結論
松竹は、歌舞伎座を持つ演劇と、映画の配給・映画館、東銀座の賃貸ビルを抱える老舗だ。筆者の結論は、今の値段は大きく割高。資産は厚いが、会社全体の稼ぐ力が資本コストに届かないからだ。
2026年2月期は純利益52億円と持ち直した。だが会社の予想では、2027年2月期の営業利益は37億円と4割減る。中間決算も純利益が8割減った。大阪松竹座などの減損が響いた。『国宝』や『ちいかわ』のような大きな当たりが出る年と出ない年で、映画と演劇の稼ぎは大きく振れる。
利益の中身は不動産に偏る。不動産の営業利益は約52億円で、映像と演劇を合わせた額より大きい。映画と演劇は当たり外れで赤字にもなる。10年の中立では営業利益56億円、純利益30億円と置いた。自己資本は1,000億円を超えるので、資本の稼ぐ力は2%台にとどまる。
この水準では、ためた利益は額面どおりの価値を持たない。不動産と持ち合い株の含み益を半分見込んで足しても、中立の10年後の時価総額は今の4割強だ。悲観では映画館と劇場が重荷になるが、不動産と株の売却価値が下値を支える。
救いは、東銀座の不動産が自力で稼ぎ続けることだ。借金は重すぎず、すぐ行き詰まる会社ではない。ただ、資産を利益に変えられない限り、今の値段は説明できない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、松竹は資産は魅力的だが、事業としては持ち続けたくない会社だ。
理由は資本の稼ぎ方にある。営業利益は50億〜60億円台なのに、自己資本は1,000億円を超える。株主が出したお金は、年に2〜3%しか増えない。借金を払って余る利益も薄く、配当も純利益の1割だ。
堀は歌舞伎と東銀座の土地にあるが、それが利益になっていない。映画は当たり外れで振れる。見通しが立てにくい事業は、安全域を厚く取る必要がある。
経営の資本配分には疑問がある。劇場の減損が続くのは、過去の投資に甘さがあったことを示す。還元の姿勢も弱い。
安全域として見るべきは不動産と持ち合い株の売却価値だ。税を払い、純負債を引いても、帳簿の外の含み益を含めて1,000億円を超える価値はある。今の時価総額はそれより高く、売る意思も確かでないため、安全域は薄い。
不動産を自力で稼がせ、映画と演劇の赤字を止められれば、会社の見え方は変わる。だがその証拠はまだ出ていない。
何で稼ぐ会社か
松竹の事業は三つある。映像関連、演劇、不動産だ。2026年2月期の売上982億円のうち、映像が529億円、演劇が273億円、不動産が146億円を占める。
映像関連は映画の配給・製作と、子会社の松竹マルチプレックスシアターズが運営する映画館(MOVIXや新宿ピカデリー、本州に19サイト)が中心だ。この子会社の売上は321億円で、営業利益は21億円。前の期は営業赤字だった。映画館は当たり作があると利益が出るが、家賃や人件費が固定で、外れの年は薄い。ほかに映像ソフトや配信の収入がある。
演劇は歌舞伎座、新橋演舞場、日生劇場などの興行だ。創業130周年の記念公演や襲名披露が続き、2026年2月期は利益17億円と、前の期の赤字から戻った。ただ、大阪松竹座は2026年5月に閉館した。
不動産は歌舞伎座タワーをはじめ、東銀座周辺の賃貸ビルだ。売上146億円で利益は52億円。三つの事業の中で、利益率が最も高く、最も安定している。映画館と劇場の集客が、同じ街の不動産の価値を支えるという構図もある。
顧客は、映画では観客と他社の映画館、演劇では観客、不動産では都心のテナント企業だ。映画と演劇は当たり作に頼り、不動産は長期契約で安定する。この対比が、松竹の価値の見方を決める。
優良さと弱いところ
松竹の強みは、歌舞伎という他社が持てない演目と、東銀座の土地だ。弱みは、その強みが利益になりにくいことだ。
歌舞伎は松竹が興行の中心で、独自の役者と演目を持つ。映画『国宝』の後は初めて歌舞伎を観る客も増えた。ただ客席数に限りがあり、人件費と舞台費は物価で増える。値上げで稼ぎを伸ばす余地は小さい。
映画は、東宝や東映との競争になる。国内の配給で松竹は3番手で、シネコンも東宝系の規模に及ばない。映画館は大作に頼る面が強く、動員が落ちる年は利益が消える。
資本の使い方に課題がある。自己資本は1,082億円で、ROEは2026年2月期で4.8%、過去10年の中央値は3.0%だ。資本コスト7.5%を下回る年がほとんどで、利益より資産が育った会社といえる。配当は純利益の1割にとどまる。
財務は純有利子負債460億円、自己資本比率47%で、すぐ行き詰まる水準ではない。ただ映画館は賃借が多く、家賃の約束が固定費として残る。減損が続く点も、資本の稼ぐ力の弱さを映している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の映画と演劇は、人口が減る中で当たり作に左右される市場だ。2025年の映画興行収入は約2,744億円で過去最高だった。『国宝』『鬼滅の刃』などの大作が押し上げた。ただ、2024年は約2,070億円で、平常はこちらに近いと見る。
映画館への来場は人口減と配信で長く細っていく。定額配信の市場は2030年に9,000億円規模へ広がる見通しで、時間の奪い合いが続く。入場者数は10年で2割ほど減ると置くのが現実的だ。
東宝が配給で圧倒的で、東映と松竹は追う立場だ。松竹の映画館は他社に比べ規模が小さく、立地を絞りつつ、所沢など新しい出店で稼働を保つ。
演劇は、歌舞伎が人気を取り戻した。ただ観客数は会場の席数で頭打ちだ。公演は役者の体調や世代交代の影響も受ける。
不動産は都心のオフィスと商業ビルの賃料が堅調だが、金利が3%に上がる世界では売却時の利回りも上がる。賃料が物価並みに上がっても、資産の価値は金利の分だけ重くなる。
つまり松竹は、人口減に弱い映画と演劇を、金利に敏感な不動産が支える会社だ。三つとも成長を牽引する力は弱い。
資本政策と M&A
松竹の資本政策は、還元が薄いのが特徴だ。配当は純利益の約1割にとどまり、2027年2月期の予想は前期より下がる。自社株買いは年に百万円台で、実質は行っていない。
持ち合いは続いている。大株主にはセコムが約4%、歌舞伎座が約3.5%で、安定株主が多い。物言う株主の動きは確認できなかった。
投資は不動産の価値向上と劇場の更新が中心だ。大阪松竹座の閉館や中間決算の減損23.7億円は、採算の悪い資産を整理し始めた動きといえる。所沢の新シネコン参画のような小さな出店もある。
大型の買収は近年ない。ベンチャー投資の子会社を設け、スタートアップとの連携も進める。
10年以内にTOBなどの再編が起こる確率は、外部の推計で約15%とされる。東銀座の土地は魅力だが、歌舞伎座を持つ会社でもあり、売却は簡単でない。
2026年4月には賃貸用不動産の譲渡(譲渡益約45億円)を決め、売却代金は借入の返済に回っている。持ち合い株の含み益(評価差額金267億円)は膨らんだが、売って株主に戻す方針は示されていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
松竹は、東銀座に歌舞伎座タワーなど優良な賃貸ビルを持ち、不動産だけで年52億円の営業利益を上げる。その価値は帳簿よりはるかに高い。映画『国宝』で歌舞伎の観客が増え、演劇は2026年8月の中間決算で利益22億円と大幅に回復した。創業130周年の公演や襲名披露も続き、歌舞伎座は埋まっている。映画では松竹マルチプレックスシアターズが売上321億円、営業利益21億円と黒字に戻り、『ちいかわ』や『トイ・ストーリー5』が100億円を超えるヒットとなった。所沢の新しいシネコンも控える。映像ソフトや配信の収入も伸びる。大阪松竹座の閉館は、不採算を切り、資産を磨く動きだ。減損は一過性で、不動産の含み益は帳簿に出ていない。自己資本は1,000億円を超え、純負債は460億円と重くない。配当にも還元を増やす余地が大きく、10年のうちに政策が変われば評価は大きく変わる。再編や不動産の再開発が表に出る可能性もある。映画も演劇も、数年に一度の当たりが続けば営業利益は100億円を超えうる。
慎重な見方
2026年2月期の純利益52億円は、『国宝』という珍しい当たりが重なった結果だ。会社自身が、2027年2月期の営業利益を37億円と4割減で見ている。中間決算でも純利益は8割減った。映像の利益は78%減り、演劇でも大阪松竹座を中心に18.7億円の減損が出た。営業利益のうち、安定しているのは不動産だけで、その不動産も2026年2月期は11%減益、中間期でも4.7億円の減損を出した。映画館は家賃と人件費が固定で、動員が2割減れば赤字になる。演劇は役者の体調や世代交代に頼る。自己資本は1,000億円を超えるのに、ROEは過去10年の中央値で3%と資本コストの半分以下だ。この水準では、ためた利益は額面どおりの価値を持たない。還元は純利益の1割で、買い戻しもしていない。借金の借り換えが進めば利払いは増える。今の時価総額は、純利益の約30倍にあたり、10年先の稼ぎを大きく織り込んでいる。不動産と持ち合い株を税を払って売り、借金を引いても1,000億円ほどは残る。ただ、それは売った場合の話だ。売らずに持てば、資本コストに届かない利益しか生まない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強いと見て、悲観側に確率を寄せた。決め手は資本の稼ぐ力だ。自己資本が厚いのに利益が薄く、10年かけて育てた資産が価値に変わらない。強気の根拠である不動産の価値は本物だが、売らない限り手元には残らず、利益としては一部しか出ていない。確率はやや悲観27%、悲観15%と置いた。中立は33%、やや楽観18%、楽観7%。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 7,722 円1,062 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 532 円73 億円)。 今の値に割り戻すと 3,853 円530 億円、今との差 −66.9%、 期待の年率 −3.4%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 12,140 円1,669 億円 | 1,091 円150 億円 | +13.7% | +1.3% | 926 円127 億円 |
| やや楽観 | 18% | 10,007 円1,376 億円 | 800 円110 億円 | −7.2% | −0.7% | 1,945 円267 億円 |
| 中立 | 33% | 8,825 円1,213 億円 | 582 円80 億円 | −19.2% | −2.1% | 3,104 円427 億円 |
| やや悲観 | 27% | 5,896 円811 億円 | 364 円50 億円 | −46.2% | −6.0% | 1,690 円232 億円 |
| 悲観 | 15% | 3,783 円520 億円 | 145 円20 億円 | −66.3% | −10.3% | 589 円81 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,722 円1,062 億円 | 532 円73 億円 | −29.1% | −3.4% | 8,255 円1,135 億円 |
今の株価時価総額 11,640 円1,600 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 映画と演劇が当たり続け、不動産も伸びる 利益 68 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 12,140 円1,669 億円
映画では松竹が配給するヒット作が続き、MOVIXの稼働も上がる。歌舞伎座は新しい観客を取り込み、襲名や記念公演で客席を埋め続ける。東銀座の賃貸ビルは賃料改定が進み、再開発や建て替えで床面積も少し増える。
営業利益は100億円を超え、2015年ごろの高い水準を名目で大きく上回る。それでも自己資本が厚くなるため、資本の稼ぐ力は5%に届かない。国内の映画も演劇も人口減の下では数量の伸びに限りがあり、物価の分で稼ぎが増える構図だ。MOVIXの新規出店や配信向けの映像販売も上積みになるが、全体を変えるほどの規模ではない。
この筋書きで収益が伸びても、評価は資本コストの壁にぶつかる。今の時価総額には届かない。
- 映像関連事業(映画配給・映画館・映像ソフト):数量 175(国内映画の年間入場者数(百万人))× 価格 3.78(入場者1人あたりの松竹映像関連売上(億円÷百万人))→ 売上 662 億円・営業利益 43 億円。入場者は増加、利益率6.5%
- 演劇事業(歌舞伎座・新橋演舞場・日生劇場ほか):数量 3.2(自社劇場の延べ観客数(百万人))× 価格 127(観客1人あたり演劇事業売上(億円÷百万人))→ 売上 408 億円・営業利益 33 億円。客席稼働が上がり利益率8%
- 不動産事業(歌舞伎座タワー・東銀座の賃貸ビルほか):数量 15.5(賃貸床面積(万㎡))× 価格 15(1㎡あたり年間賃貸収入(万円))→ 売上 225 億円・営業利益 79 億円。賃料改定と再開発で利益率35%
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)723 億円。全体の PER 22.09 倍、時価総額 1,502 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:映画館の客足が戻り、歌舞伎が国宝効果を定着させ、再開発も進む組み合わせが10年続く必要がある。会社の予想は2027年2月期に営業利益4割減で、実現の道は狭い。
やや楽観 18% 当たり作が時々出て、演劇と不動産が安定する 利益 44 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 10,007 円1,376 億円
映画は大型の当たりが2〜3年に1本出て、平均では年の入場者数が160百万人台に落ち着く。演劇は歌舞伎座を中心に黒字を保ち、利益率は5%台に乗る。不動産は賃料の改定が物価に追いつく。
営業利益は70億円台で、会社の今の予想よりは高い。それでも一度に大きく伸びる事業はない。人件費と修繕費が物価で増えるため、本社費も重くなる。
純利益は40億円台。自己資本も1,300億円台に増える。資本の稼ぐ力は3%台にとどまり、資本コストには届かない。映画の当たりが続いた年の稼ぎを平均すると、この水準が現実的な上限になる。
- 映像関連事業(映画配給・映画館・映像ソフト):数量 162(国内映画の年間入場者数(百万人))× 価格 3.67(入場者1人あたりの松竹映像関連売上(億円÷百万人))→ 売上 595 億円・営業利益 30 億円。平均して利益率5%
- 演劇事業(歌舞伎座・新橋演舞場・日生劇場ほか):数量 3.0(自社劇場の延べ観客数(百万人))× 価格 124(観客1人あたり演劇事業売上(億円÷百万人))→ 売上 371 億円・営業利益 20 億円。利益率5.5%
- 不動産事業(歌舞伎座タワー・東銀座の賃貸ビルほか):数量 14.6(賃貸床面積(万㎡))× 価格 14(1㎡あたり年間賃貸収入(万円))→ 売上 202 億円・営業利益 69 億円。利益率34%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)723 億円。全体の PER 27.59 倍、時価総額 1,208 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:松竹は当たり作に恵まれる年が増えてきた。歌舞伎の観客も戻っている。中間決算でも演劇は大幅増益で、この筋書きは目の前の流れの延長にある。
中立 33% 映画は平常の水準、演劇は小幅黒字、不動産が稼ぎの中心 利益 30 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 8,825 円1,213 億円
映画の入場者数は、2025年の記録的な水準から平常に戻る。10年で150百万人台前半で、2024年と同じくらいだ。入場料は物価並みに上がるが、映画館は固定費が重く、利益率は4%にとどまる。
演劇は大阪松竹座の閉館後、歌舞伎座と新橋演舞場に絞る。黒字は続くが、利益率は4〜5%の薄さだ。
不動産が稼ぎの柱であることは変わらない。賃貸ビルの利益は今の1.2倍まで増えるが、本社費も物価で増える。営業利益は56億円、純利益は30億円。借金の借り換えで利払いが増え、利益を削る。
自己資本は1,270億円を超え、資本の稼ぐ力は2%台。この水準では、ためた利益に価値は付かない。
- 映像関連事業(映画配給・映画館・映像ソフト):数量 152(国内映画の年間入場者数(百万人))× 価格 3.62(入場者1人あたりの松竹映像関連売上(億円÷百万人))→ 売上 550 億円・営業利益 22 億円。利益率4%
- 演劇事業(歌舞伎座・新橋演舞場・日生劇場ほか):数量 2.8(自社劇場の延べ観客数(百万人))× 価格 122(観客1人あたり演劇事業売上(億円÷百万人))→ 売上 341 億円・営業利益 15 億円。利益率4.5%
- 不動産事業(歌舞伎座タワー・東銀座の賃貸ビルほか):数量 14.0(賃貸床面積(万㎡))× 価格 13(1㎡あたり年間賃貸収入(万円))→ 売上 188 億円・営業利益 62 億円。利益率33%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.7% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)723 億円。全体の PER 34.41 倍、時価総額 1,046 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:人口減で映画館の客足は2024年ごろの水準に戻り、歌舞伎は黒字を保つ。会社の予想(営業利益37億円)を物価で伸ばした水準で、最も多くの確率を置く。
やや悲観 27% 映画館と劇場の赤字が続き、不動産が稼ぎを支える 利益 10 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 5,896 円811 億円
映画の入場者数は人口減と配信に押されて130百万人台に減る。映画館は家賃や人件費が固定で、利益率が2%台に落ちる。他社のシネコンとの競争も続く。
演劇は歌舞伎座の公演が好調でも、他の劇場の赤字が収益を食う。減損が続き、自己資本も目減りする。
不動産は賃貸料が伸びても、築年数の古いビルの修繕費が増え、利益率は30%に下がる。営業利益は27億円、純利益は10億円。借金の借り換えで利払いも重い。稼ぐ力は小さいが、不動産と持ち合い株の含み益は残る。評価は事業の稼ぐ力に、含み益の半分を足した額とする。経営は不採算の劇場や映画館の整理に動くが、減損が先行して自己資本が目減りする。
- 映像関連事業(映画配給・映画館・映像ソフト):数量 132(国内映画の年間入場者数(百万人))× 価格 3.51(入場者1人あたりの松竹映像関連売上(億円÷百万人))→ 売上 463 億円・営業利益 12 億円。利益率2.5%
- 演劇事業(歌舞伎座・新橋演舞場・日生劇場ほか):数量 2.4(自社劇場の延べ観客数(百万人))× 価格 118(観客1人あたり演劇事業売上(億円÷百万人))→ 売上 284 億円・営業利益 6 億円。利益率2%
- 不動産事業(歌舞伎座タワー・東銀座の賃貸ビルほか):数量 13.2(賃貸床面積(万㎡))× 価格 13(1㎡あたり年間賃貸収入(万円))→ 売上 172 億円・営業利益 52 億円。賃料の伸びが修繕費で相殺され30%
倍率:やや悲観は事業が生きている筋書きで、不動産の利益は30%の率で残る。含み益や持ち合い株は消費されないので、余った資産は964億円のまま、戻り方0.5を掛けた482億円を足す。事業の純利益7.5億円×11.8倍+482億円で上限は約810億円。これに置き、今の自己資本1,082億円に対するPBR0.749倍。強制的に売る筋書きではないため、売却価値の床(悲観で使う)は当てない。帳簿の自己資本は価値の根拠にしない。EV(時価総額+純有利子負債)で見ると営業利益に対する倍率は高いが、不動産の含み益と持ち合い株の価値を足した結果なので、利益倍率では測らない。
確率:大阪松竹座の閉館や中間決算の減損は、劇場事業に採算の悪い所があることを示す。この筋書きへの確率は、慎重な見方が強いと見て高めに置く。
悲観 15% 構造的な縮小で映画館と劇場が重荷になり、不動産を売って耐える 利益 −15 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 3,783 円520 億円
映画の入場者数は100百万人台に落ち、価格も物価ほど上がらない。映画館の家賃は固定で残り、赤字になる。演劇も観客が減り、赤字が続く。
東銀座の賃貸収入は下がり、築古の物件を売って借金を返す。営業利益は赤字に沈む。減損で自己資本は900億円を割る。
床は不動産と持ち合い株の売却価値から、借金と撤退の費用を引いた額。映画館と劇場の事業は価値を生まない。賃貸ビルを強制的に高い利回りで売り、株の含み益を税を払って現金にするため、手元に残る価値は帳簿の含み益込みの純資産の半分に届かない。会社は不動産を売って借金を返し、映画館の閉鎖と劇場の整理で固定費を削るが、それでも事業全体の赤字は止まらない。
- 映像関連事業(映画配給・映画館・映像ソフト):数量 105(国内映画の年間入場者数(百万人))× 価格 3.20(入場者1人あたりの松竹映像関連売上(億円÷百万人))→ 売上 336 億円・営業利益 −3 億円。映画館の固定費で赤字
- 演劇事業(歌舞伎座・新橋演舞場・日生劇場ほか):数量 2.0(自社劇場の延べ観客数(百万人))× 価格 109(観客1人あたり演劇事業売上(億円÷百万人))→ 売上 218 億円・営業利益 −7 億円。赤字
- 不動産事業(歌舞伎座タワー・東銀座の賃貸ビルほか):数量 12.5(賃貸床面積(万㎡))× 価格 13(1㎡あたり年間賃貸収入(万円))→ 売上 156 億円・営業利益 42 億円。空室と賃料下落で27%
倍率:今の自己資本1,082億円に0.48を掛け、時価総額520億円。稼ぐ力は赤字でほぼ無く、床は不動産と持ち合い株の売却価値から借金と撤退費用を引いた額(内訳は floor_assets_why)。売却は強制的で、賃貸ビルの利回りは国債3%に2.5%を足した5.5%で割る。帳簿の自己資本は価値の根拠にしない。EV(時価総額+純有利子負債)で見ても営業利益に対する倍率は高いが、床は売却価値で置いているので利益倍率では測らない。
確率:映画館の動員が配信と人口減で3割減り、歌舞伎の観客も細る筋書きだ。慎重な見方の方が理屈は強く、確率を高めに置いた。ただ、不動産の価値が下値を支える。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
映像関連事業(映画配給・映画館・映像ソフト)
映画の配給・製作、子会社の松竹マルチプレックスシアターズが運営する映画館(MOVIX・新宿ピカデリーなど)、映像ソフト・配信。
| 数量国内映画の年間入場者数(百万人) | 価格入場者1人あたりの松竹映像関連売上(億円÷百万人) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 196 | 2.70 | 529 | 25 |
| 10 年後 中立 | 152 | 3.62 | 550 | 22 |
取り方:2025年の国内興行収入約2,744億円を平均入場料の推定で割った約196百万人(推定)。映像関連売上529億円をこれで割ると1人あたり2.70億円/百万人。2025年は『国宝』『鬼滅の刃』などの当たり年で、2024年の約148百万人(興収約2,070億円)が平常に近い。
演劇事業(歌舞伎座・新橋演舞場・日生劇場ほか)
歌舞伎座、新橋演舞場、日生劇場などの公演の企画・興行と、衣裳・小道具などの関連事業。
| 数量自社劇場の延べ観客数(百万人) | 価格観客1人あたり演劇事業売上(億円÷百万人) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3.0 | 91 | 273 | 17 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 122 | 341 | 15 |
取り方:延べ観客数は開示の数字が確認できず、3百万人と推定。演劇事業売上273億円を割って1人あたり約91億円/百万人(約9千円)。チケットのほか配信・衣裳などの収入も含む。大阪松竹座は2026年5月に閉館した。
不動産事業(歌舞伎座タワー・東銀座の賃貸ビルほか)
歌舞伎座タワー、東劇ビル、銀座松竹スクエアなど東銀座周辺を中心とする賃貸ビル・駐車場の運営。
| 数量賃貸床面積(万㎡) | 価格1㎡あたり年間賃貸収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 14.6 | 10 | 146 | 52 |
| 10 年後 中立 | 14.0 | 13 | 188 | 62 |
取り方:賃貸床面積は開示を確認できず、14.6万㎡と推定。不動産売上146億円を割って1㎡あたり年約10万円。歌舞伎座タワーなど主要物件は高い稼働率を保ち、賃料改定も進めている。
リスクと懸念
映画の当たり外れ
2026年2月期の利益は『国宝』などの当たりに支えられた面が大きい。当たりがない年は映画館の固定費が重く、会社の予想でも2027年2月期の営業利益は4割減る。映像は中間期で利益が78%減った。
劇場事業の採算と減損
大阪松竹座の閉館と中間期の演劇の減損18.7億円は、老朽化や稼働の低い劇場を抱えていることを示す。今後も減損と閉館が続けば、自己資本と利益を同時に削る。
歌舞伎の世代交代
歌舞伎の人気は役者に左右される。看板役者の引退や体調不良で興行の稼ぎが落ちる。襲名披露が続く間は好調でも、その先を見通すのは難しい。人件費の増加も続く。
映画館の固定費と家賃
映画館は賃借が多く、家賃は売上が落ちても減らない。新しいリース会計の基準で、2028年2月期から負債が貸借対照表に載る。数字は見かけ上悪化し、悲観の筋書きでは固定費が重荷になる。
金利上昇と不動産の価値
10年国債が3%になる世界では、ビルの売却時の利回りが上がり、資産の価値は下がる。借金の借り換えで利払いも年12億円ほど増える。不動産が稼ぎの柱だけに、影響が大きい。
資本の使い方
配当は純利益の約1割で、自社株買いは実質ない。ROEが過去10年の中央値で3%と資本コストを下回るのに、自己資本は積み上がる。この構造を変える動きは今のところ見えない。
今後の分かれ目
- 不動産の売却や再開発が進み、売却益が株主に戻されたら
- 自己資本の稼ぐ力が上がり、中立の評価も上がる。楽観寄りに確率を移す。
- 2027年2月期の営業利益が会社の予想(37億円)を大きく上回ったら
- 当たり作の頻度が上がったと見て、やや楽観の確率を上げる。ただ複数年の継続を確認する。
- 劇場の減損や閉館がさらに続いたら
- 採算の悪い資産が想定より多いと見て、悲観側の確率を上げる。
- 大型の配当増や自社株買いが発表されたら
- 資本配分の姿勢が変わった証拠。自己資本が膨らまなくなり、ROEの見通しを引き上げる。
- 歌舞伎座の看板役者に引退や長期休演が出たら
- 演劇の稼ぎが下振れする。やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 映画の年間入場者数(2025年の約196百万人からの戻り方)
- 松竹マルチプレックスシアターズの営業利益
- 不動産事業の営業利益と賃料改定の動き
- 減損・閉館の続報
- 配当と自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
映像・演劇・不動産の3つを、入場者数・観客数・床面積と1人・1㎡あたりの売上で積んだ。倍率はROEが資本コストを下回るので、式の上限(1÷k)に対する位置で置いた。今のPERや同業の倍率は見ていない。10年後の数字は家賃を営業費用に入れた今と同じ形でそろえ、新リース会計(2028年2月期から)で数字の形が変わる点は考慮した。純有利子負債は事業に使われるものとして、余った現金は立てていない。 余った資産は、不動産の含み益996億円の税後7割(697億円)と持ち合い株の評価差額金267億円で、どちらも戻り方0.5で足した。賃貸の利益は残している。やや悲観までは事業を続ける前提でこの形、悲観だけ強制売却の床(不動産5.5%利回り・株4割安・税・撤退費用)で置いた。売却価値は中立より高く出るが、売らない限り手元に来ない価値として中立は0.5で見ている。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質の加算を足し、8.5%とした。同じ領域の東宝(0%)より、不動産以外の稼ぎが薄いぶん高く置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.25%。