結論
スマレジは、店舗向けのクラウド POS(レジ)を軸に、決済・タイムカード・ネットショップ支援へ広げる会社だ。有料店舗は4.5万を超え、2026年4月期の売上は133億円、営業利益は32億円だった。
筆者の結論は、事業の勢いは本物だが、10年の値段は高すぎる、である。月次の解約は0.5%と低く、店舗が増えるほど決済の取扱高が積み上がる。席ではなく店舗と取扱高に課金するため、AI の置き換えを受けにくい。
ただし決済は競争が激しく、手数料の率は下がりやすい。中立の営業利益率は25%と過去最高並みで、売上は今の2.6倍にとどまる。会社の長期の目標である2031年4月期のARR300億円(月次の継続収益の年換算)には届かない。
確率を加重した価値は、今の時価総額を下回る。上側の筋書きでも、10年の年率は資本コストを少し上回る程度にとどまる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、店舗の記録と決済を握るこの事業は、10年後も残る可能性が高い。解約が少なく、使うほど単価が上がる点は好ましい。
問題は値段が、成長の持続を前提にしていることだ。決済の競争は厳しく、手数料の率の下落が利益を削る。会社が示すARR300億円は意欲的だが、筆者は半分ほどの実現を中立に置く。
純現金80億円は安全域になるが、支配株主の下で戻り方は4分の3にとどめた。強い事業だが、払う値段に安全域は薄いと見る。
何で稼ぐ会社か
主力は、タブレットで使うクラウド POS「スマレジ」だ。飲食・小売・サービスの店舗が、レジ・在庫・売上分析を月額で使う。有料店舗は4.5万を超え、POS 関連の継続収益は約63億円だ。
成長の柱は、POS に重ねて売る決済、タイムカード、ネットショップ支援だ。決済は店舗の取扱高に応じた手数料が入り、POS の1店舗あたりの売上を押し上げる。2025年にはネットショップ支援室を買収した。
会社が最も重視するのは ARR で、2026年4月期の第2四半期に99億円、前年同期比42%増だった。2025年末には100億円に達した。月額課金への切り替えを急ぐため、売上より ARR が速く伸びる。
優良さと弱いところ
堀は、店舗の日々の売上の記録そのものを握っていることだ。月次の解約率は0.5%と低く、一度入れた POS を替えるのは店舗にとって手間が大きい。POS を入口に、決済・勤怠・EC を重ねる売り方で、1店舗あたりの単価が上がる。
弱みは三つある。決済は海外大手や国内の同業と競い、手数料の率が下がりやすい。会社は決済の収益の内訳を開示しておらず、利益の質を測りにくい。創業者の支配が強く、上位10株主で約82%を握る。
財務は自己資本比率が68%で、純現金は80億円ある。営業利益率は24%と、同業の中でも高い水準へ上がってきた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のキャッシュレス比率は上がり続け、店舗の IT 化は人手不足で進む。POS の需要は、新しい店の開業と、古いレジの置き換えが支える。小売・飲食の店舗数はほぼ横ばいで、成長はシェア拡大と決済の取り込みによる。
競合は、エアレジなどの無料に近い POS と、Square、Stripe などの海外勢だ。POS 本体は値下がりしやすく、稼ぎは決済と周辺サービスへ移っている。
AI が店舗の発注・シフト・分析を肩代わりしても、売上を記録する POS と決済の仕組みは残る。席ではなく店舗と取扱高に課金するため、事務系の SaaS より AI の影響は小さい。一方、AI 搭載の無料 POS の登場や、決済手数料の下落は十分ありうる。筆者は、数量は伸びるが価格には下げ圧力が残るとみる。
資本政策と M&A
配当は2025年4月期に初めて出し、続く2026年4月期に増やした。配当性向は2割台で、自社株買いは確認できなかった。成長への投資を優先する姿勢だ。
第2次中期経営計画のARR目標94.6億円は前倒しで達成した。第3次中期経営計画は今期中に正式に公表される予定で、方向性はARRの年25〜30%の伸びと、2031年4月期のARR300億円だ。株主還元の具体的な数字の約束は、確認できた資料の範囲ではない。
2025年にネットショップ支援室を買収し、小型の買収で領域を広げている。10年以内の買収・TOBの確率は2割弱という外部の推計がある。創業者の支配が強く、実現すれば創業側の意向が決める。
見通しをどちらに寄せたか
解約の低さと POS・決済の重なりを評価し、確率を悲観側に寄せすぎなかった。決済の競争と、計画の達成が必要な点を踏まえ、上側を31%、下側を32%、中立を37%とほぼ左右対称に置いた。差は割高側で、上側の筋書きでも年率は資本コストを少し上回る程度だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した株価時価総額 4,264 円821 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 554 円107 億円)。 今の値に割り戻すと 2,508 円483 億円、今との差 −33.4%、 期待の年率 +2.5%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 7,678 円1,479 億円 | 752 円145 億円 | +123.9% | +8.4% | 759 円146 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,216 円1,197 億円 | 660 円127 億円 | +82.7% | +6.2% | 1,513 円291 億円 |
| 中立 | 37% | 4,820 円928 億円 | 587 円113 億円 | +43.6% | +3.7% | 2,000 円385 億円 |
| やや悲観 | 21% | 1,878 円362 億円 | 443 円85 億円 | −38.4% | −4.7% | 487 円94 億円 |
| 悲観 | 11% | 249 円48 億円 | 282 円54 億円 | −85.9% | −17.8% | 58 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,264 円821 億円 | 554 円107 億円 | +28.0% | +2.5% | 4,818 円928 億円 |
今の株価時価総額 3,765 円725 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 9% 決済が POS に深く入り、ARR300億円級に近づく 利益 94 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 7,678 円1,479 億円
有料店舗は今の2.6倍に増え、決済の取扱高も4倍になる。決済は店舗に深く入り、手数料の率の下落は軽くすむ。営業利益率は計画の27%を超えて28%まで上がる。ただし AI を自社の売り物にして金額が出ている開示は無いので、AI による上積みは見込んでいない。
- クラウド POS・店舗業務ソフト:数量 117(有料店舗数(千店))× 価格 2.14(1千店あたり年間売上(億円))→ 売上 251 億円・営業利益 85 億円。数量2.6倍・価格1.34倍・営業利益率34%
- キャッシュレス決済:数量 12.8(対象取扱高(兆円・実質))× 価格 13(1兆円あたり手数料売上(億円))→ 売上 165 億円・営業利益 41 億円。数量4.0倍・価格1.25倍・営業利益率25%
- ネットショップ支援・ハード・その他:数量 4,480(案件・端末(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 60 億円・営業利益 7 億円。数量1.6倍・価格1.34倍
倍率:事業の ROE 17.6% が k 7.2% を上回る。残る割合0.5、10年より先の名目の伸び g 1.0%(g_long)から正当化 PER 14.7 倍の上限そのものに置いた。全体の PER 14.7 倍。
確率:POS を入口に決済・EC を重ね、会社の長期目標に近づく筋書き。中期計画の達成が条件で、競争が厳しいため確率は小さく置いた。
やや楽観 22% POS の店舗増と決済の取り込みが続く 利益 76 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 6,216 円1,197 億円
有料店舗は今の2.3倍、決済の取扱高は3.5倍になる。手数料の率は少し下がるが、POS の単価と合わせて売上は4.0倍近くなる。営業利益率は27%まで上がる。会社の長期目標には届かないが、利益は今の3.4倍に増える。ただし成長の速さは年10%台に落ち着く。
- クラウド POS・店舗業務ソフト:数量 104(有料店舗数(千店))× 価格 2.08(1千店あたり年間売上(億円))→ 売上 215 億円・営業利益 71 億円。数量2.3倍・価格1.30倍・営業利益率33%
- キャッシュレス決済:数量 11.2(対象取扱高(兆円・実質))× 価格 12(1兆円あたり手数料売上(億円))→ 売上 138 億円・営業利益 33 億円。数量3.5倍・価格1.20倍
- ネットショップ支援・ハード・その他:数量 3,920(案件・端末(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 53 億円・営業利益 5 億円。数量1.4倍・価格1.34倍
倍率:事業の ROE 16.5% が k 7.2% を上回る。残る割合0.5、g 1.0%(g_long)から正当化 PER 14.7 倍の上限に置いた。全体の PER 14.7 倍。
確率:ARR は計画を前倒しで達成しており、解約も低い。実績が成長を支える。ただし決済の競争があるため、楽観に寄せすぎない。
中立 37% 店舗と取扱高は伸びるが、決済の値下がりで利益率は頭打ち 利益 59 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 4,820 円928 億円
有料店舗は今の2.0倍、決済の取扱高は3.0倍になる。ただし決済は競争で手数料の率が下がり、売上は取扱高ほどには伸びない。売上は今の2.6倍で、会社の2031年のARR300億円の水準には届かない。営業利益率は過去最高並みの25%で頭打ちになる。
- クラウド POS・店舗業務ソフト:数量 90.0(有料店舗数(千店))× 価格 2.00(1千店あたり年間売上(億円))→ 売上 180 億円・営業利益 56 億円。数量2.0倍・価格1.25倍・営業利益率31%(店舗課金。AI 代替の影響は限定的)
- キャッシュレス決済:数量 9.6(対象取扱高(兆円・実質))× 価格 12(1兆円あたり手数料売上(億円))→ 売上 114 億円・営業利益 25 億円。数量3.0倍・価格1.15倍・営業利益率22%(手数料の率は競争で下がる。理由は決済の競争で物価ほど上げられないため)
- ネットショップ支援・ハード・その他:数量 3,640(案件・端末(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 49 億円・営業利益 4 億円。数量1.3倍・価格1.34倍
倍率:事業の ROE 15.1% が k 7.2% を上回る。残る割合0.5、10年より先の名目の伸び g 1.0%(g_long)から正当化 PER 14.6 倍の上限そのものに置いた。全体の PER 14.6 倍。
確率:解約の低さと POS・決済の重なりを踏まえつつ、決済の競争と会社目標への未達を重ねた最も重みを置く筋書き。
やや悲観 21% 無料 POS と決済の値下げで、成長が鈍る 利益 27 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,878 円362 億円
有料店舗は今の1.5倍にとどまり、決済の取扱高は2倍で、手数料の率は下がり続ける。売上は今の1.65倍、営業利益率は18%に落ちる。増収でも利益の伸びは小さく、成長株としての評価は厳しくなり、株主への還元も利益に合わせて小さくなる。純現金は積み上がるが、使い道が見えにくい。
- クラウド POS・店舗業務ソフト:数量 67.5(有料店舗数(千店))× 価格 1.76(1千店あたり年間売上(億円))→ 売上 119 億円・営業利益 29 億円。数量1.5倍・価格1.10倍・営業利益率24%
- キャッシュレス決済:数量 6.4(対象取扱高(兆円・実質))× 価格 10(1兆円あたり手数料売上(億円))→ 売上 66 億円・営業利益 10 億円。数量2.0倍・価格1.0倍・営業利益率15%
- ネットショップ支援・ハード・その他:数量 2,800(案件・端末(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 34 億円・営業利益 2 億円。数量1.0倍・価格1.2倍
倍率:事業の ROE 10.4% と k 7.2% から、上限の正当化 PER 14.2 倍。競争で上限まで認めず85%に置いた。全体の PER 12.1 倍。
確率:AI 搭載の無料に近い POS や海外の決済大手が店舗を奪い、手数料が下がる筋書き。POS の解約は低いが、決済は守りにくい。
悲観 11% POS が無料化し、決済も奪われる 利益 5 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 249 円48 億円
AI を載せた無料の POS が広がり、有料店舗は増えない。決済の手数料も大手に押されて下がる。売上は今の5割増にとどまり、営業利益率は一桁に落ちる。純現金が残るため、価値は稼ぐ力ではなく現金と小さなソフト事業で決まる。成長の物語は終わり、配当も細る。
- クラウド POS・店舗業務ソフト:数量 45.0(有料店舗数(千店))× 価格 1.52(1千店あたり年間売上(億円))→ 売上 68 億円・営業利益 7 億円。数量1.0倍・価格0.95倍・営業利益率10%
- キャッシュレス決済:数量 3.2(対象取扱高(兆円・実質))× 価格 8.24(1兆円あたり手数料売上(億円))→ 売上 26 億円・営業利益 1 億円。数量1.0倍・価格0.8倍
- ネットショップ支援・ハード・その他:数量 1,680(案件・端末(件))× 価格 0.01(1件あたり売上(億円))→ 売上 17 億円・営業利益 0 億円。数量0.6倍・価格1.0倍
倍率:悲観は稼ぐ力が細る筋書き。床の資産47億円を超える今の自己資本96億円に対する PBR 0.50倍で時価総額を置いた。
確率:POS が無料化し、決済大手が店舗の接点ごと奪う構造的な負け。店舗は増えず、手数料も下がる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
クラウド POS・店舗業務ソフト
有料店舗向けの POS、タイムカード等の月額使用料。
| 数量有料店舗数(千店) | 価格1千店あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 45.0 | 1.60 | 72 | 19 |
| 10 年後 中立 | 90.0 | 2.00 | 180 | 56 |
取り方:有料店舗4.5万と POS 関連 ARR 約63億円(2026年4月期第2四半期)から、店舗あたり年間売上を推定。区分の売上72億円と営業利益19億円は推定(開示は区分別でない)。型は店舗・取扱量課金で、席ではない。
キャッシュレス決済
店舗の決済取扱高に応じた手数料収入。
| 数量対象取扱高(兆円・実質) | 価格1兆円あたり手数料売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 3.2 | 10 | 33 | 9 |
| 10 年後 中立 | 9.6 | 12 | 114 | 25 |
取り方:四半期の取扱高約8,000億円を年換算して約3.2兆円と置き、決済の売上を約33億円と推定した(開示は決済の収益を分けていない)。価格は手数料の率に物価を掛けた指数。営業利益9億円は推定。
ネットショップ支援・ハード・その他
EC 支援、端末の販売、その他。
| 数量案件・端末(件) | 価格1件あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 2,800 | 0.01 | 28 | 4 |
| 10 年後 中立 | 3,640 | 0.01 | 49 | 4 |
取り方:全社売上133億円から上の2区分を引いた約28億円。単価は推定。営業利益4億円は推定。
リスクと懸念
決済の手数料の下落と競争
決済は Square・Stripe・国内同業と競う。手数料の率が下がれば、取扱高が伸びても売上は伸びにくい。中立では価格を1.15倍に置いた。
AI 搭載の無料 POS の登場
POS 本体は無料に近い製品がすでにある。AI で機能差が縮めば、有料の POS を選ぶ理由が薄れる。
決済の収益の開示が薄い
決済の売上・利益が区分別に開示されず、利益の質を測りにくい。成長の中核なのに見えにくい点は、確信度を下げる。
創業者の支配と現金の使い道
上位10株主で約82%を持つ。少数株主は現金の使い道を決められず、戻り方は0.75に抑えた。
今後の分かれ目
- 第3次中期経営計画で営業利益と還元の具体的な数字が示され、達成が続いた
- 計画の信頼度が上がり、上側の筋書きに重みを移す。戻り方も見直す。
- 決済の売上・利益が区分別に開示された
- 利益の質を確かめられ、決済の利益率の置き方を見直す。
- 月次の解約率が上がり始めた
- 堀の証拠が弱まり、やや悲観・悲観へ重みを移す。
見ておくもの
- ARR と有料店舗数、月次の解約率
- 決済の取扱高と手数料の率の動き
- 第3次中期経営計画の営業利益・還元の数字
倍率と資本コストの決め方
先に事業を3つ(POS・決済・EC等)に推定で分け、店舗数と取扱高の数量に、手数料と物価の価格を掛けて置いた。倍率は式(k 7.25%程度、g_long 1%)の上限から出した。今の株価や同業の倍率は使っていない。IFRS ではなく日本基準で、リースの影響は小さい。株数は短信の発行済から自己株を引いた約1,926万株で、増減の基準は合っている。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。