結論
昭文社ホールディングスは、「まっぷる」「ことりっぷ」を軸に旅行ガイドと地図データを売る会社である。筆者は10年後の事業価値を現在の時価総額が上回る「割高」と判断する。書籍の編集と地図の整備には財産があるが、旅行計画と地図検索の入口を無料アプリやAIエージェントが握り、収益の取り分が細るからだ。
ただし単純な衰退企業ではない。長く親しまれる紙のブランド、企業システムに組み込まれた地図データ、そして純現金約60億円がある。2026年3月期には営業利益約4.8億円を確保した。しかし12億円を超える当期純利益は約7.3億円の税効果益に強く押し上げられ、経常的な稼ぐ力はそこまで強くない。2027年3月期の会社予想は営業利益3.8億円、純利益3.6億円である。
10年前には100億円を大きく超えていた売上は約67億円まで縮んだ。デジタル事業への移行や出版物のヒットは評価できるが、長期の増分資本利益率が資本コストを安定して超えた証拠はない。自社のアプリを増やすことと、顧客の仕事に不可欠な独占的データ基盤になることは違う。
現金と有価証券、賃貸不動産の処分価値は悲観の下支えとなる。それでも大株主の持分が厚く、少数株主が資産売却と還元の時期を決められるわけではない。終価だけでなく10年間に受け取る還元を含めて割り戻すと、現在の約96億円に十分な安全域を見いだせない。確率を加重した本質価値は現在の時価総額を約5割下回る。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の観点では、会社の寿命と株主の資本効率を分けて考える。旅の思い出と現地取材を詰め込んだ「ことりっぷ」の魅力は、AIの答えだけでは完全に代替できない。使い込まれた業務用地図にも、更新の手間と顧客との接続がある。しかし、好きな商品であることと、10年先に利益を増やしてくれる会社であることは別だ。
投資判断の核心は、約143億円の自己資本から持続的にどれだけ現金を得られるかにある。2026年の帳簿純利益12億円を繰り返し得られるとみなせば安く見えるが、税効果の影響を除けば見込みは小さくなる。多額の現金を金利2%で運用できても、それ自体は株主が要求する資本コスト8%を稼ぐことではない。編集システムの更新と買収に資本を使うなら、増分利益が費用を十分超えなければならない。
資産の支えは確かに大きい。2026年3月末の純現金は約60億円であり、投資有価証券や賃貸不動産も保有する。だが流動性のある株式と、低い賃貸収益しか生まない建物は、同じ倍率で評価できない。特に国債利回りが3%となる世界で、賃貸事業の営業利益に比べて高い鑑定時価をそのまま10年後の買値にしてはいけない。
最終的に欲しいのは、高い売上目標ではなく、事業の改善に使った資金が毎年どれだけ利益と還元を生むかという証明である。独自DBの解約率低下と料金改定の実績、買収後の営業利益率、返金負債を含む出版の現金創出を確認したい。十分な安全域が現れるまでは、ブランドの人気と低い帳簿倍率だけで評価を甘くしない。
何で稼ぐ会社か
売上の中心は地図・旅行ガイドを編集して売るメディア事業である。2026年3月期の外販売上は46.6億円で、全社の約69%を占める。そのうち市販出版物が35.9億円、電子書籍とアプリが4.3億円、広告と特別注文品などが約6.4億円である。書店に納品した冊数がそのまま実売にはならず、返品された本の処理、再版、取材、印刷と物流の費用が収益を左右する。
二本目の柱は売上18.2億円のソリューション事業である。昭文社の地図・旅行スポット情報を法人へ提供し、ナビゲーションや観光案内システムも開発する。利用許諾だけなら既に整備したデータの使い回しが効くが、個別仕様の開発では人員の稼働率が利益を左右する。2026年3月期の同事業は売上が伸びても約0.3億円の営業赤字であり、デジタル化が自動的に高収益化するわけではない。
広告・特注編集では自治体や観光施設、旅行関連企業から制作費や広告料を受け取る。2025年秋に傘下へ入ったBEASTARはSNS運用や動画制作を担い、2026年には歴史雑誌「歴史人」の事業資産も譲り受けた。これらは顧客接点を増やす試みだが、受託制作の部分はAIが置き換えやすく、買収額を増やすだけでは堀にならない。
小さな販売代理事業は約1億円の売上から約0.7億円の営業利益を出し、保有不動産の賃貸は約1.4億円の売上と約0.6億円の営業利益を生む。少額ながら、この二つが採算を助ける。一方、版権・紙・情報利用許諾・受託・資産運用が入り交じるので、全社売上の伸び率だけでは実際の利益品質を測れない。
優良さと弱いところ
堀、つまり競合が容易に奪えない強みは、編集と地図データの蓄積にある。「ことりっぷ」は2026年に累計発行2,000万部を超え、長い時間をかけて旅行者に選ばれる名前を育ててきた。「ツーリングマップル」や「山と高原地図」は旅の手触りを含む情報であり、単なる経路検索と使い道が違う。こうした商品には、一定の値上げを受け止める固定客が残りうる。
とはいえ、累計発行部数は年間の購買量でも値上げの成功でもない。書店の棚が減れば新しい読者と出会いにくい。印刷費や取材費に物価上昇が及び、売れ残りと返品は損益を損なう。2026年3月期のメディア営業利益率は約5.8%で、圧倒的な価格決定力を示す水準ではない。
地図データは長年の道路・施設調査が参入障壁となる。業務用ナビへの実装例もあるので、既存顧客には切り替え費用があるはずだ。しかし解約率5%未満や年単位の移行費用といった定量証拠は開示されず、法令で同社データが正本に指定されてもいない。競合ゼンリンの規模は大きく、Google Mapsや他の地図基盤も利用者の期待を決める。全社を強い独占的な堀と評価するのは難しい。
過去10年間のROE中央値はマイナスで、自己資本は2015年の約224億円から約143億円に減った。最近の黒字転換や業務集約は前進だが、高利回りで利益を何度も再投資できたとは言えない。巨額の純現金は倒産の確率を下げる一方、利益率の低い資本を抱えたままなら株主価値の伸びも鈍い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
全国出版協会・出版科学研究所による2025年の紙の出版市場は9,647億円で、前年比4.1%減った。内訳は書籍5,939億円、雑誌3,708億円である。一方、電子出版全体は5,815億円に達するが、その大半はコミックであり、旅行ガイドの電子版が同じ勢いで伸びるわけではない。旅行需要が戻っても、旅の準備を紙に頼る割合が戻るとは限らない。
旅行案内ではJTBパブリッシングの「るるぶ」が正面の競争相手となる。同社の開示売上規模は約83億円だが、旅行書以外の出版・デジタル事業も含まれ、昭文社の市販出版物35.9億円と単純に足して旅行ガイド市場のシェアとすることはできない。旅行ガイドだけの公的市場額と両社の販売シェアは確認できず、筆者は数量の見通しを全出版市場と発行・売上の実績から控えめに推定した。
地図・位置情報サービスは別の市場である。矢野経済研究所が2020年に推計した国内屋外位置・地図情報関連市場の2025年度予測は1,906億円で、これは実績ではなく、配車や位置情報アプリも含む広い定義だ。昭文社のソリューション売上18.2億円はこの市場の約1%に相当する参考値にすぎず、業務地図DBでの実測シェアではない。ゼンリン、ジオテクノロジーズ、Googleの地図APIなどの競争軸は価格だけでなく、更新頻度とシステムへの組み込みやすさである。
2036年までに観光関連の行動は、質問すれば行程も予約も組むAIへ近づく。人が自分で旅先を探すための画面は、情報サービスの課金単位として弱くなる。他方、災害時の道路通行、物流ルートの制約、最新施設の位置など、現物と照合して更新する情報は引き続き必要だ。生き残るのは検索窓ではなく、情報の正しさを担保する工程である。しかしそこにも他社の地図基盤が存在するため、独自データの価値を会社全体へ広げて考えない。
資本政策と M&A
2025年6月の「経営アクションプラン2025」は、2035年3月期の連結売上100億円を目標とする。観光テック、位置情報、モビリティ分野のM&AとAIによる編集効率化を掲げた。しかし営業利益、ROE、DOE、配当性向、総還元性向、自己株買い額については数字の約束がない。売上だけの目標は、株主が受け取る利益や買収価格の妥当性を保証しない。
2024年3月期に配当を再開し、2026年3月期の配当総額は約0.9億円である。2025年11月には最大61万株・2.6億円の自己株式取得を決議し、2026年9月末までの累計実施額は約1.21億円となった。2027年3月末以降は100株以上を1年以上保有する株主に3,000円相当の自社通販クーポンが付く。発行部数と償還率は未開示なので、優待の価値は券面全額ではなく会社の履行原価で保守的に見込む。
BEASTARの買収と「歴史人」の資産譲受は、新規客と広告接点を求める事業構造改革である。ただし2027年3月期第1四半期は買収による増収と営業赤字拡大が同時に起きた。取引後の利益と投下資本利回りを確認するまでは、M&Aを高い価値で先取りしない。大株主上位10名の持分は68.79%で、現金の少数株主への還元が遅れる可能性も考慮する。
余剰資産については過去の配当再開と自社株買いの実行があるため、戻り方を50%には落とさず75%で評価する。中立の10年間の配当・買戻し・優待履行原価は計23億円ほどを想定する。優待の年間原価は対象株主数と利用率から約0.2~0.3億円という推定で、決算書の確定費用ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
昭文社の価値を紙出版だけで測ると、地図と旅行ブランドの財産を見落とす。2026年には「ことりっぷ」が累計2,000万部を超え、長年の読者がいることを実証した。現地取材による細部と旅を誘う編集デザインは、無料の検索結果にない体験価値を持つ。出版物は改訂の手間を要するが、価格改定と発行点数の選別が進めば、以前より少ない部数でも利益を確保できる。
地図データは人手の受託開発とは違う。道路・施設・観光地の情報を継続更新し、顧客のシステムに組み込んだ後の変更にはテストと移行費用がかかる。実装を深めた顧客のライセンス更新が増えれば、ゼンリンと真正面から地図全体の数量で争う必要はない。BEASTARと「歴史人」も紙、SNS、動画、広告を横断して提案することで、個別の受託の低採算を直す余地がある。
さらに、手元の現金と株式、賃貸不動産という資産の厚みは無視できない。経営陣は既に配当を復活させ、自社株買いも続けている。収益性の改善に合わせて余った資金を返せば、少数株主は本業の回復と資本効率の改善を同時に得られる。2035年売上100億円の会社目標も、明確に疑うだけでなく、利益率を伴う達成の余地を残しておくべきだ。
慎重な見方
この会社はスマートフォンが普及する前から紙の地図市場の縮小を経験し、2015年から2022年までの間に何度も大きな営業赤字を出した。出版市場の変化を経験したにもかかわらず、2026年のソリューション事業はなお赤字である。旅行に行く人が増えても、有料ガイドを買う人が増えるとは限らない。利用者は無料地図を開くことさえやめ、AIへ行先と予算を伝えて旅行計画を作るようになる。
情報の更新が必要だから同社が儲かるという論理も弱い。公的地理情報とプラットフォームの地図が広がれば、顧客は更新の責任を維持しながらデータの仕入先を切り替えられる。低解約率、規制上の独占、強い値上げを証明する開示はない。SNS制作や個別システム開発では、AIが人月に基づく売上を直接削る。買収によって売上だけを増やす戦略は、利益を伴わなければ資本を再び毀損する。
純現金約60億円は救いだが、帳簿全体の自己資本は過去に大きく減った。現金の多くは運転資金、返品への備え、再編や追加開発に使われうる。賃貸不動産の帳簿と鑑定額に含み益があっても、家賃から得る利益は小さく、金利3%時代に高値で即時換金できるとは限らない。大株主が強く、少数株主が保有資産の換金を主導できないという問題もある。純資産より時価総額が低いことだけでは長期の安全域にならない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方にやや重みを置く。AIによる工数削減は中立の受託案件数やアプリ購買数へすでに織り込んだので、確率でも同じ理由を二重に引かない。下側を厚くする追加の理由は、十年以上の営業赤字の反復、ソリューションの赤字、買収後の利益改善の未検証にある。強い出版ブランドと金融資産は残るが、長期の持続的なROEが資本コストを超える証拠はまだ乏しい。中立の2036年時価総額も現在を下回り、10年の配当と買戻しを加味しても割高という結論は変わらない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 535 円96 億円(+ 還元の換算額還元の合計 105 円19 億円)。 今の値に割り戻すと 319 円57 億円、今との差 −42.5%、 期待の年率 +1.6%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 842 円151 億円 | 212 円38 億円 | +89.8% | +7.5% | 84 円15 億円 |
| やや楽観 | 16% | 676 円121 億円 | 162 円29 億円 | +50.9% | +4.7% | 134 円24 億円 |
| 中立 | 34% | 567 円102 億円 | 128 円23 億円 | +25.3% | +2.5% | 236 円42 億円 |
| やや悲観 | 26% | 436 円78 億円 | 56 円10 億円 | −11.4% | −1.3% | 128 円23 億円 |
| 悲観 | 16% | 335 円60 億円 | 22 円4 億円 | −35.7% | −4.4% | 57 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 535 円96 億円 | 105 円19 億円 | +15.3% | +1.6% | 640 円115 億円 |
今の株価時価総額 555 円100 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 強い旅行ブランドと地図許諾がともに回復 利益 10 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 842 円151 億円
「ことりっぷ」と「まっぷる」が編集品質で選ばれ、書店の縮小に反して紙の実売が2割増える。市場全体が縮小するなか、JTBパブリッシングなどからのシェア奪取と改訂商品の連続ヒットが必要である。訪日・国内旅行の回復が続き、新規雑誌「歴史人」と既存ブランドの広告も定着する。地図DBでは防災・物流・モビリティの採用が広がり、ゼンリンの規模やGoogle Mapsの無償性に抗して既存契約をほぼ維持しながら物価を下回る範囲の値上げが通る。
受託やSNS運用はAIエージェントによる工数減少があっても、現地取材や権利処理を組み合わせた案件へ寄せ、数量減を抑えられる。BEASTARの取得効果は制作の粗利改善に表れるが、AI自体の架空の新規売上は計上しない。出版返品率が低下し、広告企画と地図の利益が固定費を十分に賄う。ただし資産活用や自己株買いまで順調に進む条件付きの成功であり、例外的な10年となる。
- 市販の旅行ガイド・地図・書籍:数量 3,600,000(返品を控除した市販出版物の実売換算部数(冊/年、推定))× 価格 1,725(1冊当たり出版社純受取額(円/冊、定価ではない))→ 売上 62 億円・営業利益 6 億円。年間実売換算360万冊。旅行ガイド全体の公表シェアはなく、競合るるぶを含む紙市場でシェアを奪う必要がある。
- 旅行電子書籍・自社アプリ・消費者デジタル:数量 480,000(有料電子版・アプリの購買換算件数(件/年、推定))× 価格 993(有料1件当たり純受取額(円/件))→ 売上 5 億円・営業利益 1 億円。電子版の有料購買換算。画面・席課金相当の型であり、AIエージェントによる利用代替を考慮する。
- 旅行広告・特別注文品・編集企画:数量 109(広告・特注編集などの案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.07(1案件当たりグループ売上(億円/件))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。特注出版と広告の案件。制作の自動化と自社媒体の固定客を併せて見込む。
- 法人向け地図・ガイドデータベース利用許諾:数量 693(法人向け地図データの年額契約換算件数(社・契約/年、推定))× 価格 0.02(1件当たり年額ライセンス等売上(億円/契約))→ 売上 15 億円・営業利益 3 億円。地図DB年額契約換算。更新需要は残るが、ゼンリン・Googleなどへの転換で数量は現状以下。
- 地図システム開発・SNS等運用受託:数量 95.0(システム開発・SNS運用の年額案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.07(1案件当たり年商(億円/件))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。人月受託・SNS運用。AIによる工数減を補う付加価値化が進む。
- 地図データ制作等の販売代理・契約窓口:数量 48.0(データ制作仲介の成約換算数(件/年、推定))× 価格 0.02(1案件当たり会計上の売上(億円/件))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。データ業務の仲介契約。自動化で減る案件を高採算案件で補う。
- 保有建物等の賃貸:数量 1,000(年間平均賃貸面積(平方メートル/年、推定))× 価格 0.00(1平方メートル当たり年間賃料収入(億円/平方メートル))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。賃貸面積は推定。名目賃料上昇と修繕費の増加を反映。
倍率:純利益10.10億円、k=8%、長期g=0%。事業ROEは資本コストを下回り、正当化PER上限は1÷k=12.5倍である。余剰現金12億円の税後利息相当0.168億円を純利益から外し、事業純利益9.932億円に12.5倍を適用する。事業価値124.15億円に余剰現金の回収価値12×0.75=9億円を加えて133.15億円とする。賃貸不動産と上場保有株式はrental・holdingsの資産評価で別途調整するため、入力時価総額に重ねて加算しない。これにより資産を二重に数えず、利益ベースの上限にも従う。
確率:出版の実売2割増、DB契約ほぼ維持、受託の収益転換が同時に起きるのは難しいため、小さな確率とした。昭文社がAI代理サービスで具体的な契約収入を開示していない以上、楽観の人月事業や画面課金の数量も現状以下に制限した。
やや楽観 16% 地図データの値決めとブランド刷新が軌道に乗る 利益 8 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 676 円121 億円
旅行ガイドのブランド力と観光地取材の質が守られる。紙の実売は人口減と無料情報の浸透で縮むが、見やすさと旅行先で使える編集力を評価する購読者に値上げを受け入れてもらう。新しい地図SDKは物流・災害対応・観光向けで継続利用が増え、更新データの対価が安定する。
BEASTARとの連携で広告提案や自治体案件の付加価値は増すものの、SNS制作やシステム受託の工数販売は減っていく。AIを経費削減に使い、ソリューション事業の赤字を解消できる。収益が取れるライセンスと小さな契約を選別できる一方、すべての顧客に優位があるわけではない。2035年売上100億円の会社目標には届かなくても、売上の質が改善して営業利益は大きく回復する。増配と自社株買いは無理のない範囲で進む。
- 市販の旅行ガイド・地図・書籍:数量 2,730,000(返品を控除した市販出版物の実売換算部数(冊/年、推定))× 価格 1,665(1冊当たり出版社純受取額(円/冊、定価ではない))→ 売上 45 億円・営業利益 4 億円。紙の実売換算273万冊。ブランドの固定客を守り、名目単価で印刷費上昇を吸収。
- 旅行電子書籍・自社アプリ・消費者デジタル:数量 440,000(有料電子版・アプリの購買換算件数(件/年、推定))× 価格 976(有料1件当たり純受取額(円/件))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。画面利用型の有料件数減を価格と品質で一部補う。
- 旅行広告・特別注文品・編集企画:数量 95.0(広告・特注編集などの案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.07(1案件当たりグループ売上(億円/件))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。広告と特注出版の案件を選別し、採算を改善。
- 法人向け地図・ガイドデータベース利用許諾:数量 665(法人向け地図データの年額契約換算件数(社・契約/年、推定))× 価格 0.02(1件当たり年額ライセンス等売上(億円/契約))→ 売上 14 億円・営業利益 2 億円。データ更新需要とシステム組み込みを維持し、営業利益率が改善。
- 地図システム開発・SNS等運用受託:数量 77.0(システム開発・SNS運用の年額案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.07(1案件当たり年商(億円/件))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。人月・工数型の数量減が続くが、赤字案件から撤退。
- 地図データ制作等の販売代理・契約窓口:数量 40.0(データ制作仲介の成約換算数(件/年、推定))× 価格 0.02(1案件当たり会計上の売上(億円/件))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。自動化で仲介件数が減っても高採算性は一定程度残る。
- 保有建物等の賃貸:数量 1,000(年間平均賃貸面積(平方メートル/年、推定))× 価格 0.00(1平方メートル当たり年間賃料収入(億円/平方メートル))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。稼働率を維持し賃料が緩やかに上昇。
倍率:純利益7.50億円、k=8%、g_long=0%。事業ROEが資本コスト以下なので正当化PER上限1÷k=12.5倍をそのまま使う。余剰現金12億円の税後利息相当0.168億円を純利益から外し、事業純利益7.332億円×12.5倍=91.65億円とする。これに余剰現金の回収価値9億円を加えて時価総額100.65億円となる。賃貸不動産と上場保有株式の資産価値は別項目で評価し、時価総額に手動加算しない。
確率:紙の値上げと法人地図DBの利益率改善には既存ブランド・導入例がある。一方、買収したSNS運用の統合利益やライセンスの解約率はまだ実証されていないので上振れの主ケースとはしない。
中立 34% 紙は数量減、地図は単価で下支え 利益 5 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 567 円102 億円
長年の旅行ガイド需要はなくならないが、旅程作成や店探しの大半は無料地図とAIの対話で済む。紙は旅行先で一覧できる体験とデザイン性を求める固定客向けに残り、返品控除後の実売は10年間で約3割細る。名目の価格上昇は多くを相殺するが、印刷と編集の固定費が利益を圧迫する。
地図DBのライセンスは、道路や施設情報を業務システムに組み込む顧客で一定の継続性を持つ。それでもゼンリンや巨大プラットフォームが競合し、契約数は少し減る。AIで代替されるアプリ操作やSNS運用・受託業務は件数が大きく縮み、低採算の顧客案件は整理する。会社が掲げる2035年の売上100億円には届かないが、過去の赤字期のような大きな損失は回避し、慎ましい利益と還元を続ける。
短期金利が2%まで上がることで、手元の金融資産から受け取る利息も増える。営業利益が大きく伸びなくても金融収益が最終利益を下支えする。ただし現金の利息は高収益事業が育った証拠ではなく、資本コストを超える再投資の機会が豊富になったとは考えない。
- 市販の旅行ガイド・地図・書籍:数量 2,190,000(返品を控除した市販出版物の実売換算部数(冊/年、推定))× 価格 1,581(1冊当たり出版社純受取額(円/冊、定価ではない))→ 売上 35 億円・営業利益 2 億円。実売換算219万冊。2026年比数量0.73倍、純受取単価1.32倍。紙の市場縮小をブランドで部分的に緩和。
- 旅行電子書籍・自社アプリ・消費者デジタル:数量 390,000(有料電子版・アプリの購買換算件数(件/年、推定))× 価格 933(有料1件当たり純受取額(円/件))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。画面・席課金相当のAI代替。数量0.78倍、価格1.08倍。
- 旅行広告・特別注文品・編集企画:数量 82.0(広告・特注編集などの案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.06(1案件当たりグループ売上(億円/件))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。広告・特注企画の案件数は約0.68倍。印刷制作を含む名目単価は1.18倍。
- 法人向け地図・ガイドデータベース利用許諾:数量 623(法人向け地図データの年額契約換算件数(社・契約/年、推定))× 価格 0.02(1件当たり年額ライセンス等売上(億円/契約))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。地図DBの契約換算0.89倍、年額単価1.15倍。強い正本型の値決め力は認めない。
- 地図システム開発・SNS等運用受託:数量 65.0(システム開発・SNS運用の年額案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.07(1案件当たり年商(億円/件))→ 売上 4 億円・営業利益 −1 億円。AIエージェント代替による人月案件0.65倍、価格1.24倍。採算はなお赤字。
- 地図データ制作等の販売代理・契約窓口:数量 34.0(データ制作仲介の成約換算数(件/年、推定))× 価格 0.02(1案件当たり会計上の売上(億円/件))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。仲介業務の自動化で件数減、手数料はおおむね据置。
- 保有建物等の賃貸:数量 960(年間平均賃貸面積(平方メートル/年、推定))× 価格 0.00(1平方メートル当たり年間賃料収入(億円/平方メートル))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。推定賃貸面積0.96倍、賃料1.28倍。更新投資と修繕で利益率低下。
倍率:純利益5.20億円、2036/03自己資本163.9億円に対するROEは約3.2%。ROEが資本コスト8%以下なので、長期g=0%の正当化PER上限1÷k=12.5倍を適用する。余剰現金12億円の税後金利相当0.168億円を控除した事業純利益5.032億円に12.5倍を掛けると62.90億円となる。これに余剰現金12億円×回収率0.75の9億円を足して、2036年の時価総額71.90億円とする。賃貸不動産と上場保有株式はrental・holdingsの資産評価で利益との重複を調整するため、ここに手動で加算しない。純利益5.2億円には短期金利2%による受取利息の増加を含める。自己資本は現在142.9億円+10年間の推定純利益累計44.0億円-株主還元23億円=163.9億円と整合する。
確率:書店の縮小、同社の過去10年の販売減、発注窓口や編集受託のAI置換を既に数量に反映した中心像。中立まで赤字にしない根拠は、ここ数年の営業黒字と旅行・地図ブランドが消えない点である。
やや悲観 26% 受託単価の競争と出版返品が利益を薄める 利益 1 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 436 円78 億円
書店の棚がさらに減り、旅行情報を紙で買う層は地方・高齢の固定客に偏る。売れ筋を絞っても地図改訂や物流費を削り切れず、返品の負担が増す。広告主は自社のAIで文章や旅行企画を作り、自治体はサイトと地図機能を内製するため、人月受託と広告案件の双方で数量が落ち込む。
地図データの独自性は一部残るが、ゼンリンや無料地図APIに押されてライセンス単価の上昇も鈍る。BEASTARの取得による管理負担は削り切れず、ソリューション事業は赤字のままとなる。賃貸の稼働率も少し下がる。営業利益はほとんど残らず、金融収入が最終利益を支える。資産を手放して全額配るのではなく、返金債務と再編費用に備えて手元資金を優先する。
- 市販の旅行ガイド・地図・書籍:数量 1,620,000(返品を控除した市販出版物の実売換算部数(冊/年、推定))× 価格 1,425(1冊当たり出版社純受取額(円/冊、定価ではない))→ 売上 23 億円・営業利益 0 億円。紙の実売が約半分へ減る。定価上昇を返品・小ロット印刷費が相殺。
- 旅行電子書籍・自社アプリ・消費者デジタル:数量 280,000(有料電子版・アプリの購買換算件数(件/年、推定))× 価格 890(有料1件当たり純受取額(円/件))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。AIへ画面操作が移り、電子コンテンツの販売が縮む。
- 旅行広告・特別注文品・編集企画:数量 64.0(広告・特注編集などの案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.06(1案件当たりグループ売上(億円/件))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。広告運用・編集企画の内製化が進み、案件の採算も悪化。
- 法人向け地図・ガイドデータベース利用許諾:数量 511(法人向け地図データの年額契約換算件数(社・契約/年、推定))× 価格 0.02(1件当たり年額ライセンス等売上(億円/契約))→ 売上 10 億円・営業利益 0 億円。法人地図DBの契約数が約3割減。無料APIと大手データ会社が競合。
- 地図システム開発・SNS等運用受託:数量 49.0(システム開発・SNS運用の年額案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.06(1案件当たり年商(億円/件))→ 売上 3 億円・営業利益 −1 億円。受託・SNS工数案件がほぼ半減し、固定費が残る。
- 地図データ制作等の販売代理・契約窓口:数量 26.0(データ制作仲介の成約換算数(件/年、推定))× 価格 0.02(1案件当たり会計上の売上(億円/件))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。仲介窓口の自動化で件数・利益率ともに低下。
- 保有建物等の賃貸:数量 880(年間平均賃貸面積(平方メートル/年、推定))× 価格 0.00(1平方メートル当たり年間賃料収入(億円/平方メートル))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。空室・修繕負担により名目賃料上昇が利益へ残りにくい。
倍率:本業の利益が小さく、金利収入への依存が高い。10年後の自己資本をそのまま換金価値にするのではなく、現時点の自己資本142.9億円を基準に、税後換金可能資産と少数株主の回収率からPBR0.49倍を選ぶ。これは中立のPBRより低く、過去の市場の谷の倍率に基づかない。出版の返品債務、必要運転資金と賃貸不動産の低収益性を織り込み、現金・株式・投信・不動産・在庫売却残余の床を約65億円とみる。
確率:下に寄せる理由:紙の出版と地図システムの二つで過去に繰り返し赤字となり、2026/03もソリューション事業は赤字である。BEASTARの買収後最初の四半期も営業赤字が広がっており、独立した利益改善の証拠が足りない。
悲観 16% 旅行案内が無料化し、資産を削って縮小 利益 −4 億円 · PBR 0.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 335 円60 億円
AIエージェントが旅行の行程、飲食店比較、自治体の観光ページ、広告制作をほぼ無料で引き受け、旅行ガイドは贈答・趣味向けの小市場に残る。取次への出荷と返品の往復で利益が消え、ヒット企画も持続しない。地図データは公的データや無料APIへの切り替えが進み、DB契約がほぼ半減する。顧客の内製と自動化で、システム受託・SNS運用も縮小する。
ブランドの権利や旧来の制作設備には減損が生じる。賃貸不動産も稼働率が低下し、入居工事と更新費用が重い。人員と拠点の整理で現金を取り崩し、少数株主は解散や保有株式の売却を一方的に決められない。最後に残る価値は継続企業の利益ではなく、経費と税金を引いた換金可能資産に近い。事業が構造的な負けを受け入れた姿である。
- 市販の旅行ガイド・地図・書籍:数量 960,000(返品を控除した市販出版物の実売換算部数(冊/年、推定))× 価格 1,270(1冊当たり出版社純受取額(円/冊、定価ではない))→ 売上 12 億円・営業利益 −2 億円。紙の実売が現状の約3分の1へ縮小。少部数印刷と返品負担で赤字。
- 旅行電子書籍・自社アプリ・消費者デジタル:数量 200,000(有料電子版・アプリの購買換算件数(件/年、推定))× 価格 803(有料1件当たり純受取額(円/件))→ 売上 2 億円・営業利益 −1 億円。無料AIと地図アプリに代替され、課金価格も下落。
- 旅行広告・特別注文品・編集企画:数量 42.0(広告・特注編集などの案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.05(1案件当たりグループ売上(億円/件))→ 売上 2 億円・営業利益 −1 億円。広告・観光編集案件が急減し、事業構造を維持できない。
- 法人向け地図・ガイドデータベース利用許諾:数量 371(法人向け地図データの年額契約換算件数(社・契約/年、推定))× 価格 0.02(1件当たり年額ライセンス等売上(億円/契約))→ 売上 7 億円・営業利益 −1 億円。データ契約が約半減し、値上げもできず、更新費用を回収できない。
- 地図システム開発・SNS等運用受託:数量 30.0(システム開発・SNS運用の年額案件換算数(件/年、推定))× 価格 0.06(1案件当たり年商(億円/件))→ 売上 2 億円・営業利益 −1 億円。人月受託のAI置換と顧客内製化で案件が7割減る。
- 地図データ制作等の販売代理・契約窓口:数量 18.0(データ制作仲介の成約換算数(件/年、推定))× 価格 0.02(1案件当たり会計上の売上(億円/件))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。発注契約の仲介が自動化され、残る少数案件のみを扱う。
- 保有建物等の賃貸:数量 680(年間平均賃貸面積(平方メートル/年、推定))× 価格 0.00(1平方メートル当たり年間賃料収入(億円/平方メートル))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。空室増と建物の修繕・更新費用で収益性が大きく低下。
倍率:継続利益が赤字のためPERを使わず、今の自己資本142.9億円に税後換金価値を反映したPBR0.42倍を適用する。営業損失の拡大で現金を取り崩し、紙・アプリ・のれんに大きな継続事業価値を認めない。床は純現金と売れる金融資産・低い賃貸収益を資本化した不動産価値から、必要資金・再編費用・支配株主の下での回収率を考慮した60億円である。過去の市場PBRを根拠にしない。
確率:地図更新基盤も紙ブランドも一度に消える条件は極端である。しかし2008、2015、2021~22年に大きな赤字を出し、資産を毀損した実績があり、買収の失敗・複合的なAI置換を伴う尾部リスクは無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
市販の旅行ガイド・地図・書籍
「まっぷる」「ことりっぷ」「ツーリングマップル」「山と高原地図」などの紙の書籍。書店・取次を通じた販売で、返品負債と改訂費用を伴う。
| 数量返品を控除した市販出版物の実売換算部数(冊/年、推定) | 価格1冊当たり出版社純受取額(円/冊、定価ではない) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000,000 | 1,198 | 36 | 2 |
| 10 年後 中立 | 2,190,000 | 1,581 | 35 | 2 |
取り方:決算短信2026/03の市販出版物35.93204億円が実測。年間販売部数は非開示のため、旅行ガイドの店頭価格と取次・書店の取り分を考慮し、出版社純受取を約1,198円、返品控除後300万冊と逆算した推定値。出版科学研究所の平均単価・紙市場の数字は検証用であり、300万冊を会社発表の実売部数とは扱わない。紙の物理製品そのものはAIの工数・席課金表の対象外だが、旅行検索の無料化は10年実売0.73倍で反映する。まっぷる・ことりっぷに独立したシェア統計はない。営業利益はメディア事業利益2.70482億円を商品群に仮配賦した推計。
旅行電子書籍・自社アプリ・消費者デジタル
旅行ガイドの電子版とアプリ等を個人へ販売。便利な表示画面よりも情報の編集・更新品質で対価を得られるかが焦点。
| 数量有料電子版・アプリの購買換算件数(件/年、推定) | 価格有料1件当たり純受取額(円/件) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 500,000 | 864 | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 390,000 | 933 | 4 | 0 |
取り方:短信のメディア事業電子売上4.31858億円が実績。契約件数・購買件数が非開示なので、電子書籍とアプリの平均純受取を約864円、有料購買換算50万件とした逆算仮説でありアプリのダウンロード総数ではない。型は操作画面・席課金相当とし、中立数量0.78倍、価格1.08倍を採用する。AIエージェント代替の影響を強く受け、名目価格は物価を下回る想定である。
旅行広告・特別注文品・編集企画
旅行媒体への広告、地方自治体・企業からの特注編集や企画制作、版権収入。広告枠自体と人手の制作を組み合わせる。
| 数量広告・特注編集などの案件換算数(件/年、推定) | 価格1案件当たりグループ売上(億円/件) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 0.05 | 6 | 0 |
| 10 年後 中立 | 82.0 | 0.06 | 5 | 0 |
取り方:2026/03の特別注文品3.25116億円+広告2.86504億円+メディアその他0.25198億円で約6.36820億円。案件数・各案件単価は非公表につき年120件×約531万円の案件換算。特注物の製造売上を含むため純粋な広告手数料ではない。自社媒体枠とAIで代替されやすい制作・運用が混在し、人月・広告制作運用型の縮小側で扱い、中立数量0.68倍とした。単価1.18倍には印刷物を伴う特別注文品の材料価格転嫁を含み、純広告運用手数料そのものが物価並みに上がる意味ではない。
法人向け地図・ガイドデータベース利用許諾
道路・住所・施設情報、旅行スポット、ルート案内向け地図データを業務システム等へ供給する。データ制作履歴と実装実績を持つ。
| 数量法人向け地図データの年額契約換算件数(社・契約/年、推定) | 価格1件当たり年額ライセンス等売上(億円/契約) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 0.02 | 13 | 1 |
| 10 年後 中立 | 623 | 0.02 | 13 | 1 |
取り方:ソリューション事業の外販売上18.22055億円、うち電子売上18.21434億円は開示値。ライセンスと受託の個別売上・契約数は開示がない。電子売上の約70%を地図DB利用許諾12.75億円、年額700契約換算×182万円と仮置きし、残りをシステム・運用へ置いた。実際の顧客社数の公表値ではない。昭文社MAP・地図SDKの現場導入は競争上の証拠だが、解約率や法定基幹台帳の地位は未開示である。型は情報サービス・独自DBだが「記録の正本」の堀の証拠2件には届かないため、中立契約量0.89倍、単価上限1.15倍、長期g=0%とし、強い正本型の優遇は行わない。
地図システム開発・SNS等運用受託
地図アプリ・観光システムの個別開発、企業・自治体向け観光DX、BEASTARのSNS運用・動画制作など。案件ごとの人月・工数に依存する。
| 数量システム開発・SNS運用の年額案件換算数(件/年、推定) | 価格1案件当たり年商(億円/件) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.05 | 5 | −1 |
| 10 年後 中立 | 65.0 | 0.07 | 4 | −1 |
取り方:2026/03ソリューションの外販18.22055億円からモデル上の地図DB12.75億円を差し引いた推定5.47055億円。年100案件×約547万円と換算し、内訳と単価は会社非開示。2025年に加わったBEASTARのSNS制作・運用も同業務型へ含めるが、四半期の買収寄与額は年度予測に上積みしない。型は人月・工数で中立10年の案件数量0.65倍、名目単価1.24倍とし、AIエージェント代替により減る仕事量を正面から反映した。ソリューション全体は営業損失0.32098億円、DBと受託への利益配賦0.90億円・マイナス1.22098億円は仮説である。
地図データ制作等の販売代理・契約窓口
他社が発注するデータ制作等の業務を仲介する窓口業務。自社資本を大きく要さないが、仲介手続の自動化にさらされる。
| 数量データ制作仲介の成約換算数(件/年、推定) | 価格1案件当たり会計上の売上(億円/件) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.0 | 0.02 | 1 | 1 |
| 10 年後 中立 | 34.0 | 0.02 | 1 | 0 |
取り方:2026/03報告セグメントの販売代理事業外販売上0.99965億円、営業利益0.68490億円を採用。成約数は非開示のため、50件×約200万円の案件換算。人月・仲介手数料型のAIエージェント代替を適用し、中立数量0.67倍、手数料単価1.05倍とした。低原価の仲介収入で利益率が高いが、開示が限定的な小部門で10年同率維持を保証しない。
保有建物等の賃貸
保有土地・建物の有効活用による賃貸収入。物件の修繕、空室と金利上昇時の利回りを伴う。
| 数量年間平均賃貸面積(平方メートル/年、推定) | 価格1平方メートル当たり年間賃料収入(億円/平方メートル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 0.00 | 1 | 1 |
| 10 年後 中立 | 960 | 0.00 | 2 | 1 |
取り方:2026/03の不動産事業その他収益1.43888億円と利益0.64986億円が開示値。賃貸稼働面積は公表されないので面積1,000平方メートル相当、月額約1.20万円/平方メートルという換算例。AIエージェント代替表の対象外であり、実際の賃貸契約面積・契約先数と混同しない。年間償却費0.38848億円、保有賃貸不動産の期末簿価18.94782億円・参考時価33.88191億円は有報に基づく。
リスクと懸念
AI エージェント代替と情報の無料化
旅程の作成、飲食店候補の要約、観光サイトの翻訳・更新やSNS広告の制作・運用は人が専用画面を操作する必要が薄れる。年間の案件数・課金人数・広告来訪者が減れば、電子書籍、受託、広告、販売代理の単価と数量が同時に下がりうる。地図の元データには価値が残るが、利用者の入口を他社AIが握ったとき、昭文社がその価値をどれだけ回収できるかは未知数である。
紙のガイドの返品と出版物流費
市販出版物は2026年3月期に約36億円を売ったが、紙の全国市場は減少している。返品率が約3割にある環境では、実売を読み違えて印刷を増やすと、物流費・在庫評価損・刷り直し費用が跳ねる。物価上昇に沿って書籍の定価が上がっても、書店が減れば実売数の落ち込みを吸収できない。固定費の撤退が遅れると売上減以上に利益が傷む。
地図データの競合と堀の未立証
ゼンリン、ジオテクノロジーズ、Google Mapsなどが道路・地理情報を提供する。昭文社の独自ガイドDBと現場ナビの組み込みは強みだが、契約継続率や強制的な規制対応の地位は開示されていない。競合のAPIへ切り替える費用が実際に小さければ、高い再利用率を見込んだライセンス利益は実現せず、値上げどころか値下げが必要になる。
投下資本利回りを伴わないM&A
経営アクションプランは積極的なM&Aを打ち出し、BEASTARの加入と「歴史人」の資産取得が続く。2027年3月期第1四半期は増収であっても営業損失が拡大した。会社が売上100億円を目指して人月事業を高値で買えば、帳簿の現金は減るのに株主が受け取れる利益は増えない。買収後の営業キャッシュフローと営業利益率で成功を測る必要がある。
資産の含み益と少数株主への回収の隔たり
純現金、上場保有株、賃貸不動産は貸借対照表を厚くする。しかし上位10株主で約69%を保有し、事業成長の資金を優先する経営方針の下では売却と株主還元の時期を少数株主が指定できない。株価が純資産より低いからといって資産が直ちに分配されるわけではなく、保有株の市況や賃料利回りの変動、売却益課税も回収を減らす。
不動産・年金・リース等の固定負担
不動産の2026年3月期収益は1.44億円、営業利益は0.65億円であり、参考時価約33.9億円に対する稼ぎは薄い。長期金利3%では投資家が要求する賃貸利回りが上がり、鑑定価格どおりの売却を期待しにくい。退職給付債務や移転費、賃貸借契約の固定負担もある。2028年3月期以降の新リース基準ではBSの負債の見え方が変わるが、家賃等の支払義務は今も存在する。
今後の分かれ目
- 市販出版物の返品率が30%を安定して下回り、販売単価が物価以上に上がったら
- 紙の部数減を緩め、メディア利益率を上方修正する。単発のヒットではなく改訂版でも実現するかを確認する。
- 地図DBの解約率、更新契約数、単価改定の実績が継続開示されたら
- 独自データの顧客拘束力を改めて判定する。低解約率と値上げの二つが確認できれば、堀の区分と長期gの引き上げを検討する。
- BEASTAR買収後のSNS受託が売上だけでなく継続的に黒字化したら
- 低採算とみた受託案件の営業利益率を引き上げる。ただしAI代替が進む下での一時的な工数削減と契約価格の持続力を分けて見る。
- 2035年売上100億円の目標へ向かう途中で営業利益・ROEの数字も約束し達成したら
- 売上だけの成長から資本効率を伴う成長へ評価を変更する。買収支出を差し引いた営業キャッシュフローも同時に確認する。
- 保有株式や賃貸不動産を実際に売却し、税後の手取額を増配・自社株買いへ振り向けたら
- 余った資産の回収率0.75を引き上げる余地が生まれる。発表だけではなく現金受領と還元実施まで確認する。
- 地図DBの顧客が無料APIへ移行し、受託契約がAI内製化で急減したら
- 地図契約換算数と工数案件数をやや悲観・悲観へ移す。同時に人員削減費と減損が発生するかを調べる。
見ておくもの
- 決算短信の市販出版物売上、取次返品負債、会社説明会での返品率(2026年約31.6%)
- 地図データ利用許諾の有料契約数・継続率・契約単価が初めて開示されるか
- ソリューション事業の利益とBEASTARの買収後収益
- 2027年3月期会社予想の営業利益3.8億円と実績との差
- 2035年売上高100億円の進捗と営業利益・ROEの数値目標の追加
- 配当・自社株取得の実行額、2026年11月の買付期間終了後の新方針
- 賃貸不動産の純賃料収益、保有金融商品の換金、営業キャッシュフロー
- 自社サービスのAI機能から生じた実測売上・契約額
倍率と資本コストの決め方
出発点は2026年3月期の4つの開示セグメントと収益分解であり、発行部数・案件数が非開示の部分は純受取単価から数量を推定した。物価上昇は単価のみ、AI代替は該当業務の数量・単価とg_long=0%にだけ反映した。10年後の楽観・中立のPERはk=8%と長期成長0%による利益還元価値の上限12.5倍とした。現金預金すべてを余剰扱いせず、出版返品・仕入・再編の資金を控除して余剰12億円を区分し、戻り方0.75を適用する。2036年の時価総額は、純利益から余剰現金12億円の税後金利相当1.4%を除いた額にPERを掛け、余剰現金の回収価値9億円を足す。賃貸と保有株は別の資産項目で利益と資産価値を調整するため、時価総額の入力値に手で重ねて足さない。中立の純利益5.2億円は金利2%への上昇を反映し、自己資本163.9億円は期間の利益累計と還元の差から積み上げた。価格534円、時価総額約96億円は最後の比較にしか使っていない。2028年3月期からの新リース会計による財務表示の変更は現在と同じ家賃費用の形に統一する。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。国債3%、株式リスクプレミアム4.5%で基礎7.5%。上記4要素の合計+0.5%のみを加え8%。規模やベータ、個々の買収失敗確率は加算しない。