結論
FFRIセキュリティは、パソコンの未知の攻撃を防ぐ国産製品 yarai と、官公庁向けの調査・受託を持つサイバー・セキュリティの会社だ。2026年3月期は売上が約4割、営業利益が約7割伸び、利益率は3割を超えた。
筆者の結論は、10年の本質価値は今の時価総額を大きく下回るというものだ。利益率は過去の山にあり、急伸の中身には大型案件が混ざる。そこから製品の契約が1.5倍、値上げが物価並みと置いても、利益は今の1.5倍強にとどまる。
純現金は厚くないうえ、配当性向も低く、少数株主に戻る額は小さい。需要の追い風は本物だが、値段はそれを先取りしすぎている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、無借金で国産技術という個性を持つ点は好ましい。利益率が3割に達し、足元の勢いも強く、研究開発に根ざした経営の姿勢は信頼できる。
ただ、売上が44億円の小さな会社で、直近の急伸には大型案件が混ざる。利益が山にある時に払う値段は、その後の反動を織り込んでいない。還元の性向も低く、積み上がる現金の行き先は少数株主には決められない。事業の読みやすさが足りず、安全域も薄い。経営の技術力は疑わないが、値段が見合わない。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく2つだ。1つ目は製品で、パソコンやサーバーに入れて未知の攻撃を振る舞いで検知する yarai などのライセンス販売である。官公庁や企業、他社製品への組み込みで売り、更新が積み上がる。更新型のため、一度入ると毎年の収入が続く。2つ目は受託・調査で、脆弱性の研究やソフトウェアの検査、官公庁向けの研究開発を人の専門性で請け負う。売上の内訳は有報の要約で確かめられなかったため、製品を約6割、受託・調査を約4割と推定した。顧客は国内の官公庁・防衛関連と大企業が中心で、売上の変動は大型案件の有無に左右される。
優良さと弱いところ
強みは、国産の独自技術を持つ数少ない会社であることだ。国の機関や防衛関連が海外製を避ける場面で、選ばれる理由になる。無借金で自己資本比率は6割を超え、利益率は3割に達した。
弱みは、規模が小さいことだ。売上は44億円で、海外大手の研究開発費とは桁が違う。人材の採用と定着も成長の足かせになる。直近の急伸は大型案件の寄与が大きく、継続して稼げる水準かは読み切れない。過去には赤字や利益率が5%台に落ちた年もあり、堀は普通とみる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のセキュリティ市場は年率9%前後の名目成長が続くとされ、サイバー攻撃の増加と法規制の強化が追い風である。政府の経済安全保障の方針は、国産の技術を持つ会社に有利に働く。
一方、エンドポイント製品の分野はクラウド型の海外大手が強く、検知の自動化が進むほど製品単体の値段は下がりやすい。生成AIは攻撃側の力も上げるため需要は増すが、守る側の検知もAIで標準化し、独自技術の優位が薄れる危うさがある。同業の国内勢も官公庁向けを狙っている。需要の追い風は、競争の厳しさを消さない。受託・調査の人月型は、AIの自動化で数量が縮むと見る。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、直近の配当性向は1割台と低い。自社株買いの実績は見つからなかった。中期経営計画は確認できる資料の中で目標の数字を見つけられず、東証に出した事業計画の資料は取得できなかった。還元の具体的な数字の約束も確認できず、「数字の約束なし」として扱う。無借金で現金が積み上がる体質のため、戻り方は慎重に見る。M&Aの実績は目立たない。
見通しをどちらに寄せたか
強気の材料は国産技術への需要と無借金で、慎重な材料は利益率が過去の山にあることと大型案件の反動、海外大手との競争である。急伸が定着する証拠はまだ薄く、確率はやや下側に寄せた。やや悲観と悲観を合わせて36%、上側を26%とし、中立は38%だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,901 円309 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 275 円22 億円)。 今の値に割り戻すと 2,131 円169 億円、今との差 −76.0%、 期待の年率 −7.3%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,000 円554 億円 | 480 円38 億円 | −15.9% | −1.7% | 598 円47 億円 |
| やや楽観 | 18% | 5,892 円466 億円 | 379 円30 億円 | −29.5% | −3.4% | 1,129 円89 億円 |
| 中立 | 38% | 4,749 円376 億円 | 303 円24 億円 | −43.2% | −5.5% | 1,920 円152 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,856 円147 億円 | 190 円15 億円 | −77.0% | −13.7% | 491 円39 億円 |
| 悲観 | 12% | 253 円20 億円 | 63 円5 億円 | −96.4% | −28.4% | 38 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,901 円309 億円 | 275 円22 億円 | −53.0% | −7.3% | 4,176 円330 億円 |
今の株価時価総額 8,890 円703 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 防衛・重要インフラ向けが広がり製品が伸び続ける 利益 27 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 7,000 円554 億円
サイバー攻撃の増加と経済安全保障の強化で、官公庁・防衛・重要インフラ向けの需要が10年続く。国産の独自技術という強みが評価され、製品のライセンス契約は今の1.9倍に増え、値上げも物価並みに通る。受託・調査の仕事も専門性の高さから単価が上がる。利益率は今の水準を上回り、営業利益は今の2倍超になる。生成AIで脆弱性の発見が速くなる分は、製品の売り物にも取り込める。
- 製品(yarai などのライセンス):数量 19.0(有償ライセンス契約数(万件、推定))× 価格 3.60(1 契約当たり年間売上(万円))→ 売上 68 億円・営業利益 29 億円
- 受託・調査:数量 0.2(作業量(万人月、推定))× 価格 135(1 人月当たり売上(万円))→ 売上 24 億円・営業利益 5 億円
倍率:事業の ROE と k から式で置いた正当化 PER の上限そのもの。余った現金(戻り方込み)を足す。
確率:国産技術と防衛需要が10年続く筋書き。急伸が定着する証拠はまだ薄く8%。
やや楽観 18% 国内の需要を取り込み製品がじわり伸びる 利益 22 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 5,892 円466 億円
国内のセキュリティ投資の拡大に乗り、ライセンス契約は今の1.7倍に増える。値上げは物価の少し下で、利益率は4割強を保つ。受託・調査は人の専門性で稼ぐ分、数量は縮み始めるが単価で補う。営業利益は今の2倍弱に届く。欠点は、官公庁など特定の顧客への偏りが残ることだ。
- 製品(yarai などのライセンス):数量 17.0(有償ライセンス契約数(万件、推定))× 価格 3.55(1 契約当たり年間売上(万円))→ 売上 60 億円・営業利益 25 億円
- 受託・調査:数量 0.2(作業量(万人月、推定))× 価格 130(1 人月当たり売上(万円))→ 売上 20 億円・営業利益 4 億円
倍率:事業の ROE と k から式で置いた正当化 PER の上限そのもの。余った現金(戻り方込み)を足す。
確率:需要は伸びるが官公庁への偏りが残る。18%。
中立 38% 製品は伸びるが海外大手との競争で利益率は今並み 利益 18 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 4,749 円376 億円
国産のエンドポイント製品として契約は今の1.5倍に増え、値上げは物価並みに届く。受託・調査は人の作業が自動化されて数量が縮み、単価は物価に届かない。利益率は過去の山と同じ3割強で止まる。営業利益は今の1.5倍強になり、還元は性向を少しずつ上げる程度にとどまる。直近の急伸は大型案件の寄与も大きく、定着する分だけを置いた。
- 製品(yarai などのライセンス):数量 15.0(有償ライセンス契約数(万件、推定))× 価格 3.48(1 契約当たり年間売上(万円))→ 売上 52 億円・営業利益 20 億円
- 受託・調査:数量 0.1(作業量(万人月、推定))× 価格 125(1 人月当たり売上(万円))→ 売上 17 億円・営業利益 3 億円
倍率:事業の ROE と k から式で置いた正当化 PER の上限そのもの。余った現金(戻り方込み)を足す。
確率:国産製品の伸びと、大型案件の反動・海外大手との競争を合わせた落としどころ。38%。
やや悲観 24% 大型案件の反動と価格競争で伸びが止まる 利益 9 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,856 円147 億円
直近の急伸を支えた大型案件が一巡し、海外の大手製品との価格競争が強まる。契約は今の1.15倍にとどまり、値上げは物価に届かない。受託・調査は生成AIで一部が置き換わる。開発と営業の人員を抱える固定費が重く、利益率は2割強に下がる。営業利益は今の水準を下回る。
- 製品(yarai などのライセンス):数量 11.5(有償ライセンス契約数(万件、推定))× 価格 3.20(1 契約当たり年間売上(万円))→ 売上 37 億円・営業利益 11 億円
- 受託・調査:数量 0.1(作業量(万人月、推定))× 価格 110(1 人月当たり売上(万円))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円
倍率:事業の ROE が資本コストに近く、稼ぐ力の値まで。余った現金(戻り方込み)を足す。
確率:業績が大型案件で膨らんだ直後で、反動と価格競争の確率は小さくない。24%。
悲観 12% 製品が置き換えられ受託中心の小さな会社に戻る 利益 1 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 253 円20 億円
独自技術の優位が薄れ、海外大手や無料に近いAI検知に製品が置き換えられる。契約は今の0.75倍に減り、価格も下がる。受託・調査も縮み、研究開発の固定費だけが残って営業利益はほぼゼロになる。会社に残る価値は純現金が中心になり、稼ぐ力では値が付かない。
- 製品(yarai などのライセンス):数量 7.5(有償ライセンス契約数(万件、推定))× 価格 2.90(1 契約当たり年間売上(万円))→ 売上 22 億円・営業利益 3 億円
- 受託・調査:数量 0.1(作業量(万人月、推定))× 価格 100(1 人月当たり売上(万円))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円
倍率:悲観の床は稼ぐ力でなく、純現金から前受金などを引いた20億円を今の自己資本38億円で割った値。
確率:単一製品の会社が置き換えられる筋書き。12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
製品(yarai などのライセンス)
パソコン・サーバー向けの未知の攻撃の検知製品を、官公庁・企業・他社への組み込みで販売する。
| 数量有償ライセンス契約数(万件、推定) | 価格1 契約当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 2.60 | 26 | 11 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 3.48 | 52 | 20 |
取り方:有報の内訳を確認できず、売上43.5億円の約6割を製品と推定(軽い版)。1契約年約2.6万円と置いて10万件に推定。【AI エージェント代替】検知の標準化で単価に圧力はあるが、需要は増える側。
受託・調査
脆弱性の研究、ソフトウェアの検査、官公庁向けの研究開発を人の専門性で受託する。
| 数量作業量(万人月、推定) | 価格1 人月当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.2 | 100 | 18 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.1 | 125 | 17 | 3 |
取り方:売上の約4割を受託・調査と推定。1人月100万円と置き0.18万人月に推定(軽い版)。【AI エージェント代替】人月で売る型で、数量は縮みやすい。
リスクと懸念
利益が急伸の山にある
2026年3月期は利益率が31%と過去最高で、大型案件の寄与が大きい。反動が出れば利益は一気に落ちる。過去も赤字と5%台の年があった。
海外大手との競争と検知の標準化
クラウド型の海外大手が強く、AIによる検知が標準化すれば製品単体の価格は下がる。中立の価格は物価に届く程度とした。
官公庁・防衛関連への偏り
予算の付き方や調達方針の変更で需要が一度に動く。国産技術の強みと表裏一体の偏りである。
受託・調査がAI エージェントに代わられる
脆弱性の検査や調査の作業はAIエージェントが担いやすい。中立では数量を今の0.75倍と置いた。
今後の分かれ目
- 製品の契約数や売上が、大型案件を除いても前年を超えて伸びる
- 急伸が定着した印。製品の数量を高く置き直し、やや楽観に近づく。
- 配当性向や自社株買いを引き上げる数字の発表が出る
- 積み上がる現金が戻る道筋が見える。戻り方を上げられる。
- 大型案件が一巡して売上が前年を下回る
- 利益の山が過ぎた印。やや悲観に近づく。
- 海外大手が国内の官公庁向けで同種の製品を受注する
- 独自性の優位が薄れる。確率を下側へ寄せる。
見ておくもの
- 製品とサービスの売上の内訳
- 受注残と大型案件の有無
- 配当性向と自社株買い
- 27年3月期の営業利益の進み
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や同業の倍率を見ず、事業のROE・k・gから式で置いた。kは7.5%にqualityの-0.25%を足した7.25%。g_longは2%。売上の内訳は確認できず推定。中期経営計画の目標数字と還元の約束は見つからなかった。27年3月期の営業利益の会社予想は、資料により14.5億円と16億円で食い違い、確定できていない。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。