結論
Welbyは糖尿病やがんなどの患者が体調・検査値を記録し、医療者と共有するPHRを提供する会社だ。長く持つ株主の見方では、医療現場とのつながりに一定の価値はあるものの、現在の時価総額約25億円は継続的な利益創出に比べて割高と判断する。五つの筋書きと資金調達による希薄化を反映した現在価値は約0.51億円で、時価総額を約98%下回る。ただしこれは赤字長期化を中心に据えた厳しい試算であり、黒字化と追加調達の条件次第で大きく変わる。
2025年12月期の売上は約6.4億円で、営業損失は約4.5億円だった。2026年上期も増収ながら営業赤字が続き、同年6月末の自己資本は約0.57億円に減った。
強みは、患者に使われるアプリを持つだけでなく、約7,000の契約医療機関や製薬企業、検査データとの接点を築いたことにある。高齢化と慢性疾患の増加は追い風だが、政府がデータの持ち運びを後押しするほど、入力画面そのものは競争力になりにくい。製薬企業向けの個別開発も、AIエージェントが開発・運用を効率化すると従来の受託単価を守りにくい。独自データは存在しても、解約率や値上げ実績といった強い堀の証拠はまだ足りない。
2026年10月にはTISIとの提携で販路拡大を図った。同月22日の予防的なサービス停止については25日に全サービスの再開が公表され、情報漏えいも確認されていない。ただし医療情報を扱う会社には安定稼働の信頼が欠かせず、復旧後の契約継続を見極めたい。今後の存続や業務提携による収益改善を全否定しない一方、既存株主の取り分は追加増資で薄まる。利益と株主還元が確立しない限り、株価を支えるのは事業価値より将来の転換期待である。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主は、PHRという社会的に必要なサービスと、その事業を所有することで得られる利益を分けて考える。慢性疾患の患者が日々の記録をつけ、医師がそれを診療に使う行為には価値がある。しかし利用者に無料で配るアプリが広がっても、費用を負担する製薬企業や保険者が十分な継続利用料を払わなければ、株主の手元に残る利益は増えない。医療情報の交換が標準化するほど、便利な画面だけを理由に他社より高い値段を請求しにくくなる。
本当の堀は、医療現場の仕事を支える仕組みに入り、患者の同意を守りながら独自の長期データを蓄積し、その結果を有償で何度も使ってもらうことで生まれる。Welbyにはその種がある一方、導入件数の増加が利益とキャッシュフローに変わった証拠は薄い。2026年10月の予防的なサービス停止は25日に解消が公表され、漏えいも確認されていない。それでも医療情報の管理を引き受ける企業の株主には重い監視事項となる。
純現金に見えた貸借対照表も、転換社債を含めて見れば余裕は乏しい。赤字の補填に必要な資金は、将来の事業利益を既存株主と分け合う新たな出資者を招く。筆者は強気の場合でも、病院や製薬企業が生み出した価値のうち現株主へ帰属する割合を慎重に見る。利益が出ない段階では低い株価そのものは安全域にならない。まず少額でも持続的なオーナー利益が確認できることが、評価を改める出発点だ。
何で稼ぐ会社か
Welbyの事業は会計上『PHRプラットフォームサービス事業』の単一セグメントだが、収益の発生源は大きく二つに分けられる。疾患ソリューション事業は製薬企業などに患者支援プログラムや疾患別PHRを開発・提供し、開発費と利用料を受け取る。過去には薬剤ごとの個別受託が中心だったが、同じ疾患領域で複数顧客に使える共通基盤へ移ろうとしている。2025年の同事業の売上は約3.37億円で、長年にわたる疾患別プロジェクトの累計実績は約40件と開示されている。
マイカルテ事業は医療機関や保険者を入口として、生活習慣病の患者記録、検査値連携、健康診断後の受診勧奨などを提供する。患者から直接利用料を取るのではなく、医療機関、自治体、保険者、提携企業が支払う仕組みだ。2025年末の契約医療機関は約7,019施設で、売上は約2.98億円だった。患者が登録した『かかりつけ医』約3.3万施設には無料利用も含むため、有償契約数と取り違えてはならない。
両事業の先には、本人同意に基づく医療データの二次利用、臨床研究支援、患者向け医療教育という収益源がある。ただし、将来の市場規模と会社が実際に獲得できる売上は別物だ。2026年上期のストック売上は約2.31億円に増えたが、同期間の営業損失は約2.56億円であり、固定費と開発費を吸収できていない。マイナポータル、MeDaCa、医療機関の電子カルテとの接続が進めば顧客に役立つが、接続できることだけで高い継続課金が保証されるわけではない。
優良さと弱いところ
堀の候補は、医療機関への導入実績と、患者の同意を前提に蓄積する疾患・検査データだ。会社は慢性疾患向けPHRとがん向け『マイカルテONC』を広げ、製薬企業からの受託も経験してきた。検査会社や医療機関との接続に必要な調整は参入の手間になる。患者・医療機関・製薬企業をまたぐ接点は、単純な健康記録アプリにはまねしにくい。
しかし、値段を上げられる堀と、利用者数が多いことは同じではない。2025年までの大幅な累積赤字、値上げや低解約率の具体的な開示不足、契約した医療機関と実際に有料で継続利用する医療機関との違いが重い。2026年上期の売上総利益率は約68%と高いが、販管費を差し引けば深い赤字である。営業利益が安定して資本コストを超えた実績はない。
10月22日の緊急メンテナンスは、医療データ事業における信頼性の重要さを可視化した。会社は25日に全サービス再開を公表し、漏えいも確認されていない。停止は解消しても、その間の不便が医師と患者の継続利用に与えた影響は確かめる必要がある。AIエージェントが画面操作や個別開発を代替する一方、標準化されたデータ連携は顧客による乗り換えも助ける。二つ以上の客観的な堀の証拠が揃わないため、事業全体を『記録の正本』型の高成長企業として評価しない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のPHRサービスは成長市場だ。経済産業省と業界団体の試算では、広い定義のPHRサービス市場は2023年約3,577億円、2030年約9,975億円になる。しかしこの市場には健康管理、分析、医療情報システムなどが混在する。Welbyの全売上をこの市場で割るとごく小さいが、それをそのまま狭い治療用PHRの市場シェアと呼ぶのは誤りだ。医療現場での有償導入率、製薬企業の年間案件数、患者の継続使用率を分けて見なければならない。
同社自身が示す市場区分では、製薬企業向け治療・創薬支援の潜在市場が約1,677億円、医療機関向け医療情報システムの関連領域が約486~1,457億円である。推計元の年が古く、対象範囲も広いため市場規模は上限の参考にとどめる。比較相手にはJMDC・DeSC、Ubie、NOBORI、医療機器メーカーの糖尿病管理アプリがある。電子カルテベンダーも標準データ連携の窓口を握り、医療機関向け課金や患者の接点を取りに来る。
治療の継続支援という仕事は10年後も残るが、仕事の遂行方法は変わる。患者による手入力や画面閲覧はウェアラブル機器・電子カルテ連携・AIエージェントへ移り、製薬企業向けアプリの受託開発も低工数化する。病院や製薬企業が自前のPHRに切り替える可能性もある。市場が伸びても、Welbyの有償案件数や実質単価まで伸びるとは限らない。規制適合と情報管理への支出は増え、規模の小さい事業者ほど固定費の重さを受ける。
資本政策と M&A
資本配分の評価は厳しい。2018年に一時黒字を出したものの、その後は赤字が多く、2023~2025年の損失が自己資本を大きく傷めた。配当と自社株買いによる継続的な株主還元は確認できず、還元率・DOE・自社株買い額について数字の約束もない。2026年の業績計画は売上14.66億円、営業損失0.30億円であり、2027年の契約医療機関1万施設とがん領域150施設は事業KPIの目標である。これを配当方針や達成済みの利益と混同しない。
2025年に転換社債と新株予約権で資金を調達し、2026年9月には代表取締役への10万株の第三者割当で0.50億円を調達した。10月にはTISIが連結子会社Welbyヘルスケアソリューションズへ出資する提携を決め、販路と開発負担を分かち合う計画となった。ただし子会社の少数株主への分配が生じるため、売上の伸びが親会社株主の利益と同じ割合で増えるわけではない。
2025年末の上位10株主の保有割合は約77.9%で、過去5年に増配や大きな自社株買いは見られない。余剰資金が生じたとしても株主へ全額戻る前提は弱い。優先すべきなのは追加の希薄化を抑えながら営業キャッシュフローを黒字にし、価値の低い個別開発から撤退することだ。過去の研究開発投資が増分資本利益率を高めたとの証拠はまだない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
PHRの需要は高齢化と慢性疾患の増加を背景に長く残り、データの入力・共有は医療機関の人手不足を補う。Welbyは患者向け疾患別アプリ、医療機関ネットワーク、検査データの接続をすでに持つ。マイカルテONCをがん診療連携拠点病院へ広げれば、患者報告アウトカムや臨床研究で製薬企業にとっての使い道も増える。患者データを本人同意に基づいて流通させる仕組みは、単なる画面のデザインより価値がある。
2026年上期の疾患ソリューション売上は前年同期から大きく伸び、ストック売上も増えている。TISIとの共同営業は自治体に広い販路を持つ相手と組む意味がある。薬剤別の個別開発から共通の疾患別基盤へ移れば、保守費用を抑えながら顧客を維持できる。AIエージェントを開発や運用に取り入れて固定費を大きく下げられれば、需要の数量が横ばいでも収益は黒字に転じる。
転換社債や新株予約権が株式に替わることは既存株主の希薄化をもたらすが、同時に財務負担を軽くする。25日に全サービスの再開が公表された後も医療機関との信頼が保たれるなら、赤字企業から小さくても利益を稼げるPHR基盤への変身はなお可能だ。10年後に世界的な巨大企業になる必要はなく、固定費を削り切れるかが上振れの鍵を握る。
慎重な見方
市場の成長率は株主利益の成長率ではない。患者が無料で使うアプリを普及させても、その設計、情報管理、医療機関営業の固定費を補える有償契約が増えなければ赤字は続く。Welbyは2025年に営業赤字を計上し、2026年上期も粗利を上回る販管費が残った。事業計画は期末に売上が集中する前提だが、その実績確認はこれからである。
製薬企業が依頼していた疾患別アプリの開発・保守はAIエージェントや内製化に置き換わりやすい。マイカルテの手入力と閲覧も、電子カルテ・マイナポータル・機器の自動連携が進めば独立した操作画面の意味を失う。JMDC、NOBORI、製薬企業・医療機器メーカーの自社アプリと競う中で、値上げに成功した公開実績は乏しい。会社が期待する臨床研究データ事業も、規制と本人同意を満たさずに売上を先取りすることはできない。
2026年6月末の自己資本比率は6.7%で、同年9月の新株発行や10月の子会社への外部資本導入は資金制約の裏返しでもある。社債が株式に転換されなければ償還資金が必要になる。さらに10月の予防的な全サービス停止は25日に復旧が公表されたが、更新停止を経験した医師と患者の継続利用率は検証を要する。破綻しなくても、繰り返す増資で持株比率が下がり、事業再建の利益を既存株主がほとんど受け取れない経路がある。
どちらに重みを置いたか
事業の必要性や医療機関との接点は評価するが、現時点では慎重な見方が明確に優勢だ。2026年上期の営業赤字、極端に薄い自己資本、直近のサービス停止と再開後の利用継続の不確かさ、転換社債と増資の存在は、単なる業界一般の不安ではない。楽観・やや楽観に30%、やや悲観・悲観に43%を配分する。下に寄せる理由は、黒字転換に必要な販管費削減が未実証で、悪い展開ほど現株主の希薄化が増えるからである。市場全体の成長や買収期待を無条件の救済価値にしない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 16 円1 億円(+ 還元の換算額還元の合計 0 円0 億円)。 今の値に割り戻すと 6 円1 億円、今との差 −97.9%、 期待の年率 −24.8%(資本コスト 10.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 81 円7 億円 | 0 円0 億円 | −71.1% | −11.7% | 10 円1 億円 |
| やや楽観 | 18% | 26 円2 億円 | 0 円0 億円 | −90.7% | −21.1% | 5 円0 億円 |
| 中立 | 27% | 6 円1 億円 | 0 円0 億円 | −97.9% | −32.0% | 2 円0 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1 円0 億円 | 0 円0 億円 | −99.8% | −45.6% | 0 円0 億円 |
| 悲観 | 16% | 0 円0 億円 | 0 円0 億円 | −100.0% | −60.9% | 0 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 16 円1 億円 | 0 円0 億円 | −94.2% | −24.8% | 16 円1 億円 |
今の株価時価総額 282 円24 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 12% 共通基盤化と大幅な固定費削減が成功 利益 1 億円 · PER 9.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 81 円7 億円
疾患別の個別受託から共通PHRの年間利用契約へ移る取り組みが進む。がん向けマイカルテONCは臨床研究や副作用管理の用途を得て、TISIとの自治体・地域医療連携も受注につながる。10月25日に全サービス再開が公表され、情報漏えいも確認されていない。契約更新と安定稼働を通じて医療機関の信頼が維持される。
それでもAIエージェントによる個別開発の内製化が進み、既存の有償案件数は増えない。マイカルテも入力画面自体は機器連携やAIに置き換わるため、契約施設数はほぼ横ばいにとどまる。代わりに共通基盤化と自動運用で販管費を大胆に減らし、取引条件を保ったまま営業黒字に転じる。営業利益が出ても、過去の希薄化を埋めるほどの巨大な利益にはならない。
- 疾患ソリューション(製薬企業向けPHR開発・運用):数量 16.0(同時稼働する有償の疾患別PHR案件相当数(年間、推定件数))× 価格 0.28(有償案件1件当たりの年間売上相当額(億円、開発・運用料込み))→ 売上 5 億円・営業利益 3 億円。AI代替下でも16件相当を維持。案件単価は今の1.339倍で物価の範囲内。
- Welbyマイカルテ(医療機関・保険者向けPHR):数量 7,019(マイカルテの契約医療機関数(施設))× 価格 0.00(契約医療機関1施設当たりの事業売上相当額(億円/年。保険者向け収入の配賦を含む))→ 売上 3 億円・営業利益 3 億円。契約7,019施設を維持。施設当たり売上相当額は1.14倍、標準化した基盤の粗利を改善。
倍率:資本コストk10.5%、長期g_long0%で正当化PER=(1−0/RONIC)/(0.105−0)=9.52倍。ROEは0.89÷10.0=8.9%でk未満のため、伸びを価値に加えない利益還元力上限1/kを採用。AIエージェント代替は数量とgに反映済みで、同じリスクを倍率から再度引かない。現金の二重加算は行わない。
確率:製薬向けの共通化、病院連携の維持、重大な情報事故の回避、間接費の大幅削減という条件が揃う必要があるため上振れを少数とした。AIの自社販売による数量増は証拠がなく想定しない。
やや楽観 18% 開発効率改善で小幅な黒字 利益 0 億円 · PER 9.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 26 円2 億円
疾患別PHRの共通基盤化で一部の個別開発が減っても、製薬企業との利用料契約が残る。マイカルテの施設数は足元よりやや減るが、TISIや検査会社との接続によって臨床現場の重要な情報経路を担い続ける。医療教育やデータ利活用は補助収入にはなるものの、未立証の大型売上を織り込まない。
AIの活用でプログラム開発と顧客対応の人手を減らし、数年かけて固定費を小さくする。2026年からの赤字をすぐには解消できないが、2036年には営業利益がわずかに残る。黒字化を支えるには新株予約権や転換社債の転換、追加の資本注入が必要で、事業が改善しても元からの株主には利益の全額が帰属しない。収益の柱が一社の大型案件に偏らず、複数の製薬企業や医療機関から小口の更新収入を得られることが、翌年の資金需要を減らす条件となる。
- 疾患ソリューション(製薬企業向けPHR開発・運用):数量 14.4(同時稼働する有償の疾患別PHR案件相当数(年間、推定件数))× 価格 0.27(有償案件1件当たりの年間売上相当額(億円、開発・運用料込み))→ 売上 4 億円・営業利益 3 億円。案件数は2025年推計の0.90倍、単価は1.29倍。
- Welbyマイカルテ(医療機関・保険者向けPHR):数量 6,450(マイカルテの契約医療機関数(施設))× 価格 0.00(契約医療機関1施設当たりの事業売上相当額(億円/年。保険者向け収入の配賦を含む))→ 売上 3 億円・営業利益 2 億円。有償相当施設6,450、施設当たり売上相当額は約1.12倍。
倍率:2036年ROEは0.27÷6.5=4.2%とk10.5%以下。g_long0%なのでAI代替を織り込んだ正当化PERの上限は1/k=9.52倍で、楽観側と同じ公式を使用する。将来の一時的な黒字に高成長倍率を付けない。
確率:ストック売上の増加と医療機関連携は事実だが、医療情報の安全管理と案件獲得コストが残るため、軽い黒字化でも実現には費用削減が要る。
中立 27% 患者基盤は残るが利益に届かない 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 6 円1 億円
医療機関との接点は失われず、慢性疾患患者のデータ共有という用途も残る。ただし製薬企業は疾患別アプリの開発・運用をAIエージェントと社内システムで効率化する。Welbyへの年間有償案件数が減り、画面を主とするマイカルテの課金対象施設も緩やかに減る。患者や医師の活動を支える市場自体は成長しても、その増加が同社の売上へ直結しない。
共通基盤化によって固定費をある程度下げるが、医療機関営業、セキュリティ監査、データ連携費用が重い。営業赤字は今より縮小しても消えず、継続のため複数回の資本注入と転換社債の処理を要する。資本金を追加して事業は残るが、持分の希薄化を経た現株主にとっての将来価値はきわめて小さい。
- 疾患ソリューション(製薬企業向けPHR開発・運用):数量 12.0(同時稼働する有償の疾患別PHR案件相当数(年間、推定件数))× 価格 0.25(有償案件1件当たりの年間売上相当額(億円、開発・運用料込み))→ 売上 3 億円・営業利益 2 億円。AIエージェント代替:人月・工数型案件の中立数量0.75倍、価格1.19倍。
- Welbyマイカルテ(医療機関・保険者向けPHR):数量 5,900(マイカルテの契約医療機関数(施設))× 価格 0.00(契約医療機関1施設当たりの事業売上相当額(億円/年。保険者向け収入の配賦を含む))→ 売上 3 億円・営業利益 2 億円。AIエージェント代替:画面型施設数0.84倍、価格1.10倍。
倍率:赤字が2036年にも続くためPERを適用しない。自己資本3.0億円には将来の増資で作られた資本が含まれ、稼ぐ力がマイナスのため簿価の0.27倍だけを事業継続の残余オプションとして評価する。過去の市場PBRを参照していない。
確率:PHRの需要は存続する一方、2026年上期も販管費が粗利を大きく上回った。AI代替を受けた受託件数と画面課金の縮小を中立の数量に織り込み、未実証の黒字化は中心にしない。
やや悲観 27% 顧客の内製化と赤字の長期化 利益 −4 億円 · PBR 0.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1 円0 億円
製薬企業は薬剤別のアプリを自社の共通ツールに集約し、外部開発の単価を厳しく抑える。医療機関では電子カルテや医療機器からの直接データ連携が進み、患者による画面入力を前提としたマイカルテの価値が弱まる。自治体向けでは大手SIや他のPHR事業者が受注を増やし、TISIとの提携だけでは競争に勝てない。
固定費削減は遅れ、情報管理と規制対応の費用は残る。売上と粗利が減る中で損失を止められず、資金調達のための条件は厳しくなる。親会社の持分が何度も希薄化し、継続企業としての形は残っても現株主への帰属価値はほぼ失われる。旧来の自己資本を悲観側の資産価値の床とはしない。再編を支援する資本提供者がいても、その資金は古い株主への配当より事業運営と情報管理の立て直しを優先して使われる。
- 疾患ソリューション(製薬企業向けPHR開発・運用):数量 9.0(同時稼働する有償の疾患別PHR案件相当数(年間、推定件数))× 価格 0.23(有償案件1件当たりの年間売上相当額(億円、開発・運用料込み))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。有償案件相当数0.56倍。内製化と仕様の共通化で件数が減る。
- Welbyマイカルテ(医療機関・保険者向けPHR):数量 4,800(マイカルテの契約医療機関数(施設))× 価格 0.00(契約医療機関1施設当たりの事業売上相当額(億円/年。保険者向け収入の配賦を含む))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。契約施設約0.68倍、価格はほぼ横ばい。
倍率:2036年にも赤字が続くためPERは用いない。PBRの基準は将来の増資で積み増した自己資本1.0億円ではなく、2026年6月末の親会社自己資本0.57億円に9月の第三者割当0.50億円を反映した評価起点1.07億円とする。その約0.1682倍が全社時価総額約0.18億円である。利益創出力がなく、事業継続と再資本化に依存する少数の残余価値のみを認めた。過去の株価倍率は参照していない。
確率:利益の赤字幅が大きく、顧客が独自のデータ基盤やアプリを選べば収益が急減する。中立より事業の縮小が速く、追加増資の条件も悪くなる。
悲観 16% 信頼の毀損と資金難による実質的な再編 利益 −5 億円 · PBR 0.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 0 円0 億円
2026年10月の予防的なサービス停止は25日に全サービス再開が公表され、漏えいも確認されていない。それでも今後、別の障害が繰り返されるか、停止を契機に医療機関が競合へ乗り換える展開は残る。医療で必要なのは常に使えるという信頼だからだ。製薬企業は個別アプリの予算を削り、AIエージェントや自社アプリへの統合を急ぐ。患者データが携帯できるようになるほど、独立した画面を提供する同社の交渉力は弱くなる。
収益が半分程度に縮む一方、安全管理や顧客対応の固定費は残る。転換社債の償還や繰り返す資本調達を経て、会社が残っても当初株主の持分はごく小さい。場合によっては事業の一部が買い手へ移り、株式の回収価値はさらに低くなる。売却可能な資産より債務が重いので、過去の自己資本を悲観の床としては扱わない。
- 疾患ソリューション(製薬企業向けPHR開発・運用):数量 7.5(同時稼働する有償の疾患別PHR案件相当数(年間、推定件数))× 価格 0.19(有償案件1件当たりの年間売上相当額(億円、開発・運用料込み))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。有償案件0.47倍、単価0.92倍。受託の構造的な敗北。
- Welbyマイカルテ(医療機関・保険者向けPHR):数量 3,500(マイカルテの契約医療機関数(施設))× 価格 0.00(契約医療機関1施設当たりの事業売上相当額(億円/年。保険者向け収入の配賦を含む))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。施設数ほぼ半減、名目単価も下落。
倍率:2036年に継続赤字となる事業へPERを付さず、実質的な再資本化後の残余オプション価値だけを測る。悲観のPBRは将来の増資で作られた自己資本0.2億円に掛けず、2026年9月の第三者割当までを反映した評価起点の親会社自己資本約1.07億円に対する約0.0187倍として、会社全体の時価総額0.02億円とする。旧株主の残る割合10%は最後に別途適用する。直近の純現金は約マイナス1.0億円であり、のれんなどを換価できる床とは数えない。株価や過去の市場PBRによる倍率調整は行わない。
確率:資金繰りの悪化に加え、再稼働後の障害再発や医療機関の解約が重なる複合失敗。漏えいは発生扱いしない。旧株主の2036年時価総額は全社0.02億円に取り分10%を適用した0.002億円で、今の時価総額約25億円の0.008%にすぎない。5%未満でも、これは通常の下振れでなく累積赤字・債務・再資本化が重なった倒産に近い筋書きである。2025年末の純現金1.1億円は2026年中間期には消えており、古い現金を床に戻さない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
疾患ソリューション(製薬企業向けPHR開発・運用)
製薬企業向けの疾患別患者支援アプリ、開発受託、共通疾患プラットフォームの運用を含む。受託工数・成果物を売る部分が中心で、AI代替リスクは人月・工数型と判断する。
| 数量同時稼働する有償の疾患別PHR案件相当数(年間、推定件数) | 価格有償案件1件当たりの年間売上相当額(億円、開発・運用料込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 16.0 | 0.21 | 3 | 2 |
| 10 年後 中立 | 12.0 | 0.25 | 3 | 2 |
取り方:2026年2月27日会社説明資料の2025年疾患ソリューション売上337百万円と、過去の疾患別OEM開発累計約40プロジェクトを使用。年間の同時稼働案件数は非開示のため16件と仮定し、337百万円÷16件=約2,106万円/件年と逆算した推定値であり、契約単価の開示ではない。貢献利益2.38億円は全社売上総利益率約70.6%による按分推計で、監査済み事業別営業利益ではない。AIエージェント代替の人月・工数型で中立数量は16件の0.75倍、価格は物価1.34倍以下とした。狭い治療用PHRの市場占有率は未開示。会社が示す製薬企業向け治療・創薬支援の潜在市場1,677億円は広い関連市場であり、2025年売上の単純比0.20%は同一商品市場での厳密なシェアではない。清算時の換価額の補助検算として、2026年6月末ののれん0.892億円とその他無形資産0.818億円(計1.710億円)を資産床から除外する。個別の事業・顧客関係と切り離して売却できる公開根拠がなく、受託事業の中断時に簿価どおり現金化できないためである。資産の計算は両悲観筋書きのfloor_assets_whyに示す。
Welbyマイカルテ(医療機関・保険者向けPHR)
医療機関と保険者が患者の健診・疾病データを共有し、重症化予防、受診勧奨に使う仕組み。患者は原則無料で、UI・契約施設への機能提供を起点とした席・操作画面型と判断する。
| 数量マイカルテの契約医療機関数(施設) | 価格契約医療機関1施設当たりの事業売上相当額(億円/年。保険者向け収入の配賦を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7,019 | 0.00 | 3 | 2 |
| 10 年後 中立 | 5,900 | 0.00 | 3 | 2 |
取り方:2026年2月27日会社説明資料の2025年マイカルテ売上298百万円、2025年末の契約医療機関7,019施設から298百万円÷7,019施設=約4.25万円/施設年の売上相当額。保険者・自治体向け等の収益も施設数に按分した分析用の単価であり、実際の施設契約料金ではない。無料利用を含むかかりつけ医登録33,010施設とは区別する。セグメント貢献利益2.10億円は全社売上総利益率で按分した推計。2025年末の契約施設は会社開示で内科系医療機関の9.8%、2026年6月には7,270施設で11.3%とされるが、有償課金のシェアや競合別シェアは未開示。AIエージェント代替の席・画面型とし、中立数量0.84倍、価格1.10倍、以降の名目成長は0%と判断。
リスクと懸念
AIエージェント代替と内製化
製薬企業向けの個別アプリ開発と更新は工数削減の恩恵を顧客側が取り込む可能性がある。マイカルテも操作画面と手入力が価値の中心なら、自動データ連携やエージェントが機能を代替する。中立の有償案件数と契約施設数の縮小に既に反映し、これを寿命の割増金利で再び数えない。
自己資本の薄さと増資による希薄化
2026年6月末の親会社自己資本は約0.57億円で、自己資本比率は6.7%に低下した。営業キャッシュフローも流出が続き、9月には経営陣向け新株を発行している。資本不足が続けば低い評価額での増資や社債の転換・再編が起き、会社の生存と古い株主の利益が離れていく。
医療データの安全性とサービス停止
2026年10月22日、PHPの脆弱性への予防措置として大半のサービスを一時停止した。会社は25日に全サービス再開を公表し、その時点で個人情報の漏えいは確認されていないと説明した。停止の長期化を既成事実とはしないが、医療現場での不便や再発、顧客解約が事後的に業績へ響く可能性がある。
期末偏重の売上予想と採算
2026年6月末までの売上は3.76億円で、通期会社計画14.66億円に対して約26%の進捗だった。期末計上予定の大型案件が遅れれば、見かけの増収と現金回収が離れる。粗利率約68%でも販管費が賄えていない事実から、契約数の拡大だけで再建を見込むのは危険だ。
規制とデータ同意の費用
医療・健診データの本人同意、医療情報の安全管理、各社の電子カルテとの接続には継続的な対応費用が要る。標準化とポータビリティは市場を育てる一方、患者や医療機関が事業者を切り替える余地も広げる。規制適合だけで独占的な値上げ力が生じるとは見ない。
提携・子会社持分と競争
TISIとの提携は営業基盤の補完になるが、Welbyヘルスケアソリューションズへの外部資本導入は子会社の利益への親会社持分を下げる。競合には電子カルテ企業、JMDC系の医療データ会社、糖尿病機器メーカーの独自アプリがある。案件の獲得と親会社株主への利益帰属を別に確かめたい。
今後の分かれ目
- 2026年10月25日の全サービス再開後に障害が再発し、医療機関の契約解除が開示されたら
- 運用の信頼が失われるとの証拠として中立の契約施設数を下げ、やや悲観・悲観側の確率を増やす。漏えいは確認されるまで発生扱いしない。
- 2026年下期の売上計上と現金回収が進み、営業キャッシュフローが継続黒字になったら
- 売上の期末偏重に伴う不確実性を縮め、必要な増資と既存株主の希薄化の想定を緩める。まず2期連続の採算を確認する。
- 2027年のマイカルテ契約医療機関1万施設・がん領域150施設を達成したら
- 量の成長の証拠として評価する。ただし有償の単価、解約率、販管費を同時に確認し、無料導入だけなら本質価値は大きく変えない。
- 製薬企業向けの共通PHRの継続契約額、実際の値上げ率、解約率が開示されたら
- 2つ以上の強い継続性の証拠が出た部分だけ『記録の正本』型への変更を検討し、数量とg_longを再評価する。
- 転換社債の償還や新株予約権の行使が実際の株数・資本へ反映されたら
- 調達資金の流入と負債の減少を自己資本へ反映し、現株主の取り分係数も実際の発行済株数で更新する。
- TISIとの自治体向け共同事業が有償の継続契約を積み上げたら
- マイカルテ事業の顧客維持を上方修正するが、子会社少数株主持分を差し引いた親会社純利益で判断する。
見ておくもの
- 2026年10月25日のサービス再開後の障害再発、医療機関の解約、情報漏えいの有無に関する追加発表
- 疾患ソリューションの年間案件数とストック売上の更新率・継続課金比率
- マイカルテの有償契約医療機関数・継続利用数・解約率
- 2027年医療機関1万施設・がん領域150施設の進捗
- 営業キャッシュフローと2026年末の自己資本比率・社債残高
- 転換社債・新株予約権の残数、増資条件、発行済株式数
- 製薬企業・保険者からの継続契約単価と更新時の値上げ実績
倍率と資本コストの決め方
株価や過去・同業のPER・PBRから将来の売上を逆算しない。2025年の疾患別売上3.37億円とマイカルテ売上2.98億円を、有償案件16件相当と契約7,019施設に分け、実質数量×名目単価で2036年を推計した。AIエージェント代替は数量とg_longに入れ、kの寿命には重ねない。黒字側のPERはk10.5%・g0%の正当化上限9.52倍、赤字側は継続価値と換価可能資産の床による。factsの2025年末純現金1.1億円は2026年6月末の借入・転換社債を含む純負債約0.99億円と異なる。のれん0.89億円とその他無形資産0.82億円は独立換価できず、倒産に近い悲観の床は0億円である。悲観の現株主価値が現時価総額の5%未満となる理由は継続赤字と大幅希薄化であり、警告を消すために数字を引き上げない。株価は10月22日基準、サービス復旧は同月25日の公式発表を採用した。
資本コスト 10.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。無リスク金利3.0%と株式リスクプレミアム4.5%の基本7.5%に事業の質の2.0%、継続赤字による経営危機1.0%を加えた。ガバナンスやサービス停止は確率に入れ、kに再加算しない。