結論
ジャパンエレベーターサービスホールディングス(JES)は、エレベーターの保守とリニューアルを手がける独立系の最大手だ。三菱・日立・東芝・オーチスといったメーカー系より安い料金で保守契約を取り、12 万台超まで積み上げてきた。
筆者の結論は「事業は優れているが、今の値段は割高」である。保守は一度取れば長く続く契約収入で、台数が増えるほど 1 台あたりの利益も厚くなる。ただ、その伸びを 10 年先まで見込んでも、利益に見合う値段は今の時価総額を下回る。
伸びの源は 2 つある。1 つは、ビルオーナーが保守費を下げたいと考えて独立系へ乗り換える流れだ。もう 1 つは、築 30 年を超えて更新期に入るエレベーターが増えることだ。前者が安定した土台になり、後者が利益の上積みになる。
弱みも書いておく。独立系はメーカーの部品や技術情報に頼る面が残る。メーカーが値下げや囲い込みで反撃すれば、安さという武器は鈍る。技術員を集められなければ、台数は増やせない。
価値を決めるのは、成長が続くかどうかより、成長が終わった後に残る稼ぐ力である。筆者は 10 年後の営業利益率を 20% 前後と置いた。それでも成熟した会社に払える倍率には上限があり、今の値段はその上限を超えている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、「分かりやすく、長く続く契約収入を持つ会社」として好ましい部類に入る。エレベーターは止まれば困る設備で、保守は景気で削りにくい費用だ。
一方、堀は浅い。値段を武器に伸びた会社は、値段で守る側に回った時に利幅を削られる。メーカーの反撃、部品の囲い込み、技術員の不足。この 3 つのうち 1 つでも強く出れば、10 年の利益は大きく変わる。
オーナー利益で見ると、設備投資がほとんど要らず、利益の大半が現金になる。この点は強い。ただ、その利益に払える倍率は、成長が止まった後の姿で決まる。10 年後に成熟した会社になっていると仮定すると、払ってよい値段は今より低い。
安全域は取れていない。楽観の筋書きでも、今の値段で買った人の年間の収益は資本コストの 7% を下回る。中立では年 1〜2% にとどまる。良い会社であることと、その値段で買ってよいことは別である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの 6 割は保守・保全だ。ビルオーナーと年単位の契約を結び、定期点検と故障の修理を請け負う。景気で解約が増えにくく、毎年同じ顧客から同じ額が入る。
残りの 4 割弱がリニューアルである。古いエレベーターの制御盤や駆動装置を交換し、安全性と省エネ性能を上げる工事だ。1 件あたりの金額は大きいが、工事のたびに受注を取り直す。保守契約を持つ顧客に提案できるため、保守の台数がそのまま営業の足場になる。
事業の中心は国内だ。全国の拠点で技術員を抱え、遠隔点検システムで点検の手間を減らしている。台数を増やす手段は 2 つあり、1 つは営業の積み上げ、もう 1 つは地域の保守会社の買収である。直近では愛知と仙台で小さな会社を取り込んだ。
稼ぐ構造はこうだ。台数が増えると、技術員 1 人が見る台数が増え、1 台あたりの原価が下がる。会社が営業利益率 20% を目標にするのはこの効果を見込むからだ。一方、リニューアルは材料費と工事人員がかさむため、利益率は保守より低い。
顧客はオフィスビル、商業施設、マンション、病院、官公庁など幅広く、1 社への依存は小さい。分散した顧客を全国で積み上げる事業なので、地域ごとの技術員の厚みが競争力の土台になる。
優良さと弱いところ
堀はあるが、深くはない。筆者はこの点を割り引いて見ている。
強みは 3 つある。1 つ目は、メーカーを問わず保守できる点だ。ビルには複数メーカーの機種が混ざるため、1 社で任せたいオーナーに選ばれやすい。2 つ目は、料金の安さだ。創業以来、メーカー系より 2〜3 割安い料金で取ってきたとされる。3 つ目は、解約されにくい契約収入だ。
弱みも同じくらい重い。値段で取った顧客は、値段で他社へ移りうる。メーカー系がオーナーの値下げ要求に応じれば、差は縮む。さらに、部品や制御ソフトの情報はメーカーが持つ。独立系はその供給条件に左右される。
資本効率は高い。過去 10 年の ROE は中央値で 27% を超え、設備を持たずに稼ぐ会社の特徴が出ている。ただ、この高さは小さな自己資本の上に利益を載せた結果で、自己資本が増えれば薄まっていく。筆者は 10 年後の ROE を 17% 台と見る。
経営は、買収を小さく抑える方針に変わった点を評価している。大きな買収に走らず、事業承継の小粒な案件で地域の台数を足す。資本を傷めにくい進め方だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の保守市場は約 110 万台とされる(会社推計。別の資料では約 90 万台で、数え方に幅がある)。このうち約 8 割をメーカー系が握り、独立系は 2 割ほどだ。台数は年 1〜2% しか増えない。人口は減るが、ビルの建て替えより長く使う方向なので、台数は横ばいに近い。
独立系の取り分は、ゆっくり増えている。ビルオーナーが保守費を見直し、メーカー系から乗り換える動きが続くためだ。JES はこの流れの先頭にいて、シェアは 2023 年の約 8% から約 11% へ上がった。会社は 2027 年に 13% 以上を狙う。
もう 1 つの追い風が更新需要だ。1990 年前後に大量に設置されたエレベーターが築 30〜40 年になり、制御盤や駆動装置の交換期に入る。リニューアルは、この世代の更新が続く間は伸びやすい。
逆風は人手である。保守は技術員の数がそのまま台数の上限になる。賃金は物価で上がり、採用も楽ではない。遠隔点検で減らせる分もあるが、現場の作業をゼロにはできない。
競争の形は、メーカー系 4〜5 社が大半を握り、独立系が地域ごとに散らばるものだ。JES は独立系の中で最大で、全国規模の網を持つ唯一の上場企業である。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、配当性向 40% 以上を方針にしている。借金は薄く、純現金に近い。成長に使うお金は営業の積み上げと小粒な買収で足り、増資や大型の借入は要らない。
買収は転換点を迎えた。上場後の数年は地域の保守会社を次々に買ってきたが、関西の拠点が完成した後は、特定地域のシェアを厚くする事業承継型の小さな案件が中心になる。直近の愛知・仙台の取得もこの型だ。海外は、ノウハウを貯める段階として慎重に構えている。
自社株買いは大きくない。株価が高い間は買わないほうが株主のためになる、というのが筆者の見方だ。成長に使えるお金がまだある以上、利益の半分以上を内部に残すのは筋が通る。
TOB の話は、検討の外に置けない。保守契約という安定収入を持つ会社は、ファンドや大手の買い手が付きやすい。ただ、時価総額が 2,700 億円を超えた今の水準は、買う側にとって安くない。
点検済み:中立の営業利益率20.9%は会社の目標(20%)と予想(27年3月期20%・28年3月期22.5%)の範囲内で、8年連続で改善している。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
保守の台数は、毎年 1 万台を超えて純増している。しかも 2026 年 3 月期の純増は営業だけで取ったものが中心で、買収に頼っていない。ビルオーナーが保守費を下げたい動機は、物価と賃金が上がる局面でむしろ強まる。メーカー系より 2〜3 割安い独立系に移る理由は増える一方だ。
独立系の取り分が約 2 割から 3 割へ動けば、JES の台数は 20 万台を超える。技術員 1 人あたりの管理台数が増えるので、営業利益率は今の 19% 台から 20% を超えて上がりうる。しかも築 30 年超のエレベーターが増えるため、リニューアルは保守の上に乗る第 2 の柱になる。
資本面でも優等生だ。借金に頼らず、配当性向 40% 以上を守り、小粒な買収にとどめている。利益が積み上がるほど現金も積み上がり、10 年後には ROE が 20% 近い水準で回る。そうなれば、成熟した会社でも 20 倍近い倍率を払う価値がある。
慎重な見方
成長の前提が重い。10 年で台数を 12.7 万台から 20 万台以上へ増やすには、毎年 8 千台の純増を続ける必要がある。これまでは地域の保守会社を買い、新しい地域へ進出して稼いだが、買収は小粒な承継案件だけになる。営業だけで同じペースを保てるかは分からない。
安さは諸刃の剣だ。メーカー系が値引きに動けば、独立系の最大の売り文句が消える。部品や制御ソフトの供給条件をメーカーが変えれば、保守の質と原価の両方に響く。技術員の賃金は物価以上に上がる恐れがあり、料金に転嫁しきれない。
さらに、リニューアルは工事ごとの受注で、保守ほど安定しない。建築費の高騰でオーナーが更新を先送りすれば、売上の 4 割が揺れる。10 年後の営業利益率 20% は、会社が今掲げる目標そのものであり、そこから先の上積みは見込めない。しかも ROE は自己資本が積み上がって 17% 前後まで下がる。成熟した会社に払える倍率は 16〜17 倍が上限だ。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の言い分が勝つ。台数の純増は本物で、更新需要も確かだ。ただ、堀が浅いことと、成熟後の倍率に上限があることでは、慎重な見方のほうが強い。確率は中立に 35% を置き、構造的な負け(メーカーの反撃や部品の囲い込み)を含む悲観側にやや厚く寄せた。楽観の確率は 8% にとどめた。最も大きな要素は、成長を 10 年続けても、その時の利益に払える倍率に上限があることだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,723 円3,081 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 273 円488 億円)。 今の値に割り戻すと 1,026 円1,835 億円、今との差 −33.3%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,955 円5,282 億円 | 332 円593 億円 | +113.5% | +7.9% | 263 円470 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,446 円4,373 億円 | 304 円544 億円 | +78.7% | +6.0% | 605 円1,082 億円 |
| 中立 | 35% | 2,032 円3,632 億円 | 287 円513 億円 | +50.7% | +4.2% | 811 円1,451 億円 |
| やや悲観 | 22% | 918 円1,641 億円 | 251 円448 億円 | −24.1% | −2.7% | 257 円459 億円 |
| 悲観 | 13% | 276 円494 億円 | 183 円327 億円 | −70.2% | −11.4% | 60 円107 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,723 円3,081 億円 | 273 円488 億円 | +29.7% | +2.6% | 1,996 円3,569 億円 |
今の株価時価総額 1,539 円2,751 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 独立系の乗り換えが加速し、台数と利幅がともに伸びる 10 年 利益 224 億円 · PER 22.7 倍 · 株価時価総額 2,955 円5,282 億円
独立系への乗り換えが続き、保守契約は 26 万台に達する。市場は 130 万台に増え、JES のシェアは 2 割に届く。技術員 1 人あたりの管理台数が上がり、保守の利益率は 27% まで改善する。
築 30 年超の機器の更新が最大限に進み、リニューアルは年 2,000 台規模になる。保守契約を持つ顧客に更新を提案できる強みが、そのまま受注に変わる。
メーカー系は値引きで対抗するが、遠隔点検と全国の網で品質を保つため、顧客は戻らない。買収は小粒な事業承継にとどめ、資本を傷めない。営業利益率は 22% 台まで上がり、ROE は 20% 近くを保つ。
- 保守・保全(国内エレベーター):数量 26.0(国内保守契約台数(万台))× 価格 36(1 台当たり年間売上(万円・修理等を含む))→ 売上 946 億円・営業利益 256 億円。契約 26 万台×1 台 36.4 万円(物価並み 1.34 倍)。保守の利益率 27%。
- リニューアル・その他工事:数量 2,000(工事台数(台、推定))× 価格 0.28(1 台当たり工事金額(億円、推定))→ 売上 560 億円・営業利益 95 億円。2,000 台×1 台 0.28 億円(更新の高付加価値化で 1.4 倍)。
倍率:事業の純利益 224 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 31.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 19.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.7 倍。全体の PER 22.72 倍、時価総額 5,089 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:独立系の取り分が 3 割へ動き、同時に更新需要も最大限に取る必要がある。両方が揃う確度は高くないので 1 割を切る。
やや楽観 22% 乗り換えと更新が着実に続き、会社の計画に近い 10 年 利益 186 億円 · PER 22.6 倍 · 株価時価総額 2,446 円4,373 億円
保守契約は 23 万台まで伸びる。毎年 1 万台前後の純増が続くが、取れる顧客が減るにつれて勢いは少しずつ落ちる。独立系の取り分は 2 割台前半になる。
保守の利益率は 26% まで上がる。リニューアルは年 1,750 台で、築古の機器の更新が着実に積み上がる。
買収は小粒な承継案件が中心で、営業利益率は 21% 前後で安定する。メーカー系の巻き返しは一部の大型ビルにとどまり、全体への影響は限られる。
技術員は遠隔点検と採用の両輪で確保し、賃金の上昇は料金改定で概ね吸収する。会社の 20% 目標に届くが、その先の上積みは小さい。
- 保守・保全(国内エレベーター):数量 23.2(国内保守契約台数(万台))× 価格 36(1 台当たり年間売上(万円・修理等を含む))→ 売上 833 億円・営業利益 217 億円。契約 23.2 万台×1 台 35.9 万円(1.32 倍)。保守の利益率 26%。
- リニューアル・その他工事:数量 1,750(工事台数(台、推定))× 価格 0.27(1 台当たり工事金額(億円、推定))→ 売上 464 億円・営業利益 77 億円。1,750 台×1 台 0.265 億円。
倍率:事業の純利益 186 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 30.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 19.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.6 倍。全体の PER 22.56 倍、時価総額 4,196 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:毎年 1 万台前後の純増が続く今の勢いをほぼそのまま延ばす筋書き。会社計画に近いが、10 年続けるのは難しいので 2 割台に置く。
中立 35% 台数は伸びるが勢いは鈍り、メーカー系の反撃と相殺する 10 年 利益 155 億円 · PER 22.4 倍 · 株価時価総額 2,032 円3,632 億円
保守契約は 20 万台台半ばまで増える。毎年の純増は 8 千台前後に落ち着く。新規の取れる地域が埋まり、メーカー系が大口の顧客で値引きに応じるためだ。
料金は物価ほどは上がらず、10 年で 1.30 倍にとどまる。新規契約は安さで取るので、平均単価の伸びが抑えられる。保守の利益率は 25% まで改善し、営業利益率は 20% 台になる。
リニューアルは年 1,500 台で、更新需要の山が続く間は伸びる。ROE は自己資本が積み上がって 17% 台に下がる。JES は成長企業から安定した契約収入の会社へ変わる。
- 保守・保全(国内エレベーター):数量 20.5(国内保守契約台数(万台))× 価格 35(1 台当たり年間売上(万円・修理等を含む))→ 売上 726 億円・営業利益 181 億円。契約 20.5 万台×1 台 35.4 万円(1.30 倍)。保守の利益率 25%。
- リニューアル・その他工事:数量 1,500(工事台数(台、推定))× 価格 0.26(1 台当たり工事金額(億円、推定))→ 売上 397 億円・営業利益 63 億円。1,500 台×1 台 0.264 億円(1.32 倍)。
倍率:事業の純利益 155 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 18.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.4 倍。全体の PER 22.4 倍、時価総額 3,472 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:純増は続くが 10 年先まで今の勢いは保てず、メーカー系の対抗も出る。最も確度が高い筋書きとして 35% を置く。
やや悲観 22% メーカー系の値引きで乗り換えが細り、利幅が削られる 10 年 利益 106 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 918 円1,641 億円
メーカー系が大口ビルで値引きに動き、乗り換えは勢いを失う。保守契約は 17 万台台半ばで頭打ちになり、シェアは 14% 前後にとどまる。
新規契約の単価も上げにくく、10 年で 1.25 倍しか上がらない。技術員の賃金は物価以上に上がり、保守の利益率は 22% で止まる。
建築費の高騰で更新を先送りするオーナーが増え、リニューアルは年 1,200 台に鈍る。小粒な買収で台数を足そうとしても、採算のとれる案件が減る。
利益を押し上げるはずだった規模の効果は、値引きと賃金の上昇で打ち消される。営業利益率は 16% 台で伸び悩み、ROE は 15% 前後に下がる。良い会社ではあるが、成長企業とは呼べなくなる。
- 保守・保全(国内エレベーター):数量 17.5(国内保守契約台数(万台))× 価格 34(1 台当たり年間売上(万円・修理等を含む))→ 売上 595 億円・営業利益 131 億円。契約 17.5 万台×1 台 34.0 万円(1.25 倍)。保守の利益率 22%。
- リニューアル・その他工事:数量 1,200(工事台数(台、推定))× 価格 0.25(1 台当たり工事金額(億円、推定))→ 売上 300 億円・営業利益 39 億円。1,200 台×1 台 0.25 億円。
倍率:ROE 15.3%。RONIC = 7.25% + 1/2 ×(15.3% − 7.25%)= 11.3%、g 3.75% から正当化 PER = 19.1 倍。成長が止まり堀も薄れる筋書きなので、上限の約 7.5 割(14.3 倍)に置いた。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から外れない水準。
確率:安さの優位が薄れる事態は十分にありうる。過去の勢いを素直に延ばせない理由として、確率は 2 割台に置く。
悲観 13% 部品の囲い込みと値引きで安さの優位が失われる 10 年 利益 46 億円 · PER 10.7 倍 · 株価時価総額 276 円494 億円
メーカーが部品や制御ソフトの供給条件を厳しくし、独立系は修理の質と原価の両方で不利になる。保守は解約が増え、契約は 14 万台台半ばまで減る。
価格競争が続き、単価は 10 年で 1.12 倍にしか上がらない。技術員の賃金は物価で上がるため、保守の利益率は 15% まで縮む。
リニューアルはメーカー系に取られ、年 900 台まで細る。工事の利益率も 8% に落ちる。買収した会社の統合にも失敗し、JES はもはや成長企業ではなく、薄利の契約を抱える会社になる。
それでも保守契約という収入の土台は残るため、赤字には陥らない。ただ、利益は今の半分以下に縮み、配当も絞られる。10 年前の高い成長期待は消え、成熟し切った会社として評価される。
- 保守・保全(国内エレベーター):数量 14.5(国内保守契約台数(万台))× 価格 31(1 台当たり年間売上(万円・修理等を含む))→ 売上 442 億円・営業利益 66 億円。契約 14.5 万台×1 台 30.5 万円(1.12 倍)。保守の利益率 15%。
- リニューアル・その他工事:数量 900(工事台数(台、推定))× 価格 0.22(1 台当たり工事金額(億円、推定))→ 売上 198 億円・営業利益 16 億円。900 台×1 台 0.22 億円。
倍率:ROE 9.0% で k 7.5% を上回るが、堀が崩れた筋書きなので上限の約 7 割(10.7 倍)に置く。市場の倍率は使わず、稼ぐ力(純利益 46 億円 ÷ k 7.5% = 約 630 億円)の 8 割弱に置いた。
確率:メーカーが部品や制御情報の供給条件を絞り、同時に値引きで対抗する構造的な負け。起これば打撃は大きいが、規制の目もあるので 1 割台にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
保守・保全(国内エレベーター)
ビルオーナーと年単位の保守契約を結び、定期点検と故障修理を行う。契約収入が中心。
| 数量国内保守契約台数(万台) | 価格1 台当たり年間売上(万円・修理等を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.7 | 27 | 345 | 80 |
| 10 年後 中立 | 20.5 | 35 | 726 | 181 |
取り方:2026/03 末の保守契約 126,840 台(会社開示)で保守・保全売上 345 億円を割って 1 台約 27 万円とした(スポット修理を含む年間売上)。営業利益は全社 110 億円のうち保守の取り分を約 23% と推定した。台数は市場約 110 万台に対するシェアで見ており、物価の分は価格の欄に入れた。 数量は実物(保守契約台数)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
リニューアル・その他工事
古いエレベーターの制御盤・駆動装置などの交換工事。その他の売上(13 億円)を含む。
| 数量工事台数(台、推定) | 価格1 台当たり工事金額(億円、推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,155 | 0.20 | 231 | 34 |
| 10 年後 中立 | 1,500 | 0.26 | 397 | 63 |
取り方:リニューアル売上 218 億円とその他 13 億円の合計 231 億円を、1 台約 2,000 万円(推定。全面更新と部分更新の平均)で割って約 1,150 台とした。営業利益率は保守より低い約 15% と推定した。台数は築 30 年超の機器の更新が進む量、価格は工事金額の指数を意味する。
リスクと懸念
メーカー系の値引き・囲い込み
独立系の武器は安さだ。メーカー系が大口ビルで値引きに動けば、乗り換えの動機が薄れる。部品や制御ソフトの供給条件を絞られれば、保守の質と原価の両方で不利になる。10 年の台数と利益率を同時に損なう、最大の構造リスクである。
技術員の確保と賃金
保守は技術員の数が台数の上限になる。賃金は物価で上がり、採用が詰まれば新規契約を断る場面も出る。遠隔点検で減らせる手間には限りがあり、料金への転嫁が遅れれば利幅が削られる。
リニューアルの先送り
売上の 4 割弱を占めるリニューアルは、工事ごとの受注だ。建築費の高騰や金利上昇でオーナーが更新を先送りすれば、売上が一時に落ちる。保守に比べて利益率も低く、受注の山谷が利益を揺らす。
買収の一巡と統合
台数の積み増しに寄与した買収は、関西の拠点が完成した後は小粒な承継案件が中心になった。大きな買収に頼らない方針は健全だが、営業だけで 10 年のペースを保てなければ、会社の計画より台数は伸びない。買った会社の人員流出や統合の遅れも起きうる。
安全事故・規制
エレベーターは人命に関わる設備で、重大事故が起きれば保守会社の責任が問われる。点検の不備による事故、検査基準の厳格化は、費用の増加と信用の毀損につながる。独立系は特に、メーカー系と比べて信用を疑われやすい。
保守市場の台数が増えない
国内の保守台数は年 1〜2% の増加にとどまり、人口減で新設は伸びにくい。市場全体が横ばいに近づくなか、JES の伸びは他社のシェアを奪うことで成り立つ。奪う余地が小さくなれば成長は急に鈍る。
今後の分かれ目
- 保守契約の純増が 2 年続けて年 1 万台を割る
- 乗り換えの勢いが落ちたと見られ、やや悲観・悲観の筋書きに近づく。
- 保守契約の利益率が 25% を超えて上がる
- 規模の効果が想定より早く出ており、やや楽観・楽観の筋書きに近づく。
- メーカー系が独立系向けの部品供給条件を厳しくする
- 原価と修理の質に響き、悲観の筋書きが現実味を帯びる。
- リニューアルの出荷台数が 2 期続けて前年を割る
- 更新の先送りが起きている兆しで、工事の利益が落ちる方向に働く。
- 大型の買収に踏み切る
- 資本配分の規律が問われる。買収の相手と価格次第で、見立てを改める。
- TOB(株式公開買い付け)の提案が出る
- 買い手の提示価格が本質価値の水準を超えるかを見て判断する。
見ておくもの
- 保守契約台数と四半期ごとの純増(会社開示)
- 保守・保全とリニューアルの利益率
- 技術員数と 1 人あたりの管理台数
- 独立系の市場シェア(会社推計)
- メーカー系の保守料金の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10 年後の自己資本から出した ROE と資本コストから、正当化 PER の上限を計算し、その 7〜9 割で置いた。今の株価・PER・過去の倍率は使っていない。今の値段は高いが、そのせいで筋書きや倍率を上げ下げしていない。数量は保守契約台数(実質)、価格は 1 台あたりの売上の指数で、物価の分は価格の欄に入れた。リースは事務所・車両中心で小さく、純現金の評価にも影響が小さい。新リース会計基準(2028 年 3 月期から)で営業利益が少し増え負債が増える形に変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.97→22.72 倍・やや楽観 PER 17.87→22.56 倍・中立 PER 17→22.4 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25% を加えた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.50%。