結論
ミロク情報サービスは、会計事務所と中堅・中小企業向けに、会計・給与・販売管理の業務ソフトを作る会社だ。法令が変わるたびに対応を更新し、使用料と保守料を積み上げる。2026年3月期の売上は489億円、営業利益は67億円だった。
筆者の結論は、事業は堅いが、値段は先を見すぎている、である。税制や電子帳簿への対応と、会計事務所との業務のつながりは、乗り換えにくさを生む。ただ売上の3分の1ほどは、導入や運用を人の工数で売る仕事だ。AI エージェントがここを置き換える。
中立の営業利益率は17%と過去の最高並みで、売上は名目で今の1.06倍だ。会社の計画は2029年3月期に売上600億円、経常利益120億円だが、AI の置き換えを織り込むとそこまで届かない。
確率を加重した価値は、今の時価総額を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、法令対応という「やめにくさ」を持つ事業は価値がある。ミロクの使用料・保守の部分は、その型に近い。10年後も会計事務所が使い続ける可能性は高い。
ただ、営業利益率は13%台で、堀の強さを利益率が証明していない。解約率の数字も確かめられない。筆者は、堀の証拠は半分しかそろっていないと見る。
人月で売る導入・運用の部分は、AI で縮む。成長を前提にした会社の計画は、そこで割り引く。安全域は純現金83億円と、使用料のストック収入にある。
何で稼ぐ会社か
主力は、会計事務所向けと企業向けの基幹業務ソフトだ。会計・給与・人事・販売管理を一つにまとめ、使用料と保守料を毎年受け取る。会計事務所は顧問先との帳簿のやり取りの基盤として使い、企業は自社の経理に使う。
売上の大半は、ソフトの使用料、保守・運用のサービス収入で、買い切りの導入契約は1割に満たない。いま、主力の ERP を買い切りからクラウドの月額課金に移している。クラウド契約は2025年9月期の半ばに約5,200社、ソフト使用料の年間経常収益は約97億円だった。
統合型の DX 基盤「Hirameki 7」も育てている。2025年にはシンガポールのクラウド ERP 会社を買収し、海外にも出始めた。
優良さと弱いところ
堀は三つある。税制・電子帳簿・インボイスなどの法令改正のたびに、ソフトの更新と保守が必要になる。会計事務所と顧問先の業務が同じ基盤の上で動く。顧客が乗り換えるには、データと業務の両方を移す年単位の作業が要る。
弱みは、解約率の数字が確認できないことだ。また、導入や運用の工数で稼ぐ部分は、AI エージェントに置き換わりやすい。営業利益率は13〜14%台で、同業の大手より低い。
財務は自己資本比率が68%、純現金は83億円と健全だ。上位10株主で約66%を持つ集中した構成である。配当は増配を続けており、経営は堅実だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
中小企業の会計・給与は、電子帳簿保存法やインボイス制度で、クラウド化の需要が続く。会計事務所向けの市場は、税理士の数が横ばいで、業務のデジタル化が進む。国内の SaaS 市場は年1割前後の伸びが続くとされる。
競合は、弥生・OBC・マネーフォワード・freee など多い。会計事務所向けではミロクと TKC が強く、中小企業向けのクラウドでは新興勢が価格で攻める。
最大の変化は AI だ。仕訳の自動化や帳簿の読み取りは、会計事務所の作業を減らす。この会社も AI 仕訳や AI アシストを出している。AI は法対応を伴う記録の正本まで置き換えにくいが、導入や運用の工数と、画面を操作する席の価値は下がる。筆者は、使用料の部分は守られ、人月の部分は縮むとみる。
資本政策と M&A
中期経営計画「Vision2028」は、2028年度に売上600億円、経常利益120億円、経常利益率20%、ROE18%超を掲げる。2029年3月期の目標として、主力 ERP の年間経常収益110億円もある。株主還元は配当性向30〜40%と、5年で配当100億円超に加えて自社株買いを行うとする。自社株買いの額の約束はない。
5年のキャッシュ創出は400億円超で、事業投資と M&A に各100億円ほどを充てる計画だ。余った現金は少なく、純現金83億円は前受けの保守料・運転資金・投資枠に充てる分とみて、余りとして分けない。
戻り方は、増配はあるが配当性向が50%に届かず、株数も減っていないため0.75とした。
見通しをどちらに寄せたか
使用料・保守の部分は法対応という堀があり、確率を悲観に寄せすぎなかった。ただし売上の3分の1が人月型で、AI の置き換えが10年で効くため、下側(やや悲観+悲観)を33%、上側を29%とし、中立の38%を最大にした。確率の寄せ方は、堀の証拠が半分しかそろっていないことを踏まえた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,785 円834 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 742 円222 億円)。 今の値に割り戻すと 1,945 円583 億円、今との差 −15.0%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 7.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,338 円1,299 億円 | 831 円249 億円 | +125.8% | +8.5% | 413 円124 億円 |
| やや楽観 | 21% | 3,710 円1,111 億円 | 795 円238 億円 | +96.8% | +7.0% | 946 円283 億円 |
| 中立 | 38% | 3,346 円1,002 億円 | 747 円224 億円 | +78.8% | +6.0% | 1,555 円466 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,539 円461 億円 | 705 円211 億円 | −2.0% | −0.2% | 494 円148 億円 |
| 悲観 | 11% | 442 円132 億円 | 636 円191 億円 | −52.9% | −7.3% | 119 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,785 円834 億円 | 742 円222 億円 | +54.1% | +4.4% | 3,527 円1,056 億円 |
今の株価時価総額 2,289 円686 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% クラウド移行が進み、AI 機能が使用料を押し上げる 利益 77 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 4,338 円1,299 億円
主力 ERP のクラウド化が進み、契約が増えて単価も物価並みに上がる。導入・運用の仕事も、新規契約の増加で一定の量を保つ。営業利益率は会社が目指す20%に近い19%まで上がる。ただし AI 機能で金額が出ている開示は確認できないので、ストック収入の数量は今と同じ1.0倍に抑えた。
- ERP の使用料・保守(ストック収入):数量 55.0(契約社数(千社))× 価格 6.09(1千社あたり年間売上(億円))→ 売上 335 億円・営業利益 87 億円。数量1.0倍・価格1.34倍・営業利益率26%(記録の正本型)
- 導入・システム構築・運用の受託:数量 6,000(案件数(件))× 価格 0.03(1件あたり売上(億円))→ 売上 161 億円・営業利益 19 億円。数量0.75倍・価格1.34倍(人月型)
- ハードウェア・サプライ・その他買い切り:数量 7,110(件数(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 95 億円・営業利益 7 億円。数量0.9倍・価格1.34倍
倍率:事業の ROE 10.4% が k 7.0% を上回る。残る割合0.5、10年より先の名目の伸び g 0.5%(g_long)から正当化 PER 14.5 倍の上限そのものに置いた。全体の PER 14.5 倍。
確率:主力 ERP のクラウド化が計画どおり進み、AI 機能で単価が上がる筋書き。AI で金額が出ている開示は確認できないので、数量は1.0倍止まり。
やや楽観 21% ストックが守られ、人月の縮みは軽い 利益 65 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 3,710 円1,111 億円
法令改正のたびに更新が通り、使用料は着実に積み上がる。AI は仕訳などを助ける道具として使われ、ソフトの置き換えは起きない。導入・運用は縮むが、新規契約でかなり補う。営業利益率は過去最高を超える18%まで上がる。利益は今の1.5倍ほどになるが、AI 代替の重みは外せない。
- ERP の使用料・保守(ストック収入):数量 53.4(契約社数(千社))× 価格 5.91(1千社あたり年間売上(億円))→ 売上 315 億円・営業利益 76 億円。数量0.97倍・価格1.30倍・営業利益率24%
- 導入・システム構築・運用の受託:数量 5,600(案件数(件))× 価格 0.03(1件あたり売上(億円))→ 売上 146 億円・営業利益 16 億円。数量0.70倍・価格1.30倍
- ハードウェア・サプライ・その他買い切り:数量 6,715(件数(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 87 億円・営業利益 5 億円。数量0.85倍・価格1.30倍
倍率:事業の ROE 9.4% が k 7.0% を上回る。残る割合0.5、g 0.5%(g_long)から正当化 PER 14.4 倍の上限に置いた。全体の PER 14.4 倍。
確率:法対応と会計事務所の基盤が使用料を支える。会社の過去の増収・増益の実績もある。ただし人月型を抱えるので、楽観に寄せすぎない。
中立 38% 使用料は守られるが、人月の導入・運用が縮む 利益 58 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 3,346 円1,002 億円
ストック収入は契約社数が今の0.95倍、単価が1.30倍で、物価に少し届かない。導入・運用の受託は AI エージェントが設定と運用を肩代わりし、案件数が今の0.65倍に縮む。買い切りは細る。売上は名目で今の1.06倍、実質では0.79倍。営業利益率は過去最高並みの17%に落ち着く。会社の計画の20%には届かない。
- ERP の使用料・保守(ストック収入):数量 52.3(契約社数(千社))× 価格 5.91(1千社あたり年間売上(億円))→ 売上 309 億円・営業利益 68 億円。数量0.95倍・価格1.30倍・営業利益率22%(記録の正本型)
- 導入・システム構築・運用の受託:数量 5,200(案件数(件))× 価格 0.03(1件あたり売上(億円))→ 売上 135 億円・営業利益 14 億円。数量0.65倍・価格1.30倍・営業利益率10%(AI エージェント代替:人月型)
- ハードウェア・サプライ・その他買い切り:数量 6,320(件数(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 79 億円・営業利益 5 億円。数量0.8倍・価格1.25倍
倍率:事業の ROE 8.7% が k 7.0% を上回る。残る割合0.5、10年より先の名目の伸び g 0.5%(g_long)から正当化 PER 14.4 倍の上限そのものに置いた。全体の PER 14.4 倍。
確率:法対応のストックは守られる一方、売上の3分の1ほどの人月型に AI 代替を重ねた、最も重みを置く筋書き。
やや悲観 22% 新興クラウドとの競争で、使用料も値下がりする 利益 30 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 1,539 円461 億円
新興のクラウド会計との価格競争で、会計事務所の顧問先の一部が流出する。ストックは契約社数が今の0.8倍、単価が1.15倍にとどまる。導入・運用は半分に縮み、利益率は落ちる。営業利益は今の7割ほどになる。株主への還元も利益に合わせて抑えられ、成長の物語は後退する。
- ERP の使用料・保守(ストック収入):数量 44.0(契約社数(千社))× 価格 5.23(1千社あたり年間売上(億円))→ 売上 230 億円・営業利益 39 億円。数量0.8倍・価格1.15倍・営業利益率17%
- 導入・システム構築・運用の受託:数量 4,000(案件数(件))× 価格 0.02(1件あたり売上(億円))→ 売上 92 億円・営業利益 6 億円。数量0.5倍・価格1.15倍
- ハードウェア・サプライ・その他買い切り:数量 4,740(件数(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 52 億円・営業利益 2 億円。数量0.6倍・価格1.10倍
倍率:事業の ROE 5.6% と k 7.0% から、上限の正当化 PER 14.3 倍。競争下で上限まで認めず85%に置いた。全体の PER 12.2 倍。
確率:新興のクラウド ERP との価格競争と、AI による仕訳の自動化で席が減る筋書き。法対応の堀は残るが、乗り換えが進む。
悲観 11% AI エージェントが会計業務を直接担い、ソフトが空洞化する 利益 9 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 442 円132 億円
AI エージェントが帳簿の作成から申告までを直接こなし、会計事務所は人も席も減らす。ストックの契約は半分に減り、導入・運用はほぼ消える。営業利益は20億円に届かず、純利益は10億円ほどになる。それでも法令対応の更新は残るため、小さなソフト会社として存続する。
- ERP の使用料・保守(ストック収入):数量 27.5(契約社数(千社))× 価格 4.77(1千社あたり年間売上(億円))→ 売上 131 億円・営業利益 16 億円。数量0.5倍・価格1.05倍・営業利益率12%
- 導入・システム構築・運用の受託:数量 2,400(案件数(件))× 価格 0.02(1件あたり売上(億円))→ 売上 48 億円・営業利益 0 億円。数量0.3倍・価格1.0倍
- ハードウェア・サプライ・その他買い切り:数量 2,370(件数(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 24 億円・営業利益 0 億円。数量0.3倍・価格1.0倍
倍率:悲観は稼ぐ力が細る筋書き。今の自己資本331億円に対する PBR 0.40倍で時価総額を置いた。事業の純利益 ÷ k の稼ぐ力の範囲に収まる。
確率:AI エージェントが仕訳から申告まで直接こなし、ソフトの画面と導入の工数が半分以下になる構造的な負け。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ERP の使用料・保守(ストック収入)
会計・給与・販売管理ソフトのクラウド使用料と保守料。法対応の更新を含む。
| 数量契約社数(千社) | 価格1千社あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 55.0 | 4.55 | 250 | 48 |
| 10 年後 中立 | 52.3 | 5.91 | 309 | 68 |
取り方:開示は大分類のため、3区分は推定。売上489億円のうち、ストック収入を約250億円(5割)と置き、契約社数を仮定して単価を割った。型は記録の正本(法対応・乗り換え障壁・会計事務所との基盤の2点以上)に寄せた。営業利益は全社67億円を3区分に割り当てた推定。
導入・システム構築・運用の受託
導入作業、カスタマイズ、運用受託など、人の工数で売る仕事。
| 数量案件数(件) | 価格1件あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 0.02 | 160 | 14 |
| 10 年後 中立 | 5,200 | 0.03 | 135 | 14 |
取り方:売上約160億円(3割強)と推定。人月・工数で売る型として、AI エージェント代替の表で数量を0.55〜0.75倍の範囲に置いた。
ハードウェア・サプライ・その他買い切り
機器・消耗品・買い切りのシステム導入契約。
| 数量件数(件) | 価格1件あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,900 | 0.01 | 79 | 5 |
| 10 年後 中立 | 6,320 | 0.01 | 79 | 5 |
取り方:売上約79億円(1割台半ば)と推定。クラウド化で縮む付随的な売上。
リスクと懸念
AI エージェントによる人月・席の置き換え
売上の3分の1ほどは導入・運用の人月型で、AI エージェントが肩代わりする。ストックも席や画面を前提にした部分は単価が物価に届かない。中立では導入・運用を0.65倍に置いた。
新興クラウド勢との価格競争
弥生・マネーフォワード・freee などが中小企業向けで低価格を打ち出す。会計事務所の顧問先を通じた流出が起きうる。
堀の定着を示す数字が足りない
解約率や乗り換えの年数が確認できない。営業利益率も13%台で、堀の強さを利益率が示していない。
中期計画の営業利益に届かない
2028年度に経常利益率20%を目指すが、AI 代替を織り込むと17%どまり。M&A の実行も不確実だ。
今後の分かれ目
- 主力 ERP のクラウド契約と使用料の年間経常収益が計画どおり伸びた
- ストック収入の数量・価格を引き上げ、上側の筋書きに重みを移す。
- 解約率が低い数字で開示された
- 記録の正本の型の証拠がそろい、g_long を1%以上に上げる余地が出る。
- 導入・運用の受託売上が AI の影響で急に減った
- 人月型の縮みが速いとみて、やや悲観・悲観に重みを移す。
見ておくもの
- 主力 ERP の契約社数とソフト使用料の年間経常収益
- 導入・運用の受託売上の推移
- 営業利益率(17%を超えられるか)
倍率と資本コストの決め方
先に事業を3区分(ストック・人月型・買い切り)に推定で分け、AI エージェント代替の表(記録の正本・人月)に当てて数量・価格・利益率を置いた。倍率は式(k 7.0%、g_long 0.5%)の上限から出した。今の株価や同業の倍率は使っていない。区分の割合は開示が大分類のみのため推定。株数は発行済から自己株を引いた約2,996万株。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。