結論
グリーホールディングスは、モバイルゲームを軸に、VTuber・アニメなどのIP事業とAI関連を持つ会社だ。売上は513億円で、10年続けて縮んでいる。筆者の結論は「適正」。純現金が575億円と時価総額の8割近くあり、現金だけで株価を支える。
本業は、既存ゲームの減衰に新作が追いつかず、利益が小さい。配当は、純資産配当率(DOE)3%と配当性向30%以上の方針で、戻りは確かだ。
現金の価値と本業の稼ぐ力を足すと、今の時価総額と近い。本業が減益を止めるかが、分かれ目になる。筆者は、現金の厚さを評価しつつ、本業には慎重だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、純現金が時価総額の8割近い会社は、本業の値段がほぼただに見える。ただし、本業は10年縮んでおり、ヒット次第で利益が振れる。現金が戻る約束はDOE3%という形である。
現金の価値に、縮む本業の価値を足すと、今の時価総額と近い。割安と言うには、本業の下支えが足りない。待つ価値はある。安全域は現金が支えるが、本業が赤字になれば現金が減る。現金は買う側から見ても魅力で、再編の的になりやすい。
何で稼ぐ会社か
売上の6割ほどはゲーム事業で、運営型のモバイルゲームと、新しく手がけるコンソール作品からなる。残りは、VTuberの制作とライブ配信サービス「REALITY」、アニメなどのIP事業、AI関連の事業だ。投資事業からは撤退した。
ゲームは、人気タイトルの寿命が尽きるたびに、新作を出して穴を埋める仕組みで、ヒットの有無で利益が大きく振れる。
REALITYは配信者の応援課金が収益源で、過去最高の四半期売上を出した。セグメントの内訳は開示が取れず推定した。AI関連は小さく、収益への貢献はまだ限られる。会社は、プラットフォームの運営から作品づくりへ重心を移している。
優良さと弱いところ
堀と呼べるものは、国内最大級のユーザーと、VTuberとアニメのIPだ。ただしゲームは人気の寿命が短く、強い堀はない。売上は10年で3割近く縮み、ROEは過去10年の中央値で4〜5%にとどまる。
財務は極めて堅く、自己資本比率は76%、純現金は575億円ある。経営は創業者の影響が強く、上位10株主で76%を持つ。創業者の経営は、長期で見る強みと、少数株主への還元に動きにくい弱みを併せ持つ。
筆者は堀を普通と見る。現金が多すぎて資本効率が薄まっている点が、最大の弱みだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内ゲーム市場は2.6兆円で横ばいに近く、世界はモバイルが過半を占める。国内の運営型ゲームは、既存の人気作に収益が偏り、新作のヒット率が低い。課金は、プラットフォームへの手数料が約3割かかる。
VTuber・配信は新しい成長領域で、ファンの応援課金が伸びる。ただし競争も激しい。生成AIはゲームの開発費を下げる一方、競合の参入も容易にする。国内の人口は減り、ゲームに使う時間は動画やSNSと奪い合いになる。国内ゲームの伸びは期待しにくい。
10年の悪い筋書きは、ヒットが続かず、課金ユーザーが半分以下に減ることだ。
資本政策と M&A
配当は、純資産配当率(DOE)3%程度を確保しつつ、連結配当性向30%程度以上(上限70%)とする方針だ。数字の約束がある。自社株買いや中期経営計画の数値目標は確認できなかった。
純現金は575億円と時価総額の8割近くあり、配当の下限はDOEで守られる。投資事業からは撤退した。10年以内にTOBに会う確率は、外部の推定で21%ほどある。
見通しをどちらに寄せたか
上側と下側の確率は同じに置いた。現金が下値を支え、配当の方針も明確だが、本業は縮み続けてきた。新作とVTuberの伸びが当たるかは読めないため、中央を厚くした。現金の厚さは悲観の床で見た。配当の方針も、下値を支える材料にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 622 円1,068 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 176 円303 億円)。 今の値に割り戻すと 433 円744 億円、今との差 −0.2%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,122 円1,928 億円 | 233 円400 億円 | +212.2% | +12.1% | 135 円233 億円 |
| やや楽観 | 20% | 850 円1,461 億円 | 204 円350 億円 | +142.8% | +9.3% | 211 円362 億円 |
| 中立 | 40% | 646 円1,110 億円 | 186 円320 億円 | +91.7% | +6.7% | 333 円572 億円 |
| やや悲観 | 20% | 301 円517 億円 | 145 円250 億円 | +2.8% | +0.3% | 89 円153 億円 |
| 悲観 | 10% | 211 円362 億円 | 87 円150 億円 | −31.4% | −3.7% | 30 円51 億円 |
| 加重平均 | 100% | 622 円1,068 億円 | 176 円303 億円 | +83.9% | +6.3% | 798 円1,371 億円 |
今の株価時価総額 434 円746 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:新作とIPが同時に当たる 利益 103 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 1,122 円1,928 億円
新作のモバイルゲームとコンソール作品が当たり、アニメ・VTuberなどのIP事業も伸びる。REALITYの利用者が増え、課金単価も物価並みに上がる。営業利益率は1割を超え、配当も増える。厚い現金は配当と自社株買いで戻る。10年後の営業利益は今の2倍を超える。ユーザーも広がる。
- ゲーム:数量 1,210(課金ユーザー数(千人・推定))× 価格 4.02(1人あたり年間課金額(万円・名目))→ 売上 486 億円・営業利益 68 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
- VTuber・IP(REALITY・アニメ):数量 5,850(利用者・配信の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.54(1人あたり年額(万円・名目))→ 売上 314 億円・営業利益 38 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
- AI・その他:数量 689(取引量(千件相当・推定))× 価格 1.34(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 92 億円・営業利益 7 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
倍率:事業の ROE 11.7% と k の関係から、式の上限に置いた。
確率:新作とVTuber・IPが同時に当たる筋書き。ゲームの売上は10年縮んでおり、確率は低めに置く。
やや楽観 20% やや楽観:新作が減衰を補う 利益 74 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 850 円1,461 億円
既存タイトルの減衰を新作がほぼ補い、VTuber・IP事業が伸びて全体の利益を押し上げる。営業利益率は1割に近づく。配当は方針どおり続き、現金の一部は還元に回る。新作の当たり外れで年ごとの振れは残る。営業利益は今の6割増になる。現金も戻りやすくなる。ユーザーの裾野も広がる。
- ゲーム:数量 1,045(課金ユーザー数(千人・推定))× 価格 3.90(1人あたり年間課金額(万円・名目))→ 売上 408 億円・営業利益 47 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
- VTuber・IP(REALITY・アニメ):数量 5,200(利用者・配信の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.54(1人あたり年額(万円・名目))→ 売上 279 億円・営業利益 29 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
- AI・その他:数量 636(取引量(千件相当・推定))× 価格 1.34(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 85 億円・営業利益 6 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
倍率:事業の ROE 9.9% と k の関係から、式の上限に置いた。
確率:既存タイトルの減衰を新作が補い、VTuber・IPが伸びる筋書き。
中立 40% 中立:ゲームは縮み、VTuber・IPが伸びる 利益 51 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 646 円1,110 億円
既存のモバイルゲームは減衰し、新作がそれを部分的に補う。ユーザー数は実質で減り、課金単価はプラットフォーム手数料の負担で物価に届かない(10年で1.25倍)。VTuber・IP事業が伸びて、営業利益率は8%に戻る。配当は方針の下限で続く。営業利益は今より3割ほど増え、本業の縮みは止まる。
- ゲーム:数量 935(課金ユーザー数(千人・推定))× 価格 3.75(1人あたり年間課金額(万円・名目))→ 売上 351 億円・営業利益 32 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
- VTuber・IP(REALITY・アニメ):数量 4,550(利用者・配信の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.54(1人あたり年額(万円・名目))→ 売上 244 億円・営業利益 22 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
- AI・その他:数量 583(取引量(千件相当・推定))× 価格 1.34(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 5 億円。人数・単価・営業利益率の推定。
倍率:事業の ROE 8.1% と k の関係から、式の上限に置いた。
確率:上側と下側の確率は同じ。ゲームは縮み、VTuber・IPが伸びる中心の筋書き。
やや悲観 20% やや悲観:新作が外れる 利益 19 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 301 円517 億円
新作が当たらず、既存タイトルの減衰が止まらない。ユーザー数は3割減り、課金単価も上がらない。VTuber事業は伸びても、全体の営業利益率は3%台に落ちる。配当は方針の下限を守るが、利益を上回る。現金を取り崩して配当を払う形になる。株価の評価も下がる。
- ゲーム:数量 770(課金ユーザー数(千人・推定))× 価格 3.45(1人あたり年間課金額(万円・名目))→ 売上 266 億円・営業利益 13 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
- VTuber・IP(REALITY・アニメ):数量 3,250(利用者・配信の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.48(1人あたり年額(万円・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 9 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
- AI・その他:数量 530(取引量(千件相当・推定))× 価格 1.20(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 64 億円・営業利益 2 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
倍率:ROEがkに届かず、本業が縮む。稼ぐ力の値(1÷k)より低く置いた。
確率:新作が当たらず、減衰が続く筋書き。上側と同じ確率。
悲観 10% 悲観:ヒットが途切れ、現金を食う 利益 −7 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 211 円362 億円
ゲームのヒットが続かず、課金ユーザーが半分以下になる。VTuber事業も競争で伸びず、赤字が続く。もう優良とは言えない会社になり、現金を新規事業で食う。床は余った現金に戻り方を掛けた額になる。整理される事業も出る。人員の削減も避けられない。
- ゲーム:数量 495(課金ユーザー数(千人・推定))× 価格 3.00(1人あたり年間課金額(万円・名目))→ 売上 149 億円・営業利益 −3 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
- VTuber・IP(REALITY・アニメ):数量 2,600(利用者・配信の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.40(1人あたり年額(万円・名目))→ 売上 104 億円・営業利益 0 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
- AI・その他:数量 424(取引量(千件相当・推定))× 価格 1.00(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 −1 億円。人数・単価・営業利益率の推定。既存タイトルの減衰とプラットフォーム手数料で単価が物価に届かない
倍率:赤字で稼ぐ力が測れない。床は余った現金に預り金などを除いた分と戻り方0.75を掛けた約360億円で、今の自己資本の4割弱に置いた。
確率:構造的に負ける筋書き。ヒットが途切れ、課金ユーザーが半分以下になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ゲーム
運営型のモバイルゲームとコンソール作品。
| 数量課金ユーザー数(千人・推定) | 価格1人あたり年間課金額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 1,100 | 3.00 | 330 | 29 |
| 10 年後 中立 | 935 | 3.75 | 351 | 32 |
取り方:2026年6月期の売上513億円のうち約330億円と推定。セグメントの通期開示が取れず、ユーザー数と単価は逆算の推定。営業利益は約29億円と推定。
VTuber・IP(REALITY・アニメ)
REALITYの応援課金、VTuber制作、アニメなどのIP。
| 数量利用者・配信の取引量(千人相当・推定) | 価格1人あたり年額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 3,250 | 0.40 | 130 | 11 |
| 10 年後 中立 | 4,550 | 0.54 | 244 | 22 |
取り方:前期のメタバース事業は売上83億円・営業利益7億円。IP事業の新設分を加えて売上約130億円・営業利益約11億円と推定。
AI・その他
AI関連と小さな事業。
| 数量取引量(千件相当・推定) | 価格1件あたり年額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 530 | 1.00 | 53 | 4 |
| 10 年後 中立 | 583 | 1.34 | 78 | 5 |
取り方:残りの約53億円。営業利益は推定。全社の営業利益40億円に合うよう調整(約-3億円)を入れた。
リスクと懸念
今後の分かれ目
- 新作が当たり、ゲーム事業の利益が2期続けて増える
- やや楽観の筋書きに近づく。
- VTuber・IP事業の利益が伸び、全体の営業利益率が10%を超える
- 楽観に寄る。
- 自社株買いが数字で示される
- 現金の戻り方がさらに上がり、価値が厚くなる。
- 新作が続けて外れ、営業赤字になる
- 悲観に寄り、現金を食い始める。
見ておくもの
- ゲーム事業の利益
- VTuber・IPの利益
- 配当(DOE3%)と自社株買い
倍率と資本コストの決め方
倍率は式と筋書きごとのROEで置いた。市場のPERは使っていない。10年先の利益は3事業の数量と単価から積み、今の値段に合わせていない。式の上限そのものに置いた。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。