結論
Cocoliveは住宅会社と不動産会社が見込み客を追いかけるためのクラウドサービス「KASIKA」を売る企業である。筆者の結論は「割高」だ。住宅の商談記録と顧客への接触履歴は残り続けるが、その仕事を人が専用画面で操作する必要は十年後に薄れている。現時点の時価総額は約17.5億円で、厚い現金を考慮しても、事業価値には相応の安全域が見当たらない。
この会社の価値を分けるのは、国内の住宅市場全体の成長率より契約する企業の実数である。2026年5月末の有料利用企業は1,175社、8月末には1,172社と微減した。一方、月次経常売上は1億円を超え、顧客あたりの課金が伸びて売上を支えている。2026年5月期の営業利益率は前年の21%台から13%台に下がり、人員増強が収益の伸びより先行した。
会計や決済のように制度上の正本を握る事業ではなく、解約率は月次約1.2%である。生成AIが見込み客の優先順位付け、文章作成、問い合わせ対応を直接行うと、利用企業はKASIKAを残しても利用人数や追加料金を削りうる。その一方で、手元の現金と顧客業務への入り込みは一夜にして消えない。十年先の利益を五つの道筋で測ると、純現金の床を守った現在価値は約9.9億円となり、市場の値付けを約43%下回る。
バリュー投資の観点から
十年保有する株主が最初に見るのは、住まいを売る現場にKASIKAが欠かせないかという問いである。顧客への連絡を忘れず、商談に適した時点で提案する機能は、景気が悪くなっても必要だ。ただしその機能をどの会社のソフトが担うかは別である。人が画面を使うことを前提とした料金体系は、機械が代わりに操作する世界では守りにくい。
現在の優良さには二つの顔がある。自社開発の継続課金サービスなので、事業が回れば追加の一社から得る粗利益は大きい。低負債と手元現金のおかげで競争が強まっても研究開発を続けられる。一方、月次解約率が1%を超え、契約企業数が横ばいになった時点で、顧客獲得費を増やしても収益が成長するとは限らない。値上げへの耐性と既存顧客の生涯価値を確認せず、高い永続成長を信じるべきではない。
資本の使い方も値打ちを左右する。すでに実施した約一億円の自己株買いは、株主に資金を戻す意思がない企業とは異なる証拠だ。しかし今後の利益を大半留保するなら、次に採用する営業人員と開発者の増分利益が資本コストを超えるかを厳しく見たい。前年より売上が増えたのに営業利益が縮んだ事実は、その試験の成績がまだ十分ではないことを示す。
悲観では顧客データを運ぶ仕事そのものが別のAIサービスに吸収され、事業価値は手元資産へ近づく。それでも会社が今日持つ現金は、簡単に無価値にはならない。この床と将来利益を切り分け、成功した場合の恩恵にも失敗時の損失にも現実的な幅を持たせて初めて、長期保有に見合う安全域が測れる。今の値付けではその余裕が足りない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、住宅業界向けの営業支援クラウド「KASIKA」である。住宅を探す人が資料請求や問い合わせをすると、顧客情報と閲覧行動が蓄積され、営業担当者は関心の高い相手を選んで電子メールやメッセージで接触する。新築戸建ての工務店・住宅メーカー、不動産売買仲介、分譲マンション販売の三つが主な対象だが、会計上の報告セグメントは一つである。住宅を造ったり売買を仲介したりする手数料は受け取らない。
料金は取引対象により異なる。工務店向けは標準で月額5万円からで十人分の利用枠を含み、追加IDは月額5千円の課金となる。不動産売買仲介は店舗ごとに月額5万円、分譲マンション販売は物件ごとに月額5万円が基本で、後者は2027年に規模等に応じて月額2万〜4万円を追加する予定だ。短文メッセージや追加機能も収益源となる。料金表の基準額と実際の顧客平均が一致しないのは、店舗数、追加利用者、物件数、オプションの組み合わせが異なるためだ。会社は三つの業態別の契約件数や売上を分けて開示していないため、作り物のセグメント売上には分解しない。
2026年5月期の売上高は14.5億円、営業利益は約2億円だった。期末の有料利用企業と年間売上を対応させると、一社から年間約123万円を得ている計算になる。8月末の月次経常売上1億1,700万円を1,172社で割ると、月額約10万円で、料金表との差は複数拠点や追加機能の存在を示唆する。ただし期末社数と年間売上の割り算は平均期中社数を示すものではなく、一時収入の混在もあるため近似値だ。
顧客の追客を自動化できれば、営業担当者が少ない地方の工務店にも費用節約の価値がある。売上には毎月の継続課金が多く、店舗や設備の増設を要しない点は魅力だ。ただし住宅着工や分譲販売の減少で営業予算が削られれば、契約企業数や追加IDの需要も減る。
優良さと弱いところ
KASIKAの強みは、不動産営業の流れに合わせて顧客ごとの接触履歴をまとめ、次に連絡する相手を営業現場へ返せることである。LIXILや建築業向けシステム会社との連携が進めば、住宅会社が複数の道具を使い分ける手間は減る。導入後に蓄積した行動履歴も切り替えを面倒にする。しかし、顧客情報そのものを法律上独占するわけではなく、履歴を他の営業支援ソフトへ移せないという証拠もない。
堀、つまり値上げしても客が残る仕組みは、まだ実証途上である。分譲マンション向けには2027年から規模別の追加料金を設ける方針を示すが、実際の値上げ後も解約を抑えられた実績とは区別すべきだ。2026年8月の月次解約率1.20%を十二か月続くと仮定すると、年間では約13.5%が離れる。規制対応のため数年単位の移行作業が必要な基幹システムとは守りの厚さが違う。
少ない固定資産で利益を稼ぎ、2025年5月期まで高い自己資本利益率を示した点は評価できる。一方、2026年5月期は売上が増えたのに営業利益が減り、収益を増やすための増員の利回りは目先で悪化した。翌期の会社見通しも増収減益である。新しい顧客を一社獲得する費用と解約した顧客の補充費が、継続課金の価値を食い始めていないかを追う必要がある。
財務には約九億円の現金があり、外部借入れに依存せず事業改善に時間をかけられる。だが、現金が多いことと本業の堀が強いことは別問題だ。経営者が潤沢な資金を防御力の乏しい機能開発や高値の買収へ回せば、資本効率は下がる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
KASIKAが狙う市場は、国内ソフトウエア全体ではなく、住宅販売で発生する見込み客を管理し、来場や契約につなげる営業業務である。会社の成長可能性資料は関連企業を約6万6,942社、従事者を約35万2,108人と見積もる。ただし賃貸を扱う事業者なども含まれ、すべてが現在のKASIKAの買い手ではない。この母数で見た契約企業の浸透率は約1.8%だが、同じ顧客市場での実効シェアとは言えない。
企業数を母数に、従事者が月額五千円の利用枠を買うという仮定を組み合わせると、周辺業務を含めた仮説上の年間市場規模は約211億円となる。この額は会社の実際の見積市場支出でも競合売上の合計でもない。2026年8月の月次売上を年率換算した約14億円との比較には、対象業務と課金方式の差がある。十年間の数量予測では大きな総額より、実際の契約企業と解約率の推移を優先する。
競合は不動産業務の基幹クラウドを展開する「いえらぶGROUP」、仲介営業の管理システム、水平型のSalesforce、各社が自前で作る生成AIの接客支援である。いえらぶは広義のサービスで約1万7,000社の導入実績を公表するが、賃貸管理など別用途を含むためKASIKAの市場シェアと直接比べられない。追客に絞った市場の競合別売上比率は確認できず、Cocoliveが独占的な立場だとは判断しない。
国内の新設住宅需要は人口減少、住宅価格の上昇、建築費と金利の負担に左右される。営業の人手不足は自動化需要を押し上げる一方、販売現場を抱える会社の数や広告予算は長期的に増えにくい。さらにAIエージェントはCRMの画面を開かずに顧客へ返答し、別の業務基盤から直接追客を動かせる。過去の国内SaaS市場の成長率を、そのまま同社の十年後の契約企業数へ延長するのは危うい。
資本政策と M&A
資本政策は利益の分配より事業への再投資が中心だった。2026年5月期まで普通配当は実施していない。一方、2026年4月から7月にかけて自己株式14万1,700株を約1億円で取得した。今回用いる発行済み株式から自己株式を差し引いた株数には、その買い戻しが既に反映されているため、十年先の還元にもう一度足してはいない。
2026年8月の事業計画資料には、2027年5月期の売上高約16.0億円、営業利益約1.68億円、純利益約1.26億円という目標がある。採用、業界連携、AI機能への開発投資を優先する計画で、複数年の売上高、ROE、配当性向、総還元性向、DOE、自社株買い額を拘束する数字の約束は確認できない。すなわち成長方針は明瞭だが、株主にいついくら戻すかの長期的な約束はない。
経営が選ぶべき資本配分は、顧客定着率を高める機能の内製と、業界の商談情報を持つ企業との連携である。大型買収で拡大した確かな実績は見当たらず、未実現のM&A利益を中立には加えない。創業者らの持株比率が高く、現金が少数株主へ自動で渡るとも言えないが、実際に自己株式を取得した事実は無視できない。余剰現金を株主価値へ算入する際は一定の留保を織り込む。
2026年8月末の現金約9.0億円から、運転資金、採用・開発投資の安全余裕を確保すると、自由に動かせる現金は約5.5億円とみる。非営業資金からの利息と本業の利益を二重に評価しないようにする。分譲マンション向けの料金改定が定着しないなら、増えた資本に見合う利益を得られず、買収や追加採用より株主還元が合理的になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
住宅販売の仕事は、顧客への細かな連絡を欠かせない。モデルハウスへの来場から成約まで時間が長く、営業担当者が持つ顧客の関心と温度感を組織で共有できれば、小さな工務店にも採用する経済的な理由がある。KASIKAはこの現場に絞って機能を磨いてきた。業界共通の大きなCRMを一から設定するより導入が容易で、建築・住宅関連会社との連携も顧客を引きつける入口になる。
足元では契約企業数が増えていなくても、月次経常売上は伸びている。分譲マンション向けの料金改定が実現し、追加店舗や追加機能への課金が浸透すれば、顧客一社当たりの売上を一段と増やせる。AIが営業担当者の手入力を減らすこと自体も、KASIKA上にある行動情報を活用するなら、顧客がソフトを使い続ける理由になりうる。ただし、AI機能が有料で売れている金額の開示はないため、AI由来の特別な成長は利益計画に含めない。
積み上がる契約収入に対し、追加顧客を支えるサーバーや管理費の増分は比較的小さい。増員が落ち着けば、落ち込んだ利益率を回復する余地がある。約9億円の現金があるため、景気が悪い年にも製品の改良を止める必要はない。自社株取得も実施しており、資本を無制限にためるだけの経営ではない。数十億円の巨大企業ではなく、狭い住宅営業の分野でよい位置を取る会社として価値を生み出せる。
慎重な見方
KASIKAを使う理由の中心は、営業担当者が画面を開き、誰にいつ連絡するかを判断する手間を省くことだった。AIエージェントがメールやLINE、顧客の閲覧履歴を直接読み、CRMの外から必要な働きかけを指示するなら、専用の操作画面は課金の中心でなくなる。営業の自動化という顧客の目的が残っても、KASIKAという製品が同じ利益を受け取れる保証はない。
解約の防壁も厚くない。月次解約率は約1.2%で、法制度に結びついた台帳のような長期固定の契約ではない。工務店や仲介会社の広告予算が縮み、成果を測りづらい追客ツールへの支出が真っ先に整理される可能性がある。水平型のSalesforceや不動産業務の各種基幹システムに生成AIが標準搭載されれば、追加料金を払ってKASIKAを保つ理由はさらに弱くなる。
数字はすでに注意を促している。2026年春から夏の契約企業数は減少し、2026年5月期の営業利益は増収にもかかわらず前年を下回った。翌期の計画も増収減益であり、顧客獲得費と人件費の増加が売上の伸びを先食いしている。値上げを予定する分譲マンション事業でも、実行後の解約率はまだわからない。将来の買収で顧客基盤を広げても、買収先の顧客を統合できなければ現金が減るだけだ。
現金が多い企業は、営業利益だけで測るより下値が守られやすい。それでも上場企業が余ったお金を直ちに株主へ配るわけではなく、事業縮小の間に採用や開発費として使い続けることもできる。十年後の事業利益がなくなれば、株主が評価するのは製品ブランドでなく現金と処分可能な資産の額になる。
どちらに重みを置いたか
住宅営業に特化した機能と現金は確かな強みだが、契約社数の頭打ちと減益は、料金改定の成功より先に確認された事実である。中立では営業支援の需要が残っても利用企業数が減るとみる。下側を44%、上側を26%に寄せた理由は、解約率の高さだけでなく、2026年春から夏の実際の純減とAI機能の売上実績が未開示だからだ。AIの影響は数量、単価、十年後以降の成長率で既に数えたので、資本コストに同じリスクを重ねない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 641 円19 億円(+ 還元の換算額還元の合計 33 円1 億円)。 今の値に割り戻すと 341 円10 億円、今との差 −38.8%、 期待の年率 +2.0%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 1,325 円38 億円 | 90 円3 億円 | +153.4% | +10.2% | 127 円4 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,050 円31 億円 | 51 円1 億円 | +97.3% | +7.2% | 187 円5 億円 |
| 中立 | 30% | 669 円19 億円 | 38 円1 億円 | +26.8% | +2.5% | 212 円6 億円 |
| やや悲観 | 27% | 327 円9 億円 | 16 円0 億円 | −38.6% | −4.9% | 93 円3 億円 |
| 悲観 | 17% | 320 円9 億円 | 0 円0 億円 | −42.6% | −5.4% | 54 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 641 円19 億円 | 33 円1 億円 | +20.7% | +2.0% | 674 円20 億円 |
今の株価時価総額 558 円16 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 料金改定が定着し、住宅営業の専業基盤として残る 利益 3 億円 · PER 13.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,325 円38 億円
住宅会社が人手を増やせない中で、問い合わせの優先順位付けと来場促進を外注する価値が高まる。KASIKAは建材・住宅業界の事業者との連携を広げ、工務店が使う営業の標準的な道具として残る。新築需要は強くないが、販売成約率を改善できるサービスには予算が付く。会社は分譲マンション向けの規模別料金を顧客に受け入れてもらい、追加拠点と機能の課金も維持する。
AIエージェントは部分的に画面操作を奪うが、会社が管理する顧客の接触履歴と営業ルールが製品の利用を支える。契約企業数はほぼ現状を保ち、一社当たり売上の改善が伸びの中心となる。採用投資の山が過ぎると営業利益率が高まり、経営は余剰現金の一部を自社株買いで戻す。買収は小規模な機能補完に限り、統合失敗で株主の資金を大きく傷つけない。
- KASIKA・住宅不動産向け顧客追客クラウド:数量 1,160(有料契約企業数(社。工務店、仲介業者、分譲事業者の合計。実質数量))× 価格 0.02(有料契約企業1社当たり年間認識売上(億円/社・年。全課金を含む名目値))→ 売上 19 億円・営業利益 3 億円。1,160社は今の0.987倍。マンションの規模別料金と追加拠点の浸透により単価は1.315倍。AI単独の有料売上は加えない。
倍率:資本コスト7.25%、長期成長率g=マイナス0.5%。余剰現金とその税後利息(現金×1.4%)を外した事業ROEは約22.0%であり、普通の堀の残存割合2分の1から増分資本利益率RONICは約14.6%とする。正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=約13.34倍の上限を採用する。長期のAIによる成長鈍化をgに含め、ここからさらに手引きしない。
確率:開示されたKASIKAのAI機能に固有の売上実績はなく、急成長をAIの成功として前借りしない。既存顧客の単価改善と増員一巡による採算回復という二つの成果が必要なので限定的な確率とする。
やや楽観 17% 既存顧客の単価改善と利益率の回復 利益 2 億円 · PER 13.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,050 円31 億円
顧客企業の絶対数は大きく増えないが、複数店舗の仲介会社と分譲マンション事業者での追加課金が進む。工務店の人手不足が営業支援サービスの需要を支え、KASIKAの利用を続ける顧客は比較的厚い利用料を支払うようになる。LIXILなど住宅関連企業との連携は紹介の経路になり、広告費の増加を一部抑える。
AIエージェントの普及で従量のID課金は弱まるものの、物件別・拠点別の契約がその減少を補う。契約企業数は今よりわずかに少ない水準にとどまり、利益率は増員後の正常化で持ち直す。現金を使って小規模な製品改良を続けるが、買収による大きな増収を当てにはしない。営業利益と株主還元が緩やかに回復する十年になる。収益の中心は既存顧客の継続利用であり、海外進出の利益は見込まない。
- KASIKA・住宅不動産向け顧客追客クラウド:数量 1,115(有料契約企業数(社。工務店、仲介業者、分譲事業者の合計。実質数量))× 価格 0.01(有料契約企業1社当たり年間認識売上(億円/社・年。全課金を含む名目値))→ 売上 17 億円・営業利益 3 億円。企業数は今の0.949倍。単価は2027年以降の予定料金の浸透を含め今の1.201倍。手数料の値上げはAI課金とみなさない。
倍率:資本コスト7.25%、長期成長率g=マイナス0.5%。余剰現金とその税後利息(現金×1.4%)を外した事業ROEは約17.9%であり、普通の堀の残存割合2分の1から増分資本利益率RONICは約12.6%とする。正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=約13.42倍の上限を採用する。長期のAIによる成長鈍化をgに含め、ここからさらに手引きしない。
確率:分譲マンション向け料金改定と業界パートナー経由の販売は実行可能だが、顧客数の直近純減があるため継続的な新規純増までは前提にしない。
中立 30% 住宅営業には残るが、操作型SaaSの利用者は減る 利益 1 億円 · PER 13.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 669 円19 億円
住宅会社の追客業務は続くが、人口減少と住宅建築費の上昇で販売会社の広告予算には限界がある。KASIKAは物件ごとの見込み客を管理する機能で生き残るものの、メールの作成や反応の判定は汎用AIでも容易になる。営業担当者が手動で触る画面の価値は下がり、同じ会社でも契約する利用枠が減る。
十年後の契約企業は約千社となる。一方で、分譲マンションの規模別料金や法人単位の管理費は残り、一社当たり売上は今よりやや増える。採用・開発費を急には削れず、営業利益率は2026年5月期を下回る。会社は黒字を保って純資産を積み上げるが、その増分から生まれる利益は以前ほど高くない。自社株買いは断続的で、現金はかなり残る。顧客管理のデータを集めても法令上の独占にはならず、画面以外の価値を増やすには限界がある。
- KASIKA・住宅不動産向け顧客追客クラウド:数量 1,000(有料契約企業数(社。工務店、仲介業者、分譲事業者の合計。実質数量))× 価格 0.01(有料契約企業1社当たり年間認識売上(億円/社・年。全課金を含む名目値))→ 売上 14 億円・営業利益 1 億円。契約企業数は1,175社の0.851倍、1社単価は1.096倍。席・操作画面SaaSの中立範囲0.70〜0.90倍、単価1.00〜1.15倍を守る。
倍率:資本コスト7.25%、長期成長率g=マイナス0.5%。余剰現金とその税後利息(現金×1.4%)を外した事業ROEは約9.7%であり、普通の堀の残存割合2分の1から増分資本利益率RONICは約8.5%とする。正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=約13.67倍の上限を採用する。長期のAIによる成長鈍化をgに含め、ここからさらに手引きしない。
確率:下に寄せる理由:2026年5月末1,175社から8月末1,172社へ純減し、月次解約率は約1.2%である。既存顧客の単価上昇は見えるが新規顧客の純増を裏付ける数字がなく、画面中心のSaaSにAI代替が及ぶ。
やや悲観 27% 業務は残っても単体ソフトの需要が細る 利益 0 億円 · PER 9.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 327 円9 億円
住宅営業の顧客管理は大手CRMや不動産基幹ソフトに統合される。メール作成、見込み度の判定、接客記録の要約がAIエージェントの標準機能になり、KASIKAの追加課金を止める会社が増える。住宅会社の廃業や統合も進み、顧客企業の母数が減る。KASIKAは特定の工務店や分譲案件には残るが、他社へ移す費用より毎月の固定料金を節約する利点が勝つ。
契約企業数は八百社を下回り、一社当たりの料金も概ね横ばいにとどまる。会社は広告宣伝と新規開発を削り、少ない顧客を守るが、必要なサポートと個人情報の管理費は残る。経営陣が隣接サービスを買収しても追加利益は乏しく、配当や買い戻しは小さくなる。黒字が続く前半に得た資金と、抑制した採用・開発費を手元に残すため、十年後も現金は厚い。企業価値は伸びない本業と保有資産に分かれる。
- KASIKA・住宅不動産向け顧客追客クラウド:数量 780(有料契約企業数(社。工務店、仲介業者、分譲事業者の合計。実質数量))× 価格 0.01(有料契約企業1社当たり年間認識売上(億円/社・年。全課金を含む名目値))→ 売上 10 億円・営業利益 0 億円。顧客数は0.664倍、単価は現在並み。事務業務の標準化による値下げと顧客の退出が同時に起こり、売上は現状の約66%。
倍率:契約減少で十年後のROEは資本コスト7.25%を下回る。実際の稼ぐ力は年0.34億円の純利益を上限PER13.79倍より低い9.5倍で評価する。初期の黒字期に得た留保と投資縮小で余剰現金11.3億円が残る。現金の税後利息1.4%を純利益から除き、(0.34−11.3×0.014)×9.5+11.3×戻り方0.75=10.2021億円。将来の買収効果や過去の市場倍率は含めない。
確率:下に寄せる理由:個人情報の履歴を持つ一方で月単位の解約が許され、法定の正本や独自の排他的データはない。住宅販売の構造的な需要縮小と、汎用AI機能の標準搭載が重なる蓋然性を高くみる。
悲観 17% AIと他社基幹ソフトに追客機能を奪われる 利益 0 億円 · PBR 1.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 320 円9 億円
AIエージェントが問合せの整理から内見・来場の提案まで行い、従来型の追客ソフトを単独で買う必要がなくなる。いえらぶなどの不動産業務基盤や大手の汎用CRMは、それらの機能を基本料金に含める。Cocoliveは技術を部分的に追いかけるが、顧客獲得費が高まり、価格を上げれば解約される。営業担当者向けのIDを増やす理由も消える。
顧客数は560社まで減り、料金は上げられない。製品保守とセキュリティ対応の固定費が残り、十年後には営業損失に転じる。経営は損失が深まる前に新規開発と顧客獲得投資を絞り、不採算事業の撤退や組織再編で現金の流出を抑える。未実現の買収相乗効果は存在せず、株主への還元も止まる。直ちに破綻する筋書きではなく、初期に得た利益の留保と回収可能な営業債権があるため、本業が赤字でも純現金約9億円を下回らない資産価値を床とする。
- KASIKA・住宅不動産向け顧客追客クラウド:数量 560(有料契約企業数(社。工務店、仲介業者、分譲事業者の合計。実質数量))× 価格 0.01(有料契約企業1社当たり年間認識売上(億円/社・年。全課金を含む名目値))→ 売上 7 億円・営業利益 −1 億円。顧客数は今の0.477倍、単価は0.974倍。売上は2026年の約46%となり、固定費が収益を上回る。
倍率:営業赤字のためPERは使わず、2026年5月期末の現在自己資本約10.4億円にPBR約0.962倍を掛け、十年後の企業全体の時価総額を10.0億円とする。現預金約8.99億円から有利子負債を控除した純現金は約9億円であり、整理費用と営業負債を回収可能な売掛金などで賄う保守的な処分価値を床に採る。床を超える約1億円は不採算事業を縮小して残る顧客契約の小規模な譲渡・転換価値であり、現金と営業債権を別途重ねて足していない。潜在株式の希薄化係数0.93を掛けた既存株主の取り分も約9.3億円となる。
確率:新たな業界標準への移行と住宅会社の縮小が同時に起こる複合的な負け筋。将来の売上をほぼ半減とし、破綻ではなく営業撤退・資産を残す可能性も含む。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
KASIKA・住宅不動産向け顧客追客クラウド
工務店・住宅メーカー、不動産売買仲介、分譲マンション販売に提供する顧客管理・販売促進SaaS。追加ID、店舗・物件単位、メールやメッセージなどの課金を含む一つの報告セグメント。
| 数量有料契約企業数(社。工務店、仲介業者、分譲事業者の合計。実質数量) | 価格有料契約企業1社当たり年間認識売上(億円/社・年。全課金を含む名目値) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 1,175 | 0.01 | 14 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 0.01 | 14 | 1 |
取り方:2026年8月31日公表の事業計画にある2026年5月末の有料契約企業1,175社と、factsの2026年5月期売上14.5億円(精密値は同社短信14.47436億円)を用い、14.47436÷1,175=0.0123186億円/社・年と推計した。期末社数を年間平均の代理にしており厳密なARPAではない。8月末の1,172社・MRR1億1,700万円からの月額約10万円という別の開示と整合する。料金表は工務店月額5万円・10ID込、仲介は店舗、マンションは物件単位であるが、三業態ごとの社数と収入は開示されないため報告セグメントを恣意的に分割しない。各シナリオの企業数はAIエージェント代替の席・画面SaaS型に従い、中立で今の0.70〜0.90倍、単価は1.00〜1.15倍に収める。
リスクと懸念
AIエージェント代替が利用企業数と単価を削る
KASIKAは業務画面で見込み客を管理し、担当者に接触の手順を提示するSaaSである。AIエージェントがメール、営業日程、問い合わせ、顧客台帳を直接つなげば、専用画面と追加IDの必要性が薄れる。解約率が年間5%未満という強い堀の証拠もなく、AIを導入しただけで競争上の優位が増すとは言えない。中立の契約社数と単価、長期成長率にこの危険を織り込む。
住宅需要と営業会社の数が減る
住宅着工、建築費、金利、人口減少の影響を受け、KASIKAの顧客である工務店や仲介業者は整理統合されうる。営業会社の母数が減るだけでなく、残った顧客も広告・販促費用を減らすと解約しやすい。会社全体のクラウドサービス市場が成長しても、同社に必要な国内住宅営業の企業数が同じ速度で増えるとは限らない。
分譲マンションの値上げが解約を招く
会社は2027年からマンション販売の物件規模などに応じる追加料金を予定する。値上げの実施前に利益率の回復を確実視できない。物件ごとの採算が悪い顧客ほど契約範囲を縮める可能性もある。実行後の月次解約率と既存企業の売上が同時に改善しなければ、価格決定力を備えた企業という評価を改める必要がある。
不動産基幹システムと汎用CRMに機能を取り込まれる
いえらぶCLOUDなどの不動産業務基盤やSalesforceなどは、顧客管理と営業自動化の機能を拡充できる。住宅業界に特化した利点があっても、顧客が本来使っている業務システムへ追客機能が統合されれば単体ソフトは不要になる。比較できる対象市場の競合売上シェアは未開示であり、同社の市場支配力を数字で裏付けられない。
増員と投資が株主資本の利回りを下げる
2026年5月期は増収にもかかわらず営業利益率が大きく下がった。翌期の会社計画も採用・開発投資を優先し増収減益となる。新規獲得した顧客が月次解約を補うだけなら、成長投資は持続的な利益を生まない。資本効率が資本コストを下回る状態で買収を進めれば、厚い現金も少数株主の価値に結びつかなくなる。
個人情報の管理とデータ連携の事故
住宅購入を検討する人の行動履歴や連絡先は個人情報そのものである。誤配信、外部サービスとの接続障害、情報漏えいが起きると、契約企業は営業の生命線を預けることをためらう。生成AIへ顧客の履歴を送る場合には安全な取り扱いを担保する費用が増える。売上の小さい専門クラウド会社にとって一度の信用失墜の影響は重い。
株主還元、支配力、潜在株式の希薄化
2026年に約1億円の自己株式を取得したが、長期の配当性向や総還元額の約束はない。大株主の保有比率が高い中で、余剰資金が少数株主に必ず渡るとは限らない。希薄化後利益の開示から新株予約権等による潜在的な株数増も示唆される。株主の取り分を評価する際は、行使で現金が入る効果を含めても一株当たりの取り分が薄まる危険を残す。
今後の分かれ目
- 有料契約企業が1,172社から1,300社以上へ純増し、月次解約率も0.7%を下回る状態が1年以上続いたら
- 新規顧客獲得費より継続価値が上回り始めた証拠となる。中立の契約企業数を引き上げ、やや楽観以上の重みを増す。数字に表れない堀の物語だけでは変更しない。
- 2027年の分譲マンション料金改定後、月次経常売上が増えても解約率が1.5%を超えたら
- 価格上昇が顧客離反を招いているとみる。一社単価の上昇率を下げ、営業利益率と将来契約企業数を同時に見直す。
- AI機能の有料売上または利用契約数が独立した金額として開示され、既存料金の減少を上回ることが確認できたら
- 初めてAIを独自の追加収益源として計上する。契約数が増えなくても追加課金が利益へ寄与する証拠があれば、上側の筋書きを厚くする。
- 2027年5月期の営業利益約1.68億円という会社予想を大きく下回り、その後も雇用費の増加が続いたら
- 粗利の増分が固定費の増加を吸収できない構造と考え、十年中立の利益率を下げる。単発の開発投資なら翌年以降の回収率を確認する。
- 自己株式取得や増配が継続し、五年間で利益の半分以上が株主へ還元されたら
- 余剰現金の戻り方を0.75から1.0へ引き上げる余地がある。株主に帰属する現金価値が増すが、本業の利益率を機械的には高めない。
- 現預金が事業の収支赤字や高額買収によって大きく減り、流動負債控除後の資産価値が9億円を下回ったら
- 悲観側の資産の床を最新の回収可能額に更新する。過去の現金を将来も手元にあるとみなすことはせず、買収資産の減損も別途確認する。
見ておくもの
- 四半期末の有料利用企業数(2026年8月末1,172社)と新規契約数・退会数の差
- 月次解約率(2026年8月1.20%)および年換算した既存顧客維持率
- MRR(月次経常売上、2026年8月1.17億円)と1社当たりMRR
- 2027年以降のマンション規模別料金改定の定着率と実際の解約率
- 採用人数・人件費と営業利益率、増分の顧客獲得効率
- AI機能の有料売上・API連携・顧客の実利用実績の開示
- 自己株式取得額・増配の開始・新株予約権の行使による実質株数の推移
- 現預金と投資有価証券、運転資金・買収支出の変化
倍率と資本コストの決め方
現在の株価604円は最後の比較だけに用い、契約企業数×一社当たり年間料金から各十年後の売上を求めた。現在の企業数1,175社と月次経常売上の公開数値で数量と価格を相互に点検した。利益率は増員負担の継続度で分け、倍率は資本コスト7.25%、事業ROE、普通の堀の増分利回り、AI代替を織り込む長期成長率マイナス0.5%から計算した。現在や同業他社のPERから逆算していない。
2026年7月の自己株式取得済み14万1,700株は基準株数に反映済みで、十年の還元に再計上していない。最新第1四半期の発行済み株式は7月基準より1万4,000株多いが、ユーザー指定のfacts基準である290万5,140株を固定した。新株予約権の将来行使を株主持分係数で別に控除した。日本基準の新リース会計適用後も家賃を営業費用に含む従前と比較可能な利益にそろえる。
余剰現金は現在の自由資金と十年後の残高を重複して足さない。純利益に含まれる運用利息は営業価値を出すときに除く。悲観は過去の谷のPBRから求めず、純現金約9億円を床にした。営業負債と整理費用を回収可能な営業債権で賄う前提を明示し、やや悲観の評価額も悲観より低くならないよう、実際に留保しうる現金を点検した。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。国債利回り3%と株式リスクプレミアム4.5%から基本7.5%とし、現金余力だけを0.25%減点する。買収成否やAIの勝敗は利益の筋書きで表現する。