結論
ネットイヤーグループは、企業のウェブサイトやアプリ、顧客との接点を設計し、構築から運用まで請け負うデジタルマーケティング会社である。筆者の結論は「割高」だ。財務は堅いが、稼ぎの中心が人の工数を販売する受託事業であり、10年後の利益を現在より大きくできる確信が持てない。
2026年3月期の売上高は約37億円、営業利益は約3.3億円だった。営業利益率は9%まで改善したが、過去には赤字も繰り返し、2015年3月期の売上高約72億円からは大幅に縮んでいる。ただし、この縮小には子会社売却と連結・単体の範囲変更が含まれる。同じ事業の需要が一貫して半減したと読むのは正しくない。
最大の魅力は約22.5億円の純現金である。時価総額約35.1億円に対して厚く、大幅な赤字が一時的に出ても事業を立て直す時間を買える。NTTデータが約48.5%を保有し、大手企業との取引基盤もある。しかし、NTTデータグループからの売上高は減少しており、資本関係だけで案件や利益が保証されるわけではない。
生成AIは同社にとって生産性を上げる道具であると同時に、顧客が外注していた仕事を自ら処理する手段でもある。会社はAIエージェント事業への転換を掲げるが、独立した高収益事業としての売上実績はまだ十分に確認できない。確率加重した現在価値は約20.1億円で、基準時点の時価総額を約43%下回る。現金の厚さを評価したうえでも、事業の不確実性に対する安全域は不足している。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の立場では、まず顧客が10年後にも代金を払い続ける理由を問いたい。企業が顧客との接点を改善する必要は消えない。しかし、ウェブサイトを作り、運用し、分析する仕事のうち、現在は専門家に時間をかけて頼んでいる部分の多くがAIで自動化されるだろう。必要なサービスが残ることと、そのサービスの提供者が現在の料金を維持できることは別である。
本物の堀とは、競合が安く売っても顧客が離れず、必要な投資を続けても資本コストを超える利益が積み上がる仕組みである。同社には大手顧客との取引実績と現場の知識があるが、独占的なデータ、規制上の権利、高い継続課金比率といった堀は確認できない。むしろAIの普及により、これまで経験豊富な人材に集中していた技術の一部が顧客側へ移る可能性を重く見る。
オーナー利益の面でも、会計上の純利益をすべて自由な現金とは考えない。人材の教育や維持、顧客ごとの提案、外注費、システム開発への再投資は避けられない。顧客を獲得するたびに同じような費用が発生するなら、利益を再投資しても高い増分利回りを得るのは難しい。AIで工数を削減しても、それが顧客への値下げに吸収されれば、株主の取り分は増えない。
約22.5億円の純現金は、この評価を大きく支える。新規事業を試す余力があり、失敗から回復する時間もある。しかし、現金は経営者が株主のために使って初めて額面に近い価値を持つ。現金が豊富だからという理由だけで、競争優位が弱い受託事業に高い倍率を払うことはできない。
筆者が求めるのは、AIエージェントによる成果報酬や継続課金の実績、それに伴う高い増分ROIC、そして余剰現金を適切に還元する姿勢である。それが数字で確認できるまでは、将来の事業転換を高く買わず、既存事業の縮小と現金の価値を分けて判断するのが妥当だ。
何で稼ぐ会社か
同社の事業は、顧客企業の事業課題を理解し、デジタル上の顧客体験を改善する仕事である。顧客調査、戦略立案、ウェブサイトやアプリの設計、システム開発、運用改善を一体で引き受ける。単に広告枠を仕入れて転売する会社ではなく、企業が顧客とどう接するかを実装する受託サービス会社という理解が正確だ。
2026年3月期の報告セグメントはSIPS事業の単一セグメントである。会社の中期計画では、既存顧客の事業成長支援、新領域の事業開発、将来の事業創出を区別しているが、実績売上高はその区分別には開示されていない。したがって、計画上の区分に現在の売上高を恣意的に配分せず、数量分析では開示された案件数を手掛かりにSIPSを一つの事業として扱う。
顧客にはスターバックス コーヒー ジャパン、モスフードサービス、NTTデータなどが並ぶ。2026年3月期の売上高は、それぞれ約5.15億円、約3.86億円、約4.89億円だった。顧客が求めるのは制作物そのものではなく、予約、購買、会員管理、顧客対応などを使いやすくし、事業成果に結び付けることである。この理解と実装能力が受注の源泉になっている。
一方、売上高は顧客から受ける案件の数、案件当たりの工数、単価、外注範囲によって決まる。2026年3月期には約13.4億円の外注費が発生しており、顧客への請求額がそのまま高い付加価値になる構造ではない。優秀な人材を確保して案件を増やせば売上は伸びるが、人件費と外注費も増える。案件を繰り返し請け負うだけでは、規模が大きくなるほど利益率が高まる仕組みにはなりにくい。
会社はこの制約を克服するため、生成AIによる開発・運用の効率化やAIエージェントを利用した新サービスを進めている。ただし、PoCや作業時間短縮の事例と、継続課金される独立した製品の実績は区別すべきだ。現在の利益を生む主役は、依然として顧客ごとに人が設計・開発・運用する仕事である。
優良さと弱いところ
競争上の強みは、大手顧客のブランドや業務を理解し、顧客接点の設計からシステム実装まで伴走できることだ。長く取引してきた顧客では、過去の設計判断や業務上の制約を知っていることが次の受注を助ける。企業の重要なウェブサイトや顧客向けシステムを切り替えるには検証と社内調整が必要であり、取引関係には一定の粘着性がある。
しかし、この強みを長期間の高い価格決定力と同一視してはいけない。解約率が極めて低いという数値、法令に基づく独占的な地位、競合が利用できない独自データ、継続的な値上げ成功を示す十分な開示は確認できない。顧客が案件ごとに予算と委託先を選ぶ以上、電通デジタル、トランスコスモス、総合コンサルティング会社や内製チームとの競争から自由ではない。
2015年3月期には営業利益率6%台を確保したが、その後には営業赤字の年度が複数あった。2026年3月期の営業利益率9%は改善を示すものの、これだけで持続的な二桁利益率を証明したとは言えない。過去10年のROE中央値は約5.1%で、通常の株主資本コストを下回る。既存利益を再投資しても十分な超過収益が出るかどうかは、まだ立証途上である。
財務の質は事業の質より明らかに高い。自己資本比率は約81%、純現金は約22.5億円で、有利子負債による強制的な資金繰り悪化を心配する必要は小さい。もっとも、現金が豊富な会社と、現金を高い利回りで再投資できる会社は別である。現金を受託事業の赤字補填や成果不明の新規事業に使えば、株主にとっての価値は減る。
堀の評価は「弱い」とする。顧客理解と実装経験には価値があるが、AIエージェントがウェブ制作、運用、分析の工数を大幅に減らせば、従来の経験の一部は商品として売れなくなる。10年後も仕事は残るだろうが、現在と同じ人数と工数を請求できるとは限らない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のデジタルマーケティング投資は、企業の顧客接点のオンライン化、会員情報の活用、電子商取引、顧客体験改善によって支えられる。会社の中期計画が参照するウェブソリューション市場は、おおむね3,300億〜4,500億円規模である。別の市場調査では2024年を約3,670億円とする推計があり、同社の売上高を単純に照らすとシェアは1%前後となる。ただし、調査市場と同社の売上範囲は完全には一致せず、これは公式な市場シェアではない。
競合は電通デジタル、トランスコスモス、博報堂系のデジタル事業、アクセンチュアなどである。各社は広告、コンサルティング、BPO、システム開発を異なる範囲で計上しているため、開示売上高をそのまま並べて厳密なシェアを算出することはできない。大手企業ほど営業網、専門人材、開発投資、顧客との包括契約で優位に立ちやすい。同社は小回りと専門性で戦える一方、業界の価格水準を決める立場ではない。
市場全体の支出が増えても、人月型の事業者の売上高が増えるとは限らない。生成AIによって、サイトの構成案、画面制作、コード生成、テスト、広告素材制作、分析資料作成の必要工数が減るからだ。顧客が同じ成果を少ない費用で得られれば、市場で取引される作業量は縮む。AIエージェントが複数の業務システムを直接操作するようになれば、人が画面を使うことを前提とした設計業務にも構造変化が起きる。
一方、顧客情報の保護、複数システムの連携、ブランド管理、業務手順の再設計、責任ある運用は残りやすい。これらの仕事で顧客企業の成果に応じた報酬を得られれば、工数減少を収益拡大に変える余地がある。ただし、成果報酬契約の拡大やAI製品の継続課金売上を示す定量的な証拠はまだ不足しているため、中立の数量成長には織り込まない。
筆者が注目するのは、業界の名目市場規模よりも、同社が顧客の予算のどの部分を獲得できるかである。従来の制作・開発予算が減り、企業内のAI利用料やクラウド基盤費用へ移れば、市場の需要が強くても同社のシェアは下がる。10年先にはデジタル顧客接点への投資自体は必要だが、それを提供する企業の収益構造は現在と相当異なっていると考える。
資本政策と M&A
資本配分を評価するうえでは、買収による規模拡大よりも、買収した事業を長く保有できたかが重要である。同社は過去に日本技芸やトライバルメディアハウスなどを傘下に収めたが、その後に持分を売却して事業構成を変えている。これにより、かつての連結売上高と現在の単体売上高を直接比較しにくくなった。少なくとも、買収を積み重ねることで持続的に高収益化したという実績は確認できない。
2019年にはNTTデータによる公開買付けが行われ、同社は約48.5%を保有する筆頭株主になった。現在の上場廃止予定を示す新たな公開買付けではなく、過去の資本関係の変更である。大手グループへの販売機会は得られるものの、グループ関連売上が減少した事実は、資本関係と収益力を分けて評価すべきことを示している。
2025年6月公表の中期計画「GenAI VISION 2028」は、2028年3月期に売上高52億円、営業利益5.2億円を目指す。内訳は既存事業の成長支援35億円、事業開発15億円、新規事業創出2億円という目標である。AI案件比率の引き上げやAIエージェント事業への転換も掲げるが、いずれも実現済みの継続売上ではない。ROE、DOE、自社株買い金額についての具体的な数値目標は確認できない。
株主還元は純利益の20%を目安とする配当方針が中心である。2026年3月期には増配し、過去5年間にも増配実績があるため、現金が株主に全く戻らない会社とは見ない。他方、大規模な自社株買いや高い総還元性向を継続する明確な約束はない。筆者は余剰現金が株主価値として実現する割合を75%と評価する。投資先の見極めと還元強化が進めば、ここには上方修正の余地がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社は、生成AIによって消える仕事ではなく、生成AIを使って企業の顧客接点を作り替える仕事を担える。大手顧客との長い関係、業務を理解する人材、設計から実装まで一貫して対応する能力は、単純な制作会社にはない強みである。企業がAIエージェントを利用するほど、既存業務への導入と運用の責任を引き受ける専門家への需要も生まれる。
会社の中期計画は2028年3月期に売上高52億円、営業利益5.2億円を目指している。生成AIによる業務効率化の実証も進んでおり、従来の案件を少ない人数で納品できれば、受託事業でも利益率を上げられる。事業開発と新規事業創出が計画どおり育てば、現在の人月型からの脱却にも道が開ける。大手企業の顧客基盤を持つNTTデータとの関係は、AIを企業全体に導入する大型案件への入口になりうる。
さらに、財務上の下値の支えは強い。約22.5億円の純現金に対して有利子負債の重荷は小さく、成長投資と株主還元を両立できる余力がある。今の利益水準だけを見てしまうと、AI導入による将来の収益構造の変化を過小評価する危険がある。既存顧客の信頼を新しいAIサービスへ転換できるなら、事業利益と現金価値の両方が積み上がる可能性がある。
慎重な見方
同社の最大の問題は、AIエージェントがまさに現在の請求根拠である人月と工数を減らすことだ。企業がウェブサイト制作、分析、運用、簡単な開発を自動化すると、従来と同じ成果を出すために外部へ発注する作業量は少なくなる。作業時間が半分になっても受注金額を維持できるという証拠はない。生産性改善の便益の多くは、競争を通じて顧客企業に移る可能性が高い。
会社の中期計画は意欲的だが、目標と受注実績は別である。AIエージェントの新規事業について、継続売上、契約社数、解約率、顧客当たり収益、実際の採算を十分に確認できない。現在の主力は依然として受託であり、AIの実証事例を独占的なプラットフォームの利益のように評価することはできない。
顧客集中も無視できない。スターバックス コーヒー ジャパン、モスフードサービス、NTTデータなどへの依存があり、いずれかの大型案件が終了すれば小さな会社の利益は大きく変わる。NTTデータグループ向け売上がすでに減っていることも、資本関係に基づく安定収入を期待し過ぎてはいけない理由である。過去の営業赤字、買収した事業の売却、ROEの低さを考えれば、事業転換に成功する前から高い成長価値を認めるのは危うい。
純現金も安全域の全てではない。株主が現金を直接引き出せるわけではなく、成果が出ない新規事業への投資や赤字補填で減る可能性がある。会社が存続することと、少数株主に十分な利益が戻ることは同じではない。
どちらに重みを置いたか
現時点では慎重な見方の論拠が強い。大手顧客との関係と純現金は実在する一方、AIエージェントを独立した高収益事業に変えた金額上の証拠はまだ不足している。中立では10年後も事業が存続し、現金も積み上がると考えるが、その価値を現在に割り引くと基準時点の時価総額に届かない。
確率は楽観側30%、中立32%、悲観側38%と、会社固有の受託事業への依存と顧客集中を踏まえてやや下側に寄せた。AIによる縮小はすでに中立の数量と長期成長率に織り込んでおり、確率や資本コストに同じ理由を何重にも上乗せしていない。財務の健全さは評価するが、約43%の価値の差を覆すには、AI事業の採算と株主還元に具体的な進展が必要である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 566 円40 億円(+ 還元の換算額還元の合計 46 円3 億円)。 今の値に割り戻すと 287 円20 億円、今との差 −40.5%、 期待の年率 +2.5%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,044 円73 億円 | 86 円6 億円 | +133.8% | +9.3% | 113 円8 億円 |
| やや楽観 | 20% | 805 円56 億円 | 71 円5 億円 | +81.4% | +6.5% | 175 円12 億円 |
| 中立 | 32% | 557 円39 億円 | 50 円4 億円 | +25.7% | +2.4% | 194 円14 億円 |
| やや悲観 | 25% | 321 円23 億円 | 26 円2 億円 | −28.1% | −3.4% | 87 円6 億円 |
| 悲観 | 13% | 321 円23 億円 | 9 円1 億円 | −31.7% | −3.8% | 43 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 566 円40 億円 | 46 円3 億円 | +26.7% | +2.5% | 612 円43 億円 |
今の株価時価総額 483 円34 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% AIを生産性向上と高付加価値の両方に転換 利益 4 億円 · PER 12.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,044 円73 億円
企業が顧客接点の高度化を続け、同社がその中核となる業務設計と運用を引き受け続ける。生成AIによって制作、開発、テスト、運用の工数は大幅に減るが、浮いた時間を顧客の業務改善や高度なシステム連携に振り向けることで、案件相当件数を維持する。顧客は従来の制作物だけでなく、売上向上や業務削減につながる成果に対価を払い、単価も維持できる。
NTTデータとの連携が案件紹介だけでなく共同提案の実績につながり、大手顧客との関係も深まる。AIエージェントの実装案件が増え、会社が目指す事業転換の一部が高収益のサービスとして定着する。営業利益率は11%台となり、過去の最良期を上回る。
それでも、AIだけを理由に案件数が無制限に増えるとは考えない。独立した継続課金製品の売上実績がまだ確認できないため、実質の数量は現在の水準にとどめる。設備投資や大型買収に過度に依存せず、蓄積する現金の一部を配当として株主に返す。顧客の成果を理解する力が、制作工数の減少を上回る価値を生む最も良好な10年である。
- SIPS(顧客体験・デジタルマーケティング受託):数量 2,800(年間案件相当件数(件。会社説明資料の年間2,800件以上を参考にした推定基準))× 価格 0.02(案件相当1件当たり売上高(億円。案件の大小を平均化した名目単価))→ 売上 49 億円・営業利益 6 億円。実質数量は現在の1.00倍、名目単価は約1.34倍。AIの工数削減が利益率改善に結び付くが、AI製品の未確認売上は上乗せしない。
倍率:資本コストk=8.25%、AIエージェント代替を反映した2036年以降の名目成長率g=0%、弱い堀の残存割合1/3。正当化PER=(1-g÷RONIC)÷(k-g)=1÷0.0825=12.12倍。現金の税後運用益を余剰現金32.5億円×1.4%=0.455億円として純利益4.47億円から除き、事業利益4.015億円×12.1212倍に、余剰現金32.5億円×戻り方0.75を加える。工数代替リスクはgと利益に反映済みのため倍率をさらに割り引かない。
確率:顧客案件の外注工数が減るなかで、既存の案件数を維持しつつ単価と利益率を改善するには、AIによる生産性向上の利益を顧客に全て渡さず確保し続ける必要がある。実証事例はあるが、金額の確認できるAIエージェントの継続売上は不足しており、連続成功の確率は限定的とみる。
やや楽観 20% 大手顧客との関係を保ち、AIで採算を改善 利益 3 億円 · PER 12.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 805 円56 億円
顧客企業は生成AIを使って簡単な制作や分析を内製化する。その結果、同社が外注として受ける作業量は減少するが、顧客体験の全体設計や重要システムの連携など、人の判断と責任が必要な案件は残る。案件数は緩やかに減り、残る案件は相対的に複雑で高付加価値なものへ移っていく。
スターバックス コーヒー ジャパンやモスフードサービスのような大手顧客との関係を維持し、新しい顧客も一定程度獲得する。NTTデータとの協業は安定的に続くが、同グループからの取引が過去の高水準へ自動的に戻るとは見ない。会社が進めるAI活用は主に開発効率の改善として実を結び、費用構造の軽量化が進む。
営業利益率は9%前後を保ち、売上高の名目規模も現在をやや上回る。利益が出た分の一部を株主に返し、残りは余裕資金として蓄える。一方、独立したプラットフォームや継続課金型製品を持つ企業へ変わるわけではない。事業の質は改善するが、顧客の案件予算に依存する性格は残る10年である。
- SIPS(顧客体験・デジタルマーケティング受託):数量 2,520(年間案件相当件数(件。会社説明資料の年間2,800件以上を参考にした推定基準))× 価格 0.02(案件相当1件当たり売上高(億円。案件の大小を平均化した名目単価))→ 売上 42 億円・営業利益 4 億円。実質数量0.90倍、名目単価約1.27倍。簡易作業は減るが、業務設計・複雑なシステム連携が収益を支える。
倍率:k=8.25%、g_long=0%で、正当化PER上限は1÷k=12.12倍。弱い堀による将来の増分ROICの低下は長期成長率と事業シナリオで考慮する。余剰現金30.85億円の税後金利収益0.432億円を純利益3.17億円から外した事業利益に12.1212倍を適用し、現金の75%を加算する。
確率:顧客の予算縮小を一部受けながらも、業務設計とシステム連携の案件を確保し、AIによる工数削減が利益率を守る筋書きである。大手顧客の存在と現金の厚さが支えになるが、単価交渉力の立証は十分でない。
中立 32% 需要は残るが、人月型の案件数が縮小 利益 2 億円 · PER 12.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 557 円39 億円
企業がデジタル上で顧客を獲得し、会員や購買情報を活用する必要は10年後も続く。しかし、顧客が外部企業へ発注する作業の中身は変わる。画面制作、プログラムの一部、テスト、簡単な分析、運用報告はAIエージェントが引き受け、同じ案件を完成させるために必要な人月が少なくなる。
同社は戦略設計、複雑な業務の調整、個人情報の扱い、顧客体験の改善といった部分で仕事を保つものの、従来の制作・運用案件を同じ件数と価格で維持することはできない。NTTデータとの資本関係や大手顧客との実績は急激な崩壊を防ぐが、市場シェアの大幅な上昇までは実現しない。
名目単価は緩やかに上がるが、物価上昇ほどは顧客に転嫁できない。利益率は7%程度へ低下し、純利益のかなりの部分を手元の現金が生む利息が支える。配当は維持するものの積極的な株主還元政策には至らず、余剰現金は徐々に増える。事業は存続し財務も健全だが、再投資で大きな超過収益を生む会社にはならない、というのが最も現実的な10年である。
- SIPS(顧客体験・デジタルマーケティング受託):数量 1,960(年間案件相当件数(件。会社説明資料の年間2,800件以上を参考にした推定基準))× 価格 0.02(案件相当1件当たり売上高(億円。案件の大小を平均化した名目単価))→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。実質数量は現在の0.70倍、名目単価は1.19倍。AIエージェント代替で制作・運用工数は減り、物価3%を全額転嫁できない。
倍率:k=8.25%、2036年以降の名目成長率g=0%のため正当化PERは12.12倍。事業のROEが資本コストを大幅に超えるという前提は置かず、長期の超過成長価値を数えない。純利益1.90億円には余剰現金27.5億円の税後利息0.385億円を含むため、事業利益1.515億円×12.1212倍に、現金27.5億円×戻り方0.75を加える。
確率:企業の顧客接点を改善する需要は存続する一方、制作・開発・運用の工数がAIエージェントで減る。受託事業に適用する中立の実質数量0.55〜0.75倍の範囲内で0.70倍とし、顧客基盤の粘着性を一定程度認める。
やや悲観 25% 内製化と価格競争で利益が薄くなる 利益 1 億円 · PBR 0.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 321 円23 億円
顧客企業がAIエージェントを導入し、これまで外部へ委託していたサイト更新、運用分析、簡単な開発を内製化する。大手顧客は重要な設計案件を外注し続けるが、継続的に人数を投入する仕事は大幅に減る。競合の電通デジタルやトランスコスモスに加え、顧客の社内開発チームそのものが最大の競争相手となる。
NTTデータとの協業は残るものの、案件を共同受注できる範囲は限られる。特定の大口顧客で取引が減ると、それを埋めるために営業人員を増やす必要が生じ、収益をさらに圧迫する。会社のAI関連の試みは生産性改善には役立つが、外注費の削減分が顧客への値下げとして還元され、十分な新規利益にならない。
売上高は約22億円となり、営業利益率は2%まで低下する。大幅な金融負債がないため事業を継続できるものの、株主にとっての稼ぐ力は小さい。余剰現金は一部が事業の立て直しに使われ、還元も抑制される。価値の中心が事業利益から換金可能な資産へ移るが、その資産を経営者が株主のために活用するかどうかは依然として不確実である。
- SIPS(顧客体験・デジタルマーケティング受託):数量 1,540(年間案件相当件数(件。会社説明資料の年間2,800件以上を参考にした推定基準))× 価格 0.01(案件相当1件当たり売上高(億円。案件の大小を平均化した名目単価))→ 売上 22 億円・営業利益 0 億円。実質数量0.55倍、名目単価1.10倍。主要顧客の内製化と競争入札で付加価値を失い、利益率は2%に縮小する。
倍率:営業利益率が2%に落ち、純利益0.64億円のうち約0.332億円は余剰現金の運用益であるため、本業の超過収益には高い倍率を付けない。事業の稼ぐ力と将来現金の株主帰属分を合わせた評価は約21.5億円だが、基準期の現金・売掛金・契約資産から負債と整理費を差し引いた税後換金可能資産22.5億円を下回るため、この確認可能な資産の床を採用する。表示上のPBR0.8123倍は今の自己資本27.7億円に対する22.5億円の比率であり、2036年の自己資本36.9億円には掛けていない。将来の留保利益を床に積み上げず、市場の過去のPBRも根拠にしない。
確率:大口顧客の制作・運用内製化、競合による低価格提案、NTTデータ関連案件の減少が重なる可能性は無視できない。一方、手元資金と一部の長期取引があるため、直ちに経営危機にはならないとみる。
悲観 13% 受託モデルが構造的に競争力を失う 利益 0 億円 · PBR 0.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 321 円23 億円
AIエージェントの普及によって、顧客が外注してきた作業の大部分が社内の少人数チームと汎用AIサービスで完結するようになる。複雑なシステム連携の仕事は残るが、その市場でも大手コンサルティング会社やクラウド事業者が主導権を握る。ネットイヤーグループは特定顧客の業務に詳しいという強みを持ちながらも、新しい契約を十分に獲得できない。
主要顧客の契約更新が途切れ、NTTデータ関連の案件も縮小する。従業員の配置転換や外注契約の見直しには時間がかかり、売上高の減少に費用削減が追い付かない。新規事業への投資も収益の柱には育たず、かつて培った顧客体験のノウハウが高い料金を支える力を失う。
売上高は現在の半分弱となり、営業赤字が続く。配当は初期の黒字年度に限定され、後半には停止する。事業を立て直すために現金の一部を使うが、有利子負債の少なさから直ちに倒産するわけではない。株主にとっての残余価値は、事業の将来利益ではなく、回収可能な売掛金と現金から負債や事業整理費用を差し引いた金額で決まる。かつての成長期待が消え、換金可能資産が最後の支えになる10年である。
- SIPS(顧客体験・デジタルマーケティング受託):数量 1,260(年間案件相当件数(件。会社説明資料の年間2,800件以上を参考にした推定基準))× 価格 0.01(案件相当1件当たり売上高(億円。案件の大小を平均化した名目単価))→ 売上 17 億円・営業利益 0 億円。実質数量0.45倍、名目単価1.05倍。AIエージェント代替と主要顧客喪失が重なり、売上は現状の約47%、本業は赤字となる。
倍率:営業赤字が残るため将来利益にPERを付けず、換金可能資産の床22.5億円で評価する。2036年の自己資本25.0億円に対してPBR0.90倍で時価総額22.5億円となる。床の考え方は基準期の現金、売掛金、契約資産、負債、整理費用に基づき、過去の市場PBRには依存しない。
確率:AIエージェントが従来の工数型の制作・開発・運用を急速に代替し、主要顧客の離反と重なる複合的な失敗である。財務余力があるため破綻確率を高くはしないが、事業の半減は十分に想定すべき下方事象と考える。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
SIPS(顧客体験・デジタルマーケティング受託)
ウェブサイト・アプリ・顧客接点の戦略立案、設計、開発、運用とデータ活用を顧客ごとに請け負う単一の報告セグメント。中期計画の事業成長支援、事業開発、AIエージェント関連の取り組みを含むが、これらの実績売上高は区分別に開示されていない。
| 数量年間案件相当件数(件。会社説明資料の年間2,800件以上を参考にした推定基準) | 価格案件相当1件当たり売上高(億円。案件の大小を平均化した名目単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,800 | 0.01 | 37 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1,960 | 0.02 | 31 | 2 |
取り方:2025年公表の会社説明資料にある年間2,800件以上という案件規模を参考に、2026年3月期の売上高36.7億円を2,800件で割り、案件相当1件当たり約131万円とした。2,800件は当期の厳密な受注案件数ではなく、案件の規模もばらばらであるため、これは実際の契約単価ではなく比較のための代理変数である。中期計画には2028年3月期の事業成長支援35億円、事業開発15億円、新規事業創出2億円という目標があるが、現時点の実績区分別売上高ではないため配分しない。市場規模は会社計画が参照する国内ウェブソリューション市場3,300億〜4,500億円を使用し、同社の売上高に対応させた概算シェアは約0.8〜1.1%となる。ただし、市場と会社の対象範囲の違いから公式シェアではない。競合別の同一定義によるシェア開示は確認できない。AIエージェント代替の型は、受託・コンサル・制作運用を含む人月・工数型と判定し、中立の10年後の実質数量を現在の0.70倍、名目単価を1.19倍とする。記録の正本型と判定できる独立した解約率・値上げ・独自データの証拠はない。
リスクと懸念
AIエージェント代替による人月需要の縮小
同社の受託事業は、設計、制作、開発、テスト、運用などに投入する人の作業を価値の源泉としている。AIエージェントがこれらを代替すると、顧客が外部へ発注する工数そのものが減る。生産性改善の利益を自社が確保できる保証はなく、競合の価格引き下げや顧客の内製化に吸収される可能性がある。中立でも実質案件量の縮小を想定する理由である。
大口顧客への集中
2026年3月期はスターバックス コーヒー ジャパン向け約5.15億円、モスフードサービス向け約3.86億円、NTTデータ向け約4.89億円の売上があった。いずれも会社全体の売上高に対して小さくない。大手顧客の予算削減、システム更新の完了、競合への委託変更が起きると、案件稼働率と営業利益率が同時に悪化する。
NTTデータとの資本関係を過大評価する危険
NTTデータは約48.5%を保有する筆頭株主であり、協業の機会を提供する。しかし、NTTデータグループ向け売上高は前期の約10.4億円から2026年3月期の約7.0億円へ減少した。大株主の存在が受注や利益率を保証するわけではない。将来の資本再編に期待する場合も、公開買付けの有無、価格、少数株主の扱いは別に確かめる必要がある。
AI新規事業の目標と収益実績の差
中期計画はAIエージェントを使った事業構造の転換を掲げるが、実証実験、作業削減事例、計画上の案件比率をそのまま継続収益として見積もることはできない。顧客が継続して料金を払う製品を作れなければ、新規事業開発費だけが残る。AIを使う会社になることと、AIによって価格決定力を持つ会社になることの差は大きい。
人材と外注費の固定性
同社の価値は専門人材の経験と顧客理解に依存する。仕事が減ると、従業員の人件費、営業体制、教育費、オフィス費用をすぐには同じ割合で削れない。外注を減らせても、社内の専門能力まで失うと次の案件を取れなくなる。2027年4月以後に始まる年度からの新リース会計基準では賃借契約の貸借対照表表示も変わるが、賃料の経済的負担そのものは消えない。
余剰現金の配分と少数株主への還元
約22.5億円の純現金は価値の重要な支えだが、その使途を少数株主が直接決めることはできない。増配実績はあるものの、明確な大規模自社株買いの約束はなく、新規事業への投資が続けば現金の蓄積が株主価値へ反映されない可能性がある。特に既存事業のROEが資本コストを下回る局面では、低採算の再投資より還元を選ぶ規律が問われる。
今後の分かれ目
- AIエージェント関連の売上高、契約社数、継続課金額が独立して開示され、複数期にわたり増加したら
- 受託事業とは別の高付加価値事業として数量、単価、利益率を組み直す。独自データ、低解約率、価格引き上げの証拠が二つ以上確認できれば、堀と2036年以降の成長率も再評価する。
- SIPSの受注高と受注残が増え、営業利益率が9%を超えて複数年定着したら
- 顧客への価格転嫁とAIによる生産性向上が実際に株主利益へ残り始めた証拠として、やや楽観側の数量維持と利益率改善の確率を引き上げる。
- NTTデータグループ関連の売上高がさらに大きく減少し、大手顧客の契約終了が続いたら
- 資本関係による案件獲得の支えを弱く評価し、やや悲観・悲観側へ確率を移す。案件量の減少だけでなく、社員の稼働率と外注費の調整速度も確認する。
- 制作・運用の自動化で案件単価が下がり、売上総利益率も継続して悪化したら
- AIエージェント代替が想定以上に顧客への値下げとなって現れたと判断し、中立の名目単価と営業利益率を引き下げる。
- 自己株買いや恒常的な増配により、利益の過半を株主に返す実績が積み上がったら
- 余剰現金の株主への戻り方を0.75から1.0へ引き上げる余地が生まれる。ただし、赤字を補うための借り入れによる還元なら同じ評価にはしない。
- NTTデータその他から正式な公開買付け、株式交換、上場廃止方針が発表されたら
- 通常の10年継続企業価値とは別に、取引価格、実現条件、少数株主の受け取る金額を中心に評価を切り替える。現時点では確定した取引価値を本質価値に上乗せしない。
見ておくもの
- 四半期ごとのSIPS受注高・受注残高と売上高への転換速度
- AIエージェント関連の実際の受注金額、継続契約額、顧客社数
- 顧客別売上高、とくにNTTデータグループ、スターバックス コーヒー ジャパン、モスフードサービスの推移
- 売上総利益率、外注費率、営業利益率と従業員1人当たり付加価値
- 2028年3月期の中期計画目標である売上高52億円・営業利益5.2億円の達成状況
- 純現金の残高、配当性向、自社株買いの実行状況
- AI関連の自社サービスで顧客の乗り換え費用や独自データが生じているか
- NTTデータとの資本関係、業務提携、公開買付け等の正式開示
倍率と資本コストの決め方
数量は会社資料の年間2,800件以上という案件規模を代理変数とし、名目価格は案件相当単価として物価の影響を分けた。中立の実質数量はAIエージェント代替を反映して0.70倍とし、今の株価から逆算していない。2036年以降の名目成長率は0%、資本コストは8.25%で、楽観から中立までのPERは正当化式の上限12.12倍を適用する。悲観側は事業利益よりも換金可能資産を重視し、やや悲観の床22.5億円は今の自己資本27.7億円に対するPBR約0.8123倍として扱う。2036年の自己資本36.9億円に床の倍率を掛けず、将来の利益留保も床には入れない。過去の市場PERやPBRの谷を根拠にしない。純現金は事業利益と分け、株主への戻り方75%を掛ける。新リース会計基準により2028年3月期から財務諸表の表示が変わりうるが、経済的な賃借負担は同じ基準で考える。これらの前提で得た確率加重現在価値は約20.11億円、基準時点の時価総額約35.06億円との差は約マイナス42.7%となり、「割高」と判断する。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。国債利回り3%と株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、事業の利益変動、価格決定力、純現金の評価を合計した+0.75%を加える。個別のAI事業転換失敗や大口顧客喪失は資本コストに重ねず、数量・利益率と確率で表現する。