結論
日本一ソフトウェアは「魔界戦記ディスガイア」などの独自ゲームと、北米の販売子会社NIS Americaで稼ぐ中堅ゲーム会社である。筆者の結論は「やや割高」だ。2026年7月発売の「ほの暮しの庭」は約1カ月で国内販売20万本に達し、2期連続の営業赤字から立ち直る道筋を示した。しかし一度のヒットを10年間の恒常的な稼ぐ力とみなすことはできない。
2026年3月期は売上高36億円、営業損失4億円だったが、翌期の会社予想は新作の好調を受けて売上高54億円、営業利益7億円へ引き上げられた。この急変こそ企業の性質を表している。開発した作品が売れれば限界利益は大きいが、発売延期や不作の年も人件費と海外販売網の固定費は残る。国内20万本という目標を達成できた事実は評価しつつ、同水準の新作を繰り返せるかを分けて考えたい。
財務には救いがある。決算上の現金同等物よりも、3カ月超の定期預金を含む現金・預金の方が大きい。それでもオーナー色の強い株主構成の下で還元は少なく、学生寮にも資本が向かう。2036年の5つの筋書きを株式の希薄化とともに割り引くと現在価値は約53億円となり、現時点の時価総額約67億円を約21%下回る。事業の再生可能性を否定するのではなく、見通せない次のヒットに対して十分な安全域がない、という評価である。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主にとって、最初の問いは「10年後も遊びたい人がいるか」である。娯楽そのものは残るし、ディスガイアの深い育成や夜廻の独特な世界観には模倣しにくいものがある。しかし顧客が毎年定額を払う仕組みではなく、古いIPの寿命を新しいIPの誕生が上回る保証はない。「ほの暮しの庭」の20万本は創作力を測る良い試験結果だが、合格が1度では将来のオーナー利益を断言できない。
利益の質を測るときは研究開発と販売網の維持費を見逃せない。ゲーム制作費は売上に先立ち発生し、企画の中止や延期にも現金を使う。2021~2022年の高利益率は魅力的だが、その後の2年の赤字と合わせなければ実力を過大に数える。学生寮は建物の償却と借り入れの金利を伴い、手元の純現金を見かけほど自由な資本にしない。10年先の再投資利回りは、売上が伸びても資本コストを少し下回る可能性がある。
現金と預金が約64億円あり、負債控除後も厚いことは価値の下支えとなる。ただし銀行に置いた預金、満期の長い債券、事業用資金をすべて株主が今日受け取れるわけではない。少数株主は配当の増額や資産売却を決定できず、管理側の資本配分を10年監視する必要がある。したがって適切な安全域は、再ヒットへの希望と貸借対照表の数字の中間ではなく、創作の反復性と株主への現金還元が証明されて初めて生まれる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は家庭用ゲームの企画・開発・販売である。国内では「魔界戦記ディスガイア」「夜廻」「風雨来記」などの作品をSwitch、PlayStation、Steamへ送り出す。パッケージの発売時にまとまった収入を得るほか、ダウンロード、追加コンテンツ、旧作の再販売、ライセンスも重なる。2026年3月期には国内で4本の新作を販売したが、タイトル数の減少と採算悪化でエンターテインメント事業の利益はほぼ消えた。
海外子会社NIS Americaは北米・欧州で自社作品を広め、他社タイトルの現地向け出版や販売も担う。2026年3月期の同社単体売上は約28億円で、グループの成長と収益の振れの多くが海外の棚と配信サイトに結び付いている。販売先には任天堂、ソニーの海外部門などが並ぶ。国内の知名度だけでは測れない一方、ストアの手数料、発売日、返金や値引きの条件を自社で完全には決められない。
開示上の報告区分は「エンターテインメント」と「学生寮・その他」の二つである。後者は岐阜県内の大学向け学生寮3件を運営し、年間売上は約1.2億円にすぎないが、建物と土地の資本を多く使う。受託開発も手掛けるものの、会社は受注高に重要性がないとして数量を公表していない。本試算ではゲーム販売と受託開発を別の収益構造として扱い、受託開発の規模と件数は小さいという仮置きであることを明示した。
優良さと弱いところ
この会社の堀、すなわち他社が容易に奪えない強みは、濃いファンが長年追いかける独自の作風と、海外の小規模な日本製ゲームを販売できる現地組織である。ディスガイアは繰り返し新作を出せる財産であり、「夜廻」の制作陣から生まれた「ほの暮しの庭」が新しい客層にも届いた点は、作品づくりの力が残る証拠だ。ブランドは実在するが、日々使わないと困る業務基盤ではない。次作への乗り換え費用もなく、消費者は他社作品へ容易に移る。
価格支配力は限定的である。新作には相応の店頭価格を付けられるが、旧作は値引きや配信サイトの販促に左右される。数年にわたる全商品の実現単価上昇や解約しにくさを示す開示も見当たらない。カプコンのように年間数千万本を売る規模はなく、開発人員154人という制約の下では、ヒットが1本欠けるだけで利益率が大きく揺れる。
2016年以降に自己資本は大きく増えたが、直近2期は営業赤字に転じ、増分資本が継続して高い利回りを稼いだとは言えない。学生寮の資産は約10億円に上り、事業損失を出しており資本コストを下回る。財務の純現金は厚くても、株主へ返されなければ投下資本利益率を薄める。堀は「普通」と評価し、強い持続的独占を前提にしない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
「ファミ通ゲーム白書2026」による2025年の世界ゲーム市場は32.1兆円、国内は2.59兆円に達した。ただし市場の過半はスマートフォン向けであり、日本一ソフトウェアの主戦場は家庭用ゲームとPCである。CESAが示した2024年の世界の家庭用・PC市場は合わせて約12.6兆円。日本一ソフトウェアのゲーム売上約35億円をこの市場と比べた比率は約0.03%にすぎず、卸売売上と消費者支出の違いがあるため厳密な市場シェアではない。
カプコンは2026年3月期に世界で5,907万本を販売した。これに対し、日本一ソフトウェアは年間の販売本数を開示せず、本分析の単価から逆算した約86万本はあくまで売上換算である。両社の数字を同じ品質の実績と扱わず、規模の隔たりを見る参考にとどめる。国内のニッチ作品では日本ファルコム、アイディアファクトリー、コーエーテクモの各ブランドと競い、海外では大量の独立系作品や大手パブリッシャーとも棚と時間を奪い合う。これら各社の同じ狭い作品群でのシェアは統一的に開示されていない。
10年では世界のゲーム消費額が名目年4~6%ほど伸びても、物価上昇3%を除いた本数の伸びはもっと緩やかだと見る。国内人口の減少と開発費の大型化に対し、SteamとSwitch 2による海外流通の裾野拡大が相殺する。中立では自社の販売本数換算が86万から123万へ増え、実現単価は物価よりわずかに低い伸びとなる。これは世界市場を独占する予測ではなく、新作IPを時折生みながらニッチ市場でシェアを少し上げる予測である。生成AIは低予算作品の供給を急増させ、制作・翻訳の費用を下げると同時に作品の発見されやすさを損なう。
資本政策と M&A
2016年にはフォグを約0.13億円で子会社化し、同社は2022年に清算されたが「風雨来記」のブランドは継続した。2018年には学生寮運営会社を設立し、海外開発やグラフィック制作の子会社にも資金を投じてきた。大型買収に過度な値を払った形跡は乏しいものの、学生寮は資産約10億円に対して赤字であり、ゲーム制作に使う資本と比べて利回りを示せていない。将来の新寮や不動産取得には明確な投資回収基準が欲しい。
有価証券報告書の中期的な数値目標は「国内販売20万本を超えるIPの創出」であり、2026年の新作はそれに到達した。売上高、営業利益、ROEについて中期計画の数値目標は示されていない。配当性向、DOE、総還元性向、自社株買いの金額についても数字の約束なし。近年の年間配当総額は約0.25億円、DOEは0.3%で、5年間実質的な増配も大型自社株買いもない。株主優待制度もない。
筆頭株主ローゼンクイーン商会が46.3%を持ち、上位10株主の合計は約73.8%である。余剰現金の戻り方は、支配の強さと還元の乏しさがそろうため50%にとどめた。また2025年付与の新株予約権18.43万株は2028年以降に行使され得る。さらに旧制度10万株は2027年まで行使可能であり、楽観時の希薄化も考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
「ほの暮しの庭」は国内20万本という中期目標を発売約1カ月で達成した。しかも既存のディスガイアの続編ではなく、新しい生活シミュレーション作品である。夜廻の制作人材が異なるジャンルに持ち味を広げられるなら、会社は固定ファンだけの小さな出版業者で終わらない。Switch 2とSteamをまたぐ発売は、今後の旧作販売にも広がる販路である。2027年3月期の営業利益予想が7億円規模に引き上げられたことは、成功時の追加売上が固定費を大きく超える証拠でもある。
NIS Americaは小規模な日本製作品を北米・欧州へ届ける現地機能を長年蓄積しており、国内IPの成長余地だけでなく他社作品の販売機会を持つ。海外で作品を知ったユーザーが続編と旧作を買えば、一本の開発投資から何年も売上が生まれる。自社制作、海外販売、キャラクター活用を一体で回せる点に価値がある。仮にAIで試作や翻訳の作業負担が軽くなっても、作品の独自性と販路の強さがなければ収益は増えない。
財務が厚いことも見逃せない。現金・預金は約64億円で、定期預金を除いた現金同等物だけを見てはいけない。債務はあるが、急な新作延期で直ちに事業を畳むような状態ではない。大規模買収への依存も乏しく、既存IPを再利用して開発案件を増やせば、10年後は複数タイトルから安定的に稼げる会社になり得る。株主還元の姿勢が変われば現金資産の評価も上がる。
慎重な見方
この会社の最大の問題は、利益が良い年と悪い年で別の会社に見えることだ。2022年3月期には売上高57億円に対し営業利益16億円を稼いだが、2026年3月期には売上高36億円で4億円の営業赤字になった。次の1本が当たったという事実だけで、開発人員154人の限界や発売本数の不足は解消しない。「ほの暮しの庭」の20万本もパッケージ受注を含む数字で、流通在庫がすべて最終消費者に売れたこととは異なる。
強い固定客はいても競争相手は無数にいる。カプコンが世界で毎年数千万本を売り、独立系スタジオはSteamで大量の新作を出す。生成AIが試作品を安く作れる時代には、制作物そのものの希少性は薄れ、広告費とおすすめ欄の争奪が激しくなる。海外売上が多いことは強みであると同時に、任天堂、ソニー、Valveなどの配信・流通条件から独立できないことも意味する。自社IPを保有しても、顧客の発見まで自社で支配する堀はない。
資本配分にも不安が残る。学生寮では1億円強の売上を得るのに約10億円の事業資産を使い、2026年3月期は赤字だった。会社は少数株主が現金の用途を指図しにくい株主構成で、配当はほぼ固定、自社株買いも目立たない。長期の純資産には為替換算の影響も含まれる。現金同等物だけでなく長期債券もあるが、債券は満期や金利で価値が動く。赤字の事業に資金を注ぎ続ければ、純現金という安全網も時間とともに痩せていく。
どちらに重みを置いたか
新しいIPの国内20万本達成によって回復の可能性は実際に高まったが、継続的な発売能力と余剰資本の利回りの証拠はなお弱い。強気側34%、慎重側36%、中立30%としたのは、実証されたヒットを軽視せず、同時に2期連続の営業赤字と学生寮の資本効率、少数株主への還元の乏しさを無視しないためである。受託開発のAI代替は数量と長期成長率で既に反映し、確率や資本コストへ同じ理由を重ねていない。現在価値が時価総額を約21%下回る以上、結論はやや割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 2,137 円108 億円(+ 還元の換算額還元の合計 48 円2 億円)。 今の値に割り戻すと 1,046 円53 億円、今との差 −10.5%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 5,176 円262 億円 | 94 円5 億円 | +350.8% | +16.5% | 632 円32 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,173 円161 億円 | 63 円3 億円 | +176.8% | +10.9% | 712 円36 億円 |
| 中立 | 30% | 1,696 円86 億円 | 48 円2 億円 | +49.1% | +4.1% | 523 円26 億円 |
| やや悲観 | 23% | 896 円45 億円 | 31 円2 億円 | −20.7% | −2.3% | 213 円11 億円 |
| 悲観 | 13% | 790 円40 億円 | 10 円1 億円 | −31.5% | −3.7% | 104 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,137 円108 億円 | 48 円2 億円 | +86.9% | +6.5% | 2,184 円111 億円 |
今の株価時価総額 1,169 円59 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 12% 新規IPが定着し海外でも大ヒット 利益 19 億円 · PER 14.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 5,176 円262 億円
「ほの暮しの庭」の後にも新しい世界観が海外で通用し、ディスガイアの固定客と新しいファンが共存する。国内20万本超のIPを何度も生み、Switch 2やSteamでの旧作販売も積み上がる。国内・海外のゲーム販売本数換算は220万へ広がり、値引きの少ない高評価作品の構成比が上がる。販売収入が増えても受託制作はAIエージェントで案件数が減り、成功の根拠には数えない。
NIS Americaの販路が他社作品でも成長し、マーケティング費を上回る売上が積もる。ゲーム販売の利益率は過去の好調期に近づくが、制作費や本社費も増える。学生寮が黒字化する反面、さらなる建設には資金が要る。年ごとの波があっても10年後は複数IPで稼ぐ構造となり、希薄化と現金滞留の不利を利益の大きさが上回る。
- 独自IP・海外パブリッシング(推計分割):数量 220(家庭用・PCゲームの販売本数換算(万本・年、会社は総本数非開示))× 価格 5,800(1本換算の連結実現売上(円、ストア手数料・値引き等控除後の推計))→ 売上 128 億円・営業利益 31 億円。220万本換算、平均実現単価5800円。IPの成功が繰り返され値引き比率が下がる。
- 受託開発・制作支援(推計分割):数量 1.6(1年に受ける開発案件数(件、実績非開示の仮置き))× 価格 0.53(1件当たり連結収入(億円、工数契約の推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替で案件数は現状の0.8倍。価格は高付加価値案件に限っても名目1.325倍まで。
- 学生寮・その他:数量 4.0(運営する大学学生寮の件数(件))× 価格 0.58(学生寮1件当たり年間売上(億円、その他収入込み))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。4件の運営、稼働率の改善と価格改定。
倍率:事業の純利益は全社の純利益19.00億円から余剰現金34.0億円の税後利息1.4%相当を除く。事業自己資本は178.0−34.0億円、ROE12.86%。資本コスト7.75%、普通の堀の超過収益持続割合1/2からRONIC10.31%を求め、2036年後の名目g2%で(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を採用。ROEがk以下なら1÷kを上限とする。長期の企業価値には現金の戻り方0.5を別途加え、現在市場のPER・PBRからは決めない。
確率:20万本級の新作を複数年にわたり再現し、海外販路と高単価販売が同時に伸びる場合。2026年の1作品の達成で可能性は生じたが、連続ヒットの証拠はまだ乏しく12%。
やや楽観 22% 国内の成功を海外販売へ広げる 利益 12 億円 · PER 13.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,173 円161 億円
新しいヒットが数年おきに生まれ、ディスガイアなどのシリーズが販売の底を支える。国内での販売20万本級の成功を海外にも展開でき、NIS Americaの現地流通と販売促進の費用が販売本数の拡大に結び付く。ゲーム販売本数換算は165万へ増え、単価はデジタルの旧作値引きを織り込んでも物価上昇程度には改善する。
開発人員を急拡大しないので制作の品質は維持され、海外パブリッシングの規模の利益も得る。一方、主力IPには発売年の山谷が残り、受託制作はAIに代替され数量が減る。学生寮の採算は少し改善するが、劇的な利益貢献はない。利益の大半は次の制作と流通運営に使い、株主還元はなお小幅という10年である。
- 独自IP・海外パブリッシング(推計分割):数量 165(家庭用・PCゲームの販売本数換算(万本・年、会社は総本数非開示))× 価格 5,450(1本換算の連結実現売上(円、ストア手数料・値引き等控除後の推計))→ 売上 90 億円・営業利益 21 億円。165万本換算。国内のIP成功が海外と旧作需要につながり実現単価も上がる。
- 受託開発・制作支援(推計分割):数量 1.5(1年に受ける開発案件数(件、実績非開示の仮置き))× 価格 0.53(1件当たり連結収入(億円、工数契約の推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。受託件数0.75倍、1件売上1.325倍。AI代替で量が伸びない。
- 学生寮・その他:数量 4.0(運営する大学学生寮の件数(件))× 価格 0.54(学生寮1件当たり年間売上(億円、その他収入込み))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。稼働と寮費が緩やかに改善し4件となる。
倍率:事業の純利益は全社の純利益11.70億円から余剰現金32.0億円の税後利息1.4%相当を除く。事業自己資本は150.0−32.0億円、ROE9.54%。資本コスト7.75%、普通の堀の超過収益持続割合1/2からRONIC8.64%を求め、2036年後の名目g2%で(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を採用。ROEがk以下なら1÷kを上限とする。長期の企業価値には現金の戻り方0.5を別途加え、現在市場のPER・PBRからは決めない。
確率:次のIPが国内で成功した実績とNIS Americaの販路に照らし、海外本数の増加は十分考えられる。ただしタイトルごとの収益変動は残るため22%。
中立 30% 新作の当たり外れを均す成熟 利益 6 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,696 円86 億円
「ほの暮しの庭」の成功を足掛かりに新規IPの開発は続くが、毎年大ヒットするわけではない。ディスガイアの安定した需要と海外での他社作品販売が新作の不作を和らげる。ゲーム販売本数換算は86万から123万に拡大し、単価は旧作割引の増加で物価3%の10年累計よりやや伸びが鈍る。結果として2027年の業績予想を超える売上は確保するが、特別な大成長企業にはならない。
受託制作はAIエージェントに代わられる仕事が増え、案件数は2件から1.3件相当となる。学生寮は増設せず入居率と賃料で損益均衡に持ち込むが、資本を十分に稼がせるほどではない。本社の賃金・外注・流通管理費も物価とともに増える。株主還元が弱いため自己資本だけが積み上がり、2036年のROEは過去の好況を下回る。
- 独自IP・海外パブリッシング(推計分割):数量 123(家庭用・PCゲームの販売本数換算(万本・年、会社は総本数非開示))× 価格 5,100(1本換算の連結実現売上(円、ストア手数料・値引き等控除後の推計))→ 売上 63 億円・営業利益 13 億円。2026年の本数換算86万から年約3.6%の実質増。単価は10年で1.29倍でCPIの1.34倍より低い。
- 受託開発・制作支援(推計分割):数量 1.3(1年に受ける開発案件数(件、実績非開示の仮置き))× 価格 0.50(1件当たり連結収入(億円、工数契約の推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替により案件数0.65倍、価格1.25倍。以後の名目gは0%。
- 学生寮・その他:数量 3.0(運営する大学学生寮の件数(件))× 価格 0.53(学生寮1件当たり年間売上(億円、その他収入込み))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。3件を維持し1件売上は物価を上回るが建物維持費で損益均衡。
倍率:事業の純利益は全社の純利益6.10億円から余剰現金32.0億円の税後利息1.4%相当を除く。事業自己資本は129.0−32.0億円、ROE5.83%。資本コスト7.75%、普通の堀の超過収益持続割合1/2からRONIC6.79%を求め、2036年後の名目g2%で(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を採用。ROEがk以下なら1÷kを上限とする。長期の企業価値には現金の戻り方0.5を別途加え、現在市場のPER・PBRからは決めない。
確率:国内20万本の成功を無視せず、10年間にヒットの再現と失敗が交互に来ると考える。市場の名目拡大と海外の強みを認めつつ、単価を物価未満に抑えた中心的な30%。
やや悲観 23% 新規ヒットが続かず採算は薄い 利益 0 億円 · PBR 0.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 896 円45 億円
2026年のヒットは旧作販売を支えるものの、同水準の新しいIPが生まれず、発売延期と販促費の増加で売上が伸びない。世界のコンソール市場は名目では拡大しても、大手と独立系作品の供給が厚く、会社の販売本数換算は79万に減る。店頭価格は上がるがデジタル旧作の割引が増え、実現単価は4700円にとどまる。
NIS Americaの販売機能は続き、事業は消滅しない。ただしゲーム部門は本社費を支えるほど稼げず、受託制作もAIによる発注減で売上が縮む。学生寮は減価償却負担が残り小幅な赤字である。利益の見込みから価値を測りにくくなるため、債務控除後に換金可能な現預金・債券や事業資産を慎重に見積もる。増配は難しく、自己資本はほぼ横ばいとなる。
- 独自IP・海外パブリッシング(推計分割):数量 79.0(家庭用・PCゲームの販売本数換算(万本・年、会社は総本数非開示))× 価格 4,700(1本換算の連結実現売上(円、ストア手数料・値引き等控除後の推計))→ 売上 37 億円・営業利益 5 億円。国内IPの新作が続かず相対シェアが低下、実現単価はコストをカバーし切れない。
- 受託開発・制作支援(推計分割):数量 1.1(1年に受ける開発案件数(件、実績非開示の仮置き))× 価格 0.48(1件当たり連結収入(億円、工数契約の推定))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AI代替で数量0.55倍、契約単価1.2倍でも利益なし。
- 学生寮・その他:数量 3.0(運営する大学学生寮の件数(件))× 価格 0.50(学生寮1件当たり年間売上(億円、その他収入込み))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。学生寮の空室と修繕費で赤字が残る。
倍率:営業利益が本社費をほぼ賄えず純利益も悪化するためPERは事業の価値を表せない。現在の自己資本78.2億円をPBRの分母とし、純現金・長期債券の処分可能額、契約債務、学生寮の売却費用、赤字期の現金流出を差し引いた47.0億円を全社株主価値とする。2036年まで積み上がる自己資本に谷のPBRを掛けず、余剰現金も二重計上しない。
確率:小規模な開発陣の発売サイクルが崩れ、海外市場で宣伝費が先行する場合。2期連続赤字や作品集中リスクの実績から23%を見込む。
悲観 13% IPの競争力が衰え事業縮小 利益 −3 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 790 円40 億円
ディスガイアの固定客が高齢化し、新規IPへの投資も次々と外れる。AI生成コンテンツの増加と海外大手の販促に埋もれ、NIS Americaの第三者タイトル販売も細る。ゲーム販売本数換算は47万へ落ち、実現単価は旧作値引きによって4200円にしかならない。開発人員の雇用とブランド維持のための支出を短期間で切れず、営業損失が恒常化する。
受託開発はAIエージェントに仕事を奪われ、学生寮も一部を閉じて建物の売却費用がかかる。10年間の赤字と清算費用によって現金は減り、長期債券には価格変動の損失も生じる。ただし出発点の預金は厚い。大規模な債務超過や倒産までは仮定せず、損失を差し引いた純現金と売却可能資産で株主資産の下限を測る。増配も自社株買いもなく、旧来の成長企業とは呼ばれなくなる。
- 独自IP・海外パブリッシング(推計分割):数量 47.0(家庭用・PCゲームの販売本数換算(万本・年、会社は総本数非開示))× 価格 4,200(1本換算の連結実現売上(円、ストア手数料・値引き等控除後の推計))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。IPの需要と棚を失い、本数は2026年基準の55%、実現単価の上昇も小さい。
- 受託開発・制作支援(推計分割):数量 0.9(1年に受ける開発案件数(件、実績非開示の仮置き))× 価格 0.44(1件当たり連結収入(億円、工数契約の推定))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。AIエージェントで案件数0.45倍まで縮小し、発注側が値上げを認めない。
- 学生寮・その他:数量 2.0(運営する大学学生寮の件数(件))× 価格 0.48(学生寮1件当たり年間売上(億円、その他収入込み))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。寮を1件整理し、残る2件にも修繕費が残る。
倍率:営業利益が本社費をほぼ賄えず純利益も悪化するためPERは事業の価値を表せない。現在の自己資本78.2億円をPBRの分母とし、純現金・長期債券の処分可能額、契約債務、学生寮の売却費用、赤字期の現金流出を差し引いた40.0億円を全社株主価値とする。2036年まで積み上がる自己資本に谷のPBRを掛けず、余剰現金も二重計上しない。
確率:新しいゲームが数年間連続して売れず、固定費が残ったまま海外流通の競争力も下がる複合的な失敗。財務の厚みから破綻を既定視しないが、単独の作品への依存は大きく13%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
独自IP・海外パブリッシング(推計分割)
報告上のエンターテインメント事業の大部分。国内新作・旧作・DL販売・NIS Americaによる他社作品販売とライセンスを、パブリッシャー受取単価の本数換算で測る。
| 数量家庭用・PCゲームの販売本数換算(万本・年、会社は総本数非開示) | 価格1本換算の連結実現売上(円、ストア手数料・値引き等控除後の推計) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 86.0 | 3,960 | 34 | 0 |
| 10 年後 中立 | 123 | 5,100 | 63 | 13 |
取り方:2026年有報のエンターテインメント売上34.85742億円から、重要性なしとされる受託開発の仮推定0.80億円を除いた34.05742億円を対応させる。グループ販売総本数・平均卸値は非開示であり、国内4新作と米子会社NIS Americaの外部売上約27.94億円、価格公表済みの「ほの暮しの庭」税抜7,200~8,200円を手掛かりに、店頭売価より相当低い平均連結受取単価約3,960円で割った86万本相当である。これは実販売本数でなくIP利用料と他社作品流通も含む本数換算。国内20万本の実績は2026年7月発売の次期新作であり、2026/03の実績本数には混入させない。営業利益はエンターテインメント利益0.38195億円から受託分の仮配賦を控除。
受託開発・制作支援(推計分割)
他社向けゲーム開発の受託。人月・工数で価値が決まる小規模な部分として、AIエージェント代替の対象とする。
| 数量1年に受ける開発案件数(件、実績非開示の仮置き) | 価格1件当たり連結収入(億円、工数契約の推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 0.40 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 0.50 | 1 | 0 |
取り方:有価証券報告書は受託開発の存在を記す一方「受注高及び受注残高に重要性はない」と明記。案件数・金額の公表がないため2件×各0.4億円=0.8億円(エンターテインメント事業の約2.3%)と分析上だけ仮置きしたもので、実績の断定ではない。PROMPT_AI_RISKの人月・工数型に分類し、10年中立の数量は2件→1.3件(0.65倍)、単価は0.4→0.50億円(1.25倍)、2036年より先の名目成長は0%。会社全体の主力ゲームIP販売とは分けた。
学生寮・その他
岐阜県内の大学学生寮3件の運営等。建物を使って賃料等を受け取り、減価償却と建物更新の投資を負担する。
| 数量運営する大学学生寮の件数(件) | 価格学生寮1件当たり年間売上(億円、その他収入込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 0.40 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 0.53 | 2 | 0 |
取り方:2026年有報の学生寮・その他売上120,889千円、セグメント損失21,869千円。2026年8月四半期短信が岐阜県内の学生寮3件を明示するので、1件当たり年0.403億円(その他を含む)と逆算。入居者数と月額寮費は開示されず、3件×年間売上の代理指標である。償却費は年間56,347千円で、既存資産の償却を物価に比例して増やさず、新築時だけ更新投資の高騰を考慮する。
リスクと懸念
ヒットの再現性と開発能力の上限
「ほの暮しの庭」の国内20万本は明確な成功だが、その数字にはパッケージ版の受注が含まれ、すべてが最終購入者へ販売済みとは限らない。会社は開発人員154人と開示しており、数本の延期や不振が固定費の回収を妨げる。新作3年連続の販売実績と、旧作の値引き後収益が必要である。
海外販路とプラットフォームの交渉力
NIS Americaは有力な販売子会社だが、売上の多くを米欧で稼ぎ、主要な取引先に任天堂とソニーの海外部門を持つ。自社ブランドを保有しても店舗の推薦順位、配信手数料、返金条件や為替に支配力はない。ドル円150円という共通前提でも、現地人件費の上昇と契約条件の悪化が利益を削る。
AIエージェント代替とゲームの供給過剰
受託開発のように人月・工数を買ってもらう売上は、AIエージェントが開発・翻訳・テストを自動化すると案件数量と単価を維持しにくい。中立ではこの部分の数量を10年で0.65倍とし、全社利益を過大に数えない。独自IP自体は操作画面の業務ソフトではないが、生成AIによる競合作品の増加は集客の難易度を上げる。
学生寮と保有不動産の低い資本効率
学生寮は年間売上約1.2億円に対して報告セグメントの資産を約10億円使い、赤字を出している。建物は減価償却が続き、入居率が落ちても支払利息と固定費は簡単に減らない。新リース基準適用後は貸借対照表の見え方も変わるため、ゲーム資金を不動産に回し続けていないかを点検する。
支配株主と低還元による資産価値の滞留
株式の約46%を持つ筆頭株主がおり、上位10株主の合計保有割合は約74%である。過去5年間、増配も大幅な自己株買いも確認できず、DOEは0.3%程度にとどまる。現金や長期債券が時価総額に比べて多くても、少数株主が換金を要求できないため、帳簿額がそのまま現在価値になるとは考えない。
開発費の前払い、債券の金利、希薄化
ゲームの制作費はヒット前に支出され、未完成の作品の中止損や完成品の評価損が生じる。満期が長い債券は金利3%の想定下で途中売却価値が動く。さらに新株予約権の行使は会社へ現金をもたらすものの既存株主の取り分を薄めるため、発行済み株数と権利残高を同時に監視する必要がある。
今後の分かれ目
- 2027年3月期に会社が修正した売上54億円、営業利益7億円の水準を達成し、翌期以降も続編以外で新たな国内20万本級の作品が生まれたら
- 中立の本数換算を123万本から引き上げ、国内IPの創出を一度限りでなく反復可能な仕組みと再評価する。赤字年度の間隔も確認する。
- 新作が目標を下回る年が3期程度続き、ゲーム部門のセグメント利益が固定費を支えられなくなったら
- やや悲観の売上・利益率へ移し、本社費用と開発の中止損を引く。純現金が残っていても永続する営業利益の価値は高くしない。
- NIS Americaの他社作品販売が伸び、国内新作の無い期でも北米・欧州の収入が安定したら
- 販売数量換算の下振れ幅を縮小する。販路を堀として再評価するには、単なる売上増だけでなく継続取引と利益率の改善が必要となる。
- 学生寮の年間セグメント利益が継続して黒字化し、投下した事業資産に見合うキャッシュフローが確認できたら
- 不動産の資本配分への懸念を和らげる。ただし3件増やす判断の前に空室率、修繕費、借り換え金利を確認する。
- 大型自社株買いまたは持続的な増配が始まり、5年累計の株主還元と資産売却の実績が示されたら
- 余った現金の株主への戻り方を0.5から0.75または1.0へ見直す。発表した方針だけでなく実行額を条件とする。
- 新株予約権が権利行使される、または期限切れになり、潜在株式数が明確に減少したら
- 既存株主の取り分を計算し直す。発行による払込金を現金に加える一方、同じ資金と希薄化を二重に計上しない。
見ておくもの
- 国内20万本級の新規IPの創出頻度と、その作品の発売後2年目以降の販売推移
- 会社が任意に開示する作品別販売数量、パッケージ受注とDLの内訳、平均手取り売上
- NIS Americaの外部顧客向け売上、主要プラットフォームへの依存度
- エンターテインメントのセグメント営業利益と本社調整額の年度推移
- 学生寮3件の入居率、償却前収益、投下資本の残高
- 定期預金を含む現金、満期の長い債券、銀行借入金と新株予約権の残高
- 増配・自社株買いと上位株主の保有比率の変化
倍率と資本コストの決め方
時価総額約67億円を見ずに、国内新作4本、米国子会社の販売網、学生寮3件の収入構造から2036年の売上と利益を考えた。ゲーム販売本数は会社の非開示項目なので本数換算であり、20万本の次期ヒットを2026年3月期に混ぜなかった。資本コスト7.75%、長期成長2%、普通の堀の残存割合2分の1から利益の正当化PERを決め、楽観~中立は式の上限で測った。中立のROEが資本コストに届かないため倍率を1÷資本コストの上限とし、現金の利息と余剰現金を二重計上しなかった。やや悲観・悲観は今の自己資本に対するPBRと換金可能資産を照合した。新リース会計基準で将来のBSは変わるが、家賃を二重に差し引かず利益を比較する。現在株価を基準に倍率を調整していない。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に事業利益の大きな振れ0.5%と純現金の財務安全性−0.25%を加えた7.75%。赤字は2期続いたが、厚い預金と2027年の黒字予想があり、存続危機の追加金利は付けない。