結論
メルカリは、スマホで中古品を売り買いする国内最大のフリマアプリだ。筆者の結論は「今の値段はやや割高」である。伸びる力は本物だが、その利益には貸し倒れの波と手数料競争という不確かさが混ざっているからだ。
稼ぎの柱は三つある。国内のフリマ、後払いや分割を担う金融のメルペイ、そして黒字になった米国事業だ。2026年6月期は売上が約2割伸び、営業利益は6割近く増えた。三つの事業がそろって増収増益になった。
国内の取引総額は1兆円を超え、個人間取引の半分近くを握る。出品する人と買う人がそろうほど使いやすくなる仕組みで、後発が追いつくのは難しい。筆者が高く評価しているのはこの堀、つまり他社がまねできない強みだ。
気になる点は三つある。決算の純利益は税負担が軽いぶん良く見える。金融は貸す額を増やすほど景気の波を受ける。手数料の安い競合が力をつけた時に、10%の手数料を守れるかも分からない。
10年先は、国内の取引量が緩やかに伸び、金融と米国が利益の厚みを足すと見る。成長が一巡すれば倍率は落ち着く。10年後の価値は今より1割ほど低い。今の値段で報われるのは、堀が10年続く場合である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべきは3点だ。堀は続くか。利益のうち、株主が自由に使える分はいくらか。値段に安全域はあるか。
堀は続く。国内の出品と買い手の厚みは、10年で崩れにくい。ただし堀が守っているのは取引の量であって、手数料の高さではない。手数料が下に引かれる前提で見るのが堅い。
株主が自由に使える利益は、見かけより小さい。いまの純利益は税の負担が軽く、正常化すると1割強少なくなる。金融の貸出が増えるほど、利益の一部は貸出の元手に吸われる。それでも、事業そのものの投資は軽く、稼ぐ力は大きい。ここが最近の最大の変化だ。
安全域は薄い。楽観の筋書きなら大きく報われるが、手数料競争と貸し倒れが同時に来る筋書きでは、価値は今の半分以下になる。確率を寄せて足し合わせると、今の値段はやや割高である。筆者なら、この値段で大量には買わない。景気の谷で、金融への懸念が株価を押し下げた時に買いたい会社だ。
もう一つ、経営の質を見る。創業者が筆頭株主であり、長い目で事業を育てる点は評価できる。一方で、赤字の時代に事業を広げすぎた過去があり、資本の使い方を最近になって改めた。この修正が定着するかを、数年かけて確かめたい。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は国内のフリマだ。売り手が品物を出品し、売れた時に代金の約1割を手数料として受け取る。収入は売れた金額(取引総額)に比例する。人気のエンタメ・ホビーや高額品が増えると、1件あたりの金額も伸びる。出店型のメルカリShopsや越境取引(海外への販売)、広告も収益に加わる。
二つ目は金融のメルペイだ。フリマの売上金を使える電子マネーに加え、クレジットカードのメルカード、後払いと分割払い、暗号資産の取引を持つ。貸出残高は3,581億円で、回収率は99%台と高い。カードの発行枚数は600万枚を超えた。稼ぎは貸出の利息と加盟店の手数料で、景気の悪い年は貸し倒れが利益を削る。
三つ目は米国のフリマだ。取引総額は8億ドル台で、長く赤字だったが、2026年6月期は黒字を保った。送料の引き下げやカテゴリーを絞った施策が効いている。米国は競合が強く、規模を取れるかは別の問題だが、赤字を垂れ流す段階は終わった。
この三つは、同じ利用者を共有する。フリマで貯まった売上金がメルペイの決済に回り、与信の材料にもなる。利用者のお金の流れを握れることが、単なるフリマとの違いだ。会社は中期の方針として、売上の年平均2桁成長と、コア営業利益の年平均25%以上の伸びを掲げてきた。
売上の約半分は国内のフリマ、約3割が金融、残りが米国だ。利益で見ると、国内のフリマが8割近くを稼ぎ、金融が2割弱、米国はまだ小さい。稼ぎの厚みは国内に偏っており、国内の手数料と取引量が全体の利益を決めている。
優良さと弱いところ
優良さの核は、売り手と買い手が互いを呼ぶ仕組みである。国内の月間利用者は2,400万人を超え、出品が多いから探し物が見つかる。買い手が多いから売れる。この循環は一度回り始めると、他社が低い手数料で攻めても崩れにくい。
もう一つの強みは安心を作る力だ。本人確認の必須化、全額補償、自社の鑑定センターを重ね、問い合わせ率は2年で0.49%から0.35%に下がった。個人間取引の不安は、手数料の安さでは埋まらない。ここに費用をかけられるのは、規模のある首位だけだ。
資本の使い方は、ここ数年で大きく改善した。赤字の時代に広げた事業(メルカリ ハロなど)への投資を絞り、利益率を2割近くまで引き上げた。2026年6月期には初めて100億円の自社株買いにも踏み切った。ただし、金融の貸出は自己資本の約2.6倍に達し、自己資本比率は2割を切る。数字の見た目ほど財務は強くない。
弱い所もある。月間利用者の伸びは5%にとどまり、取引総額の伸びを支えているのは高額品と大型施策だ。山田進太郎氏自身が、利用者数の伸びが緩やかなことを課題だと認めている。盗品や高額転売への批判にも向き合う必要がある。経営は創業者が筆頭株主で、2023年に社外取締役が過半を占める指名委員会等設置会社へ移った。統治の形は整っている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の個人間取引の市場は2024年に約2兆5,000億円と、緩やかに伸びる段階にある。メルカリの取引総額はその半分近くに迫る。人口は減るが、中古品を買う習慣は定着し、物価高が中古品への需要を支える。数量の伸びは、新しい利用者よりも、1人あたりの利用頻度と高額品の取り込みで稼ぐ形になる。
競合は三つの方向から来る。手数料の低いPayPayフリマ(販売手数料は5%と報じられている)、楽天のラクマ、老舗のヤフオクだ。いずれも手数料を下げて売り手を呼ぶが、買い手の多さではメルカリが上にいる。今のところ、手数料の差が利用の差になる動きは見えない。ただし10年で見れば、手数料は下に引かれる力が残る。
海外では、中古品の売買が各国で広がっている。メルカリは台湾・香港・米国で自社の越境取引を始め、2028年までに50か国以上に広げる計画だ。越境の取引総額は1,100億円台で、全体の約1割を占める。翻訳や真贋判定にAIを使えるため、少人数で海外へ出られる。ここが取引量を上乗せできる数少ない領域だ。
金融の領域では、メルカードの普及で与信が急速に伸びている。日本のカード市場は大きく、後払いや分割の利用はなお広がる余地がある。一方で、景気が悪くなれば貸し倒れが一気に増える。生成AIは、探す・値付けする・出品する手間を下げ、取引を増やす追い風になる。同時に、買い物をAIが代行すれば、アプリを開く理由が薄れる危険もある。
資本政策と M&A
還元は長く無配だったが、2026年8月に上限100億円・400万株の自社株買いを初めて決めた。取得した株は11月に全て消却する予定だ。筆者は、これを方針転換の合図と見る。稼ぎが増え、事業の投資が一巡したからである。
メルカリは、買収で規模を買うより自前の事業を育てる会社だ。米国事業の赤字に巨額を投じた過去があり、資本配分の評価は割れてきた。いまは黒字化した米国に追加投資を重ねるより、金融と越境に絞る姿勢である。
金融事業は貸出を伸ばすために借入が増え、純有利子負債は800億円台になる。これは事業の仕入れに近い借金だ。含み益を頼りにする会社ではない。TOBや再編の話は、創業者が筆頭株主であることもあり、現時点で具体的な材料は見えない。
筆者が見たいのは、次の一手だ。配当を含めた方針が出るか、余った資金を金融の自己資本に回すか。貸出が増える以上、自己資本を厚くする必要があり、還元との綱引きが続く。
実行済みの自社株買い(約85億円)は、株数と自己資本の起点に反映し、10年の還元には入れていない。
点検済み:中立の営業利益率21.7%が会社予想(27・28年6月期16.3%)と過去最高(19.1%)を超え、金融が今の14%から22%へ上がる前提だったため、金融17%に置き直した(全社20.1%。会社の利益の伸びの方針は残す)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
メルカリは、日本で唯一、個人間取引のネットワークを国民規模で築いた会社だ。出品と買い手の厚みは、広告費を積んでも後発がまねできない。2026年6月期は取引総額が15%伸び、最終四半期は26%増えた。国内の伸びが再び2桁に乗った意味は大きい。
利益率の伸びしろも大きい。AIでエンジニア1人あたりの開発量が7倍を超え、社内の業務は100万時間規模で効率化の余地が見えている。売上が伸びても人は増やさずに済み、利益は売上より速く伸びる。
金融は、メルカードの発行を600万枚超まで広げた。フリマの売上金と購入履歴が与信の材料で、回収率は99%台に乗る。ここが国内の金融サービスの中でも異色の強みだ。米国は黒字化し、越境取引は50か国へ広がる。三つの柱が同時に伸びれば、10年後の利益は今の4倍に届く。
競合との差も開く。PayPayフリマが手数料を下げても、売り手は買い手の多い場所に出品したがる。実際、手数料が倍でも売れやすさでメルカリを選ぶ売り手は多い。堀が手数料を守る力は、数字の裏で効いている。
慎重な見方
決算の利益は、税が軽いぶん良く見えている。正常な税率に戻れば、同じ営業利益でも純利益は1割強減る。市場はこの利益を前提に高い倍率を付けているが、足元の数字は上限に近い。
手数料は下に引かれる。PayPayフリマは手数料が低く、売り手が分散すれば首位でも手数料を下げる局面が来る。取引総額の伸びは、人気カテゴリーの盛り上がりと大型施策に支えられている。月間利用者の伸びは5%にとどまり、新規客が増えていない。
金融は景気の波を受ける。貸出残高は3,581億円と1年で44%増えた。不況の局面で回収率がわずかに落ちるだけで、金融の利益は大きく削られる。借入で貸出を伸ばしているため、自己資本比率は2割を切る。米国は黒字とはいえ利益率はわずかで、競合に押される危険が残る。
盗品や転売への社会の目も厳しくなる。規制が強まれば、人気カテゴリーの取引が減る。10年先の姿は、思うほど強くない。
さらに、生成AIが買い物の入り口を変える。AIが最安の出品を探して購入を代行すれば、メルカリのアプリを開く習慣は弱まる。入り口を握られた店は、手数料の交渉力を失う。今の高い倍率は、この危険を織り込んでいない。
どちらに重みを置いたか
国内の堀は本物で、楽観側の主張が事業の本質では上回る。ただし、足元の利益は税負担が正常になる前の数字で、手数料と貸し倒れという下振れの要因も具体的だ。そこで確率は中立を厚くし、慎重な側へ少し寄せた。悲観は、手数料競争と金融の貸し倒れが同時に来る道を、10年で1割台半ばに置いた。結果として、今の値段は10年後の本質価値に対してやや割高に出る。筆者は、堀の強さを事業の評価の柱に置きつつ、手数料と貸し倒れの下振れを過小評価しないようにした。確率は、10年で悲観をやや厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 7,938 円1.29 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,330 円2,169 億円)。 今の値に割り戻すと 4,582 円7,473 億円、今との差 +32.8%、 期待の年率 +10.4%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 17,283 円2.82 兆円 | 2,155 円3,515 億円 | +463.3% | +18.9% | 1,749 円2,853 億円 |
| やや楽観 | 22% | 13,056 円2.13 兆円 | 1,787 円2,915 億円 | +330.1% | +15.7% | 3,266 円5,326 億円 |
| 中立 | 33% | 8,602 円1.40 兆円 | 1,404 円2,290 億円 | +189.9% | +11.2% | 3,302 円5,385 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,722 円4,440 億円 | 990 円1,615 億円 | +7.6% | +0.7% | 817 円1,332 億円 |
| 悲観 | 14% | 522 円851 億円 | 438 円715 億円 | −72.2% | −12.0% | 134 円219 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,938 円1.29 兆円 | 1,330 円2,169 億円 | +168.6% | +10.4% | 9,268 円1.51 兆円 |
今の株価時価総額 3,451 円5,629 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 国内の堀が広がり、越境・金融・米国が同時に育つ 利益 1,333 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 17,283 円2.82 兆円
国内の取引総額は実質で1.8倍を超え、10年の年平均は6%を超える。越境取引が全体の2割まで育ち、ショッピングの検索や出品をAIが助けて、利用の頻度が上がる。手数料はそのままで、広告や決済の収益が上乗せされる。
金融はメルカードが国内のカード市場に根を下ろし、貸出は実質で3倍近くに増える。回収率は高く保たれる。米国は規模を取り、利益率は1割台半ばに乗る。営業利益は今の4倍強になり、会社は還元も厚くする。
筆者がこの筋書きを上限とみるのは、手数料と貸し倒れという二つの下振れが、10年でまったく起きない前提だからだ。堀が強い会社でも、10年間無傷とはいかない。
- マーケットプレイス(国内フリマ・Shops・越境):数量 23,784(実質の取引総額(億円・今の値段))× 価格 0.14(取引総額あたりの売上(手数料率×物価指数))→ 売上 3,212 億円・営業利益 1,221 億円。国内の取引総額が実質で約1.85倍。手数料率は約5%上がる。利益率38%
- フィンテック(メルペイ・メルカード):数量 10,027(メルペイの貸出残高(億円・今の値段))× 価格 0.24(貸出残高あたりの売上(利回り×物価指数))→ 売上 2,443 億円・営業利益 635 億円。貸出残高が実質で2.8倍。利益率26%
- 米国マーケットプレイス:数量 3,159(実質の取引総額(億円換算・1 ドル 150 円・今の値段))× 価格 0.45(取引総額あたりの売上(売上率×物価指数))→ 売上 1,421 億円・営業利益 199 億円。取引総額が実質で2.6倍。利益率14%
倍率:事業の純利益 1,333 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 22.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍。全体の PER 20.53 倍、時価総額 27,366 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIで少人数の開発が効き、越境・金融が伸びる道だ。強い堀を持つ会社の上振れとして1割弱とした。
やや楽観 22% 国内は着実に伸び、金融が第二の柱になる 利益 1,017 億円 · PER 20.2 倍 · 株価時価総額 13,056 円2.13 兆円
国内の取引総額は実質で1.6倍に伸びる。越境が全体の15%まで育ち、高額品の取り込みも進む。手数料は10%前後を守り、広告と決済の収益が薄く乗る。
金融は貸出が実質で2.4倍に増え、メルカードの収益が国内の柱になる。米国は取引総額が2倍に増え、利益は1割前後になる。営業利益は今の3倍強になる。
この筋書きでは、堀が10年続き、手数料は下に引かれても守り抜ける。金融が国内の第二の柱になり、利益の1割強を超えるまで育つ。米国は取引総額が2倍に増え、利益率は1割前後に乗る。会社が掲げる中期の方針に近い道で、実現すれば株主にとって十分な成果だ。ただし、10年の途中で一度は景気の谷が来る前提を含み、貸し倒れの山を乗り越える必要がある。
- マーケットプレイス(国内フリマ・Shops・越境):数量 20,827(実質の取引総額(億円・今の値段))× 価格 0.13(取引総額あたりの売上(手数料率×物価指数))→ 売上 2,732 億円・営業利益 984 億円。国内の取引総額が実質で約1.62倍。利益率36%
- フィンテック(メルペイ・メルカード):数量 8,594(メルペイの貸出残高(億円・今の値段))× 価格 0.24(貸出残高あたりの売上(利回り×物価指数))→ 売上 2,031 億円・営業利益 487 億円。貸出残高が実質で2.4倍。利益率24%
- 米国マーケットプレイス:数量 2,552(実質の取引総額(億円換算・1 ドル 150 円・今の値段))× 価格 0.44(取引総額あたりの売上(売上率×物価指数))→ 売上 1,114 億円・営業利益 123 億円。取引総額が実質で2.1倍。利益率11%
倍率:事業の純利益 1,017 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 20.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍。全体の PER 20.21 倍、時価総額 20,554 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の堀が保たれ、金融の貸出も伸びる道。会社の中期方針に近いが、10年の不確実さを考えて2割強とした。
中立 33% 国内は緩やかに伸び、金融と米国が利益を足す 利益 696 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 8,602 円1.40 兆円
国内の取引総額は実質で1.4倍にとどまる。人口は減るが、中古品を買う習慣は広がり、越境取引と高額品が上乗せになる。手数料は10%前後で保たれるものの、広げる力は強くない。
金融は貸出が実質で2倍に増え、利益率は17%前後になる。回収率は景気の波で上下するが、平均では保たれる。米国は取引総額が1.8倍に増え、利益率は1桁にとどまる。全体の利益は今の2.2倍になり、成長はそこから落ち着く。
筆者が最も厚く置くのは、この道だ。堀は残るが、手数料と貸し倒れの不確実さが利益の伸びを抑える。それでも、10年で営業利益が2倍強になる姿は、決して地味ではない。
- マーケットプレイス(国内フリマ・Shops・越境):数量 17,998(実質の取引総額(億円・今の値段))× 価格 0.13(取引総額あたりの売上(手数料率×物価指数))→ 売上 2,315 億円・営業利益 764 億円。国内の取引総額が実質で1.4倍。手数料率は据え置き。利益率33%
- フィンテック(メルペイ・メルカード):数量 7,162(メルペイの貸出残高(億円・今の値段))× 価格 0.23(貸出残高あたりの売上(利回り×物価指数))→ 売上 1,657 億円・営業利益 282 億円。貸出残高が実質で2倍。利回りは約5%下がる。利益率17%
- 米国マーケットプレイス:数量 2,187(実質の取引総額(億円換算・1 ドル 150 円・今の値段))× 価格 0.45(取引総額あたりの売上(売上率×物価指数))→ 売上 984 億円・営業利益 79 億円。取引総額が実質で1.8倍。利益率8%
倍率:事業の純利益 696 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 17.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍。全体の PER 19.31 倍、時価総額 13,448 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の堀は残るが、手数料と貸し倒れの不確実さを考え、最も厚い3割強を置いた。
やや悲観 22% 手数料が下に引かれ、金融は伸びが鈍る 利益 382 億円 · PER 10.1 倍 · 株価時価総額 2,722 円4,440 億円
PayPayフリマなど手数料の低い競合に押され、メルカリは手数料を引き下げる。国内の取引総額は実質で1.15倍にとどまり、手数料率の低下が利益を直撃する。中古品の市場は伸びても、メルカリの取り分は伸びない。
金融は貸出が1.5倍に増えるが、景気の悪化の局面で貸し倒れが増え、利益率は1割台前半に落ちる。米国は競合に押され、ほぼ利益が出ない。営業利益は今より2割ほど増えるだけで、株価は普通の会社の倍率に落ちる。
この道では、フリマの市場そのものは大きくなる。だが、メルカリの取り分は薄くなり、売上の伸びが利益に結びつかない。堀が手数料を守れなくなった姿である。
- マーケットプレイス(国内フリマ・Shops・越境):数量 14,784(実質の取引総額(億円・今の値段))× 価格 0.12(取引総額あたりの売上(手数料率×物価指数))→ 売上 1,749 億円・営業利益 490 億円。国内の取引総額が実質で約1.15倍。手数料率が約8%下がる。利益率28%
- フィンテック(メルペイ・メルカード):数量 5,372(メルペイの貸出残高(億円・今の値段))× 価格 0.22(貸出残高あたりの売上(利回り×物価指数))→ 売上 1,178 億円・営業利益 165 億円。貸出残高が実質で1.5倍。利回りが約10%下がる。利益率14%
- 米国マーケットプレイス:数量 1,336(実質の取引総額(億円換算・1 ドル 150 円・今の値段))× 価格 0.43(取引総額あたりの売上(売上率×物価指数))→ 売上 571 億円・営業利益 11 億円。取引総額が実質で約1.1倍。利益率2%
倍率:事業の純利益382億円・事業のROE11.4%。RONIC=k8%+残る割合2/3×(ROE11.4%−k8%)=10.3%、長期の成長率g4.0%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.4倍。堀は強い。上限は事業382億円×14.4倍+余った現金0億円=5,513億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の7.0割に置き、時価総額3,859億円、全体のPERに直して10.1倍。
確率:手数料競争は10年で見れば現実的な筋書きだ。強い方の懸念に寄せ、2割強を置いた。
悲観 14% 構造的に負け、優良ではなくなる 利益 108 億円 · PER 7.9 倍 · 株価時価総額 522 円851 億円
手数料が大きく引き下げられ、国内の取引総額は実質で1割減る。月間利用者は伸びず、新しい利用者はほかのアプリに流れる。生成AIの買い物代行が主流になり、アプリを開く理由が薄れる。
金融は不況で貸し倒れが続き、貸出を縮める。米国は撤退を含めた見直しになる。営業利益は今の3分の1ほどに落ち、もう優良な会社ではなくなる。自己資本の6割で評価される。
この筋書きは、国内の堀が崩れ、金融も傷む最悪の道だ。筆者は起こる確率を1割台半ばとみる。中古品の取引が消えるわけではなく、メルカリが優良な会社でなくなるだけである。
- マーケットプレイス(国内フリマ・Shops・越境):数量 11,570(実質の取引総額(億円・今の値段))× 価格 0.11(取引総額あたりの売上(手数料率×物価指数))→ 売上 1,220 億円・営業利益 244 億円。国内の取引総額が実質で約0.9倍。手数料率が約18%下がる。利益率20%
- フィンテック(メルペイ・メルカード):数量 3,581(メルペイの貸出残高(億円・今の値段))× 価格 0.21(貸出残高あたりの売上(利回り×物価指数))→ 売上 741 億円・営業利益 37 億円。貸出残高が実質で据え置き。利益率5%
- 米国マーケットプレイス:数量 850(実質の取引総額(億円換算・1 ドル 150 円・今の値段))× 価格 0.41(取引総額あたりの売上(売上率×物価指数))→ 売上 344 億円・営業利益 −17 億円。取引総額が実質で約0.7倍。赤字
倍率:事業の純利益108億円・事業のROE3.8%。ROEがk8%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=12.1倍まで。上限は事業108億円×12.1倍+余った現金0億円=1,309億円。構造的に負けた後の値付けは、稼ぐ力(事業の純利益÷k)に純現金を足した額を超えない。悲観は上限の6.5割に置き、時価総額851億円、全体のPERに直して7.9倍。
確率:手数料の引き下げ競争と金融の貸し倒れが同時に来る、構造的な負けの道。堀が強い会社でも起こりうるため、1割台半ばを置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
マーケットプレイス(国内フリマ・Shops・越境)
国内の個人間取引の手数料・広告・越境の収益。取引総額に手数料率を掛けて稼ぐ。
| 数量実質の取引総額(億円・今の値段) | 価格取引総額あたりの売上(手数料率×物価指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 12,856 | 0.10 | 1,234 | 429 |
| 10 年後 中立 | 17,998 | 0.13 | 2,315 | 764 |
取り方:開示の国内取引総額 12,856 億円(2026/06 期)を数量に置いた。売上は Japan Business 1,809 億円からフィンテック 651 億円を引き、非報告の 76 億円を足した 1,234 億円と推定(事業別売上は開示を確認していない)。コア営業利益 429 億円。数量は実質、物価は価格の指数に入れた。
フィンテック(メルペイ・メルカード)
後払い・分割・カードの利息と手数料、暗号資産の取引収益。貸出残高に利回りを掛けて稼ぐ。
| 数量メルペイの貸出残高(億円・今の値段) | 価格貸出残高あたりの売上(利回り×物価指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 3,581 | 0.18 | 651 | 91 |
| 10 年後 中立 | 7,162 | 0.23 | 1,657 | 282 |
取り方:貸出残高 3,581 億円を数量に、売上 651 億円を残高で割った 18.2% を価格に置いた(残高以外の手数料収入も含むため利回りより高い)。コア営業利益 91 億円。資金調達の利払いは事業の費用として利益率に含まれるため、純利益の利払い調整は入れない。
米国マーケットプレイス
米国のフリマの手数料・送料関連の収益。取引総額に売上率を掛けて稼ぐ。
| 数量実質の取引総額(億円換算・1 ドル 150 円・今の値段) | 価格取引総額あたりの売上(売上率×物価指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 1,215 | 0.34 | 408 | 20 |
| 10 年後 中立 | 2,187 | 0.45 | 984 | 79 |
取り方:米国の取引総額 8.1 億ドルを 150 円で換算した 1,215 億円を数量に、売上 408 億円との比 33.6% を価格に置いた。売上率が高いのは送料関連の収入を含むためと推定。コア営業利益 20 億円。
リスクと懸念
手数料が下に引かれる
PayPayフリマは手数料が低いと報じられ、ラクマも実績に応じて手数料を下げている。売り手を取り合う局面が来れば、メルカリも10%の手数料を守れない。取引量が保たれても、手数料率が1割下がれば国内の利益は大きく減る。数字の上では、手数料率が1割下がれば国内の利益が2割以上減る計算になる。筆者はこれを最大の下振れ要因とみる。
金融の貸し倒れ
貸出残高は1年で44%増え、3,581億円になった。回収率は99%台だが、不況で数字が崩れれば金融の利益は消える。貸出の元手は借入で、自己資本比率は2割を切る。貸出を増やすほど、景気の波に対して脆くなる。貸出の元手は借入で、自己資本比率は2割を切る。貸出を絞る判断が遅れれば、傷が深くなる。
足元の利益の質
2026年6月期の純利益は、営業利益に対して税の負担が軽い。税率が正常に戻れば、同じ営業利益でも純利益は1割強減る。市場が今の純利益に高い倍率を付けているなら、その土台は見かけより低い。ここで言う正常化後の利益は、決算の数字より1割強低い。倍率の土台そのものが下がる点に注意が要る。
利用者数が伸びない
月間利用者の伸びは5%にとどまり、取引総額の伸びは高額品と大型施策に頼っている。大型施策は毎年打てるとは限らない。新しい利用者がほかのアプリに向かえば、国内の取引量は人口とともに細る。取引量が増えなければ、利益の伸びは手数料と金融だけに頼ることになる。
盗品・転売への規制と信頼
盗品や高額転売への批判が続いている。出品の規制を強めれば取引が減り、緩めれば信頼を損なう。安心の仕組みに費用をかける必要があり、規制の強化は人気カテゴリーの取引を直撃しうる。規制の強化は、出品の規制として国内の成長を直接止める。
米国事業の持続性
米国は黒字化したものの、利益率は5%前後と薄い。現地のCEOも2026年7月に交代した。競合のeBayや新興勢に規模で勝てなければ、再び投資が膨らみ、利益を食う。現地の経営体制が変わった直後で、成果が出るまで時間がかかる。
生成AIによる買い物の代行
AIが探す・比べる・買うを代行する時代になれば、アプリを開く理由が薄れる。メルカリはAIを自社の開発と検索に使うが、入り口を他社のAIに握られると、手数料の交渉力が弱まる危険がある。入り口を握られた場合、メルカリは手数料の交渉力を失う。
今後の分かれ目
- PayPayフリマなど競合が手数料を下げ、メルカリも引き下げに動いた
- 手数料率の低下が利益を直撃するとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。取引量が保たれても、堀が手数料を守れていない証拠になる。
- メルペイの回収率が99%を割り、貸倒費用が急に増えた
- 金融の利益が景気の波に弱いとみて、悲観の確率を上げる。貸出の伸びを抑える判断が出るかを見る。
- 月間利用者が前年を10%以上上回る伸びを3期続けた
- 国内の取引量を実質で押し上げる力が本物とみて、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 越境取引が全体の2割に近づき、利益に乗ってきた
- 人口の減る国内の外に新しい数量が生まれたとみて、楽観側の数量を上げる。
- 米国の黒字が定着し、取引総額が2桁成長を続けた
- 米国が利益の厚みを足すとみて、やや楽観の確率を上げる。逆に赤字へ戻れば、投資の再開として悲観側へ寄せる。
- 自社株買いが継続し、配当を含む方針が示された
- 資本配分が成熟したとみて、還元の合計を上げ、ROE の見方を前向きに直す。
見ておくもの
- 国内の取引総額の伸びと月間利用者数の伸び
- メルペイの貸出残高と回収率(貸倒費用)
- 手数料率の変更と PayPayフリマ・ラクマの動き
- 越境取引の取引総額と対象国の数
- 米国の取引総額・損益と現地経営の体制
- 自社株買い・配当の方針と純利益の税率の正常化
倍率と資本コストの決め方
国内フリマ・金融・米国に分け、取引総額×手数料率で積んだ。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k8%、堀は強いで残る割合2/3)に対する位置で置いた。楽観は上限の8割、やや楽観7.5割、中立7.5割、やや悲観7割、悲観は事業の純利益÷kの稼ぐ力(と純現金)の6.5割。今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.41→20.53 倍・やや楽観 PER 13.16→20.21 倍・中立 PER 12.5→19.31 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。