結論
アストロスケールホールディングスは、宇宙ごみの除去、衛星への接近・点検、燃料補給、寿命延長を手掛ける軌道上サービス企業である。長く持つ株主の見方では、事業の必要性は強いが、今の時価総額約1,430億円には十分な安全域がなく、割高と考える。宇宙で実際に非協力物体へ接近した経験は希少だが、作れることと、繰り返して利益を得られることは別だからだ。
2026年4月期の売上収益は約59億円で、営業損失は約100億円だった。会社が示すプロジェクト収益約115億円には、売上に含まれない政府補助金約56億円が足されている。補助金は技術確立を助けるが、顧客が支払う市場の大きさや再現性のある粗利をそのまま示すものではない。翌期も約90億~99億円の営業赤字を見込むため、黒字化には受注額だけでなく、複数回使える衛星と費用を全額負担する顧客が必要になる。
2026年10月時点では、防衛省の実証機、英国国防省の初の直接受注、フランスの軌道離脱実証という前進がある。他方、英国COSMICの次段階は失注し、民間寿命延長LEXI-Pの初号契約はなお交渉中である。現金は同年7月末に約350億円あるが、2029年償還の転換社債と借入金も抱え、研究開発と打上げの費用が続く。事業が軌道に乗るとしても、既存株主の取り分が薄まる可能性を無視できない。
中立では2036年に売上が約660億円となり、繰り返し受注を得ても営業利益率は約12%までの改善にとどまる。売上を十倍以上に育てるだけでも難しいのに、なお2029年の借り換えや新株発行という壁がある。五つの筋書きに各々の確率を与えた現在価値は約309億円、現時価総額比で約78%低い。技術の価値を否定する結論ではなく、技術の成否に加えて資本調達の成否まで株主が負担する値段だという判断である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、将来必要になる仕事と、今日持つ株式の価値を分けて考える。地球周回軌道を安全に使い続けるために、近接点検や破片の除去がなくなるとは考えにくい。アストロスケールには飛行実績と政府機関との関係という、金銭だけではすぐに買えない強みがある。もし同じ機体を改良して繰り返し受注できれば、研究開発の先払いが長期の顧客基盤に変わる余地もある。
ただし、株主が持つのは技術の称賛ではなく、必要な追加投資を引いた後の利益である。宇宙機の開発と打上げには失敗できない固定費がかかり、顧客の運用条件も案件ごとに違う。2026年4月期には売上総利益がようやく黒字になったばかりだ。初号機の設計を次の顧客が引き継ぐまで、利益を安定的に再投資して資本コスト以上で回せると断言できない。
最も不安なのは、実証の途中で資金調達が株主価値を食うことだ。7月末の大きな現金残高に安心してはいけない。2029年のCB償還を待つ間も開発費は出ていき、支払い能力を守るための増資が旧株主の取り分を奪うことがある。強気の時だけCBが株式化する条件を考えても、景気の悪い時ほど資金が必要という非対称性は残る。
筆者なら、継続受注の比率、衛星一基の粗利益、追加運用一回あたりの現金創出、補助金に頼らない収益を確認するまで、永久に続く高成長企業としては評価しない。宇宙の物理的な仕事そのものはAIエージェントでは代替できないが、設計調査の工数は削られ得る。事業の可能性は大きく、株式に求める安全域はそれ以上に大きくあるべきだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの対象は、宇宙空間で衛星に安全に近づくランデブ・近傍運用(RPO)を中核としたサービスだ。衛星の位置や状態を把握する点検・防衛用途、制御を失ったロケット上段などの捕獲・除去、推進剤の補給や寿命延長へ用途を広げている。実証機を一基作るたびに売り切る受託開発から、同じ機体設計と運用手順を使った継続受注に変われるかが、今後の収益構造を決める。
公表上の報告セグメントは「軌道上サービス事業」一つだけである。以下の四分類は分析上の採算区分であり、会社が用途別売上を開示したものではない。防衛・監視・近接点検では、日本の防衛省から約66億円の機動対応宇宙システム実証機と約10億円の把持機構の開発を受注した。英国国防省とは2026年9月に約31億円の複数年契約を結んだ。政府が発注を続ければ収入が反復するが、個々の入札には落選もある。
ごみ除去・運用終了後の軌道離脱は、JAXAのADRAS-J2を含む一連の実証が礎となる。ADRAS-Jでの接近・撮像の成功は信用の源であり、次は実際の捕獲と安全な離脱を規定どおり実行できるかが問われる。欧州ではELSA-Mの開発が続き、2028年4月期の打上げが予定されている。大型契約の売上は数年に分割計上され、成功報酬の部分もあるため、受注した日に現金や利益が確定するわけではない。
燃料補給・寿命延長は、米国宇宙軍向けAPS-R、日本のREFLEX-J、民間向けLEXI-Pが中心となる。静止軌道の衛星は燃料切れが寿命を決める場合があり、長く働かせる価値は大きい。ただし燃料の接続規格、打上げ、運用の安全性と民間顧客の支払意思がそろわないと市場は開かない。調査・設計受託やドッキング機構の小口契約もあるが、現在の利益の柱ではない。
2026年4月期の売上総利益は約0.2億円にすぎず、約162億円の販管費に対して約62億円のその他収益などが赤字を和らげた。現時点の用途別営業損益は共通費を仮配賦し、合計を連結営業損失と一致させた。2036年の試算では案件粗利益を用途別に示し、本社・研究開発費と補助金を調整額にまとめた。将来の共通費を過去の配賦率のまま固定せず、補助金を売上と利益に二重計上もしない。
優良さと弱いところ
技術上の強みは、接近対象が協力しない場合でも、安全な距離を保ちながら姿勢と軌道を把握できるRPOの実飛行経験にある。ADRAS-Jの経験、捕獲技術の研究、JAXAや防衛省との契約実績は、新規参入企業が簡単に買えない信用になる。日英米仏などに開発と営業の拠点を置き、現地調達や安全保障上の要件に応じられることも、政府からの受注では効く。
だが、現状の堀は狭い。継続課金が積み上がるソフト会社のような解約率も、値上げを通した実績も、複数回の商業的なごみ除去から得た恒常利益もまだない。入札は価格と技術評価で決まり、衛星事業者が初めから自力で離脱できる機体を作れば、外部の除去業者への支払いは抑えられる。機体を一回使い切るなら、高度な技術を持っていても再投資の利回りは低くなり得る。
経営陣は受注残の拡大、案件期間の短縮、売上総利益率の上昇、間接費抑制を掲げている。方向は正しいが、2026年4月期は研究開発への投資を続けた結果、実績ROEが大きくマイナスである。増分の投下資本利益率が資本コストを超えたという証拠はまだない。LEXI-Pの製造原価を将来のサービス向け資産として計上し始めたことも、今の営業赤字を軽く見せる可能性があるため、打上げ後の減価償却と回収を追う必要がある。
競争上は先行者だが独占者ではない。静止軌道の商業的寿命延長ではNorthrop Grumman傘下SpaceLogisticsが既に稼働実績を持ち、欧州ではClearSpaceがESAから開発契約を獲得した。再利用型ロボット衛星、接近の自律化、共通インターフェースの普及は同社にも有利だが、後続企業の追い上げも速くする。堀を「普通」とみるのは、飛行実績を評価しつつ、稼ぐ仕組みとしての反復性をまだ認定しないためである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
軌道上サービスの必要性は、衛星の混雑によって高まる。ESAによれば2026年10月時点の稼働衛星は約1万5,900機で、追跡される軌道上物体は約4万7,000個ある。2025年には4,000機超のペイロードが打ち上がり、衝突を防ぐ技術の価値が増している。ESAはZero Debrisの取り組みを進め、地球低軌道で運用終了後の軌道離脱を早める規制も広がる。
ただし、衛星数をそのまま除去サービスの顧客数とみなしてはいけない。多くの低軌道衛星は自力の推進装置や大気抵抗で退役し、事業者は安価な新機への交換を選ぶ。需要が増すのは自力では回収できない高価値の衛星や大型デブリ、燃料補給によって得られる追加収益がサービス代を上回る衛星、防衛上の監視・機動需要である。国が費用を負担する実証市場と、民間が採算で決める商業市場は別物だ。
同じ定義での世界の年間契約額も競合シェアも、独立した信頼できる統計は乏しい。そこで2036年の狭義の有償契約市場を、防衛・接近監視は年間20~40ミッション年、ごみ除去・運用終了支援は30~60ミッション年、寿命延長・補給は40~90ミッション年と仮定する。中立で当社がそれぞれ8年、8.5年、15年を取れば、各分野でおよそ20~30%の数量シェアに相当する。これは統計上の市場占有率ではなく、政府の数十億円規模の受注と静止軌道で年20~30機の退役見込みから作った検証可能な仮説である。
競争相手は分野によって変わる。デブリ除去では欧州ClearSpaceや米Starfish Space、寿命延長では先行稼働するNorthrop Grumman傘下SpaceLogistics、政府の防衛・接近監視では既存の宇宙防衛企業と競う。公開数字からこれらの企業別シェアを算出することはできない。特に2026年9月にESAがClearSpaceとの静止衛星サービス開発を進めたことは、世界の先頭集団が一社ではない証拠である。
10年を通じて値段は基本的に物価に沿って上がるが、競争入札が始まれば実質価格は下がり得る。燃料補給口やドッキングプレートの標準化が普及すれば新規需要は増す一方、サービスの差別化は薄れる。従って市場全体の成長を無条件に当社の利益成長に替えず、数量、受注確率、打上げの成功率、粗利益率を別々に考えるべきである。
資本政策と M&A
経営は株主還元より実証と事業存続を優先する。2026年4月期は無配であり、2027年4月期も配当予想はゼロだ。配当性向・DOE・総還元性向・自社株買い額の数字の約束はない。長期目標は売上総利益率30%台半ば、営業利益率20%台半ばだが、達成年度・売上・ROE・還元額は未定である。
2025年の海外公募で約106億円を調達した後、2026年6月には普通株と転換社債を組み合わせ約306億円を調達した。内訳は株式約43億円、2029年満期のゼロクーポンCB約263億円である。転換価額は当初2,208円で、両CBが全て転換すれば約1,191万株の増加要因となる。資金は生産設備、LEXI-P製造と運転資金に充てる。
2026年7月末の現金約350億円から借入金約53億円とCB帳簿残高約223億円を引くと、純現金は約74億円である。さらにリース負債約29億円も勘案すると帳簿上の差額は約45億円である。しかし2029年にCB額面約263億円を全額償還すれば差額は約5億円へ縮む。前受金や補助金の履行義務もあり、自由な現金ではない。前期の営業・投資キャッシュ流出は計約194億円で、配当原資とは呼べない。
ヒューリックやスカパーJSATとの協業は有益でも、戦略投資家のCB保有は普通株主の保護と異なる。過去の技術譲受も回収実績は未確立だ。2026年10月の説明会で会社は追加の株式調達計画はないと明言した。ただし2029年にCBを転換できない場合、借り換えか追加の新株発行が必要になる可能性は残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
衛星が増える限り、軌道の安全と衛星寿命の延長への支出は増す。ESAが示す混雑の進行や各国の宇宙防衛重視は、景気に左右されにくい政府の需要を生む。ADRAS-Jで非協力物体への接近を実証し、日本では防衛省から機動対応宇宙システム、英国では初の国防省直接案件を得た。初めから複数国で顧客と開発を進めてきた会社が、今後の軌道上サービス市場で有力な候補になるのは自然だ。
最も大きい価値は、衛星プラットフォームを案件ごとに設計し直さなくなることにある。ELSA-M、APS-R、GRPO-D、LEXI-Pの一連の打上げが成功すれば、次の契約からは過去の研究開発費を再度全額負担しなくてよい。政府側も実績ある機体を再採用する方が安全で、案件期間が短くなる。2026年7月末の受注済・内定合計約363億円、全額拠出案件比率94%という改善は、採算転換への足場と見られる。
静止軌道では年20~30機が退役候補とされ、一基を長く動かせる価値は事業者にとって大きい。米宇宙軍のAPS-Rの補給実証がうまくいけば、民間だけでなく防衛の反復発注も狙える。2026年6月の資金調達は希薄化を伴ったが、生産能力を先に整える費用を確保したとも言える。量産に近づけば営業利益率20%台半ばという会社目標に到達する機会が生まれ、早くから保有する株主は大きな利益を得る。
慎重な見方
宇宙ごみの問題が深刻でも、それを片づけることに民間企業が継続してお金を払うとは限らない。低軌道の通信衛星は自力で離脱でき、使い捨てで交換する方が安い場合もある。政府の研究予算は市場成立までの橋であって、永続する商業売上ではない。英国COSMICの次段階に選ばれなかった事実は、技術評価を受けた会社でも大型入札を失うことがあると示した。
競争も予想より早く始まっている。静止衛星の延命ではNorthrop GrummanのMEVが既に商業稼働し、欧州のClearSpaceにはESAの新たな延命開発契約がある。アストロスケールのRPO技術は高い水準にあっても、価格決定権が強いという実績は見当たらない。独自技術の普及を進めた結果、規格が標準化されて後発他社も参入しやすくなる可能性すらある。
財務の難しさはさらに具体的だ。2026年4月期の売上約59億円に対して営業損失約100億円、営業キャッシュ流出は約125億円だった。6月の約306億円の調達で当座はしのいでも、2029年にCB約263億円の償還が来る。成長が遅れれば借り換えや株式調達を繰り返し、会社の仕事が増えても古い株式一株が受け取る利益は細る。10年後に事業が残ることと、現在の株主が十分な価値を得ることは同じではない。
どちらに重みを置いたか
サービスの必要性と実飛行の技術力では強気の見方に分がある。しかし、契約単価の確立、粗利益の反復性、民間顧客の支払意思、2029年CBへの対応という四つの壁はまだ越えていない。中立でも売上が現在の十倍超に育つ前提を含むため、さらに高い成功を既定路線にできない。確率は楽観側30%、中立30%、悲観側40%とし、財務と希薄化の非対称性を理由に下側を厚くした。価値が市場価格を大幅に下回る結論を、現在の株価から逆算して和らげるべきではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 552 円764 億円(+ 還元の換算額還元の合計 8 円11 億円)。 今の値に割り戻すと 223 円309 億円、今との差 −78.8%、 期待の年率 −6.1%(資本コスト 9.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 2,427 円3,359 億円 | 53 円74 億円 | +136.0% | +9.1% | 273 円378 億円 |
| やや楽観 | 19% | 956 円1,323 億円 | 13 円18 億円 | −7.8% | −0.8% | 184 円255 億円 |
| 中立 | 30% | 308 円426 億円 | 0 円0 億円 | −70.7% | −11.6% | 92 円128 億円 |
| やや悲観 | 24% | 40 円55 億円 | 0 円0 億円 | −96.2% | −27.9% | 10 円13 億円 |
| 悲観 | 16% | 10 円14 億円 | 0 円0 億円 | −99.0% | −37.1% | 2 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 552 円764 億円 | 8 円11 億円 | −46.7% | −6.1% | 560 円776 億円 |
今の株価時価総額 1,051 円1,454 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 11% 実証の成功が量産・継続受注へ転化 利益 300 億円 · PER 12.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,427 円3,359 億円
デブリ捕獲と軌道離脱、燃料補給、宇宙防衛の主要実証が成功し、顧客は実証費でなく実サービスの料金を払い始める。日本の防衛省がボディーガード衛星を複数機調達し、英国・フランス・米国でも既存プラットフォームを用いた継続契約が広がる。2036年には防衛・接近点検の受注履行が年15ミッション年となり、実質価格では現在より数量を大きく増やす。
除去・運用終了支援では、ESAや大規模衛星網の運用者が失敗できない対象を選び、年14ミッション年を購入する。静止衛星の寿命延長と推進剤補給では、Northrop Grummanと競争しながら年35ミッション年を確保する。これは毎年35基を新規捕獲する意味ではなく、複数年の運用を契約年に換算したものだ。設計の転用が進み、案件粗利益率は40%前後に高まる。
営業利益は約419億円となり、法人税を払っても純利益は約300億円に達する。2029年のCBは当初転換価額を超える株価で全額株式化し、旧株主には約8%の追加希薄化が生じるが、社債返済の資金流出は避けられる。後半に累計約80億円を還元しても、再投資する利益が資本コストを上回る筋書きだ。
- 防衛・軌道監視・接近点検:数量 15.0(契約の当年履行に相当する衛星ミッション年(年換算、推定))× 価格 37(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 555 億円・営業利益 211 億円。世界の有償防衛市場30~40ミッション年を想定し、約4割を獲得する上振れ。
- 大型デブリ捕獲・運用終了後の離脱:数量 14.0(契約の当年履行に相当する除去・離脱ミッション年(推定))× 価格 30(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 420 億円・営業利益 168 億円。世界の有償除去市場40~60ミッション年を想定し、機体の共通化と継続契約で粗利を改善。
- 燃料補給・寿命延長・軌道上修理:数量 35.0(契約の当年履行に相当する補給・延命ミッション年(推定))× 価格 12(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 420 億円・営業利益 185 億円。世界の延命・補給市場70~90ミッション年のうち、約4割の履行を獲得する強気想定。
- 研究調査・設計受託と小口部品:数量 2.0(当年の調査・小口契約完了相当件数(件、推定))× 価格 2.30(1件当たり売上(億円))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。調査受託はAIエージェント代替で実質数量の増加を認めず、物理サービスから生じる小口需要にとどめる。
倍率:資本コストk9.75%、成熟後の名目成長g3%、通常の堀で超過収益が半分残るとする。2036年ROE約23.7%、RONIC=k+0.5×(ROE-k)≈16.7%より、正当化PER=(1-g÷RONIC)÷(k-g)≈12.16倍。上限そのものを使い、現在の株価倍率は参照しない。2027~2036年4月期の純利益年次仮定は、億円で-90、-40、10、40、80、110、150、190、245、300、合計995。自己資本は2026年7月の128.5億円+累計純利益995億円+CBの帳簿上の負債部分から資本への振替約223.2億円-累計還元80億円=約1266.7億円で整合する。
確率:米国APS-R、ELSA-M、ADRAS-J2、LEXI-Pの打上げと継続案件への移行がいずれも成功し、CBを高い株価で転換できる必要がある。複数回の技術成功と官民両市場の同時成立は可能でも高確度とは言えない。
やや楽観 19% 防衛と補給が順調に事業化 利益 125 億円 · PER 11.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 956 円1,323 億円
宇宙安全保障の予算増を受け、日本、英国、フランスで監視・接近の継続発注が始まる。GRPO-Dで作った機体を後続の防衛用途に転用できるため、かつての一品物に比べて製造と開発の手間が減る。2036年には防衛分野で年11ミッション年の売上が生じるが、競合の宇宙防衛企業も政府の注文を獲得し、同社だけが市場を押さえるわけではない。
ADRAS-J2の実証後、欧州と日本の公共顧客から年10ミッション年の除去・離脱関連需要を得る。民間寿命延長では、LEXI-PとAPS-Rの成功を機に年20ミッション年へ拡大するが、Northrop Grummanの実績が価格交渉を厳しくする。単価の増加はおおむね物価に沿い、粗利益率の改善が収益拡大の主因となる。
2036年の売上は約883億円、営業利益は約192億円に成長する。黒字化までの資金流出と2029年CBの借り換えを支えるため、途中で約150億円の増資を想定する。新株発行で旧株主の持分は約89%になるが、その後は自前の現金で増産投資を進め、累計20億円の還元を始められる。
- 防衛・軌道監視・接近点検:数量 11.0(契約の当年履行に相当する衛星ミッション年(年換算、推定))× 価格 34(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 374 億円・営業利益 135 億円。複数国で継続受注が成立し、共通機体への転換で案件粗利を高める。
- 大型デブリ捕獲・運用終了後の離脱:数量 10.0(契約の当年履行に相当する除去・離脱ミッション年(推定))× 価格 28(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 277 億円・営業利益 105 億円。実際の捕獲成功が公共顧客からの反復発注につながる。
- 燃料補給・寿命延長・軌道上修理:数量 20.0(契約の当年履行に相当する補給・延命ミッション年(推定))× 価格 11(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 228 億円・営業利益 91 億円。民間の延命サービスが成立するが、既存競合によって値上げ余地は限られる。
- 研究調査・設計受託と小口部品:数量 2.0(当年の調査・小口契約完了相当件数(件、推定))× 価格 2.10(1件当たり売上(億円))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。調査受託はAIによる工数減少で数量拡大を見込まない。
倍率:k9.75%、g3%、通常の堀を前提とする。2036年ROE約20.4%、RONIC約15.1%により、正当化PERは約11.86倍。利益の質はkと堀で評価済みであるため、中立以上の筋書きは上限そのものを使う。2027~2036年4月期の推定純利益年次列は、億円で-90、-50、-20、0、30、50、80、100、130、125、合計355。自己資本は128.5+355+将来の新株調達150-還元20=613.5億円となる。
確率:国の防衛需要には裏付けがあり、量産設計も合理的だが、複数国の継続入札と民間の支払意欲を同時に確認する必要がある。CBの償還には限定的な新株資金と借り換えを用いる。
中立 30% 政府中心に成長するが、黒字化には時間がかかる 利益 45 億円 · PER 11.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 308 円426 億円
軌道上での点検やごみの除去は社会的に必要なサービスとなるが、当初は政府が需要の大半を作る。各国の防衛案件は続くものの、調達は案件ごとに競争となり、企業が価格を一方的に決める力は付かない。2036年に防衛・接近点検で年8ミッション年を受注し、市場全体の推定約30ミッション年のうち四分の一強を確保する。
ごみ除去・運用終了後の処理は年8.5ミッション年、燃料補給と延命は年15ミッション年まで伸びる。後者は静止衛星の候補すべてが顧客になるわけではなく、Northrop Grummanなどと分け合う。単価はおおむね10年間の物価上昇分だけ上がる。実証から継続受注へ転換できても、2026年に極めて小さかった粗利益率が約34%に達するには長い時間がかかる。
本社と技術開発の固定費は名目で増え、2036年の営業利益率は約12%にとどまる。営業利益は約82億円、借り換え利息と税を引くと純利益は約45億円だ。途中の損失と2029年CBの返済・借り換えのため、別途約220億円の増資を見込む。この資本負担によって旧株主の持分は約83%へ下がり、持ち直した事業の利益がそのまま現在の株主へ帰るわけではない。
- 防衛・軌道監視・接近点検:数量 8.0(契約の当年履行に相当する衛星ミッション年(年換算、推定))× 価格 34(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 268 億円・営業利益 86 億円。世界の防衛市場を約30ミッション年と推定し、当社は約27%を獲得する。
- 大型デブリ捕獲・運用終了後の離脱:数量 8.5(契約の当年履行に相当する除去・離脱ミッション年(推定))× 価格 27(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 228 億円・営業利益 80 億円。公共需要を軸に除去市場の約2割を獲得し、単価は物価3%に沿う。
- 燃料補給・寿命延長・軌道上修理:数量 15.0(契約の当年履行に相当する補給・延命ミッション年(推定))× 価格 11(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 161 億円・営業利益 61 億円。静止衛星の退役候補と補給案件を合わせた市場の約2割を確保する。
- 研究調査・設計受託と小口部品:数量 1.5(当年の調査・小口契約完了相当件数(件、推定))× 価格 2.10(1件当たり売上(億円))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替により調査件数は10年で0.75倍、単価は1.24倍。
倍率:k9.75%、g3%、通常の堀を前提にすると、2036年ROE約15.9%、RONIC=k+0.5×(ROE-k)≈12.8%であり、正当化PER=(1-g÷RONIC)÷(k-g)≈11.35倍となる。2027~2036年4月期の純利益年次仮定は億円で-90、-60、-40、-20、-10、15、25、35、35、45、累計-65。自己資本は2026年7月の128.5億円-累計損失65億円+仮定の新株調達220億円=283.5億円。発行株式による持分希薄化はholder_shareで別途反映する。
確率:実証案件と防衛省・英仏政府の契約は事実である一方、商業サービスの単価と反復率は未確立。継続黒字化は後半まで遅れるものの、事業を維持できるよう増資を織り込んだ中心シナリオ。
やや悲観 24% 官需は残るが、競争と調達負担が重い 利益 10 億円 · PER 8.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 40 円55 億円
政府は宇宙空間の安全保障を優先するが、予算が既存の大手防衛企業にも流れ、アストロスケールのシェアは中立を下回る。日本では試作機の後に限定的な追加発注がある一方、欧州のデブリ除去ではClearSpaceが案件を獲得する。静止衛星の延命ではNorthrop Grummanが商業実績を生かし、民間顧客の調達単価も伸びにくい。
2036年には防衛5.5、除去6.5、燃料補給・延命10ミッション年を履行する。ミッション数が増えても、顧客ごとの機体改造が残るためコスト削減は緩慢である。売上は約459億円となり、研究開発費と本社の人員を実質的に削減してようやく営業利益が約27億円、純利益が約10億円となる。多くの利益を借り換えの利息と次期衛星の製造が吸収する。
2029年のCBは現金償還を求められ、満期前後の資金不足を埋めるために累計約450億円の増資が必要となる。旧株主の持分は約65%まで低下する。会計上は黒字転換するが、積み上げた追加資本に対する収益率は低く、会社が存続していても株主が豊かになるわけではない。
- 防衛・軌道監視・接近点検:数量 5.5(契約の当年履行に相当する衛星ミッション年(年換算、推定))× 価格 33(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 182 億円・営業利益 54 億円。政府の防衛需要は続くが、既存の防衛大手に発注が分散する。
- 大型デブリ捕獲・運用終了後の離脱:数量 6.5(契約の当年履行に相当する除去・離脱ミッション年(推定))× 価格 26(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 169 億円・営業利益 52 億円。後続機体の受注で競り負け、価格も物価上昇に追いつかない。
- 燃料補給・寿命延長・軌道上修理:数量 10.0(契約の当年履行に相当する補給・延命ミッション年(推定))× 価格 11(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 106 億円・営業利益 35 億円。競合の先行と顧客の衛星交換選好により、成長が鈍化する。
- 研究調査・設計受託と小口部品:数量 1.3(当年の調査・小口契約完了相当件数(件、推定))× 価格 2.00(1件当たり売上(億円))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。AIによる設計調査の工数圧縮が進み、案件獲得数と単価が伸び悩む。
倍率:k9.75%、g3%を前提とするが、2036年ROEは約6.1%でkを下回る。利益に対するPER上限は1÷k≈10.26倍であり、資本コストを回収できない事業の稼ぐ力として8.5倍とする。2027~2036年4月期の純利益年次仮定は億円で-90、-85、-75、-65、-50、-30、-20、-10、0、10、累計-415。自己資本は128.5-415+将来増資450=163.5億円。株主への取り分の減少はholder_shareで別途評価する。
確率:COSMICの次段階失注、既存顧客の自力離脱技術、Northrop GrummanとClearSpaceの競争を踏まえた下振れ。救済的な新株発行のため事業が残っても旧株主が大きく希薄化する。
悲観 16% 実証が商業化せず、大幅な資本再編へ 利益 −20 億円 · PBR 0.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 10 円14 億円
実証した技術は安全保障の研究には使われるが、高額の商業サービスには広がらない。民間の低軌道衛星は自力で退役し、静止軌道の寿命延長でも競合が標準方式を先行させる。政府は基礎研究に少額の委託を続けるものの、大型デブリ除去は予算制約や責任の所在をめぐって先送りされる。グループの実績が一度失われると、次の大型案件へ戻るのも難しい。
2036年の受注履行は防衛2.5、除去3、補給・延命4ミッション年まで落ち着く。名目単価も物価に追いつかず、売上は約176億円にとどまる。固定費と人員を大幅に縮小しても営業損失は約19億円、純損失は約20億円と続く。過去の衛星製造資産は予定どおり使えず、研究設備の一部を売却する。
2029年満期CBは転換されず、債権者と返済条件を調整しながら累計約650億円の救済資本を調達する。その代償として現在の株主の持分は約46%へ薄まる。最後に残るのは十分に回収できる契約と売却可能な機材・現金の一部であり、のれんと未完成の技術は株主の床として数えない。社会に必要な技術でも、事業の経済性が証明されなければ旧株主の価値は大きく失われる。
- 防衛・軌道監視・接近点検:数量 2.5(契約の当年履行に相当する衛星ミッション年(年換算、推定))× 価格 29(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 73 億円・営業利益 13 億円。大型防衛機体の継続受注がなく、政府研究と小規模点検に縮む。
- 大型デブリ捕獲・運用終了後の離脱:数量 3.0(契約の当年履行に相当する除去・離脱ミッション年(推定))× 価格 22(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 66 億円・営業利益 11 億円。顧客の自力離脱と大型除去予算の停滞が続く。
- 燃料補給・寿命延長・軌道上修理:数量 4.0(契約の当年履行に相当する補給・延命ミッション年(推定))× 価格 9.00(1ミッション年当たり顧客売上(億円))→ 売上 36 億円・営業利益 7 億円。競合の方式が業界標準となり、値上げも物価を大幅に下回る。
- 研究調査・設計受託と小口部品:数量 0.8(当年の調査・小口契約完了相当件数(件、推定))× 価格 1.85(1件当たり売上(億円))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。AIエージェントによる工数代替と受注減少で小口調査も不採算となる。
倍率:2036年は純損失でPERが使えないため、SCHEMA §1-3に従い、悲観のPBRは将来の自己資本88.5億円ではなく、直近実績2026年4月期の自己資本76.6億円を基準に適用する。事業が構造的に競争力を失い、研究開発資産の回収も難しくなるため、清算可能な純現金と換金資産を重視したPBR0.40倍とする。今の自己資本76.6億円×0.40=時価総額30.64億円となり、別途推定した売却可能資産の税後の床30億円を上回る。2036年の自己資本88.5億円はROEと資本移動の整合を確認するための値であり、PBRを掛ける分母には使わない。2027~2036年4月期の純利益年次仮定は億円で-90、-100、-100、-90、-80、-75、-65、-45、-25、-20、累計-690。将来の自己資本は2026年7月末の128.5億円-累計損失690億円+再建増資650億円=88.5億円となる。のれんや未実現の技術は換金価値に含めず、過去の市場PBRも倍率の根拠にしていない。
確率:顧客の自力離脱と他社の延命実績、官需入札の失注、打上げ遅延が重なる構造的な敗北。継続赤字が続く会社なので、低頻度の破綻・大幅希薄化も無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
防衛・軌道監視・接近点検
防衛省の機動対応宇宙システムと把持機構、英米政府の接近・監視・実証を含む。
| 数量契約の当年履行に相当する衛星ミッション年(年換算、推定) | 価格1ミッション年当たり顧客売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 0.8 | 25 | 20 | −24 |
| 10 年後 中立 | 8.0 | 34 | 268 | 86 |
取り方:用途別実績は非開示。防衛省の約66億円・約3年契約と把持機構約10億円の契約、2026年9月の英国国防省約31億円の複数年契約を参照し、当年履行を0.8ミッション年と推定した。2026年4月期の用途別売上20億円は推定であり、後日締結した英国契約を当期実績に直接足したものではない。営業損益は共通研究開発・販管費を推定配賦し、全社営業損失との整合を保った。
大型デブリ捕獲・運用終了後の離脱
JAXAのADRAS-J2、欧州ELSA-M、英国COSMIC等の捕獲・離脱サービス開発と実証。
| 数量契約の当年履行に相当する除去・離脱ミッション年(推定) | 価格1ミッション年当たり顧客売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 1.3 | 20 | 26 | −38 |
| 10 年後 中立 | 8.5 | 27 | 228 | 80 |
取り方:JAXAのADRAS-J2契約120億円と2029年3月までの契約期間、ELSA-Mの各フェーズの受託、英国COSMIC約195万ポンドの開発契約を基礎に、認識中の案件を約1.3ミッション年、実効単価を約20億円と推定した。軌道上で捕獲した物体の実数ではなく、1年分の契約履行に換算した数量である。営業損益には共通費と補助金の推定配賦を含めた。
燃料補給・寿命延長・軌道上修理
APS-R、REFLEX-J、電気推進燃料補給、LEXI-Pに向けた開発と将来の有償サービス。
| 数量契約の当年履行に相当する補給・延命ミッション年(推定) | 価格1ミッション年当たり顧客売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 1.3 | 8.00 | 10 | −34 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 11 | 161 | 61 |
取り方:米国宇宙軍APS-R実証、日本のREFLEX-Jの初年度・2年目契約合計約41億円、JAXAの電気推進補給開発などの受託マイルストーンから、当年に顧客売上として認識した部分をミッション年へ換算した推定である。補助金収入は売上に含めない。LEXI-P初号機の民間本契約は現時点で未締結。営業損益は共通研究開発費の配賦を含む参考値である。
研究調査・設計受託と小口部品
安全な接近に関する概念設計、宇宙機の調査受託、ドッキング用機構の小口案件。
| 数量当年の調査・小口契約完了相当件数(件、推定) | 価格1件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 2.0 | 1.70 | 3 | −5 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 2.10 | 3 | 0 |
取り方:米空軍研究所の約870万ドルのRPO研究契約やESA・NASAの概念研究、ドッキングプレート販売を参考に、小型案件2件の当年売上認識相当を推定した。研究契約の額面全額を初年度の売上にせず複数年の進捗へ割った。研究調査はAIエージェント代替の人月・工数型が一部に該当し、中立数量を10年0.75倍、単価を1.24倍とする。営業損益には共通費を配賦した。
リスクと懸念
転換社債の償還と希薄化
2026年に調達した2029年満期のCBは額面約263億円で、転換価額は当初2,208円である。転換できるほど株価が高ければ既存株主の持分が薄まり、転換できなければ現金償還や借り換えが必要になる。赤字と打上げ支出が続くと、新たな株式調達の発行価額も低くなり、企業価値が残っても現在の株主への配分が小さくなる。
実証成功と商業採算の隔たり
ADRAS-Jでの近接観測は実力の証拠だが、大型デブリの実際の捕獲と軌道離脱、民間寿命延長の継続有償契約とは別の段階である。研究費を負担した国が成功後も毎年発注する保証はなく、政府補助金を足したプロジェクト収益を恒常的な顧客売上として評価すると、粗利と再投資負担を大幅に見誤る。
競争入札と代替技術
Northrop GrummanのSpaceLogisticsはGEO衛星の延命で先行する実飛行実績を持ち、ClearSpaceもESAから開発契約を得ている。打上げ費用の低下と標準的なドッキング口の普及は市場を広げるが、同時に新規参入を容易にする。顧客が機体の自力離脱や衛星交換を選ぶ場合、除去サービスの価格決定力は弱くなる。
受注残と利益計上のずれ
会社が公表する受注残高の合計には未契約の後続フェーズへの期待額が含まれ、既契約分でもマイルストーンの未達なら売上にならない。原価回収基準で認識する案件では、工事途中の利益がほとんど計上されず最終期に集中する。受注残を売上に直結させず、納品・打上げ・原価超過・政府補助金の区別を各期で追う必要がある。
衛星打上げ・衝突・技術陳腐化
打上げロケットの遅延や失敗、軌道上の事故、対象衛星の予期しない姿勢は、案件の採算を急に悪化させる。機体とソフトウェアを再利用して原価を下げる計画も、顧客ごとに捕獲方式や安全保障要件を作り替えるなら成立しない。打上げ後の減価償却や修理・保険の負担まで含めて継続利益を測るべきである。
AIエージェント代替
軌道上で衛星を製造・打上げ・操縦・捕獲する仕事はAIエージェントだけでは置き換えられず、主力の物理ミッションは代替対象外である。ただし研究調査、設計書・報告書の作成など工数を売る小口受託はAIで作業量が減り、席や人月の価格を維持しにくい。この小口部分のみ中立の数量を現行の0.75倍、名目単価を約1.24倍、長期成長を0%とし、物理サービスの寿命へ二重計上しない。
今後の分かれ目
- ELSA-MとADRAS-J2が予定どおり打ち上がり、実捕獲と軌道離脱を完了したら
- 商業化の技術リスクを一段下げる。同設計の次期契約額と1件の粗利益まで確認できれば、中立の除去ミッション年と粗利益率を上げる。
- LEXI-P初号機契約が締結され、最初の有償寿命延長と次の受注が確認できたら
- 政府開発依存から民間の反復収入への転換が進んだとみる。静止軌道の顧客一社当たり契約年数と再利用回数を上方修正する。
- 2029年のCB償還前に営業キャッシュフローが黒字化し、借り換えか転換が確定したら
- 追加増資の必要額とholder_shareを再計算する。資本調達を経ずに返済できるなら、現在の株主の取り分と本質価値が改善する。
- 政府補助金を除く売上総利益率が数年連続で30%台半ばとなったら
- 標準機体の再利用と全額拠出契約が実績に変わったと判断し、中立の利益率を会社の長期目標に近づける。
- 英国COSMICに続いて他国の大型政府入札も失い、受注済残高が2期連続で減少したら
- 技術上の先行が受注の堀になっていない可能性を重くみる。防衛・除去の数量と獲得シェアを下げ、悲観側の確率を引き上げる。
- 資金流出が2026年4月期に近い年150~200億円規模で続いたら
- CB償還前の現金消耗を踏まえ、増資額と発行株数を増やす。時価総額だけでなく旧株主係数を引き下げ、悲観の資産床も見直す。
見ておくもの
- 受注済残高と未契約の受注内定額を分けた推移、受注済残高の平均契約期間
- 政府補助金を除いた売上総利益率、原価回収基準案件の割合、損失引当金
- ADRAS-J2・ELSA-M・APS-R・GRPO-D・LEXI-Pの打上げ日と実証成否
- 同型衛星の継続受注件数、同一機体を利用した追加サービス数
- 2029年満期CBの転換状況、現預金、営業・投資キャッシュフロー、増資株数
- 防衛省・英仏の継続発注、ClearSpace・SpaceLogisticsの競合契約、民間の実支払額
倍率と資本コストの決め方
2026年10月23日の株価から売上や倍率を逆算していない。単一の公式報告セグメントを、契約金額とマイルストーンの期間に基づく4用途のミッション年と調査件数へ分けた。2036年の数量は官需・除去・補給市場の有償ミッション数と当社の獲得余地から推定し、物価3%を主に単価へ反映し、ドル円は150円で固定した。現時点の営業赤字を用途別に仮配賦し、2036年の案件売上総利益と本社・研究開発費を分け、政府補助金を売上に重複して足さなかった。
楽観~中立のPERは、資本コスト9.75%と10年後のROEから求めたRONIC、長期成長3%を使う正当化式の上限そのものである。現在の赤字企業に今のPERを当てたり、過去のPBRを悲観の床にしたりしていない。悲観のPBRは2036年の自己資本88.5億円ではなく、現在の自己資本76.6億円に適用する。現在の自己資本に0.40倍を掛けた30.64億円は、別途推定した換金可能資産の床30億円を上回り、SCHEMA §1-3の条件を満たす。株式・CBは2026年7月時点の自己資本へ反映済みの分と、将来発行または転換する分を分離し、後者だけ旧株主の持分係数に反映した。IFRSではリース負債が既に計上されており、同じリースをもう一度費用として差し引いていない。
資本コスト 9.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。国債3%、株式リスクプレミアム4.5%の基本7.5%に四項目の品質1.25%と継続赤字への上乗せ1%を加えて9.75%とする。