結論
スパイダープラスは、建設現場の図面・施工写真・検査記録をデジタル化する「SPIDER+」を主力とする建設DX企業である。筆者は、現在の時価総額約136億円を大幅な割高と判断する。建設現場の情報を管理する必要性は10年後も残るが、それを人間の利用者数に応じて課金する現在の仕組みが残るとは限らないからだ。
同社には本物の強みがある。熱絶縁工事の現場から生まれた製品は、ゼネコンや設備工事会社の実務を深く理解している。2026年6月末の契約企業数は2,297社、利用ID数は約7.8万に達する。図面と写真、検査結果を一体で管理できることは便利であり、大手顧客との長年の共同開発も競争力を支えている。2026年上期には営業黒字へ転じ、長い先行投資が収益につながる兆しも出てきた。
しかし、数字の裏側では成長の質が変わっている。2026年6月末のID数は2025年末とほぼ同じで、月次解約率は1.1%に達した。ARPUの上昇によって売上は伸びているものの、契約IDを増やし続ける従来の成長経路は弱くなっている。さらに、2025年末時点で売上の98%を占める継続課金には、AIエージェントが人間の画面操作を代替する長期的な逆風がある。
強気材料は、現場管理の周辺まで広げる「Workspace構想」と、2026年5月のインフォマートとの提携である。会社は2028年までの年平均成長率20%以上、ソリューション売上20億円、営業利益率10%以上を目指す。ただし、BPOや受託開発もAIに置き換わる部分が大きい。顧客基盤を広げることと、株主に残る利益を増やすことは同じではない。
10年先の5つの筋書きから求めた現在の本質価値は約19億円で、現在の時価総額を約86%下回る。上振れの可能性は残すが、売上成長の実績だけでは現在の評価を支えられない。長く保有する株主が確かめるべきなのは、ID数ではなく、AI時代にも残る業務基盤の価値と、そこから生まれる自由な現金である。
バリュー投資の観点から
長く保有する株主にとって、スパイダープラスは必要性のある製品を持つ会社だが、まだ安心して長期間の利益を予測できる会社ではない。建設現場には施工写真、検査、図面管理が必要であり、業務を電子化する需要は今後も残る。現場で培った知識を製品に生かせることも評価できる。しかし、その必要性が現在の販売形態と価格を守る保証にはならない。
本当の堀があるなら、値上げしても顧客が離れず、競争相手が同じ機能を提供しても乗り換えが起こらないはずだ。同社ではARPUの上昇が確認できる一方、月次解約率は1%を超えている。顧客の図面や検査記録を管理していることだけでは、法令上の記録の正本を独占しているとは言えない。長期的には建設会社自身のAIや競合の自動化サービスが既存ソフトを置き換える可能性もある。
オーナー利益を考える際には、会計上の黒字だけでは足りない。2026年上期の営業キャッシュフローは黒字だったが、ソフトウェア開発への投資支出が大きく、現金は減少した。新しい機能を作り続けなければ競争に負けるなら、純利益の一部は実質的な維持投資に必要となる。営業利益が出始めたことと、自由に配当できる現金が積み上がることを分けて見るべきである。
経営者は建設現場の問題をよく知っているが、資本配分では上場後の累積赤字、海外投資の見直し、開発資産の減損という課題を残した。インフォマートとの提携は改善の機会だが、既存株主への還元の保証ではない。株式報酬や新株予約権による希薄化にも注意が必要である。
筆者が長期の株主として求めるのは、有料IDが伸びなくても利益と現金を増やせる証拠だ。AIによって顧客の仕事を減らし、その成果に応じた料金を得られるなら評価は変わる。しかし現段階ではその収益化実績が十分ではない。現在の価格には、事業転換が成功するまでの失敗余地を受け止める安全域がない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、建設現場向けクラウドサービス「SPIDER+」である。現場監督はタブレット上の図面に写真、指摘事項、作業記録などを結び付ける。紙の図面を持ち歩いたり、現場で撮影した写真を事務所に戻って整理したりする手間を減らす。顧客はゼネコン、設備工事会社、専門工事会社であり、とりわけ大規模な建築現場や電気・空調衛生設備の施工管理に強みがある。
課金の基本は利用IDごとの月額料金だ。2025年末のID数は78,412、ARPUは月額5,305円で、年換算の継続課金売上であるARRは約49.9億円だった。2025年度の売上高約49億円のうち、継続課金が98%を占める。顧客別のARR構成はサブコン61%、ゼネコン25%、その他14%であり、一般的な住宅工務店向けソフトとは顧客構成が異なる。
主力製品を拡張するのが「SPIDER+ Workspace」である。施工管理に加えて、デジタル帳票、情報共有、BIM閲覧、資機材管理などを一体化する構想だ。インフォマートの受発注サービスとの連携が進めば、現場で発生した情報を購買や支払管理までつなぐ可能性がある。個別アプリの集合から、建設会社の業務を横断する仕組みへ移れるかが今後の分かれ目になる。
もう一つの収入源が「S+BPO」とプロフェッショナルサービスだ。施工図の作成、紙図面や竣工書類のデジタル化、システム連携、個別開発、コンサルティングを提供する。2026年9月にはうるるBPOとの協業などで提供能力を広げた。2026年4〜6月期にはスポット売上が約0.9億円へ増えたが、現段階ではソフトウェア収益に比べて小さい。
会社の報告セグメントは実質的にICT事業が中心である。本分析では経済性を区別するため、継続課金型ソフトウェアと人手を使うソリューションに分けた。前者は利用IDと単価、後者は案件数と案件単価で考える。現場で実際に施工する会社ではなく、現場業務を支えるソフトウェアとサービスを販売する会社である点が、AI代替リスクの判断では重要となる。
優良さと弱いところ
同社の堀、つまり競争相手が簡単には奪えない強みは、現場実務への理解と顧客との共同開発の蓄積にある。図面、写真、検査記録が同じ環境に集まれば、別の製品に移す際にはデータ移行だけでなく、社員への教育や作業手順の変更も必要になる。鴻池組には2013年から関連システムを提供しており、2026年には仕上検査の音声入力AI機能を共同開発した。模擬検査で所要時間を33%短縮した実績は、具体的な現場知識の証拠である。
ただし、価格決定力と顧客拘束力は、強い堀と認定できる水準にはない。2026年6月時点の月次解約率は1.1%で、単純な年率換算では12%台になる。2026年7月にはサーバー利用料金の一部を引き上げたが、法改正のたびに価格改定を継続して受け入れてもらった実績までは確認できない。図面や検査情報は顧客の業務記録であり、同社だけが利用できる排他的なデータ資産とも言い切れない。
同社の収益には規模の経済が働く余地がある。既存システムを多くの顧客に提供すれば、追加IDの販売に大きな製造原価は要らない。一方、建設現場ごとの仕様調整やサポート、機能追加への要求は強い。2024年末には開発方針を変更し、蓄積した機能が開発速度と拡張性を損なう問題に取り組み始めた。2026年上期にも開発資産の減損が発生しており、研究開発投資のすべてが将来の資産価値につながっているわけではない。
資本効率はまだ証明の途中だ。2021年の上場後、2025年まで赤字期が続き、2026年上期にようやく黒字化した。2025年末の自己資本は約27億円で、累積赤字と株式発行によって財務の姿が大きく変わってきた。少ない追加資本で利益を伸ばせる可能性はあるが、利益を再投資したときの利回りが資本コストを安定して上回る実績は不足している。現段階の堀は弱いと判断する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
建設DX市場には確かな需要がある。2024年4月に建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、人口減少と技能者の高齢化も重なった。建設会社は、少ない現場監督で工事を管理しなければならない。日本建設業連合会は2035年に建設技能労働者が129万人不足する可能性を示しており、省力化の必要性は簡単には消えない。
市場規模は、何を含めるかによって大きく異なる。矢野経済研究所が2025年に公表した建築分野の建設テック市場は、2023年度が約1,845億円、2030年度の予測が約3,043億円である。施工管理に加えて設計、積算、調達、ERPなども含むため、その全額がSPIDER+の市場ではない。同社が示す建設DXの潜在市場約9,000億円も、建設関連企業のIT予算から算出した広い市場機会であり、現在競争している施工管理ソフトの売上高とは区別する必要がある。
競争は強まっている。MM総研が2025年12月に実施した利用者調査では、施工管理支援アプリの利用率は建設業全体で42%だった。最も頻繁に利用する製品の構成比は、デキスパート18%、ANDPAD17%、eYACHO16%、SPIDERPLUS12%、蔵衛門10%である。SPIDERPLUSは前回調査の2位から4位へ下がった。ゼネコンに限れば同社は9%で5位だった。これらは利用者調査の構成比であり、各社の売上高シェアとは異なる。
ANDPADは2026年に26万社超の利用企業と69万人のユーザーを公表しており、幅広い協力会社まで巻き込む仕組みを築いている。ただし、その登録企業数とSPIDER+の有料契約社数を直接比較することはできない。eYACHO、デキスパート、蔵衛門、Photoruction、KANNAにもそれぞれ得意分野がある。施工管理ソフトは業界全体で一社独占に向かっているわけではない。
10年先には二つの動きが同時に起きる。建設業のデジタル化は進むが、AIエージェントが図面検索、写真分類、報告書作成、検査記録の入力などを人間に代わって実行する。業務量が増えても、画面を操作する人数や有料IDが増えるとは限らない。中立では同社の有料ID数が減り、利用者シェアも現在の12%から8〜9%程度へ低下する筋書きを中心に考える。建設現場そのものがなくなるのではなく、ソフトウェアの課金単位と競争の形が変わるのである。
資本政策と M&A
資本政策の最大の課題は、成長投資が株主利益に結びついた証拠がまだ乏しいことである。2021年の上場で自己資本を大きく増やした後、営業赤字が続いた。2022年には創業以来の熱絶縁工事を含むエンジニアリング事業を譲渡し、ソフトウェア事業への集中を進めた。事業を整理した判断には合理性があるものの、その後の投資利益率は十分とは言えない。
海外投資でも慎重な評価が必要だ。2024年に設立したベトナム子会社は、事業の進捗を踏まえて2026年5月に活動休止を決めた。大規模な買収失敗ではないが、投下した経営資源が期待した収益につながらなかった事例である。2026年上期のソフトウェア開発資産の減損も、資本配分の成果を検証する材料になる。
2026年5月にはインフォマートと資本業務提携した。創業者から180万株が譲渡され、将来の追加取得に関する権利も設定された。この株式売却は創業者保有株式の移転であり、会社への新たな資金調達ではない。両社の受発注管理と施工管理が結び付く可能性はあるが、提携をそのまま利益成長や買収プレミアムに換算すべきではない。
会社は2028年までの年平均成長率20%以上、ソリューション領域の売上高20億円、連結営業利益率10%以上を中期目標としている。2026年の会社予想は売上高59億円、営業利益0.5億円以上だ。一方、配当性向、DOE、総還元性向、自社株買い金額については具体的な数字の約束がない。2026年も無配予想であり、成長投資を優先する姿勢が続く。
2026年6月末の上位10株主の持株比率は約67.4%で、創業者個人が約47.8%を保有する。過去5年間に明確な増配や株数を大きく減らす自社株買いの実績がないため、余剰現金が少数株主へ戻る割合は0.5とする。楽観側では利益が定着した後の還元開始を見込むが、中立では配当を当然視しない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設業界の人手不足は一時的な流行ではなく、今後数十年続く構造問題である。現場監督の仕事を減らす製品には明確な需要があり、SPIDER+はすでに多数のゼネコンと設備工事会社に利用されている。図面、写真、検査情報を長年管理してきた実績は、新規参入企業が短期間で複製できるものではない。鴻池組との共同開発では、AIを利用した検査業務で33%の時間短縮を実証した。これは現場の具体的な課題を理解しているからこそ生まれた成果である。
2026年上期には営業黒字へ転じ、ARPUも上昇している。2026年7月のサーバー料金改定や新しいパッケージプランへの移行が浸透すれば、収益性はさらに改善する。過去の赤字は製品開発と顧客獲得を優先した結果であり、成熟後には高い利益率を実現できる余地がある。継続課金の割合が極めて高いため、販売費や開発費の伸びを抑えられれば利益は売上以上の速度で増える。
最大の機会はWorkspace構想にある。施工管理だけでなく、デジタル帳票、情報共有、資機材管理、受発注管理へと製品を広げれば、契約企業ごとの売上を増やせる。インフォマートとの提携はバックオフィスとの接続を強め、単独では時間のかかる機能拡張を早める可能性がある。2028年のソリューション売上20億円という目標も、既存顧客への追加販売が成功すれば全く不可能とは言えない。
AIは脅威であると同時に、現場の仕事を自動化する道具にもなる。顧客が必要とするのは画面そのものではなく、ミスなく現場が動くことである。将来、同社がその成果を提供する基盤になれれば、ID課金からより価値の高い契約へ移れる。現在の顧客基盤と現場知識には、その転換を試みるだけの出発点がある。
慎重な見方
建設現場のデジタル化が進むことは、スパイダープラスの売上成長を意味しない。顧客が購入するのは業務の効率化であり、特定のアプリを使い続ける権利ではない。AIエージェントが図面検索、報告書作成、写真分類、検査入力を引き受ければ、人間に割り当てる有料IDは減る。新しいAI機能を提供できても、顧客が人件費を削減するためにID数も減らせば、収益の増加にはつながらない。
すでにID数の伸びは鈍化している。2025年末の78,412IDに対し、2026年6月末は78,438IDで、半年間ではほぼ横ばいだった。企業単位の月次解約率は1.1%であり、契約企業を維持するためにも継続的な新規獲得が必要となる。MM総研の利用者調査ではSPIDERPLUSの順位も下がった。ANDPAD、eYACHO、デキスパートなどとの競争でシェアが縮む可能性を無視できない。
財務面では、売上の増加がまだ十分な株主利益を生んでいない。2025年まで営業赤字が続き、2026年上期の黒字化後もソフトウェア投資が現金を消費した。2026年に開発資産の減損が発生し、ベトナム事業も休止した。会社が2028年の高成長を目指していても、そのための投資が資本コストを超える利益を生むとは限らない。
BPOへの進出も安全な逃げ道ではない。図面の整理、帳票作成、情報の転記、個別開発の一部は、まさにAIが代替しやすい仕事だ。施工図の作成には専門的な判断が残るが、すべての工数が従来どおり有償になるとは考えにくい。ソフトウェアとBPOの両方で単価や数量が圧迫されれば、固定費の重い事業構造は再び赤字に戻る。
現在の時価総額は自己資本の約5倍であり、安定した高利益率をまだ示していない会社としては将来への期待が大きい。創業者の持株比率が高く、株主還元の具体的な約束もない。買収期待を除けば、今の株主が受け取る現金と将来の利益で現在の評価を正当化する道筋は細い。
どちらに重みを置いたか
現場知識と既存顧客基盤には価値がある。しかし、ID数の停滞、競合調査での順位低下、開発投資の回収実績の不足は、将来の利益を慎重に見るべき具体的な証拠だ。AI代替による数量減少は各筋書きと長期成長率に反映し、確率では同じ損失を重ねていない。やや悲観と悲観を合計40%とし、楽観側28%より厚くした理由は、会社固有の顧客維持と資本配分の課題にある。2028年の会社目標を達成しても、それが2035年以降の株主利益を保証するわけではない。結論は大幅な割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 105 円37 億円(+ 還元の換算額還元の合計 5 円2 億円)。 今の値に割り戻すと 54 円19 億円、今との差 −84.4%、 期待の年率 −10.9%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 321 円114 億円 | 33 円12 億円 | +3.0% | +0.3% | 39 円14 億円 |
| やや楽観 | 17% | 219 円78 億円 | 11 円4 億円 | −33.1% | −4.0% | 39 円14 億円 |
| 中立 | 32% | 65 円23 億円 | 0 円0 億円 | −81.1% | −15.4% | 21 円7 億円 |
| やや悲観 | 26% | 34 円12 億円 | 0 円0 億円 | −90.2% | −20.7% | 9 円3 億円 |
| 悲観 | 14% | 24 円9 億円 | 0 円0 億円 | −93.0% | −23.4% | 3 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 105 円37 億円 | 5 円2 億円 | −67.7% | −10.9% | 111 円39 億円 |
今の株価時価総額 343 円122 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 11% 現場インフラへの転換が成功 利益 9 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 321 円114 億円
Workspace構想が成功し、施工管理、デジタル帳票、資機材管理、受発注連携が同じ環境で動く。既存のゼネコンと設備工事会社に追加機能が普及し、インフォマートとの提携による顧客紹介も着実に進む。建設DX市場全体の利用者は増え、同社も施工管理支援アプリの頻用利用者シェアを12〜14%程度で守る。
AIエージェントは写真整理や報告書作成を自動化するが、同社は建設会社の業務手順に深く組み込まれ、顧客が使う管理基盤として残る。鴻池組などとの共同開発を広げ、現場ごとの専門機能をまとめた契約プランが支持される。ただし、有料AIサービスの売上額はまだ開示されていないため、AIによる無制限な数量成長は見込まない。
社員数や販売費の効率化が進み、営業利益率は20%を超える。2028年に目指す10%以上の営業利益率が、その後の製品成熟によってさらに改善する。BPOは高付加価値の専門案件が残り、人手の多い単純作業を減らす。利益の定着後には少額の配当または自社株買いも始まる。
それでも2035年の有料ID数は2025年の年間平均と同程度にとどまる。売上拡大は顧客数の急増ではなく、既存顧客の利用範囲の拡張と利益率改善から生まれる。海外での大型買収による上振れや買収プレミアムは含めず、国内事業の競争力だけで達成できる最良の筋書きとする。
- SPIDER+・Workspace継続課金:数量 77,155(年間平均の有料利用ID数(ID))× 価格 5,960(有料ID当たり月額実現単価(円))→ 売上 55 億円・営業利益 12 億円。AIによるID削減を新規普及で相殺し、数量は今の1.00倍。価格は1.15倍。利益率改善は販売費の抑制と開発体制の効率化による。
- S+BPO・プロフェッショナルサービス:数量 30.0(年間の代行・個別開発案件数(件、推定))× 価格 0.04(1案件当たり平均売上(億円、推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。専門性が高い案件を維持。数量1.00倍、単価1.34倍。AIによる案件数の純増は織り込まない。
倍率:資本コストkは7.75%。事業の純利益は現金利息0.28億円を除いて8.37億円、余剰現金20億円を除いた事業自己資本は57.6億円で、事業ROEは約14.5%。AIエージェント代替を織り込んだg_longは名目0%。正当化PER=(1-g/RONIC)/(k-g)=1/k=12.90倍となり、上限そのものを使用する。事業価値約108億円と現金20億円の戻り方50%相当の10億円で時価総額約118億円。10年間の累計純利益約63億円から還元12億円を引き、2025年末自己資本26.6億円との合計で77.6億円となる。
確率:Workspaceが顧客の中心的な業務基盤となり、インフォマートとの連携も成果を出す場合。ただし競争が強く、AIの収益化額は未開示であるため、複数の成功が必要な上振れとして11%にとどめる。
やや楽観 17% 既存顧客への浸透と収益性改善 利益 6 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 219 円78 億円
国内の建設DX投資は続き、SPIDER+はゼネコンやサブコンで一定の地位を保つ。Workspaceによる情報共有や検査機能の追加販売が進み、既存顧客のARPUは緩やかに上がる。2026年に始まった価格とプランの見直しも大きな解約を起こさず定着する。
一方、ANDPAD、eYACHO、デキスパートとの競争は続く。MM総研の調査で確認された同社の利用者シェアは、おおむね10〜12%の範囲で推移する。建設会社のデジタル化が進んでも、人間が操作するIDの数は増えない。AIが図面検索や検査入力を処理し、顧客企業の中で利用席数が整理されるからだ。
インフォマートとの提携は一部の大型顧客で受発注管理との連携につながるが、建設業界全体の標準となるほどの広がりには至らない。BPOも施工図作成などの専門業務に集中し、単純な帳票整理は自動化される。2028年の売上拡大目標は一時的に達成しても、その後は成熟と競争によって伸びが落ち着く。
営業利益率は15%程度まで改善する。開発資産への投資を選別し、従来より少ない販売費で顧客を維持できることが前提である。過去の赤字を繰り返さず利益を積み上げるが、株主還元は控えめにとどまる。事業の形は守れても、十年先に高成長企業のままでいるわけではない。
- SPIDER+・Workspace継続課金:数量 73,300(年間平均の有料利用ID数(ID))× 価格 5,910(有料ID当たり月額実現単価(円))→ 売上 52 億円・営業利益 8 億円。数量は0.95倍、単価は約1.14倍。新プランと価格改定の効果を認めるが、利用席数は小幅に縮む。
- S+BPO・プロフェッショナルサービス:数量 28.0(年間の代行・個別開発案件数(件、推定))× 価格 0.04(1案件当たり平均売上(億円、推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。高付加価値の個別開発と施工図作成が残り、案件数は微減。
倍率:事業純利益は現金利息0.224億円を除いて約5.62億円、余剰現金を除いた自己資本は51.6億円で、事業ROE約10.9%。k7.75%、g_long0%から正当化PERは12.90倍。長期の成長率がゼロであるため、ROEの高さを過大な成長倍率に変えない。事業価値約72.5億円と余剰現金16億円の戻り方50%相当の8億円を合わせて約80.5億円。10年間の純利益合計約45億円、還元4億円から自己資本67.6億円となる。
確率:大手顧客への新機能販売と費用効率化が進む可能性はある。ただしID数の伸びが鈍っており、営業利益率の継続的な改善には実行力が必要なため17%とする。
中立 32% AI代替と市場競争の中で小幅黒字を維持 利益 2 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 65 円23 億円
建設業界では人手不足を背景にデジタル化が広がる。しかし、SPIDER+が利用企業を増やしても、契約企業当たりのID数は徐々に減少する。AIエージェントが図面検索、写真分類、検査報告書の作成を担うようになり、現場監督が個別に画面を操作する場面が少なくなる。利用者調査での同社のシェアも8〜9%程度まで低下する。
既存顧客は、図面や検査情報を保管する基盤としてSPIDER+を引き続き利用する。鴻池組などの大手顧客との共同開発も継続するが、独自の機能が競合製品や顧客のAIシステムへ次第に広がる。値上げ余地は限定され、2035年の月額実現単価は2025年を小幅に上回る程度となる。建設業の物価上昇と同じだけ販売価格を上げ続けることはできない。
S+BPOは施工図の確認など専門的な作業を残すものの、紙図面の整理、データ転記、定型資料の作成は自動化が進む。案件数が減り、会社の2028年目標にあるソリューション売上20億円が十年先まで続く状況にはならない。インフォマートとの連携は一部の顧客に定着するが、業界の共同インフラを独占するところまでは至らない。
収益面では、販売促進費や新規開発体制を整理し、少ないID数でも小幅黒字を維持する。営業利益率は過去の実績上限に近い5%程度にとどまる。利益が出ても研究開発や基盤維持に再投資が必要で、配当と自社株買いは実施されない。自己資本は緩やかに増えるが、その資本から生まれるROEは資本コストを下回る。
- SPIDER+・Workspace継続課金:数量 63,267(年間平均の有料利用ID数(ID))× 価格 5,650(有料ID当たり月額実現単価(円))→ 売上 43 億円・営業利益 2 億円。AIエージェント代替の『席課金SaaS』型。数量は2025年平均の0.82倍、価格は1.09倍。価格の伸びが物価上昇率を下回る。
- S+BPO・プロフェッショナルサービス:数量 20.0(年間の代行・個別開発案件数(件、推定))× 価格 0.04(1案件当たり平均売上(億円、推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替の『人月・工数』型。案件数は約0.67倍、単価は約1.29倍で、利益はほぼ残らない。
倍率:kは7.75%、g_longはAIエージェント代替を踏まえた0%。事業純利益は現金利息0.168億円を除いた約1.38億円、事業自己資本は46.6億円から余剰現金12億円を除いた34.6億円で、ROEは約4.0%となる。ROEがk以下なのでPERの上限は1/k=12.90倍。事業純利益を12.90倍した約17.8億円に、余剰現金12億円の戻り方50%相当の6億円を加えて約23.8億円。2025年末自己資本26.6億円に10年間の累計純利益約20億円を加え、還元ゼロとして46.6億円に至る。過去のPER・PBRや現在株価を倍率決定に使わない。
確率:現場での製品需要は残る一方、利用ID数の停滞と競争によるシェア低下が観測されている。会社の2028年目標をそのまま2035年まで延長せず、収益構造の成熟を中心に据える。
やや悲観 26% 競争劣位が定着して赤字に戻る 利益 −3 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 34 円12 億円
施工管理アプリ市場ではANDPAD、eYACHO、デキスパートなどの製品が機能を拡充し、SPIDER+との差を縮める。建設会社は既存アプリに新しい業務機能を追加する代わりに、別の基盤への統合や自社AIの導入を選ぶ。新規契約で解約を補うことが難しくなり、利用者調査における同社のシェアは5〜6%程度まで落ちる。
大手顧客との契約は一部残るが、企業ごとのカスタマイズが増え、標準製品としての収益性が低下する。AIエージェントは図面検索や帳票作成だけでなく、検査記録の入力や是正指示にも進出する。現場で必要な情報管理は続くものの、人間の操作画面を中心にしたサービスの価格には強い下落圧力がかかる。
S+BPOも苦しくなる。図面の整理、書類の作成、定型的な個別開発が自動化され、案件数が減少する。施工図作成などの専門作業は残るが、それだけでは会社が整えたサービス提供体制の固定費を十分に回収できない。インフォマートとの提携は事業の下支えにはなるものの、経営全体を反転させるほどの利益を生まない。
営業損益は再び赤字となり、開発費と人件費の圧縮が必要になる。初期数年間の黒字によって一定の自己資本は残るが、その後の損失が蓄積し、配当は実施できない。経営者は主力製品の縮小を受け入れ、事業規模を小さくする判断を迫られる。収益の再成長よりも財務の保全が優先される十年間になる。
残る価値の中心は、競争力を失ったソフトウェアではなく換価可能な金融資産である。開発資産や顧客基盤を帳簿価格で処分できるとは考えず、赤字転落後の追加開発費と事業縮小費用も考慮する。早期に費用削減を進めて現金を守れたとしても、成長企業としての高い資産評価は維持できない。
- SPIDER+・Workspace継続課金:数量 54,009(年間平均の有料利用ID数(ID))× 価格 5,290(有料ID当たり月額実現単価(円))→ 売上 34 億円・営業利益 −3 億円。数量は0.70倍、価格は約1.02倍。顧客数と契約ID数の減少に人件費・開発費の固定負担が重なる。
- S+BPO・プロフェッショナルサービス:数量 16.0(年間の代行・個別開発案件数(件、推定))× 価格 0.04(1案件当たり平均売上(億円、推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。案件数は約0.53倍。専門業務以外の代替が進み、残る体制維持費を回収できない。
倍率:2035年は営業損益と純利益が赤字であり、継続的な稼ぐ力から高い事業価値を認められないため、PERではなく残存する換価可能資産を中心に評価する。PBRの分母は2035年の自己資本28.6億円ではなく、2025年末の現在自己資本26.6億円とする。2026年6月末の純現金は約15.0億円だが、その後の再投資、開発資産の減損、撤退・再編費用、赤字転落後の運転資金流出によって約3億円が失われると想定する。開発ソフトウェアや顧客関係は外部への換価が難しく、追加の売却価値を大きく認めない。残存する換価可能価値は約12億円と見積もり、現在自己資本26.6億円に対するPBR0.45倍、すなわち11.97億円を時価総額とする。2035年の自己資本28.6億円は2025年末自己資本26.6億円に10年間の累計純利益約2億円を加えた結果であり、価値算定の分母として使用しない。検算上の2035年自己資本に対するPBRは11.97÷28.6=約0.42倍であり、中立の23.83÷46.6=約0.51倍を下回る。価値を減額した理由は、将来の積み上がった自己資本を清算価値として扱わず、実際に回収可能と考える金融資産と事業縮小費用を優先したためである。
確率:下に寄せる理由:2026年上期のID数がほぼ横ばいで、月次解約率も1.1%と高い。MM総研の調査で利用者シェア順位が下がっており、顧客基盤の侵食が進む可能性を具体的に確認できるため26%とする。
悲観 14% AI代替とシェア喪失で事業が縮小 利益 −6 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 24 円9 億円
建設会社の業務管理はAIを中心とする新しい仕組みに移り、従来の施工管理アプリを人間が操作する場面は大幅に減る。ANDPADや大手システム会社がAIとの連携を強め、SPIDER+の中核機能を代替する。顧客は図面と検査記録を移行し、必要最小限のアーカイブ利用だけを残す。利用者調査での同社のシェアは3〜4%程度まで低下する。
会社は既存顧客の流出を止めるために値下げし、価格改定による売上維持も難しくなる。新しい機能を開発しても、顧客が利用人数を減らせば追加料金を得られない。大手顧客との共同開発は続くが、その成果が標準製品として広く売れることはなく、個別対応の費用が膨らむ。
S+BPOは定型的な図面整理、情報転記、資料作成などが自動化され、案件数が急減する。専門的な判断を要する施工図作成には需要が残るものの、競合の技術者派遣や外注サービスとの価格競争に直面する。2028年に目指したソリューション売上の拡大は持続せず、経営は固定費削減と製品の縮小に追われる。
ベトナム事業の休止に続き、不採算の開発投資や周辺サービスを整理し、ソフトウェア資産の追加減損も発生する。会社は直ちに消滅するわけではないが、継続赤字によって現預金の一部を失い、借入契約の財務制限条項にも注意が必要になる。配当と自社株買いは実施されず、株主に残る価値は縮小後の現金と換価可能な資産が中心となる。
- SPIDER+・Workspace継続課金:数量 42,435(年間平均の有料利用ID数(ID))× 価格 4,770(有料ID当たり月額実現単価(円))→ 売上 24 億円・営業利益 −6 億円。数量は約0.55倍、価格は約0.92倍。顧客流出、価格競争、固定費負担によって営業損失が拡大。
- S+BPO・プロフェッショナルサービス:数量 11.0(年間の代行・個別開発案件数(件、推定))× 価格 0.03(1案件当たり平均売上(億円、推定))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。案件数は約0.37倍。専門的な仕事だけが残り、固定的なサービス提供費用を回収できない。
倍率:継続的な営業赤字のため利益倍率は使わない。現在の自己資本26.6億円に対する回収可能価値を32%とし、約8.5億円の悲観時価総額とする。これは10年間の純現金消費と無形資産の換価価値ゼロを織り込んだ資産価値であり、過去の谷のPBRから決めたものではない。10年間の純損失合計は約16億円、還元ゼロで自己資本は約10.6億円まで減る。2026年時点の財務制限条項で求められる純資産10億円に接近する状態を想定する。
確率:主力SaaSの競争力低下とBPOの自動化が重なり、現金を減らしながら縮小する構造的な負け筋。財務には純現金があるため即時の倒産を中心にはしないが、上場後の赤字実績を踏まえて14%を配分する。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
SPIDER+・Workspace継続課金
ゼネコンや設備工事会社の施工管理担当者に、図面管理・写真整理・検査・情報共有等のクラウドサービスをID単位で提供する。売上の大部分を占める。
| 数量年間平均の有料利用ID数(ID) | 価格有料ID当たり月額実現単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 77,155 | 5,183 | 48 | 0 |
| 10 年後 中立 | 63,267 | 5,650 | 43 | 2 |
取り方:2026年3月公表の事業計画では2025年度のストック収入比率98%、売上高48.9億円、期末ARR49.9億円。2026年8月決算資料の過去四半期グラフから2025年のストック売上を約47.98億円と推定した。2025年各四半期末のID数75,591、76,694、77,923、78,412の単純平均は77,155。売上47.98億円を年間平均ID数と12か月で除した実現単価を月額約5,183円とした。2025年末の開示ARPU5,305円との差は期間平均と期末値の違いである。営業利益は会社がサービス別に開示していないため、全社損失約0.1億円を便宜上主力事業へ配分した。AIエージェント代替の型は『席課金の業務SaaS・操作画面が価値の中心』であり、堀の証拠が2つ以上そろわないため『記録の正本』型にはしない。中立のID数は今の0.82倍、月額単価は1.09倍とする。
S+BPO・プロフェッショナルサービス
施工図作成や紙図面のデータ化などの業務代行、個別システム開発、連携構築、DXコンサルティングを案件単位で提供する。
| 数量年間の代行・個別開発案件数(件、推定) | 価格1案件当たり平均売上(億円、推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 30.0 | 0.03 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 0.04 | 1 | 0 |
取り方:2025年の全社売上約48.96億円からストック売上約47.98億円を差し引き、スポット収入を約0.98億円と推定。会社はBPOと個別開発の案件数・平均単価・個別損益を開示していないため、年間30案件、1案件約325万円という便宜的な単位に換算した。実際の受注件数を示す数字ではない。2026年第2四半期のスポット売上は約0.9億円に増えているが、これは2025年の年間基準へ遡って加算しない。AIエージェント代替の型は『人月・工数で売るSI受託・コンサル・BPO』で、中立案件数を約0.67倍、単価を約1.29倍とする。施工図の専門的な判断には人手が残るが、図面整理・転記・単純な個別開発ではAIによる代替が進む。
リスクと懸念
AIエージェント代替
最大の長期リスクは、主力SaaSのID課金と、BPO・個別開発の人月課金の両方がAIによって代替されることである。施工管理業務は残っても、図面検索、写真整理、報告書作成、検査情報の入力をAIが担えば、人間の有料IDを減らせる。鴻池組との音声入力AI開発は技術力を示すが、AI機能単独の有償売上金額は確認できない。新しい機能の提供が既存ID収入の減少を上回ると決めつけない。
施工管理市場でのシェア低下
MM総研の2025年12月調査でSPIDERPLUSは頻用製品シェア12%、全体4位となり、前回の2位から順位を下げた。ANDPAD、eYACHO、デキスパートなどが競争相手となる。建設DX市場そのものが拡大しても、競争に負ければ顧客獲得費が増え、契約ID数は減る。市場の成長率と同社の利用者シェアを分けて監視する必要がある。
月次解約率と価格改定
2026年6月末の企業単位の月次解約率は1.1%で、年率換算では12%台に相当する。契約企業数が増えている間は目立ちにくいが、新規契約が鈍ると解約の影響が顕在化する。2026年7月のサーバー価格改定は単価上昇の実績として評価できるものの、値上げ後に解約が増えるなら、価格決定力の証拠にはならない。ARPUと解約率を組み合わせて判断する。
ソフトウェア開発投資の回収
2026年上期は営業キャッシュフローが約1億円の黒字となった一方、無形固定資産への投資支出は約2.45億円だった。さらに開発中ソフトウェアの一部について減損損失が発生している。機能拡張に費用を投じても競合に追随されるなら、追加資本の利回りは高くならない。2028年の利益率目標だけでなく、開発費と償却費を差し引いた自由現金を確認する必要がある。
株主支配と余剰現金の還元
2026年6月末の上位10株主の保有割合は約67.4%で、創業者の持分が大きい。過去5年間に明確な増配や大規模な自社株買いの実績はなく、中期方針にも株主還元に関する定量的な約束がない。利益が将来積み上がっても、少数株主が自由に使える現金になるとは限らない。インフォマートの持分拡大や将来の再編でも、少数株主の利益が守られるかを確認したい。
BPO拡大目標と自動化の衝突
会社は2028年にソリューション領域の売上20億円を目指すが、2025年のスポット収入は約1億円にすぎない。施工図作成など専門性の高いサービスには需要があるものの、単純な情報整理や帳票作成の労務はAIに代替されやすい。売上拡大を狙って人員を増やすほど、顧客が自動化に移行した際の固定費負担は重くなる。収益性と成果報酬化の進捗を伴わない受注増は過大評価しない。
希薄化と借入契約の制約
2025年度有報には約130万株の潜在株式が記載されており、権利行使により既存株主の取り分が薄まる可能性がある。さらに2026年には従業員向け譲渡制限付株式報酬制度が導入された。金融面では2026年6月の半期報告書に、純資産10億円以上の維持や、現預金と運転資金から有利子負債を引いた額をマイナスにしない財務制限条項が記載されている。大幅な赤字が再発すれば、純現金企業でも資金調達の自由度が下がる。
今後の分かれ目
- 有料ID数が前年同期比10%以上増加し、その状態が4四半期以上続いたら
- 中立の数量縮小前提を再検討する。ただし新規契約による一時的な増加なのか、AIによる席数削減を上回る継続的な需要なのかを区別する。
- 企業単位の月次解約率が0.4%未満となり、その状態が12か月以上続いたら
- 顧客の乗換費用と製品定着の評価を引き上げる。強い堀の認定には、これに加えて独自データや規制対応、共同利用基盤など別の証拠も確認する。
- AIを利用した有料サービスの売上高または受注額が年間1億円以上と開示されたら
- AIが既存ソフトを代替するだけでなく、同社の新しい収益源になっているか検証する。成果報酬型の契約が確認できれば、数量と単価の前提を見直す。
- 2028年にソリューション売上20億円と営業利益率10%以上を同時達成したら
- BPOと個別開発の成長力を上方評価する。ただし売上増加が人員数に比例していないか、開発投資後の自由現金がプラスかを確認し、2035年まで持続する利益か判断する。
- MM総研などの同一定義の調査でSPIDERPLUSの利用者シェアが15%以上へ上昇したら
- ANDPADやeYACHOとの競争で優位を取り戻した証拠として、楽観側の確率を高める。ただし調査対象と有料ID数の両方を確認する。
- 開発投資と償却を差し引いたフリーキャッシュフローが3期連続で黒字となったら
- 再投資利回りと資本配分の評価を引き上げる。自由現金が増えた後に配当や自社株買いが始まれば、余剰現金の戻り方も再検討する。
- 純現金が10億円を下回る、または純資産が借入契約の財務制限条項に近づいたら
- やや悲観・悲観の確率を引き上げる。赤字補填のための増資や株式報酬の拡大も含め、既存株主の取り分を再評価する。
見ておくもの
- 四半期ごとの有料ID数、ARPU、ARRの増減を分解し、数量成長と値上げを区別する
- 月次解約率の12か月平均と新規契約企業数、大手・中小企業別の契約動向
- MM総研など同一定義の調査でのSPIDERPLUS、ANDPAD、eYACHO、デキスパートの利用者シェア
- 2026年7月の価格改定後の解約率とARPUの持続性
- AI機能の有償売上・受注額、成果報酬契約、AIによる削減ID数の開示
- 2028年のソリューション売上20億円と営業利益率10%以上の達成状況
- 営業キャッシュフロー、ソフトウェア開発投資、償却費、減損損失と自由現金の推移
- インフォマートとの共同案件・受発注システム連携の売上貢献
- 上位株主の持分変動、配当・自社株買い方針、新株予約権と株式報酬の発行状況
- 純現金残高、自己資本、借入契約の財務制限条項への余裕
倍率と資本コストの決め方
現在の時価総額約135.8億円や市場のPER・PBRを出発点にしない。2025年の継続課金売上を年間平均ID数と実現月額単価に分解し、AIエージェント代替による数量減少と値上げ圧力を2035年の売上に反映した。BPOも人月・工数型として扱い、同社の2028年計画を十年先へ機械的に延長しなかった。
資本コストは7.75%、2035年以降の名目成長率は0%とした。利益が黒字の楽観から中立までは、長期成長率と資本コストから導いた正当化PER12.90倍をそのまま使用する。やや悲観と悲観は赤字のため資産価値を基準とし、2025年末の自己資本26.6億円をPBRの分母にした。2035年に積み上がった自己資本を床の分母として用いない。
やや悲観の価値は、2026年6月末の純現金約15億円を起点に、事業縮小までに約3億円を失うと考え、約12億円の回収可能価値から判断した。現在自己資本に対するPBRは0.45倍、2035年自己資本に対する実質PBRは約0.42倍となり、中立の実質PBR約0.51倍を下回る。最悪の悲観では純現金の消費がさらに進み、無形資産の換価価値も見込まない。
2025年末の自己資本26.6億円を各筋書きの起点とし、10年間の累計純利益と還元額から2035年の自己資本を積み上げた。潜在株式による希薄化は会社全体の価値を算出した後に反映する。2027年4月以降の新リース会計基準による表示変更は、実質的なオーナー利益の増加として扱わない。TOB・MBO・上場廃止予定および継続企業の前提に関する注記は、確認した開示で該当するものを認めなかった。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。国債利回り3%と株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、事業の質による+0.25%を加える。2026年上期は黒字化し純現金も残るため、継続的な財務危機としての追加上乗せは行わない。