結論
デジタルアーツは、Web フィルタリング「i-FILTER」など、組織の通信を守るセキュリティソフトの会社だ。企業・官公庁・学校に売り、営業利益率は44%と高い。時価総額の3割にあたる純現金も持つ。
筆者の結論は、会社の質は高いが、10年先の席課金を高く買うことはできない、である。課金は利用者の数にひもづく。AI エージェントが人の代わりに通信を使う時代には、席の数と単価が今のままとは限らない。一方で、AI の利用を管理する需要は新しく生まれる。
堀は国産の分類データと、学校・官公庁での導入実績にある。ただし解約率は確かめられなかったので、10年より先の伸びは名目0%とした。中立の営業利益率は40%で、過去の最高45.7%を下回る。
確率を加重した価値は、今の時価総額に届かない。余った現金の価値は別に積んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、営業利益率44%を10年保てる会社はまれだ。国産の分類データと公共の地盤は本物の堀で、持ち続けたい事業である。
問題は値段より、席課金の10年先が読めないことだ。AI が通信の使い手になれば、席の数を数える課金の前提が揺らぐ。筆者は、読めない部分に高い値は払わない。
現金231億円は安全域になる。ただし戻り方は4分の3にとどめた。株主構成が集中し、使い道を少数株主が決められないからだ。会社の質と安全域は高いが、事業の価値は今の値段を下回ると見る。
何で稼ぐ会社か
主力は、組織が使う Web 閲覧とメール、ファイルのやり取りを安全に保つソフトだ。看板の「i-FILTER」は、危険なサイトや業務に関係ないサイトへのアクセスを制限する。ほかにメールとファイルの保護製品を持つ。
顧客は企業・官公庁・学校で、学校向けは国の GIGA スクール構想(児童生徒に1人1台の端末を配る施策)の端末に入る。売上のほとんどは国内で、契約数に応じた使用料と保守料が積み上がるストック型だ。
開発から販売までの人員は少なく、営業利益率が4割台に乗る。2026年3月期の売上は108億円、営業利益は48億円。会社の計画は2027年3月期に売上120億円、営業利益54億円だ。
優良さと弱いところ
堀の一つは、国産メーカーとして積み上げた URL の分類データだ。もう一つは、学校や官公庁で導入が長く続き、調達の手続きまで含めて乗り換えにくいことである。海外勢が入りにくい日本語の領域で、営業利益率44%を保てている。
弱みは三つある。課金が席型で、AI エージェントの普及に直撃されうる。公共向けの売上は国の予算に左右される。解約率を示す数字が確認できず、堀の定着度は測れない。
財務は自己資本比率が66%で、純現金は231億円ある。上位10株主で約67%を持つ集中した株主構成で、少数株主は経営に口を出しにくい。ただし過去5年で株数は4%ほど減っており、現金を貯めるだけの会社ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のセキュリティ市場は年2桁に近い伸びが続く。攻撃の増加と、学校・官公庁のデジタル化が背景だ。生成 AI の利用管理という新しい需要も出てきた。
競合は海外のクラウド型フィルタ(ゼットスケーラーなど)と、国産の同業だ。大企業では海外勢が強い。中堅企業・公共では、日本語の分類データと保守の手厚さで国産が優位に立つ。
構造的な負け筋は、ブラウザや OS、AI エージェントの基盤にフィルタ機能が組み込まれ、単体のソフトが要らなくなることだ。端末の席が減る点も効く。一方で、AI の通信をどう制御するかは組織の新しい課題で、守りの需要が増える面もある。筆者は、国内の学校・官公庁の地盤は10年持つが、席の単価の上昇は物価に届かないとみる。
資本政策と M&A
配当は配当性向40%弱で、増配を続けている。自社株買いも行い、5年で株数は4%ほど減った。中期経営計画(2025年3月期〜2027年3月期)は公共市場のシェア拡大を重点に置く。目標の数字と還元の具体的な数字は、確認できた資料では見つからなかった。
純現金231億円のうち、運転に要る分と前受けの保守料を除く約190億円を余った現金と見る。戻り方は、配当性向50%に届かず株数の減りも5%に届かないため、0.75とした。
大型の買収は目立たず、自社開発が中心だ。10年以内の買収・TOBの確率は2割ほどという外部の推計がある。支配が集中しているため、実現すれば創業側の意向が決める。
見通しをどちらに寄せたか
国産データと公共の地盤を評価し、中立の営業利益率は過去最高より低い40%に置いた。ただし席課金への AI 代替が10年先に効くため、下側(やや悲観+悲観)を35%、上側を27%とした。中立が最大だが、確率を悲観側に寄せた理由は席型の読めなさだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,859 円645 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,169 円155 億円)。 今の値に割り戻すと 3,372 円448 億円、今との差 −41.9%、 期待の年率 +0.4%(資本コスト 6.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 9,371 円1,245 億円 | 1,730 円230 億円 | +91.4% | +6.7% | 777 円103 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,066 円939 億円 | 1,407 円187 億円 | +46.1% | +3.9% | 1,695 円225 億円 |
| 中立 | 38% | 5,327 円708 億円 | 1,165 円155 億円 | +11.9% | +1.1% | 2,467 円328 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,701 円359 億円 | 1,005 円134 億円 | −36.1% | −4.4% | 890 円118 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,067 円142 億円 | 753 円100 億円 | −68.6% | −10.9% | 200 円27 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,859 円645 億円 | 1,169 円155 億円 | +3.9% | +0.4% | 6,028 円801 億円 |
今の株価時価総額 5,800 円770 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 7% AI 利用の管理が新市場になり、公共の地盤も広がる 利益 68 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 9,371 円1,245 億円
学校・官公庁の更新が続き、AI の利用を管理する機能が追加の売り物になる。契約数は今の1.5倍、単価は物価に近い1.30倍まで上がる。営業利益率は過去最高に近い46%に戻る。ただし AI 機能で金額が出ている開示は確認できなかったので、数量は新規の開拓による分に限った。
- セキュリティソフト(i-FILTER・メール・ファイル保護):数量 450(契約ライセンス換算(万))× 価格 0.47(1万ライセンスあたり年間売上(億円))→ 売上 211 億円・営業利益 97 億円。数量1.5倍・価格1.30倍・営業利益率46%(席型。AI 利用管理の新製品)
倍率:事業の ROE 23.7% が k 6.8% を上回る。残る割合0.5、10年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)から正当化 PER 14.8 倍の上限そのものに置き、余った現金を戻り方込みで足した。全体の PER 16.3 倍。
確率:生成 AI の利用管理を新しい製品として売り、席の減りを打ち消す筋書き。席型で解約率が確認できないため確率は小さく置いた。
やや楽観 20% 公共の更新需要が続き、席の減りは限定的 利益 49 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 7,066 円939 億円
GIGA スクール第2期の端末更新で学校向けが伸び、企業向けも中堅に広がる。AI が事務を肩代わりしても、通信を守る必要は残る。契約数は今の1.2倍、単価は物価を少し下回る1.25倍となり、営業利益率は43%を保つ。利益は今の1.4倍ほどに増え、現金も着実に積み上がる。
- セキュリティソフト(i-FILTER・メール・ファイル保護):数量 360(契約ライセンス換算(万))× 価格 0.45(1万ライセンスあたり年間売上(億円))→ 売上 162 億円・営業利益 70 億円。数量1.2倍・価格1.25倍・営業利益率43%
倍率:事業の ROE 20.7% が k 6.8% を上回る。残る割合0.5、g 0.0%(g_long)から正当化 PER 14.8 倍の上限に置き、余った現金を足した。全体の PER 16.9 倍。
確率:学校・官公庁の更新は国の予算に支えられ、ここ数年は計画を上回って進んでいる。ただし席型のため、楽観に寄せすぎない。
中立 38% 国内の地盤は残るが、席の単価は物価に届かない 利益 35 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 5,327 円708 億円
学校・官公庁の契約は続くが、AI エージェントが通信の使い手に加わり、席の数え方が崩れる。契約数は今の0.95倍にとどまり、単価は10年で1.20倍と物価(1.34倍)に届かない。売上は名目で今の1.14倍、営業利益率は過去最高より低い40%。余った現金は戻り方0.75で価値に入る。
- セキュリティソフト(i-FILTER・メール・ファイル保護):数量 285(契約ライセンス換算(万))× 価格 0.43(1万ライセンスあたり年間売上(億円))→ 売上 123 億円・営業利益 49 億円。数量0.95倍・価格1.20倍・営業利益率40%(席型・AI エージェント代替で価格は物価未満。理由は席の単価を物価ほど上げられないため)
倍率:事業の ROE 17.4% が k 6.8% を上回る。残る割合0.5、10年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)から正当化 PER 14.8 倍の上限そのものに置き、余った現金を戻り方込みで足した。全体の PER 17.8 倍。
確率:国産の分類データと公共の地盤を踏まえつつ、席課金への AI 代替を重ねた最も重みを置く筋書き。
やや悲観 24% 海外勢の低価格競争と席の減少で、利益率が下がる 利益 19 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 2,701 円359 億円
中堅企業の新規が海外勢に流れ、学校でも端末の台数が頭打ちになる。契約数は今の0.75倍、単価は1.05倍にとどまり、営業利益率は33%に下がる。固定費に近い開発費が重く、利益は今の6割ほどに細る。現金は残るが、成長の物語は失われ、投資家の評価は厳しくなる。
- セキュリティソフト(i-FILTER・メール・ファイル保護):数量 225(契約ライセンス換算(万))× 価格 0.38(1万ライセンスあたり年間売上(億円))→ 売上 85 億円・営業利益 28 億円。数量0.75倍・価格1.05倍・営業利益率33%
倍率:事業の ROE 9.8% と k 6.8% から、上限の正当化 PER 14.8 倍。競争で上限まで認めず85%に置き、余った現金を足した。全体の PER 16.0 倍。
確率:AI エージェントによる席の減少と、海外クラウド型フィルタの値下げが重なる筋書き。公共の地盤はあるが、席型の弱さは外せない。
悲観 11% AI エージェントが通信を担い、フィルタ単体の席が消える 利益 6 億円 · PBR 0.8 倍 · 株価時価総額 1,067 円142 億円
AI エージェントが通信の主役になり、ブラウザや OS にフィルタが組み込まれる。単体のソフトは契約数が半分以下に減り、単価も下がる。営業利益率は2割まで落ち、純利益は1桁億円の台に細る。それでも純現金が残るため、価値は稼ぐ力ではなく現金で決まる。
- セキュリティソフト(i-FILTER・メール・ファイル保護):数量 135(契約ライセンス換算(万))× 価格 0.32(1万ライセンスあたり年間売上(億円))→ 売上 44 億円・営業利益 9 億円。数量0.45倍・価格0.90倍・営業利益率20%
倍率:悲観は稼ぐ力が崩れる筋書き。純現金を中心とした床の資産142億円を、今の自己資本184億円で割った PBR 0.77倍で時価総額を置いた。
確率:AI エージェントとブラウザ組み込みの機能が、単体のフィルタの必要を薄める構造的な負け。売上は半分以下になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
セキュリティソフト(i-FILTER・メール・ファイル保護)
Web フィルタリングを中心に、メール・ファイルの保護製品を企業・公共に売る使用料・保守料。
| 数量契約ライセンス換算(万) | 価格1万ライセンスあたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 0.36 | 108 | 48 |
| 10 年後 中立 | 285 | 0.43 | 123 | 49 |
取り方:売上108億円を、契約ライセンス1つあたりの年間売上を仮定して割った推定の件数(開示は無く推定)。型は席(利用者数)課金。AI エージェント代替の表では席の行に置き、国産の分類データと公共の導入実績の2点で上端に寄せた。営業利益は全社の営業利益48億円。
リスクと懸念
AI エージェントによる席の減少
課金は利用者数にひもづく。AI エージェントが通信の使い手になれば、席の数と単価の両方に圧力がかかる。中立では単価を物価未満の1.20倍に置いた。
ブラウザ・OS への機能の組み込み
フィルタ機能が基盤に標準で入れば、単体のソフトの必要が薄れる。海外のクラウド型は価格でも攻めてくる。
公共予算への依存
学校・官公庁向けは国の予算に左右される。GIGA スクール第2期の更新が終われば、需要は一巡する。
集中した株主構成と現金の使い道
上位10株主で約67%を持つ。少数株主は余った現金の使い道を決められず、戻り方を0.75に抑えた。
今後の分かれ目
- 解約率や継続率が高い数字で開示された
- 堀の証拠が2つ以上そろい、g_long を上げる余地が出る。上側の筋書きに重みを移す。
- AI の利用管理の製品で売上の金額が示された
- 席の減りを打ち消せる根拠になり、楽観側の数量を見直す。
- 自社株買いや増配が大きく増えた
- 現金の戻り方を1.0に近づけ、余った現金の価値を引き上げる。
見ておくもの
- 契約ライセンス数と公共向けの売上の動き
- 営業利益率(40%台を保てるか)
- 配当性向と自社株買いの額、純現金の使い道
倍率と資本コストの決め方
先に事業を1つの席型セグメントとして数量・価格・利益率を置き、倍率は式(k 6.75%、g_long 0%)の上限から出し、余った現金を戻り方込みで別に足した。今の株価や同業の倍率は使っていない。IFRS ではなく日本基準で、リース負債の影響は小さい。株数は発行済から自己株を引いた約1,328万株。中期経営計画の数字は確認できなかった。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。