結論
ジーダットは、半導体やディスプレーの設計を助けるEDAソフトウェアを開発する小さな技術企業だ。アナログ半導体の配置配線、パワー半導体、フォトマスクの設計支援に強みを持つが、長期保有の観点では現時点の株価は割高と判断する。独自の設計技術と豊富な現金には価値があるものの、現在の利益水準と10年先の競争環境を考えると、安全域が足りない。
この会社を一般的な業務SaaSと同じように扱うのは適切ではない。半導体の微細な配線を正確に設計し、製造工程で問題が起きないよう検証する機能は、AIが普及しても必要である。2024年にはTSMCのOIP EDA Allianceに加入し、主要製品SX-Meisterの活用機会を広げた。世界の半導体設計が高度になるほど、信頼できる専用ツールの重要性は高まる。一方、設計者が画面で操作する部分、ライセンスの利用人数、設計受託の人月にはAIエージェントによる代替圧力がかかる。設計需要の拡大が、そのまま同社の売上増加を意味するわけではない。
財務は非常に堅い。2026年3月期の自己資本は約36.1億円で、現預金約27.4億円のほかに長期預金9億円がある。有利子負債はなく、売上の約1.8年分に相当する現預金と長期預金を保有している。この資金が研究開発の継続を支え、技術競争で敗れた場合の下値も守る。ただし、資金を保有していることと、少数株主が自由に受け取れることは別である。
2027年3月期第1四半期は大型の自社製品案件によって利益が急増した。しかし通期会社予想は据え置かれ、案件の集中を恒常的な収益力と判断するには早い。10年後の中立では売上約19.2億円、純利益約2.1億円を想定する。5つの筋書きから求めた現在の本質価値は約33.3億円となり、基準時価総額約50.3億円を約34%下回る。事業の存続可能性は高くても、現在の値段が長期株主に十分有利とは限らない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主がこの会社を買う理由は、半導体産業の成長そのものではない。顧客が簡単には手放せない専門技術を持ち、必要な研究開発を続けながら、どれだけ自由に使える現金を生み出せるかである。ジーダットにはアナログ設計、パワー半導体、フォトマスク処理という具体的な専門領域がある。顧客の設計環境に一度組み込まれれば、製造上の制約を満たす仕組みを作り直す負担は小さくない。この性質は長期投資に向いた強みである。
だが、継続的な利益を生む堀の幅はまだ狭い。顧客にとってEDAソフトは不可欠でも、ジーダットの製品が不可欠とは限らない。顧客がCadenceやSynopsysの製品群に設計工程を統合したり、自社のAI設計基盤を作ったりすれば、周辺ツールの必要な契約数は減る。TSMCとの技術連携も評価できるが、解約率、価格改定、契約単価の持続的な上昇といった定量的証拠がない限り、強い独占的な堀としては扱えない。
過去10年間の資本効率にも厳しい目を向ける。会社は赤字を回避しながら多額の現金を蓄積してきたが、利益の伸びは自己資本の増加に比べて小さい。増分の自己資本から資本コストを大きく上回る利益を得ているとまではいえない。既存製品の改良に毎年研究開発費を使う必要があり、会計上の利益をすべて自由なオーナー利益と考えるのも危険だ。
現金は確かな強みである。製品開発に失敗しても直ちに存続が危うくなる可能性は低く、親会社の資本支援に依存せず次世代技術へ取り組める。しかし現金を無条件に全額評価するのではなく、前受金に対応するサービス提供義務や研究開発のための留保、支配株主の資本配分判断を考える必要がある。
筆者が重視するのは、専門技術が残る確率より、その技術を通じて10年後にどれほど利益を得られるかである。事業自体は残っても、契約席数が減り単価が伸びなければ、株主が得られる利益は大きくならない。現時点で示された価値と市場価格の間には十分な安全域がなく、長期保有に耐える技術力と、長期保有に有利な購入価格は区別して考えるべきだ。
何で稼ぐ会社か
ジーダットの事業は、半導体などの電子回路を設計する際に使うEDAソフトウェアの開発・販売、販売したソフトウェアの保守、そして顧客から引き受ける設計業務で成り立つ。開示上はEDAソフトウェア開発・販売コンサルテーション事業という単一セグメントだが、収益の性質は異なる。2026年3月期の売上約20.4億円のうち、製品及び商品が約11.8億円、保守サービスが約4.4億円、ソリューションが約4.2億円である。
主力のSX-Meisterは、アナログLSIやセンサー、パワー半導体などのカスタムレイアウト設計を支援する。通常の自動設計では処理しにくい形状や制約を扱う点に特徴がある。PowerGeneratorはSiCやIGBTなどのパワーデバイスの配置配線自動化を担う。HOTSCOPEは大規模なフォトマスクデータの閲覧・解析に使われ、海外のマスク関連企業にも販売機会がある。自社開発品だけでなく代理販売製品も取り扱うため、製品売上のすべてが自社固有技術から生まれるわけではない。
保守サービスは、既存の設計環境を継続して使う顧客から収入を得る。半導体設計ツールは製造プロセスや他社ソフトとの接続が複雑であり、単に使い勝手がよいだけでは交換できない。顧客の設計資産や作業手順が蓄積するほど保守の必要性は増す。ただし、解約率や契約更新率の具体的な開示は見つからず、保守売上の安定性を完全な継続課金とみなすことはできない。
ソリューション部門はデバイス設計受託、顧客向けのソフトウェア開発、設計支援などを担う。顧客の技術課題を理解できる強みがあり、自社製品の開発にも知見を還元できる反面、人員の工数に収益が結びつく。AIが配置配線の定型操作、データ変換、検証作業を自動化すれば、同じ設計成果をより少ない人月で提供できるようになる。
主要顧客としてルネサスエレクトロニクス、ローム、キオクシア、ソシオネクスト、TDK、各種フォトマスクメーカーなどが挙がる。有報では売上の10%以上を占める単独顧客はなく、顧客集中は極端ではない。海外は台湾、中国、韓国、米国などの代理店を通じて販売する。国内設計需要の成熟を海外で補えるかが長期の成長を左右する。
優良さと弱いところ
ジーダットの最大の強みは、他社が簡単には再現できない専門性にある。アナログ半導体やパワーデバイスの設計では、一般的なデジタル回路の自動配置配線だけでは解決しにくい課題が残る。素子のばらつき、配線の寄生成分、発熱や製造上の制約に対応するためには、個別の製造プロセスに合わせた知識が必要になる。SX-Meisterが顧客の設計工程に組み込まれれば、切り替えにはツールの再評価、作業手順の修正、設計データの移行などの負担が発生する。
TSMCのOIP EDA Allianceへの加入も技術的な信用を支える。ただし、これだけで世界標準の設計基盤を握ったとはいえない。Cadence、Synopsys、Siemens EDAと比較すると研究開発規模は小さく、他社製品との互換性や顧客側の設計環境に依存する立場である。解約率5%未満のような定量的な顧客維持実績、法規制で指定された独占的な基盤、継続的な値上げ実績は確認できない。このため堀は局所的には強いが、会社全体を強い独占企業とは評価しない。
過去10年の業績を見ると、2016年3月期から2026年3月期までに売上は約16億円から約20億円に増えた。一方、自己資本は約25.4億円から約36.1億円へ増えたが、純利益は約1.0億円から約1.7億円への増加にとどまる。単純な利益増分を自己資本増分で割ると約6.5%であり、今回の資本コストに近い。年度間の比較には利益の山谷が混ざるものの、資本を積み増せば大きな超過利益が生まれると断定できる実績ではない。
財務の厚さは非常に高く評価する。有利子負債を持たず、2026年3月期には約3.5億円の研究開発費を投じながら黒字を維持した。しかし大量の現金が自己資本利益率を押し下げており、株主から見た資本効率は高くない。主力製品の研究開発で十分な増分利益を得られるか、余剰資金を適切に還元できるかが今後の企業価値を決める。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
EDAは半導体産業に不可欠な基盤である。設計したチップを実際に製造する前に、回路の動作、配置配線、電力、タイミング、製造規則との適合性を確認する必要がある。AIの計算需要が増え、半導体の構造が複雑になるほど検証作業も高度になる。SEMIの2026年10月公表資料では、2026年第2四半期の世界電子システム設計市場は約57.1億ドルで前年同期比12.2%増加した。IC物理設計・検証分野も同16.6%増加している。
ただし、市場が伸びることとジーダットがシェアを高めることは別問題である。PwCの2026年版半導体産業調査では、世界EDA市場は2024年の約152億ドルから2030年には約268億ドルへ拡大すると予測する。同調査ではSynopsys、Cadence、Siemensの3社が2024年時点で市場の88%以上を占めると推計する。大手3社は一貫した設計フロー、膨大な研究開発投資、製造プロセスとの連携を武器にしている。ジーダットはその周辺の専門領域で生き残る企業であり、世界市場全体の高い伸びをそのまま売上予測に使うことはできない。
市場規模の定義には注意が必要だ。SEMIの電子システム設計市場にはEDA以外の半導体IPや設計サービスも含まれる。2026年第2四半期の日本向け調達額約3.03億ドルを年率換算し、ドル円150円で評価すると約1,819億円となる。同社の国内売上約16.5億円はこの約0.9%に相当するが、製品分野が完全には一致しないため正式な市場シェアではない。製品、保守、受託の個別市場シェアも会社からは開示されていない。
最大の構造変化はAIによる設計作業の自動化である。AIエージェントがEDAツールを操作し、設計案の生成、修正、検証を進めれば、必要な技術者の人数やライセンス席数が減る可能性がある。一方で、物理法則を計算するエンジン、設計ルールの検証、信頼できる製造データとの接続は残る。価値は操作画面から計算エンジンと検証結果へ移る。設計作業を自動化する主体が大手EDA企業や顧客自身になれば、専門ツールの提供企業は価格交渉で弱くなる。
国内では車載、産業機器、パワー半導体、半導体製造装置関連の設計需要が重要である。海外では台湾や中国などの設計・製造企業が成長機会になるが、中国のEDA国産化や技術輸出規制は事業機会と障壁の両方になる。FPD市場は成熟しており、従来の液晶向け設計需要に高成長を期待するのは難しい。10年後もEDAの必要性は高いが、どの企業がその付加価値を受け取るかは現在以上に厳しく問われる。
資本政策と M&A
資本配分の最大の論点は、豊富な現金をどこまで株主の利益につなげられるかである。2026年3月末の現預金は約27.44億円に加え、固定資産に長期預金9億円が計上されている。長期預金の開示時価は約8.73億円であり、額面との差は小さい。投資事業有限責任組合への出資約1.13億円も保有するが、換金性に不確実性があるため余剰現金には含めない。
株主還元は近年強化された。2022年3月期以降に増配が進み、2024年3月期から2026年3月期までは年間配当総額が約1.54億円で推移する。2026年3月期の配当性向は約89%であり、直近の純利益の相当部分を還元している。2027年3月期も配当水準を維持する予想で、配当性向は約73%となる見込みである。ただし、配当性向やDOEについて長期の固定的な数値目標はない。
中期経営計画として独立した複数年度の数値目標は確認できなかった。有報では経常利益率10%を経営上の目標に掲げ、2027年3月期の会社予想は売上22億円、営業利益2.9億円、経常利益3.0億円、純利益2.1億円である。ROEの長期目標、総還元性向、自社株買い金額については数字の約束なしと評価する。
アルゴグラフィックスが議決権の約51.4%、セイコーインスツルが約21.2%を保有する。上位10株主の合計は約78.6%と高く、少数株主の資本配分への影響力は小さい。親会社による完全子会社化は将来の選択肢だが、基準日までに公表されたTOBや上場廃止予定は確認できず、買収プレミアムを本質価値に織り込まない。近年の増配を評価する一方、過去5年の配当性向中央値は50%未満で大規模な自己株買いも確認できないため、余剰現金の価値は全額でなく75%を株主に戻せるものとして評価する。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ジーダットは一般的な業務ソフト会社ではなく、製造業の高度な設計を支える専門企業である。半導体設計では、一つの不具合が高額な製造コストや開発のやり直しにつながる。顧客は価格の安さだけでツールを選べない。長年の開発実績があり、設計工程に深く組み込まれたSX-Meisterを簡単に外すことはできない。TSMCのOIP EDA Allianceに参加したことで、世界の半導体設計企業へ技術を紹介できる立場も得た。
2027年3月期第1四半期の大型自社製品案件は、この会社の製品が一件当たり大きな付加価値を生む可能性を示した。代理販売品HOTSCOPEの海外展開やパワーデバイス向け設計自動化も成長機会である。半導体の高機能化に伴い、一般的な設計ツールでは解決しにくい問題が増えれば、専門領域を持つ小規模企業にも十分な役割が残る。大手企業がすべての顧客の特殊な要求に対応するとは限らず、特化した製品の価値はむしろ高まる可能性がある。
AIも脅威ばかりではない。設計者の操作を自動化するAIが普及しても、最後に設計結果の妥当性を検証する専用エンジンは必要である。同社はSX-Meister SCAIの開発を進めており、既存製品の自動化機能を強化できれば契約の維持に役立つ。ただし、AI機能による売上増加額は開示されていないため、AIの導入だけを理由にライセンス数の大幅増加を期待するべきではない。
財務の安全性も長期保有の魅力だ。短期間の業績悪化で研究開発を止める必要はなく、競合の動向を見ながら製品を改良できる。2026年3月期には現預金と長期預金の合計が約36億円あり、時価総額の大きな部分を実物の金融資産で説明できる。売上が緩やかに増え、営業利益率が改善し、配当を継続できれば、長期の株主価値は現在より高くなる余地がある。
慎重な見方
ジーダットの製品が高度であることと、将来も十分に利益を稼げることは別だ。世界のEDA産業ではSynopsys、Cadence、Siemensが圧倒的な開発力を持ち、複数の設計工程を一体化する方向に進んでいる。顧客は個別の優れたツールより、設計から検証までつながる統合環境を選ぶ可能性がある。特定領域に強いことは事実でも、研究開発投資の規模では大手に太刀打ちできない。
AIエージェントの進化は販売数量にも価格にも影響する。これまで複数の設計者が操作していたツールを少数のエージェントが扱えば、必要なライセンス数は減少する。設計作業にかかる時間が短くなれば、受託開発に支払われる工数も減る。顧客が自社の設計データと大手EDA製品を使って作業を自動化すれば、周辺の専門ツールは契約数を失う恐れがある。単にAI機能を追加しただけで、この構造が逆転するとはいえない。
会社の過去の業績にも注意が必要だ。2023年3月期から2024年3月期には利益が増えたが、その後は減益となり、2026年3月期の純利益は約1.7億円にとどまった。製品の技術的な強みは数年前から存在していたにもかかわらず、売上が急成長したわけではない。顧客基盤や契約の更新率に十分な開示がなく、海外展開が安定成長につながる確証も乏しい。
2026年3月期末の受注残高は前年末より約25%少なく、案件の獲得時期によって業績は大きく変動する。2027年3月期第1四半期の好調さをそのまま10年間続く利益に延ばすのは危険だ。支配株主が過半数を保有するため、余剰現金の配分を少数株主が決めることもできない。今の時価総額を正当化するには専門性だけでなく、持続的な収益拡大と適切な現金還元が必要だ。
どちらに重みを置いたか
事業の存続可能性と財務安全性では強気の見方に説得力がある。しかし10年間の利益成長と少数株主への価値の還元を考えると、慎重な見方がやや優勢だ。2027年3月期第1四半期の好調さは評価するが、大型案件の集中による変動と長期の競争力は分けて考える必要がある。
確率は楽観側29%、中立33%、悲観側38%とした。下側を少し厚くした理由は、世界EDA市場の寡占、直近期の受注残減少、海外市場への参入障壁である。AIエージェント代替の影響はすでに中立の数量と長期成長率に織り込み、同じ理由で資本コストや確率を重ねて引いていない。現金が悲観側を支える一方、利益による上昇余地は限定的という結論である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 1,242 円48 億円(+ 還元の換算額還元の合計 336 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 888 円34 億円、今との差 −23.1%、 期待の年率 +3.6%(資本コスト 6.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 1,817 円70 億円 | 478 円18 億円 | +98.5% | +8.1% | 207 円8 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,530 円59 億円 | 447 円17 億円 | +71.0% | +6.3% | 395 円15 億円 |
| 中立 | 33% | 1,220 円47 億円 | 410 円16 億円 | +41.0% | +4.1% | 538 円21 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,036 円40 億円 | 247 円10 億円 | +11.0% | +1.2% | 321 円12 億円 |
| 悲観 | 13% | 854 円33 億円 | 47 円2 億円 | −22.1% | −2.5% | 117 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,242 円48 億円 | 336 円13 億円 | +36.5% | +3.6% | 1,578 円61 億円 |
今の株価時価総額 1,156 円44 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 専門設計ツールが海外でも定着する 利益 4 億円 · PER 14.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,817 円70 億円
半導体設計の複雑化が進み、ジーダットの専門製品が海外のアナログ半導体やパワーデバイス設計で定着する。TSMCのOIP EDA Allianceを通じた技術連携が実際の顧客獲得につながり、SX-MeisterやHOTSCOPEの採用が広がる。CadenceやSynopsysは設計全体を支配し続けるが、特殊な形状のレイアウトやフォトマスク処理では補完製品として必要とされる。
AIエージェントが設計の定型操作を代替するため、一社当たりの契約本数は減少する。しかし新規顧客の獲得と対応用途の拡大がその減少を補い、製品のライセンス換算数量は現在の水準を維持する。保守契約も同程度維持でき、設計受託では自動化によって人員当たりの成果が増える。AI機能の販売実績が金額で確認されていないため、AIによる新規売上の急拡大までは想定しない。
売上は約24.3億円に達し、営業利益率は約19%まで高まる。自社製品の開発投資が報われ、受託部門の採算も改善する。長年の内部留保を活用しながら増配を進め、親会社との販売協力も利益に結びつく。大型買収が行われなくても、独自技術を通じて資本コストを上回る利益を稼ぎ続ける理想的な10年間である。
- EDA製品・代理販売商品:数量 400(年間ライセンス換算本数(推定契約単位))× 価格 0.03(ライセンス換算1本当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 14 億円・営業利益 4 億円。数量は現状維持。製品単価1.15倍。海外顧客の獲得で既存の席数減少を相殺し、高付加価値製品の構成比が高まる。
- EDA製品保守サービス:数量 800(年間保守契約換算件数(推定))× 価格 0.01(契約換算1件当たり年間保守売上(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。保守契約数量は現状維持、単価は1.15倍。設計環境の複雑化と既存製品の採用維持が支える。
- デバイス設計受託・カスタムソフトウェア:数量 35.3(設計・開発の年間稼働人年換算(推定))× 価格 0.16(稼働1人年当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。人年数量は現状維持、単価は物価相当の1.34倍。専門案件の比率が高まり採算が改善する。
倍率:資本コストk6.75%、長期成長率g0%を使用する。余剰金融資産を除いた事業ROEはkを上回り、堀の超過収益残存割合は通常の2分の1である。RONIC=k+0.5×(事業ROE−k)とし、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.81倍。gが0%なので結果として1÷kに一致する。余剰現金24.7億円の税後利息相当0.3458億円を純利益から除外し、現金の戻り方75%による18.525億円を別に加算する。
確率:海外市場の拡大、製品更新、代理販売品の販売増、保守契約の維持がそろう場合である。世界EDA大手との競争が厳しく、国内の小規模専業企業が長期にわたり成功し続ける確率は高くないため9%とする。
やや楽観 20% 専門市場を守り利益が緩やかに増える 利益 3 億円 · PER 14.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,530 円59 億円
アナログ設計、パワー半導体、フォトマスク処理の分野では、ジーダットの製品が補完的な設計ツールとして利用され続ける。半導体産業は成長するが、世界EDA大手3社の寡占構造は変わらない。SX-Meisterの利用基盤は一定の厚みを保ち、HOTSCOPEなどの販売も海外の代理店を通じて続く。
AIエージェントが設計者の画面操作を減らすため、製品のライセンス換算数量は10年間で約5%減少する。保守契約数量も同程度減るが、複雑な設計工程を維持するためのサポート需要が残る。設計受託はAIによる自動化で稼働人年が約16%減る一方、専門性を要する案件では人年単価が物価に沿って上がる。
売上は約22.1億円となり、営業利益は約3.7億円まで増える。研究開発費を維持しながら製品の改良を続け、営業利益率は約17%となる。過去の増配路線も継続する。親会社との協業や販路拡大は利益を補助するが、大型M&Aによる飛躍は必要としない。会社が特別な成長企業にならなくても、収益の質を少し改善できる10年間である。
- EDA製品・代理販売商品:数量 380(年間ライセンス換算本数(推定契約単位))× 価格 0.03(ライセンス換算1本当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 13 億円・営業利益 4 億円。ライセンス換算数量0.95倍、価格1.13倍。既存顧客の減席を新用途と海外販売が部分的に補う。
- EDA製品保守サービス:数量 760(年間保守契約換算件数(推定))× 価格 0.01(契約換算1件当たり年間保守売上(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。保守契約数量0.95倍、価格1.13倍。既存顧客との関係が継続する。
- デバイス設計受託・カスタムソフトウェア:数量 29.7(設計・開発の年間稼働人年換算(推定))× 価格 0.16(稼働1人年当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 1 億円。人年数量は約0.84倍、単価は1.34倍。AIによる工数削減と専門案件への移行が並行する。
倍率:k6.75%、g_long0%、堀の残存割合0.5。余剰現金を除いた事業利益の正当化PERは(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.81倍となる。将来の数量成長を倍率に二重計上せず、製品数と価格の変化は売上・純利益に反映する。純利益から余剰現金の税後利息0.3458億円を外し、現金の回収価値18.525億円を加算する。
確率:既存の顧客基盤と専門製品の優位性が一定程度残り、海外の販売機会も得られる筋書きである。既存契約の更新と新規顧客の獲得の両立はあり得るが、大きな数量成長までは期待しない。
中立 33% 専門技術は残るがAIが販売数量を減らす 利益 2 億円 · PER 14.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,220 円47 億円
ジーダットは10年後もアナログ半導体やパワーデバイスの設計に必要な専門企業として存続する。しかし半導体産業全体が成長しても、同社の市場占有率が大きく高まるわけではない。Cadence、Synopsys、Siemensの総合的な設計環境が広がり、顧客は必要な部分だけ専門ツールを組み合わせる。TSMCとの技術協力や既存顧客の知識は事業を支えるが、強い価格支配力にはつながらない。
AIエージェントの導入により、設計者が手作業で操作する工程は減る。製品のライセンス換算数量は現在の約87%、保守契約は約88%に縮む。製品と保守の単価も物価3%に見合う上昇はできず、10年間で約10〜13%の増加にとどまる。設計受託はAIによって必要工数が約35%減少するが、人年単価は専門性と物価によって約30%上がる。顧客は設計成果を購入し続けるものの、かつてと同じ人数分の作業料金は支払わなくなる。
売上は約19.2億円となり、現在をやや下回る。会社は研究開発を続けながら経費を管理し、営業利益率を約13%に維持する。受取利息の増加も純利益を支えるが、利益の大幅な拡大は起こらない。既存の配当を維持し、財務の安全性を損なわずに生き残る10年間である。独自技術は価値を持ち続けるが、長期の株主価値の相当部分は金融資産によって支えられる。
- EDA製品・代理販売商品:数量 348(年間ライセンス換算本数(推定契約単位))× 価格 0.03(ライセンス換算1本当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 11 億円・営業利益 3 億円。数量0.87倍、価格1.10倍。AIによる席数減少を海外の専門用途が一部補うが、業界の物価上昇を完全には転嫁できない。
- EDA製品保守サービス:数量 704(年間保守契約換算件数(推定))× 価格 0.01(契約換算1件当たり年間保守売上(億円、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 2 億円。数量0.88倍、価格1.13倍。既存設計環境の保守は続くが契約の統合が進む。
- デバイス設計受託・カスタムソフトウェア:数量 22.9(設計・開発の年間稼働人年換算(推定))× 価格 0.16(稼働1人年当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 1 億円。人年数量0.65倍、価格1.30倍。AIが設計の定型作業を代替する一方、高度な個別設計が残る。
倍率:中立の事業純利益は余剰金融資産の利息を除く約1.79億円で、余剰現金を除く事業自己資本に対するROEは資本コスト6.75%を上回る。RONIC=k+0.5×(事業ROE−k)で超過利益の半分が先で薄れるとする。AI代替後の名目長期成長率g_longは0%なので、正当化PERは1÷6.75%=14.81倍となる。余剰現金24.7億円に対応する税後利息0.3458億円を純利益から除き、24.7億円×戻り方0.75=18.525億円を別に加算する。高い現金比率によって薄められた全社ROEをそのまま事業の倍率に使わず、資産価値との二重計上も避ける。
確率:半導体設計に専門ツールが必要であることと、AIエージェントがライセンス席数や受託人月を減らすことの両方を考えた中心シナリオである。大手企業の寡占と国内市場の成熟を踏まえ、会社の売上が市場全体と同じ速度で成長することは想定しない。
やや悲観 25% 主要製品の採用が減り資産価値が中心になる 利益 1 億円 · PBR 1.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,036 円40 億円
半導体設計の自動化が進み、既存顧客は設計工程を大手EDA企業の統合環境へ移す。SX-Meisterは特殊なレイアウトに引き続き使われるものの、新しい製造プロセスでは採用されない案件が増える。TSMCとの協力関係は残るが、そのことがライセンス数の維持を保証するわけではない。海外向けHOTSCOPEの販売も競争にさらされ、会社の市場シェアは小さくなる。
製品のライセンス換算数量は現在の約74%、保守契約数は約78%に減少する。価格は物価の上昇に追いつかず、10年間で約4〜5%しか上げられない。受託開発の稼働人年は現在の約56%となり、顧客の設計作業が自動化されるほど従来の人月料金は必要とされなくなる。
売上は約15.5億円へ減少する。研究開発と既存顧客へのサポートを維持する必要があるため、営業利益率は約6%まで下がる。会社は人員配置や販管費を見直すが、失われた顧客を完全には取り戻せない。大規模な買収や積極投資には進まず、配当も利益水準に合わせて減らす。
この段階では株主価値の中心は本業の高収益力ではなく、過去に蓄積された現金と預金になる。新しい事業を育てる余力はあるが、企業としての優良さは現在より弱くなる。
- EDA製品・代理販売商品:数量 296(年間ライセンス換算本数(推定契約単位))× 価格 0.03(ライセンス換算1本当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 9 億円・営業利益 2 億円。数量0.74倍、価格1.04倍。既存製品の入れ替えが進み、値上げ力が弱まる。
- EDA製品保守サービス:数量 624(年間保守契約換算件数(推定))× 価格 0.01(契約換算1件当たり年間保守売上(億円、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 1 億円。契約数量0.78倍、価格1.05倍。サポートの統合と契約更新の減少が続く。
- デバイス設計受託・カスタムソフトウェア:数量 19.8(設計・開発の年間稼働人年換算(推定))× 価格 0.14(稼働1人年当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。稼働人年0.56倍、単価1.20倍。AIエージェント代替で受託作業の数量が減る。
倍率:営業利益率が大きく低下し、10年後のROEは約1.9%となって資本コスト6.75%を下回る。純利益を資本コストで資本還元すると事業価値は小さく、金融資産の回収可能価値を重視する。現在の自己資本約36.12億円に床の評価倍率1.065を適用すると約38.47億円になる。これは2036年の自己資本38.62億円に倍率を掛けたものではない。事業価値と資産価値を合わせて判断し、今の財務を起点とする売れる資産の床36.8億円を下回らない水準にする。
確率:大手EDA企業への設計環境の統合とAIによる工数削減が重なり、同社の契約数が減る筋書きである。収益は縮むが、無借金で厚い金融資産があるため、すぐに存続危機には陥らないと考える。
悲観 13% 設計ソフトの競争力を失い事業が赤字化する 利益 0 億円 · PBR 0.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 854 円33 億円
2036年には半導体設計の作業工程の多くがAIエージェントによって自動化される。顧客企業はCadence、Synopsys、Siemensの統合設計環境や独自の自動化基盤に移り、ジーダットの専門製品を必要とする場面が減少する。特殊なアナログ設計とフォトマスク処理は一部残るものの、新しい製造プロセスでの採用が増えず、過去の設計資産に依存した保守中心の会社になる。
製品ライセンス換算数量は現在の約55%、保守契約数は約57%まで減る。価格も維持が精いっぱいとなり、10年間の物価上昇をほとんど転嫁できない。ソリューション部門は受託工数が半分になり、顧客の内製化とAIの利用によって新規案件を失う。売上は約11.4億円となり、現在の約56%まで減少する。
研究開発費やサポート費用を売上減少に合わせて削ることは難しく、会社全体では営業赤字になる。会社は開発人員の縮小、製品の統廃合、採算の悪い事業の整理を進める。今まで積み上げた現金の一部を再開発や人員整理に使用するが、借金はないため直ちに倒産するわけではない。既存顧客向けの保守と小規模な専用製品事業が残り、資産の大半は預金として維持される。
上場を維持する場合も、親会社による事業再編が行われる場合も、株主の価値を支えるのは高い利益倍率ではなく換金可能な資産となる。構造的に競争力を失った10年後を想定するため、営業利益の回復を当然視しない。
- EDA製品・代理販売商品:数量 220(年間ライセンス換算本数(推定契約単位))× 価格 0.03(ライセンス換算1本当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。数量0.55倍、価格1.00倍。製品の採用を失い、値上げできない。
- EDA製品保守サービス:数量 456(年間保守契約換算件数(推定))× 価格 0.01(契約換算1件当たり年間保守売上(億円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。数量0.57倍、価格1.00倍。既存顧客の縮小と設計環境の統合が進む。
- デバイス設計受託・カスタムソフトウェア:数量 17.7(設計・開発の年間稼働人年換算(推定))× 価格 0.14(稼働1人年当たり年間売上(億円、名目))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。人年数量0.50倍、単価1.15倍。設計受託の付加価値がAIと顧客の内製化によって失われる。
倍率:営業赤字が続くためPERによる恒常的な稼ぐ力の評価は用いない。2026年3月期の自己資本36.12億円に、現在の換金可能な金融資産から累積の現金消費を引いた床を反映するPBR0.91を適用する。36.12億円×0.91=約32.87億円であり、減損や累積損失を含む2036年の自己資本29.72億円に倍率を掛けたものではない。過去の市場PBRの谷を根拠にはしていない。
確率:AIエージェントによる設計作業の大幅な自動化、世界EDA大手の統合製品への乗り換え、専門製品の更新失敗が同時に進む厳しい筋書きである。技術資産が完全に無価値になるとは見ないが、顧客の減少が研究開発負担を上回る場合を13%で想定する。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
EDA製品・代理販売商品
SX-Meister、パワー半導体設計支援製品、HOTSCOPEなど、自社開発ソフトウェアと代理販売商品の収益。設計計算・検証の機能には持続的価値があるが、ライセンス数と操作画面の部分はAIエージェント代替にさらされる。
| 数量年間ライセンス換算本数(推定契約単位) | 価格ライセンス換算1本当たり年間売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 0.03 | 12 | 3 |
| 10 年後 中立 | 348 | 0.03 | 11 | 3 |
取り方:有報の製品及び商品売上1,178,974千円を使用する。ライセンス本数と顧客ごとの契約単価は非開示であるため、年間1本当たり約295万円、約400本のライセンス換算単位という仮説で表す。400本は実際の契約件数ではなく、更新ライセンス、複数ツール、代理販売品を含む売上換算数量であり、単価も会社の実績開示値ではない。SEMIが公表する世界IC物理設計・検証市場は2026年第2四半期に8.183億ドル、年率換算では約32.7億ドルとなる。同社製品売上はその約0.24%に相当するが、対象製品が完全一致しないため厳密な市場シェアではない。2024年時点の世界EDA市場では大手3社が88%以上を占めるというPwCの推計を競争環境の参考とする。製品別の採用数、価格、シェアが開示されないことは予測の大きな不確実性である。営業利益は会社全体からの分析上の配賦であり、開示された部門利益ではない。AIエージェント代替の分類は、原則として席課金・操作画面中心のソフトウェア型とする。
EDA製品保守サービス
既存顧客に対する製品更新、技術サポート、設計環境の維持など。既存の設計資産との互換性が契約継続を支えるが、エージェントが操作や問い合わせを代替することで契約単位の減少や値下げ圧力が生じる。
| 数量年間保守契約換算件数(推定) | 価格契約換算1件当たり年間保守売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 0.01 | 4 | 1 |
| 10 年後 中立 | 704 | 0.01 | 4 | 2 |
取り方:有報の保守サービス売上439,043千円を使用する。保守契約数、更新率、契約単価は非開示であり、年間約55万円の契約換算単価と800件の仮定によって数量と価格を表現する。実際の顧客企業数や保守ID数を示すものではない。独立した保守市場規模も公表されておらず、EDAライセンスの設置基盤に付随する市場として扱う。単体の保守売上を世界ESD市場全体と比べた場合の比率は0.02%未満だが、分母には製品とIPが含まれるため正式なシェアではない。会社の保守売上は前期比約5%増加したものの、数量増と単価上昇の内訳は不明である。営業利益は推定配賦。AIエージェント代替の分類は席・ID課金に準ずる保守契約型とする。
デバイス設計受託・カスタムソフトウェア
デバイス設計受託、ソフトウェアの個別開発、設計支援やコンサルテーション。顧客の特殊な製造プロセスに関する専門性が強みだが、作業工数を減らすAIの影響を直接受ける。
| 数量設計・開発の年間稼働人年換算(推定) | 価格稼働1人年当たり年間売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.3 | 0.12 | 4 | 1 |
| 10 年後 中立 | 22.9 | 0.16 | 4 | 1 |
取り方:有報のソリューション売上423,586千円と従業員130名を使用する。設計技術者の年間請求額を人年当たり約1,200万円と仮定すると約35.3人年になる。これは全従業員の約27%に相当し、研究開発・製品販売・管理業務にも相応の人員が必要なことと整合する。ただし実際の受託従事者数と請求単価は非開示である。SEMIの世界ESDサービス市場は2026年第2四半期に2.517億ドルで、年率換算した約1,510億円に対する当社ソリューション売上の比率は約0.28%となる。市場定義が一致しないため概算比較にとどまる。設計成果物と人月の対応には幅があり、実際の数量が推定と異なれば単価も変わる。営業利益は推定配賦。AIエージェント代替の分類は人月・工数型とする。
リスクと懸念
AIエージェント代替
半導体設計そのものが不要になるわけではないが、設計者の操作、配線修正、検証の定型処理をAIエージェントが行うことで必要なライセンス席数と設計受託人月が減る。自社製品の計算・検証エンジンが価値を保っても、契約数と価格が縮む可能性がある。中立の数量と長期成長率にすでに反映しており、資本コストには重ねない。
世界EDA大手による市場支配
Synopsys、Cadence、Siemensは世界のEDA市場で圧倒的な規模を持ち、設計工程を一体で扱う製品群を提供する。顧客が統合環境へ移れば、ジーダットの特殊ツールは高い機能を持っていても補完的な立場にとどまる。研究開発費の規模の差が新技術への対応速度を左右し、既存の設計資産が次世代へそのまま引き継がれる保証はない。
研究開発の固定費負担
2026年3月期の研究開発費は約3.47億円に達する。製品売上が減っても開発者やサポート体制を急に減らすことはできず、収益が下がる局面では固定費が利益を強く圧迫する。半導体の微細化や新材料に対応できなければ顧客を失うため、支出を削ること自体が長期競争力を弱める可能性もある。
案件集中と受注変動
2026年3月期末の受注残高は前年末から約25%減少した一方、翌期の第1四半期には大型の自社製品案件で大きな利益を得た。年間売上が20億円程度の会社では、数件の案件の時期が利益を大きく動かす。大型契約を毎年継続できると考えるのは危険であり、四半期ごとの急増益を10年後の通常利益に延長すべきではない。
海外市場と輸出規制
中国や台湾などの半導体関連企業は潜在的な顧客であるが、中国ではEDA技術の国産化が進み、先端半導体の設計技術には輸出規制が関わる。代理店経由の販売では顧客開拓だけでなく規制対応や技術支援が必要である。海外売上の伸びが一時的な大型案件に依存する場合、安定した契約基盤を形成できない。
親子上場と余剰現金の配分
アルゴグラフィックスが過半数を保有し、セイコーインスツルを合わせた保有比率は7割を超える。少数株主は現金の配分や事業再編を主導できない。近年の増配は評価できるものの、将来の配当性向や自社株買いに関する固定的な数字の約束はない。余剰現金が大きいことだけを理由に、その全額を現在の株主価値へ加えることはできない。
今後の分かれ目
- 自社開発EDA製品の売上が3年以上連続して増え、同時に保守契約売上も継続して増えたら
- 顧客への定着と製品競争力の改善が確認できる。数量減少の想定を緩め、楽観・やや楽観の確率を高める。契約数と単価の分解が開示されれば、AI代替の影響も精度高く評価する。
- AI機能を組み込んだSX-Meister製品の売上・受注額が具体的に開示されたら
- AIが既存契約の防衛だけでなく売上増加につながる可能性を検証する。既存製品の置き換えではなく純増の売上だと確認できれば、製品数量と10年後の利益を上方修正する。
- 製品ライセンスの減少と同時に保守サービスの売上が2年連続で減少したら
- AI代替や競合製品への移行が設置基盤に及んでいる可能性が高まる。やや悲観側へ確率を移し、保守の更新率を厳しく見直す。
- 営業利益率が15%以上で複数年度定着し、研究開発費も維持できたら
- 高い製品付加価値と固定費管理が両立していることになる。中立の利益率を上方修正できるが、一時的な大型案件による改善ではないかを確認する。
- 親会社が自社株買い、特別配当、余剰現金の分配など具体的な資本政策を発表したら
- 現金の株主への戻り方を再評価する。継続的な還元実績が十分に確認できれば、excess_cash_returnを0.75から1.0へ引き上げる余地がある。正式なTOBが発表された場合は通常の独立企業としての長期評価を停止する。
- 受注残高の減少が続き、製品売上が数年間にわたって前年比減少したら
- 大型案件の反動ではなく設計ツールの競争力低下を疑う。製品数量を下方修正し、研究開発費の固定負担による利益率悪化を悲観側へ反映する。
見ておくもの
- 製品及び商品、保守サービス、ソリューションの3区分の売上高と受注残高
- SX-Meister、PowerGenerator、HOTSCOPEなどの製品別販売実績と新規採用顧客
- AI製品SX-Meister SCAIの売上額、受注額、従来製品との置き換え状況
- 研究開発費の金額と売上比率、開発人員数、営業利益率の推移
- TSMCのOIP EDA Allianceを通じた製品採用と海外販売の実績
- 世界EDA大手3社の設計環境統合とAI設計ツールの普及状況
- 現預金・長期預金・投資組合持分の変化、配当総額、自社株買いの有無
- 親会社アルゴグラフィックスによる株式保有比率と資本政策
- 2027年3月期第1四半期の大型案件収益が翌四半期以降も継続するか
倍率と資本コストの決め方
株価1307円、発行済株式から自己株式を控除した3,849,328株、時価総額約50.31億円は価値との比較の最後にのみ使用した。事業は会社が開示した製品及び商品、保守サービス、ソリューションの3区分に分け、それぞれ推定契約数量と名目価格で2036年の売上を組み立てた。数量と単価の実績が非開示であるため換算単位は仮説であり、これを会社が公表した契約数とは扱っていない。
AIエージェント代替は中立のライセンス数量0.87倍、保守数量0.88倍、受託人年0.65倍に反映し、製品と保守の単価上昇も物価3%を下回らせた。さらに10年より先の名目成長率を0%とした。技術寿命の評価や確率に同じAI要因を重複させていない。中立の営業利益率は過去の最良期以下とし、本社費の物価上昇を含む調整費用を2036年に約2.93億円とした。ソフトウェア企業であるため有形設備の償却額を物価と同率で単純に増やさず、更新投資と区別した。新リース会計基準によるBS表示の変化は、営業利益から費用を二重控除する理由にはしない。
倍率は市場の過去PER・PBRから決めていない。資本コスト6.75%とg_long0%、現金を除く事業ROEから正当化PERを導き、楽観から中立まで上限の14.81倍を使用した。余剰現金24.7億円の税後利息を純利益から外し、戻り方75%の資産価値を加算した。やや悲観と悲観では利益の回収力より資産の床が重要となるため、現時点の自己資本と将来の換金可能な資産からPBRを決めた。悲観では長期預金9億円を落とさず、損失と配当による現金消費を明示した。
5シナリオの将来時価総額と期間中の還元を資本コストで割り引き、現在の本質価値は約33.3億円となる。現在の時価総額との差は約マイナス33.8%であり、評価は割高である。中立の2036年時価総額約45.1億円が現在の時価総額をやや下回ることも、現在価格を中立に合わせに行かなかった結果である。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基準資本コスト7.5%から、利益変動の小ささ0.5%と純現金の厚さ0.25%を差し引いた6.75%。株価のβや時価総額による規模プレミアムは使わない。AI代替、海外販売、親子上場のリスクは数量、利益率、現金の戻り方、確率に反映するため、個別の上乗せは行わない。