結論
ヴィッツは、自動車や産業機械の組込みソフトウェアを開発する技術会社である。筆者の結論は「やや割高」だ。機能安全や制御技術には顧客が簡単に代替できない専門性があり、財務も堅い。しかし、売上の大半を占める受託開発の稼ぎ方は、今後10年で大きく変わる可能性がある。
2026年8月期の売上高は57.9億円、営業利益は6.7億円まで伸びた。ただし、近年の成長には企業買収の効果が含まれ、開発工数そのものが同じ勢いで増え続けるわけではない。実際、2027年8月期の会社予想は売上60億円、営業利益6.8億円と、増益ペースが鈍る見通しになっている。
成長の種は三つある。主力の車載・産業機械向けソフトウェア、テスコが手掛けるX線検査装置、そして買収した農業機械向けのGPS制御技術だ。後二者は物理的な機械や現場に結びつくため、AIエージェントが単純に仕事を代替することは難しい。一方、現時点では収益規模が小さく、主力の開発工数減少を十分に補えるとは限らない。
10年後の中立では、売上高61億円程度、営業利益6.2億円程度を見込む。事業から生まれる利益に、将来の余剰現金のうち株主へ戻ると考えられる価値を加えた中立時価総額は約100億円となる。ただし、そこへ至る10年間の資本コストと悲観側の確率を反映すると、現在価値は約53億円となり、基準時価総額約69億円を2割強下回る。現在の値段は、同社の技術力を否定するほど高くはないが、不確実性に見合う安全域を十分には提供していない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主にとって、ヴィッツの魅力は、財務に無理をせず専門技術で利益を出してきた点にある。自動車の制御と機能安全は、製品が動けばよいというだけでは済まない仕事だ。仕様が複雑で、安全性の検証が必要な顧客に選ばれる限り、同社の技術者には価値がある。無理な借入に頼らない点も、小型の技術企業として評価できる。
しかし、専門技術を持つことと、株主が10年後も同じ利益を受け取れることは別問題である。顧客が買っているものの相当部分は、依然として人が開発し検証する作業そのものだ。AIエージェントがコード作成や試験準備、文書作成を肩代わりすれば、顧客が必要とする人月は減る。生産性向上の利益をヴィッツが受け取れる契約に変えられなければ、技術力が維持されても売上は縮む。
筆者がより高く評価したいのは、ソフトウェアを知る会社が、X線検査装置や農業機械の制御といった現実の設備に技術を埋め込もうとしていることだ。機械を設計し、現場で動かし、顧客の作業を直接改善する製品なら、単純な工数削減とは異なる競争ができる。ただし、現在の規模ではその期待を主力事業の弱体化を補う確実な利益として数えることはできない。
もう一つの論点は現金である。会社が持つ現金は株主の資産だが、経営陣が使う買収資金でもある。買収で利益率が下がるなら、帳簿上の現金をそのまま高く評価する理由は薄れる。反対に、新しい製品事業が資本コストを上回って稼ぎ始め、余剰資金の還元も進めば、今より価値は高まる。
結局、同社は理解できない企業ではないが、10年先の受託開発の経済性を高い確度で予測できる企業でもない。専門技術と現金には価値を認める一方、将来の利益の伸びに大きな対価を払わない。今の値段では、事業の質よりも将来の変化に対する安全域の不足が気になる。
何で稼ぐ会社か
ヴィッツの主力は、自動車メーカーや部品メーカー、産業機械メーカー向けの組込みソフトウェア開発である。2026年8月期のソフトウェア事業の外部売上高は48.4億円で、連結売上高の約84%を占める。制御プログラムの受託開発に加え、自動運転関連のシミュレーション、機能安全、サイバーセキュリティ、AIの安全性評価などを提供している。
機能安全とは、電子制御が故障しても危険な状態を避けるための設計と検証の仕組みである。同社は2012年に車載機能安全規格ISO 26262の最高安全水準に対応する開発プロセス認証を取得した実績を持つ。顧客の製品仕様や検証手順を理解した技術者が必要になるため、一般的な業務システム開発より専門性は高い。ただし、契約の中心が人の作業量に依存する限り、専門性の高さがそのまま長期の売上防衛力になるとは限らない。
センシング事業は、2024年に買収したテスコが担う。X線透過・CT検査装置の製造販売や保守を手掛け、2026年8月期の外部売上高は7.8億円だった。機械そのものの性能、顧客ごとの設置条件、検査品質、保守対応が購買判断に関わるため、単純なソフトウェアの工数商売とは違う経済性を持つ。
その他事業には、2025年に取得したリザーブマートの施設予約システムと、2026年に取得したアグコントロールシステムの農業機械向け制御装置が入る。2026年8月期の外部売上高は合計1.7億円で、セグメント損失は0.3億円だった。リザーブマートは継続課金を伴うが、利用者が操作する予約画面をAIエージェントが置き換えるリスクがある。アグコントロールシステムは、GPSやレーザーを使って実際の農作業を制御する点で、より物理的な競争力を持つ。
優良さと弱いところ
ヴィッツの強みは、製品の安全性を損なえない顧客に対して、制御ソフトウェアと検証技術をまとめて提供できることだ。ISO 26262への対応実績に加え、産業機械や自動運転のシミュレーション技術も持つ。顧客が新規の委託先へ切り替える際には、仕様の説明、検証体制の再構築、品質確認が必要になるため、一定の乗り換え費用が存在する。
ただし、この強みを独占的な堀とは評価しない。開発プロセスの認証は重要だが、他社が取得できない許認可ではない。継続契約の解約率、競争を排除する独自データの蓄積、物価を上回る値上げの実績といった定量的な証拠も確認できない。顧客が設計基盤を内製化したり、共通ソフトウェア基盤へ移行したりすれば、既存の開発会社に依頼する作業は減る。
財務の健全性は明確な長所である。2026年8月末の現預金は約24.6億円、親会社株主に帰属する自己資本は約32.7億円あり、借入金は小さい。事業の変化に適応する時間を買える財務基盤だ。一方、買収で増えたのれんは約2.5億円あり、買収対象が想定した利益を生まなければ、現金を支出したうえに資産価値も毀損する。
増分資本利益率には慎重さが要る。2025年から2026年にかけて純利益は伸びたが、近年取得したセンシング事業の2026年営業利益は0.3億円台にとどまり、その他事業は赤字だった。過去の連結ROEが高いことだけでは、新しい買収資金が資本コストを上回って働いている証拠にはならない。今後は売上の増加より、買収先を含む投下資本からどれだけ現金利益を得られるかを重視すべきである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
車載ソフトウェア市場そのものには成長余地がある。矢野経済研究所は、ソフトウェア開発会社や半導体関連企業から自動車メーカーなどへの販売を対象とした国内市場を、2025年の6790億円から2030年の1兆118億円へ拡大すると予測している。電動化、自動運転、ソフトウェアによって機能を更新するSDVが需要を支える。ただし、この市場予測はAIによって必要な開発工数が減る危険を打ち消すものではない。
むしろ産業構造は変わりつつある。矢野経済研究所は、車載制御ソフトウェアが共通基盤へ取り込まれ、従来の開発会社の役割が縮小する可能性も指摘している。デンソー、アイシン、SCSK、NTTデータMSE、海外のETASやElektrobitなど、競合・代替先は多い。ヴィッツの自動車向け売上比率は開示されていないため、仮に主力ソフトウェア売上の6割が該当するとすれば、市場に対する規模比は約0.43%になる。これは分析上の仮定であり、公式シェアではない。競合各社の同一定義によるシェアも確認できず、寡占市場として扱う根拠はない。
非破壊検査市場は、より物理的な需要に支えられる。矢野経済研究所による2024年度の国内市場は2376億円で、このうち装置・機器が1057億円、検査受託が1319億円である。老朽設備の検査や製造品質の確保が需要を支えるが、装置価格の競争や顧客の設備投資延期は残る。テスコの売上7.8億円を国内装置市場と単純比較すると0.74%相当だが、保守なども含むため、これをX線検査装置の実際のシェアとは解釈しない。競合には島津製作所、ニコン、Baker Hughes系の検査機器事業などがある。
農業機械の制御分野では、北海道の調査による2025年度の国内自動操舵システム出荷台数は9590台だった。アグコントロールシステムのレーザー・GPS制御装置は必ずしも同じ製品ではないため、この台数を直接の市場分母には使えない。しかし、省力化のための機械制御が国内で現実に普及していることは確認できる。クボタ、ヤンマー、トプコン系、ニコン・トリンブル系など、既存の農機・測位技術企業が強い市場である。
施設予約システムについては、公共施設や小規模事業者向けの同一定義による国内市場規模を確認できない。RESERVA、STORES予約、SELECTTYPEなどの競合が存在するため、継続課金というだけで高いシェアや価格支配力を認めることはできない。2036年に向けては、現場の機械を動かす技術の需要は残る一方、画面操作や開発作業を提供するだけの価値は低下するという、事業ごとの違いが大きくなる。
資本政策と M&A
経営陣は2025年8月期から2027年8月期を対象とする中期経営計画で、最終年度の売上高60億円、営業利益率11%、ROE14%を掲げている。2025年5月に公表した数値目標の変更資料では売上高55.4億円、営業利益6.09億円、ROE13%だったが、現在の会社ウェブサイトにはより高い目標が掲載されている。会社自身は株主資本コストを8~10%程度と認識し、ROEをそれ以上に保つことを目指している。
株主還元はDOE、すなわち自己資本に対する年間配当額の比率を2.4%程度にする方針である。余剰資金が残れば自社株買いも検討するとしているが、配当性向や総還元性向、自社株買い額について数値の約束はない。配当は近年増えているものの、純利益の過半を継続的に株主へ戻してきたわけではないため、将来積み上がる現金を全額株主価値に算入するのは慎重であるべきだ。
買収戦略は積極的だ。2022年のスクデット・ソフトウェア、2023年のイーガー、2024年のテスコに続き、2025年にリザーブマートを約1.37億円、2026年にアグコントロールシステムを関連費用込み約5.55億円で取得した。人材確保だけでなく、予約システムや検査装置、農機制御の製品収益を増やそうという方向は合理的である。ただし、2026年時点では新しい事業の利益貢献がまだ小さく、買収価格を正当化できたとは言い切れない。
買い手としての上場企業との資本関係も注目点になる。アイシンなど事業上の関係が深い株主が存在するため、将来的な資本提携や再編の可能性はあるが、確認できる公開買付けや上場廃止計画はなく、買収プレミアムを基本価値に織り込まない。現金を守ること自体ではなく、現金を高収益事業に投じるか、使い道がなければ株主に戻すかが資本配分の成否を決める。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ヴィッツは単なる技術者派遣会社ではない。車載機能安全の開発プロセス認証を早期に取得し、自動車、産業機械、シミュレーション、サイバーセキュリティという複数の専門領域を持つ。安全性を保証する工程では、AIが作成したコードであっても、要求仕様や危険分析を理解した専門家の確認が必要になる。開発作業の自動化が進むほど、最終的な安全性検証を提供できる会社の価値はむしろ高まる余地がある。
受託開発の人月は減るとしても、その代わりに成果物の価値や安全保証の範囲に応じて料金を受け取れるようになれば、利益率は改善する。会社自身も中期計画で、労働時間ではなく付加価値に応じて対価を得る収益構造への変革を掲げている。2026年8月期には売上高が57億円を超え、営業利益も過去の水準を上回った。需要がなくなりかけた企業の財務ではない。
さらに、買収を通じて現物の製品を持ち始めた意味は大きい。テスコのX線検査装置には製造・保守の継続需要があり、アグコントロールシステムのGPS制御技術は農業から建設機械などへ展開できる可能性がある。製品ごとの市場規模は大手企業に比べて小さくても、ニッチな用途で顧客の課題を解決すれば価格を守りやすい。豊富な現金を活用し、開発会社から技術製品会社への転換に成功するなら、10年後の収益源は今より多様化する。
この見方では、短期的な利益率の低さは買収先の立ち上げ費用である。ソフトウェアで得た顧客理解を機械制御と検査製品へ移せれば、グループ内で販売機会も広がる。事業価値に加え、毎期生まれる利益が現金として残る財務構造も株主にとって大きな支えとなる。
慎重な見方
最大の問題は、売上の約84%を占めるソフトウェア事業が、今後も人の作業時間に対価を払ってもらえるかという点にある。AIエージェントは、コード生成だけでなく、仕様からのテスト作成、修正、調査、文書化をまとめて行う方向に進んでいる。安全性の最終確認が人間に残ったとしても、そこへ至る工数が半減すれば、従来と同じ人数や開発期間を請求することは難しい。
顧客側の産業構造も変わる。SDV向けの共通ソフトウェア基盤が普及すれば、自動車メーカーや半導体企業が標準機能を供給し、個別の受託開発会社に残る領域が狭くなる。アイシンなどとの関係は顧客への接点である半面、より大きな企業が開発を内製化する際の交渉力の弱さにもつながる。2026年8月期の終盤にはEV関連案件の中止が業績の重荷となり、顧客の投資判断が急に変わることも示された。
買収の利益貢献にも疑問がある。センシング事業は2026年8月期に売上が前年より減り、営業利益率は5%に届かなかった。その他事業は赤字である。農業向けGPS技術は魅力的だが、クボタ、ヤンマー、トプコン関連企業などが関与する市場で、買収した小規模な企業が高い価格決定力を持てるかは未確認だ。これからも規模を追って買収を続ければ、現金は減り、のれんや固定費が増える。
リザーブマートの予約システムも、画面を利用者が操作する仕組みに依存している。AIが予約手続きを代行する時代には、顧客は現在の管理画面や契約体系に高い料金を払い続けないかもしれない。技術力は確かでも、10年後に利益を守れる契約構造ができているとは言えない。現在の現金が厚いことだけでは、株主がその全額を受け取れる保証にもならない。
どちらに重みを置いたか
技術の専門性と財務の強さは評価するが、10年後の収益構造については慎重な見方がやや勝る。下側の確率を40%、上側を26%としたのは、AIそのものを確率で二重に減点したためではない。EV関連案件の中止が示す顧客依存と、最近の買収先で利益貢献がまだ十分に確認できないことを反映した。現金の価値を認めても、現在価格には2割強の不足が残るため、結論はやや割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/08 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 2,266 円91 億円(+ 還元の換算額還元の合計 268 円11 億円)。 今の値に割り戻すと 1,314 円53 億円、今との差 −18.3%、 期待の年率 +4.9%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,941 円198 億円 | 400 円16 億円 | +232.1% | +13.5% | 427 円17 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,750 円150 億円 | 325 円13 億円 | +153.4% | +10.3% | 733 円29 億円 |
| 中立 | 34% | 2,490 円100 億円 | 300 円12 億円 | +73.5% | +6.0% | 949 円38 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,029 円41 億円 | 225 円9 億円 | −22.0% | −2.7% | 314 円13 億円 |
| 悲観 | 15% | 613 円25 億円 | 125 円5 億円 | −54.1% | −8.0% | 111 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,266 円91 億円 | 268 円11 億円 | +57.6% | +4.9% | 2,533 円101 億円 |
今の株価時価総額 1,608 円64 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 機能安全の成果報酬化と製品事業の成長が両立 利益 12 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 4,941 円198 億円
自動車の安全性検証や産業機械の制御では、AIが作ったプログラムの品質を人が保証する需要が増える。ヴィッツはISO 26262の実績を生かして、安全性検証の成果や責任範囲に応じて対価を得る契約へ転換する。開発工数は大きく増えないものの、高度な検証業務の料金と業務効率の改善によって、ソフトウェア事業の営業利益率は17%に達する。
テスコのX線検査装置は、製造品質を確認するための設備として用途を広げる。従来より大型の装置や保守契約の比率が高まり、センシング事業の売上は20億円を超える。アグコントロールシステムのGPS技術も農業だけでなく、建設機械やインフラ保全向けの製品に採用される。
経営陣は大型買収を抑え、既存の製品を成長させる方針に転換する。設備の実証や技術開発には投資するが、稼いだ利益の多くは現金として蓄積される。10年を通じて高い営業利益率を維持できる最良の筋書きである。ただし、AI関連の開発受託が爆発的に増えるという未確認の収益は含めない。
- 組込みソフトウェア・機能安全・開発支援:数量 3,400(年間の請求対象となる技術者稼働量・人月換算)× 価格 0.02(請求人月1件当たりの実現売上・億円)→ 売上 65 億円・営業利益 11 億円。AIエージェント代替を受けても実質稼働量は現在と同等。安全性保証の付加価値で単価は1.34倍、利益率17%。
- X線検査装置・センシング:数量 21.0(年間の大型検査装置・保守契約の装置1台相当換算)× 価格 0.98(装置1台相当当たりの売上・億円)→ 売上 21 億円・営業利益 2 億円。検査装置・保守の案件数量1.75倍、単価1.50倍。設備の大型化と付加価値化に成功。
- 施設予約システム・リザーブマート:数量 100(年間契約施設グループ数・仮定)× 価格 0.01(1施設グループ当たり年間売上・億円)→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。契約施設は横ばい。競争を受けつつ単価1.15倍、わずかな黒字化。
- 農業機械向けGPS・レーザー制御装置:数量 27.0(GPS・レーザー制御装置の案件1件相当換算)× 価格 0.18(案件1件相当当たり売上・億円)→ 売上 5 億円・営業利益 1 億円。農業・建機向け用途が広がり、買収後の通年寄与を含めて案件換算数量2.7倍。
倍率:k=7.25%、g_long=0%。現金を除いた事業の純利益は11.62−67×1.4%=10.682億円、事業自己資本は99.34−67=32.34億円、事業ROEは約33.0%。RONICはk+0.5×(33.0%−k)で約20.1%だが、AI代替を受ける主力事業の長期成長gを0%とするため、正当化PERの上限は(1−g÷RONIC)÷(k−g)=1÷7.25%=13.793倍。事業価値約147.34億円に、将来余剰現金67億円の戻り方0.75を掛けた50.25億円を加える。
確率:専門技術の価格支配力を保ち、テスコと農機制御の製品事業がともに伸びる必要がある。AIを使った安全保証の事業化には可能性があるが、定量的な収益実績を確認できないため、AIを理由に受託開発の数量を現在以上へ伸ばさない。
やや楽観 18% 受託開発を効率化し、検査装置が第二の柱になる 利益 8 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,750 円150 億円
ソフトウェアの開発工数はAIによって減るが、ヴィッツは安全性評価とシミュレーションの工程を効率化し、利益率を維持する。自動車メーカー向けの従来型開発は縮小する一方、産業機械やロボットの安全保証を受託する仕事が残る。顧客との関係は保つものの、従業員数の増加を売上成長の中心にはできなくなる。
センシング事業では、テスコの装置の用途が広がる。X線検査の装置販売に保守を組み合わせることで、設備の出荷数量と単価がともに増える。農機制御事業も通年寄与が定着し、取得時より安定的に利益を生む。リザーブマートはAIによる予約画面の代替圧力を受けるが、既存施設向けの保守・運用需要が残り、小幅な利益を確保する。
経営陣は買収後の統合に重点を移し、新たな大型買収には慎重になる。連結利益は現在より増え、DOEに沿った配当も増加する。一方、事業を拡大するために必要な資金を超える留保利益は現金として積み上がり、株主還元の実績に応じた割引を受けて株主価値を支える。
- 組込みソフトウェア・機能安全・開発支援:数量 3,060(年間の請求対象となる技術者稼働量・人月換算)× 価格 0.02(請求人月1件当たりの実現売上・億円)→ 売上 57 億円・営業利益 8 億円。AI代替による実質数量0.90倍、単価1.30倍。安全保証の比率上昇で利益率14.5%。
- X線検査装置・センシング:数量 17.0(年間の大型検査装置・保守契約の装置1台相当換算)× 価格 0.92(装置1台相当当たりの売上・億円)→ 売上 16 億円・営業利益 2 億円。案件数量1.42倍、単価1.42倍。製品・保守の採算改善。
- 施設予約システム・リザーブマート:数量 93.0(年間契約施設グループ数・仮定)× 価格 0.01(1施設グループ当たり年間売上・億円)→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。契約数量0.93倍、単価1.13倍。予約管理の効率化でわずかな黒字。
- 農業機械向けGPS・レーザー制御装置:数量 22.0(GPS・レーザー制御装置の案件1件相当換算)× 価格 0.16(案件1件相当当たり売上・億円)→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。通年寄与と農業機械向け受注の増加。案件数量2.2倍、単価1.4倍。
倍率:事業純利益は8.49−59×1.4%=7.664億円、事業自己資本は約27.69億円でROE約27.7%。新規投資の超過収益を半分残すRONICは約17.5%となるが、受託工数依存の長期成長率は名目0%。k=7.25%より正当化PERは13.793倍。事業価値約105.71億円と、将来余剰現金59億円の75%である44.25億円を合算する。
確率:現実の検査装置市場に成長需要があり、同社も2024年にテスコを取得している。主力の工数が縮んでも、新しい製品事業の成長によって利益を守れる可能性は十分あるが、買収先の収益性はまだ実証途中である。
中立 34% 開発工数の縮小を物理製品の成長が部分的に補う 利益 5 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,490 円100 億円
ヴィッツは2036年にも制御ソフトウェアと機能安全の専門会社として必要とされている。ただし、顧客が購入する開発工数は減る。AIエージェントがコード生成や検証準備を引き受け、自動車メーカー側ではSDVの共通基盤化が進むからだ。価格は物価に沿って上がるものの、実質の受託数量は現在から3割減少する。
代わりに、テスコのX線検査装置が安定的に成長する。装置販売と保守を組み合わせ、案件数量を緩やかに増やす。農機制御事業も買収初年度の部分的な売上計上から通年寄与へ移り、小幅な利益を確保する。リザーブマートは競争が厳しく、予約画面を価値の中心とする仕組みだけでは十分な利益を上げられない。
営業利益は2026年の実績に近い水準にとどまる。経営陣は大きな赤字を出さないが、買収による利益率の飛躍的な改善にも至らない。DOEに沿った配当は続き、利益の相当部分は現金として残る。したがって、将来価値の支えは際立った事業成長ではなく、専門技術による一定の稼ぐ力と現金の蓄積となる。
- 組込みソフトウェア・機能安全・開発支援:数量 2,380(年間の請求対象となる技術者稼働量・人月換算)× 価格 0.02(請求人月1件当たりの実現売上・億円)→ 売上 45 億円・営業利益 5 億円。AIエージェント代替の人月型。実質数量0.70倍、単価1.34倍、営業利益率10.5%。
- X線検査装置・センシング:数量 14.0(年間の大型検査装置・保守契約の装置1台相当換算)× 価格 0.87(装置1台相当当たりの売上・億円)→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。検査需要が継続。案件数量1.17倍、単価1.34倍、営業利益率8%。
- 施設予約システム・リザーブマート:数量 80.0(年間契約施設グループ数・仮定)× 価格 0.01(1施設グループ当たり年間売上・億円)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。操作画面のAI代替で数量0.80倍、単価1.10倍。小幅赤字が続く。
- 農業機械向けGPS・レーザー制御装置:数量 20.0(GPS・レーザー制御装置の案件1件相当換算)× 価格 0.15(案件1件相当当たり売上・億円)→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。2026年の約半年取り込みから通年寄与へ移行。案件数量2.0倍、単価1.34倍。
倍率:事業純利益は5.22−49.5×1.4%=4.527億円。事業自己資本は71.34−49.5=21.84億円、事業ROEは約20.7%で資本コスト7.25%を上回る。堀は普通、超過収益の残存割合は1/2とするが、AIエージェント代替のため長期成長gは0%。よって正当化PER=1÷0.0725=13.793倍。事業価値約62.44億円に、将来余剰現金49.5億円の75%に相当する37.13億円を加算し、現金利益の二重計上を避ける。
確率:車載ソフトウェア市場の拡大は事実だが、受託開発会社の取り分が同じ比率で増えるとは限らない。AIエージェント代替を受ける人月数量0.70倍と物価並みの単価上昇を中心に据え、検査装置と農機制御には公表された現場需要を踏まえた成長を認める。
やや悲観 25% 共通ソフトウェア基盤への移行で受託の採算が悪化 利益 2 億円 · PER 11.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,029 円41 億円
自動車メーカーや半導体企業がSDV用の共通ソフトウェアを普及させ、個別に外注する制御プログラムの範囲を減らす。ヴィッツは機能安全や一部の高度な検証業務を守るが、コード作成と試験準備の工数はAIエージェントに置き換わる。安全性に関わる最終判断は残るものの、それだけでは以前の売上規模を維持できない。
ソフトウェア事業の実質数量は現在の55%まで減り、顧客との価格交渉も厳しくなる。センシング事業では一部の大型装置の発注が遅れ、固定費が利益率を圧迫する。リザーブマートは予約管理の競争激化で赤字を続け、アグコントロールシステムも建機分野への展開に時間がかかる。
経営陣は不採算案件から撤退し、現金を使った新規買収を抑える。利益は細るが、現時点の財務余力が大きいため、事業を継続できる。DOEを目安にした配当は減額も交えながら続く。株主価値は主として留保現金と残存する専門技術によって支えられ、成長企業としての評価は失われる。
- 組込みソフトウェア・機能安全・開発支援:数量 1,870(年間の請求対象となる技術者稼働量・人月換算)× 価格 0.02(請求人月1件当たりの実現売上・億円)→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。AIエージェント代替で実質数量0.55倍、単価1.18倍。稼働率と価格交渉力の低下で利益率5%。
- X線検査装置・センシング:数量 10.0(年間の大型検査装置・保守契約の装置1台相当換算)× 価格 0.79(装置1台相当当たりの売上・億円)→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。設備投資の延期で数量0.83倍、単価1.22倍。固定費負担が重い。
- 施設予約システム・リザーブマート:数量 70.0(年間契約施設グループ数・仮定)× 価格 0.01(1施設グループ当たり年間売上・億円)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。予約システムの操作画面代替が進み、数量0.70倍、単価1.02倍。
- 農業機械向けGPS・レーザー制御装置:数量 13.0(GPS・レーザー制御装置の案件1件相当換算)× 価格 0.14(案件1件相当当たり売上・億円)→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。農業向けの限定的な需要にとどまり、買収先の固定費を賄えない。
倍率:事業純利益は1.77−36.4×1.4%=1.2604億円、事業自己資本は約20.69億円で事業ROEは約6.1%とk7.25%を下回る。PER上限は1÷k=13.79倍だが、やや悲観では受託事業の利益縮小がさらに続く可能性を認め、残存する事業の稼ぐ力を11倍で評価する。事業価値13.86億円に、将来余剰現金36.4億円の戻り方0.75を反映した27.3億円を加える。
確率:2026年のEV関連案件の中止は顧客の開発方針変更が業績へ直接影響することを示した。受託工数減少を成果報酬化で補えず、買収先の立ち上がりも遅れる複合シナリオとして相応の重みを置く。
悲観 15% 受託開発の競争力を失い、買収事業も利益を生まない 利益 −1 億円 · PBR 0.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 613 円25 億円
自動車の制御ソフトウェアは共通基盤とAIによる自動開発が主流になり、ヴィッツが請求できる工数は現在の4割弱まで縮む。専門家による安全性確認はなお必要だが、大手顧客が開発・検証の基盤を自社で保有するため、外部の小規模な開発会社が担当する仕事は減少する。顧客との関係そのものは残っても、価格決定力は失われる。
センシング事業では競合の装置に置き換えられ、低い稼働率の中でも技術者や製造設備の維持費が残る。農業機械向け制御技術の他分野展開は進まず、リザーブマートの予約システムは低価格製品とAIエージェントに顧客を奪われる。買収時の期待収益が得られず、のれんなどの減損も発生する。
経営陣は新規開発を縮小し、拠点と人員の再編を進める。過去に得た利益の一部は事業撤退、設備更新、買収後の整理に使われ、現金として株主に戻らない。10年後の事業は小さな赤字となり、評価の中心は残存事業の成長ではなく、現在保有する換金可能資産の保守的な価値になる。倒産ではなく、株主資本の使い方に失敗する筋書きである。
- 組込みソフトウェア・機能安全・開発支援:数量 1,292(年間の請求対象となる技術者稼働量・人月換算)× 価格 0.02(請求人月1件当たりの実現売上・億円)→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。AI代替と内製化で実質数量0.38倍。固定費の削減が追い付かず赤字。
- X線検査装置・センシング:数量 7.0(年間の大型検査装置・保守契約の装置1台相当換算)× 価格 0.64(装置1台相当当たりの売上・億円)→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。装置販売の縮小、保守顧客の離脱、低稼働による営業赤字。
- 施設予約システム・リザーブマート:数量 55.0(年間契約施設グループ数・仮定)× 価格 0.00(1施設グループ当たり年間売上・億円)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。契約数量0.55倍、単価0.95倍。画面型サービスの競争力を失う。
- 農業機械向けGPS・レーザー制御装置:数量 8.0(GPS・レーザー制御装置の案件1件相当換算)× 価格 0.11(案件1件相当当たり売上・億円)→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。販売数量・単価ともに弱く、買収した製品事業が黒字化しない。
倍率:2036年時点の赤字をPERで永続資本化すると不合理なので、純現金と換金可能資産を基礎とする清算価値で評価する。検査上のPBRの基準は、2025年8月期の自己資本28.2億円であり、2026年8月期の自己資本32.67億円や2036年時点の自己資本46.74億円を倍率の分母には使わない。2026年8月期の資産から見積もった税後換金可能価値24.5億円は、2025年8月期の自己資本28.2億円の約0.869倍に相当する。したがってPBRを0.87倍とし、28.2億円×0.87=24.534億円から時価総額を24.53億円とする。清算可能資産の床24.5億円をわずかに上回り、将来の留保利益や換金困難な資産を重ねて加算しない。
確率:AIによる工数削減に加え、大口顧客の内製化、SDV共通基盤への移行、買収事業の失敗が重なる厳しい状況。会社の現金は厚く、事業存続不能までは想定しないが、長年の利益蓄積が株主に十分戻らない危険を無視しない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
組込みソフトウェア・機能安全・開発支援
自動車・産業機械向け制御ソフトウェアの受託開発、安全性検証、シミュレーション、セキュリティ支援。AIエージェント代替の型は「人月・工数で売る」であり、認証取得だけを理由に「記録の正本」には分類しない。
| 数量年間の請求対象となる技術者稼働量・人月換算 | 価格請求人月1件当たりの実現売上・億円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 3,400 | 0.01 | 48 | 6 |
| 10 年後 中立 | 2,380 | 0.02 | 45 | 5 |
取り方:2026年8月期決算短信のソフトウェア事業の外部売上高48.43619億円と営業利益6.29783億円を採用。実際の人月数と単価は非開示のため、年間3400人月を仮定した数量単価の分析用換算値であり、請求実績ではない。単価は48.43619÷3400=0.01424594億円、約142.5万円/人月相当。2025年時点で従業員が300人規模であることと年間稼働月数を踏まえた概算で、外注費を含む契約形態の違いによる誤差がある。市場比較には矢野経済研究所の2025年国内車載ソフトウェア6790億円、2030年1兆118億円を使用。ただし会社の自動車向け売上比率は非開示。AIエージェント代替の中立では、数量を今の0.70倍、価格を1.34倍とする。出典:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3878
X線検査装置・センシング
テスコによるX線透過・CT検査装置の製造販売と保守。物理的な検査設備と現場対応に価値があるため、AIエージェントの人月代替を全体には適用しない。
| 数量年間の大型検査装置・保守契約の装置1台相当換算 | 価格装置1台相当当たりの売上・億円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 12.0 | 0.65 | 8 | 0 |
| 10 年後 中立 | 14.0 | 0.87 | 12 | 1 |
取り方:2026年8月期のセンシング事業外部売上高7.81306億円と営業利益0.34080億円を採用。装置出荷台数、保守契約数、平均単価の開示はない。年間12台相当は装置販売と保守をまとめた分析用換算数量であり、実際の出荷台数ではない。売上を12で割った0.65108833億円を換算単価とする。国内非破壊検査市場は2024年度2376億円、うち装置1057億円という外部調査を利用。会社売上を装置市場で割った0.74%は規模比較にすぎず、X線検査装置の実シェアではない。出典:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3841
施設予約システム・リザーブマート
公共施設や音楽スタジオなどが使う予約管理システムの開発・利用料収益。AIエージェント代替の型は「席課金・操作画面が価値の中心にある業務ソフト」に準じる。契約継続の定量証拠が不足するため「記録の正本」とはしない。
| 数量年間契約施設グループ数・仮定 | 価格1施設グループ当たり年間売上・億円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 100 | 0.01 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 0.01 | 0 | 0 |
取り方:2026年8月期短信で「その他」全体の外部売上高1.65517億円、営業損失0.30003億円は開示されているが、リザーブマートとアグコントロールシステムの個別業績は開示されていない。2025年6月取得後の期間の短さを踏まえ、2026年通年のリザーブマート売上を0.50億円、営業損失を0.18億円と仮定した。100契約施設グループ×年間0.005億円は説明のための仮説で、顧客数や実際のARPUを示すものではない。同一定義の国内施設予約システム市場規模と各社シェアは公表資料で確認できない。AIエージェント代替の中立は契約数量0.80倍、単価1.10倍。
農業機械向けGPS・レーザー制御装置
2026年に子会社化したアグコントロールシステムによる農地の均平化などに使う機械制御装置。顧客の現場で機械を動かす製品であり、AIエージェントの受託工数削減をそのまま当てはめない。
| 数量GPS・レーザー制御装置の案件1件相当換算 | 価格案件1件相当当たり売上・億円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 10.0 | 0.12 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 0.15 | 3 | 0 |
取り方:2026年8月期「その他」外部売上高1.65517億円からリザーブマートの推計0.50億円を差し引き、1.15517億円を仮置きした。営業損失はその他全体の0.30003億円からリザーブマート推計0.18億円を差し引いた推計値。取得は2026年3月であり、当期は約半年の取り込みなので、2036年に向けた数量増加には通年寄与への移行も含む。10案件相当という数量も推計であり、実際の販売台数ではない。北海道の公表では2025年度の国内自動操舵システム出荷は9590台だが、同社の均平化制御装置と製品範囲が一致せず、直接のシェア計算には使えない。出典:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/gjf/a0007/b0003/smart_guidance.html
リスクと懸念
AI エージェント代替
主力ソフトウェア事業は人月・工数によって収入を得る部分が大きい。AIエージェントがコード生成、試験設計、文書作成、修正作業を自律的に進めれば、顧客が購入する工数そのものが減る。機能安全の専門家による最終確認は残っても、成果報酬型への転換が遅れれば売上と利益を守れない。予約システムも、人が画面を操作する価値が低下する危険を持つ。
車載ソフトウェアの共通基盤化と顧客の内製化
SDVの普及によって、自動車メーカーや半導体関連企業が共通のソフトウェア基盤を供給するようになると、個別の組込み開発会社の担当範囲が狭まる。顧客との長い関係は強みだが、大手顧客が開発の内製化を決めれば、受託会社は数量と単価の両方で不利になる。市場全体の成長がそのままヴィッツの成長につながるとは限らない。
買収の投下資本利益率が低いまま終わる危険
テスコ、リザーブマート、アグコントロールシステムの取得は、製品収益を増やす方向として理解できる。しかし2026年時点では、センシング事業の営業利益率は低く、その他事業は赤字である。買収額に対して十分な営業利益と現金収支を生まない状態が続くなら、連結売上が増えても株主価値は増えない。のれんの減損はその失敗が表面化する一つの結果にすぎない。
大口顧客の開発計画変更
自動車産業の開発需要は、電動化政策、メーカーの投資判断、車種ごとの開発計画によって大きく振れる。2026年8月期の終盤にはEV関連の開発案件の中止が業績に影響した。専門技術者は案件が突然止まっても短期間で削減できないため、売上の減少が営業利益率を大きく押し下げる。売上高の見通しだけでなく、顧客ごとの継続発注を確認する必要がある。
検査装置・農機制御における規模の不利
物理的な製品はAIの工数代替を受けにくいが、装置の設計、調達、生産、保守、営業網では大手メーカーが優位に立つ。テスコのX線検査装置も、農業機械向けのGPS制御装置も、技術があるだけで高い価格を維持できる市場ではない。出荷台数が計画を下回れば、小さい事業ほど固定費の負担が重くなり、買収時に期待した利益が消えやすい。
余剰現金を株主へ戻さない資本配分
現預金が厚い会社でも、株主が自由に現金の使い道を決めることはできない。ヴィッツはDOE2.4%を目安に配当しているが、利益の全額還元や一定額の自社株買いを約束しているわけではない。今後も買収へ多額の現金を使い、利益を生まない資産が積み上がれば、帳簿上の現金の安全性は株主の経済的な安全域に結びつかなくなる。
今後の分かれ目
- ソフトウェア事業の請求対象工数が減っても営業利益率が15%以上へ上昇し、成果報酬契約の売上額が開示されたら
- AIによる効率化の利益を自社が受け取れている証拠となる。受託開発の価格決定力と利益率を見直し、楽観側の確率を高める。ただしAI関連の売上増加と既存工数の減少を二重に数えない。
- センシング事業の売上高が10億円を超え、営業利益率が8%以上で複数期続いたら
- 買収した検査装置事業が第二の利益源へ育ち始めたと判断する。装置相当数量、平均単価、保守比率の仮定を上方修正し、買収の増分資本利益率を再評価する。
- アグコントロールシステムが通年寄与後も赤字で、追加投資や減損が発生したら
- 農業機械向け製品への展開は想定より難しいと判断する。買収後の現金創出力とその他事業の利益率を下げ、やや悲観側の確率を引き上げる。
- 自動車メーカー側のSDV共通基盤採用や内製化によって主力の新規受注が継続的に減少したら
- 一時的な案件変動ではなく、受託開発の市場構造の変化とみなす。ソフトウェアの実質数量を中立の0.70倍より低くし、固定費が残る分だけ利益率も見直す。
- DOE2.4%の配当に加えて、継続的な自己株買いや余剰現金の特別還元が実行されたら
- 現金が少数株主に戻る蓋然性を高く評価する。余剰現金の戻り方を0.75から1.0へ見直す余地がある。ただし買収や事業投資に使う資金と還元対象の現金は区別する。
- 2027年以降もソフトウェア事業の売上と営業利益がともに減らず、非人月型の製品売上が定量開示されたら
- AI代替による工数減少を他の収益へ転換できている可能性が高まる。開示された製品部分だけを別の数量・価格構造へ移し、全社一律の工数型評価を改める。
見ておくもの
- ソフトウェア事業の外部売上高、営業利益、営業利益率と、成果物・安全保証型契約の定量開示
- 車載SDV共通基盤の普及状況と自動車メーカー・部品メーカーによる開発の内製化動向
- 機能安全・AI安全保証サービスの実受注額、顧客数、単価改定の実績
- センシング事業の装置出荷数量、平均単価、保守収益比率、営業利益率
- アグコントロールシステムの通年売上高、営業損益、農業以外への販売実績
- リザーブマートの契約施設数、解約率、継続課金額とAI予約エージェントへの対応
- DOE2.4%の維持状況、自社株買い実施額、現預金と投資有価証券の残高
- 買収した子会社ののれん残高、減損の発生、買収後の営業キャッシュフロー
- 中期経営計画の売上60億円、営業利益率11%、ROE14%の達成状況
- 継続企業の前提の注記、公開買付け、上場廃止予定、主要株主の資本異動
倍率と資本コストの決め方
市場評価の倍率を出発点にしていない。2026年8月期の最新決算から事業別売上を取り、ソフトウェアの実質人月数量にはAIエージェント代替による10年0.70倍、予約システムには0.80倍を適用した。物価3%に相当する価格上昇は単価側だけに入れ、数量へ重ねていない。検査装置と農機制御は実物需要に基づく別の数量・価格構造とした。2036年以降の長期成長は名目0%とし、資本コスト7.25%から正当化PER13.793倍を算出した。将来の余剰現金は、自己資本の増加と事業に必要な運転資本を分けて各シナリオに明示したため、機械的な留保現金の上乗せと二重計上しない。10年間の還元はDOE2.4%を参考に利益水準に応じて変更し、自己資本も2026年の32.67億円に期間利益を加えて還元を差し引いた。新リース会計基準による表示変更はあり得るが、営業費用とリース負債を二重控除せず、現在と同じ経済実態で比較する。株価1723円と株数3999341株は添付の基準を固定し、最新の業績だけ2026年8月期の短信に更新した。悲観はのれん約2.49億円などを換金価値から控除し、清算可能な資産約24.5億円を床とした。悲観のPBRは2025年8月期の自己資本28.2億円を基準に0.87倍とし、時価総額24.53億円と一致させた。2036年の自己資本46.74億円を悲観の倍率に掛けていない。買収プレミアムや過去の市場PERによる上乗せは行っていない。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%の基本資本コスト7.5%から、純現金の厚さによる0.25ポイントのみを控除する。AI代替、買収の失敗、顧客集中は利益シナリオに反映し、資本コストに重複して上乗せしない。