結論
eWeLLは、訪問看護ステーション専用の電子カルテ「iBow」を軸に、保険請求、AIによる文書作成、訪問予定の最適化、事務代行まで提供する会社である。事業の質は高いが、10年先の稼ぐ力から考えると、現在の時価総額約361億円は割高だと判断する。
強みは、単に使いやすい業務ソフトを売っていることではない。訪問看護の記録を日々蓄積し、診療報酬・介護報酬の請求と結び付けていることだ。2025年末には3,501事業所と契約し、全国シェアは18.7%に達した。2026年には累計訪問記録が1億件を超えた。医療記録の継続性、制度改正への対応、独自データの蓄積は、10年後にも残り得る競争優位である。
ただし、将来の成長を過去の延長線上に置くことはできない。競合のカイポケ訪問看護は2026年4月に7,238事業所、シェア36.1%を公表している。しかも月額定額料金で記録から請求まで提供する。eWeLLは2014年のサービス開始以来、基本的な従量料金を引き上げておらず、インフレを販売価格へ転嫁する実績はまだ乏しい。
AIエージェントが普及すると、予定作成、記録入力、帳票作成、請求前確認、事務代行は自動化される。訪問看護そのものは人が担い続けるが、周辺ソフトや人手による事務サービスに払う金額は減り得る。一方、法定記録と保険請求の正本を安全に保持する基盤には価値が残る。この二つを区別することが、同社の評価では最も重要だ。
5つの筋書きを確率で加重し、資本コスト7.25%で現在価値に直すと、本質価値は約167億円となる。現在の時価総額との差は約マイナス54%である。2028年の中期計画は好調だが、それを10年後にもそのまま延長するには、AI時代の競争と価格決定力について、まだ証拠が足りない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方では、eWeLLは事業の質と支払う価格を明確に分けて考えたい会社である。毎日繰り返される訪問看護の記録と請求を支える仕組みは、社会的に必要であり、顧客の業務から簡単には消えない。患者の過去の記録、保険請求、法令対応が一体化しているため、顧客との関係も長く続きやすい。高齢化と在宅医療への移行を考えれば、10年後にも記録基盤は必要だろう。
しかし、必要な仕事が残ることと、現在の高い利益率が残ることは別である。2014年以来の値上げ実績が乏しく、競合は大きな導入基盤と定額料金を持つ。さらにAIによって、これまで人が時間をかけて行っていた記録作成や事務処理が安くなる。顧客にとっての便益が増えても、その便益を提供会社がすべて利益として受け取れるとは限らない。
資本の使い方はこれまで比較的良好だった。新しいソフトウエアの開発に資金を振り向け、借金に頼らず高い利益率を実現している。2026年の自社株買いも、現金の一部を株主へ戻すという点では前進である。ただし、長期の本質価値を左右するのは、今後の再投資が既存の記録基盤を強くするか、それともAIに代替される機能を増やすだけで終わるかという違いだ。
筆者が所有者として重視するのは、電子カルテと保険請求の正本を守りながら、余剰資金をどれだけ賢く配分できるかである。医療データの蓄積には価値があるが、患者情報は自由に売却できる資産ではない。プライバシーと制度の制約を守って初めて競争力になる。強い堀を持つ優良企業であっても、将来の成長を既に大きく織り込んだ価格では安全域が足りない。現在はその状態に近い。
何で稼ぐ会社か
eWeLLの収入の中心は、訪問看護ステーションで働く看護師などが、患者宅への訪問記録を残すたびに利用するクラウド型電子カルテ「iBow」である。基本料金は月額1万8,000円で、訪問1件につき100円の従量料金が加わる。月500件の訪問を行うステーションなら月額6万8,000円となる。看護師が患者を多く訪問するほど、顧客の収入だけでなくeWeLLの収入も増える仕組みだ。
2025年のiBow本体売上は約23.9億円で、全社売上の約71%を占めた。2025年末の契約ステーション数は3,501件だが、売上が発生する年間平均の稼働事業所数は四半期末実績から約3,136件と見積もれる。1事業所当たりの年間売上は約76万円となり、基本料金と訪問件数に応じた料金体系とおおむね整合する。
次に重要なのが「iBowレセプト」である。医療保険と介護保険の請求は制度が複雑で、算定漏れや不正請求を避ける必要がある。iBowの訪問記録から請求データへつながる仕組みは、単独の請求ソフトより顧客の業務に深く入り込む。2025年の売上は約2.8億円で、主力の電子カルテに付随する規制対応型の収入である。
AI関連機能、勤怠管理、法定研修、経営分析などの周辺サービスも育っている。AI訪問看護計画書・報告書に加え、2026年7月からは「AI訪問予定・ルート」の課金を開始した。当初の課金開始は246事業所で、月額約1万5,000円という具体的な販売実績が確認できる。2025年のクラウドその他と小規模なその他収入を合わせると約2.8億円であり、今後の成長余地はあるが、AIによって既存の操作機能が無料化される可能性も持つ。
もう一つの柱は、事務管理代行サービスのBPaaSである。これはレセプト関連の情報登録、指示書の確認、請求事務などをeWeLL側が引き受ける。料金は月額10万円以上、または顧客の診療報酬等に連動する方式である。2025年末の稼働事業所は253件、年間売上は約4.4億円だった。顧客の人手不足を補う価値は大きいが、提供する仕事自体はAIによる省人化の対象となる。
会社の報告セグメントは単一だが、長期評価では記録の正本、請求システム、周辺業務ソフト、人的事務代行を分ける必要がある。顧客の現場に残る基盤と、AIが直接置き換える仕事とでは、10年後の数量も価格も違うからだ。
優良さと弱いところ
最大の堀は、訪問看護に特化した記録と請求の一体化にある。訪問記録は医療・介護の法的要件に従い継続して管理する必要がある。過去の患者情報、計画書、報告書、保険請求を一体で使う顧客にとって、システム変更は単純な画面の入れ替えでは済まない。現場教育、過去データの移行、請求処理の確認を伴うため、一定の乗り換え費用が存在する。
堀には数字の裏付けもある。2025年の月次平均売上解約率は0.17%で、単純年率換算でも約2%にとどまる。また、訪問記録は累計1億件を超え、2026年には約1,600事業所で同社のAIサービスが利用されている。低い収入流出率と独自の記録データという二つの証拠があるため、iBow本体と請求基盤はAI代替の評価上、記録の正本に分類できる。ただし、売上解約率と事業所数の解約率は別の指標であり、同一視してはいけない。
収益力も高い。2025年の営業利益率は45.3%、ROEは32.2%であり、純現金を約29億円持つ。2022年から2025年にかけて営業利益は約7億円から15億円超に増えた。自己資本の増加額に対する税後利益の増加から見ても、これまでの追加投資には資本コストを大きく超える成果があった。ただし、これは厳密な投下資本利益率ではなく、過去の増分収益力を見る簡便な指標である。
弱点は価格決定力だ。長期間値上げをしていないため、低解約率が高い値上げ余地を意味するとは限らない。カイポケ訪問看護の月額2万5,000円という定額料金は、訪問件数の多い事業所ほど強い比較対象になる。iBowの記録品質や業務効率が料金差を補えるとしても、今後10年間ずっと補えるという保証はない。
堀は事業全体で一様ではない。記録と請求の部分には規制、データ、切り替えの難しさがあるが、予定作成や帳票作成の画面機能、人的事務代行はAIの進歩で差別化が弱まりやすい。記録基盤の堀は残るものの、周辺サービスで広げようとしている収益の堀は、むしろ狭くなる危険がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
訪問看護市場には人口減少と高齢化という相反する力が働く。日本の総人口は減るが、高齢者の在宅療養への移行や病床機能の見直しによって、訪問看護の必要性は高まる。全国の稼働ステーション数は2025年4月の18,754件から2026年4月には20,051件へ増加した。直近1年の伸びは6.9%であり、現在は構造的な拡大局面にある。
ただし、事業所数がこの速度で永遠に増えるわけではない。看護師不足、診療報酬改定、人件費上昇、事業所の休廃止が制約になる。2025年度には休止・廃止が計1,288事業所あった。2035年の全国ステーション数は中立で約2万6,000件を想定する。これは2026年から年率約3%の増加に相当し、直近の高い伸びを徐々に鈍化させたものである。
電子カルテの競争では、eWeLLのiBowが2025年末に18.7%のシェアを持つ一方、エス・エム・エスのカイポケ訪問看護は2026年4月時点で36.1%を公表している。カイポケは電子カルテと医療・介護の請求機能を備え、月額定額制を採用する。ワイズマン、カナミックネットワークなども医療・介護の周辺システムを展開する。ただし、これらの会社の介護業界全体の導入事業所数は、訪問看護専用市場のシェアとは異なる。サービスの併用もあり得るため、単純に各社の公表シェアを足し合わせることも適切ではない。
市場の金額規模は、訪問看護の電子カルテに厳密に限定した統一統計が乏しい。そこで全国約2万事業所に、月額5万〜8万円程度の記録・請求関連支出を掛けると、足元の年間潜在市場は約120億〜190億円となる。これは実際の市場売上ではなく、普及が進んだ場合の支出能力を示す概算である。BPaaS、研修、経営支援、医療データ事業を含めれば対象市場は広がるが、そのすべてをeWeLLが獲得できるわけではない。
最も大きな変化はAIエージェントの普及である。医療行為は人が担い続けるとしても、記録文案の生成、予定調整、保険請求の確認、経営分析は自動化される。医療情報の正本を管理する基盤は必要でも、人が画面で操作する機能や事務作業そのものの価値は低下し得る。今後は、画面機能を多く持つ会社よりも、正しい記録、制度適合、データ連携、監査可能性を握る会社の方が残りやすい。
同社は2040年に市場シェア50%を目指しているが、これは経営目標であり予測ではない。競合が既に大きな顧客基盤を持つ以上、10年後のシェアは技術だけでなく、料金と顧客の切り替え費用によって決まる。
資本政策と M&A
2026年2月公表の3カ年中期経営計画では、2028年12月期の売上高61.49億円、営業利益27.85億円、営業利益率45.3%を目指している。契約事業所数は4,882件、月間顧客単価は11.03万円、月次平均売上解約率は0.13%が目標である。売上成長率は年平均21.9%を想定しており、AI開発、顧客支援、データ基盤、BPaaSの拡張へ投資する方針だ。ROEについては高水準の維持を掲げているが、2028年の具体的な数値目標を確約しているわけではない。
株主還元は配当性向20%を目安とする。2026年12月期は増配を予定し、自己資本配当率は8.2%程度を見込むが、これは固定的なDOE目標ではない。2026年2月には上限3億円の自己株式取得を決議し、6月末までに約3億円を取得した。配当だけでなく自社株買いに踏み出した点は前向きである。ただし、中期計画には将来の自己株買い総額や総還元性向の数値的な約束はない。
2025年の研究開発費は約0.5億円、ソフトウエアを中心とする設備投資は約1.4億円だった。これらの金額に対して営業利益は大きく、過去の内部投資は効率的だったと評価できる。一方、AIの開発競争が続けば、外部開発費、データ保護費用、顧客支援人員の負担が増える可能性がある。減価償却は既存ソフトの取得原価に基づくため、物価と同じ割合では増えないが、新規開発への投資はインフレとともに膨らむ。
2026年6月末の大株主構成では、上位2名で約5割の株式を保有している。創業経営陣と株主の利害は一致しやすいが、少数株主が余剰資金の配分を直接左右する力は弱い。会社はM&Aを検討するとしているものの、大型買収による増分投資利回りの実績はまだ確認できない。今後の買収は、単なる売上拡大ではなく、記録基盤や法対応の堀を広げられるかで評価すべきである。
余剰現金が株主に戻る割合は0.75とする。増配と2026年の自社株買いは評価するが、過去の配当性向はおおむね2割台で、長期間にわたり蓄積現金の大半を還元してきた実績まではない。将来の現金を額面どおり全額株主価値に加えるのは慎重さを欠く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
訪問看護専用の記録と請求を一体化した基盤は、一般的な業務SaaSよりはるかに置き換えにくい。訪問看護では患者ごとの医療情報、主治医の指示、医療保険と介護保険の適用関係、訪問の実績を正しく保存する必要がある。AIが記録文案を作成できても、最終的な法定記録を保持し、請求を実行し、後から監査可能な状態にする仕組みは必要である。eWeLLはその役割を既に担っている。
低い売上解約率、3,500件を超える契約基盤、累計1億件以上の記録という実績は、競争優位が単なる画面設計ではないことを示している。制度改正への対応を重ねるほど、新規参入者が追いつくための開発負担は増える。訪問看護の現場では看護師不足が深刻であり、1人当たりの訪問件数を増やせる仕組みには明確な経済価値がある。月500件の訪問を行うステーションで事務負担を減らせば、電子カルテの利用料金を上回る便益が生じ得る。
2026年にはAI訪問予定・ルートの有料契約が具体化した。既に販売金額を伴う自社AIサービスが存在するため、AIを単なる脅威として扱う必要もない。記録から得た独自データを使って経営分析や訪問予定の最適化を提供できれば、汎用AIより正確で業務に結び付いた機能を作れる。新サービスが顧客の収入増加につながれば、既存顧客への追加販売も期待できる。
会社は2040年にシェア50%を目指している。2035年に1万事業所へ到達する筋書きでも、この長期目標の手前に位置する。営業利益率を高水準に保ちながら顧客基盤を広げ、余剰現金を着実に積み上げられるなら、現在の時価総額を正当化する余地はある。事業の本質は、AIに使われる記録基盤になることであり、AIそのものに負けることではない。
慎重な見方
eWeLLの高収益は、訪問看護のデジタル化が遅れていた時代に、顧客の業務をまとめて改善できたことによって生まれた。しかし、これからの10年は画面を操作する業務ソフトから、AIエージェントが必要な仕事を直接実行する仕組みへ移行する可能性がある。記録の正本は残っても、その周辺にある予定作成、帳票作成、転記、請求前確認、経営分析に対する個別の課金は難しくなる。
価格競争は既に存在する。カイポケ訪問看護はeWeLLより大きな導入事業所数を持ち、記録と請求を含む機能を月額定額制で提供する。iBowは訪問件数が増えるほど従量料金も上がるため、成長した顧客ほど価格差を意識しやすい。訪問看護ステーションの利益率が人件費と報酬改定で圧迫されれば、経営者は操作性だけでなく毎月の利用料を比較するようになる。
2014年から長期間値上げを実施していないことも重要だ。これは顧客獲得を優先した結果とも言えるが、価格を自由に上げられることの証拠ではない。AI関連の開発費、サーバー費用、セキュリティ対応費が上がるなかで、単価の上昇が遅れれば利益率は下がる。BPaaSは顧客の人手不足を補う優れたサービスだが、請求情報の登録や確認そのものが自動化されるほど、従来型の売上は減る。
市場規模の拡大も無条件ではない。看護師不足によって新規開設が頭打ちになり、事業所の統合が進む可能性がある。患者の個人情報を扱う以上、大規模な情報漏洩やAI生成記録の誤りが起きれば信用の毀損も深刻だ。高い現在利益率と過去の売上成長率を10年間そのまま延長することは危険であり、現在の時価総額にはその危険を受け止める十分な余裕が見えない。
どちらに重みを置いたか
記録と請求の正本については、強い堀が残るという見方に説得力がある。低い売上解約率と1億件を超える記録データは、実績に裏付けられた強みだからだ。一方、周辺業務とBPaaSのAI代替、カイポケの大きなシェアと定額料金、値上げ実績の不足は無視できない。やや悲観と悲観を合計38%とし、楽観側の32%より厚くした。これはAIの影響を資本コストへ重ねて加算した結果ではなく、価格競争、シェア喪失、規制対応の失敗という別の事業結果の可能性を反映したものだ。最終的には、堀があることを認めても、現在の時価総額を正当化するには相当な上振れが必要との判断になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 1,941 円294 億円(+ 還元の換算額還元の合計 201 円30 億円)。 今の値に割り戻すと 1,105 円167 億円、今との差 −51.9%、 期待の年率 −0.7%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 5,410 円819 億円 | 377 円57 億円 | +151.8% | +10.1% | 694 円105 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,266 円494 億円 | 271 円41 億円 | +53.9% | +4.6% | 707 円107 億円 |
| 中立 | 30% | 1,490 円225 億円 | 198 円30 億円 | −26.5% | −3.2% | 506 円77 億円 |
| やや悲観 | 25% | 669 円101 億円 | 132 円20 億円 | −65.1% | −10.7% | 200 円30 億円 |
| 悲観 | 13% | 190 円29 億円 | 66 円10 億円 | −88.9% | −21.3% | 33 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,941 円294 億円 | 201 円30 億円 | −6.8% | −0.7% | 2,142 円324 億円 |
今の株価時価総額 2,298 円348 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 12% 記録基盤と自社AIが普及し、シェアを大きく伸ばす 利益 44 億円 · PER 16.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 5,410 円819 億円
iBowは、単なる訪問看護ソフトから記録・請求・経営支援を結ぶ業界基盤へ進化する。累計1億件を超えていた訪問データがさらに蓄積され、AIによる訪問計画、患者の状態把握、請求漏れの確認、経営改善に役立つ。汎用AIでは再現しにくい医療・介護の業務知識を持つことで、AI時代にも基盤としての地位を保つ。
2035年の年間平均稼働事業所は1万件に達し、全国約2万6,000件の市場に対するシェアは4割近くになる。カイポケ訪問看護との競争では、料金だけでなく看護師1人当たりの訪問件数と請求の正確さで優位に立つ。既存顧客の紹介と開業支援が新規契約を呼び込み、制度改正のたびにシステムの信頼性が評価される。
AI関連機能にも実際の課金が広がり、顧客が増やした訪問件数に応じた収入が伸びる。BPaaSは単純な入力代行から、より複雑な請求監査と成果に連動するサービスへ移る。人的作業をAIで減らしながら顧客単価を維持できるため、利益率の大幅な悪化は避けられる。大型買収に依存せず、利益と現金を積み上げ、配当と機動的な自己株買いが継続する10年になる。
- iBow電子カルテ・記録基盤:数量 10,000(年間平均のiBow稼働ステーション数(事業所))× 価格 0.01(1稼働事業所当たり年間iBow本体売上(億円・名目))→ 売上 102 億円・営業利益 53 億円。平均稼働1万事業所、年額102万円。医療記録の正本と自社AIの有料販売が共存し、高い収益性を維持する。
- iBowレセプト・保険請求基盤:数量 8,000(iBowレセプトの年間平均課金事業所数(推定件数))× 価格 0.00(1課金事業所当たり年間レセプト売上(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 6 億円。8,000事業所へ浸透。制度対応と記録連携を評価され、請求機能の付帯率が上がる。
- AI・勤怠・研修・経営支援などの周辺サービス:数量 7,500(年間平均の周辺サービス課金換算事業所数(iBow稼働事業所を母数とする推計))× 価格 0.00(1課金換算事業所当たり年間周辺サービス売上(億円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 3 億円。有料販売実績のある自社AI製品が拡大する上振れ。画面操作型機能の単純な値上げではない。
- BPaaS・iBow事務管理代行サービス:数量 400(年間平均の事務管理代行サービス稼働事業所数(推定件数))× 価格 0.03(1稼働事業所当たり年間BPaaS売上(億円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 3 億円。高度な請求監査と診療報酬連動の成果型料金へ移行。単価の伸びには既存の報酬連動契約という根拠がある。
倍率:余剰現金170億円に対応する税後利息2.38億円を純利益から除くと、事業純利益は約41.65億円となる。事業自己資本は261.8−170=91.8億円、事業ROEは約45.4%。k7.25%と強い堀の残存割合2/3からRONIC約32.7%、g_long1.5%として、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=16.59倍。上限から手で割り引かず、余剰現金170億円に戻り方0.75を掛けた127.5億円を加える。
確率:2035年までに平均稼働1万事業所へ広がり、競合の大きな基盤からシェアを奪う必要がある。2026年に自社AIサービスの有料契約実績が生まれているため不可能とはしないが、会社の2040年目標を前倒しで実現する水準に近く、実現確率は12%にとどめる。
やや楽観 20% 計画達成後も記録基盤が拡大し、AIサービスが定着 利益 26 億円 · PER 16.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,266 円494 億円
2028年の中期計画をおおむね達成した後も、iBowの導入が続く。2035年には年間平均6,500事業所まで拡大し、想定する全国ステーション数に対するシェアは約25%となる。紙の記録から電子カルテへの移行だけでなく、既存ソフトから記録と請求が一体化した基盤へ切り替える需要も取り込む。
AI訪問看護計画書、予定・ルート、経営分析の有料機能が広がり、顧客単価を押し上げる。汎用AIで代替される機能も出るが、医療記録と保険請求の正本がiBowに残るため、会社が顧客との接点を失うことはない。カイポケの低価格攻勢に対しては、訪問件数の多いステーションの生産性を高めることで対抗する。
BPaaSは事務処理をAIで省人化しながら、残る複雑な確認業務を継続する。売上成長とともにサーバー費用や人件費も上がるため、営業利益率は現在よりやや低下する。それでも記録基盤の収益性が全社を支え、純現金を積み上げながら配当を続ける。大きな買収による上乗せを必要としない成長が実現する。
- iBow電子カルテ・記録基盤:数量 6,500(年間平均のiBow稼働ステーション数(事業所))× 価格 0.01(1稼働事業所当たり年間iBow本体売上(億円・名目))→ 売上 64 億円・営業利益 32 億円。平均稼働6,500事業所、年額98万円。記録と請求の一体化が競争優位を保つ。
- iBowレセプト・保険請求基盤:数量 5,400(iBowレセプトの年間平均課金事業所数(推定件数))× 価格 0.00(1課金事業所当たり年間レセプト売上(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 4 億円。iBow顧客への付帯率が高まり、制度対応による継続率を維持する。
- AI・勤怠・研修・経営支援などの周辺サービス:数量 5,200(年間平均の周辺サービス課金換算事業所数(iBow稼働事業所を母数とする推計))× 価格 0.00(1課金換算事業所当たり年間周辺サービス売上(億円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 2 億円。既に有料化したAI機能が伸び、汎用機能の無料化を上回る。
- BPaaS・iBow事務管理代行サービス:数量 320(年間平均の事務管理代行サービス稼働事業所数(推定件数))× 価格 0.03(1稼働事業所当たり年間BPaaS売上(億円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。単純入力作業は縮小し、複雑な請求監査と報酬連動業務が中心になる。
倍率:余剰現金130億円の税後利息1.82億円を除いた事業純利益は約24.25億円。事業自己資本70.8億円に対するROEは約34.3%であり、k7.25%と堀の残存割合2/3からRONIC約25.3%となる。長期g1.5%を用いた正当化PERは16.36倍。事業利益への倍率と余剰現金の戻り方0.75を分けて評価する。
確率:2028年の契約目標4,882件を達成し、その後も新規開業と競合からの切り替えを取り込む想定。既存の低解約率とAIの有料販売実績は支えになるが、定額制競合とのシェア争いが続くため確率を20%とする。
中立 30% 記録の正本は残るが、AIと価格競争で成長が反転する 利益 11 億円 · PER 15.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,490 円225 億円
2028年までの中期計画はおおむね順調に進むが、その後の競争環境が変わる。カイポケをはじめとする大規模事業者が、AIによる記録・請求の自動化を低価格の定額サービスへ取り込む。iBowは制度対応と過去の記録を必要とする顧客に残るものの、新規顧客の獲得は鈍化し、一部では価格差を理由に乗り換えが起きる。
2035年の年間平均稼働事業所数は約3,070件となる。全国の訪問看護ステーションは約2万6,000件へ増えても、同社のシェアは約12%まで下がる。記録の正本と請求業務は引き続き必要であり、単価には一定の上昇余地を認める。しかし、基本の訪問従量料金は競争によって上がりにくく、名目単価の伸びは物価上昇を下回る。
周辺SaaSではAIエージェントが人の操作を減らし、事務管理代行では入力・確認の自動化が進む。BPaaSの提供件数は2025年比で約3分の2となり、人的サービスとしての成長は続かない。記録基盤の営業利益は残るため事業全体が赤字になるわけではないが、営業利益率は過去の高水準から低下する。
利益の相当部分を配当せずに積み上げるため自己資本は増える一方、事業利益は伸び悩む。表面上のROEは低下するが、事業に必要な資本を超える現金は別に評価する。優良な記録基盤を持ちながらも、全社としては成長の勢いを失った会社になる。
- iBow電子カルテ・記録基盤:数量 3,070(年間平均のiBow稼働ステーション数(事業所))× 価格 0.01(1稼働事業所当たり年間iBow本体売上(億円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 13 億円。数量は2025年の約0.98倍、単価は約1.20倍。法定記録が残る一方、シェアと値上げ力は弱まる。
- iBowレセプト・保険請求基盤:数量 2,200(iBowレセプトの年間平均課金事業所数(推定件数))× 価格 0.00(1課金事業所当たり年間レセプト売上(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。数量約0.96倍、単価約1.23倍。制度対応による継続性を認める。
- AI・勤怠・研修・経営支援などの周辺サービス:数量 2,570(年間平均の周辺サービス課金換算事業所数(iBow稼働事業所を母数とする推計))× 価格 0.00(1課金換算事業所当たり年間周辺サービス売上(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。数量約0.82倍、単価約1.10倍。AIエージェント代替による画面操作型サービスの縮小を反映する。
- BPaaS・iBow事務管理代行サービス:数量 144(年間平均の事務管理代行サービス稼働事業所数(推定件数))× 価格 0.03(1稼働事業所当たり年間BPaaS売上(億円・名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。数量約0.67倍、単価約1.28倍。自動化で需要が減り、残る複雑業務も競争が厳しくなる。
倍率:余剰現金108億円の税後利息1.512億円を除く事業純利益は約9.18億円。事業自己資本は153.8−108=45.8億円で、事業ROEは約20.0%。k7.25%と残存割合2/3からRONIC約15.8%、g_long1.5%で正当化PERは15.74倍となる。AI代替による縮みを数量とg_longに反映済みのため、倍率をさらに恣意的に割り引かない。事業価値に余剰現金の75%を加える。
確率:記録・請求基盤の堀は維持される一方、操作型の業務ソフトと人的事務代行にAIエージェント代替が進むという中心的な見通し。2028年計画がその後も持続するとは考えず、競争激化による顧客減少と低い価格転嫁力を反映する。既存の低解約率を重視し、破綻に近い筋書きを中立にはしない。
やや悲観 25% 低価格の競合が浸透し、周辺サービスの収益が細る 利益 5 億円 · PER 11.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 669 円101 億円
カイポケなどの競合が医療記録と請求の一体化を進め、価格の安さに加えて業務機能でもiBowとの差を縮める。顧客はシステムを簡単には変更しないものの、開業時から競合の定額サービスを選ぶ事業所が増え、長期利用顧客の一部も切り替えを始める。eWeLLのシェアは低下し、2035年の平均稼働事業所数は約2,550件となる。
iBowの記録データには引き続き価値があるが、競合がAIを使って移行作業を簡単にするほど、乗り換えの負担は下がる。レセプト機能についても、制度改正への対応力の差が縮まる。新たなAI機能を販売しても、汎用AIが同じ仕事を安く実行するため、周辺サービスの売上は減少する。
BPaaSでは事務処理の自動化がさらに進み、顧客が外注する必要のある作業が少なくなる。eWeLLは残る複雑な請求監査を提供するが、人員や固定費を売上と同じ速度で減らすことはできない。営業利益率は20%程度まで低下し、高収益SaaSという従来の姿から後退する。
財務は純現金を持つため存続に問題は生じにくく、配当も規模を縮めながら続く。経営が大型買収に依存せず現金を守れれば、稼ぐ力が弱くなっても一定の株主価値は残る。しかし、以前の高い利益率を取り戻すことは難しい。
- iBow電子カルテ・記録基盤:数量 2,550(年間平均のiBow稼働ステーション数(事業所))× 価格 0.01(1稼働事業所当たり年間iBow本体売上(億円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 7 億円。競合への移行で数量は約0.81倍、価格の伸びも鈍くなる。
- iBowレセプト・保険請求基盤:数量 1,650(iBowレセプトの年間平均課金事業所数(推定件数))× 価格 0.00(1課金事業所当たり年間レセプト売上(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。記録連携の優位が弱まり、課金事業所と利益率が低下する。
- AI・勤怠・研修・経営支援などの周辺サービス:数量 1,800(年間平均の周辺サービス課金換算事業所数(iBow稼働事業所を母数とする推計))× 価格 0.00(1課金換算事業所当たり年間周辺サービス売上(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。AIによる機能の無料化と競争による値下げが進む。
- BPaaS・iBow事務管理代行サービス:数量 90.0(年間平均の事務管理代行サービス稼働事業所数(推定件数))× 価格 0.02(1稼働事業所当たり年間BPaaS売上(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。単純事務の需要が減り、残存業務の固定人件費が利益を圧迫する。
倍率:余剰現金75億円の税後利息1.05億円を除いた事業純利益約3.91億円に対し、11.5倍の稼ぐ力を認める。記録基盤は残るが、競争力を失い、長期の追加投資が資本コストを超える確信は弱い。楽観から中立の成長企業向け上限ではなく、持続する事業利益の保守的な価値を採用し、余剰現金の75%を別に加える。
確率:定額料金の競合が既に大きなシェアを持つこと、同社に値上げの実績が乏しいこと、BPaaSと周辺SaaSの自動化が進むことから25%とする。中立とは別に、請求基盤を含む顧客流出と大幅な利益率低下が起こる場合であり、AIの数量減少だけを重ねて悲観しているわけではない。
悲観 13% 記録基盤の地位を失い、AIと競争で構造的に敗れる 利益 −1 億円 · PBR 0.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 190 円29 億円
AIエージェントが医療記録の作成から保険請求の確認まで自動的に処理できるようになり、汎用的な医療情報基盤や大手介護ソフトとの連携が標準化される。過去データの移行も以前ほど難しくなくなり、iBowに蓄積された記録だけでは顧客を守れなくなる。競合はより低価格で同等の法令対応を提供し、eWeLLは主力の顧客基盤を失っていく。
2035年の平均稼働事業所数は約1,550件に減少し、全国市場に対するシェアは約6%となる。レセプト利用も大きく減り、周辺のAI機能は単独で課金できなくなる。BPaaSは自動化された請求事務との競争に敗れ、残る契約でも固定費を回収できない。全社売上は2025年の半分未満となり、営業損失が発生する。
経営は事業転換を試みるが、開発したソフトウエアや買収先の一部で減損が必要になる。過去の黒字から蓄積した現金の一部は再投資に費やされ、成長企業としての評価は失われる。配当は初期の黒字期間には続くものの、その後は縮小する。顧客と一部の記録資産は残るが、将来の利益よりも売却可能な資産が株主価値を支える状態になる。
- iBow電子カルテ・記録基盤:数量 1,550(年間平均のiBow稼働ステーション数(事業所))× 価格 0.01(1稼働事業所当たり年間iBow本体売上(億円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。数量は約0.49倍。記録の正本としての地位を失い、低価格競争に陥る。
- iBowレセプト・保険請求基盤:数量 950(iBowレセプトの年間平均課金事業所数(推定件数))× 価格 0.00(1課金事業所当たり年間レセプト売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。標準化した請求システムへ顧客が流出する。
- AI・勤怠・研修・経営支援などの周辺サービス:数量 1,050(年間平均の周辺サービス課金換算事業所数(iBow稼働事業所を母数とする推計))× 価格 0.00(1課金換算事業所当たり年間周辺サービス売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AIの無料機能との競争で課金と採算を失う。
- BPaaS・iBow事務管理代行サービス:数量 50.0(年間平均の事務管理代行サービス稼働事業所数(推定件数))× 価格 0.02(1稼働事業所当たり年間BPaaS売上(億円・名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。事務代行の需要が大きく縮小し、固定人員の負担が残る。
倍率:2035年の営業赤字ではPERによる評価が適切でない。今の自己資本33.8億円を基準に、0.85倍の約28.73億円とする。将来積み上がった自己資本に倍率を掛けず、現在の純現金28.6億円を床とする。利益を生む力は低く、ソフトウエアや繰延税金資産などの帳簿価値をそのまま清算価値に含めない。
確率:単なる成長鈍化ではなく、規制対応・記録連携の優位を失い、顧客流出、AI代替、投資の失敗が重なる複合的な筋書きである。既存のデータと低い売上解約率を考えると中心的な結果にはしないが、技術の世代交代が10年間続くことから13%を認める。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
iBow電子カルテ・記録基盤
訪問記録、患者情報、計画書、報告書などを管理する主力のクラウド型電子カルテ。基本料金と訪問1件当たりの従量料金で稼ぐ。
| 数量年間平均のiBow稼働ステーション数(事業所) | 価格1稼働事業所当たり年間iBow本体売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,136 | 0.01 | 24 | 14 |
| 10 年後 中立 | 3,070 | 0.01 | 28 | 13 |
取り方:2025年有報のiBow本体売上2,391,908千円を使用した。2025年の四半期末稼働ステーション数2,885、3,103、3,231、3,325の平均3,136を年間稼働量の近似とする。実際の年間平均と完全には一致しない。単価は売上を3,136で除した年間約76.3万円で、月額18,000円と1訪問100円の課金体系に整合する。営業利益はサービス別非開示のため、全社営業利益15.4億円に合わせて共通費を別途控除する配賦推計。AIエージェント代替の型は記録の正本であり、中立の数量0.85〜1.00倍、価格1.15〜1.34倍を適用する。
iBowレセプト・保険請求基盤
訪問記録と連携し、医療保険・介護保険の請求処理、制度対応、算定確認を担うクラウドサービス。
| 数量iBowレセプトの年間平均課金事業所数(推定件数) | 価格1課金事業所当たり年間レセプト売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,300 | 0.00 | 3 | 1 |
| 10 年後 中立 | 2,200 | 0.00 | 3 | 1 |
取り方:2025年有報のiBowレセプト売上278,157千円を使用した。課金事業所数の正確な年間平均は開示されていないため、基本的な料金が月額7,000円以上であること、平均iBow稼働数が約3,136件であることを参考に、レセプト利用を約2,300件、年間平均単価を約12.1万円と推定した。これは実測契約数ではない。営業利益は全社との整合のための配賦推計。記録と請求の一体化および制度対応が堀のためAI代替の型は記録の正本とし、中立の数量0.85〜1.00倍、価格1.15〜1.34倍を適用する。
AI・勤怠・研修・経営支援などの周辺サービス
AI文書作成、AI訪問予定・ルート、勤怠管理、法定研修、経営分析、地域包括ケア関連などの追加サービス。
| 数量年間平均の周辺サービス課金換算事業所数(iBow稼働事業所を母数とする推計) | 価格1課金換算事業所当たり年間周辺サービス売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,136 | 0.00 | 3 | 1 |
| 10 年後 中立 | 2,570 | 0.00 | 3 | 1 |
取り方:2025年有報のクラウドその他260,896千円と全社その他20,536千円を合わせて281,432千円とした。個別サービスの契約数が非開示のため、iBow年間平均稼働事業所3,136を母数にした課金換算事業所数を用いる。したがって単価は複数サービスの付帯率を含む平均収入であり、各商品の表示価格そのものではない。2026年7月にはAI訪問予定・ルートで246事業所の課金開始と月額約15,000円が開示されているが、2025年売上には逆算加算しない。操作画面や作業補助が価値の中心のためAI代替の型は席課金・操作型SaaSに準じ、中立の数量0.70〜0.90倍、価格1.00〜1.15倍とする。
BPaaS・iBow事務管理代行サービス
保険情報や指示書の登録、請求情報の確認など、訪問看護ステーションの事務作業を代行するサービス。
| 数量年間平均の事務管理代行サービス稼働事業所数(推定件数) | 価格1稼働事業所当たり年間BPaaS売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 215 | 0.02 | 4 | 1 |
| 10 年後 中立 | 144 | 0.03 | 4 | 0 |
取り方:2025年有報のBPaaS売上440,924千円を使用した。2024年末稼働179件、2025年末253件から、年間平均を約215件と推定する。実測の年間平均は非開示である。年額単価は約205万円で、月額10万円以上または顧客の診療報酬等に連動する料金体系と整合する。営業利益は人的原価を重めに見た配賦推計。AIエージェント代替の型は人月・工数型BPOであり、中立の数量0.55〜0.75倍、価格は物価上昇に相当する1.34倍までとする。
リスクと懸念
AIエージェント代替
AIが訪問記録の下書き、予定調整、請求内容の照合、経営分析を直接実行するようになると、画面操作型SaaSと人的事務代行の価値は縮小する。iBow本体にも影響は及ぶが、法定記録と保険請求の正本は引き続き必要となるため、全社を一律に消える事業とは扱わない。記録・請求基盤と周辺サービスで異なる数量、単価、長期成長率を適用し、資本コストに同じ危険を重ねていない。
カイポケとの価格・シェア競争
カイポケ訪問看護は2026年4月に7,238事業所の導入を公表し、月額2万5,000円の定額料金で電子カルテからレセプトまで提供している。iBowは訪問件数が増えるほど従量料金が増加するため、大規模ステーションほど価格比較の対象になりやすい。競合がAIと法令対応の機能を強化すれば、これまでの高い継続率を維持できなくなるおそれがある。
値上げ実績の不足とインフレ
会社は2014年のサービス開始以来、値上げを実施せず市場シェアの拡大を優先してきたと説明している。人件費、外注費、サーバー費用が上昇する環境で、既存料金を維持すれば実質単価は下がる。価格改定の検討は始まっているが、実施と定着はまだ確認できない。値上げ後の解約率を見ずに、強い価格決定力を前提にすることは危険である。
診療報酬・介護報酬改定と制度変更
訪問看護の収入は公的医療・介護保険に大きく依存する。報酬改定で事業者の採算が悪化したり、不正請求対策による規制負担が増えたりすると、顧客はシステム費用を削減しようとする。一方、適切な制度対応はiBowの堀を強くする可能性もある。制度変更は単なる事務負担ではなく、顧客単価、システムの切り替え、訪問件数を左右する重要な要因となる。
医療データの漏洩とAI生成記録の誤り
累計1億件を超える訪問記録は競争優位であると同時に、大きな情報管理責任を伴う。患者情報の漏洩、サイバー攻撃、AIが作成した誤った記録の請求への利用などが起これば、医療機関や訪問看護事業者との信頼関係が損なわれる。損害賠償やシステム再構築の費用だけでなく、制度上の利用制限によって記録基盤の価値そのものが下がる可能性がある。
訪問看護事業所の休廃止と人材不足
高齢化によって訪問看護の需要は増えるが、供給側の看護師を十分に確保できるとは限らない。2025年度には1,288事業所が休止・廃止された。事業所の統合が進めば、業界の患者数が増えてもシステム契約数はそれほど増えない可能性がある。iBowは訪問件数の増加から利益を得られる一方、顧客の廃業や統合による契約減少も直接受ける。
余剰現金の資本配分と希薄化
経営陣が多くの株式を保有しているため、長期経営への意思決定はしやすいが、蓄積現金の使い方は少数株主が直接決められない。M&Aによって記録基盤を強化できれば価値は増えるものの、競争力の弱いSaaSや人的BPOを高い価格で取得すれば、資本効率は低下する。また新株予約権や株式報酬による希薄化も小さな累積リスクとして監視する必要がある。
今後の分かれ目
- 2028年に契約4,882事業所、月間顧客単価11.03万円を達成し、その後も新規純増が続いたら
- 中立の顧客数減少を見直し、やや楽観以上の確率を引き上げる。ただし契約数だけでなく、記録基盤の維持と周辺AIの有料販売による増収かを確認する。
- iBowの売上解約率が月0.3%を超える状態が続き、契約事業所数の純減も確認されたら
- 記録の正本としての堀が弱くなっている兆候と捉える。やや悲観・悲観の確率を引き上げ、iBow本体の数量前提を下げる。
- 基本料金または訪問従量料金の値上げを実施しても、解約率が低位にとどまったら
- 価格決定力の証拠が新たに得られる。記録基盤の長期単価と利益率を上方修正し、現在の中立価値を引き上げる根拠になる。
- カイポケ訪問看護が低い定額料金を維持しながら大幅にシェアを拡大したら
- iBowの価格差が顧客獲得の障害になっているかを調べる。iBowの新規契約純増と顧客単価が同時に鈍化すれば、慎重な筋書きに重みを移す。
- AI訪問予定・ルートや経営支援などの有料サービスが、単独で年1億円以上の売上を生む規模に達したら
- AIを自社商品の収益に変えられた証拠として評価する。周辺SaaSの数量縮小前提を緩める余地があるが、既存サービスの値下がりを補った純増収かを確認する。
- BPaaSの契約数が減っても、AIによる原価削減で同サービスの利益額が維持されたら
- 人的BPOから自動化された成果型サービスへの転換を認める。数量が減っても利益率が改善する筋書きへ変更し、全社の中立営業利益を上方修正する。
- 大型買収や医療情報事故により純現金が大きく減少したら
- 余剰現金の価値を見直すとともに、買収先の増分利益率や情報管理体制を確認する。将来の現金回収が難しい場合は下側の筋書きに移す。
見ておくもの
- iBowの年間平均稼働ステーション数と期末契約数の差
- 全国の訪問看護ステーション数に対するiBowのシェア
- カイポケ訪問看護の導入事業所数と定額料金の変更
- iBowの月次平均売上解約率と事業所数ベースの解約率を分けた推移
- iBow本体・レセプト・AI関連・BPaaSのサービス別売上
- 顧客単価と訪問件数に対する実現単価
- AI訪問予定・ルートなどの有料契約件数と実際の売上高
- 既存iBowの値上げ実施時期と値上げ後の解約率
- 2028年の中期計画に対する売上、利益率、契約数の達成状況
- BPaaSの課金事業所数、従業員数、サービス別粗利益率
- 新規ソフトウエア投資、減価償却、営業キャッシュフローの推移
- 自己株買い、配当性向、余剰現金の蓄積、M&Aの実行状況
- 診療報酬・介護報酬改定に伴う顧客の新規契約と乗り換え件数
- 医療データ連携標準化とAIエージェントによる電子カルテ操作の自動化
倍率と資本コストの決め方
現在の時価総額約360.57億円や現在のPERから10年後の倍率を逆算していない。2025年のサービス別実績と開示された事業所数、料金体系を起点とし、記録の正本、保険請求、操作型SaaS、人的BPaaSに分けて数量と単価を設定した。中立ではAIエージェント代替の指定範囲に従い、記録基盤の数量を2025年比0.85〜1.00倍、周辺SaaSを0.70〜0.90倍、BPaaSを0.55〜0.75倍にした。物価3%は数量ではなく価格に含め、実績のない強い値上げ力を仮定していない。
倍率はk7.25%、事業ROE、強い堀の残存割合2/3、長期名目成長率1.5%から正当化PERを計算した。余剰現金を事業自己資本と利益から外し、別に戻り方0.75で評価しているため、現金利息を二重に数えない。各筋書きの自己資本は今の33.8億円に10年間の累積利益を加え、配当・自己株買いを差し引いた流れと整合させた。悲観では追加減損も考慮し、現在の純現金28.6億円を床にした。
確率は12%、20%、30%、25%、13%で、下側38%を上側32%より厚くした。10年後の時価総額の確率加重平均は約293.75億円、10年間の還元額の確率加重平均は約30.34億円となる。時価総額を10年、還元を平均5年で割り引くと、それぞれ約145.88億円と21.38億円で、本質価値は約167.26億円。現在との差は約マイナス53.6%となり、判定は割高である。現在の株価に結論を寄せてはいない。
株数は添付factsの15,130,902株を採用した。2026年6月末の会社IRにある自己株式数との差はごく小さく、分割調整や自己株式の二重控除はしない。新リース会計基準によって将来の貸借対照表の表示が変わり得るが、10年後の営業利益は家賃を費用に含む現在と同じ考え方で比較した。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%から基本7.5%とし、事業の質による調整マイナス0.25%を加えた。AIエージェント代替は数量・価格・長期成長率に織り込み、資本コストには二重計上しない。