結論
KADOKAWAは、ライトノベルやマンガを生み出す出版を軸に、アニメ、ゲーム、ニコニコ、通信制高校まで持つIP(知的財産)の総合企業だ。筆者の結論は割高である。利益が底に近いのに、時価総額は5,700億円ある。回復をほぼ織り込んだ値段で、筆者が見る本質価値は3分の1ほどだ。
2026年3月期は営業利益が81億円と半減した。出版が赤字に落ち、アニメも赤字になった。支えたのはフロム・ソフトウェアのゲームである。同社は構造改革に入り、45歳以上の早期退職を募って154人が応募した。
本業の堀はある。だが出版は点数を増やしても1点あたりの売れ行きが細っている。会社は6年の新中計で出版の営業利益を年25%で伸ばすと言うが、10年先の中立でも純利益は200億円ほどだ。過去の最高益に物価を乗せた水準である。
現金は800億円あり、ソニーが約1割を持つ。買収の思惑は下値を支えるが、その分は値段に十分すぎるほど入っている。
なお、10年後の中立で見ても、利益は今の2倍に届かず、倍率も上がらない。資本コストは基本7.5%に優良度の調整+0.5%を足した8.0%で測っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業の質は悪くないが、いま払う値段に安全域がない。
持ち続けたい会社かと問うと、答えは半分だ。IPを生み続ける仕組みは10年後も存在する。しかし1点あたりの売れ行きが落ちている出版が稼ぎの土台だ。堀は磨かない限り狭まる。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、足元でほぼ出ていない。純利益は13億円、ROEは0.5%だ。800億円の現金が下値を支えるのは確かだが、現金が利益を生んでいない。会社が立て直しに成功し、出版の利益が年25%で伸びても、10年後の利益は200億円台と筆者は見る。
資本の使い方にも注文がある。ソニーから受けた500億円は、今のところ利益に結びついていない。構造改革は正しい方向だが、成果はこれからだ。
値段の面では、5,700億円は立て直しがすべてうまくいった姿に近い。これ以上の安全域を求めるなら、出版の利益が実際に戻り、現金の使い道が明らかになってからでよい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は出版・IP創出で、売上の過半を占める。ライトノベル・マンガ・書籍を自社で生み、紙と電子で売り、アニメ化やゲーム化の権利でも稼ぐ。2026年3月期の売上は1,556億円、利益は40億円だった。
アニメ・実写映像は482億円を売り、4.7億円の赤字だった。自社原作のアニメを作り、配信会社に売る。動画工房など制作会社も持つ。ヒットが出ると大きく稼ぐが、制作費の高騰で薄利になりやすい。
ゲームは298億円を売り、75億円を稼いだ。子会社のフロム・ソフトウェアが作る『ELDEN RING』シリーズが中心で、利益率は25%と全社でいちばん高い。ただし数本のタイトルに左右される。
ほかに、ニコニコなどのWebサービス(205億円、利益21億円)、通信制高校N高・S高などの教育(172億円、利益28億円)、所沢のサクラタウンなどその他(170億円、赤字40億円)がある。海外売上は全体の約2割で、米国が303億円だ。顧客は読者、ゲームの買い手、配信会社、生徒と多岐にわたる。
事業の収益の性質はまちまちだ。出版は点数の多さで広く薄く稼ぎ、ゲームとアニメは当たり外れが大きい。教育は生徒数で積み上がる。
優良さと弱いところ
堀の中心は、年に数千点の新作(会社は2027年度までに9,000点を目標にしている)を世に出す編集の裾野と、そこから育つ原作の蓄積である。他社が一朝一夕にはまねできない。ライトノベルの老舗で、アニメ化の原作供給元としても国内最大級だ。フロム・ソフトウェアという世界的なゲームの作り手を抱えるのも強みである。
ただし筆者は、この堀の質が落ちていることを気にしている。会社自身が、出版は『なろう・異世界系』に偏り、市場が飽和したと認めた。点数は増えたが1点あたりの部数は減った。宣伝も分散した。堀は広い。だが磨き方に緩みがあった。
資本効率は低い。ROEは過去10年でも5〜8%台が多く、直近は0.5%まで落ちた。自己資本比率は62%、純現金は800億円と財務は堅いが、現金は遊んでいる。
利益はゲームの大ヒットと2024年6月のサイバー攻撃で大きく揺れた。1本の当たりに頼る体質は変わっていない。ガバナンスはソニーの出資で外の目が入ったが、会社の資本の使い方はまだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の出版市場は縮んでいる。2025年は紙と電子で1兆5,462億円、前年比1.6%減で、4年連続のマイナスだ。紙は9,647億円まで落ち、半世紀ぶりに1兆円を割った。電子は5,815億円と伸びたが、電子コミックの勢いは鈍っている。国内の出版は、人口減とともに数量が細る構造にある。
伸びるのは海外とIPの展開である。アニメは配信で世界に出るようになり、マンガやライトノベルの翻訳も増えた。KADOKAWAは海外売上が約2割で、ここが成長の柱だ。一方、アニメは新規参入と原作の取り合いで制作費が上がり、人も足りない。作れば儲かる時代は終わった。
競合は出版の集英社・講談社・小学館、アニメ原作ではそれらとソニー系のアニプレックス、ゲームでは世界のゲーム大手である。ウェブ漫画(縦読み)など新しい読み方も強い。
循環でみると、出版は景気よりも作品のヒットに左右される。リーマン級の不況では、広告と娯楽の支出が落ち、ニコニコのイベントやゲームの新作の時期にも響く。生成AIは制作費を下げる一方、作品の数だけが増えて埋もれるおそれがある。
資本政策と M&A
資本政策の目玉はソニーとの提携である。2024年12月にソニーが約500億円で新株を引き受け、既存分と合わせて約1割を持つ筆頭株主になった。買収ではなく提携の形で、IPの実写化・共同制作・海外展開を狙う。KADOKAWAにとっては、外資の買収をかわす防波堤にもなった。
還元は薄い。配当は年44億円前後で据え置き、純利益が小さい年は配当が利益を上回る。自社株買いを大きく進めた形跡は確かめられていない。純現金800億円のうち、事業に要らない分は多い。
買収はイタリアやシンガポールの会社を買うなど、海外で小さく積み上げてきた。会社は構造改革に先に手を付けた。45歳以上の早期退職には154人が応募し、費用は約54億円、人件費は年17億円ほど減る。KADOKAWAが買われる側になる確率は、外部のモデルで10年以内に16.6%と出ている。ソニーが残りを買い増す道は閉じていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2026年3月期の営業利益81億円は、出版の構造改革とアニメの仕込みに先に手を打った結果の底だ。第4四半期には出版が34億円の利益に戻り、価格改定と宣伝の絞り込みが効き始めている。
会社は6年の新中計で、出版の営業利益を年24.7%で伸ばす。底から見れば、利益は戻れば2倍近くになる計算だ。45歳以上の早期退職では154人が応募し、人件費は年17億円減る。ソニーは約500億円を出して筆頭株主になり、実写化や世界への販売に動く。
ゲームにはフロム・ソフトウェアがいる。『ELDEN RING』は2024年6月に2,500万本を超え、新作が続く。教育は通信制高校の需要を取り込み、利益が2割近く伸びた。
純現金は800億円ある。財務に不安はなく、買収の声がかかれば値は大きく動く。利益が底にある今こそ、回復の幅が最も大きい。さらに出版は点数の整理で、1点あたりの宣伝を厚くできる。海外では翻訳版の需要が伸び、国内の縮みを埋める余地がある。2年の構造改革を終えた先に、利益が数倍に戻る景色を描ける。
慎重な見方
利益の底は、これで本当に終わりなのか。出版は『なろう・異世界系』に偏り、市場が飽和したと会社自身が認めた。点数は増えたが1点あたりの部数は減り、本業の質が落ちた。第4四半期の回復も、価格改定という一時的な手当てに頼る面がある。
新中計は、前の計画も未達だった会社が立てた6年の計画だ。最初の2年は構造改革期で、アニメは2028年3月期の利益をゼロと見込む。成長期は先で、そこまで待たせる。
ゲームは前年の大ヒットの反動で減益で、今期も減益の見通しだ。収益の柱が1本のタイトルに頼る。教育は伸びているが、全体の利益を支えるほど大きくない。
それでも時価総額は5,700億円ある。純利益13億円に対してPERは445倍。10年後の中立でも純利益は200億円ほどで、現在の値段は2倍以上の利益を先取りしている。ソニーの1割保有は、買い増しの保証にはならない。純現金も、今は利益を生まず、使い道が決まっていない。回復を信じる人の期待が、すでに値段に乗っている。
どちらに重みを置いたか
数字の上では、慎重な見方が強い。強気の見方が言う回復は本物だが、会社自身の計画(出版年25%成長)を満額で信じても、10年後の利益は今の値段を正当化するところまでは届かない。
確率は慎重な側に寄せた。10年は、やや悲観と悲観を合わせて4割、楽観とやや楽観を3割にした。
買収や提携の上振れは楽観の筋書きに含めたが、確率は高くしていない。現金と財務の堅さは、悲観でも値が崩れない下値の根拠として生かした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,975 円2,902 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 631 円928 億円)。 今の値に割り戻すと 1,344 円1,976 億円、今との差 −64.7%、 期待の年率 −3.7%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,264 円6,267 億円 | 1,021 円1,500 億円 | +38.9% | +3.3% | 528 円777 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,032 円4,456 億円 | 851 円1,250 億円 | +2.0% | +0.2% | 776 円1,141 億円 |
| 中立 | 30% | 2,079 円3,056 億円 | 680 円1,000 億円 | −27.5% | −3.2% | 828 円1,217 億円 |
| やや悲観 | 24% | 963 円1,415 億円 | 510 円750 億円 | −61.3% | −9.1% | 354 円520 億円 |
| 悲観 | 16% | 544 円800 億円 | 204 円300 億円 | −80.3% | −15.0% | 120 円176 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,975 円2,902 億円 | 631 円928 億円 | −31.5% | −3.7% | 2,606 円3,830 億円 |
今の株価時価総額 3,806 円5,594 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 海外・ゲーム・教育がそろって伸びる 利益 384 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 4,264 円6,267 億円
出版は新しいジャンルで当たりが続き、海外のマンガ・ライトノベルの売上が国内の減りを大きく上回る。営業利益は出版だけで250億円を超える。アニメは自社スタジオの制作力が上がり、ゲームはフロム・ソフトウェアの新作が10年を通して世界で売れる。
教育は通信制高校の需要の伸びを取り込み、利益は90億円近くになる。ソニーとは実写・アニメの共同制作が定着し、世界での配給も任せる。営業利益は500億円台まで伸び、純利益は過去最高の2.5倍ほどになる。ここまで行けば、買収の声がかかる可能性も高まる。ソニーが持株を増やす、あるいは買収の提案が出るといった再編の動きも、この筋書きには含まれる。ただし値は、その時の買い手の事情で決まるため、ここでは事業の稼ぐ力だけで置いた。
- 出版・IP創出:数量 8,800(刊行・創出する作品の数(点/年))× 価格 0.30(1点あたり年間売上(億円))→ 売上 2,660 億円・営業利益 253 億円。営業利益率9.5%
- アニメ・実写映像:数量 80.0(製作・出資する映像作品数(本/年))× 価格 11(1本あたり年間売上(億円))→ 売上 901 億円・営業利益 99 億円。営業利益率11.0%
- ゲーム:数量 7.0(年間の販売本数(百万本))× 価格 60(1百万本あたり売上(億円))→ 売上 417 億円・営業利益 117 億円。営業利益率28.0%
- Webサービス:数量 220(有料会員とイベント等の利用者(万人換算))× 価格 1.37(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 303 億円・営業利益 42 億円。営業利益率14.0%
- 教育・EdTech:数量 8.0(在籍する生徒と利用者(万人))× 価格 58(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 460 億円・営業利益 87 億円。営業利益率19.0%
- その他:数量 1,100(従業員数(人))× 価格 0.23(1人あたり年間売上(億円))→ 売上 251 億円・営業利益 −13 億円。営業利益率-5.0%
倍率:事業の純利益 377 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 16.32 倍、時価総額 6,267 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外・ゲーム・教育・出版のすべてが同時に当たる必要があり、実現は難しい。それでも10年の長さがあるので1割残した。
やや楽観 20% 新中計の方向が実現する 利益 288 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 3,032 円4,456 億円
出版の利益が会社の計画どおり年20%前後で伸び、10年後に180億円前後まで戻る。海外が国内の減少を埋め、ゲームも大作を2年に1本のペースで出す。アニメは続編の定着で9%前後の利益率に乗る。
営業利益は400億円ほどで、純利益は過去最高の2倍に近い。ソニーとの提携は共同制作の実績を作るが、企業価値を大きく変えるほどではない。会社は資本の使い方を改め、配当と自社株買いを増やす。海外の売上は全体の3割に近づく。教育も新しい学校の分だけ伸びる。ゲームも、フロム・ソフトウェアの大作が2年に1本のペースで出るため、利益は今の水準を物価の分だけ上回る。
- 出版・IP創出:数量 8,200(刊行・創出する作品の数(点/年))× 価格 0.28(1点あたり年間売上(億円))→ 売上 2,333 億円・営業利益 187 億円。営業利益率8.0%
- アニメ・実写映像:数量 74.0(製作・出資する映像作品数(本/年))× 価格 11(1本あたり年間売上(億円))→ 売上 798 億円・営業利益 76 億円。営業利益率9.5%
- ゲーム:数量 6.2(年間の販売本数(百万本))× 価格 57(1百万本あたり売上(億円))→ 売上 353 億円・営業利益 94 億円。営業利益率26.5%
- Webサービス:数量 205(有料会員とイベント等の利用者(万人換算))× 価格 1.33(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 273 億円・営業利益 34 億円。営業利益率12.5%
- 教育・EdTech:数量 7.2(在籍する生徒と利用者(万人))× 価格 58(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 414 億円・営業利益 75 億円。営業利益率18.0%
- その他:数量 1,050(従業員数(人))× 価格 0.23(1人あたり年間売上(億円))→ 売上 240 億円・営業利益 −19 億円。営業利益率-8.0%
倍率:事業の純利益 281 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 15.45 倍、時価総額 4,456 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新中計の方向が実現する筋書き。ソニーとの提携という追い風があるので一定の重みを置く。
中立 30% 国内は縮み、海外とゲームで補う 利益 212 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 2,079 円3,056 億円
出版は、国内が数量で縮み、海外が数量で伸びて、全体では点数が少し増える程度に落ち着く。1点あたりの売れ行きは実質で1割ほど細り、値上げでそれを部分的に補う。営業利益率は6.5%まで戻る。
ゲームは大作を安定して出し、売上は今の水準を物価分だけ上回る。教育は在籍数が6割増え、利益が倍増する。アニメは自社スタジオの稼働で8%前後の利益を出す。
営業利益は290億円ほどで、純利益は210億円になる。立て直しは成功だが、世界を席巻するほどではない。海外売上比率は2割台後半に上がる。教育とWebサービスは小さな柱として伸びる。
- 出版・IP創出:数量 7,500(刊行・創出する作品の数(点/年))× 価格 0.27(1点あたり年間売上(億円))→ 売上 2,001 億円・営業利益 130 億円。営業利益率6.5%
- アニメ・実写映像:数量 70.0(製作・出資する映像作品数(本/年))× 価格 11(1本あたり年間売上(億円))→ 売上 755 億円・営業利益 60 億円。営業利益率8.0%
- ゲーム:数量 5.5(年間の販売本数(百万本))× 価格 57(1百万本あたり売上(億円))→ 売上 314 億円・営業利益 78 億円。営業利益率25.0%
- Webサービス:数量 190(有料会員とイベント等の利用者(万人換算))× 価格 1.28(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 244 億円・営業利益 29 億円。営業利益率12.0%
- 教育・EdTech:数量 6.5(在籍する生徒と利用者(万人))× 価格 58(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 374 億円・営業利益 64 億円。営業利益率17.0%
- その他:数量 1,000(従業員数(人))× 価格 0.23(1人あたり年間売上(億円))→ 売上 228 億円・営業利益 −25 億円。営業利益率-11.0%
倍率:事業の純利益 205 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 14.4 倍、時価総額 3,056 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革が成功し、国内の縮みが重しになる姿。10年の筋書きで最も確からしい。
やや悲観 24% 立て直しは中途半端で終わる 利益 102 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 963 円1,415 億円
出版の構造改革は成果が出るが、ウェブ漫画や海外の出版社に押され、点数も1点あたりの売上も伸びない。アニメは制作費の高騰で利益が出ず、ゲームもフロム・ソフトウェアの大作が減る。
営業利益は130億円ほどで、現在より増えるが、物価の上昇分にも届かない。ソニーとの提携は思ったほど広がらず、現金は使い道を見つけられないまま積み上がる。資本効率は低いままで、市場の評価も上がらない。教育だけが堅調で、利益の4分の1を稼ぐ姿になる。出版とアニメの立て直しが主題だったのに、会社の稼ぎは別の事業に偏る。配当は据え置かれ、自社株買いも小さいままだ。
- 出版・IP創出:数量 6,700(刊行・創出する作品の数(点/年))× 価格 0.26(1点あたり年間売上(億円))→ 売上 1,713 億円・営業利益 69 億円。営業利益率4.0%
- アニメ・実写映像:数量 62.0(製作・出資する映像作品数(本/年))× 価格 10(1本あたり年間売上(億円))→ 売上 648 億円・営業利益 26 億円。営業利益率4.0%
- ゲーム:数量 4.5(年間の販売本数(百万本))× 価格 55(1百万本あたり売上(億円))→ 売上 249 億円・営業利益 55 億円。営業利益率22.0%
- Webサービス:数量 160(有料会員とイベント等の利用者(万人換算))× 価格 1.23(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 197 億円・営業利益 16 億円。営業利益率8.0%
- 教育・EdTech:数量 5.5(在籍する生徒と利用者(万人))× 価格 56(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 307 億円・営業利益 43 億円。営業利益率14.0%
- その他:数量 950(従業員数(人))× 価格 0.22(1人あたり年間売上(億円))→ 売上 210 億円・営業利益 −32 億円。営業利益率-15.0%
倍率:事業に要らない現金375億円(戻り方0.5)を分けると、事業の純利益96億円(現金の税後利息を除く)・事業のROE4.9%。ROEがk8%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=12.5倍まで。上限は事業96億円×12.5倍+余った現金188億円=1,392億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の9.5割に置き、時価総額1,415億円、全体のPERに直して13.93倍。
確率:中計が未達続きだった実績、出版の飽和、ウェブ漫画の台頭を考え、慎重な見方を厚くした。
悲観 16% IPの供給元としての地位を失う 利益 −3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 544 円800 億円
生成AIで誰でも物語を作れるようになり、点数だけが増えて原作の価値が薄まる。ウェブ漫画の新興勢力に読者を奪われ、出版の売上が縮む。アニメは制作費の高騰と人材難で赤字が続き、ゲームは主要な作り手が離れる。
営業利益は赤字に沈み、会社は事業の整理と売却に追われる。現金が下値を支えるが、配当は減らされる。IPの供給元としての地位を失い、優良な会社ではなくなる。確率は低いが、ここまで落ちる道は否定できない。海外の出版社など、買った会社の減損も出る。教育だけが細々と黒字を保つ。会社は事業の整理を迫られ、時価総額は自己資本の6割まで下がる。
- 出版・IP創出:数量 5,600(刊行・創出する作品の数(点/年))× 価格 0.24(1点あたり年間売上(億円))→ 売上 1,369 億円・営業利益 21 億円。営業利益率1.5%
- アニメ・実写映像:数量 52.0(製作・出資する映像作品数(本/年))× 価格 10(1本あたり年間売上(億円))→ 売上 523 億円・営業利益 −11 億円。営業利益率-2.0%
- ゲーム:数量 3.2(年間の販売本数(百万本))× 価格 53(1百万本あたり売上(億円))→ 売上 170 億円・営業利益 26 億円。営業利益率15.0%
- Webサービス:数量 120(有料会員とイベント等の利用者(万人換算))× 価格 1.18(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 142 億円・営業利益 4 億円。営業利益率3.0%
- 教育・EdTech:数量 4.5(在籍する生徒と利用者(万人))× 価格 54(1人あたり年間売上(億円/万人))→ 売上 242 億円・営業利益 24 億円。営業利益率10.0%
- その他:数量 900(従業員数(人))× 価格 0.21(1人あたり年間売上(億円))→ 売上 192 億円・営業利益 −35 億円。営業利益率-18.0%
倍率:赤字で稼ぐ力は価値にならない。床は純現金と売れる資産の税後(約800億円・floor_assets_oku。内訳は floor_assets_why)で、これを今の自己資本約2,450億円に掛けた形(PBR0.33)で置く。帳簿の自己資本は価値の根拠にしない。
確率:構造的に負ける道は、生成AIや新興勢力で複数の事業が同時に崩れる必要があるが、出版の1点あたり売上の低下がすでに始まっている。慎重な見方が強いため厚めに置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
出版・IP創出
ライトノベル・マンガ・書籍の企画と販売(紙・電子)、国内外の翻訳出版、IPの権利許諾。
| 数量刊行・創出する作品の数(点/年) | 価格1点あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,000 | 0.22 | 1,556 | 41 |
| 10 年後 中立 | 7,500 | 0.27 | 2,001 | 130 |
取り方:セグメント売上1,556億円、営業利益40.5億円を、年間の刊行・創出点数(会社の目標は2027年度に9,000点。足元は約7,000点と推定)で割り、1点あたり約0.22億円とした。点数は非開示の推定。点数は編集の整理と海外の出版で緩やかに増え、1点あたり売上は物価の分だけ上がるが、部数が細るため中立は物価より低く置く(10年で1.2倍)。
アニメ・実写映像
自社原作のアニメ製作、配信会社への販売、実写映画の製作。動画工房など制作会社を含む。
| 数量製作・出資する映像作品数(本/年) | 価格1本あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 8.04 | 483 | −5 |
| 10 年後 中立 | 70.0 | 11 | 755 | 60 |
取り方:セグメント売上482.6億円、営業赤字4.7億円を、年間に売上を生む作品数(アニメ・実写の合計。非開示、推定約60本)で割り、1本あたり約8億円とした。作品数は自社スタジオの能力で増え、1本あたり売上は物価並みに上げる。
ゲーム
子会社フロム・ソフトウェアなどによるゲームの開発・販売。『ELDEN RING』シリーズが中心。
| 数量年間の販売本数(百万本) | 価格1百万本あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.0 | 43 | 298 | 75 |
| 10 年後 中立 | 5.5 | 57 | 314 | 78 |
取り方:セグメント売上297.8億円、営業利益75.4億円を、年間の販売本数(DLC・リピート分を含む推定700万本。非開示)で割り、1本あたり4千円台前半(1百万本あたり42.6億円)とした。本数は大作の有無で年により大きく振れる。中立は2年に1本程度の大作を見て5.5百万本とする。
Webサービス
ニコニコの会員課金・イベント・動画配信など。
| 数量有料会員とイベント等の利用者(万人換算) | 価格1人あたり年間売上(億円/万人) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 1.03 | 205 | 21 |
| 10 年後 中立 | 190 | 1.28 | 244 | 29 |
取り方:セグメント売上205.2億円、営業利益21.2億円を、有料会員とイベント来場者などを換算した利用者数(非開示、推定約200万人)で割り、1人あたり約1万円とした。2024年6月のサイバー攻撃で落ちた会員数の戻りを見る。
教育・EdTech
通信制高校(N高・S高)など、ドワンゴ系の教育事業。
| 数量在籍する生徒と利用者(万人) | 価格1人あたり年間売上(億円/万人) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 43 | 172 | 28 |
| 10 年後 中立 | 6.5 | 58 | 374 | 64 |
取り方:セグメント売上171.7億円、営業利益28.4億円を、在籍する生徒と教育サービスの利用者(非開示、推定約4万人)で割り、1人あたり約43万円(1万人あたり42.9億円)とした。新しい学校と校舎で前期は売上13.5%増。生徒数の増加は通信制高校への需要の構造的な伸びを理由に置く。数量は実物(在籍する生徒と利用者)で、通信制高校への需要の構造的な伸びと新しい学校・校舎による。名目の市場の伸びは置いておらず、物価は 1 人あたり売上の 1.34 倍だけで見ている。
その他
所沢のサクラタウンなどの施設運営、出版物流、海外の拠点、全社の管理に近い事業。
| 数量従業員数(人) | 価格1人あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 0.17 | 170 | −40 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 0.23 | 228 | −25 |
取り方:セグメント売上170.3億円、営業赤字39.7億円を、この区分の従業員数(非開示、推定約1,000人)で割り、1人あたり約0.17億円とした。人員は横ばいで、売上は物価並みに上げる。赤字はサクラタウンの運営費などで、中立では縮むが残る。
リスクと懸念
出版の1点あたり売上の低下
出版・IP創出は点数を増やしても、1点あたりの部数が細っている。会社自身が「なろう・異世界系」への偏りと市場の飽和を認めた。宣伝や販促の資源も、多すぎる点数に分散した。ジャンルの入れ替えが進まなければ、売上の過半を占める出版の利益が戻らない。
アニメの採算悪化
アニメ・実写映像は2026年3月期に赤字へ落ちた。新規参入と原作の取り合いで制作費が上がり、人も足りない。会社は2028年3月期の営業利益をゼロと見込み、前の計画の60億円から大きく下がった。実写も2年は低迷すると認めている。
ゲームが1本のタイトルに頼る
ゲームの利益75億円の大半は、フロム・ソフトウェアの大作に由来する。数本のタイトルで決まる事業なので、年ごとの波が大きい。前年の『ELDEN RING』のDLCの反動で減益になり、今期も減益の見通しだ。大作が出ない年は利益が大きく削れ、全社の利益の波を大きくする。
サイバー攻撃の再発
2024年6月のサイバー攻撃は、2025年3月期に売上で83億円、営業利益で47億円を押し下げた。出版の物流とニコニコが止まった。情報の流出と復旧費用の再発は、同じ形で収益を揺らす。復旧と補償の費用に加え、読者や取引先の信頼を損なう点も無視できない。
構造改革の実行
6年の新中計は最初の2年が構造改革期で、早期退職の費用は約54億円にのぼる。成果は人件費の削減(年17億円)だけでなく、出版の作品の入れ替えにある。前の中計は未達に終わっており、同じことを繰り返すおそれがある。
AIとウェブ漫画の台頭
生成AIで物語や絵を作るコストが下がると、作品の数だけが増えて個々の価値が薄まる。縦読みのウェブ漫画など新しい読み方の事業者も台頭する。出版市場は4年連続で縮み、紙は9,647億円まで落ちた。読者の時間を奪い合う相手が増えている。
現金の使い道
純現金800億円は時価総額の14%を占めるが、利益を生んでいない。ソニーの出資で得た500億円も使い道が示されていない。割高な買収に使えば価値を壊す。還元に回すか、成果の出る投資に使うかが問われる。経営の資本配分の力がそのまま試される。
今後の分かれ目
- 出版・IP創出の営業利益が2027年3月期から連続して年20%超で伸びる
- 新中計の方向が実現する筋書きに重みを移し、10年のやや楽観・楽観の確率を上げる。
- アニメの営業利益が2028年3月期にゼロに届かず赤字のままになる
- アニメ・実写の立て直しが遠のいたとみて、慎重な筋書きの確率を上げる。
- フロム・ソフトウェアの新作が世界で大きく売れ、ゲームの利益が再び100億円を超える
- ゲームの中立の本数を上げ、楽観寄りの確率を厚くする。
- ソニーが持株比率を大きく引き上げる、または買収を提案する
- 買収価格が企業価値の基準になる。ただし支払う側の事情で決まり、価値評価そのものは変えない。
- 純現金の使い道として、大きな買収や大規模な自社株買いが発表される
- 買収は規模と価格を見て資本配分の評価を下げる。自社株買いなら、割高で買っていないかを確かめる。
- 国内の出版市場の縮小が年4%を超えて加速する
- 出版の数量と利益率を下げ、10年の悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 出版・IP創出の四半期の営業利益と、1点あたりの売上の推移
- アニメ・実写映像の営業損益(2028年3月期にゼロの計画に届くか)
- ゲーム事業の販売本数とフロム・ソフトウェアの新作の発売時期
- 海外売上比率(2026年3月期は20.6%)と米国の売上
- 純現金の使い道、ソニーの持株比率の変化
- 早期退職の人件費削減(年17億円)が営業利益に出ているか
倍率と資本コストの決め方
出版・アニメ・ゲーム・Web・教育などに分けて積んだ。純現金800億円のうち事業に要らない500億円を余った現金とし、還元が薄いので戻り方0.5で足した。悲観は赤字なので別に置いた。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k8%、堀は並みで残る割合1/2)に対する位置で置いた。楽観は上限の9割、やや楽観8.5割、中立9.7割、やや悲観9.5割、悲観は事業の純利益÷kの稼ぐ力(と純現金)の(赤字のため資産の床で別に置いた)割。今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.39→16.32 倍・やや楽観 PER 13.05→15.45 倍・中立 PER 13.27→14.4 倍・やや悲観 PER 13.01→13.93 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。