結論
クレスコは、金融・通信・流通向けの業務システムと、車載・組込みソフトの開発を、技術者の工数で請け負う会社だ。自己資本比率は 7 割、純現金は時価総額の 16%、営業利益率は 10% 台で安定している。
筆者の結論は「割高」。稼ぎの大半が人月型で、AI エージェントが設計・開発・テストの手作業を肩代わりすれば数量が縮む。堅実な経営と還元の強化は評価するが、10 年で見ると利益の縮みが先に来る。2025 年に株主提案を受けて配当性向を 50% へ引き上げた点は、下値を支える材料になる。筆者は、その方針が長く守られるかを最後まで見ておきたい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、財務の安全性と誠実な経営は高く評価できる。株主に残る利益は営業利益の 7 割ほどで、設備投資がほとんど要らず、現金が着実に積み上がる。
問題は 10 年後も工数で稼げるかだ。筆者は、業務システムの工数は 3 分の 1 ほど縮み、車載・組込みは縮みが浅いと見る。配当性向 50% の方針があるので、利益が縮んでも株主への戻りは保たれる。それでも今の値段には、縮みへの備えが足りない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、顧客の依頼でソフトを作る受託開発だ。金融機関や通信会社、流通業向けの業務システムが中心で、保守・運用も手がける。
もう一つの柱は、自動車や機器に組み込むソフトの開発だ。車の高機能化で需要は強いが、これも技術者の工数で売る点は同じだ。
売上は 2026/03 期に 647 億円、営業利益率は 10.2%。会社は 2027/03 期に売上 715 億円、営業利益 80 億円を見込む。なおセグメント別の割合は開示で確かめられず、筆者の推定で置いた。顧客は大手の金融機関や通信会社が多く、取引は長い。
優良さと弱いところ
堀は薄めだ。顧客との長い取引と、金融分野の業務知識は強みだが、受託開発は発注先を替える費用が高くない。同業は多く、技術者の確保が成否を分ける。
財務は優れている。営業利益率は過去 10 年で 8〜10% と安定し、赤字の期はない。借入はほぼ無く、純現金が積み上がってきた。
筆者が評価するのは、規模を追わず、利益を着実に積む経営姿勢だ。ただし技術者の数に頼る構造は、AI の時代には弱点にもなりうる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の受託開発は、レガシー刷新や DX 需要で底堅く、市場は名目で年 6% 前後の伸びが見込まれる。人手不足で単価も上がりやすい。
一方、生成AIがコード作成やテストを担い始め、人の工数で売る仕事の前提が揺らぐ。大手も内製や自動化を進め、発注の絞り込みが起きうる。
競合はシステナ、DTS、フューチャー、富士ソフトなど。車載・組込みは、ソフトが車の価値を決めるSDV化で需要が強い。筆者は、この部分は縮みが浅いと見る。ただし、コード作成が自動化されれば例外ではない。顧客の内製化の動きも見ておく必要がある。人手不足は当面の追い風だ。
資本政策と M&A
還元は強まっている。2025 年に株主から配当を引き上げる提案を受け、会社は配当性向を 50% へ引き上げる方針を決めた。2026/03 期の 1 株配当は 7 期連続の増配で、2027/03 期はさらに増やす計画だ。自社株買いの実績は確かめられなかった。中期計画 2026(2024〜2026 年度)の数値目標は、今回の調べでは確かめられていない。
見通しをどちらに寄せたか
業務システムは人月型で AI に置き換わりやすく、AI を売り物にした金額の開示もない。下側に 36% を置いた。一方、車載・組込みの強さと純現金、配当性向 50% の方針が下を支えるため、悲観でも手元の現金の価値は残る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,825 円722 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 606 円240 億円)。 今の値に割り戻すと 1,387 円549 億円、今との差 −35.9%、 期待の年率 +1.2%(資本コスト 6.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,857 円1,131 億円 | 829 円328 億円 | +70.4% | +5.5% | 258 円102 億円 |
| やや楽観 | 21% | 2,465 円976 億円 | 720 円285 億円 | +47.2% | +3.9% | 669 円265 億円 |
| 中立 | 36% | 2,010 円796 億円 | 632 円250 億円 | +22.1% | +2.0% | 951 円376 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,300 円515 億円 | 510 円202 億円 | −16.3% | −1.8% | 453 円179 億円 |
| 悲観 | 11% | 535 円212 億円 | 376 円149 億円 | −57.9% | −8.3% | 100 円40 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,825 円722 億円 | 606 円240 億円 | +12.4% | +1.2% | 2,431 円962 億円 |
今の株価時価総額 2,163 円856 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 7% AI を使いこなし、車載の伸びが縮みを埋める 利益 66 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 2,857 円1,131 億円
業務システムの工数が AI で縮んでも、技術者が AI を使いこなして 1 人あたりの売上を上げ、車載・組込みの強い需要が縮みを埋める筋書きだ。営業利益率は 11% 台に上がり、配当性向 50% の方針で還元も厚くなる。大手顧客との取引も広がり、技術者の採用も順調に進む。
- 業務システム開発・保守:数量 1,615(技術者・協力会社要員数(人))× 価格 0.30(1 人あたり売上(億円))→ 売上 490 億円・営業利益 56 億円。数量 0.85 倍・価格 1.34 倍(人月型の上限)
- 車載・組込み・ソリューション:数量 950(技術者数(人))× 価格 0.29(1 人あたり売上(億円))→ 売上 276 億円・営業利益 30 億円。数量 0.95 倍・価格 1.34 倍
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.1% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。
確率:AI を自社の売り物にして売上が出ている開示(金額)がなく、楽観でも数量は今以下。7% にとどめた。
やや楽観 21% 車載が支え、業務システムは緩やかに縮む 利益 55 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 2,465 円976 億円
業務システムの工数は 2 割強縮み、車載・組込みは 1 割強の縮みにとどまる。単価は物価に近い水準を保つので、営業利益は今と同じ程度で、配当性向 50% の方針により株主への戻りも続く。技術者の稼働率は高く保たれ、単価の交渉も通る。営業利益はほぼ今の水準を保つ。
- 業務システム開発・保守:数量 1,425(技術者・協力会社要員数(人))× 価格 0.30(1 人あたり売上(億円))→ 売上 423 億円・営業利益 46 億円。数量 0.75 倍・価格 1.31 倍
- 車載・組込み・ソリューション:数量 850(技術者数(人))× 価格 0.29(1 人あたり売上(億円))→ 売上 244 億円・営業利益 26 億円。数量 0.85 倍・価格 1.32 倍
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.8% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。
確率:車載・組込みの需要の強さと財務の厚さを評価。業務システムは縮むが、全面的な置き換えは遅れるとみる。
中立 36% 業務システムは 3 分の 1 縮み、車載は踏みとどまる 利益 43 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 2,010 円796 億円
国内の受託開発の需要は続くが、AI エージェントが設計・開発・テストの手作業を肩代わりし、業務システムの工数は 3 分の 1 ほど縮む。車載・組込みは縮みが浅い。売上は今の 8 割台後半で、営業利益は 1 割強減る。配当性向 50% の方針は続く。
- 業務システム開発・保守:数量 1,235(技術者・協力会社要員数(人))× 価格 0.29(1 人あたり売上(億円))→ 売上 358 億円・営業利益 36 億円。数量 0.65 倍・価格 1.28 倍(人月型)
- 車載・組込み・ソリューション:数量 750(技術者数(人))× 価格 0.28(1 人あたり売上(億円))→ 売上 212 億円・営業利益 21 億円。数量 0.75 倍・価格 1.30 倍(人月型)
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.1% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。
確率:人月型の業務システムは中立で数量 0.65 倍、車載・組込みは 0.75 倍。両者の落としどころ。
やや悲観 25% 内製化と値引きで、利益が削られる 利益 28 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 1,300 円515 億円
大手の顧客が AI で開発を自前で回し始め、業務システムの発注が半分近くに減る。車載・組込みにも価格圧力が及び、営業利益率は 8% 台へ下がる。配当は利益に合わせて抑えられ、現金が積み上がる。大型の買収で補う動きもあるが、成果は限られる。営業利益は今の半分強に減る。
- 業務システム開発・保守:数量 988(技術者・協力会社要員数(人))× 価格 0.27(1 人あたり売上(億円))→ 売上 268 億円・営業利益 23 億円。数量 0.52 倍・価格 1.20 倍
- 車載・組込み・ソリューション:数量 600(技術者数(人))× 価格 0.26(1 人あたり売上(億円))→ 売上 159 億円・営業利益 13 億円。数量 0.60 倍・価格 1.22 倍
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)34 億円。
確率:顧客の内製化と発注の絞り込みが重なる筋書き。技術者を抱えたまま稼働が落ちると利益が削られる。
悲観 11% 人月が置き換わり、現金が主役になる 利益 13 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 535 円212 億円
AI エージェントが設計・開発・テストの手作業を置き換え、業務システムの数量は 4 割に縮む。車載・組込みも半分以下になり、営業利益率は 6% 前後へ下がる。優良な会社ではなくなり、価値の多くは手元の現金と縮んだ事業の稼ぎに戻る。配当は利益に合わせて大きく減り、株主への戻りも細る。
- 業務システム開発・保守:数量 760(技術者・協力会社要員数(人))× 価格 0.25(1 人あたり売上(億円))→ 売上 189 億円・営業利益 11 億円。数量 0.40 倍・価格 1.10 倍
- 車載・組込み・ソリューション:数量 450(技術者数(人))× 価格 0.24(1 人あたり売上(億円))→ 売上 109 億円・営業利益 6 億円。数量 0.45 倍・価格 1.12 倍
倍率:事業の ROE 2.6% は k 6.75% 以下で、ためた利益は額面の価値に届かない。10 年より先の名目の伸び g 0.0%(g_long)で稼ぐ力の値 1÷(k−g) = 14.8 倍を上限に置き、事業の純利益 13 億円 × 14.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)22 億円。AI エージェント代替は 10 年の数量・価格と g_long に入れ済みで、倍率の上に割引は重ねない。
確率:AI エージェントが設計・開発・テストの工数を大きく置き換え、車載のソフト開発も自動化される。売上が半分近くまで縮む構造的な負け。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
業務システム開発・保守
金融・通信・流通向けの業務システムの受託開発と保守・運用。技術者の工数で売る人月型。
| 数量技術者・協力会社要員数(人) | 価格1 人あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,900 | 0.23 | 430 | 45 |
| 10 年後 中立 | 1,235 | 0.29 | 358 | 36 |
取り方:セグメント別の開示を確かめられず、売上 647 億円のうち約 66% と推定(筆者の推定)。要員 1,900 人(協力会社含む)も推定で、1 人あたり売上は約 2,260 万円。営業利益率 10.5% は推定。【AI エージェント代替】人月型として中立で数量 0.65 倍・価格 1.28 倍。
車載・組込み・ソリューション
自動車や機器に組み込むソフトの開発、自社のソリューション。工数で売るが需要は強い。
| 数量技術者数(人) | 価格1 人あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 0.22 | 217 | 21 |
| 10 年後 中立 | 750 | 0.28 | 212 | 21 |
取り方:売上の残り約 34% と推定。技術者 1,000 人は筆者の推定(1 人あたり売上 2,170 万円)。営業利益率 9.7% は推定。【AI エージェント代替】人月型だが、車のソフト化で需要が強く、中立で数量 0.75 倍・価格 1.30 倍。
リスクと懸念
AI エージェントによる工数の置き換え
受託開発は技術者の数と単価の積で稼ぐ。AI が設計・開発・テストを担えば数量が縮む。中立で業務システムの工数が 3 分の 1 ほど縮むと置いた。
大手顧客の内製化
金融・通信の大手顧客が AI を使って開発を内製すると、発注が絞られる。受託は発注先を替える費用が低く、値引き圧力も強い。
技術者の採用難と人件費
人手不足で採用費と人件費が上がる。単価に転嫁できないと、10% 台の営業利益率が削られる。
還元方針の後退
配当性向 50% の方針は株主提案を受けて決まった。利益が縮む局面で方針が変われば、安全域の根拠が薄れる。
今後の分かれ目
- 業務システムの1人あたり売上が物価を下回って下がり始めたら
- やや悲観・悲観の筋書きに確率を移す。人月型の縮みが想定より速い合図とみる。
- 車載・組込みの受注が AI 活用で単価を保ったまま伸びたら
- 楽観側の確率を引き上げ、数量の置き方を見直す。
- 自社株買いを含む総還元の数字の約束が出たら
- 余った現金の戻り方への確信が強まり、安全域が厚くなる。
見ておくもの
- 2027/03 期の売上 715 億円・営業利益 80 億円の達成度
- 業務システムの1人あたり売上と稼働
- 配当性向 50% の維持と自社株買いの有無
- 新しい中期計画(2027〜2030 年度)の数値目標
倍率と資本コストの決め方
業務システムと車載・組込みに分け、どちらも人月型として AI エージェント代替の縮みを 10 年に置いた。倍率は式の上限そのもので、今の株価や同業の値付けは見ていない。形はリースを含まず今と同じ。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。