結論
ウェザーニューズは、気象の予報と観測データを、船・航空機・企業・個人に売る会社だ。売上は245億円で、営業利益率は21%と高い。海事、航空、陸上、ネットの4つの領域で稼ぐ。筆者の結論は「適正」(差はごく小さい)。独自の観測網は強みだが、AI予報の無償化が単価を押さえる。
強みは、数百万人の利用者から集まる現場の天気報告だ。弱みは、予報そのものが大手ITの無償サービスに近づく点にある。
純現金は188億円あり財務は堅い。配当は高分配の方針で、現金は積み上がりにくい。確かめたいのは、航空の伸びと海事の底打ちだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、観測網という独自資産で高い利益率を保つ点を評価する。一方で、予報の技術は大手ITに近づいており、10年先の単価は読みにくい。
純現金と高い配当は安全域になる。ただし式で測った価値は、今の時価総額と近い。割安とも割高とも言い切れない会社だ。観測網の資産は代わりがきかないが、予報の技術は他社が追ってくる。10年先に今の利益率が保てるかが、見立ての要になる。差が小さいので、新しい情報で動く。
何で稼ぐ会社か
売上は4つの領域に分かれる。海事は船の航路に合わせた気象サービス、航空は空港・航空会社向けの予報、陸上は小売や道路・自治体向けの需要予測、ネットは個人向けの有料会員と広告だ。上期の売上はネットが最大で、陸上、海事、航空の順になる。
法人向けは年契約が多く、顧客は長く使い続ける。個人向けはスマホのアプリで、天気の報告を送る会員が観測網を支える。会員の報告が、予報の精度を上げる循環になっている。
収益の源は、観測と予報の質で、人手の予報士も多く抱える。人件費の比率が高いのは、この会社の特徴だ。固定費が重いので、売上が落ちると利益が大きく減る。
優良さと弱いところ
堀は、利用者から集まる独自の観測データと、航路や空港に合わせた予報の品質だ。船や空港は事故の費用が大きく、少し高くても精度の高い予報を選ぶ。契約の乗り換えにも手間がかかる。経営者は創業者で、長期の視点で観測網に投資してきた。
資本面は堅い。自己資本比率は85%で、純現金は188億円ある。過去10年のROEは12〜16%で、営業利益率も2割に戻った。経営は堅実で、無理な買収をしてこなかった。
弱みは、予報の技術が汎用化していることだ。筆者は堀を普通と見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
気象の予報は、人工衛星とAIで精度が上がっている。世界の気象サービスの需要も、気候変動への備えで緩やかに伸びる。大手ITのAI予報が、一般向けでは無償で使える水準に近づいた。法人向けでは、現場に合わせた解釈と責任を持つサービスに価値が残る。
海事は世界の船が顧客で、海外の競合と競う。航空は需要が伸びる。小売向けの需要予測や脱炭素の航路最適化も、新しい需要になる。
10年の悪い筋書きは、無償の予報が法人向けの値段まで押し下げ、契約と会員が減ることだ。航空の需要増が、その縮みをどこまで補えるかが分かれ目になる。
資本政策と M&A
経営は「高貢献、高収益、高分配」を掲げ、配当に厚い。2021年5月期の配当性向は59%だった。最新の中期経営計画の数値目標と、配当性向・自社株買いの具体的な数字は確認できなかった。
純現金が188億円あり、時価総額の2割強を占める。買収の実績は少なく、10年以内にTOBに会う確率は外部の推定で20%ほどある。
見通しをどちらに寄せたか
上側と下側の確率は同じに置いた。独自の観測網と高分配は強いが、AI予報の無償化で単価が伸びにくい。中立の価値は今の時価総額に近く、上にも下にも寄せず、中央を厚くした。航空の伸びが続けば、上側へ寄せる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 2,719 円1,208 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 495 円220 億円)。 今の値に割り戻すと 1,772 円787 億円、今との差 −8.6%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 6.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,668 円2,074 億円 | 720 円320 億円 | +177.9% | +10.8% | 539 円239 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,792 円1,684 億円 | 630 円280 億円 | +128.1% | +8.6% | 884 円393 億円 |
| 中立 | 40% | 3,163 円1,405 億円 | 540 円240 億円 | +91.0% | +6.7% | 1,481 円658 億円 |
| やや悲観 | 20% | 968 円430 億円 | 338 円150 億円 | −32.7% | −3.9% | 261 円116 億円 |
| 悲観 | 10% | 350 円155 億円 | 135 円60 億円 | −75.0% | −12.9% | 48 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,719 円1,208 億円 | 495 円220 億円 | +65.8% | +5.2% | 3,214 円1,428 億円 |
今の株価時価総額 1,939 円861 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:航空と海外で伸びる 利益 80 億円 · PER 22.8 倍 · 株価時価総額 4,668 円2,074 億円
海事で航路の気象サービスが世界に広がり、航空は空港・航空会社の契約が倍近くになる。陸上の企業・自治体向けも伸び、会員も増える。営業利益率は25%に届き、高い配当を続けながら現金も積み上がる。海外の売上比率が高まり、成長の質も上がる。10年後の営業利益は今の2倍を超える。
- 海事(Sea):数量 3,622(契約船舶数(隻・推定))× 価格 268(1隻あたり年額(万円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 25 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- 航空(Sky):数量 720(契約数(件・推定))× 価格 560(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 14 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- 陸上(Land):数量 3,920(契約数(件・推定))× 価格 335(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 131 億円・営業利益 28 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- ネット(Internet):数量 2,080(会員・広告の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.80(1千人あたり年額(万円・名目))→ 売上 167 億円・営業利益 57 億円。数量・単価・営業利益率の推定
倍率:事業の ROE 18.6% が k を上回る。残る割合 1/2 の式の上限に置いた。
確率:航空と海外の海事が伸び、単価も物価並みに通る筋書き。確率は低めに置く。
やや楽観 20% やや楽観:観測網の差で値上げが通る 利益 64 億円 · PER 22.9 倍 · 株価時価総額 3,792 円1,684 億円
海事と航空の契約が着実に増え、法人向けの気象データの値上げも通る。営業利益率は2割台半ばに戻る。AI予報の無償化は、独自の観測網の差で防げる。法人向けの更新率も高いまま保たれる。配当も安定して増える。10年後の営業利益は今の6割増ほどになる。
- 海事(Sea):数量 3,308(契約船舶数(隻・推定))× 価格 256(1隻あたり年額(万円・名目))→ 売上 85 億円・営業利益 21 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- 航空(Sky):数量 600(契約数(件・推定))× 価格 536(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 11 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- 陸上(Land):数量 3,500(契約数(件・推定))× 価格 318(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 111 億円・営業利益 22 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- ネット(Internet):数量 1,920(会員・広告の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.76(1千人あたり年額(万円・名目))→ 売上 146 億円・営業利益 47 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
倍率:事業の ROE 17.6% が k を上回る。残る割合 1/2 の式の上限に置いた。
確率:観測網の差で法人向けの値上げが通る筋書き。
中立 40% 中立:契約は伸び、単価は物価に届かない 利益 51 億円 · PER 23.2 倍 · 株価時価総額 3,163 円1,405 億円
海事と陸上の契約は緩やかに伸び、単価はAI予報の無償化と競争で物価に追いつかない(10年で1.2倍)。航空は伸びが大きい。全体の営業利益率は2割強で、過去の山を超えない。高分配の方針で現金は積み上がりにくい。物価で人件費が上がる分は、値上げと契約の増加でほぼ吸収できる。
- 海事(Sea):数量 3,150(契約船舶数(隻・推定))× 価格 240(1隻あたり年額(万円・名目))→ 売上 76 億円・営業利益 18 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- 航空(Sky):数量 520(契約数(件・推定))× 価格 536(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 9 億円。数量・単価・営業利益率の推定
- 陸上(Land):数量 3,220(契約数(件・推定))× 価格 300(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 18 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- ネット(Internet):数量 1,760(会員・広告の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.72(1千人あたり年額(万円・名目))→ 売上 127 億円・営業利益 39 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
倍率:事業の ROE 16.9% が k を上回る。残る割合 1/2 の式の上限に置いた。
確率:上側と下側の確率は同じ。契約は伸びるが、単価は物価に届かない。
やや悲観 20% やや悲観:無償予報に単価が押される 利益 23 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 968 円430 億円
無償の高精度予報が広がり、法人向けの値上げが通らなくなる。会員・広告も減り、売上は10年でほぼ横ばいにとどまる。利益率は1割台前半に落ちる。配当は減るが、現金が支える。成長が止まった優良会社の姿になる。営業利益は今の6割まで減る。配当は減る。
- 海事(Sea):数量 2,678(契約船舶数(隻・推定))× 価格 220(1隻あたり年額(万円・名目))→ 売上 59 億円・営業利益 11 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- 航空(Sky):数量 400(契約数(件・推定))× 価格 480(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 5 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- 陸上(Land):数量 2,800(契約数(件・推定))× 価格 275(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 11 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- ネット(Internet):数量 1,440(会員・広告の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.63(1千人あたり年額(万円・名目))→ 売上 91 億円・営業利益 20 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
倍率:単価が押され成長が止まる。伸びを数えない稼ぐ力の値に近く置いた。
確率:無償予報の拡大で値上げが通らない筋書き。上側と同じ確率。
悲観 10% 悲観:予報が汎用品になる 利益 −2 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 350 円155 億円
大手IT企業の予報が無償で十分な精度になり、法人契約と会員が大きく減る。独自の観測網の価値が薄れ、売上は3分の2に縮む。赤字に近づき、床は純現金になる。もう優良とは言えない会社になる。人手の予報士の人件費だけが重く残る。会員制のネット事業は縮小する。
- 海事(Sea):数量 2,205(契約船舶数(隻・推定))× 価格 190(1隻あたり年額(万円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 3 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- 航空(Sky):数量 320(契約数(件・推定))× 価格 400(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- 陸上(Land):数量 2,240(契約数(件・推定))× 価格 250(1件あたり年額(万円・名目))→ 売上 56 億円・営業利益 3 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
- ネット(Internet):数量 960(会員・広告の取引量(千人相当・推定))× 価格 0.54(1千人あたり年額(万円・名目))→ 売上 52 億円・営業利益 4 億円。数量・単価・営業利益率の推定。AI予報の無償化と競争で単価が物価に届かない
倍率:赤字で稼ぐ力が測れない。床は純現金188億円から預り金・前受金を引いた約157億円に戻り方1.0を掛け、今の自己資本の3分の2に置いた。
確率:構造的に負ける筋書き。無償予報が法人向けにも広がる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
海事(Sea)
船の航路に合わせた気象サービス。
| 数量契約船舶数(隻・推定) | 価格1隻あたり年額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 3,150 | 200 | 63 | 15 |
| 10 年後 中立 | 3,150 | 240 | 76 | 18 |
取り方:上期売上31億円(倍の年62億円)から推定。内訳の開示は金額のみで、隻数と単価は推定。営業利益は開示が取れず推定。
航空(Sky)
空港・航空会社向けの予報。
| 数量契約数(件・推定) | 価格1件あたり年額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 400 | 400 | 16 | 5 |
| 10 年後 中立 | 520 | 536 | 28 | 9 |
取り方:上期売上7億円(年約16億円)から推定。営業利益は推定。
陸上(Land)
小売・道路・自治体向けの需要予測と気象データ。
| 数量契約数(件・推定) | 価格1件あたり年額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 2,800 | 250 | 70 | 13 |
| 10 年後 中立 | 3,220 | 300 | 97 | 18 |
取り方:上期売上34億円(年約70億円)から推定。営業利益は推定。
ネット(Internet)
個人向けの有料会員と広告。
| 数量会員・広告の取引量(千人相当・推定) | 価格1千人あたり年額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 1,600 | 0.60 | 96 | 30 |
| 10 年後 中立 | 1,760 | 0.72 | 127 | 39 |
取り方:上期売上45億円(年約96億円)から推定。営業利益は推定。全社の営業利益52億円に合うよう本社費(約-11億円)を調整に入れた。
リスクと懸念
AI予報の無償化
大手ITのAI予報が法人向けにも十分な精度になれば、契約の単価が下がり、解約が増える。10年の悪い筋書きの核になる。
海事の競争
海事は世界の船が顧客で、海外の競合と単価を競う。上期の売上は前年を下回っており、成長が止まる懸念がある。
個人向けの広告と会員
ネットの売上の大半は広告と会員で、AIの要約や検索の変化で来訪が減ると、収益が落ちる。
予報士の人件費
人手の予報士を多く抱え、人件費が物価で上がる。値上げが通らなければ利益率が下がる。
今後の分かれ目
- 航空の売上が2桁成長を続ける
- やや楽観の筋書きに近づく。
- 海事の売上が2期続けて前年を下回る
- 主力の単価が押されている印で、やや悲観に寄る。
- 自社株買いや配当性向の目標が数字で示される
- 現金の使い方が改善し、価値が増える。
- 大手ITの法人向け無償予報が広がる
- 悲観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 航空の売上の伸び
- 海事の売上
- 配当性向・自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(正当化PER)と筋書きごとのROEで置いた。市場のPERは使っていない。10年先の利益は4領域の数量と単価から積み、今の値段に合わせていない。式の上限そのものに置いた。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。