結論
三菱総合研究所は、システム開発と、官公庁・企業向けの調査・コンサルティングを手がける会社だ。売上1,215億円のうち6割がシステム開発(ITサービス)、4割が調査・コンサルになる。筆者の結論は「割高」。事業は人月、つまり人の時間で売る仕事で、AIエージェントが最も直撃する型だからだ。
純現金は300億円と時価総額の3分の1を占め、財務は堅い。官公庁との長い取引は強みだが、仕事は入札と人の手に依る。
10年後の中立でも、必要な人数は3割減り、利益は今を下回る。現金の戻りが十分でも、今の値段を支えるには足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、現金が厚く財務が堅い点は評価する。ただし、人の時間で売る事業は、AIエージェントが使えるようになるほど、売上の元になる人数が減る。堀が仕組みでなく人に依る点が弱い。
事業の価値に厚い現金を足しても、今の時価総額に届かない。現金の使い方が変わるか、AIを自社の売り物にして売上に出る開示が出るまで、安全域は薄い。待つ費用は小さいと筆者は見る。見直すきっかけは、AIを売り物にした売上の開示だ。
何で稼ぐ会社か
売上の6割はITサービスで、金融・カード・官公庁・民間のシステム開発と運用を請け負う。残る4割はシンクタンク・コンサルティングで、政策提言、調査研究、官公庁の事業の受託、企業の戦略支援が中心だ。2025年9月期の利益は、シンクタンク・コンサルが57億円、ITサービスが40億円と、小さい方の事業が稼ぎの主役になっている。
金融・カード向けの大型案件が減ると利益が大きく振れ、直近の四半期でもITサービスの利益は大幅に減った。顧客は金融・官公庁が中心で、取引は長い。受託ごとに採算の差が大きい。案件は金融・公共に偏る。
優良さと弱いところ
強みは、官公庁との長い関係と、政策・科学技術の知見を持つ研究員の集団だ。民間に比べて価格競争に巻き込まれにくく、利益率も11〜12%と高い。ただしこれは人の頭脳で稼ぐ型で、仕組みで堀を築いているわけではない。
財務は堅い。自己資本比率は56%、純現金は300億円ある。過去10年のROEは9%前後と資本コストをやや上回る。
筆者は堀を普通と見る。AIエージェントが調査や文書作成を肩代わりすれば、人数の価値は下がる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のITサービス市場は名目で年5〜6%伸びる見通しだが、人月で売る受託開発は構造的に不利になる。AIエージェントが設計・コード作成・テストを肩代わりし、同じ仕事に必要な人数が大きく減るからだ。単価が上がっても、人数の減りが上回る。
コンサル・シンクタンクも同じで、調査の下ごしらえと報告書の作成はAIが得意とする。残るのは、政策の当事者との対話と責任を負う判断だ。ただしその分野でも、人数は減る。単価が上がっても総額は伸びにくい。
10年の悪い筋書きは、官公庁がAIで内製と安い外注に切り替え、両事業が同時に縮むことだ。
資本政策と M&A
配当性向・総還元性向・自社株買いの具体的な数字は確認できなかった。中期経営計画の数値目標も確認できず、「数字の約束なし」とした。純現金は300億円あり、時価総額の3分の1を占める。
過去の自社株買いや配当の実績が確認できず、戻り方は控えめに見た。上位10株主の持ち分は50%ほどで、支配は強くない。10年以内にTOBに会う確率は、外部の推定で21%ほどある。
見通しをどちらに寄せたか
下側を上側より厚くした。システム開発の利益が直近で大きく落ちており、人月型の事業が6割を占める。AIエージェントの代替で人数が減る流れは、中立の筋書きにも織り込んだ。現金の厚さが下値を支える点は、悲観の床で見た。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 4,422 円697 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,048 円165 億円)。 今の値に割り戻すと 3,057 円482 億円、今との差 −43.6%、 期待の年率 +0.1%(資本コスト 6.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 10,752 円1,694 億円 | 2,094 円330 億円 | +137.0% | +9.0% | 642 円101 億円 |
| やや楽観 | 15% | 7,822 円1,233 億円 | 1,650 円260 億円 | +74.8% | +5.7% | 1,421 円224 億円 |
| 中立 | 40% | 5,740 円905 億円 | 1,269 円200 億円 | +29.3% | +2.6% | 2,804 円442 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,309 円206 億円 | 635 円100 億円 | −64.1% | −9.7% | 525 円83 億円 |
| 悲観 | 13% | 475 円75 億円 | 127 円20 億円 | −88.9% | −19.7% | 78 円12 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,422 円697 億円 | 1,048 円165 億円 | +0.9% | +0.1% | 5,470 円862 億円 |
今の株価時価総額 5,420 円854 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 5% 楽観:AIを取り込み人数を保つ 利益 103 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 10,752 円1,694 億円
官公庁・民間のDX需要が強く、AIエージェントを自社の仕事に取り込んで人数を減らさずに売上を保つ。政策と民間をつなぐ立場が評価され、単価が物価並みに上がる。システム開発の不採算も収まり、営業利益率は8%に届く。配当も増え、現金も戻る。10年後の営業利益は今の6割増になる。
- ITサービス:数量 5,500(人数(外注含む・人・推定))× 価格 1,812(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 996 億円・営業利益 70 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
- シンクタンク・コンサルティング:数量 1,800(人数(外注含む・人・推定))× 価格 3,505(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 631 億円・営業利益 85 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
倍率:事業のROEがkに届かず、g_longは0%(AIエージェント代替)。式の上限1÷kに置いた。
確率:AIエージェントを取り込んで人数を保つ筋書き。自社の売り物としてAIの売上が出ている開示は確認できず、確率は低く置く。
やや楽観 15% やや楽観:官公庁の仕事が下支えする 利益 74 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 7,822 円1,233 億円
AIエージェントで開発の人手は減るが、官公庁の調査・政策支援は残り、システムも保守・運用が下支えする。人数は1割ほど減るにとどまり、単価は物価並みに上がる。利益率は6%台後半を保つ。営業利益は今とほぼ同じ水準で、配当は安定して続く。ITサービスの不採算案件は整理される。
- ITサービス:数量 4,675(人数(外注含む・人・推定))× 価格 1,812(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 847 億円・営業利益 51 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
- シンクタンク・コンサルティング:数量 1,620(人数(外注含む・人・推定))× 価格 3,505(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 568 億円・営業利益 71 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
倍率:事業のROEがkに届かず、g_longは0%(AIエージェント代替)。式の上限1÷kに置いた。
確率:官公庁の調査・政策支援が残り、人数が1割減にとどまる筋書き。
中立 40% 中立:人数が3割減り、単価の上昇を相殺する 利益 48 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 5,740 円905 億円
AIエージェントが開発とコンサルの下流作業を置き換え、必要な人数が10年で3割前後減る。単価は物価並みに上がるが、人数の減りが利益を押さえる。システム開発の利益率は5%、シンクタンクは11%にとどまる。配当は維持されるが、増える余地は小さい。営業利益は今の2割減ほどになる。
- ITサービス:数量 3,850(人数(外注含む・人・推定))× 価格 1,812(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 698 億円・営業利益 35 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
- シンクタンク・コンサルティング:数量 1,350(人数(外注含む・人・推定))× 価格 3,505(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 473 億円・営業利益 52 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
倍率:事業のROEがkに届かず、g_longは0%(AIエージェント代替)。式の上限1÷kに置いた。
確率:AIエージェントによる人数の減りが単価の上昇を上回る中心の筋書き。
やや悲観 27% やや悲観:代替が速く進む 利益 16 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,309 円206 億円
AIエージェントの代替が速く進み、システム開発の人数は半分近くまで減る。単価は物価に追いつかず、官公庁の予算も厳しくなる。営業利益は今の4分の1に細り、配当は減る。現金は厚いが、事業の稼ぎは縮む。会社は縮小均衡を探る段階に入る。官公庁の予算も厳しく、新しい柱が見つからない。
- ITサービス:数量 3,025(人数(外注含む・人・推定))× 価格 1,622(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 491 億円・営業利益 17 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
- シンクタンク・コンサルティング:数量 1,080(人数(外注含む・人・推定))× 価格 3,139(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 339 億円・営業利益 27 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
倍率:人数が半分近くに減り、g_longは0%。伸びを数えない稼ぐ力の値(1÷k)より低く置いた。
確率:下に寄せる理由:人月で売る事業が売上の6割を占め、ITサービスの利益が直近で大幅に減っている。AIエージェントの代替が速く進む筋書き。
悲観 13% 悲観:人月の仕事が置き換わる 利益 −17 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 475 円75 億円
人月で売る仕事の大半がAIエージェントに置き換わり、売上は半分以下になる。固定費の人件費が重く、赤字が続く。もう優良とは言えない会社になり、床は戻り方を掛けた余った現金に近づく。人員の整理や事業の売却も避けられない。配当もほぼ出せなくなる。
- ITサービス:数量 2,200(人数(外注含む・人・推定))× 価格 1,352(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 297 億円・営業利益 −3 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
- シンクタンク・コンサルティング:数量 720(人数(外注含む・人・推定))× 価格 2,616(1人あたり売上(万円・名目、外注含む))→ 売上 188 億円・営業利益 4 億円。人数・単価・営業利益率の推定。AIエージェント代替で人数が減る
倍率:赤字で稼ぐ力が測れない。床は余った現金100億円に戻り方0.75を掛けた額の75億円で、今の自己資本の1割に置いた。
確率:下に寄せる理由:人月型の事業が両方で置き換わる構造的な負けの筋書き。AIエージェントで売上が半分以下になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ITサービス
金融・カード・官公庁・民間のシステム開発と運用。
| 数量人数(外注含む・人・推定) | 価格1人あたり売上(万円・名目、外注含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 5,500 | 1,352 | 744 | 40 |
| 10 年後 中立 | 3,850 | 1,812 | 698 | 35 |
取り方:2025年9月期の売上744億円・セグメント利益40億円(決算の報道)を、人数と1人あたり売上に分けた推定。
シンクタンク・コンサルティング
政策提言・調査研究・官公庁の事業受託・企業の戦略支援。
| 数量人数(外注含む・人・推定) | 価格1人あたり売上(万円・名目、外注含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 1,800 | 2,616 | 471 | 57 |
| 10 年後 中立 | 1,350 | 3,505 | 473 | 52 |
取り方:2025年9月期の売上471億円・セグメント利益57億円(決算の報道)を、人数と1人あたり売上に分けた推定。本社費などの調整(約-17.5億円)は調整欄に入れた。
リスクと懸念
AIエージェントによる代替
設計・開発・調査の下流作業をAIが肩代わりし、同じ売上に必要な人数が10年で3割以上減る。人月で売る型は、数量の減りが単価の上昇を上回りやすい。
大型案件の振れ
金融・カード向けの大型案件が減ると、ITサービスの利益が大きく振れる。直近の四半期でも、不採算案件の追加費用で利益が大幅に減った。
官公庁の予算と入札
調査・コンサルの多くは官公庁の入札に依る。予算の削減や、AIによる内製・安い外注への切り替えで、単価と数量が同時に落ちる。
人件費の上昇
研究員・技術者の人件費は物価で上がる。値上げが通らず、人数の減りに見合う固定費の削減が遅れると、利益率が下がる。
今後の分かれ目
- AIを自社の売り物にして売上・受注が出た開示がある
- 楽観の筋書きに近づく。ただし金額が確認できるまでは織り込まない。
- ITサービスの利益が2期続けて回復する
- やや楽観の筋書きに近づく。
- 自社株買いや配当性向の目標が数字で示される
- 現金の戻り方が上がり、価値が厚くなる。
- 官公庁が調査・システムをAIで内製に切り替える
- 悲観の筋書きに寄る。
見ておくもの
- ITサービスの利益
- AIを売り物にした売上の開示
- 配当性向・自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(g_longが0%のため1÷k)と筋書きごとの稼ぐ力で置いた。市場のPERは使っていない。10年先の利益は人数の減りと単価から積み、今の値段に合わせていない。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。