結論
ベーシックは、企業のマーケティングを支える「ferret One」と、問い合わせフォームを管理する「formrun」を柱に、月額利用料と導入・制作支援で稼ぐ会社である。2025年は売上高22.8億円、営業利益2.7億円と黒字転換し、両製品にはそれぞれ約500社と約5,000社の有料顧客が付いた。しかし長く持つ株主から見た結論は「割高」だ。顧客の仕事そのものは残るが、その仕事を人がソフトの画面で進める形が10年続くとは限らない。
2026年上期の開示はその変化を具体的に示した。ferretの利用単価は上がったが顧客数は前期末より減り、制作・運用を引き受けるソリューション収益には生成AIの代替が現れた。経営陣自身が従来のコンテンツ制作需要の後退を不可逆的と認めている。新たなAI関連製品の立ち上がりは前向きだが、受注件数はまだ少なく、まとまった売上の実証とは呼べない。
一方、2026年の上場増資によって資金繰りは改善した。6月末の現金預金は14.2億円と厚く、直ちに存続が危うい会社ではない。ただし年間契約の前受金、今後の開発費、ストックオプションの希薄化、配当実績の欠如を無視して全額を株主の取り分にできない。5つの将来を確率で重ねた現在価値は約10.1億円と、基準時価総額約20.2億円の半分ほどである。値上げと機能拡張が今後も成功する可能性は認めつつ、本物の乗り換え障壁が確認されるまでは高い価値を払わない。
バリュー投資の観点から
長く所有したいのは、顧客が離れにくく、値上げができ、稼いだお金を少ない追加投資でさらに増やせる会社である。ベーシックはその候補になり得る。数千の法人が毎月利用料を払い、受付やマーケティングの担当者が日々使っている点は、企画段階だけの新興企業とは違う。両製品を連携させれば、入力された顧客情報を営業活動や問い合わせ対応まで流せる。成約や対応時間の短縮を顧客が実感すれば、単なる画面提供を超えて料金を維持できる可能性はある。
その一方、10年後の顧客は、フォームを開いて手動で分類する必要すらなくなるかもしれない。既存の業務データが社内に残ることと、そのデータをベーシックの画面で操作する必要があることは別だ。会社がAIエージェントを売り始めたのは合理的な応戦だが、独自データや規制上の認定が伴わなければ、より大きなソフト企業や顧客自身のAIが代替できる。低い解約率、長期間かかる移行、法律による必須性のうち複数を数字で示すまでは、強い堀を認定しない。
再投資も吟味が必要だ。製品は工場を建てずに増やせるが、開発者、販売促進、顧客支援には現金が必要である。過去の赤字と新たなソフトウェア資産計上を踏まえると、報告利益を丸ごとオーナー利益と見なせない。上場資金が厚いことは存続リスクを和らげるが、株主へ戻す実績もなければ買収や開発で費やされる可能性もある。私がここで求めるのは、今の製品が好調だという説明よりも、AI時代にも価格を保って契約を更新し、資本コストを超える現金収益を生み続ける証拠である。現時点の市場評価には、その証拠に対する安全域が不足している。
何で稼ぐ会社か
顧客接点に近いソフトを売ることが商売の中心である。「ferret One」は企業サイトの作成・更新、見込み客の獲得、メール配信、営業への引き渡しを助ける。顧客は専任のマーケティング担当者が少ない中堅企業などであり、使い始めればサイトの内容や商談の運び方が業務に組み込まれる。2025年のferret One事業の売上は約13.9億円で、その一部には制作・戦略支援などの案件収入が含まれる。
「formrun」は問い合わせフォームの作成、受付後の対応状況、担当者への通知、顧客とのやり取りを一つの画面にまとめる。2025年末の有料契約は5,126社、2026年6月には5,378社へ増加した。月額単価は足元で約1万6,000円である。無料のフォームと違って、受付後の担当割り振りまで一体で使えることに料金を払ってもらうが、顧客のデータそのものを法的に独占できるわけではない。2025年のformrun売上は約8.8億円、営業利益は約1.4億円だった。
残る稼ぎは、企業サイト制作、コンテンツ制作、導入設計、運用改善を手伝う役務である。会社は2026年に「ferret SFA/CRM」「Sales Agent」「workrun」「askrun」「faqrun」などを送り出し、単体ソフトから業務全体をつなぐ製品群へ転換しようとしている。第2四半期時点で新製品の契約はまだ数件から数十件の段階だった。受注金額を確認できないため、10年後の収益を新製品の普及だけで膨らませない。なお、会社の会計上の報告セグメントは単一であるため、以下の三つの収益源は分析上の区分である。
優良さと弱いところ
評価できるのは、単なる開発受託から、自社製品の継続課金へ事業を絞ってきたことだ。2025年のferret One事業は約1.3億円、formrun事業は約1.4億円の営業利益を出した。formrunは有料顧客数と利用単価が並行して伸び、ferretも利用単価を2025年初の月14.1万円程度から2026年6月には15.9万円へ引き上げている。中小企業の実務を理解し、簡単に使える形に仕立てる能力には一定の価値がある。
ただし、これはまだ深い堀ではない。2026年6月の解約率はferretが月次の継続売上ベースで約1.0%、runが約2.8%である。複利で年率換算するとそれぞれ約11%、約29%の売上解約に相当し、解約率が年5%未満という強い固定客の証拠にはならない。顧客情報の蓄積もあるが、法令上の記録の正本でも、業界全体が共同利用する不可欠な基盤でもない。顧客の乗り換えに長期間を要するという定量開示もなく、価格支配力を10年先まで保証できない。
会計利益と持ち主の利益も分けたい。2023年と2024年は営業赤字で、2025年の純利益3.4億円には繰延税金資産などの税効果が影響した。さらに2025年第3四半期からソフトウェア開発費の資産計上を始めており、会計上の利益だけで開発に必要な現金を測れない。上場前の小さな自己資本が生んだ高ROEを、再投資の優秀さを示す証拠としてそのまま将来へ伸ばすべきではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のマーケティング業務ソフト市場は伸びている。矢野経済研究所はMA・CRM/SFA・CDPを合わせた市場を2025年の4,201億円から2026年には4,789億円と推計した。営業活動のデータ整備や人手不足への対応が追い風となる。ferret Oneの2025年事業売上13.9億円はこの広い市場の約0.33%に当たるが、制作支援も含むため、これは市場内の厳密なシェアではなく規模を測るための参考比率である。ferretが狙う中堅企業向けの一体型CMS・MA市場だけに絞った、公表済みの統一分母は確認できない。
競争相手はSalesforce、HubSpot、Microsoftの営業・顧客管理製品に加え、国内のSATORIやSHANONなどのマーケティング支援ソフトだ。formrunはGoogleフォーム、Microsoft Forms、Tayori、フォームズ、kintone上に自作した受付画面とも競う。有料フォーム運用だけを切り出した国内市場規模や各社の正確なシェアは開示が乏しい。約5,000社という顧客基盤は継続収入を支えるが、市場全体を左右するほど大きくはない。矢野経済研究所は広義の同市場を2029年には約6,795億円と予測する。2036年に名目9,000億円まで広がると仮定しても、ferretと関連支援の売上を同じ分母で割った参考比率は中立で約0.13%に下がる。2036年の市場金額は会社や調査機関の予想ではなく、成熟して成長率が鈍るという独自の試算である。
最大の転換点はAIエージェントである。問い合わせを自動処理し、顧客データを読み書きし、サイトや営業資料まで直接作れるなら、人が何度も操作する画面の利用料も制作代行料も圧迫される。一般のSaaS市場が名目成長しても、ベーシックの既存契約数と一件当たり単価が一緒に伸びるとは限らない。中立では両SaaSの実質契約量が10年で7~9割に減り、価格は物価上昇に大きく負けると考える。制作・運用の役務はさらに縮むが、業務設計や顧客データの移行支援は残る。AIを使える側に回る戦略には期待できるものの、まだ金額を伴う普及実績が小さい。
資本政策と M&A
経営陣は創業以来50を超える事業に取り組み、非中核事業を売却してソフトへ集中してきた。過去の選択には試行錯誤が多いが、formrunを取得後に継続利用型の商売へ育てたことは評価できる。とはいえ取得時の投下資本やその後の開発費を含めた増分ROICは十分に開示されておらず、買収の利回りが資本コストを上回ったと断言はできない。2023~2024年の赤字は、挑戦が常に株主価値に結びついたわけではないことを示す。
2026年3月の上場時には公募90万株で資本を増強し、6月末の自己資本は2025年末の7.2億円から15.0億円へ増えた。現金預金は14.2億円だが、契約負債約2.9億円には将来提供するサービスの義務が付いている。資金使途にはソフトウェア開発、広告宣伝、人材投資があり、単なる遊休現金として使える金額は限られる。行使価額の低いストックオプションも残り、既存株主の持分を薄めうる。2026年の無償減資は資本項目間の振替であり、株主へ現金を払う還元とは異なる。
2026年通期の会社予想は売上高27.34億円、営業利益4.50億円、純利益3.34億円だが、上期実績は売上高12.07億円、営業利益1.51億円にとどまる。長期戦略には2027年以降の大手顧客1,000社超という規模目標がある。しかし、中期経営計画としての複数年の売上・利益・ROE、配当性向・DOE・総還元性向・自社株買い額については数字の約束なし。過去の配当と自社株買いの実績も乏しく、10年間の直接還元は保守的に見込まない。余剰現金の株主への戻り方は、強い支配と無還元の両条件がそろうとは確認できないため、全額でなく75%と評価する。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
同社の強みは、小さな製品をいくつも並べていることではなく、顧客の仕事の流れを最初から最後まで理解している点にある。ferret Oneで見込み客を獲得し、formrunで問い合わせを受け、営業管理や自動回答へつなぐことができる。顧客が複数の製品をまとめて使えば管理の手間が減り、継続料金は上がりやすい。実際に2025年のformrun有料顧客は四半期ごとに増え、2026年6月には5,378社へ達した。ferretの顧客数が一時減っても、月額単価は15.9万円まで上がり、単価を改善する営業力が示されている。
追い風も一過性とは言い切れない。国内の営業支援・マーケティングソフトの需要は人手不足とデータ整備によって伸び、会社が狙う中堅企業はまだ業務を手作業で運用している。AIによってコンテンツ制作が安くなれば、むしろ顧客は成果を管理する統合ソフトに予算を移すかもしれない。2026年の新製品は、既存顧客へ追加販売できる小さな足場を得た。これまでの事業売却によって収益を継続課金へ寄せた経営陣なら、AI機能も自社製品に取り込める可能性がある。
上場による現金の増加も意味を持つ。2025年までの資金不足から脱し、開発と営業体制を整える時間を買えた。既存顧客の業務改善に必要な機能が増えれば、顧客企業数が横ばいでも一契約当たりの価値は維持できる。新製品に実額の受注が積み上がれば、将来の判断は大きく変わり得る。
慎重な見方
顧客が仕事をするために使う画面を、10年後も同じように売れるという前提が脆い。問い合わせフォームはGoogleやMicrosoftが無料ないし基本契約の中で提供し、顧客管理にはSalesforce、HubSpot、kintoneなどの競争相手がいる。AIエージェントはその画面すら経由せず、フォームの内容を直接読んで処理できる。今の使いやすさは差別化になっても、独自の規制、必須の取引ネットワーク、持ち出せないデータのような深い参入障壁には育っていない。
この懸念は空想ではない。2026年第2四半期にソリューション収益が前四半期の1.39億円から1.08億円へ減少した。会社は顧客による生成AIの内製化を理由に挙げ、従来型コンテンツ制作の需要減を不可逆的だと認めている。ferretの有料顧客数も2025年末506社から2026年6月497社へ減った。runの売上解約率は月2.8%であり、新規顧客を取り続けなければ契約基盤を維持できない。新しいAI関連製品の契約件数はまだ一桁を含み、利益を支える規模には遠い。
2025年の高いROEを根拠にすることにも賛成できない。営業利益を上回る純利益には税効果があり、2025年後半からはソフトウェア開発費の資産計上が営業利益を押し上げた。IPO増資で自己資本は倍以上になったため、同じ利益が続いても見かけのROEは低下する。配当を通じて現金を戻す約束はなく、将来の新株予約権による希薄化も残る。簿価や手元資金だけで買値が守られると期待するのは危うい。
どちらに重みを置いたか
事業の実在性と増収の履歴は評価するが、価格を守る堀の証拠では慎重な見方が勝る。2026年上期には制作支援のAI代替とferretの有料顧客純減が同時に起き、新製品の売上金額はまだ明確でない。そのため上振れ合計28%に対して下振れ合計42%へ寄せる。ただし中立の数量と価格に既にAIの浸透を反映しており、同じ縮みを資本コストの寿命加算に重ねてはいない。純現金は破綻の危険を下げるものの、現在の株価と比べると安全域は足りない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 379 円22 億円(+ 還元の換算額還元の合計 0 円0 億円)。 今の値に割り戻すと 171 円10 億円、今との差 −48.2%、 期待の年率 +1.4%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 780 円46 億円 | 0 円0 億円 | +135.6% | +8.9% | 70 円4 億円 |
| やや楽観 | 19% | 621 円37 億円 | 0 円0 億円 | +87.5% | +6.5% | 118 円7 億円 |
| 中立 | 30% | 368 円22 億円 | 0 円0 億円 | +11.2% | +1.1% | 110 円7 億円 |
| やや悲観 | 25% | 198 円12 億円 | 0 円0 億円 | −40.0% | −5.0% | 50 円3 億円 |
| 悲観 | 17% | 179 円11 億円 | 0 円0 億円 | −45.8% | −5.9% | 30 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 379 円22 億円 | 0 円0 億円 | +14.4% | +1.4% | 379 円22 億円 |
今の株価時価総額 331 円20 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 連携製品の定着で価格を守る 利益 3 億円 · PER 11.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 780 円46 億円
ferret Oneとformrunの既存顧客が営業管理や問い合わせ自動化を追加契約し、複数製品が一つの業務の流れになる。仕事の画面は変わっても、顧客の運用設計や製品間の接続を代替する費用が高くなり、値上げを受け入れてもらえる。AIエージェントによる業務自動化が進んでも、両製品は2025年の有料契約規模を保つ。2026年に生まれた新製品の販売実績はまだ小さいため、これを根拠に未実証の大量契約を上乗せしない。
制作支援はAIで効率化し、受託数量が横ばいでも名目単価を物価並みに改定できる。人員数をいたずらに増やさず、既存契約の更新と運用の標準化で採算を引き上げる。将来の自己資本にはIPO後の資金と利益の積み上がりが残る。新規事業への無理な大型買収はせず、余剰現金を守ることが株主の利益に寄与する。ただし配当を急に始めるとは見込まず、価値の中心は事業利益と保有現金である。
- ferret Oneの継続課金:数量 498(年間平均の有料顧客契約数(社))× 価格 0.02(有料契約1社当たり年間継続課金(億円、名目))→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。有料顧客498社、単価は2025年比1.15倍。契約数の追加成長は織り込まない。
- formrun・run Suiteの継続課金:数量 4,831(年間平均の有料契約法人・顧客数(社))× 価格 0.00(1有料法人当たり年間サブスクリプション売上(億円、名目))→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。有料契約4831社、複数製品化で名目単価1.15倍。
- 制作・導入・業務改善支援:数量 176(年間の受託案件数(件、独自推定))× 価格 0.04(1受託案件の年間平均請求額(億円、名目))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。案件176件を維持、価格1.34倍。AI利用で工数当たり採算が改善。
倍率:AIエージェント代替型でg_long=名目−0.5%、k=8.25%、弱い堀のRONICの超過利回り残存率は3分の1。2036年の余剰現金26.0億円を自己資本39.0億円から外し、事業利益2.486億円と事業ROE19.1%を計算。RONIC11.87%、正当化PER=11.91倍(ROEがk以下なら11.43倍が上限)。PERは上限そのものに置き、事業利益に掛けた額+現金の株主戻り分75%で時価総額49.108億円。現金利息を重複計上しない。
確率:既存顧客をつなぐ製品群が収益に寄与し、人工知能の競争下でも両SaaSの2025年と同数の有料顧客を確保する難しい筋書き。新AI製品の開示受注金額がまだ無いので顧客数量は2025年比1倍以下。
やや楽観 19% 解約を抑え採算を維持 利益 2 億円 · PER 12.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 621 円37 億円
生成AIで問い合わせ対応や顧客獲得の作業は簡単になり、単体の画面を使わなくなる企業が増える。それでもferretにはサイトと営業のデータを一括管理したい企業が残り、formrunには社内の担当者ごとに対応履歴を追う需要が残る。営業・顧客管理やFAQの追加機能を既存顧客が少しずつ採用し、月額料金を維持する。顧客数は2025年より減るものの、急な総崩れには至らない。
従来型の制作案件はAIで件数を落とすが、導入時の設計や運用の整備へ役務を振り替える。営業費用や開発費を抑えながら、全社の利益率は2025年並みをおおむね維持できる。上場で得た資本を増資し続ける必要はなく、内部留保によって現金は厚くなる。経営は配当より製品の改善を選ぶため直接還元はないが、その現金が株主の安全を部分的に支える。
- ferret Oneの継続課金:数量 468(年間平均の有料顧客契約数(社))× 価格 0.02(有料契約1社当たり年間継続課金(億円、名目))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。有料契約468社、1契約単価1.14倍。中堅顧客への集中で解約の一部を補う。
- formrun・run Suiteの継続課金:数量 4,589(年間平均の有料契約法人・顧客数(社))× 価格 0.00(1有料法人当たり年間サブスクリプション売上(億円、名目))→ 売上 9 億円・営業利益 2 億円。4589社、単価1.12倍。既存フォーム事業の手堅い更新。
- 制作・導入・業務改善支援:数量 141(年間の受託案件数(件、独自推定))× 価格 0.04(1受託案件の年間平均請求額(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。案件141件、単価1.30倍。定型制作から導入支援へ移る。
倍率:AIエージェント代替型でg_long=名目−0.5%、k=8.25%、弱い堀のRONICの超過利回り残存率は3分の1。2036年の余剰現金24.0億円を自己資本35.0億円から外し、事業利益1.764億円と事業ROE16.0%を計算。RONIC10.85%、正当化PER=11.96倍(ROEがk以下なら11.43倍が上限)。PERは上限そのものに置き、事業利益に掛けた額+現金の株主戻り分75%で時価総額39.089億円。現金利息を重複計上しない。
確率:AIエージェントのため一部顧客が離れるが、既存製品をつなぐ利用価値と継続課金の価格維持が残る。価格上昇は物価以下で、製品の拡張が実際の成約単価の上昇を補う。
中立 30% 画面課金と受託案件がじわり縮む 利益 1 億円 · PER 11.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 368 円22 億円
10年後も顧客は問い合わせを受け、商談を管理し、顧客データを残す。しかし、それを人が毎日画面上で操作する必要は減っていく。ferret Oneは取引先の営業・顧客管理システムとの競争が続き、有料契約は2025年より約2割減る。formrunもAIエージェントが受付から回答までを処理するため利用社数を約15%失う。残った顧客は複雑なワークフローに料金を払うが、単価上昇は物価に追いつかない。
制作・運用を外注する案件はさらに減り、上流の業務設計が穴を埋め切れない。費用は人員と販売促進費を抑えて対応するが、売上縮小によって営業利益率は2025年より下がる。内部留保とIPO資金で事業の存続は十分可能でも、利益の増えない自己資本が厚くなる結果、資本効率は低下する。再投資の利回りが資本コストを下回るため、10年後に高い利益倍率はつかない。
- ferret Oneの継続課金:数量 398(年間平均の有料顧客契約数(社))× 価格 0.02(有料契約1社当たり年間継続課金(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。契約398社、単価1.10倍。AIに奪われる数量と実質値下げを分けて反映。
- formrun・run Suiteの継続課金:数量 4,106(年間平均の有料契約法人・顧客数(社))× 価格 0.00(1有料法人当たり年間サブスクリプション売上(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。4106社、価格1.10倍。連携部分は残るが無料・自動処理に押される。
- 制作・導入・業務改善支援:数量 114(年間の受託案件数(件、独自推定))× 価格 0.04(1受託案件の年間平均請求額(億円、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。114件、単価1.25倍。物価より劣る値付けと受託工数の減少。
倍率:AIエージェント代替型でg_long=名目−0.5%、k=8.25%、弱い堀のRONICの超過利回り残存率は3分の1。2036年の余剰現金18.0億円を自己資本30.0億円から外し、事業利益0.848億円と事業ROE7.1%を計算。RONIC8.25%、事業ROEがk以下なので長期成長に超過価値を認めず、正当化PERは1÷(k−g_long)=11.43倍を上限とする。PERは上限そのものに置き、事業利益に掛けた額+現金の株主戻り分75%で時価総額23.192億円。現金利息を重複計上しない。
確率:月次解約率と2026年上期の制作業務へのAI代替を踏まえ、業務課金SaaSの数量0.80~0.85倍、価格1.10倍、工数型役務の数量0.65倍に設定。悲観シナリオの確率を二重に乗じるものではない。
やや悲観 25% 価格競争で業務ソフトの稼ぎが細る 利益 0 億円 · PBR 1.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 198 円12 億円
大手企業のCRMと無料のフォームサービスが機能を拡張し、AIエージェントは顧客への返答や営業資料作成を代行する。ferretは使いやすい国産製品であり続けるが、顧客が契約する理由が弱くなり、有料契約は約3分の1減る。formrunも契約数と売上解約率の改善が止まり、有料利用者の約3割を失う。値上げをすれば解約を招くため、名目価格はほぼ据え置きに近い。
導入・制作案件は減り、付随する人件費は削減しても売上減に追いつかない。新しいAI製品は大手他社との競争に押され、取り込んだ案件が全社の採算を大きく改善するまでには至らない。かつての成長会社としての超過利益は消え、保有現金と売掛金の回収可能額が主な価値を支える。経営が事業を継続するなら、帳簿の自己資本の全額が株主に現金で戻るわけではない。
- ferret Oneの継続課金:数量 334(年間平均の有料顧客契約数(社))× 価格 0.02(有料契約1社当たり年間継続課金(億円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。有料契約334社、名目単価約1%上昇にとどまる。
- formrun・run Suiteの継続課金:数量 3,478(年間平均の有料契約法人・顧客数(社))× 価格 0.00(1有料法人当たり年間サブスクリプション売上(億円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。3478社、単価約2%上昇。無料・AI競争で実質値下げ。
- 制作・導入・業務改善支援:数量 92.0(年間の受託案件数(件、独自推定))× 価格 0.04(1受託案件の年間平均請求額(億円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。92件、単価1.18倍、役務採算は赤字。
倍率:利益が細り、継続事業の純利益0.13億円÷資本コスト8.25%と、残存余剰現金11.0億円の戻り価値を合計しても換金可能資産12.5億円に届かない。2026年6月末の現金預金・売掛金・敷金等から負債と換金不能資産を除いた12.5億円を床とする。PBR1.736111倍は2025年末の自己資本7.2億円を基準にこの床を表示する換算倍率であり、2036年の自己資本20.0億円に掛けていない。2026年の上場増資で基準期以降に資本が増えたため、1倍超でも事業の超過収益力を意味しない。
確率:下に寄せる理由:ferretの有料契約は2026年上期に純減し、ソリューション制作のAI代替を経営も不可逆的と認めた。顧客基盤の縮小と既存製品の単価維持困難が同時に表れる場合を現実的な下振れとみる。
悲観 17% AI時代の業務基盤から外れる 利益 −1 億円 · PBR 1.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 179 円11 億円
AIエージェントが企業サイトを自動構築し、問い合わせ内容から顧客情報の更新、返信、営業日程の調整まで実行する。ferretはCMSやマーケティング画面に価値を感じる顧客が減り、契約数が半分になる。formrunも担当者が管理画面で案件を処理する仕事そのものが消え、有料顧客を半分に減らす。わずかな単価改定すら維持できず、名目料金は足元から下がる。
コンテンツ制作と運用代行は顧客内製化が一段と進み、残存案件では値下げ競争が激しい。開発・セキュリティ・保守の固定費を削り切れず、後半には営業損益が再び赤字へ戻る。前半に積み上げた黒字が残るため自己資本は直後の上場増資後をなお上回るが、実際に回収できる資産はそれより少ない。新製品で大手の顧客管理基盤を置き換えるには至らず、大型買収や追加資金調達を避けて縮小均衡を探る。事業の利益に永続倍率を掛けられないので、契約履行義務と売掛金の回収損を差し引いた、売却可能資産の価値だけを残す。
- ferret Oneの継続課金:数量 249(年間平均の有料顧客契約数(社))× 価格 0.02(有料契約1社当たり年間継続課金(億円、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。有料契約249社、単価は現時点より低くなる。
- formrun・run Suiteの継続課金:数量 2,416(年間平均の有料契約法人・顧客数(社))× 価格 0.00(1有料法人当たり年間サブスクリプション売上(億円、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。2416社、無料・AIの代替で利用契約半減。
- 制作・導入・業務改善支援:数量 70.0(年間の受託案件数(件、独自推定))× 価格 0.03(1受託案件の年間平均請求額(億円、名目))→ 売上 2 億円・営業利益 −1 億円。受託70件。制作業務の淘汰で赤字の比率が高い。
倍率:AI代替で2036年に営業赤字が定着し、継続利益にPERを掛ける価値は乏しい。2026年6月末の現金14.24億円、売掛金の7割回収2.79億円、敷金等0.5億円から契約負債を含む負債6.23億円を差し引く換金可能資産11.3億円を床とする。PBR1.569444倍は2025年末の自己資本7.2億円を基準に床11.3億円を表す換算倍率であり、2036年の自己資本18.5億円へ掛けていない。2026年の上場増資があったため旧基準の倍率は1倍を超えるが、評価の根拠は換金可能額そのものである。
確率:下に寄せる理由:現状の月次MRR解約に加え、売上の2割強を占めた受託制作が既にAI代替を受けている。無料フォームと大型CRMの機能同梱が進んで、顧客が大幅に失われる複合事象を無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ferret Oneの継続課金
企業サイト、CMS、マーケティング自動化、営業連携を月額で提供する。ferret One事業の制作・導入支援は別の役務に切り分ける。
| 数量年間平均の有料顧客契約数(社) | 価格有料契約1社当たり年間継続課金(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 498 | 0.02 | 9 | 2 |
| 10 年後 中立 | 398 | 0.02 | 8 | 1 |
取り方:2026年8月の会社説明資料にある2025年四半期末ferret有料顧客493・492・501・506社の平均は約498社。月額単価141~152千円のレンジと、会社開示のferret One事業売上13.9億円及び全社ストック売上比率を照合し、継続課金約8.68億円、年間1社0.01743億円(月14.5万円)を推計した。事業売上には役務が混ざるため課金売上は会社の正式な独立報告値ではない。営業利益1.65億円も役務を分離するための推計。AIエージェント代替の型は「操作画面のSaaS」、中立の契約数量10年0.8倍、単価1.1倍。記録の正本の証拠は未達。
formrun・run Suiteの継続課金
問い合わせフォームの作成・管理、対応振り分け、通知とFAQ周辺機能を月額の法人契約で売る。
| 数量年間平均の有料契約法人・顧客数(社) | 価格1有料法人当たり年間サブスクリプション売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4,831 | 0.00 | 9 | 1 |
| 10 年後 中立 | 4,106 | 0.00 | 8 | 1 |
取り方:会社2026年8月資料の2025年末までの四半期有料顧客4476・4724・4996・5126社の平均4830.5社を年間平均4831社とした。2025年formrun事業売上8.8億円から逆算した年間課金単価0.001821億円(約18.2万円、月1.52万円)は同社月次ARPU約1.5万円とおおむね合う。営業利益1.4億円は2025年の会社開示。2026年6月末有料顧客5378社・月額16千円・売上解約率月2.8%。AIエージェント代替は画面中心SaaSの型、中立数量0.85倍・価格1.1倍。
制作・導入・業務改善支援
ferret Oneに付随するサイト・コンテンツ制作、マーケティング戦略支援、運用代行と新製品導入支援。
| 数量年間の受託案件数(件、独自推定) | 価格1受託案件の年間平均請求額(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 176 | 0.03 | 5 | 0 |
| 10 年後 中立 | 114 | 0.04 | 4 | 0 |
取り方:会社は案件数・平均契約額を独立開示しない。2025年全社売上22.756億円からferret課金8.68億円とformrun8.797億円を引いた約5.28億円を非ストック役務に配賦し、導入・制作・改善をまとめた平均1件300万円を仮定して約176件とした。同社公開のMA導入支援は初期60~90万円、継続支援は月50~80万円で、複数月の複合案件の代理価格300万円に経済的な根拠がある(https://sol.ferret-one.com/service/ma_support)。単価と件数は開示実績ではなく推計であり、営業利益−0.35億円もferret One事業開示利益1.3億円と分析上のSaaS利益1.65億円の差として置いた。AIエージェント代替の型は人月・工数とコンテンツ制作で、中立数量0.65倍・価格1.25倍(物価1.34倍以下)。
リスクと懸念
AIエージェント代替:操作画面と制作・運用工数
AIエージェントが顧客データを直接読み書きし、問い合わせ処理から文書作成までを自律化すると、画面型SaaSの契約量と価格は同時に弱る。さらにコンテンツ制作・広告運用・定型コンサルは人月需要を失う。2026年のソリューション売上減少を会社が不可逆的と認めており、将来だけの仮説ではない。中立の数量と単価、10年超のgに反映し、kの寿命には重ねない。
顧客継続性と無料・大型競合製品
ferretの月次売上解約率約1.0%、runの同約2.8%は、年5%未満の強固な解約防止力とは違う。Google、Microsoft、HubSpot、Salesforce、kintoneと機能が重なり、中堅企業の限られたIT予算を取り合う。サービスを統合しても、顧客が別のAIで同じ業務を処理できれば継続単価が下がる。
税効果・ソフトウェア資産計上と現金利益の乖離
2025年の純利益は営業利益を上回るが、税効果を将来の常態利益とは見なせない。2025年第3四半期から開発費のソフトウェア資産計上が始まったため、会計利益に比べて開発投資後の現金が細る可能性がある。減損や償却負担が遅れて表面化する場合、ROEも本来の資本収益性より高く見える。
上場増資後の希薄化と資本配分
IPOで自己資本は増えたが、過去の持株比率を基にすると行使価額の低い未行使新株予約権が約39万株残り、既存株主の取り分を薄めうる。調達資金を製品開発と販売強化へ使う以上、現金の全額を株主還元と見なせない。配当性向や自社株買い額の約束がなく、過去の事業売却による資本効率も数量で検証し切れない。
2026年業績計画の未達と新製品の立ち上がり
上期の営業利益は通期計画の約34%で、通期達成には下期の回復が不可欠だ。会社はrunの値上げと新製品の立ち上がりを回復要因に挙げるが、値上げ予定を実績と取り違えられない。新しいAI・営業・FAQ製品は契約件数こそ公表されたものの、継続課金額と解約率の証拠はまだ薄い。
個人情報と外部サービス依存
問い合わせ情報や営業見込み客のデータを扱うため、情報漏えい、障害、迷惑メール対策への対応を怠ると顧客が一斉に離れる恐れがある。既存のクラウド基盤や外部AIモデルの料金・API仕様変更も自社で支配できない。データ利用規制や顧客のセキュリティ審査が厳しくなれば、規模の小さな事業者ほど対応費が重い。
今後の分かれ目
- ferretの有料顧客数が500社前後から回復し、月次売上解約率が0.5%未満で1年以上続いたら
- 料金上昇が既存客の負担ではなく製品の深い定着によるものと評価し、ferretの10年後契約数量と堀の強さを引き上げる。
- runの月次売上解約率が2%未満で定着し、有料法人が6,000社を超えて単価も維持したら
- 無料フォームやAIエージェントに負けない業務上の価値が確認できるので、契約量の縮小率を緩め、悲観確率を下げる。
- ferret SFA/CRMやSales Agentなどの新製品について、顧客数だけでなく年間受注額・継続売上が開示され、黒字化したら
- AIを自社の売り物として収益化できた証拠となる。楽観・やや楽観の数量上限と、10年より先の成長率を再検証する。
- コンテンツ制作関連のソリューション売上がさらに減り、継続課金の増加でも埋められなくなったら
- サービス案件とSaaSの価格圧力を同時に見直し、やや悲観・悲観側の将来営業利益を低くする。
- 上場調達資金の消化後も営業キャッシュフローから開発投資を差し引いた現金が増え続けたら
- 会計上の利益をオーナー利益として信用しやすくなり、余剰現金の将来残高と再投資利回りを上方修正する。
- 配当性向または自社株買い金額の定量方針が発表され、実行が継続したら
- 余剰現金の株主への戻り方を0.75から1.0へ改善し、希薄化を相殺できるか確かめる。
見ておくもの
- ferret有料契約数・月額単価・月次MRR解約率の四半期推移
- run有料契約数・月額単価・月次MRR解約率と年間プランの増減
- 新製品別の有料顧客数だけでなくARR・有償受注額・導入後継続率
- ソリューション収益の四半期売上と制作案件から業務設計案件への内訳
- 営業キャッシュフロー、ソフトウェア資産計上額、償却・減損と契約負債
- 余剰現金の使途、自社株買い・配当方針、未行使新株予約権の残高
- 2026年12月期通期営業利益4.50億円計画と下期の進捗
倍率と資本コストの決め方
2025年実績の有料顧客数と課金単価を起点に、ferretとrunの顧客数・価格、受託案件数・単価をそれぞれ算定した。物価3%の10年累積1.34倍を数量へ混ぜず、AIで値付けが弱まるSaaSは中立価格1.10倍、役務は1.25倍にとどめた。営業利益から正常な税負担と受取利息を考慮して純利益を出し、10年間の内部留保を2026年増資後の自己資本へ加えた。PERは資本コスト8.25%、弱い堀の残存率3分の1、長期名目成長率−0.5%による正当化式に従い、株価や同業の市場倍率を根拠にしていない。余剰現金の利息を利益から控除して現金価値を75%だけ別に加え、過去の配当がないので期間還元は計上しない。悲観側は継続する稼ぐ力を上回る換金可能資産を床とし、PBRは2025年末の自己資本7.2億円で床の時価総額を表す換算値とした。2036年の積み上げ自己資本には掛けず、2026年の上場増資後に増えた現金と負債・契約履行義務を床の計算に反映した。国内リース会計の表示変更があっても賃借費用を二重に差し引かない。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本資本コスト7.5%+品質調整0.75%=8.25%。IPO後は存続への差し迫った疑義がなく、赤字だった過去の期だけを理由に窮迫上乗せは行わない。