結論
キャリアは、看護・介護・保育の現場と、働く意欲を持つシニア人材を結び付ける派遣・紹介会社である。筆者の結論は「適正」だ。高齢化によって仕事そのものが消えにくい一方、人材不足がそのまま同社の利益になるわけではない。2025年9月期は売上高149億円に対して営業赤字となり、2026年9月期も赤字予想である。株価の下落だけを理由に割安とは呼べない。
十年先の中心は、介護人材を必要とする施設が増えても、派遣できる人を同じようには増やせないという姿だ。2025年9月期のシニアケアの平均稼働人数は1,523人で、2021年の1,984人を下回る。シニアワークも同期間に1,911人から775人へ減った。登録者45万人という見栄えのよい数字より、実際に働き、売上を生む人数を見るべきである。
会社の強みは、資格や働き方に制約がある人と施設をつなぐ現場の手配能力にある。ただし、2025年には医療関連の違法派遣に対して一部業務の停止命令を受け、適正な職業紹介事業者の認定も取り消された。信頼と法令順守が商品の一部である業態では、単なる一過性の費用とは片付けられない。
純現金約9.5億円は時価総額約15.8億円に対して大きな支えだが、派遣社員の給与支払いを先行させる運転資金も必要である。五つの筋書きを資本コスト8.75%で割り引いた推定本質価値は約17.0億円となり、現在の時価総額との差は約プラス7%にとどまる。これは明確な割安ではない。長く持つ株主が求める安全域は、利益率の再建と法令順守の定着を確認するまでは薄い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、キャリアを買うことは、十年後の介護人材不足そのものに投資することではない。人手不足という大きな社会問題の中で、この会社が人を確保し、適法に派遣し、賃金と経費を払った後に利益を残せるかに投資することである。社会的に必要な仕事でも、競争が激しく料金に上限があれば、株主が豊かになるとは限らない。
最も気になるのは、会社の成長とオーナー利益が連動していない点だ。登録者を増やす広告費、派遣先の開拓費、給与の先払い、法令順守の体制維持は、事業を続けるために必要な支出である。利益が出た年度だけを取り出して高い資本効率を語ることはできない。2023年のように稼げた時期と、2025年以降のように赤字となった時期を同じ重さで見る必要がある。
純現金は魅力だが、銀行預金をそのまま全額株主のものとして扱わない。派遣スタッフに給与を支払うまでに顧客から資金が入るとは限らず、運転資金と最低限の安全資金を確保しなければ事業は回らない。現金を多く持っていても、新しい人材獲得や採算の悪い拠点に使い続ければ、少数株主の取り分は増えない。
十年後にも看護・介護の現場が人を必要とすることには高い確信を持てる。しかし、キャリアが現在のシェアと利益率を守り、事務系のAI代替を乗り切り、再び法令違反を起こさないことまで高い確信を持つのは難しい。現在の株価は極端な楽観を必要としない反面、これらの不確実性を引き受けるだけの厚い安全域も示していない。長期保有にふさわしい企業へ変わるかどうかは、これからの実績で判断すべきである。
何で稼ぐ会社か
収益の中心はシニアケア事業で、2025年9月期の売上高は約126.2億円、全社の約84.5%を占める。介護施設、病院、保育施設などに対して、介護職員、看護師、保育士などの派遣や職業紹介を行う。派遣では顧客から受け取る料金と、派遣スタッフの給与・社会保険料などとの差から、募集広告費、営業所経費、本社費を賄う。紹介では採用が成立した際の手数料を得るが、紹介収入を派遣収入から数量別に分離できる開示は確認できなかった。
もう一つのシニアワーク事業は約23.1億円、売上構成比15.5%である。物流倉庫の軽作業、建物管理、客室清掃といった現場仕事に加え、公共機関の事務、コールセンター、請負・業務委託も扱う。これらは同じ人材サービスでも寿命が違う。床や荷物を扱う仕事は現場の人が要るが、データ入力や定型的な電話応対は、AIエージェントが人の操作や応対を肩代わりできる。
同社の2025年9月期の主要指標は、シニアケアの平均稼働人数1,523人、シニアワーク775人である。平均請求単価として会社が示す直近3か月ベースの数値は、ケア797千円、ワーク716千円であった。これは年間売上高を年間平均稼働人数で割った数字と定義が違う。したがって将来売上の計算では、人数を数量の実物指標とし、各事業の年間売上から逆算した実効単価を別に用いる。
成長策には、常用雇用型の派遣、採用広告の運用、介護人材向けの資格取得・転職支援、訪問介護関連の新サービスがある。障害者雇用を支援する屋内型農園事業も展開している。しかし、これらのうち既存の主力事業と同じ規模の利益を稼げると実証されたものはまだない。投資家が値付けすべき対象は、まず稼働人数、請求単価、派遣原価、募集費という地味な四つの数字である。
優良さと弱いところ
キャリアの堀、つまり競合が容易に奪えない強みは、一定の地域で積み上げた求職者との接点と、施設側の急な欠員に応じる手配の経験である。看護・介護の仕事自体はAIで代替しにくい。人材の資格確認、労働条件の調整、派遣開始後の問題対応にも手間が掛かる。この現場業務が存在する限り、仲介サービスへの需要は残るだろう。
ただし、需要が残ることと、高い利益率を守れることは別だ。派遣スタッフは複数の会社に登録でき、介護施設も条件のよい派遣元に切り替えられる。会社の開示には、低い顧客解約率、長期独占契約、競争相手に転用できない独自データ、値上げを継続して通した実績という強い堀の証拠が乏しい。シニアケアの直近3か月ベースの平均請求単価も、2024年9月期の922千円から2025年9月期の797千円へ低下した。
歴史的な資本効率には見るべき時期がある。2017年9月期には営業利益率5.9%、2023年9月期には営業利益6.1億円を稼いだ。しかし、売上規模が縮む局面では営業利益が容易に消えた。増分の人材獲得費、支店経費、法令順守コストを引いてなお資本コストを上回る利回りを出し続けたとは言い切れない。
2025年7月の行政処分は競争力の評価をさらに難しくする。一部の看護師関連業務に対する停止命令であり、全ての派遣事業の停止ではなく、期間も同年9月末に終了している。しかし、医療・介護分野の適正認定取り消しは、採用先が事業者を選ぶ際の信頼に関わる。改善措置の実行と顧客の再獲得が確認されるまで、強い堀がある会社として扱う理由はない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
高齢化は需要の追い風だ。厚生労働省は介護職員の必要数が2026年度に約240万人、2040年度に約272万人へ増えると推計している。一方、介護報酬や施設の収入には制度上の制約があり、人手不足だからといって派遣料金を自由に引き上げられるわけではない。施設の支払能力と労働者の賃上げ要求の間に、派遣元の薄い利益が挟まる構造である。
日本人材派遣協会が紹介する厚生労働省統計では、2024年度の派遣事業の年間売上高は約9.90兆円である。キャリアの全社売上高はその約0.15%に相当する。ただし、会社の売上には職業紹介や請負も含まれ、これは厳密な全国派遣シェアではない。介護・医療・福祉の派遣だけを取り出した市場については、過去の業務別派遣人数から年間料金を掛けた概算で3,000億~4,000億円程度と見積もる。この仮の分母に対するシニアケアの売上比率は約3~4%だが、保育と職業紹介を含むため、確認済みのシェアではない。
競争相手には、パーソルグループ、パソナグループのような総合人材会社に加え、レバウェル、メディカル・コンシェルジュ、ツクイスタッフなど医療・福祉に強い事業者がいる。各社が同一範囲の介護派遣売上高を継続開示していないため、個別の厳密なシェア順位は確認できない。キャリアが十年間でシェアを維持するには、人口動態だけでなく、採用できる人材の数と派遣先の継続率を改善する必要がある。
シニアワークでは市場を分けて見る必要がある。矢野経済研究所による2024年度の国内コールセンターサービス市場は約1兆517億円だが、公共事務や人材派遣を含むキャリアの事務系売上とは範囲が一致しない。仮に事務・コールセンター関連の売上を約16.2億円とすると、広義のコールセンター市場に対する比率は約0.15%である。現場系の物流・清掃も全国派遣市場に比べれば極小で、規模の優位は確認できない。
今後の最大の分岐はAIエージェント代替である。公共窓口の定型回答、データ入力、問い合わせ対応の一次処理は、企業が人員を追加しなくても処理できる割合が高まる。実際に同社の2026年9月期第3四半期の説明には、生成AI導入などによるオペレーター派遣需要の減少が記されている。介護の現場は守られても、事務系業務の数量と価格には別の厳しい前提が必要である。
資本政策と M&A
経営陣の資本配分は、成長投資の量より、それが実際の稼働人数と利益に結び付いたかで評価したい。過去十年の売上高は拡大した時期があるものの、2023年9月期の178億円弱をピークに減少し、2025年9月期には149億円程度となった。2026年9月期には従来の成長計画が下方修正され、会社の売上予想は約136.6億円、営業損失予想は約1.5億円となった。会社が示す成長施策を、実現済みの収益と混同してはいけない。
2025年12月公表の事業計画には、障害者雇用支援の第2ファームについて、2027年9月期に60ユニット、売上高3.03億円、売上総利益1.24億円を目指す数値がある。他方、全社について複数年度を通した売上高・営業利益・ROEの数値目標を束ねた中期経営計画は確認できない。配当性向、DOE、総還元性向、将来の自社株買い額にも具体的な数字の約束はない。
株主還元には一貫性が乏しい。2024年9月期には配当があったが、2025年9月期は無配となった。2025年7月から2026年6月には自己株式12万株を約0.306億円で取得したが、現行株数の約1.4%にとどまる。上位株主の持分は集中しており、少数株主が現金の使途を決める力は弱い。それでも直近に増配と買い戻しの実績があるため、将来の余剰現金を全く戻さないとはみない。
2025年に付与された第9回新株予約権は最大75万株に相当し、株価条件を満たせば希薄化が生じる。発行済みの普通株の価値を増やす成長施策であっても、利益を既存株主がどれだけ受け取れるかは別問題である。今後の買収にも同じことが言える。既存の派遣事業の収益性が安定する前に買収で売上だけを増やすなら、のれんや統合費用を抱えて株主価値を損なうおそれがある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
介護の人手不足は景気循環ではなく人口構造から生じている。日本で高齢者が増え続ける以上、病院や介護施設が必要とする職員の絶対数も増える。キャリアには医療・介護の派遣先との接点があり、資格保有者の登録を継続して集められれば、既存の支店から供給人数を増やす余地がある。とりわけ地方の中小施設は、大手人材会社の画一的なサービスだけでは欠員を埋められず、地域の手配力を持つ事業者を使い続ける可能性がある。
現在の業績は、看護関連の行政処分、採用費用、感染症対応の臨時案件の反動などが重なった悪い局面にある。法令順守の体制整備が進み、施設側の信頼が戻れば、失われた稼働人数の一部を取り返すことは可能だ。2025年9月期の営業利益率はほぼゼロだったが、過去には5%を超えた年度がある。固定的な支店費用を抑えつつ、採用単価と稼働率を改善すれば、増えた売上の一部が利益に強く効く。
また、AIは事務系人材の需要を縮める一方、キャリア自身の募集広告、応募者対応、勤務表の作成、請求処理などを効率化し得る。もっとも、AI関連の新サービスで売上を得た実績が金額で確認できない以上、AIそのものを新しい成長売上とは数えない。介護の実働人数を伸ばし、現場系のシニアワークを増やし、事務系の縮小を吸収することが十分な上振れの筋である。
時価総額の小ささと純現金の厚さも見逃せない。大規模な設備投資を要する製造業とは違い、人材獲得費用の効率が改善すれば利益は比較的早く戻る。買収や提携によって地域のスタッフ網を補完できれば、一定規模までの成長に莫大な資本は必要ない。ただし、その利益が配当や自社株買いとして既存株主に戻ることが条件となる。
慎重な見方
この会社の最大の問題は、人材不足の恩恵を受けるはずの事業で、すでに稼働人数が減っていることだ。シニアワークの平均稼働人数は2021年9月期の1,911人から2025年9月期に775人へ減った。シニアケアも同期間に縮小している。登録者の多さは、実際の仕事を引き受けてくれる人を確保できる証拠ではない。求職者は給与の高い会社を選べるため、供給が不足するほど派遣元同士の採用競争は激しくなる。
価格面も弱い。介護施設の収入の相当部分は公的制度に依存し、派遣料金だけを物価以上に引き上げることは難しい。スタッフの給与、社会保険料、採用広告費は先に上がりやすい。請求単価を引き上げても、派遣スタッフの待遇改善に多くが使われるなら、株主の利益率は改善しない。実際、2025年9月期のケアの平均請求単価は前年から下がった。
事務系のシニアワークにはAIエージェントによる構造的な中抜きがある。公共機関の受付、データ入力、単純な問い合わせの電話応対は、利用者が画面を操作したり人が定型回答したりする前提自体が変わる。2026年9月期第3四半期の会社説明にも、生成AIに伴うオペレーター派遣需要の減少が出ている。将来の人材需要が減る領域で、名目の請求単価だけが物価どおり上がるとは考えにくい。
さらに、2025年の行政処分と適正認定取り消しは、信頼を要する業態で起きた。停止対象が限定され、期間が終わったことは事実だが、顧客との取引条件や採用活動に及ぼす長期の影響は未測定である。新規事業や買収による売上拡大に失敗すれば、少ない利益が固定費と投資負担に吸収される。現在の純現金も給与の支払原資として必要であり、株主に全額還元される保証はない。
どちらに重みを置いたか
需要の存続については前向きな見方が強いが、株主がその需要から利益を得る確度については慎重な見方を重視する。介護現場はAIでは消えないものの、同社には稼働人数の長期減少、直近の連続赤字、行政処分という固有の課題がある。確率は楽観側27%に対し、やや悲観と悲観を合わせて41%とした。AI代替による事務系数量の減少はすでに中立の売上に入れており、同じ理由だけで確率を重ねて引いてはいない。下側への傾きは、主として介護の採用力と信頼回復の不確実性による。計算上の本質価値は現状時価総額を小幅に上回るが、投資判断上の安全域としては十分ではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 394 円33 億円(+ 還元の換算額還元の合計 55 円5 億円)。 今の値に割り戻すと 182 円15 億円、今との差 −0.3%、 期待の年率 +10.2%(資本コスト 10.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 1,138 円95 億円 | 209 円18 億円 | +636.1% | +25.6% | 121 円10 億円 |
| やや楽観 | 18% | 702 円59 億円 | 132 円11 億円 | +355.6% | +18.7% | 150 円13 億円 |
| 中立 | 32% | 352 円30 億円 | 36 円3 億円 | +111.9% | +8.3% | 124 円10 億円 |
| やや悲観 | 27% | 137 円12 億円 | 4 円0 億円 | −22.8% | −2.6% | 38 円3 億円 |
| 悲観 | 14% | 113 円10 億円 | 0 円0 億円 | −38.1% | −4.7% | 16 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 394 円33 億円 | 55 円5 億円 | +145.6% | +10.2% | 449 円38 億円 |
今の株価時価総額 183 円15 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 現場人材を再び集め、収益力も回復 利益 8 億円 · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,138 円95 億円
施設の欠員を埋める手配力が回復し、シニアケアの稼働人数は約1,858人に増える。資格保有者を採用できる拠点へ広告費を集中させ、派遣開始後の離職を減らすことで、登録者から実働者への転換率を改善する。2025年の行政処分を受けた法令順守体制も定着し、失われた顧客との取引を取り戻す。
高齢者向けの施設は引き続き人手不足に直面し、採用に成功する派遣元へ顧客が案件を集める。介護側では実効単価が十年間で約42%上がり、賃上げと採用費を賄った後にも利益を残せる。物流・清掃などの現場系シニアワークも稼働人数を伸ばし、事務系はAI導入で縮みながらも、対応の難しい業務が残る。
常用雇用型派遣、採用支援、介護職向け教育の収益化が進み、会社の売上高は約251億円となる。営業利益率は過去の好調期に近い5%程度まで戻り、純利益は8億円規模に達する。買収は既存の採用力を補完する小規模案件に限定され、過大なのれんを抱えない。
利益の約半分を十年間で株主に戻しながらも、自己資本を厚くできる。ただし、株価が権利行使条件を超えるため、第9回新株予約権の大部分が行使され、既存株主の持分は薄まる。事業の成功と一株当たりの取り分は区別して評価する。
- シニアケア事業:数量 1,858(直近3か月ベースの平均派遣稼働人数(人))× 価格 0.12(平均稼働者1人に対応する年間セグメント売上高の推定額(億円、人材紹介等も含む実効単価))→ 売上 219 億円・営業利益 11 億円。稼働人数は2025年比1.22倍、実効単価1.42倍。法令順守と施設側の信頼回復による受注増、紹介と派遣の採算改善が揃う上振れ。
- シニアワーク事業・事務/コールセンター等:数量 475(事務・電話応対等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.04(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。AIにさらされる人月数量でも0.95倍にとどまり、高付加価値の有人対応が残る。AI関連商品の販売実績がないので数量を現状超とはしない。
- シニアワーク事業・物流/清掃/施設管理等:数量 344(物流・清掃・施設管理等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.04(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。物流・清掃の現場人数1.25倍、単価1.42倍。作業需要と地域の就業者確保がともに順調な場合。
倍率:資本コスト8.75%、十年後の自己資本39.6億円に対するROE20.2%、弱い堀の超過収益残存率1/3によりRONIC12.57%。長期名目成長率はg_longにより2%とし、正当化PER=(1−0.02÷0.1257)÷(0.0875−0.02)=約12.46倍とした。純利益8.0億円から余剰現金1.5億円の税後利息相当0.021億円を除いて倍率を掛け、現金の戻り方75%による1.125億円を加える。今の市場PERは使わない。十年間の純利益合計約40億円、還元19億円、新株予約権の払い込み約1.0億円で将来自己資本約39.6億円となる。
確率:介護の稼働人数を2025年比で約22%増やし、実効単価も物価上昇以上に改善するには、採用・顧客信頼・収益管理のすべてを立て直す必要がある。成功した場合の利益は大きいが、現在の減少傾向からの転換はまだ実証されていないため9%にとどめた。
やや楽観 18% 介護の稼働人数が持ち直す 利益 5 億円 · PER 12.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 702 円59 億円
介護・看護の人手不足が続く中で、会社は利益を生まない募集媒体や拠点を見直す。法令順守への投資で短期の経費は増えるが、施設側の信頼が戻り、継続発注を確保できるようになる。シニアケアの平均稼働人数は約1,645人まで回復する。
請求単価は賃金上昇を反映して徐々に上がるが、競合との差別化は強くない。人材獲得費を負担しながら、介護側の営業利益率を4%弱に引き上げる。現場系シニアワークも物流や清掃の案件を積み重ねる一方、公共事務やコールセンターの仕事はAIに一部移る。
大規模な買収や急速な海外展開には進まず、収益性の高い拠点へ人員と資金を集中させる。新規事業の貢献は限定的でも、既存事業の赤字が消えることで純利益は5億円程度まで戻る。十年のうち最初の数年間は回復に時間を要するため、利益が直線的に増えるわけではない。
余剰資金と将来利益の一部が株主に戻る。ただし、株価が新株予約権の条件を満たすため、既存株主の持分には希薄化が生じる。事業の利益回復がその影響を上回ることを前提とする筋書きである。
- シニアケア事業:数量 1,645(直近3か月ベースの平均派遣稼働人数(人))× 価格 0.11(平均稼働者1人に対応する年間セグメント売上高の推定額(億円、人材紹介等も含む実効単価))→ 売上 183 億円・営業利益 7 億円。稼働人数1.08倍、単価1.34倍。介護の需要増に供給力が追いつき、価格はおおむね物価並みを維持。
- シニアワーク事業・事務/コールセンター等:数量 410(事務・電話応対等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.04(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 16 億円・営業利益 0 億円。AI代替で人数0.82倍、単価1.24倍。例外対応や有人業務の比率が高まり収益性を守る。
- シニアワーク事業・物流/清掃/施設管理等:数量 322(物流・清掃・施設管理等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.03(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 11 億円・営業利益 1 億円。現場人数1.17倍、単価1.37倍。物流・清掃の人員手配を安定化。
倍率:ROE=5.1÷33.0=15.45%、k=8.75%、弱い堀の残存率1/3でRONIC約10.98%。g=2%として正当化PER約12.12倍。全社純利益から余剰現金利息0.021億円を除いた事業利益に掛け、余剰現金1.5億円の75%を足す。十年間の純利益合計約26.3億円、株主還元12億円、条件付き新株予約権の払込約1.0億円により自己資本を約33億円とする。
確率:介護の需要増を確保し、稼働人数が小幅に回復する道筋は十分考えられる。ただし、募集費を抑えて利益率を回復させることも必要であり、現在の赤字や請求単価低下を考えると、回復を当然視する確率にはできない。
中立 32% 介護需要は残るが、回復は緩やか 利益 2 億円 · PER 11.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 352 円30 億円
介護施設の職員不足は続くが、キャリアの派遣稼働人数が過去のピークへ戻ることはない。求職者は複数の人材会社を比較し、施設側も価格と法令順守を重視する。会社は営業体制を立て直すものの、人材を確保するための給与と広告費が高止まりし、介護の平均稼働人数は約1,371人となる。
顧客への実効請求単価は十年間で約28%上昇するが、物価上昇率にやや届かない。公的な介護報酬や施設の採算が値上げの上限をつくるためだ。営業所の統廃合や広告運用の見直しで利益は回復するものの、規模の小ささから大幅な固定費削減は難しい。
事務・コールセンター関連はAIエージェントによる定型業務の自動化が進み、必要な派遣人数が約三分の一減る。仕事内容が変わることで実効単価はある程度上がるが、料金は物価ほど伸びない。物流・清掃などの現場系業務は一定の人数を維持し、事務系の落ち込みを部分的に補う。
新規事業や買収が大きな収益源になるという前提は採らず、全社売上高は約168億円、営業利益率は約2.2%となる。純利益は約2.4億円まで戻るが、自己資本も積み上がるため資本効率は過去の中央値を下回る。配当・自社株買いは利益の一部にとどまり、十年間に大きな株式希薄化は生じない。
- シニアケア事業:数量 1,371(直近3か月ベースの平均派遣稼働人数(人))× 価格 0.11(平均稼働者1人に対応する年間セグメント売上高の推定額(億円、人材紹介等も含む実効単価))→ 売上 145 億円・営業利益 4 億円。介護の人数0.90倍、実効単価1.28倍。需要は増えるが人員供給と公的報酬に制約がある。
- シニアワーク事業・事務/コールセンター等:数量 335(事務・電話応対等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.04(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 13 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替の人月型。人数0.67倍、価格1.20倍、十年より先の名目成長0%。縮む業務に必要な運営費が残る。
- シニアワーク事業・物流/清掃/施設管理等:数量 297(物流・清掃・施設管理等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.03(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 10 億円・営業利益 0 億円。現場人数1.08倍、単価1.34倍。介護以外で人手不足が続く現場業務の緩やかな拡大。
倍率:十年後のROEは2.4÷26.8=8.96%、k8.75%をわずかに上回る。弱い堀の残存率1/3からRONIC約8.82%、g_long2%で正当化PER約11.45倍。倍率は現在や過去の市場評価でなく新規投資の収益性から決めた。余剰現金1.5億円の税後利息相当0.021億円を純利益から除き、残る現金の75%を加える。期間の純利益合計約12.2億円、株主還元合計3.0億円として、2025年9月期自己資本17.6億円から26.8億円へ積み上がる。
確率:高齢化による需要の存続には根拠がある一方、同社の稼働人数が減少してきた実績と、施設の料金支払能力の制約も重い。介護の実働人数をさらに一割減らし、事務系をAI代替で縮める道筋を中心に据えた。
やや悲観 27% 現場の需要が利益にならない 利益 1 億円 · PBR 0.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 137 円12 億円
看護・介護人材への需要そのものは残る。しかし、派遣スタッフを集めるための給与と広告費が上がり、料金交渉で十分に回収できない。施設はより大きな人材会社や地域の競合を併用し、キャリアの案件獲得が伸び悩む。2025年の行政処分の後に改善策を実行しても、顧客との関係を元に戻すには時間を要する。
介護の平均稼働人数は約1,142人まで減る。単価は名目で上がるが物価には届かず、売上高が伸びない中で募集費と管理費を賄う必要がある。採算の悪い支店を減らすものの、派遣契約の管理、資格確認、法令順守には一定の人手が残るため、営業利益率の改善は限られる。
事務系のシニアワークでは、自治体の窓口業務や企業の受電業務がAIに置き換わり、派遣人数はほぼ半減する。現場系も人口減少と競合の強い地域では縮小する。新規事業への投資は期待したほど利益に結び付かず、既存事業の縮小を埋められない。
全社売上高は約128億円となり、純利益は約1億円にとどまる。資本コストに届かない利益しか得られないため、帳簿上の自己資本をそのまま企業価値とはみない。小幅な還元はあっても、株主価値の支えは限定的である。
- シニアケア事業:数量 1,142(直近3か月ベースの平均派遣稼働人数(人))× 価格 0.10(平均稼働者1人に対応する年間セグメント売上高の推定額(億円、人材紹介等も含む実効単価))→ 売上 111 億円・営業利益 2 億円。稼働人数0.75倍、実効単価1.17倍。給与・採用費に押され、料金への転嫁が不十分。
- シニアワーク事業・事務/コールセンター等:数量 280(事務・電話応対等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.03(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 10 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替で人数0.56倍。価格も物価より大幅に弱く、案件撤退の固定費負担が残る。
- シニアワーク事業・物流/清掃/施設管理等:数量 242(物流・清掃・施設管理等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.03(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。現場稼働人数0.88倍、単価1.18倍。地域の人口減少と価格競争が進む。
倍率:PBRの分母は十年後の自己資本19.05億円ではなく、起点の2025年9月期自己資本17.6億円である。11.5÷17.6=約0.6534倍。十年後ROE5.25%はk8.75%未満のため、稼ぐ力の上限は純利益1.0億円÷k約11.43億円と余剰現金の戻り相当約1.13億円の合計約12.56億円。11.5億円はこの上限以下で、純現金を基にした資産床9.5億円以上でもある。低ROE企業の将来簿価増加を無条件に価値へ加えない。期間の純利益合計約1.8億円、還元約0.35億円として自己資本19.05億円となる。
確率:下に寄せる理由:2025年の一部派遣停止と適正認定取り消しの後、介護の稼働人数や請求単価の改善が確認できず、2026年9月期も赤字が見込まれる。同社固有の採用力・信頼回復の遅れを反映した。事務系AI代替の数量減少は中立にも織り込んでおり、同じ理由を確率に重ねてはいない。
悲観 14% 構造的な縮小で事業価値を失う 利益 0 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 113 円10 億円
介護人材市場では需要が増え続けるが、キャリアは派遣する人を確保できない。競合が給与と教育制度を強化し、有資格者はより安定した雇用先や他社の派遣へ移る。施設側でも法令順守の履歴が取引先選定の条件となり、失われた信頼を十分に回復できない。シニアケアの平均稼働人数は約731人まで落ちる。
生き残った介護案件でも値上げの余地は狭く、賃金や募集費の負担が利益を吸収する。支店の統廃合を進めても、契約管理、労務対応、派遣先への説明責任は残る。案件の減少に合わせて費用を同じ割合では下げられず、介護事業の営業利益率はほぼゼロに近づく。
公共事務、電話応対、定型の業務受託はAIエージェントによって顧客側の必要工数が大きく減る。事務系の稼働人数は約150人へ落ち、価格も名目で下がる。物流・清掃などの現場業務も規模不足で顧客を失い、売上高は全社で約76億円まで縮小する。
経営は不採算拠点の整理や買収・新規事業の縮小を迫られる。十年後も会社が全く存在しないとは想定しないが、継続事業に十分な利益価値は残らない。配当・自社株買いも行えず、価値の根拠は現在保有する純現金を中心とした資産の回収可能性になる。株主にとっては、事業が必要とされることと、その会社の持分を保有する価値があることの違いが最も明確になる筋書きである。
- シニアケア事業:数量 731(直近3か月ベースの平均派遣稼働人数(人))× 価格 0.09(平均稼働者1人に対応する年間セグメント売上高の推定額(億円、人材紹介等も含む実効単価))→ 売上 67 億円・営業利益 0 億円。稼働人数0.48倍、価格1.10倍。競争力の低下により、施設の人材需要を売上として取り込めなくなる。
- シニアワーク事業・事務/コールセンター等:数量 150(事務・電話応対等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.03(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。AI代替で人数0.30倍、単価0.90倍。定型業務が顧客のAIシステムへ移行し、売上規模は大幅に縮小。
- シニアワーク事業・物流/清掃/施設管理等:数量 171(物流・清掃・施設管理等に対応する推定平均稼働人数(人))× 価格 0.03(推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。現場人数0.62倍、価格1.10倍。人材獲得力の低下と拠点閉鎖で物理的な派遣も縮む。
倍率:起点の自己資本17.6億円に対し、資産回収価値9.5億円を対応させたPBR約0.5398倍。十年後の自己資本12.4億円を積み上げて倍率を掛けていない。純利益は赤字で正の事業収益価値を評価しにくく、現金以外の資産についても帳簿額での回収を保証しない。十年間の純損失累計は約5.2億円、株主還元はゼロとした。9.5億円は現在の純現金を基礎にする床の仮定であり、将来の現金残高を実測した数値ではない。
確率:介護需要が消滅する想定ではない。採用力の低下、顧客との信頼回復の遅れ、事務系業務の自動化が重なり、売上が約半分になる構造的な敗北を想定する。純現金があるため直ちに倒産する確率とは区別しつつ、事業の競争力喪失を無視しない14%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
シニアケア事業
介護職員・看護師・保育士など、実際の施設や利用者のもとで働く人材の派遣・紹介。作業の中心には人の身体を使う現場業務が残る。
| 数量直近3か月ベースの平均派遣稼働人数(人) | 価格平均稼働者1人に対応する年間セグメント売上高の推定額(億円、人材紹介等も含む実効単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 1,523 | 0.08 | 126 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1,371 | 0.11 | 145 | 4 |
取り方:会社の2025年12月公表『事業計画及び成長可能性に関する事項』のシニアケア売上12,622百万円と平均稼働人数1,523人から逆算。平均稼働人数は期中年平均ではなく直近3か月の移動平均であるため、0.08288億円は実際の一人当たり契約請求単価ではなく、紹介収入や期中の稼働変動を含めた実効売上係数である。会社が別途開示する直近3か月の平均請求単価797千円とは測定期間と範囲が異なり、両者を同一視しない。営業利益の事業別数値は確認できないため、マイナス0.05億円は全社営業損失約0.1億円との整合を取る暫定配賦であり、開示実績ではない。市場分母は厚生労働省の過去の職種別派遣人数約5.4万人に年間売上600万~750万円を掛けた約3,000億~4,000億円の概算で、同社比率は約3~4%。保育・紹介を含むため厳密なシェアではない。
シニアワーク事業・事務/コールセンター等
公共オフィス、データ入力、事務処理、コールセンターなど。人月・処理工数を対価とする派遣や請負が中心で、AIエージェント代替に直接さらされる。
| 数量事務・電話応対等に対応する推定平均稼働人数(人) | 価格推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 500 | 0.03 | 16 | 0 |
| 10 年後 中立 | 335 | 0.04 | 13 | 0 |
取り方:2025年9月期のシニアワーク売上約23.13億円、平均稼働人数775人を起点とする。会社は物流、建物管理、公共オフィス、コールセンターなどの売上構成を図示しているが、2025年の種類別正確な金額と平均人数は公表されていない。このため事務・コールセンター・公共案件を売上の70%、人数500人とした分析上の仮置きである。業務別売上の開示事実ではなく、追加資料で修正が必要。矢野経済研究所の2024年度コールセンターサービス市場約1兆517億円と単純比較すれば約0.15%だが、公共事務と派遣を含むので正式な市場シェアではない。営業利益マイナス0.15億円も会社未開示の分析用配賦である。AI代替の型は『人月・工数で売る事務系派遣・BPO』。
シニアワーク事業・物流/清掃/施設管理等
物流倉庫の軽作業、ビルメンテナンス、宿泊施設のベッドメイキングなど、現場に人が立つ必要のある派遣・業務受託。
| 数量物流・清掃・施設管理等に対応する推定平均稼働人数(人) | 価格推定稼働者1人に対応する年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 275 | 0.03 | 7 | 0 |
| 10 年後 中立 | 297 | 0.03 | 10 | 0 |
取り方:シニアワークの会社開示総額から、事務系に暫定配賦した16.193億円を引いて約6.94億円とし、開示総稼働人数775人から事務系仮定500人を引いて275人とした。職種別の厳密な実績ではない。市場は全国派遣売上約9.90兆円の一部分であり、この事業の全国市場比率は同広義市場に対して約0.007%にすぎない。物流・清掃だけを取り出した同一定義の競合別シェアは未確認。価格と数量は実物の作業人数に基づき、AIによる事務席の削減率を一律には掛けない。営業利益0.1億円は暫定配賦である。
リスクと懸念
行政処分と派遣先の信頼
2025年7月、法定の除外条件を満たさない看護師等の派遣について、一部事業の2か月停止命令と改善命令を受けた。対象業務の停止期間は終了しており、全事業が停止したわけではない。ただし、同年9月に医療・介護分野の適正な職業紹介事業者の認定が取り消された。顧客の再獲得、法令順守費用、応募者の信頼への影響は今後の実績で確認する必要がある。
介護の人手不足が利益不足に転じる危険
介護施設に人材需要があっても、派遣元がスタッフを採用できなければ数量は増えない。施設収入が公的な報酬制度に左右されるため、派遣料金を十分に値上げできない場合もある。給与と募集費だけが先に上昇すれば、売上が一定でも粗利は細る。実際の平均稼働人数、平均請求単価、広告費当たりの採用実績を合わせて見るべきである。
AIエージェント代替
シニアワークに含まれる公共事務、データ入力、コールセンターなどは、人の処理時間を売る事業である。AIエージェントが顧客の業務システムを直接操作するようになると、必要な派遣人数が減り、単価にも下押しが生じる。同社の2026年9月期第3四半期にもオペレーター派遣需要の減少が示されている。看護・介護・清掃など現場の身体を要する仕事には同じ縮小率を適用しない。
登録者数と実働者数の乖離
登録スタッフ約45万人は大きな数字だが、実際の平均稼働人数は2025年9月期にケア1,523人、ワーク775人である。過去と比べて実働人数が減っており、登録名簿の大きさを競争上の独占的な資産と評価するのは危険だ。応募者数、登録率、就業開始率、継続就業期間が改善しなければ、募集広告費を増やしても利益は回復しない。
純現金の見かけと資金配分
2025年9月期の純現金は約9.5億円あるが、派遣社員への給与、社会保険料、顧客への請求と入金の時間差に備える運転資金が必要である。銀行預金の全額を株主還元可能額とみなすことはできない。新規事業や買収に使えば将来利益が生まれる可能性もある一方、採算の悪い拠点やのれんへ資金が流れ、帳簿上の現金だけが減る危険もある。
新株予約権と少数株主の取り分
第9回新株予約権は最大75万株に対応し、株価の所定条件を満たせば既存株主の取り分が減る。大幅な業績回復があっても、会社全体の利益の増加と一株当たりの利益の増加は一致しない。また大株主の持分が集中しており、還元や買収について少数株主が方針を左右する力は弱い。権利行使期間と取得済み自己株式を混同しないことが重要である。
今後の分かれ目
- シニアケアの平均稼働人数が四半期ごとに増え、2025年の1,523人を継続的に上回るようになったら
- 中立の数量前提を上方修正する。とりわけ採用広告費の伸びを抑えたまま人数が増えるなら、営業利益率改善の確度も上げる。
- 介護の請求単価が上がっても、営業利益率や採用費効率が改善しなかったら
- 値上げ分が給与と募集費に吸収されていると判断し、中立の利益率を引き下げる。需要増だけでは価値を増やさない。
- 行政処分後の法令順守体制が定着し、適正認定の再取得や大口施設との継続契約回復が確認できたら
- 信用回復の不確実性が減ったと判断し、やや悲観から中立・やや楽観へ確率を移す。ただし、認定再取得だけで利益の回復まで確約されたとはみなさない。
- 公共事務・コールセンターの派遣稼働人数が会社全体の介護人数以上の速さで減り続けたら
- AIエージェント代替が想定より速く進んだと判断し、事務系の数量と実効単価をさらに下げる。現場系の派遣に同じ減少率を掛けない。
- 営業黒字の定着後に、配当方針の数値化や継続的な自社株買いが発表されたら
- 累積還元額と余剰現金の株主への戻り方を見直す。単年度の小規模な自社株買いだけでは戻り方を1.0へ引き上げない。
- 大規模な買収、資金調達、または第9回新株予約権の行使が具体化したら
- 取得する事業の増分利益、のれん、払い込み資金、株数の増加を同じ会社全体の範囲で再計算し、既存株主の持分を更新する。
見ておくもの
- シニアケアとシニアワークの平均派遣稼働人数、前年差と四半期推移
- 事業別の平均請求単価と、派遣スタッフ給与・社会保険料を控除した実質粗利
- 採用広告費当たりの就業開始人数と派遣スタッフの定着率
- 病院・介護施設向け派遣の適法性点検と適正認定再取得の有無
- 事務・コールセンターの派遣人数と生成AI導入による顧客の業務内製化
- 営業キャッシュフロー、現預金、借入総額、売掛金および未払給与
- 障害者雇用支援ファームの稼働ユニット数、売上総利益、必要運転資金
- 第9回新株予約権の行使条件達成、行使済み株式数、自己株式数
- 配当・自社株買いの具体的な数値方針と買収後の資本収益性
倍率と資本コストの決め方
現在の時価総額約15.85億円を見てから十年後の利益や倍率を逆算する方法は採っていない。会社開示のケア1,523人、ワーク775人という実際の稼働人数を起点にし、ワーク内訳の未開示部分だけを明示的に推定した。物価3%の十年間の上昇は価格側にのみ反映し、人数には混ぜていない。事務系にはAIエージェント代替の数量減少と物価未満の価格上昇を適用した。倍率は資本コスト8.75%、弱い堀の残存率1/3、十年後ROE、長期名目成長率2%から導いた。悲観側では将来の自己資本に過去のPBRを掛けず、現在の純現金を基にした資産床と稼ぐ力の上限を確認した。強気筋書きには条件付き新株予約権の希薄化を別途反映した。
資本コスト 10.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 0.5%。基本7.5%に事業の質による0.75%を加え、2025年9月期の実績営業赤字と2026年9月期の会社予想営業赤字が連続する事業再建局面であるため、財務・事業の継続的な弱さに0.5%を上乗せした。行政処分や買収の成否は個別事象なので、資本コストへの追加上乗せではなく筋書きと確率で扱う。
同じ業種(サービス業)の AI 分析
読んだ資料
- 株式会社キャリア『2025年9月期 事業計画及び成長可能性に関する事項』2025年12月
- 株式会社キャリア『2026年9月期 第3四半期決算短信』2026年8月
- 株式会社キャリア『当社に対する行政処分(事業停止命令及び事業改善命令)に関するお知らせ』2025年7月31日
- 医療・介護・保育分野の適正な有料職業紹介事業者認定制度『認定取り消しについて』2025年9月12日
- 一般社団法人日本人材派遣協会『派遣会社数と市場規模、職種別人数、賃金と派遣料金』
- 厚生労働省『第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』
- 株式会社キャリア『2025年半期報告書』第9回新株予約権の条件
- 矢野経済研究所『コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場に関する調査』2025年11月