結論
新日本科学は、新薬の候補をサルなどで試し、安全性を調べる受託会社である。国内の最大手で、売上の 9 割以上を占める CRO(受託研究)事業の受注は、4 割強が海外から来る。サルの繁殖まで自前で持つ点が、他社との違いだ。
筆者の結論は、今の値段にはやや安全域がある、というものだ。中立の 10 年後は純利益が約 124 億円、今の 2.7 倍になる。稼ぎの柱は二つある。サルを使う試験の受託と、臨床試験の合弁会社から入る持分利益だ。足を引くのは、米国子会社の片頭痛薬「Atzumi」で、毎年 25 億円を超える赤字を出している。
懸念は三つある。まず、設備投資が先行して純負債が 220 億円を超え、金利の上昇が効くこと。次に、米 FDA が抗体医薬でサル試験を減らす方針を示したこと。最後に、同じ種類の薬を売った競合が破産した例を、Atzumi がなぞる恐れだ。
確率で重ねて今に割り引くと、本質価値は今の値段を 19% ほど上回る。やや割安と見るが、値幅は広い。悲観の筋書きでは時価総額が 2 割近くまで縮む。受注が途切れず設備が埋まり、Atzumi が赤字を止められるかが、分かれ目である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い商売の入口に立つが、まだ手放しでは持てない会社」だ。
良い点は、サルの調達という他社が真似しにくい資源を、自前で持ちつつあることだ。受注残は売上の 1.3 年分あり、欧米顧客の 8 割は繰り返し発注する。臨床の合弁からは、営業利益率 44% の稼ぎが入る。この三つは、10 年後も続くとみてよい。
気になる点は、株主の手元に残るお金だ。設備投資が減価償却の 3 倍近く、毎年の純利益ほどには現金が残らない。借入は 413 億円に増え、金利が上がる世界では重い。Atzumi は毎年 25〜35 億円を燃やし続ける。同じ DHE 経鼻剤の Trudhesa を売った Impel は、販売目標の 55% にとどまり 2023 年に破産した。この前例から、筆者は Atzumi の価値を大きく見ていない。
資本の使い方では、成長への投資は理にかなうが、新薬を自社で売る賭けは、本業の利益だけで支えるには重い。新社長の下で、どこまで広げるかを見極めたい。
安全域は、10 年の本質価値が今の値段を約 19% 上回る程度で、大きくはない。悲観の筋書きでは時価総額が 2 割近くに縮み、値幅も広い。経営の資本配分と Atzumi の損益の見通しが固まるまで、確信度は中くらいだ。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。
稼ぎ頭は CRO(受託研究)事業だ。製薬会社の新薬候補を、サルやラットで試して安全性を確かめる。2026 年 3 月期の売上は 313 億円、営業利益は 69 億円で、利益率は 22% だった。核酸医薬・遺伝子治療・細胞治療といった新しい薬の試験に強く、欧米顧客の受注の 7 割は上場バイオ企業からだ。リピートの比率は 81% にのぼる。受注は 357 億円(前期比 11% 増)、受注残は 409 億円で、売上の 1.3 年分がある。サルは日本・中国・カンボジアで繁殖を進め、自前で確保する体制を築いている。
臨床試験は、米国の PPD(現在は Thermo Fisher 傘下)との合弁「新日本科学 PPD」が担う。連結には入らず、持分法で利益だけを取り込む。2026 年 3 月期の持分利益は 28 億円。合弁の営業利益率は 44% と高い。日本で行う国際共同治験の実施が中心だ。
三つ目が TR(トランスレーショナルリサーチ)事業で、自社の薬の種を育てる。柱は米国子会社 Satsuma の片頭痛薬 Atzumi だ。2025 年 4 月に FDA が承認した。しかし販売提携の交渉がまとまらず、自社で作って売る道へ切り替えた。TR 全体の営業損失は 40 億円に膨らんでいる。鹿児島・指宿のホテルや温泉発電(メディポリス事業)は、規模が小さい。
優良さと弱いところ
堀は、サルの確保力と実績にある。ただし、強い堀と呼べるほどではない。
実験用のサルは世界で足りない。中国が 2020 年に輸出を止め、カンボジア産の値段は 2012 年の約 5 倍になった。米国では 2023 年に 1 匹が約 6 万ドルへ跳ね上がった。国内・中国・カンボジアに繁殖拠点を持つ会社は少なく、供給を握れば値決めに効く。2022 年に取り込んだイナリサーチ(国内の同業)と合わせ、国内の非臨床では首位を固めた。
弱みは、受託サービスで顧客が移りやすいことだ。世界首位の Charles River Laboratories や米国の Inotiv、中国の JOINN などが競う。技術と信用が堀だが、価格だけでは勝てない。
資本効率は落ちている。ROE は 2022 年 3 月期の 36% から、2026 年 3 月期は 10.6% へ下がった。営業利益率は 23.6% から 8.2% だ。設備と人員への先行投資と、Atzumi の赤字が重なった。営業利益の外にある合弁の持分利益(28 億円)が、全体の利益を支えている形だ。
歴史にも注意が要る。2009 年以降、赤字の年が 8 回あり、2014 年 3 月期には株式が薄まった。今の財務は当時より強いが、借入が 413 億円に増えている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
非臨床 CRO は、製薬会社の研究開発の外注化に乗って伸びてきた分野である。世界の市場規模は調査会社によって 67〜71 億ドルと幅があり、当社の取り分は 3% 前後と見られる。需要を押し上げるのは、核酸・遺伝子・細胞治療など新しい創薬の分野だ。これらは人の体に近いサルで安全性を確かめる場面が多い。
供給側は逼迫している。中国が 2020 年に実験用サルの輸出を止め、カンボジアが穴を埋めたが、野生由来の密輸摘発も起きた。成熟したサルの確保が難しく、試験の遅れや価格上昇の原因になっている。自前の繁殖拠点を持つ会社が有利になる。
逆風も具体的だ。FDA は 2025 年 4 月にモノクローナル抗体で動物試験を減らす計画を公表し、同年 12 月には「サルの 6 か月毒性試験は不要か縮小できる」とする指針案を出した。2026 年 3 月にはさらに広い指針案も続いた。禁止ではなく、減らす方向だ。10 年後に新薬の試験の中身が変わり、サルの試験数が伸びなくなる可能性はある。
景気の面では、顧客の 7 割が上場バイオ企業なので、バイオ企業の資金調達に左右される。調達が冷えると大型案件が延び、売上がずれる。2026 年 3 月期にも、複数の大型試験が翌期にずれた。
競争は世界規模である。欧米の顧客は日本の拠点を使うかどうかを、品質と納期で選ぶ。当社は欧州基準の新実験棟(総額約 100 億円、2027 年秋完成予定)で、欧米向けの受け皿を広げようとしている。
資本政策と M&A
資本政策は、投資を優先し、配当は守るという形だ。
配当は年約 21 億円で、純利益の約 46% にあたる。自社株買いは無い。今期は予想純利益が減るため、配当性向は約 6 割へ上がる見込みで、増配の余地は小さい。
設備投資は 2027 年 3 月期に 111 億円の計画で、減価償却(約 40 億円)の 3 倍近い。借入は 413 億円、現金は 185 億円で、純負債は約 224 億円と時価総額の 38% にあたる。金利が上がると、借り換えのたびに利払いが増える。
会社が掲げる 2028 年度の目標(売上 500 億円、経常利益 200 億円)は、今期予想の経常利益 60 億円から見て届かない。2032 年度以降の長期ビジョンを作り直している。
保有株では、米国の Wave Life Sciences 株を約 960 万株持つ(時価で約 45 億円)。M&A では、2022 年にイナリサーチを取り込んだ。買われる側になる可能性は、kabufu の推定で 10 年以内に約 18%。合弁相手の PPD は Thermo Fisher 傘下で、持分の扱いが動く余地はある。2026 年 6 月に社長が 35 年ぶりに交代し、平間英之氏が就いた。
(点検済み:起点の営業利益26.5億円は期ずれで低い側。純利益が営業利益より大きいのは持分法益27.8億円のため。市場は実質で測っていて物価の二重がけは無い。Wave Life Sciences 株約45億円は借金と設備投資の重さを理由に数えていない。株数に影響する転換社債は確認できない。)
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
サルを使う試験の需要は、構造的に強い。世界でサルが足りない中、日本・中国・カンボジアに繁殖拠点を持つ当社は、調達を握れる数少ない会社だ。新しい薬の分野は、規制が緩んでもサルを外しにくい。核酸・遺伝子・細胞治療は、人に近い動物でしか安全性を確かめにくいからだ。
受注は 357 億円と最高を更新し、受注残は 409 億円まで積み上がった。欧米顧客の受注は 35% 増の 132 億円で、欧米顧客の 8 割は繰り返し発注する。上場バイオ企業が多く、複数の開発品を同時に抱える顧客から、安定した発注が見込める。欧州基準の新実験棟が 2027 年秋に動き出せば、欧米向けの受注はさらに広がる。
利益率は 27% から 22% へ落ちたが、これは先行投資の償却による一時的な低下だ。設備が埋まれば、27% 超へ戻る。今期は、ずれ込んだ大型試験の売上が戻り、CRO の営業利益が 20 億円増える計画だ。
臨床の合弁は営業利益率 44% で、毎年 28 億円の持分利益を連結に足す。Atzumi は、会社が外部コンサルの再評価をもとに、米国だけでピーク売上 2 億ドル超を見込む。自社販売に切り替えたので、利益が当社に残る。
今の時価総額は、受注残と合弁の持分利益が生む価値に比べて小さい。
慎重な見方
財務が重く、Atzumi が足を引く。設備投資は減価償却の 3 倍近い 111 億円で、純負債は 224 億円まで増えた。借り換えの金利が上がると、利払いは利益を削る。Atzumi の営業損失は 2027 年 3 月期に 35 億円へ広がる計画だ。
同じ DHE 経鼻剤の Trudhesa を売った Impel は、販売目標の 55% にとどまり、2023 年に破産した。当社も提携先を見つけられず、自前での販売に切り替えた。販売体制を整えるあいだ、現金が減り続ける。
規制の逆風も具体的だ。FDA はサルの 6 か月毒性試験を不要か縮小できるとする指針案を出した。抗体医薬の外にも広がれば、サル試験が当社の稼ぎ頭である構造が揺らぐ。サルの値段が下がれば、繁殖への投資も回収できない。
利益の質にも疑問がある。純利益の約 6 割は持分法利益と営業外の収益で、営業利益は 26 億円にすぎない。営業利益率は 8% まで落ちた。2028 年度の目標(経常利益 200 億円)は、今期予想の 60 億円から見て届かない。
経営の面では、35 年ぶりの社長交代の直後で、資本配分が定まっていない。過去には赤字の年が 8 回あり、株式が薄まった。
どちらに重みを置いたか
サルの調達力と受注の勢いでは強気の見方が強いが、財務の重さと Atzumi の赤字、規制の流れでは慎重な見方に分がある。受注と受注残は事実として積み上がり、需要は本物だ。ただし、その需要が利益と現金に変わる道のりは、設備投資と金利に削られる。
このため確率は中立に 36% を置いたうえで、悲観側(やや悲観 27%・悲観 10%)に厚く寄せた。倍率は中立で正当化 PER の 8 割に置いた。結果は、本質価値が今の値段を約 19% 上回るやや割安である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,017 円1,672 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 646 円269 億円)。 今の値に割り戻すと 2,253 円938 億円、今との差 +52.7%、 期待の年率 +12.2%(資本コスト 8.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 8,549 円3,559 億円 | 961 円400 億円 | +544.8% | +20.5% | 666 円277 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,508 円2,709 億円 | 817 円340 億円 | +396.6% | +17.4% | 1,465 円610 億円 |
| 中立 | 36% | 4,604 円1,917 億円 | 697 円290 億円 | +259.3% | +13.6% | 1,908 円794 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,605 円668 億円 | 504 円210 億円 | +43.0% | +3.6% | 570 円237 億円 |
| 悲観 | 10% | 259 円108 億円 | 288 円120 億円 | −62.9% | −9.4% | 55 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,017 円1,672 億円 | 646 円269 億円 | +216.1% | +12.2% | 4,663 円1,941 億円 |
今の株価時価総額 1,475 円614 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% サルの不足と欧米の受注が追い風になり続ける 10 年 利益 218 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 8,549 円3,559 億円
動物試験の需要が、思った以上に長く強く続く 10 年だ。新しい薬(核酸・遺伝子・細胞治療)の安全性試験は、規制が緩んでもサルを外せない。サルの調達難は続き、国内・中国・カンボジアで繁殖を自前で持つ強みが値決めに効く。欧州基準の新しい実験棟が稼働し、欧米の大手バイオからの受注が積み上がる。取り分は 4% に近づく。稼働率が上がるほど、固定費の重い設備が利益に変わり、利益率は 27% まで戻る。
Atzumi は第二選択薬として米国の頭痛専門医に根づく。自社の営業体制で、ピーク売上は会社の見立て(約 2 億ドル)に近づく。臨床の合弁も好調を保ち、持分利益は 40 億円に届く。
借金は利益で返し終わり、配当も厚くなる。ただし、ここまで全部がそろう確率は低い。
- CRO 事業(非臨床試験の受託・サル繁殖):数量 3.9(世界の非臨床 CRO 市場(億ドル、実質)× 当社の取り分)× 価格 1.38(値段の指数(2026/03 期 = 1.0。円換算は rev_factor 150 円/ドル))→ 売上 811 億円・営業利益 219 億円。市場 98 億ドル × 取り分 4.0%。サルの不足が続き、値上げも通る
- Atzumi(米国 Satsuma 社の経鼻片頭痛薬):数量 12.0(米国での年間処方箱数(万箱))× 価格 14(1 箱あたりの純売上(万円。保険会社への割戻し後の当社推定))→ 売上 168 億円・営業利益 47 億円。年 12 万箱 × 14.0 万円。急性期の第二選択として根づく
- その他(TR 本体・メディポリス・米国不動産・本社調整):数量 30.0(事業・施設・案件の数(件、当社推定))× 価格 0.70(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 21 億円・営業利益 −12 億円。TR 本体の研究費は続く
倍率:事業の純利益 218 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.82 倍、時価総額 3,447 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州基準の新実験棟・サルの自前繁殖・Atzumi の自社販売の三つが同時に当たる必要がある。受注残が最高水準で可能性はあるが、規制の逆風と借金の重さがあり、7% にとどめた。
やや楽観 20% 受注の勢いが続き、新実験棟が計画どおり埋まる 10 年 利益 170 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 6,508 円2,709 億円
サルを使う試験の受注が、今の勢いのまま 10 年続く。受注残は売上の 1 年分を超える水準を保ち、新しい実験棟が計画どおり埋まる。サルの繁殖が軌道に乗り、調達コストの上昇も値上げで吸収する。利益率は設備投資の負担が一巡して 26% ほどに戻る。取り分は 3.7% まで上がる。全体の営業利益は 10 年で 190 億円台に乗る。
Atzumi は販売体制の整備に時間がかかるものの、発売後は着実に処方が増える。10 年目に黒字に入る。臨床の合弁は価格競争で伸びが鈍るが、高い利益率は保つ。
純負債は 4〜5 年で減り始め、財務の不安は薄れる。FDA の方針は抗体医薬にとどまり、サル試験の全体は大きく削られない。
- CRO 事業(非臨床試験の受託・サル繁殖):数量 3.5(世界の非臨床 CRO 市場(億ドル、実質)× 当社の取り分)× 価格 1.36(値段の指数(2026/03 期 = 1.0。円換算は rev_factor 150 円/ドル))→ 売上 713 億円・営業利益 185 億円。市場 94.5 億ドル × 取り分 3.7%。欧米の受注が伸び続ける
- Atzumi(米国 Satsuma 社の経鼻片頭痛薬):数量 9.0(米国での年間処方箱数(万箱))× 価格 14(1 箱あたりの純売上(万円。保険会社への割戻し後の当社推定))→ 売上 122 億円・営業利益 22 億円。年 9 万箱 × 13.6 万円。黒字化は 10 年目の手前
- その他(TR 本体・メディポリス・米国不動産・本社調整):数量 29.0(事業・施設・案件の数(件、当社推定))× 価格 0.68(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 20 億円・営業利益 −13 億円。TR 本体の研究費は続く
倍率:事業の純利益 170 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.27 倍、時価総額 2,596 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注・受注残は伸びており、設備が埋まる確度は高い。ただし利益率が過去の高さ(27%)に戻るには償却負担の一巡が要る。2 割に置いた。
中立 36% CRO はゆっくり伸び、Atzumi は小さく当たる 10 年 利益 124 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 4,604 円1,917 億円
CRO は市場の成長に沿ってゆっくり伸び、Atzumi は大きく外れず小さく当たる。サルの試験の需要は新しい創薬分野に支えられて伸びる。ただし FDA が抗体医薬でサル試験を減らす流れは緩やかに進み、成長の勢いは削られる。取り分は 3.0% から 3.4% へ上がる程度で、値段は物価並みに上がる。受注残は売上の 1 年分前後を保ち、設備は少し遅れて埋まる。利益率は 24% 前後で落ち着く。
Atzumi は販売先を自力で開拓するため、立ち上がりは遅い。10 年目でも販売費とほぼ釣り合う水準にとどまる。競合の DHE 経鼻剤が失速した例があり、市場は小さいと見る。
臨床の合弁は、価格競争で利益が少しずつ増える程度だ。借金は 2030 年前後から減り始め、利払いは小さくなる。
- CRO 事業(非臨床試験の受託・サル繁殖):数量 3.1(世界の非臨床 CRO 市場(億ドル、実質)× 当社の取り分)× 価格 1.34(値段の指数(2026/03 期 = 1.0。円換算は rev_factor 150 円/ドル))→ 売上 622 億円・営業利益 149 億円。市場 91 億ドル × 取り分 3.4%。値上げは物価並み(1.34 倍)
- Atzumi(米国 Satsuma 社の経鼻片頭痛薬):数量 5.0(米国での年間処方箱数(万箱))× 価格 13(1 箱あたりの純売上(万円。保険会社への割戻し後の当社推定))→ 売上 67 億円・営業利益 1 億円。年 5 万箱 × 13.4 万円。販売費とほぼ釣り合う
- その他(TR 本体・メディポリス・米国不動産・本社調整):数量 28.0(事業・施設・案件の数(件、当社推定))× 価格 0.65(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 18 億円・営業利益 −15 億円。TR 本体の赤字は物価で膨らむ程度
倍率:事業の純利益 124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.48 倍、時価総額 1,801 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:サル試験の成長と、規制・借金・Atzumi の重さが綱引きする標準の筋書き。最も重い 36% に置いた。
やや悲観 27% 動物試験の減少と償却負担で利益率が下がる 10 年 利益 63 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,605 円668 億円
動物試験の需要が想定より早く縮み、設備投資が重荷になる 10 年だ。FDA の方針転換が抗体医薬の外にも広がり、サルの試験数が伸びない。バイオ企業の資金調達が冷え込む年もあり、大型案件の延期が続く。新しい実験棟は埋まるのに時間がかかり、減価償却が利益を圧迫する。利益率は 18% まで下がる。価格競争も強まり、値上げは物価に届かない。
Atzumi は米国で販売が伸びず、赤字が長引く。臨床の合弁も顧客の発注形態の変更で利益が細る。純負債は 300 億円を超え、金利が上がる中で利払いが利益を削る。
配当は維持するが、増配はできない。新社長は投資の手を止め、財務の立て直しを優先する。
- CRO 事業(非臨床試験の受託・サル繁殖):数量 2.4(世界の非臨床 CRO 市場(億ドル、実質)× 当社の取り分)× 価格 1.30(値段の指数(2026/03 期 = 1.0。円換算は rev_factor 150 円/ドル))→ 売上 471 億円・営業利益 85 億円。市場 80.5 億ドル × 取り分 3.0%。動物試験の減少と受注の谷で値段も伸びない
- Atzumi(米国 Satsuma 社の経鼻片頭痛薬):数量 3.0(米国での年間処方箱数(万箱))× 価格 13(1 箱あたりの純売上(万円。保険会社への割戻し後の当社推定))→ 売上 38 億円・営業利益 −2 億円。年 3 万箱 × 12.5 万円。赤字のまま続く
- その他(TR 本体・メディポリス・米国不動産・本社調整):数量 26.0(事業・施設・案件の数(件、当社推定))× 価格 0.62(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 16 億円・営業利益 −17 億円。赤字が少し拡大
倍率:ROE 8.3% は k 8.25% 以下。正当化 PER の上限は 1÷k = 11.4 倍。設備投資の負担が残り、動物試験の減少で成長が止まる筋書きなので、稼ぐ力(純利益 63 億円)に上限の約 75%(8.5 倍)を掛けた。
確率:規制の流れ(サル試験を減らす方針)、投資の償却負担、Atzumi の赤字の長期化は、いずれも現に起きている。強気の材料より具体的なので、悲観側に厚く 27% を置いた。
悲観 10% 動物試験が構造的に減り、借金と設備が残る 10 年 利益 −15 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 259 円108 億円
動物試験が構造的に減り、借金だけが残る 10 年だ。規制当局が動物試験の代替法を広く認め、サルの試験は特殊な用途に絞られる。世界の需要が縮んで中国の価格競争も強まり、数百億円を投じた設備が遊ぶ。サルの値段が下がれば、繁殖拠点の簿価も重荷になる。利益率は一桁に落ちる。
Atzumi は発売後に売上が立たず、減損のうえで縮小に追い込まれる。臨床の合弁は主要顧客の方針変更で利益が 4 割減る。純負債は 350 億円近くに積み上がり、増資や資産売却の議論が出る。
会社は優良ではなくなり、配当も減らさざるをえない。サル繁殖群や合弁持分など、売れる資産が価値を支える。
- CRO 事業(非臨床試験の受託・サル繁殖):数量 1.7(世界の非臨床 CRO 市場(億ドル、実質)× 当社の取り分)× 価格 1.15(値段の指数(2026/03 期 = 1.0。円換算は rev_factor 150 円/ドル))→ 売上 298 億円・営業利益 24 億円。市場 66.5 億ドル × 取り分 2.6%。値段は 1.15 倍止まり、設備が余る
- Atzumi(米国 Satsuma 社の経鼻片頭痛薬):数量 1.0(米国での年間処方箱数(万箱))× 価格 11(1 箱あたりの純売上(万円。保険会社への割戻し後の当社推定))→ 売上 11 億円・営業利益 −5 億円。撤退・縮小。年 1 万箱 × 11 万円
- その他(TR 本体・メディポリス・米国不動産・本社調整):数量 24.0(事業・施設・案件の数(件、当社推定))× 価格 0.60(1 件あたりの売上(億円))→ 売上 14 億円・営業利益 −18 億円。TR 本体の赤字も続く
倍率:ROE はマイナスで稼ぐ力では測れない。床は今の自己資本 431 億円に掛ける PBR 0.25 倍(約 108 億円)で、純現金+売れる資産の税後(floor_assets_oku)の範囲に収めた。純負債と前受金を差し引くと、売れる資産の価値はこの程度に縮む。EV(時価総額+純負債 224 億円)で見ても営業利益がほぼゼロの筋書きなので、事業の利益ではなく資産で測るしかない。
確率:規制が動物試験を広く減らし、Atzumi の失敗と借金の重さが重なる構造的な負け。過去にも赤字と希薄化の時期が長かった会社で、5% よりやや厚い 10% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
CRO 事業(非臨床試験の受託・サル繁殖)
新薬候補の安全性などをサルやラットで調べる試験の受託。日本・米国・欧州の製薬会社とバイオ企業が顧客。サルの繁殖・供給も自社で持つ。
| 数量世界の非臨床 CRO 市場(億ドル、実質)× 当社の取り分 | 価格値段の指数(2026/03 期 = 1.0。円換算は rev_factor 150 円/ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 1.00 | 313 | 69 |
| 10 年後 中立 | 3.1 | 1.34 | 622 | 149 |
取り方:世界市場は調査会社で 67〜71 億ドルとばらつくので 70 億ドルと置き、売上 312.8 億円(約 2.1 億ドル)から取り分を約 3.0% と逆算した。市場は実質の値段で測り、値上がり分は価格の指数に入れる。売上と営業利益 69.1 億円(利益率 22.1%)は決算短信のセグメント表。臨床の合弁会社(持分法)は含まない。 数量は世界市場の実質(今の値段)×取り分で、名目の市場の伸びではない。
Atzumi(米国 Satsuma 社の経鼻片頭痛薬)
米国子会社 Satsuma が持つ片頭痛の急性期治療薬(ジヒドロエルゴタミン経鼻粉末)。2025 年 4 月に FDA が承認。まだ売上は無く、販売体制を整えている。
| 数量米国での年間処方箱数(万箱) | 価格1 箱あたりの純売上(万円。保険会社への割戻し後の当社推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 10 | 0 | −26 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 13 | 67 | 1 |
取り方:2026/03 期は発売前で売上はほぼゼロ。営業損失 25.5 億円は Satsuma の発売準備費(決算短信)。1 箱の純売上 10 万円(約 670 ドル)は、会社が示す米国ピーク売上 2 億ドル超の見立てと同種の薬の値段から置いた当社の推定で、開示は無い。 数量は実物(処方箱数)で、発売前のほぼゼロから発売後の通年へ伸びる分。
その他(TR 本体・メディポリス・米国不動産・本社調整)
自社の薬の種を育てる TR 本体の研究、鹿児島・指宿のホテルと温泉発電(メディポリス)、米国の不動産、本社費用の合計。
| 数量事業・施設・案件の数(件、当社推定) | 価格1 件あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 0.50 | 13 | −17 |
| 10 年後 中立 | 28.0 | 0.65 | 18 | −15 |
取り方:売上は TR 本体 1.1 億円・メディポリス 8.0 億円・米国不動産 1.8 億円・調整 1.5 億円の合計 12.5 億円。営業損失 17.1 億円は TR 本体 -14.8、メディポリス -0.65、本社費などの調整 -1.6 の合計。件数は説明のための推定で、開示は無い。
リスクと懸念
動物試験を減らす規制の広がり
FDA は抗体医薬でサルの毒性試験を減らす指針案を出した。禁止ではないが、対象が抗体の外に広がれば、サルを使う試験の数が伸びなくなる。稼ぎ頭の需要が構造的に縮む、最大のリスクだ。10 年のうちに、試験の中身そのものが変わりうる。
Atzumi の販売失敗と赤字の長期化
提携先が見つからず、自社で製造・販売を整える方針に変えた。同種の薬を売った Impel は販売目標の 55% で破産した。赤字は 2027 年 3 月期に約 35 億円へ広がる計画で、失敗すれば減損も出る。販売体制を整えるあいだも、現金は出ていく。
純負債と金利
借入は 413 億円、純負債は 224 億円。投資が減価償却を大きく上回るあいだは、純負債が膨らむ。借り換えで金利が上がる世界では、利払いが営業利益を削る。2027 年 3 月期の設備投資 111 億円は、減価償却の約 3 倍にあたる。
バイオ企業の資金調達と大型案件のずれ
顧客の 7 割は上場バイオ企業だ。資金調達が冷えると試験の発注が遅れる。2026 年 3 月期も大型試験の売上が翌期にずれ、営業利益が減った。受注が積み上がっても、売上と利益が計上される時期はずれる。
臨床合弁の利益の変動
持分利益は 28 億円で、連結の純利益の約 6 割にあたる。2026 年 3 月期は円高と主要顧客の発注形態の変更で、合弁の営業利益が 14% 減った。PPD との関係が変われば、利益の柱が揺らぐ。持分利益は現金で受け取る配当とは別なので、手元のお金にはそのまま結びつかない。
サルの調達・動物福祉の逆風
カンボジアの野生由来の密輸摘発など、調達ルートには不透明さが残る。繁殖が計画どおり進まなければ、高い値段で買うことになる。動物福祉への社会の目も厳しくなっている。調達と評判の両面で、費用が増える方向だ。
経営交代と資本配分
2026 年 6 月に社長が 35 年ぶりに交代した。過去に赤字と株式の希薄化の時期があり、新体制が投資と新薬事業をどこまで広げるかで、財務の姿が変わる。会長は残り、執行と監督の役割分担がどう変わるかも見たい。
今後の分かれ目
- FDA の方針が抗体医薬の外に広がり、サル試験の義務が大きく縮まれば
- CRO の需要が縮み、本質価値は悲観の筋書きに近づく。繁殖設備の遊びが利益を直撃する。
- 欧米の受注が 2〜3 年続けて 2 桁で伸び、新実験棟が埋まれば
- 営業利益率が 25% を超えて戻り、本質価値は強気の筋書きへ寄る。
- Atzumi の処方が発売から 1 年で伸び悩み、販売費だけが膨らめば
- TR の赤字が長引き、純負債が増える。減損が出れば本質価値は下がる。
- Atzumi の販売提携が条件付きで決まれば
- 自社の持ち出しが減り、赤字が縮む。本質価値はやや上がる。
- 金利が想定より早く上がり、借り換えの利払いが増えれば
- 営業利益の下に利払いが乗り、純利益が削られる。配当の余力も減る。
- Thermo Fisher 側が合弁の持分の買い取りなどを提案すれば
- 持分の価値が確定し、純負債の圧縮に使える。本質価値が上振れする可能性がある。
見ておくもの
- 非臨床の受注高・受注残と、欧米顧客からの受注の伸び
- CRO 事業の営業利益率(償却負担の一巡で 25% に戻るか)
- FDA・EU の動物試験削減の指針の最終化と、対象範囲
- Atzumi の処方数・販売体制・提携の有無、TR の営業損失
- 純負債と借入の金利、設備投資の計画(欧州基準の実験棟)
- 新日本科学 PPD の持分利益と受注
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER から筋書きを作らず、CRO の市場 × 取り分、Atzumi の処方箱数 × 1 箱の純売上、その他の件数 × 1 件あたり売上を先に置き、持分法利益と税を足して純利益を出した。倍率は、ROE と資本コスト(8.75%)から出した正当化 PER の 8 割(中立)、やや悲観は稼ぐ力に 1÷k の約 75%、悲観は今の自己資本に掛ける PBR で置いた。結果が今より約 19% 高く出たのは、時価総額が持分法の価値と CRO の受注残に比べて低いためで、今の株価に寄せてはいない。10 年後の数字は、今の形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。新リース会計基準でリース負債が載るが、当社のリース債務は約 5 億円と小さく、影響は軽い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→15.82 倍・やや楽観 PER 11.7→15.27 倍・中立 PER 10.5→14.48 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。