応が継続的に必要となり、ソフトマックスは既存の販売地域で案件を確保する。競合による乗り換え案件の奪取は一部で起こるが、PlusUsの主要顧客基盤は維持される。
AIエージェントの普及で人が行う設定や画面改修は減る。ソフトウェアの実質案件相当数量は現在の9割程度に下がるが、安全な切り替えと院内調整にはなお対価が支払われる。名目単価の上昇と保守・クラウドの収益改善が、案件数量の減少を概ね補う。
経営は大規模な企業買収に頼らず、営業拠点と技術者の教育、保守基盤の効率化に投資する。不動産事業の収益率は大きく改善しないものの、新規の低利回り取得を抑える。株主還元は従来の水準を中心に継続され、営業利益率は過去の好調期に近づく。
- 病院向けソフトウェア・導入SI:数量 45.0(病院システムの新規導入・更新を通算した案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.77(導入案件相当1件当たりのソフトウェア売上(億円/件、名目))→ 売上 35 億円・営業利益 8 億円。実質案件数量0.90倍、名目単価1.33倍。更新件数は縮むが、規制対応と導入品質によって物価に近い価格転嫁を実現する。
- 導入機器・ハードウェア販売:数量 45.0(病院システム導入・更新に対応する機器案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.52(機器案件相当1件当たり売上(億円/件、名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。導入件数の減少に連動して数量0.90倍、単価1.25倍。機器市場の競争で物価分をすべて転嫁できない。
- 保守・クラウド・データセンターサービス:数量 490(医事会計システムの稼働病院施設数(施設、契約数量の代理指標))× 価格 0.04(施設当たり年間保守・クラウド等売上(億円/施設、名目))→ 売上 21 億円・営業利益 6 億円。施設数0.96倍、価格1.14倍。クラウド運用の標準化によって一定の採算改善が実現する。
倍率:k8.0%、10年後ROE約9.3%、通常の堀の残存割合0.5を使う。成熟後の名目成長率g_longはAI代替を反映した0%であり、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.5倍。中立より良好な稼ぐ力は純利益に反映し、倍率を現在または同業の株価に合わせて加減しない。
確率:病院のシステム更新とクラウド化が続くことには根拠がある。しかし案件数量の維持までは見込まず、保守の解約抑制と価格交渉の改善が実現する上振れとして評価する。
中立 32% 医療基盤は残るが、導入作業の価値は縮小 利益 5 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 400 円96 億円
病院の電子カルテ需要は残り、PlusUsも一定の稼働施設を維持する。しかし、国内の病院数の減少と更新周期の長期化が新規・更新案件の数量を抑える。大手ベンダーは政府の標準仕様に対応した製品を広げ、ソフトマックスは既存顧客を守りながら競争入札で一部の案件を失う。
AIエージェントは診療文書の下書きだけでなく、システム設定、データ移行、帳票改修、画面操作の一部を自動化する。病院が支払うシステム導入対価は引き続き存在するが、必要工数に比例する売上は減る。ソフトウェア導入の実質数量は現在の72%、保守・クラウドの契約施設相当数量は86%になる。保守は制度対応と障害時の責任が残るため、導入案件より減少が緩やかだ。
売上は2025年の水準を名目でも下回る。人件費とセキュリティ費用は物価上昇に伴って増え、固定費の削減は利益の落ち込みを一部補うにとどまる。大型買収による改善は見込まず、不動産の資本効率も低いままだ。累計利益の4割程度を還元し、残りが自己資本に積み上がるため、利益が減るとROEも低下する。
- 病院向けソフトウェア・導入SI:数量 36.0(病院システムの新規導入・更新を通算した案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.76(導入案件相当1件当たりのソフトウェア売上(億円/件、名目))→ 売上 27 億円・営業利益 6 億円。AIエージェント代替の人月・工数型。10年実質数量0.72倍、名目価格1.30倍。新規導入・更新の対価は残るが、作業時間に連動する収入が減少する。
- 導入機器・ハードウェア販売:数量 36.0(病院システム導入・更新に対応する機器案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.52(機器案件相当1件当たり売上(億円/件、名目))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。ソフト導入件数に連動して数量0.72倍、価格1.25倍。機器販売の価格競争で粗利率が薄くなる。
- 保守・クラウド・データセンターサービス:数量 439(医事会計システムの稼働病院施設数(施設、契約数量の代理指標))× 価格 0.04(施設当たり年間保守・クラウド等売上(億円/施設、名目))→ 売上 18 億円・営業利益 5 億円。席・操作画面型を中心に数量0.86倍、価格1.11倍。診療記録の保管と規制対応は残るが、画面依存機能の単価には下押し圧力がかかる。
倍率:k8.0%、10年後ROE=4.96÷71.6=約6.9%で資本コストを下回るため、PERの上限は稼ぐ力を資本化する1÷k=12.5倍。長期成長g_longは0%であり、成長投資による価値増加を別に上乗せしない。正当化PERの上限をそのまま使用し、医療ITだからという理由で市場の高倍率を採用しない。
確率:病院電子カルテの必要性と保守継続を認めつつ、AIによる人月削減、8年程度の更新周期、共同調達の価格圧力を併せて評価する。2026年の良好な受注だけを10年間延ばさない中立の見通しである。
やや悲観 27% 共同調達とAIで受託導入の採算が崩れる 利益 2 億円 · PBR 0.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 169 円41 億円
病院経営の悪化によってシステム更新が一段と延期される。共同調達や電子カルテの標準化が進み、富士通Japanやソフトウェア・サービスなどの規模が大きい企業が更新案件を奪う。ソフトマックスは従来の顧客との関係を保とうとするが、初期導入価格を下げざるを得なくなる。
AIエージェントによる受託作業の短縮が進み、ソフトウェア導入の案件相当数量は現在の55%まで落ちる。機器販売も同程度に縮小する。保守は病院がシステムを稼働させ続ける限り必要だが、標準化された共通機能の価格競争が強まり、施設数と単価の両方が弱含む。
会社は採用や販売費を抑え、支店ごとの業務集約を進める。それでも固定費と医療安全のための費用は残り、営業利益は縮小する。配当は利益に応じて減らし、不動産からの収益が財務を部分的に支える。事業の成長を前提とした値付けは認められず、株主価値の大きな部分は換価可能な資産で説明される。
- 病院向けソフトウェア・導入SI:数量 27.5(病院システムの新規導入・更新を通算した案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.64(導入案件相当1件当たりのソフトウェア売上(億円/件、名目))→ 売上 18 億円・営業利益 3 億円。案件相当数量0.55倍、単価1.10倍。入札競争が強まり物価上昇分を転嫁できない。
- 導入機器・ハードウェア販売:数量 27.5(病院システム導入・更新に対応する機器案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.46(機器案件相当1件当たり売上(億円/件、名目))→ 売上 13 億円・営業利益 0 億円。案件数量0.55倍、機器価格1.10倍。薄利の機器販売で値引きが広がる。
- 保守・クラウド・データセンターサービス:数量 357(医事会計システムの稼働病院施設数(施設、契約数量の代理指標))× 価格 0.04(施設当たり年間保守・クラウド等売上(億円/施設、名目))→ 売上 14 億円・営業利益 3 億円。稼働施設数0.70倍、単価1.04倍。記録保存は残るが保守の標準化で価格と採算が低下する。
倍率:2035年のROEは約3.0%でk8.0%を下回る。稼ぐ力1.95÷0.08=約24.4億円だけでは保有資産の価値を十分に表さないため、純現金、賃貸不動産の保守的換価額、少額の投資有価証券を合計した約27.0億円の資産価値を採用する。PBRの分母は将来の蓄積自己資本64.2億円ではなく、現在の自己資本39.2億円を使用。市場の過去のPBRは参照していない。
確率:国内病院の予算制約、強い競合、案件ごとの収益変動を考えると無視できない。利益が縮んでも電子カルテの運用と賃貸不動産は残るため、事業消滅までは想定しない。
悲観 15% 主要案件を失い、ソフト事業の優良さが崩れる 利益 −1 億円 · PBR 0.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 110 円27 億円
主要病院の大型更新が相次いで競合へ移り、ソフトマックスの電子カルテ設置シェアが低下する。政府の標準仕様に沿ったシステムや大手ベンダーの共同利用基盤が普及し、PlusUs固有の画面と接続方式を維持する費用が増える。病院の統合で契約施設も減少し、かつての顧客密着型の営業力だけでは巻き返せなくなる。
AIエージェントが導入設定、データ変換、帳票開発などを広く代替し、従来型の受託工数は大幅に減る。ソフトウェアの案件相当数量は現在の42%となり、機器販売も同程度に細る。保守施設数は55%まで減り、標準型の共通機能との競争で値上げができない。医療安全と障害対応の費用は残るため、売上減少が営業損失に直結する。
経営は拠点と人員の再編を迫られ、配当は途中から大きく縮む。賃貸不動産は保有し続けるが、取得価額を正当化できず、減損や売却損が累積利益を圧迫する。10年間の純利益合計にはこうした損失を含めるため、同じ減損を自己資本から別に二重控除しない。2035年の事業利益は赤字となり、株主価値の中心は換価可能な財産に移る。
- 病院向けソフトウェア・導入SI:数量 21.0(病院システムの新規導入・更新を通算した案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.63(導入案件相当1件当たりのソフトウェア売上(億円/件、名目))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。実質案件数量0.42倍、単価1.08倍。主要顧客喪失と標準化によって価格転嫁が止まる。
- 導入機器・ハードウェア販売:数量 21.0(病院システム導入・更新に対応する機器案件相当数(件/年、推計))× 価格 0.44(機器案件相当1件当たり売上(億円/件、名目))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。案件数量0.42倍、単価1.05倍。仕入れ・設置費用を回収するにとどまる。
- 保守・クラウド・データセンターサービス:数量 281(医事会計システムの稼働病院施設数(施設、契約数量の代理指標))× 価格 0.04(施設当たり年間保守・クラウド等売上(億円/施設、名目))→ 売上 11 億円・営業利益 1 億円。施設数0.55倍、単価1.05倍。顧客流出と固定的な安全運用費用で保守利益率が低下する。
倍率:2035年は営業赤字で稼ぐ力の価値がほぼ失われるため、企業価値は純現金と売却可能な不動産の税後価値を中心に測る。現在の自己資本39.2億円に対し、実際の換価可能額約26.5億円に対応するPBR0.676倍を使う。将来自己資本40.2億円に倍率を掛けず、不動産の帳簿上の含み損や売却費用を反映する。
確率:電子カルテ自体は社会に残るものの、中堅ベンダーが価格競争に負けて主要顧客を失う可能性はある。病院市場の縮小、標準化、大型案件の喪失が重なる複合的な下振れである。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
病院向けソフトウェア・導入SI
PlusUsの電子カルテ、医事会計、オーダリング等の導入・更新・追加開発。病院への納入・検収に応じた売上で、人月と作業工数への依存が大きい。
| 数量病院システムの新規導入・更新を通算した案件相当数(件/年、推計) | 価格導入案件相当1件当たりのソフトウェア売上(億円/件、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 50.0 | 0.58 | 29 | 6 |
| 10 年後 中立 | 36.0 | 0.76 | 27 | 6 |
取り方:2025年有価証券報告書のソフトウェア売上29.10792億円を採用。案件件数と平均単価は非開示であり、50件は実績件数ではない。2024年の電子カルテ稼働303施設を基に、2025年末の稼働約315施設を推計し、更新周期約8年による更新約39件に年間純増約11件を加えて50件相当とした。1件当たり0.5821584億円は売上を50件で除したモデル上の単価であり、病院規模、他社製品、追加開発で実際には大きく異なる。売上に対する部門貢献利益率を20%と仮置きし、共通費を後段で控除する。AIエージェント代替の型は人月・工数型で、中立10年数量0.72倍、価格1.30倍、10年より先のgは0%。
導入機器・ハードウェア販売
病院システムと同時に納入するサーバー、端末、関連機器など。機器1台単位の販売もあるが、収益はシステム更新案件に強く連動する。
| 数量病院システム導入・更新に対応する機器案件相当数(件/年、推計) | 価格機器案件相当1件当たり売上(億円/件、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 50.0 | 0.42 | 21 | 1 |
| 10 年後 中立 | 36.0 | 0.52 | 19 | 1 |
取り方:2025年有報のハードウェア売上20.99210億円を用いる。機器納入台数と平均販売価格は非開示のため、ソフト導入・更新と対応する50件相当に正規化した。単価約0.419842億円は実際のサーバー1台の単価ではなく、1病院案件に付随する機器・構成品売上の平均値である。部門貢献利益率は商品仕入れの比率が高いとみて4%の分析上の仮定。ハードウェア自体は人月型・席課金型ではないが、導入案件の減少に数量が連動する。中立の数量0.72倍、価格1.25倍は病院案件の縮小と競争による物価未満の値上がりを表す。
保守・クラウド・データセンターサービス
導入後の運用保守、障害対応、制度変更への対応、クラウドやデータセンターの継続利用。画面中心の機能と、記録の維持・制度対応の双方を含む。
| 数量医事会計システムの稼働病院施設数(施設、契約数量の代理指標) | 価格施設当たり年間保守・クラウド等売上(億円/施設、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 510 | 0.04 | 19 | 5 |
| 10 年後 中立 | 439 | 0.04 | 18 | 5 |
取り方:2025年の保守・クラウド等に対応する売上19.18647億円を基準とする。会社サイトが2026年9月末に公表した医事会計システム稼働510施設を数量の代理指標とした。FY2025売上と2026年9月の施設数は厳密には同時点ではなく、契約単位や電子カルテ325施設との重複も不明である。年間単価約0.03762053億円は施設当たりの概算であり、正規の価格表ではない。貢献利益率は24%を仮定し、共通費は別に控除する。AI代替の型は席・操作画面型を中心とし、中立数量0.86倍、価格1.11倍、10年より先のgは0%。記録の正本の性質はあるが、低解約率や値上げ実績など2件以上の証拠が不足するため、その有利な型を売上全体には適用しない。
リスクと懸念
AIエージェント代替による導入工数と画面価値の縮小
AIが診療文書作成、データ移行、コード改修、画面操作などを代替すれば、病院の情報化投資が続いても人月で請求できる仕事は減る。ソフトウェア導入売上と、操作画面に依存する保守機能が対象となる。記録の安全な保存は残るが、そこだけに強い堀を認定できる解約率や値上げ実績は確認できない。中立ではソフト導入数量を10年で72%、保守数量を86%とし、g_longを0%にしている。
政府の医療情報標準化と大手競合への集約
厚生労働省が進める標準型電子カルテや全国的な医療情報共有は、未導入病院を取り込む機会になる一方、独自仕様の切り替え費用を引き下げる可能性もある。富士通Japan、NEC、ソフトウェア・サービスなどが共通規格への対応を先行すれば、ソフトマックスのシェアと価格決定力に下押し圧力が生じる。制度変更そのものを一方向の追い風として扱わない。
低利回り不動産への投資と評価損
2025年の賃貸等不動産の帳簿価額は約27.3億円だが、開示時価は約20.3億円にとどまる。年間賃貸損益約0.61億円は取得資本に対して低い収益率であり、金利が3%へ上がる世界では資本効率の改善が必要になる。追加取得、空室、修繕費、評価損、借入の借り換え条件悪化が重なれば、医療IT事業の利益を不動産が吸収する。
大型病院案件への依存と売上計上の偏り
2025年には一つの医療機関向け売上が全社の1割を超えた。導入・更新案件は病院の意思決定、補助金、機器の納期、検収時期によって年度間でずれやすい。2026年上期もソフトウェアが伸びる一方でハードウェアが大きく減収となった。受注残の増加は材料になるが、それが予定どおり売上と利益に転換されるかを別に確かめる必要がある。
病院経営の悪化とシステム更新の先送り
医療機関は人件費や光熱費の上昇に直面しており、診療報酬だけで十分に費用を転嫁できるとは限らない。電子カルテが必要であっても、病院は更新周期を延ばしたり、機能を絞った安価な製品を選んだりできる。特に未導入の小規模病院では支払能力が導入の制約となり、市場に残る施設数をそのまま高単価の新規顧客候補とはみなせない。
医療データの安全性と障害対応の固定費
医療情報には高い機密性と可用性が必要である。サイバー攻撃、ランサムウェア、障害、患者情報の漏えいが起これば、顧客の信頼と受注機会を失い、損害賠償や復旧費用が発生する可能性がある。AI機能の導入でも誤情報の混入や個人情報の取り扱いへの対策が必要となる。作業工数が減ったとしても、医療安全のための固定費まで同じ割合で減るとは考えない。
株主還元の裁量と資本配分の逸脱
株主構成は比較的集中しており、少数株主には余剰資金の使途を直接決める力がない。増配実績はあるものの、配当性向50%以上の継続や大規模な自社株買いの数値約束は確認できない。不動産の追加取得や採算の合わない買収に資金が回れば、帳簿上は資産が増えても本質価値は増えない。保有する現金のすべてが株主に戻るという前提を置かない。
今後の分かれ目
- 電子カルテ・オーダリングの稼働施設が年間10施設以上増え続け、更新案件の失注も抑えられたら
- 設置基盤とシェアの維持を確認できる。ソフトウェア数量の中立0.72倍を上方修正する余地があるが、病院数と実際の有償案件数を区別して判断する。
- 保守・クラウド売上の伸びが継続し、契約施設数と施設当たり収入の双方が増えたら
- 人月型の導入収入から継続課金へ収益の重心が移った可能性が高まる。保守の数量、価格、利益率を再評価し、値上げと低解約の開示が蓄積すれば堀の判定も見直す。
- 2026年に公表したAI機能について、有償契約額や継続売上が定量的に開示されたら
- AIを既存収益の防衛手段としてだけでなく、新たな収益源として評価できる。単なる機能紹介では楽観の売上に加えず、実際に顧客が支払った金額で判断する。
- 標準型電子カルテや共通仕様の普及で、主要病院の更新が大手競合へ移り始めたら
- ソフトウェアと保守の数量前提を引き下げ、やや悲観・悲観の可能性を高く見る。特に既存顧客の更新失注は、新規導入の失注より堀の劣化を示す重要な兆候である。
- 賃貸等不動産の収益率が借入金利と資本コストを下回り続け、追加取得が行われたら
- 増分の資本配分は価値を壊す方向と判断する。新たな取得額を事業成長の原資とはみなさず、物件別の賃料、稼働率、売却可能額と借入条件を使って資産価値を見直す。
- 大型案件の受注残が減少し、ソフトウェア売上と営業利益率が2期続けて低下したら
- 一時的な検収ずれではなく案件獲得力の低下を疑う。会社の通期予想よりも、新規受注、受注残の質、売上総利益率、更新失注の状況を優先して確かめる。
- 配当性向が継続して50%を超えるか、発行株数を5%以上減らす自社株買いが実行されたら
- 余剰現金が少数株主に戻る実績として評価し、excess_cash_returnを0.75から1.0へ変更することを検討する。方針の表明だけでなく、支払いと株数減少を確認する。
見ておくもの
- 電子カルテ・オーダリングの稼働施設数と医事会計システム稼働施設数の推移。両者の重複を考慮する。
- ソフトウェアの受注高、受注残高、検収済売上と営業利益率の変化。
- 既存病院の更新時の失注、競合への切り替え、施設当たり保守売上。
- AI機能の有償契約金額、導入工数削減率、顧客が実際に支払う価格。
- 厚生労働省の標準型電子カルテと医療情報連携基盤の仕様、普及状況。
- 賃貸等不動産の簿価、時価、年間賃貸損益、追加取得額と借入金利。
- 定期預金を含めた実質純現金、配当性向、自己株式取得による発行株数の減少。
- 大手競合の病院電子カルテ稼働施設数と、中小規模病院市場の伸び。
倍率と資本コストの決め方
数量はソフト導入・機器販売の年間案件相当数と保守対象施設数で表し、価格はそれぞれの名目売上単価に置いた。会社が実際の案件件数と平均価格を開示していないため、現在の件数と単価は明示的な推計である。実質数量に物価を混ぜず、価格側だけに名目物価を反映した。ソフトウェアと保守にはAIエージェント代替を織り込み、同じ理由を資本コストの寿命や確率に重複計上していない。
資本コストは基本7.5%と値決め力への上乗せ0.5%から8.0%とした。2035年以降の名目成長率を0%とするため、楽観・やや楽観・中立のPERは正当化式から12.5倍となる。中立の2035年ROEは約6.9%でkを下回り、成長投資の価値を別途上乗せしない。悲観側は稼ぐ力と純現金・換価可能資産の大きい方を使い、PBRは将来の積み上がった自己資本ではなく現在の自己資本39.2億円に掛けた。
2025年末の現金同等物約24.49億円には含まれない定期預金相当額約6.68億円を確認し、借入金約24.78億円との差から実質純現金約6.39億円を把握した。これは添付の現金同等物基準の純負債約0.3億円との範囲の差であり、同じ定期預金を二度足さない。賃貸等不動産の帳簿価額約27.25億円と開示時価約20.34億円は区別した。利益倍率による事業価値と賃貸資産価値はrental欄で切り分けるため、資産を単純に二重加算しない。
各筋書きの自己資本は、現在約39.2億円に10年間の累積純利益を加え、累積還元を引く流れに合わせた。中立は累積純利益約54億円、還元21.6億円、期末自己資本約71.6億円である。悲観は累積純利益に不動産の損失を含め、別に同じ損失を自己資本から差し引かない。今の株価296円と株数24,049,200株から計算した時価総額は約71.19億円。賃貸資産の個別調整を除く5筋書きの割引現在価値は約38.5億円、差は約マイナス46%となる。今のPERや過去のPBRから将来倍率を選んでおらず、現在の株価への逆算も行っていない。新リース会計基準で貸借対照表の表示が変わっても、家賃負担を二重に評価しない。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%、株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、公開入札と価格交渉力の弱さ0.5%を加えた。個別の不動産投資リスクとAI代替は、事業の収益・数量・長期成長率で別に評価する。