結論
ヤプリは、企業が自社のスマートフォンアプリを作り、公開後も運用できるクラウド基盤を売る会社だ。黒字化と契約の積み上がりは本物だが、十年持つ株主にとって今の約98億円の評価は割高と判断する。顧客がアプリを継続利用する力と、アプリを作り直す技術の値崩れを混同してはいけない。
2025年12月期は売上高60.6億円、営業利益8.8億円まで回復した。2026年6月末には契約数960件、平均月額利用料47万円、年間経常収益54.8億円に達している。2022年までの赤字体質を脱し、年間契約と顧客のアプリ資産が売上を支えている。ただし月次解約率0.90%は年率換算で約10%の売上流出に相当し、不動の顧客基盤ではない。
十年後に残るのは、スマートフォン向けの配信・保守・利用者データ連携という面倒な仕事であろう。しかし、画面の設計、販促施策、簡単なアプリ制作はAIエージェントや大手基盤に吸収される。会社が掲げる2030年の成長目標は評価するが、その延長線で2035年の契約数を増やし続けることはしない。中立では一度伸びた後に利用料の競争が強まり、利益は直近を下回る。
五つの筋書きを資本コストで現在に戻した本質価値は約48億円となる。現在の時価総額との差は約51%のマイナスだ。見方を変えるには、長く残る配信基盤としての不可欠さと、AI機能から独立した有料収益が数字で証明される必要がある。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主は、毎月の利用料が「自分のものになる利益」に変わる割合を見るべきだ。2025年の営業利益率は14.6%まで上がった。新しい顧客を取る広告宣伝費が一巡し、既存のアプリ運用を共通基盤で扱えるようになれば、追加売上の利益率は高い。ソフトウェアらしい魅力は確かにある。
だが、売上が継続することと十年後の利用価値が続くことは違う。企業の販促担当者が画面で更新する仕事は、エージェントに置き換えられやすい。アプリ公開と会員データ連携は残っても、そこで請求できる金額は低下しうる。継続売上の質を確かめず、今の利益率を永久に伸ばすのは危険だ。
資本効率も慎重に読む。かつて赤字を抱えたため自己資本が小さく、黒字に戻った直近のROEは高く見える。累積利益が自己資本に積み上がったときも同じ収益率を得られるかは未検証だ。配当開始と買い戻しは好ましいが、余剰現金が確実に全額還元される実績にはまだ足りない。
筆者が所有したいのは、顧客が手放しにくい配信基盤へ進化し、制作代行から得る収益への依存を減らしたヤプリだ。その可能性はある。しかし現在の時価総額は、すでに黒字転換後の利益を十年以上保てると見込んだ評価に近い。先が読めない製品の将来に対しては、相応の安全域が必要である。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は、顧客企業のアプリをプログラム不要で開発し、AppleとGoogleのアプリストアへの公開、更新、利用分析、プッシュ通知、会員情報との連携まで支える「Yappli」の月額利用料である。利用企業は小売、外食、アパレル、メーカーなどの消費者向けブランドが多い。アプリを一度配信すると利用者が端末に保持するため、単純なウェブサイトより乗り換えの手続きが重い。
販促向けに加え、従業員向けの「Yappli UNITE」、ウェブ体験の「Yappli WebX」、ミニアプリ、モバイルオーダーへ用途を広げている。導入初期の設計、制作、データ連携、運用支援からは単発の売上も生まれる。会社は会計上、これらを単一セグメントとして扱う。月額型と制作支援型を分けて考えるのは、契約継続と制作工数ではAIに奪われる仕事が異なるからだ。
2025年末の契約は939件で、年の売上高の八割強が継続利用料であった。2026年6月末は960契約に増え、うちアプリが933件である。プロダクトの契約数にはWebXとMiniAppが含まれるが、買収先のモバイルオーダーは含まれないため、グループ売上と契約数は完全には対応しない。また「解約率」は売上金額基準で、解約した会社の数ではない。
顧客が支払う金は、アプリが毎日動くことだけでなく、販促担当者が素早く通知や会員施策を実行できることへの対価でもある。後者は画面操作が価値の中心であり、AIエージェントが担当できる領域だ。他方、アプリストア対応、会員登録、プッシュ通知の許諾管理など、間違えれば顧客との接点を失う仕事は残る。この二つの境界が将来の利益率を決める。
優良さと弱いところ
最も確かな強みは、すでに配信済みの企業アプリと、その利用者との接点である。会社によれば採用アプリの累計ダウンロードは3億件を超えた。企業が提供会社を替えるには、アプリの再審査、データ連携の作り直し、社内担当者の再教育が要る。更新の手間を請け負うことが、継続課金を守る小さな堀になっている。
ただし堀は独占的ではない。月次の売上解約率0.90%を年換算すると約10.3%で、年5%未満という「記録の正本」型の強い実績には届かない。顧客の会員情報は原則として顧客企業の資産であり、ヤプリだけが持つ再現不能なデータとは言い切れない。移行に年単位の規制対応が必要との証拠もないため、アプリの運用基盤としての粘着性を認めながらも、永続的な値上げ力は見込まない。
直近の財務は改善している。営業利益は2023年に黒字化し、2025年には8.8億円まで伸びた。純現金は約10億円、自己資本は約28億円で、借入金の借り換えに追われる構造ではない。一方、2025年の高いROEには赤字期に縮んだ純資産と税効果の影響がある。利益を再投資する利回りが、十年後も同じ高さで続く証拠とはならない。
アプリストアの仕様変更や大手企業の会員基盤への従属も弱点だ。アプリ運用の一体性は顧客の離脱を遅くするが、AIが制作と運用の手順を平準化すれば乗り換え費用は低下する。堀は存在するが、広がると断定できる段階にはない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の企業向けローコード・ノーコード市場は拡大中である。2026年10月公表の調査では、両市場を合わせた2025年度の国内規模は2,354億円、2026年度は2,762億円と予測される。ノーコードだけでも2030年度に1,178億円と見込まれる。ただしこの統計には基幹系や業務アプリ制作も入り、顧客接点のブランドアプリだけの市場ではない。ヤプリの売上をこの市場で割った数字を厳密なシェアと呼ぶべきではない。
会社の成長資料では、消費者向けアプリの狙い先として大企業約800社、中堅企業約6,000社、従業員向けでは別に大企業約5,000社などを示している。2025年末の939契約のうち消費者向けが約6割と仮定すれば、前者の大中堅企業約6,800社に対する浸透率は一桁台半ばから後半になる。ただし契約と顧客企業は必ずしも一対一ではない。競合ごとの同じ定義の契約数やシェアは公開されておらず、精密な順位付けはできない。
対抗相手はアプリ制作基盤のMGReやShopify周辺のアプリ構築会社だけではない。会員施策ではSalesforce、Microsoft、LINEミニアプリ、既存EC基盤、社内エンジニアが競合する。顧客がブランドアプリを持つ必然性を失えば市場そのものが細る。反対に、会員証、店舗通知、従業員連絡などの実際の利用場面は、単なるチャット画面では置き換わりにくい。
市場調査機関は生成AIとノーコードが補い合うと予測する。しかし株主には、業界全体の成長よりもヤプリに残る取り分が重要だ。AIで制作費が下がって新規導入が増えても、価格と継続契約を維持できなければ利益は伸びない。物価が十年で約34%上がる世界でも、アプリ運用の利用料には価格競争が働き、物価並みの値上げを当然視できない。
資本政策と M&A
資本配分は、赤字期の調達依存から黒字化後の還元と周辺事業への投資へ移りつつある。2025年12月期には初配当を実施し、自己株式の取得も行った。2026年8月にもToSTNeT取引で約0.64億円を使い、8万5,200株を取得した。大幅な発行株式数の減少が続く段階ではないが、利益が株主に戻るようになった変化は評価できる。
周辺領域ではフラーへの資本参加、モバイルオーダー事業の取り込みを進めた。2026年9月にはAI関連の子会社設立を発表している。ただしAI子会社がどれだけ独立した収益を上げるかはまだ開示で確認できない。単発の買収利益ではなく、契約単価や顧客維持が改善したかで成功を判定したい。
2026年の成長説明資料は2030年に売上高100億円以上、調整後EBITDA20億円以上を目指す。調整後EBITDAは株式報酬費用を足し戻した利益で、株主の手取りではない。ROE、DOE、配当性向、総還元性向、自社株買い総額について、中期の数値の約束は見当たらない。十年の還元は、利益が出る局面に限って配当と小規模買い戻しを続けるものとし、買収を過大に正当化する増益は見込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強みは単にプログラムを書かずにアプリが作れることではない。会員証やポイント、店舗案内、通知を企業の日常業務とつなぎ、アプリストアの更新を請け負う点にある。企業はリニューアルのたびに顧客へ再インストールを求めることを嫌う。累計3億ダウンロードという利用実績は、技術そのものではなく既存の顧客接点を守る力を示す。
UNITEは社内連絡や従業員体験という別の予算に入り、WebXとMiniAppはスマートフォンのネイティブアプリだけでは届かなかった顧客を開拓する。営業先を増やす余地は残る。2026年6月の960契約と平均月額47万円は、顧客が導入後も継続して費用を払っている証拠だ。実際、営業赤字の続いた会社は売上の伸びと費用管理で黒字化した。
AIが設計・運用の作業を安くすれば、自前で人員を抱えにくい企業がアプリ施策を始めやすくなる。そうなれば、会社が担う配信、セキュリティ、品質管理の仕事はむしろ価値を増すかもしれない。ただしAI自体を有料で売って稼いだ金額は確認できないので、未実現のAI売上を利益の柱に先取りはしない。
2030年の売上100億円以上と調整後EBITDA20億円以上という目標には、経営陣が短期の黒字で満足せず用途を広げる意思が表れている。高い継続率を保ちながら利用料を上げられれば、運用基盤としての地位は強くなる。余った金を無理な買収に使わず還元するなら、株主価値の上振れもある。
慎重な見方
事業の表面上の安定性は、今日使われている操作画面が十年後も必要だという仮定に立っている。企業が欲しいのはアプリ制作ツールではなく、顧客との販売機会や従業員への情報伝達だ。AIエージェントが顧客情報を読み取り、販促施策から公開作業まで一貫して実行すれば、制作・運用画面の料金は下がる。既存顧客も、価格差が大きければ乗り換えの労力を払う。
月次の売上解約率0.90%は落ち着いた数字に見えるが、同じ率が続けば一年で売上の約一割が消える。新規契約と単価上昇で補う構造が必要である。顧客の会員情報や利用履歴は顧客自身の資産なので、独自データを独占する基盤として強い倍率を正当化しにくい。AppleとGoogleの公開ルール変更も、サービス提供側の交渉力を制限する。
費用が軽いという期待にも弱さがある。販促支援、導入設計、顧客とのデータ連携には人の作業が残り、その単価は生成AIで圧縮される。従業員向けUNITEやモバイルオーダーを増やしても、競争相手には人員と販売網を持つ大手が並ぶ。買収した周辺事業が不採算なら、当初の売上拡大はむしろ現金を食う。
黒字化後のROEも、過去の累積損失で小さくなった資本を分母にした数字だ。税効果の正常化、研究開発と販売の継続費用を含めると、純利益は営業利益と同じ速さでは増えない。今の時価総額が見ているのは将来の夢ではなく、十分に成熟した収益を先取りした値である。
どちらに重みを置いたか
既存アプリの乗り換えに手間が掛かること、契約が増えながら黒字化したことは確かな強みである。ただし解約率は年率換算で一割前後で、記録の正本や規制対応に守られた基盤とはまだ呼べない。AIによる操作・制作代替を中立の数量と単価、長期成長率に織り込み、資本コストと寿命に同じ理由を重ねなかった。上側二つの確率32%に対し下側二つを38%と少し重くする。短期の改善より十年後の値決め力の不確実性を重視した結果、現在の時価総額に対する評価は割高となる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 577 円74 億円(+ 還元の換算額還元の合計 147 円19 億円)。 今の値に割り戻すと 375 円48 億円、今との差 −48.4%、 期待の年率 0.0%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 1,270 円163 億円 | 272 円35 億円 | +112.4% | +8.8% | 185 円24 億円 |
| やや楽観 | 20% | 992 円128 億円 | 225 円29 億円 | +67.7% | +5.9% | 243 円31 億円 |
| 中立 | 30% | 581 円75 億円 | 163 円21 億円 | +2.6% | +0.3% | 223 円29 億円 |
| やや悲観 | 24% | 158 円20 億円 | 70 円9 億円 | −68.6% | −12.3% | 55 円7 億円 |
| 悲観 | 14% | 99 円13 億円 | 23 円3 億円 | −83.2% | −17.4% | 17 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 577 円74 億円 | 147 円19 億円 | −0.3% | 0.0% | 724 円93 億円 |
今の株価時価総額 726 円93 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 12% 配信基盤として踏みとどまる 利益 10 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,270 円163 億円
消費者向けブランドアプリは大きく減らず、従業員向けUNITEやWebXが顧客接点を補う。既存顧客の更新率が高まり、アプリストア対応、会員情報連携、障害対応という日常の運用が料金の中心に移る。新しい契約は減っても顧客一社で使う機能が増え、プラットフォーム単価は現在より上がる。制作支援でも高難度のデータ連携や継続運用に対価が残る。
2030年の成長戦略の一部が実現し、その後のAI競争を経ても2025年並みの939契約を守る。自社でAI機能を提供しても、金額が開示されるまでは独立したAI収益は数えない。外部基盤との競合は続くが、顧客が使うアプリの移行手間と品質管理が優位を支える。買収は小規模な機能補完にとどめ、無理な拡大はしない。
営業利益率は単発制作より基盤課金が厚い構成で改善し、配当と自社株買いで十年累計35億円を戻す。十分な現金を残せば、2035年に利益が大きく伸びていなくても株主の取り分は維持される。
- アプリ・ウェブ配信プラットフォーム(PF):数量 939(年末の有料プロダクト契約数(件))× 価格 0.06(契約当たり年間経常売上(億円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 13 億円。既存契約939件を保ち、料金は十年で15%上昇。
- 導入制作・運用支援サービス(PS):数量 140(制作・個別導入・運用支援の年間換算案件数(件・推定))× 価格 0.10(1案件当たり平均売上(億円・推定))→ 売上 15 億円・営業利益 2 億円。制作案件を維持し、高難度の案件に単価を寄せる。
倍率:AIエージェント代替をプラットフォームの契約数・単価と長期名目成長率g=0%に反映。k=7.75%、g=0%ゆえ、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=1÷k=12.90倍。2035年の営業事業の利益に対し、事業に不要な現金65億円の税後金利1.4%相当を控除し、戻り方75%の現金価値を別途加える。市場の過去PERを参照していない。
確率:高難度の連携とアプリ更新管理で顧客を維持する強い結果だが、AI収益を開示上確認できないため少数側にとどめる。
やや楽観 20% 製品の多角化が減少を補う 利益 8 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 992 円128 億円
ブランドアプリへの需要は残るが、導入企業の一部はLINEミニアプリや既存のEC基盤へ移る。ヤプリは従業員向けUNITEとWebXを伸ばし、減ったネイティブアプリの契約をある程度補う。2025年の939契約に対して2035年には883契約となるが、複数のプロダクトを利用する顧客が増え、月額料金の総額は維持しやすい。
AIは簡単な画面制作を安くする。顧客への導入支援とデザインの工数売上は縮む一方、データ連携やアプリストアでの品質管理には収入が残る。プラットフォーム価格は十年で約13%上昇し、物価上昇分のすべてを顧客に転嫁できるわけではない。営業体制と共通機能の整備で、費用の増え方は売上より抑えられる。
大きなM&Aは行わず、補完的な事業投資に絞る。2030年の野心的な目標を恒久的な成長率と混同せず、最終年には成熟した顧客基盤としての収益を残す。十年累計の株主還元は29億円になる。
- アプリ・ウェブ配信プラットフォーム(PF):数量 883(年末の有料プロダクト契約数(件))× 価格 0.06(契約当たり年間経常売上(億円・名目))→ 売上 53 億円・営業利益 11 億円。契約数は94%、価格113%へ。
- 導入制作・運用支援サービス(PS):数量 118(制作・個別導入・運用支援の年間換算案件数(件・推定))× 価格 0.10(1案件当たり平均売上(億円・推定))→ 売上 11 億円・営業利益 1 億円。案件数84%、価格125%へ。
倍率:AIエージェント代替をプラットフォームの契約数・単価と長期名目成長率g=0%に反映。k=7.75%、g=0%ゆえ、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=1÷k=12.90倍。2035年の営業事業の利益に対し、事業に不要な現金52億円の税後金利1.4%相当を控除し、戻り方75%の現金価値を別途加える。市場の過去PERを参照していない。
確率:UNITEとWebXの既存顧客への追加販売が進み、ネイティブアプリの減少をほぼ補える。
中立 30% AI代替で数量が縮む 利益 4 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 581 円75 億円
2030年に向かう数年間は企業のアプリ刷新とUNITE導入が進む。しかし、その後はAIエージェントがアプリの設計、通知文の制作、キャンペーン設定を引き受け、発注先を変える手間が小さくなる。顧客が求めるのは安定した配信と会員情報連携に絞られ、アプリ管理画面に支払う予算は伸びない。契約数は2025年の939件から770件へ減る。
プラットフォームの月額単価は新機能もあり約8%上がるが、物価の累積上昇率34%には大きく及ばない。制作・運用支援の案件数は約三分の二へ縮み、労務費上昇を単価へ十分転嫁できない。顧客の内製化も進むため、現金を多く残しても、事業が将来生む利益は現在より低くなる。
経営は配当と限定的な自社株買いを続ける。買収事業から過大な相乗効果は見込まず、成熟した基盤を維持するための開発費は削らない。十年の累計還元は21億円で、2035年の税後利益は4.3億円にとどまる。
- アプリ・ウェブ配信プラットフォーム(PF):数量 770(年末の有料プロダクト契約数(件))× 価格 0.06(契約当たり年間経常売上(億円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 7 億円。契約数82%、価格108%。長期の値上げ力は物価以下。
- 導入制作・運用支援サービス(PS):数量 91.0(制作・個別導入・運用支援の年間換算案件数(件・推定))× 価格 0.09(1案件当たり平均売上(億円・推定))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。制作工数型の案件数65%、単価120%。
倍率:AIエージェント代替をプラットフォームの契約数・単価と長期名目成長率g=0%に反映。k=7.75%、g=0%ゆえ、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=1÷k=12.90倍。2035年の営業事業の利益に対し、事業に不要な現金34億円の税後金利1.4%相当を控除し、戻り方75%の現金価値を別途加える。市場の過去PERを参照していない。
確率:既存アプリの配信機能は残る一方、制作・更新操作がAIで代替される中心経路。
やや悲観 24% 統合基盤に顧客を奪われる 利益 1 億円 · PER 10.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 158 円20 億円
AIエージェントが販促担当者の定型作業を代替し、企業は高額なアプリ運用契約を更新する前に既存のCRMやEC基盤と比較する。ヤプリの契約数は629件まで減り、単価も物価に追いつかない。UNITEの一部は残るが、Microsoftなどの統合基盤と重複する用途を失い、消費者向けアプリでもLINEの仕組みが普及する。
制作・運用支援は人が手を動かす工程から先に値下がりし、案件数は77件程度となる。固定的な開発費、営業人員、上場企業としての管理費は売上ほど速く減らない。既存契約の保守で営業黒字はかろうじて守るが、税後利益は1億円まで薄くなる。
買収による収益の穴埋めはうまくいかず、会社は新しい大型投資を控える。十年累計還元は9億円とし、残る現金の一部も維持費用に備えて留保する。企業としては存続しても、成長型ソフト企業の値付けは維持できない。
- アプリ・ウェブ配信プラットフォーム(PF):数量 629(年末の有料プロダクト契約数(件))× 価格 0.05(契約当たり年間経常売上(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 4 億円。契約数67%、価格102%。
- 導入制作・運用支援サービス(PS):数量 77.0(制作・個別導入・運用支援の年間換算案件数(件・推定))× 価格 0.08(1案件当たり平均売上(億円・推定))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。制作案件数55%、価格107%。
倍率:AIエージェント代替と顧客流出で事業のROEが低下し、未来の超過収益が消える。k=7.75%、長期g=0%のPER上限12.90倍より低い10.0倍で、残存利益の寿命を保守的に見る。現金17億円は受取利息を除外し75%だけ価値に算入する。
確率:AIと既存業務・EC・CRM基盤への統合が進み、特に新規開拓の採算が落ちる。
悲観 14% 顧客接点を失い資産価値だけが残る 利益 −4 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 99 円13 億円
制作と運用を自動化するAIエージェントが普及し、既存の会員管理やECのシステムがアプリ公開機能を内包する。アプリ自体が消えるわけではないが、ヤプリを介さずに更新できる企業が増える。契約は394件と2025年の約四割に落ち、単価も現在より低い。強みだった導入の容易さは、競合にとっても当然の機能になる。
制作支援は新規案件が減り、既存案件の単価も下がる。残存顧客のためのサーバー、セキュリティ、アプリストア対応を止められず、両事業は営業赤字になる。投資した周辺事業でも十分な収益を得られず、税効果資産やのれんの評価見直しが必要になる。大規模買収や追加増資を事実として前提にはしない。
過去の黒字期に積み上げた資産はあるため、直ちに倒産する筋書きではない。それでも株主がその現金を自由に引き出すことはできない。十年の累計還元は3億円だけにとどまり、将来の稼ぐ力より現時点で換金できる資産の保守的な価値を重視する。
- アプリ・ウェブ配信プラットフォーム(PF):数量 394(年末の有料プロダクト契約数(件))× 価格 0.04(契約当たり年間経常売上(億円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 −1 億円。契約数42%、価格85%。
- 導入制作・運用支援サービス(PS):数量 56.0(制作・個別導入・運用支援の年間換算案件数(件・推定))× 価格 0.07(1案件当たり平均売上(億円・推定))→ 売上 4 億円・営業利益 −1 億円。制作案件数40%、価格95%。
倍率:AIエージェント代替で最終年は赤字のためPERを使わない。2025年末の自己資本28.2億円に対する清算・再編価値45%を採用し、12.69億円とする。のれん約1.1億円、回収が不確かな繰延税金資産、人的資産は清算価値から外す。過去のPBR安値は用いず、推定の換金可能資産12.0億円を上回るか照合した。
確率:複数の大手基盤に利用者接点を奪われ、売上が半分を大きく下回る構造的な敗北。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アプリ・ウェブ配信プラットフォーム(PF)
Yappliのアプリ配信・運用、従業員向けUNITE、WebX、MiniApp等の継続利用料。会社の会計セグメントは単一であり、ここでは継続課金を経済的に分離する。
| 数量年末の有料プロダクト契約数(件) | 価格契約当たり年間経常売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 939 | 0.05 | 50 | 9 |
| 10 年後 中立 | 770 | 0.06 | 44 | 7 |
取り方:2025年末の開示契約数939件を数量に使用。2025年の総売上60.56億円と2026年決算説明資料の前年月額利用料比率約82%を突き合わせ、継続課金売上を約49.65億円と推定。価格は49.65÷939=0.05288億円/年、月約44.1万円に相当する。2026年6月末の960契約・平均月額47.0万円・ARR54.8億円との方向も合うが、年度末時点と年平均の差がある。営業利益8.5億円は2025年の全社8.8億円からの分析上の配賦で、会社の開示値ではない。AIエージェント代替の型は、席課金に準じる操作画面中心のSaaS(契約単位課金)と判断。
導入制作・運用支援サービス(PS)
導入初期の設計・制作、個別データ連携、運用の受託作業、その他非月額売上。AIによる工数代替をプラットフォームとは別に評価する。
| 数量制作・個別導入・運用支援の年間換算案件数(件・推定) | 価格1案件当たり平均売上(億円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 140 | 0.08 | 11 | 0 |
| 10 年後 中立 | 91.0 | 0.09 | 9 | 0 |
取り方:2025年の総売上60.56億円から、経常利用料相当49.65億円を差し引いた10.91億円が導入・制作などの非月額部分の近似。案件数と案件別受注金額の開示はないため、実務上の制作・データ連携支援1件当たり約500万~1,000万円という幅の仮定から、約140件×780万円と置く。単なる市場シェア按分ではなく、非月額売上と実物案件単価から逆算した検証可能な数量仮説である。営業利益0.3億円は分析上の配賦で会社のセグメント利益ではない。AIエージェント代替の型は人月・工数型とする。
リスクと懸念
AIエージェント代替と料金体系の陳腐化
ヤプリの価値には顧客が担当者向けの画面を使ってアプリ制作・運用する部分が含まれる。AIエージェントが販促方針から操作まで代行すれば、契約数だけでなく月額利用料にも下げ圧力がかかる。自社のAI機能が実際に課金されている金額は確認できず、単に機能を追加したことを増益とは扱えない。
契約解約と競争相手の広がり
2026年6月の月次売上解約率0.90%を年換算すると、既存の月額課金の約一割が失われる計算になる。実際の契約解約率とは異なるが、新しい顧客獲得と追加販売が止まれば成長が逆回転する。MGReやShopify関連事業者だけでなく、LINE、Salesforce、Microsoft、顧客の内製チームとも争う。
会員接点のプラットフォーム依存
スマートフォンアプリの公開と更新はAppleとGoogleの仕様、審査、プライバシー政策の変更に左右される。通知許諾や個人情報の扱いが厳しくなれば、販促アプリの効果が下がり、顧客が支払える価格にも響く。アプリストアを自ら保有しないため、重要なルールを独自に決めることはできない。
買収・周辺事業の資本配分
フラーへの投資、モバイルオーダーの取り込み、AI子会社設立は事業を広げる機会であるが、すべてが既存顧客の継続率を改善するとは限らない。先行費用が増えた後で期待した売上が出なければ、利益率と現金の両方を傷める。のれんや繰延税金資産は事業価値が崩れた時の換金可能資産とは扱わない。
税効果の正常化とROEの錯覚
2024年から2026年にかけて繰越欠損金と繰延税金資産が当期純利益に影響している。2027年以降に通常の税負担へ移れば、営業利益が維持されても純利益は抑えられる。過去の赤字で自己資本が縮んだため直近のROEは高く見え、留保利益が積み上がった後の再投資利回りと同一視できない。
余剰現金の還元が不確実
2025年の配当開始と2026年の自己株買いは前進だが、毎年の高配当や大型の買い戻しを保証する中期の数値目標は確認できない。黒字を事業投資や買収へ振り向ければ、帳簿上の現金がそのまま少数株主へ返るわけではない。このため余った現金には全額ではなく75%の回収係数を用いる。
今後の分かれ目
- 直近12カ月の売上解約率が月0.5%以下へ低下し、複数年続いたら
- 単なる操作ソフトではなく配信基盤としての不可欠さが増した証拠になる。契約数の下振れを緩め、長期の値決め力を再点検する。
- AIエージェント向け機能の有料売上と粗利益が独立して開示されたら
- 未実現のAI効果を足さない方針を見直す。売上の移し替えではなく新規収益であることを確認して上側の筋書きを強める。
- 契約数が前年同期比で継続減少し、平均月額利用料も下がり始めたら
- AIによる操作価値の低下と競合流出が同時進行している可能性が高い。中立の770契約という予想も下方修正する。
- 2030年の売上100億円以上と調整後EBITDA20億円以上が達成されたら
- 中期の数量と費用効率を上方修正する。ただし2035年も同じ成長が続くかは解約率と料金の推移で別途判断する。
- AI・モバイルオーダーの買収関連費用や減損が拡大したら
- 還元可能な利益と現金を引き下げ、やや悲観・悲観に重みを移す。売上の見かけの増加だけでは成功と判断しない。
- 配当総額の増加と株数の継続的な5%以上の純減が確認されたら
- 現金の株主還元実績が強まるため、余剰現金の回収係数を75%から100%へ見直す余地がある。
見ておくもの
- 四半期の有料プロダクト契約数、ネイティブアプリとWebX・MiniAppの内訳
- 平均月額利用料、ARR、月次売上解約率とLTV/CACの組合せ
- PF継続課金売上比率とPS非月額売上の営業採算
- UNITEの契約数、モバイルオーダー事業の実際の連結収益
- AIエージェント対応機能の有料受注額、同機能の解約抑止効果
- 2030年の売上高100億円・調整後EBITDA20億円に向けた達成率
- 配当総額・取得自己株式・買収金額・減損損失と純現金残高
倍率と資本コストの決め方
2025年末の契約939件と継続課金単価、非月額制作支援の推定案件数と単価から2035年の売上を積み上げた。中立のPF数量は82%、価格108%、PS数量は65%、価格120%とし、物価上昇を契約数に混ぜなかった。AIによる値決め力の低下は数量・価格とg_long=0%に反映し、寿命の加算では重ねていない。k7.75%とg0%から上側三つはPER12.90倍で、今の市場倍率を参照していない。純現金と将来余剰現金の税後利息を事業利益から外して現金を別に加え、売買時点の株価に合わせて倍率を調整していない。新リース基準で使用権資産・負債が増えても家賃の負担を二重には引かない。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%に、事業の過去の循環と純現金の質による合計0.25%を加えた。個別のAI代替はkではなく将来収益とg_longへ反映する。