結論
アルゴグラフィックスは、製造業の設計・開発のデジタル化を、ソフトや機器の販売と技術者による支援で担う会社だ。自己資本比率は 6 割、純現金は時価総額の 3 割超。2025 年には約 205 億円の自己株式公開買付けを実施し、還元に前向きな姿勢も示した。
筆者の結論は「適正圏。わずかに割高寄り」。稼ぎの半分ほどは技術者の工数で売る仕事で、AI エージェントが設計や開発の手作業を肩代わりすれば数量が縮む。一方、製品販売と保守の部分は、顧客の設計環境に根づいていて急には崩れない。純現金の厚さと 40% 以上へ引き上げる配当性向の方針が、悲観の深さを和らげている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業の質は「悪くないが突出しない」。株主に残る利益は営業利益の 7 割ほどで、設備投資の負担が軽く、現金が積み上がりやすい。
問いは 10 年後も技術者の工数で稼げるかだ。筆者は、技術サービスの数量が 3 割ほど縮むと置いても、製品と保守の底堅さ、純現金、還元の方針で、払う値段に対する安全域は確保しやすいと見る。ただし AI の浸透が想定より速ければ、利益は半分近くまで減りうる。
何で稼ぐ会社か
主力は二つに分けて見る。一つはCAD・PLMなど設計系のソフトや関連機器の販売と保守で、顧客の設計環境に組み込まれたストック型の収益だ。もう一つは、導入・開発・設計支援を技術者の工数で売る技術サービスで、人月の考え方に近い。
顧客は自動車、半導体、産業機械、航空・宇宙、公共・大学など。中期経営計画は、これらの業界ごとの市場戦略とワンストップのDX提案を柱にしている。売上は 2026/03 期で 715 億円、営業利益率は 15% 前後だ。なおセグメントの割合は開示で確かめられず、筆者の推定で置いた。
優良さと弱いところ
堀は中程度だ。設計系ソフトは一度入れると設計データや手順が積み上がり、乗り換えに手間がかかる。そこに技術者が張りつく点は強みになる。
ただし技術サービスは受託型で、顧客が内製や他社に移す費用は高くない。ソフトの供給元の方針や海外大手の直販強化にも左右される。
財務は健全だ。ROE は過去 10 年おおむね 12〜14% で、無借金に近い構えで 15% 前後の営業利益率を保ってきた。資本効率の改善にも動いている点を、筆者は評価する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の製造業は人手不足を背景に、設計・生産のデジタル化への投資を続けている。需要は底堅い。
しかし生成AIが設計の補助やコード作成を担い始め、人の工数で売る仕事の前提が揺らいでいる。技術者の数を増やせば売上が伸びる時代は終わりに近い。
競合は大塚商会、NSD、システナなどのITサービス各社と、製品の供給元の直販部隊だ。国内ITサービス市場は名目で年 6% 前後の成長が見込まれるが、人月型は数量が縮み、単価の上昇でそれを埋める形になると筆者は見る。製品側は供給元の値上げに追随するだけで、取り分は広がりにくい。
資本政策と M&A
還元は前向きだ。2025 年に自己株式の公開買付けで約 205 億円を取得し、配当性向は 30% 以上の目途から 2028/03 期に 40% 以上へ引き上げる計画だ。自己株式取得は機動的に行うとする。成長投資は 3 年で 190〜270 億円で、うちM&Aは 100〜150 億円。買収は技術者の確保が狙いで、価格次第で価値を損なう危険もある。上位株主の持ち分は 5 割台で、支配が強いとまでは言えない。
見通しをどちらに寄せたか
技術サービスの縮みは避けにくく、AI を売り物にできた開示の金額もないため、確率は下側に 35% 置いた。一方で製品・保守と純現金が下を支える。結果は適正圏で、悲観でも手元の現金が効いて時価総額の半分弱で止まる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,792 円1,232 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 542 円372 億円)。 今の値に割り戻すと 1,272 円874 億円、今との差 −5.1%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,544 円1,748 億円 | 745 円512 億円 | +145.2% | +9.4% | 230 円158 億円 |
| やや楽観 | 21% | 2,249 円1,546 億円 | 637 円438 億円 | +115.3% | +8.0% | 606 円417 億円 |
| 中立 | 37% | 1,983 円1,363 億円 | 562 円386 億円 | +89.7% | +6.6% | 941 円647 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,417 円974 億円 | 455 円313 億円 | +39.7% | +3.4% | 449 円309 億円 |
| 悲観 | 11% | 618 円425 億円 | 354 円243 億円 | −27.6% | −3.2% | 107 円73 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,792 円1,232 億円 | 542 円372 億円 | +74.1% | +5.7% | 2,334 円1,604 億円 |
今の株価時価総額 1,341 円922 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 7% AI を使いこなし、人月が踏みとどまる 利益 99 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 2,544 円1,748 億円
設計向けの製品が顧客の環境に根づいたまま、技術者が AI を使って生産性を上げる筋書きだ。1 人あたりの売上が伸びて工数の縮みを埋め、営業利益率は 15% 近くを保つ。買収で技術者を補い、配当性向 40% 超と自社株買いも続く。顧客の設計現場が AI 導入を急ぎ、導入支援の需要が追い風になる点も効く。
- 製品販売・保守(設計系ソフト・機器):数量 100(ライセンス・保守契約の規模指数(今を 100))× 価格 3.80(指数 100 あたりの売上(億円))→ 売上 380 億円・営業利益 72 億円。数量 1.00 倍・価格 1.15 倍
- 技術サービス(導入・開発・設計支援):数量 2,040(技術者数(人))× 価格 0.21(1 人あたり売上(億円))→ 売上 439 億円・営業利益 59 億円。数量 0.85 倍・価格 1.34 倍(人月型の上限)
倍率:事業の純利益 95 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 30.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 19.0%、10 年より先の名目の伸び g -0.4%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)230 億円。
確率:AI を自社の売り物にして売上が出ている開示(金額)がなく、楽観でも数量は今以下。5〜7% にとどめた。
やや楽観 21% 製品が支え、サービスは緩やかに縮む 利益 82 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 2,249 円1,546 億円
製品と保守は小さく伸び、技術サービスは 2 割強縮む。大きな案件が減る一方、AI 導入の相談で単価は物価に近い水準を保つ。利益は今よりやや減るが還元で株主に戻る。営業利益率は 15% 前後で、製品の保守が全体を支える形になる。大きな買収はせず、現金は還元に回る。
- 製品販売・保守(設計系ソフト・機器):数量 93.0(ライセンス・保守契約の規模指数(今を 100))× 価格 3.66(指数 100 あたりの売上(億円))→ 売上 341 億円・営業利益 61 億円。数量 0.93 倍・価格 1.11 倍
- 技術サービス(導入・開発・設計支援):数量 1,824(技術者数(人))× 価格 0.21(1 人あたり売上(億円))→ 売上 386 億円・営業利益 48 億円。数量 0.76 倍・価格 1.32 倍
倍率:事業の純利益 79 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 28.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.7%、10 年より先の名目の伸び g -0.4%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)230 億円。
確率:製品・保守の底堅さと純現金の厚さを評価。人月は縮むが、全面的な置き換えは遅れるとみる。
中立 37% 工数の縮みを単価の上昇が埋め、売上は微減 利益 69 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 1,983 円1,363 億円
製造業の設計ITは需要が続くが、AI エージェントが設計補助や開発の手作業を肩代わりし、技術サービスの工数は 3 割ほど縮む。製品の単価は物価に届かず、営業利益率は 14% 前後に下がる。売上は今の 9 割ほどで、配当性向 40% 超と時々の自社株買いが続く。
- 製品販売・保守(設計系ソフト・機器):数量 85.0(ライセンス・保守契約の規模指数(今を 100))× 価格 3.56(指数 100 あたりの売上(億円))→ 売上 303 億円・営業利益 53 億円。数量 0.85 倍・価格 1.08 倍(席・ライセンス型)
- 技術サービス(導入・開発・設計支援):数量 1,632(技術者数(人))× 価格 0.21(1 人あたり売上(億円))→ 売上 340 億円・営業利益 39 億円。数量 0.68 倍・価格 1.30 倍(人月型)
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.4%、10 年より先の名目の伸び g -0.4%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)230 億円。
確率:人月型は中立で数量 0.68 倍、製品・保守は 0.85 倍。両者の落としどころ。
やや悲観 24% 内製化と値引きで利益が細る 利益 49 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 1,417 円974 億円
顧客が AI で設計とコード作成を自前で回し始め、技術サービスの案件が大きく減る。製品も値引き圧力を受け、営業利益率は 12% 前後へ下がる。買収で補おうとしても技術者の確保費用がかさむ。還元は利益に合わせて抑えられ、現金が積み上がりやすい。
- 製品販売・保守(設計系ソフト・機器):数量 75.0(ライセンス・保守契約の規模指数(今を 100))× 価格 3.40(指数 100 あたりの売上(億円))→ 売上 255 億円・営業利益 38 億円。数量 0.75 倍・価格 1.03 倍
- 技術サービス(導入・開発・設計支援):数量 1,392(技術者数(人))× 価格 0.20(1 人あたり売上(億円))→ 売上 277 億円・営業利益 26 億円。数量 0.58 倍・価格 1.24 倍
倍率:事業の純利益 46 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g -0.4%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)172 億円。
確率:顧客の内製化と供給元の直販強化が重なる筋書き。技術者採用の費用も重い。
悲観 11% 人月が置き換わり、現金が主役になる 利益 25 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 618 円425 億円
AI エージェントが設計と開発の手作業を置き換え、技術サービスの数量は半分以下に縮む。製品の供給元が直販を強め、取り分も減る。優良な会社ではなくなり、価値の多くは手元の現金と縮んだ事業の稼ぎに戻る。営業利益率は 1 桁へ下がり、買収の失敗も重なりうる。
- 製品販売・保守(設計系ソフト・機器):数量 60.0(ライセンス・保守契約の規模指数(今を 100))× 価格 3.23(指数 100 あたりの売上(億円))→ 売上 194 億円・営業利益 21 億円。数量 0.60 倍・価格 0.98 倍
- 技術サービス(導入・開発・設計支援):数量 1,080(技術者数(人))× 価格 0.18(1 人あたり売上(億円))→ 売上 199 億円・営業利益 13 億円。数量 0.45 倍・価格 1.15 倍
倍率:事業の ROE 3.8% は k 7.25% 以下で、ためた利益は額面の価値に届かない。10 年より先の名目の伸び g -0.4%(g_long)で稼ぐ力の値 1÷(k−g) = 13.1 倍を上限に置き、事業の純利益 24 億円 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)115 億円。AI エージェント代替は 10 年の数量・価格と g_long に入れ済みで、倍率の上に割引は重ねない。
確率:AI エージェントが設計・開発の工数を大きく置き換え、製品の供給元も直販へ寄る。売上が半分近くまで縮む構造的な負け。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
製品販売・保守(設計系ソフト・機器)
CAD・PLMなど設計系ソフトや関連機器の販売と、ライセンス・保守の継続収入。
| 数量ライセンス・保守契約の規模指数(今を 100) | 価格指数 100 あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 3.30 | 330 | 62 |
| 10 年後 中立 | 85.0 | 3.56 | 303 | 53 |
取り方:セグメント別の開示を確かめられず、売上 715 億円のうち 46% と推定(筆者の推定)。営業利益率も推定。数量は契約規模の指数、価格は単価の指数に分ける。【AI エージェント代替】席・ライセンス課金の型として中立で数量 0.85 倍・価格 1.08 倍。
技術サービス(導入・開発・設計支援)
導入・システム開発・設計支援を技術者の工数で提供する。人月型。
| 数量技術者数(人) | 価格1 人あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,400 | 0.16 | 385 | 46 |
| 10 年後 中立 | 1,632 | 0.21 | 340 | 39 |
取り方:売上の残り約 54% と推定。技術者 2,400 人は筆者の推定(1 人あたり売上 1,600 万円)。営業利益率 12% は推定。【AI エージェント代替】人月型として中立で数量 0.68 倍・価格 1.30 倍。
リスクと懸念
AI エージェントによる工数の置き換え
技術サービスは技術者の数と単価の積で稼ぐ。AI が設計補助やコード作成を担えば数量が縮む。中立でも売上の半分ほどの部分が 3 割縮むと置いている。
供給元の方針変更
設計系ソフトは海外の供給元に依存する。直販の強化や取扱条件の変更で、販売会社の取り分が細る恐れがある。
M&Aの失敗
成長投資 190〜270 億円のうち買収に 100〜150 億円を充てる計画。技術者の確保を狙うが、価格が高いと純現金を減らして価値を損なう。
技術者の採用難
人手不足で採用費と人件費が上がる。単価に転嫁できないと営業利益率が 15% 近くから下がる。
今後の分かれ目
- 技術サービスの1人あたり売上が物価を下回って下がり始めたら
- やや悲観・悲観の筋書きに確率を移す。人月型の縮みが想定より速い合図とみる。
- AI を使った案件の受注額が開示され、売上全体の1割を超えたら
- 楽観側の確率を引き上げ、数量の置き方を見直す。
- 自己株式の取得や配当性向の引き上げが前倒しされたら
- 余った現金の戻り方への確信が強まり、安全域が厚くなる。
見ておくもの
- 中期計画の 2028/03 期目標(売上 810 億円・営業利益 115 億円・ROE 15%)の進み具合
- 技術サービスの1人あたり売上と稼働
- 配当性向と自己株式取得の実績
- セグメント別の売上構成の開示
倍率と資本コストの決め方
数量と単価を製品販売と技術サービスに分け、AI エージェント代替の型(席・ライセンス型と人月型)で 10 年を置いた。倍率は式の上限そのもので、今の株価や同業の値付けは見ていない。形はリースを含まず今と同じ。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。