結論
テレビ東京ホールディングスは、地上波とBSの放送に、アニメ・配信を加えた民放の持株会社だ。2026年3月期は売上も利益も過去最高で、利益の柱は放送からアニメ・配信に移った。筆者の見立ては、事業の価値と厚い純現金を足すと、今の時価総額を2割ほど上回るというものだ。
放送の広告は、ネット広告に押されて長く縮む。アニメ・配信は伸びるが、ヒットに左右される。純現金は時価総額の4割あるが、現金の戻り方は鈍い。
利益が会社予想の7%台の営業利益率を超えて伸びるかが、割安の幅を決める。現金の戻りが鈍いことを割り引いても、やや割安と筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、現金が時価総額の4割を占める会社は、事業の値段が安く見える。ただしその現金が株主に戻るかが問題で、この会社の配当は利益の3割台にとどまる。
事業はアニメ・配信が育ち、放送が縮む組み合わせで、ROEは資本コストに届かない。事業の価値に現金の戻りを割り引いて足すと、今の値段を2割ほど上回る。安全域は厚くはないが、ある。還元の数字が出れば、上振れの余地が広がる。放送の縮みが速まる場合だけは注意が要る。
何で稼ぐ会社か
売上の6割強は地上波・BSの放送で、広告枠の販売が中心だ。残りの3割強がアニメ・配信で、人気アニメの製作・ライセンス、海外への番組販売、配信権の売上が入る。2026年3月期の営業利益は、放送が55億円、アニメ・配信が66億円で、すでにアニメ・配信が上回っている。
キー局の中では視聴者層が絞られ、広告単価は他局より低い。その代わりアニメの権利を多く持ち、海外売上比率を高める計画を掲げている。
通販やイベントなどの小さな事業が、残りの1割弱を占める。局の売上の大半は広告とライセンスで、景気に左右されやすい。
優良さと弱いところ
堀は、アニメの権利と、経済や情報番組で築いた局のブランドだ。ただし地上波の放送免許は参入を防ぐ一方、広告の価値そのものはネット広告に奪われている。ネット側は成長し、放送側は縮む。
資本面は堅く、純現金は396億円、自己資本比率は69%ある。経営は慎重で、財務の不安はない。弱みは資本効率で、ROEは過去10年の中央値で6%台と資本コストに届かない。
筆者は堀を普通と見る。現金を事業に使い切れない点が、価値の上限を決めている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のテレビ広告費は約1.8兆円で横ばいだが、ネット広告は総広告費の過半に達した。テレビは長い目で縮む前提で見る。放送各社は、配信(TVer)、不動産、通販など非広告の収益を伸ばしている。テレビ東京はアニメで他局と差をつけている。ただし作品の寿命は短く、次のヒットを出し続ける必要がある。
アニメは世界で需要が伸び、日本の作品は海外の配信会社に売れる。Netflixなどが自前の制作を強めれば、日本の作品の単価は圧力を受ける。
景気後退では広告が2〜3割落ちた実例がある。10年の悪い筋書きは、ネット広告への移行が想定より速まるケースだ。
資本政策と M&A
配当は2026年3月期に増えたが、2027年3月期は据え置きの予想だ。利益に対する配当の割合は3割台にとどまる。中期経営計画は、2027年3月期の売上1,646億円・営業利益115億円・最終利益83億円とROE7.7%を掲げる。株主還元の具体的な数字(配当性向、自社株買い)は確認できなかった。
純現金は396億円と時価総額の4割あり、どう使うかが焦点になる。大株主の上位10社で65%ほどを持ち、外から還元を迫る力は強くない。
見通しをどちらに寄せたか
上側と下側の確率は同じに置いた。アニメ・配信は上振れの余地があるが、放送の縮みは構造的で、現金の戻りも遅い。上にも下にも大きく寄せず、中央を厚くした。その結果、価値は今の時価総額を2割ほど上回った。確かめるべきは配当性向の引き上げが数字で示されるかどうかだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,704 円1,791 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,134 円303 億円)。 今の値に割り戻すと 4,307 円1,151 億円、今との差 +25.2%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 6.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 12,178 円3,254 億円 | 1,684 円450 億円 | +303.0% | +15.0% | 1,386 円370 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,428 円2,519 億円 | 1,347 円360 億円 | +213.2% | +12.1% | 2,155 円576 億円 |
| 中立 | 40% | 6,737 円1,800 億円 | 1,235 円330 億円 | +131.7% | +8.8% | 3,189 円852 億円 |
| やや悲観 | 20% | 3,970 円1,061 億円 | 823 円220 億円 | +39.3% | +3.4% | 959 円256 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,125 円301 億円 | 374 円100 億円 | −56.4% | −8.0% | 150 円40 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,704 円1,791 億円 | 1,134 円303 億円 | +127.9% | +8.6% | 7,839 円2,094 億円 |
今の株価時価総額 3,440 円919 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:アニメ・配信が柱になる 利益 166 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 12,178 円3,254 億円
広告は景気とネット広告に押されつつも、地上波は視聴の質で踏みとどまる。アニメ・配信は海外のライセンスと配信権の売上が伸び、利益の柱が太くなる。海外売上の比率も上がる。営業利益率は9%に届き、配当も増える。余った現金の一部は自社株買いで戻る。株価の評価も上向く。
- 地上波・BS放送(広告):数量 4,653(広告販売量(千口・推定。1口=30秒枠1回相当))× 価格 24(1口あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,117 億円・営業利益 73 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- アニメ・配信:数量 4,184(ライセンス・配信の取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,121 億円・営業利益 157 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- その他(通販・イベントなど):数量 552(取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 148 億円・営業利益 4 億円。数量・単価・営業利益率の推定
倍率:事業の ROE 10.3% で、k 6.75% との関係から式の上限に置いた。
確率:アニメ・配信の海外展開と配信権の単価上昇が重なる筋書き。作品のヒットが続く前提で、確率は低めに置く。
やや楽観 20% やや楽観:配信が放送の縮みを埋める 利益 132 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 9,428 円2,519 億円
地上波の広告は緩やかに縮むが、アニメ・配信が穴を埋めて余りある。営業利益は会社予想の7%台を超えて8%に近づく。ライセンスの単価も物価並みに上がり、海外の売上比率が高まる。余った現金の一部は還元に回り、配当も着実に増える。放送の赤字化は避けられる。
- 地上波・BS放送(広告):数量 4,394(広告販売量(千口・推定。1口=30秒枠1回相当))× 価格 23(1口あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,011 億円・営業利益 56 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- アニメ・配信:数量 3,792(ライセンス・配信の取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,016 億円・営業利益 132 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- その他(通販・イベントなど):数量 506(取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 136 億円・営業利益 1 億円。数量・単価・営業利益率の推定
倍率:事業の ROE 8.5% で、k 6.75% との関係から式の上限に置いた。
確率:アニメ・配信が放送の縮みを十分に埋める筋書き。会社の中期計画の延長にある。
中立 40% 中立:放送は縮み、アニメ・配信が伸びる 利益 97 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 6,737 円1,800 億円
地上波の広告は数量が減り、単価もネット広告との競争で物価に追いつかない(10年で1.1倍)。アニメ・配信は実質で年2〜3%伸び、利益の6割を担う。10年後の営業利益は今の1割強増える。全体の営業利益率は7%弱と過去の山の水準にとどまる。配当は利益の3割台で増える。余った現金はゆっくり積み上がり、株主への戻りは限られる。
- 地上波・BS放送(広告):数量 4,136(広告販売量(千口・推定。1口=30秒枠1回相当))× 価格 22(1口あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 910 億円・営業利益 41 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- アニメ・配信:数量 3,269(ライセンス・配信の取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 876 億円・営業利益 101 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- その他(通販・イベントなど):数量 460(取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 123 億円・営業利益 0 億円。数量・単価・営業利益率の推定
倍率:事業の ROE 6.8% で、k 6.75% との関係から式の上限に置いた。
確率:上側と下側の確率は同じ。放送は縮み、アニメ・配信が伸びる。
やや悲観 20% やや悲観:広告の縮みが速まる 利益 64 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 3,970 円1,061 億円
ネット広告への移行が速く、地上波の広告は数量が3割減る。単価も上がらない。アニメ・配信は伸びても単価に競争圧力がかかる。営業利益率は4%台に戻り、配当は据え置きに近い。余った現金は積み上がるが、戻りは鈍い。株主から見れば、事業も資本も冴えない10年になる。
- 地上波・BS放送(広告):数量 3,619(広告販売量(千口・推定。1口=30秒枠1回相当))× 価格 20(1口あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 724 億円・営業利益 22 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- アニメ・配信:数量 2,877(ライセンス・配信の取引量(千件相当・推定))× 価格 26(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 748 億円・営業利益 75 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- その他(通販・イベントなど):数量 414(取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 111 億円・営業利益 0 億円。数量・単価・営業利益率の推定
倍率:ROEが k に届かず、放送の縮みが残る。稼ぐ力の値(1÷k)より低く置いた。
確率:ネット広告への移行が速まり、アニメの単価も下がる筋書き。上側と同じ確率。
悲観 10% 悲観:広告とヒットが同時に崩れる 利益 7 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,125 円301 億円
ネット広告への流出が止まらず、地上波は赤字に近づく。アニメの人気作が続かず、配信権の単価も下がる。海外の配信会社の自前制作に押される。利益は今の1割以下に細り、局の資産整理を迫られる。もう優良とは言えない会社になり、床は純現金と保有資産になる。
- 地上波・BS放送(広告):数量 2,585(広告販売量(千口・推定。1口=30秒枠1回相当))× 価格 18(1口あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 465 億円・営業利益 −14 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- アニメ・配信:数量 2,354(ライセンス・配信の取引量(千件相当・推定))× 価格 22(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 518 億円・営業利益 36 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- その他(通販・イベントなど):数量 368(取引量(千件相当・推定))× 価格 27(1件あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 99 億円・営業利益 −2 億円。数量・単価・営業利益率の推定
倍率:稼ぐ力が測れない。床は純現金396億円に戻り方0.75を掛けた額で、今の自己資本の3割弱に置いた。
確率:構造的に負ける筋書き。広告の縮みとヒットの途切れが重なる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
地上波・BS放送(広告)
広告枠の販売と番組販売。
| 数量広告販売量(千口・推定。1口=30秒枠1回相当) | 価格1口あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,170 | 20 | 1,034 | 56 |
| 10 年後 中立 | 4,136 | 22 | 910 | 41 |
取り方:放送の売上1,034億円と営業利益55億円(決算の報道)を、口数と単価に分けた推定。開示は金額のみ。
アニメ・配信
アニメ製作、ライセンス、配信権、海外販売。
| 数量ライセンス・配信の取引量(千件相当・推定) | 価格1件あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,615 | 20 | 523 | 66 |
| 10 年後 中立 | 3,269 | 27 | 876 | 101 |
取り方:アニメ・配信の売上523億円と営業利益66億円(決算の報道)を、件数と単価に分けた推定。
その他(通販・イベントなど)
小さな非放送事業。
| 数量取引量(千件相当・推定) | 価格1件あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 460 | 20 | 92 | 0 |
| 10 年後 中立 | 460 | 27 | 123 | 0 |
取り方:全社の売上1,649億円から2事業を引いた残りの約92億円。営業利益はほぼゼロで、全社の調整(約-7億円)は調整欄に入れた推定。
リスクと懸念
ネット広告への移行
広告主の予算がネットに移る速度が想定より速いと、地上波の広告収入が10年で3〜5割縮む。放送の利益は赤字近くまで落ちる。
アニメのヒット依存
アニメ・配信の利益は人気作に左右される。主力の作品が終われば、数年は利益が落ちる。海外の配信会社が自社制作を強めれば、単価にも圧力がかかる。
現金が戻らない
純現金は時価総額の4割ある。配当が利益の3割台にとどまり、自社株買いの方針も確認できない。使い道を誤れば価値が減る。
支配株主と少数株主
上位10社が65%ほどを持つ。少数株主が還元を求める力は弱く、買収や再編の価格に左右される面がある。
今後の分かれ目
- アニメ・配信の営業利益が2期続けて増える
- やや楽観の筋書きに近づき、割安へ傾く。
- 自社株買いや配当性向の引き上げが数字で示される
- 現金の戻り方が上がり、価値が厚くなる。
- テレビ広告費が前年を2割以上下回る
- 悲観に寄る。放送の赤字と資産整理を見る。
- 親会社などによる買収が出る
- 事業の価値を超える価格になるかを見る。
見ておくもの
- アニメ・配信の営業利益
- テレビ広告費
- 配当性向・自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(ROEがk以下なら1÷k)と筋書きごとのROEで置いた。市場のPERは使っていない。10年先の利益は中期計画と放送の縮みから積み、今の値段に合わせていない。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。