結論
クイックは、大阪に本社を置く人材会社だ。派遣、人材紹介、求人情報が柱である。筆者の結論は、10 年の本質価値は今の時価総額をやや下回る見立てだ。
理由は、売上の 6 割が人の時間で売る派遣で、事務系は AI エージェントに仕事を取られやすいからだ。数量は今の 0.78 倍に縮むと見る。紹介も画面と担当者が入口で、価格は物価に届かない。
一方で、純現金は時価総額の 3 割近くある。配当性向 70% と自社株買いで、利益を超えて返す方針も明確だ。この還元と現金が下値を支える。ただ、事業そのものの伸びは期待しにくく、そこが割安と言い切れない理由だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、純現金が厚く、利益を惜しみなく返す経営は好ましい。数字の約束がある点も信頼できる。
ただ、売上の大半が AI に置き換わりやすい型で、10 年先の利益水準は読みにくい。読めない事業には、今の値段に十分な安全域を求めたい。経営者が資本を無駄に使わない点は、数少ない安心材料だ。純現金と還元が下値を支える一方、事業そのものの伸びは期待しにくい。配当が利益を上回る年が続けば、その財源は純現金で、永くは続かない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 3 つある。最大は派遣などの人材サービスで、事務・営業・IT のスタッフを企業に送り、料金から人件費を引いた差を取る。利益率は 1 割ほどだ。
次に、人材紹介と求人広告のリクルーティングがある。成約や掲載のたびに手数料が入り、利益率は 2 割を超える。売上は小さいが、利益の半分以上を稼ぐ。
残りは地域の求人・生活情報と海外で、規模は小さく利益は薄い。顧客は主に国内の中堅・中小企業で、人手不足のたびに需要が膨らむ。売上の構成比は決算説明会の資料に数字が無く、筆者の推定で積み上げた。各事業とも、景気が良く人手が足りない時に伸びる。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、利益率の高さと財務の厚さだ。営業利益率は 13% 台で、人材派遣の同業の中では高い。自己資本比率は 75% 近く、借金はない。
弱みは堀が深くないことだ。派遣は料金で競う世界で、紹介も大手の媒体と競る。AI エージェントが事務や求人探しを肩代わりすれば、人月と画面で売る商売は弱まる。筆者は堀を普通とみる。派遣先との長い取引と、紹介の求職者データが、数少ない資産である。経営は堅実で、純現金を抱え込まず返す点も評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
人材サービスの市場は、人手不足を追い風に名目で年 3% 前後伸びてきた。賃金が上がれば派遣の料金も上がる。景気には敏感で、リーマン級の不況では紹介の手数料が大きく落ちる。
10 年で最大の論点は AI エージェントだ。事務の仕事や求人の検索をエージェントが代行すれば、人を送る量と入口の広告の値打ちが減る。大手のリクルートやパーソルも同じ課題を抱える。中小の人材会社は、現場に近い案件や担当者の信頼で差をつけるしかない。業界全体の需要は人手不足で底堅いが、AI の影響は避けられない。紹介の手数料は年収に連動し、賃金の上昇がそのまま売上に乗る。
資本政策と M&A
還元の姿勢は明確だ。27 年 3 月期から、配当は性向 70% と下限の年間配当のどちらか高い方にする。自社株買いは 3 年で 30 億円以上で、総還元性向は 100% を超える。
中期計画は、28 年 3 月期の売上 371.6 億円、29 年 3 月期の売上 412.3 億円・経常利益 47.3 億円、ROE 16% を掲げる。還元は数字で約束している。
見通しをどちらに寄せたか
強気の材料は純現金と数字で約束した還元で、慎重な材料は事務系派遣の縮みと利益の頭打ちだ。AI エージェントを売り物にして売上が出た金額の開示は無く、慎重な見方がやや強い。やや悲観と悲観を合わせて 37% とし、下に寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 897 円497 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 421 円233 億円)。 今の値に割り戻すと 771 円427 億円、今との差 −13.3%、 期待の年率 +4.0%(資本コスト 6.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 1,406 円778 億円 | 555 円308 億円 | +120.6% | +8.2% | 118 円65 億円 |
| やや楽観 | 19% | 1,243 円688 億円 | 509 円282 億円 | +97.1% | +7.0% | 333 円184 億円 |
| 中立 | 38% | 1,053 円583 億円 | 456 円253 億円 | +69.7% | +5.4% | 573 円318 億円 |
| やや悲観 | 25% | 638 円353 億円 | 337 円187 億円 | +9.7% | +0.9% | 244 円135 億円 |
| 悲観 | 12% | 144 円80 億円 | 280 円155 億円 | −52.3% | −7.1% | 51 円28 億円 |
| 加重平均 | 100% | 897 円497 億円 | 421 円233 億円 | +48.3% | +4.0% | 1,319 円730 億円 |
今の株価時価総額 889 円492 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 6% 紹介と広告が物価並みに伸びる 利益 46 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 1,406 円778 億円
紹介の成約が人手不足で堅調に続き、派遣も現場寄りの案件が下支えする。数量は今と同じで、価格が物価並みの 1.3 倍に乗る。AI エージェントは担当者の仕事を助ける道具にとどまり、手数料は崩れない。配当性向 70% の方針も守られる。10 年後の売上は今の 1.3 倍を超え、利益は今より 4 割ほど増える。
- 人材サービス(派遣・BPO):数量 0.6(派遣の稼働人数(万人、推定))× 価格 447(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 268 億円・営業利益 28 億円。人月で売る型
- リクルーティング・HR プラットフォーム(紹介・求人):数量 1.2(成約件数(万件、推定))× 価格 134(1 件当たり手数料・広告収入(万円))→ 売上 161 億円・営業利益 39 億円。画面と担当者の混合型
- 地域情報・海外:数量 3.8(掲載・取扱件数(万件、推定))× 価格 5.94(1 件当たり収入(万円))→ 売上 23 億円・営業利益 2 億円。画面型
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.8% が k 6.75% を上回り、残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.3%、g 0.0%(g_long)から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、余った現金(戻り方込み)80 億円を足して時価総額 743 億円。
確率:AI エージェントを売り物にして売上が出た金額の開示は無い。楽観でも数量は今を超えないと置き、6%。
やや楽観 19% 紹介は守るが派遣が縮む 利益 39 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 1,243 円688 億円
紹介の成約は今の 0.95 倍と堅く、価格は物価に近い 1.28 倍まで上がる。事務系の派遣は AI エージェントに仕事を取られ、数量が 0.9 倍に縮む。利益率は今とほぼ同じで、売上は今より 2 割ほど増える。還元は方針どおり続く。純現金は還元に回り、自己資本は緩やかに積み上がる。
- 人材サービス(派遣・BPO):数量 0.5(派遣の稼働人数(万人、推定))× 価格 433(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 234 億円・営業利益 23 億円。人月で売る型
- リクルーティング・HR プラットフォーム(紹介・求人):数量 1.1(成約件数(万件、推定))× 価格 128(1 件当たり手数料・広告収入(万円))→ 売上 146 億円・営業利益 34 億円。画面と担当者の混合型
- 地域情報・海外:数量 3.6(掲載・取扱件数(万件、推定))× 価格 5.70(1 件当たり収入(万円))→ 売上 21 億円・営業利益 2 億円。画面型
倍率:事業の純利益 38 億円(利息を除く)・事業の ROE 27.1% が k 6.75% を上回り、RONIC 16.9%、g 0.0% で正当化 PER 14.8 倍の上限そのものに置く。余った現金(戻り方込み)80 億円を足して時価総額 646 億円。
確率:紹介の関係づくりが効く一方、事務系派遣は縮む筋書き。19%。
中立 38% 売上は伸びるが利益は横ばい 利益 32 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 1,053 円583 億円
事務系の派遣は AI エージェントの肩代わりを受け、数量が今の 0.78 倍に縮む。紹介と求人も、画面と担当者の入口が弱まり、数量 0.88 倍・価格 1.2 倍にとどまる。売上は名目で増えるが、利益は今の水準から動かない。配当は性向 70% の方針で続く。
- 人材サービス(派遣・BPO):数量 0.5(派遣の稼働人数(万人、推定))× 価格 420(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 197 億円・営業利益 19 億円。人月で売る型。価格は物価並み
- リクルーティング・HR プラットフォーム(紹介・求人):数量 1.1(成約件数(万件、推定))× 価格 120(1 件当たり手数料・広告収入(万円))→ 売上 127 億円・営業利益 29 億円。画面と担当者の混合型。価格 1.20 倍は、エージェントが画面を飛ばし手数料に値下げ圧力が掛かるため物価に届かない
- 地域情報・海外:数量 3.2(掲載・取扱件数(万件、推定))× 価格 5.46(1 件当たり収入(万円))→ 売上 18 億円・営業利益 1 億円。画面型。価格 1.15 倍は、広告枠の値下げ圧力で物価に届かない
倍率:事業の純利益 30 億円(利息を除く)・事業の ROE 25.9% が k 6.75% を上回り、RONIC 16.3%、g 0.0% で正当化 PER 14.8 倍の上限そのものに置く。余った現金(戻り方込み)80 億円を足して時価総額 532 億円。
確率:事務系派遣の数量が縮み、紹介の価格も物価に届かない筋書きを中立とし、38%。
やや悲観 25% 派遣と求人の入口を AI に奪われる 利益 18 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 638 円353 億円
AI エージェントが求人の検索と事務の仕事を代行する。派遣の数量は 0.62 倍、紹介と求人は 0.7 倍に縮み、価格も物価に届かない。固定の人件費が重く、利益率が下がる。還元は下限の配当を数年守ったあと、利益に合わせて絞る。自社株買いは 3 年の約束の半分にとどまる。
- 人材サービス(派遣・BPO):数量 0.4(派遣の稼働人数(万人、推定))× 価格 383(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 143 億円・営業利益 11 億円。人月で売る型
- リクルーティング・HR プラットフォーム(紹介・求人):数量 0.8(成約件数(万件、推定))× 価格 108(1 件当たり手数料・広告収入(万円))→ 売上 91 億円・営業利益 17 億円。画面と担当者の混合型
- 地域情報・海外:数量 2.4(掲載・取扱件数(万件、推定))× 価格 4.99(1 件当たり収入(万円))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。画面型
倍率:事業の ROE 12.4% は k 6.75% を上回り、RONIC 9.6%、g 0.0% で正当化 PER 14.8 倍。余った現金は今の 0.75 倍(谷で食う)を戻り方込みで足し、時価総額 319 億円。
確率:AI エージェントが求人探しと事務の仕事を代行し始める筋書き。やや悲観と悲観で 37%。下に寄せる理由:売上の 6 割が人月型の派遣で、会社も 27 年 3 月期の減益を見込むため。
悲観 12% 派遣も紹介も細り純現金だけが残る 利益 5 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 144 円80 億円
AI エージェントが求人も事務も代行し、派遣の人数は半分、紹介の成約は 0.45 倍に落ちる。手数料も下がり、売上は今より 2 割ほど少ない。利益は薄く、会社に残る価値は純現金が中心になる。稼ぐ力では値が付かない。配当は利益の範囲に縮め、中小の人材会社として生き残る形になる。
- 人材サービス(派遣・BPO):数量 0.3(派遣の稼働人数(万人、推定))× 価格 333(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 100 億円・営業利益 5 億円。人月で売る型
- リクルーティング・HR プラットフォーム(紹介・求人):数量 0.5(成約件数(万件、推定))× 価格 90(1 件当たり手数料・広告収入(万円))→ 売上 49 億円・営業利益 5 億円。画面と担当者の混合型
- 地域情報・海外:数量 1.6(掲載・取扱件数(万件、推定))× 価格 4.28(1 件当たり収入(万円))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。画面型
倍率:悲観の床は稼ぐ力でなく、純現金から運転資金の見合いを引いた 80 億円を今の自己資本 194 億円で割った 0.41 倍。
確率:入口を握られ派遣の人数と紹介の手数料が同時に崩れる筋書き。12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
人材サービス(派遣・BPO)
事務・営業・IT などの派遣スタッフを企業へ送り出し、時間当たりの料金から稼ぐ。
| 数量派遣の稼働人数(万人、推定) | 価格1 人当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 333 | 200 | 20 |
| 10 年後 中立 | 0.5 | 420 | 197 | 19 |
取り方:決算説明会(logmi)にセグメント別の売上構成比が無く、割合は筆者の推定(軽い版)。人材サービスは売上の約 6 割と置き、稼働約 6,000 人×年間約 333 万円。人数は人手不足でも大きく増えず、単価は賃金に連れて物価並み。【AI エージェント代替】事務系の人月で売る型が中心で、現場系が一部。
リクルーティング・HR プラットフォーム(紹介・求人)
人材紹介の成約手数料と求人広告で稼ぐ。企業と求職者を画面と担当者でつなぐ。
| 数量成約件数(万件、推定) | 価格1 件当たり手数料・広告収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.2 | 100 | 120 | 28 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 120 | 127 | 29 |
取り方:リクルーティングと HR プラットフォームを合わせ売上の約 35%(推定)。成約・掲載 1.2 万件×1 件約 100 万円。利益率は派遣より高い。【AI エージェント代替】画面と担当者の混合型。
地域情報・海外
地域の求人・生活情報の媒体と、海外の人材事業。
| 数量掲載・取扱件数(万件、推定) | 価格1 件当たり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 4.75 | 19 | 2 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 5.46 | 18 | 1 |
取り方:残りの約 6% を推定(19 億円)。利益はほぼ薄い。【AI エージェント代替】画面型で縮みやすい。
リスクと懸念
AI エージェントが事務の派遣を肩代わりする
売上の 6 割は人の時間で売る派遣で、事務系が中心だ。エージェントが書類・問い合わせ・入力を担えば、派遣の人数が減る。中立では数量を今の 0.78 倍と置いた。
求人探しの入口が AI に移る
紹介と求人は画面と担当者が入口だ。候補者探しをエージェントが代行すれば、手数料や広告の価格が物価に届かなくなる。紹介の数量は 0.88 倍、価格は 1.2 倍と置いた。
景気の悪化で採用が止まる
紹介の手数料と派遣の需要は、景気の悪化で同時に落ちる。過去にも 2010 年 3 月期は営業赤字になった。固定の人件費が利益を削る。
還元が利益を超えて続けられない
27 年 3 月期の配当性向は 76% で、総還元は純利益を上回る。利益が縮めば純現金が減り、下限の配当を保てなくなる。
今後の分かれ目
- 派遣の稼働人数が、人手不足のもとでも前年を割り込む
- AI エージェントの肩代わりが進んでいる印。数量をさらに低く置き、やや悲観に近づく。
- 紹介の成約単価が物価を超えて上がり続ける
- 担当者の仕事が AI に代わられない証拠。価格を物価並みに戻せる。やや楽観に近づく。
- 自社株買いと下限の配当を縮める発表が出る
- 利益が計画に届かず、還元の約束が崩れた印。中立から下に寄る。
- AI エージェントを売り物にした事業の売上が金額で開示される
- 数量を今以上に置く根拠になり、楽観に近づく。
見ておくもの
- 派遣の稼働人数と 1 人当たり売上
- 紹介の成約件数と手数料単価
- 自社株買いの実行額と配当性向
- 27 年 3 月期の純利益が 30 億円に届くか
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や同業の倍率を見ずに、事業の ROE・k・g から式で置いた。k は 7.5% に quality −0.75% を足した 6.75%。g_long は人月・画面型として 0%。売上の構成比はセグメント別の開示が見つからず推定で、10 年の利益はそれを前提にした。リースの会計は新基準で 2028/03 期から BS に載るが、10 年後の数字は今と同じ形にそろえた。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。