結論
インフロニアは、前田建設工業・前田道路・三井住友建設を束ねる準大手の建設グループだ。そこに水道運営の水ingと風力の日本風力開発が加わり、請負から運営へ軸足を移そうとしている。筆者の結論は「割高」。10 年の価値は今の時価総額 5,823 億円の約 7 割(3,941 億円、差 −32%)で、期待の年率は +2.9% と資本コスト 8.25% を下回る。直近の純利益は一時の益で膨らんでおり、ならすと資本コストに届かないからだ。
直近の決算は見栄えがいい。今期の純利益は855億円の予想で、PER は 7 倍台に見える。ただ中身を割ると、東洋建設株の譲渡益とキオクシア株の評価益が大きい。繰り返し稼げる利益は 500 億円前後だと筆者は見る。
稼ぎの柱は建築・土木・舗装の請負である。利益率は 5〜8% 程度で、景気と設計変更の獲得に左右される。ここに2025年に三井住友建設、2026年に水ingを加え、売上は 1.4 兆円規模へ膨らんだ。買収の代金は借金でまかなわれ、純有利子負債は時価総額の 4 割弱(2,123 億円)に達し、水ingの取得でさらに増える。
会社は2027年度に事業利益1,000億円を掲げる。目標どおり進めば強気の絵が描ける。ただし、利益の質が建設会社のままなら、10 年先も ROE は資本コストを下回る。そうなると利益を増やしても価値は増えにくい。
10 年後の中立は、純利益が 600 億円台、ROE は 6〜7% 台と置いた。時価総額に直すと 6,200 億円前後で、今の水準とほぼ同じだが、資本コスト 8.25% で割り戻すと価値は今の値段に届かない。強気の筋書きでも 1 兆円強で、今の値段の 1.8 倍にとどまる。本当の分かれ目は、運営事業が請負の穴を埋められるかである。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見えるが、割安とは言い切れない」。見た目の PER は 7 倍台だが、利益に一時の益が混じっている。繰り返し稼げる利益に直すと PER は 10 倍前後になり、資本コスト 8.25% を考えれば、やや高い水準だ。
オーナーとして知りたいのは、稼いだお金がどこに回るかである。この会社は、稼いだ利益より多くのお金を買収に使う。買収で買う会社の質は悪くない。ただ、買値に見合う利益が出る保証はなく、ROE が資本コストを下回る期間が長いほど、株主の持ち分は目減りする。
安全域は薄い。建設は景気に揺れ、買収で借金が増え、一時の益は繰り返さない。強みは、インフラ工事の仕事が尽きないことと、運営事業という次の柱を育てている点にある。悲観の床は、水ingの取得額と一時益の残りを合わせた約 1,000 億円の概算で、今の時価総額の 2 割に届かない。
筆者が重く見るのは、運営事業の収益力だ。水・風力・コンセッションが、利益率 8〜10% の安定収益として積み上がれば、会社の評価は一段上がる。逆に買収が先行して稼ぎが追いつかなければ、請負の薄い利益率のまま、借金だけが残る。
現時点では、強みを認めたうえで、払うべき値段は今より低いと見る。魅力が増すのは、運営事業の利益が見え、ROE が資本コストを超える道筋が確かめられた時だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は請負だ。前田建設工業が建築と土木、前田道路が舗装、三井住友建設が建築と土木、前田製作所などが機械を担う。受注して工事を進め、完成で売上と利益が立つ。2026年3月期の売上は 1.1 兆円で、建築が約 4 割、土木と舗装がそれぞれ 2 割強を占めた。
請負の利益率は薄いが、インフラ工事には強みがある。舗装は業界 2 位で、アスファルト合材の工場網を持つ。土木は国土強靱化と老朽化対策で仕事が続く。建築は再開発やデータセンターなどの民間案件が中心だ。三井住友建設は 2025 年 9 月から連結に入り、土木売上は大手 4 社に迫る規模になった。
会社が「脱請負」と呼ぶのが、運営と保有で稼ぐ事業だ。愛知道路や大阪の工業用水のコンセッション(公共施設の運営権を買う仕組み)、国立競技場の運営、風力・バイオマス・蓄電池の発電が柱になる。ただ 2026 年 3 月期の売上は 374 億円で、利益は 17 億円の赤字。まだ投資の段階である。
2026 年 7 月には水ingを 912 億円で完全子会社にした。水処理施設の設計・建設から運転管理までを持ち、全国に 300 以上の拠点と 3,000 人超の技術者を抱える。前期の売上は 829 億円、営業利益は 68 億円。上下水道の運営権(ウォーター PPP)を取りにいく足場になる。
もう一つ見落とせないのが、保有する投資有価証券だ。東洋建設株は売却して益を出した。東芝の非公開化に出資したファンドを通じて、キオクシア株の評価益も計上した。本業とは別の利益が、決算を大きく揺らす会社になっている。
優良さと弱いところ
堀の厚さは、請負と運営で別々に見る必要がある。請負の堀は薄い。建設は入札で価格を競い、利益率は 5〜8% 程度にとどまる。設計変更で追加の代金を取れた年は利益が膨らむが、これは続く保証がない。筆者は、直近の土木・建築の利益率を「好調な年の値」と見ている。
舗装は少し事情が違う。アスファルト合材の工場は地域ごとに数が限られ、運搬できる距離にも限りがある。業界はNIPPOと前田道路の 2 強にあたる。それでも舗装の利益率は 7% 前後で、強い価格決定力があるとまでは言えない。
運営事業の堀は、まだ築いている最中だ。コンセッションは運営権を握れば長く稼げるが、入札で勝ち続ける力が要る。水ingの運転管理は、全国の拠点と人材が堀になりうる。ただし開示を見るかぎり、利益はこれから育つ段階だ。
資本効率が最大の弱点である。ROE は一時の益を除くと 6〜7% 台で、資本コスト(9.2%)を下回る。会社は ROE 12% を目標にするが、自己資本を厚く積み上げる買収を続けるなら届きにくい。
経営は動きが速い。2024 年に日本風力開発、2025 年に三井住友建設、2026 年に水ingと、毎年のように大型の買収を決めた。事業の穴を埋める目の付けどころはよい。一方で、買った会社が稼ぐ力を出せるかは、これからの数年で試される。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場である。人口が減り、新築の需要は細る。それでも仕事が消えないのは、橋や道路や上下水道の更新が山積みだからだ。国土強靱化の予算、都心の再開発、データセンターや半導体工場の建設が、当面の需要を支える。
もう一つの制約は人手だ。職人の高齢化で、工事を受けられる量そのものに天井がある。このため価格は上がりやすい。労務費の上昇が受注単価に転嫁され、売上は物価並みに伸びる。ただ利益率が上がるとは限らない。人件費も同じ速さで上がるからだ。
競争の形は三層になっている。頂点にスーパーゼネコン 5 社があり、その下に準大手が並ぶ。インフロニアは三井住友建設の取り込みで、準大手の中では最大級に入った。舗装はNIPPOと前田道路の 2 強で、大林道路や東亜道路工業が追う。
運営の領域は、まったく別の競争である。上下水道では、国と自治体が民間に運営を任せるウォーター PPP を増やそうとしている。相手は荏原製作所・メタウォーター・ヴェオリア系などの水メジャーだ。風力は、国の脱炭素の方針と電力会社の需要が追い風になる。
分かれ目は 2 つある。1 つは公共投資の水準で、予算が増え続けるかどうか。もう 1 つは、水・風力・コンセッションで安定した利益を積めるかどうかだ。請負だけでは利益が景気に揺れる。運営の稼ぎが厚くなるほど、会社の評価の質は上がる。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向 40% 以上に、下限配当を加えた形だ。下限は 2026 年 5 月に引き上げた。今期の配当は大きく増える見込みで、株主への姿勢は前向きである。ただ、自社株買いは直近ではほとんど行っていない。
資本の使い方では、買収に重心がある。日本風力開発に約 2,000 億円、三井住友建設に約 940 億円、水ingに 912 億円。3 年間の成長投資は最大 2,500 億円を計画する。ほとんどが運営事業への投資で、借金で賄う部分が大きい。
純有利子負債は 2026 年 3 月末で約 2,100 億円。水ingの買収で、これはさらに増える。金利が上がる世界では、利払いが利益を削る。筆者は、財務の余裕は見かけほど大きくないと見ている。
ほかに、保有株の動きがある。東洋建設株の譲渡益に続き、キオクシア株の評価益が出た。こうした益は繰り返さないので、利益の質を測る時は別に扱う必要がある。
TOB(株式公開買付け)の標的になる確率は、大きくはないが無視もできない。時価総額が小さく、自己資本に対して割安に見える時期があるからだ。買い手が現れれば上振れになるが、筆者は本質価値には織り込んでいない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社が掲げる目標は、事業利益 1,000 億円と ROE 12% だ。強気の見方は、この達成がかなり現実的だと言う。三井住友建設との統合で調達や施工の効率が上がり、設計変更の獲得力もグループで共有できる。直近の決算でも、土木と建築の利益は計画を大きく上回った。
運営事業は、これから利益が立ち上がる。愛知道路や工業用水のコンセッションは順調で、水ingは全国の運転管理の拠点網をグループにもたらした。上下水道の運営権は、国が民間に開く流れにあり、請負と運営を一体で受けられる会社は少ない。風力も、売却型から保有型へ変えることで、長く安定した収入を得られる。
数字の面でも、強気の筋書きは筋が通る。人手不足で価格は上がりやすく、公共投資の予算は国土強靱化で厚い。ここに運営の利益が積み上がれば、事業利益は 1,000 億円を超えていく。ROE が 8.5% を超えれば、資本コストを上回る水準になり、倍率も見直される。
保有株の価値も見逃せない。キオクシア株の評価益は、すでに自己資本を押し上げた。本業の稼ぎとは別に、含み益という厚みが、悪い局面でも下値を支える。
慎重な見方
慎重な見方の出発点は、利益の質だ。今期の純利益の大部分は、東洋建設株やキオクシア株といった、繰り返さない益である。ならした利益は 500 億円前後で、自己資本 6,000 億円に対し ROE は 6〜7%。資本コスト 8.25% に届いていない。
次に、買収の重さがある。三井住友建設はマンション工事の採算悪化で苦しんでいた会社で、統合効果を見込む計画は強気すぎる。水ingは営業利益 58 億円の会社に 912 億円を払った。風力・コンセッションは、開業初年度の費用が先行して赤字の続くものもある。
建設の利益率は、設計変更の恩恵を受けた直近が高すぎる。景気が崩れれば民間の建築は止まり、受注の価格競争が激しくなる。公共投資の予算が頭打ちになれば、土木の追い風も弱まる。舗装は国内の合材需要が長く減り続けている。
財務の余裕も小さい。買収で借金が増え、金利は上がる。成長投資が最大 2,500 億円続くなら、自己資本を超えるお金を運営事業に注ぐことになる。そのうえで利益が出なければ、減損という形で損が表に出る。
時価総額は、見かけの利益に引っぱられて高く見えている。ならした利益と自己資本で測れば、価値は今より低い。
どちらに重みを置いたか
請負の質と買収の重さの両面で、慎重な見方がやや強い。資本コストを下回る ROE が長く続く点は、強気の筋書きでも消えない。一方で、運営事業が立ち上がれば評価が変わる余地は残る。
このため、10 年の確率は、やや悲観と悲観を厚めに置いた。買収が先行しすぎて稼ぎが追いつかない筋書きを、やや悲観で 4 分の 1 ほど見ている。買収先の減損や公共投資の縮小による構造的な負けは、悲観に含めた。
強気の筋書きでも、時価総額は今の 1.8 倍にとどまり、資本コスト 8.25% で割り戻すと届かない。中立の価値は、今の値段を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,458 円6,221 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 930 円2,354 億円)。 今の値に割り戻すと 1,738 円4,399 億円、今との差 −22.3%、 期待の年率 +4.2%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,844 円1.23 兆円 | 1,357 円3,435 億円 | +177.2% | +10.7% | 434 円1,099 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,673 円9,296 億円 | 1,162 円2,942 億円 | +116.1% | +8.0% | 967 円2,448 億円 |
| 中立 | 35% | 2,955 円7,478 億円 | 1,008 円2,552 億円 | +77.1% | +5.9% | 1,387 円3,511 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,195 円3,025 億円 | 736 円1,864 億円 | −13.6% | −1.5% | 483 円1,222 億円 |
| 悲観 | 13% | 396 円1,001 億円 | 503 円1,273 億円 | −59.8% | −8.7% | 117 円296 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,458 円6,221 億円 | 930 円2,354 億円 | +51.4% | +4.2% | 3,388 円8,575 億円 |
今の株価時価総額 2,237 円5,662 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 運営事業が第二の柱に育ち、評価が一段上がる10年 利益 963 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 4,844 円1.23 兆円
水ing・風力・コンセッションが 10 年で運営の売上を 3,000 億円規模へ押し上げ、利益率は 11% 近くになる。ウォーター PPP を全国で取り、風力は 1,000MW 超の自社保有で安定した収入を生む。請負も、統合の効果と高付加価値の土木・建築で利益率を保つ。営業利益は 1,500 億円台、ROE は 9% を超えて資本コストを上回る。ここまで来れば、建設会社ではなく「総合インフラ運営会社」として倍率が見直される。ただしこの水準は、買収の成果と景気の追い風が重なった場合に限られる。三井住友建設の海外事業(東南アジアの建設)も伸び、国内の人口減を一部補う。舗装でも、新しい工法と省人化の技術で利益率を守る。
- 建築:数量 63.7(国内建築市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.38(価格指数(今の値段=1。物価と労務費で名目に上がる))→ 売上 8,792 億円・営業利益 484 億円。数量63.71×価格指数1.38、利益率5.5%
- 土木:数量 34.4(国内土木市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.38(価格指数(今の値段=1))→ 売上 4,753 億円・営業利益 442 億円。数量34.44×価格指数1.38、利益率9.3%
- 舗装:数量 627(工事込みの施工量(合材換算、万t・推定))× 価格 6.08(合材 1 t 当たりの工事込み売上(万円))→ 売上 3,816 億円・営業利益 305 億円。数量627.2×価格指数6.08、利益率8.0%
- 機械:数量 1.7(販売台数(万台・推定))× 価格 363(1 台当たり売上(万円))→ 売上 599 億円・営業利益 36 億円。数量1.65×価格指数362.94、利益率6.0%
- インフラ運営:数量 1,050(運営案件数(売上2.5億円規模に換算した件、推定))× 価格 3.44(1 件当たり年間売上(億円))→ 売上 3,613 億円・営業利益 397 億円。数量1050.0×価格指数3.44、利益率11.0%
倍率:事業の純利益 963 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.73 倍、時価総額 12,259 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:運営事業が利益の三分の一に迫る水準へ育つ。実現は難しいが、会社の戦略が最もうまく当たった姿。
やや楽観 20% 運営が着実に育ち、ROE が資本コストに近づく10年 利益 767 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,673 円9,296 億円
国内の工事量は横ばいか微減だが、価格転嫁で売上は伸びる。運営事業は水ingと風力を軸に 2,000 億円台後半まで育ち、利益率は 9% 台に乗る。請負は三井住友建設との統合が根づき、土木の利益率 8% 台を保つ。営業利益は 1,300 億円ほどになるが、買収と投資で自己資本も膨らみ、ROE は 8% 前後にとどまる。資本コスト(9.2%)には届かない水準で、倍率は成熟した建設・運営会社並みに落ち着く。水ingの運転管理は、全国の拠点を使った遠隔監視で効率が上がり、利益率が少しずつ改善する。風力は保有する発電所の売電収入が厚みを増す。保有株の含み益は、悪い年の下支えとして働く。
- 建築:数量 59.7(国内建築市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.36(価格指数(今の値段=1。物価と労務費で名目に上がる))→ 売上 8,122 億円・営業利益 414 億円。数量59.72×価格指数1.36、利益率5.1%
- 土木:数量 32.3(国内土木市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.36(価格指数(今の値段=1))→ 売上 4,396 億円・営業利益 382 億円。数量32.32×価格指数1.36、利益率8.7%
- 舗装:数量 602(工事込みの施工量(合材換算、万t・推定))× 価格 6.00(合材 1 t 当たりの工事込み売上(万円))→ 売上 3,607 億円・営業利益 274 億円。数量601.6×価格指数6.00、利益率7.6%
- 機械:数量 1.5(販売台数(万台・推定))× 価格 358(1 台当たり売上(万円))→ 売上 547 億円・営業利益 30 億円。数量1.53×価格指数357.68、利益率5.5%
- インフラ運営:数量 900(運営案件数(売上2.5億円規模に換算した件、推定))× 価格 3.39(1 件当たり年間売上(億円))→ 売上 3,052 億円・営業利益 290 億円。数量900.0×価格指数3.39、利益率9.5%
倍率:事業の純利益 767 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 9,296 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の目標の 8 割に届くが、資本効率の改善は限定的。強気寄りの現実的な筋書き。
中立 35% 請負は成熟、運営は半分育つ10年 利益 617 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,955 円7,478 億円
国内の建築・土木は実質ほぼ横ばいで、舗装は合材需要が 1 割ほど減る。売上は物価で押し上がり 1.8 兆円規模になるが、請負の利益率は 5〜8% のまま動かない。運営事業は 2,600 億円規模まで育ち、利益率は 8% 台。営業利益は 1,080 億円ほどで、中計の目標は物価を含めてようやく届く程度になる。自己資本は還元後も約 9,000 億円へ増え、ROE は 6〜7% と、資本コストをわずかに下回る。成長しても価値が大きくは増えない、成熟した建設インフラ会社の姿である。三井住友建設の統合効果は、計画の半分ほどが形になる。水ingは営業利益を 150 億円規模まで積み、風力・コンセッションの黒字化が進む。保有株の評価益は、利益にはほぼ織り込まない。
- 建築:数量 55.7(国内建築市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.34(価格指数(今の値段=1。物価と労務費で名目に上がる))→ 売上 7,469 億円・営業利益 359 億円。数量55.74×価格指数1.34、利益率4.8%
- 土木:数量 30.2(国内土木市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.34(価格指数(今の値段=1))→ 売上 4,047 億円・営業利益 332 億円。数量30.2×価格指数1.34、利益率8.2%
- 舗装:数量 563(工事込みの施工量(合材換算、万t・推定))× 価格 5.91(合材 1 t 当たりの工事込み売上(万円))→ 売上 3,327 億円・営業利益 240 億円。数量563.2×価格指数5.91、利益率7.2%
- 機械:数量 1.4(販売台数(万台・推定))× 価格 352(1 台当たり売上(万円))→ 売上 500 億円・営業利益 25 億円。数量1.42×価格指数352.42、利益率5.0%
- インフラ運営:数量 780(運営案件数(売上2.5億円規模に換算した件、推定))× 価格 3.34(1 件当たり年間売上(億円))→ 売上 2,606 億円・営業利益 222 億円。数量780.0×価格指数3.34、利益率8.5%
倍率:事業の純利益 617 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 7,478 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:請負は成熟し、運営は一定の成果にとどまる。ROE が資本コストを下回り続けるため、成長しても倍率は伸びにくい。
やや悲観 25% 統合と買収の成果が乏しく、公共投資も細る10年 利益 343 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,195 円3,025 億円
人口減と公共投資の頭打ちで、国内の建築・土木の工事量が実質で減る。三井住友建設の統合は、シナジーが出ずに人材の流出だけが残る。水ingと風力は、競争が激しく利益率が 5% 前後にとどまり、一部は減損になる。営業利益は 700 億円弱で、ROE は 4% 台に沈む。配当は下限で維持するが、自己資本は減損で痩せる。もう優良な建設インフラ会社とは見られず、倍率は純資産の半分ほどまで下がる。同業との競争が運営の領域でも強まり、水ingの契約更新で値下げを迫られる。公共の予算が絞られるなかで、舗装の合材需要の減少も続く。買収した会社ののれんは、一部が減損になる。
- 建築:数量 49.8(国内建築市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.30(価格指数(今の値段=1。物価と労務費で名目に上がる))→ 売上 6,470 億円・営業利益 246 億円。数量49.77×価格指数1.30、利益率3.8%
- 土木:数量 27.0(国内土木市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.30(価格指数(今の値段=1))→ 売上 3,513 億円・営業利益 246 億円。数量27.02×価格指数1.30、利益率7.0%
- 舗装:数量 512(工事込みの施工量(合材換算、万t・推定))× 価格 5.73(合材 1 t 当たりの工事込み売上(万円))→ 売上 2,935 億円・営業利益 182 億円。数量512.0×価格指数5.73、利益率6.2%
- 機械:数量 1.3(販売台数(万台・推定))× 価格 342(1 台当たり売上(万円))→ 売上 434 億円・営業利益 17 億円。数量1.27×価格指数341.90、利益率4.0%
- インフラ運営:数量 630(運営案件数(売上2.5億円規模に換算した件、推定))× 価格 3.24(1 件当たり年間売上(億円))→ 売上 2,042 億円・営業利益 102 億円。数量630.0×価格指数3.24、利益率5.0%
倍率:ROE 4.3% は k 8.25% 以下なので、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍が上限(伸びても価値は増えない)。買収が先行して稼ぎが追いつかない構造的な負けの入り口なので、やや悲観は上限の約 7.5 割(8.8 倍)に置いた。
確率:買収した会社が育たず、請負も縮むという構造的な負けの入り口。慎重な見方で、中立と並ぶ厚みを置く。
悲観 13% 構造的に負け、減損と減配で痩せる10年 利益 17 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 396 円1,001 億円
人口減と公共投資の縮小で建設需要が 2 割落ち、舗装の合材需要は 3 分の 1 減る。買収で積んだのれんと運営資産の減損が 900 億円規模で出て、自己資本は大きく減る。水ingは収益が薄く、風力は開発の遅れで投資が回収できない。営業利益は 200 億円前後に落ち、配当は下限まで引き下げる。借金が重くなり、ほかの会社に買われる側になる可能性もある。純資産の 4 割を下回る水準では、売却が現実的になる。筆者はこの筋書きを、最悪に近い負け方として置いている。減損の損失は、毎年の利益の悪化の中に含めて考える。
- 建築:数量 39.8(国内建築市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.22(価格指数(今の値段=1。物価と労務費で名目に上がる))→ 売上 4,858 億円・営業利益 97 億円。数量39.82×価格指数1.22、利益率2.0%
- 土木:数量 21.7(国内土木市場(兆円・実質、推定)×シェア(%))× 価格 1.22(価格指数(今の値段=1))→ 売上 2,650 億円・営業利益 132 億円。数量21.72×価格指数1.22、利益率5.0%
- 舗装:数量 416(工事込みの施工量(合材換算、万t・推定))× 価格 5.38(合材 1 t 当たりの工事込み売上(万円))→ 売上 2,238 億円・営業利益 90 億円。数量416.0×価格指数5.38、利益率4.0%
- 機械:数量 1.1(販売台数(万台・推定))× 価格 321(1 台当たり売上(万円))→ 売上 337 億円・営業利益 3 億円。数量1.05×価格指数320.86、利益率1.0%
- インフラ運営:数量 480(運営案件数(売上2.5億円規模に換算した件、推定))× 価格 3.04(1 件当たり年間売上(億円))→ 売上 1,460 億円・営業利益 0 億円。数量480.0×価格指数3.04、利益率0.0%
倍率:構造的に負ける筋書き。稼ぐ力(純利益 17 億円)はほぼ無いので、売れる資産で置く(今の自己資本 6,106 億円に PBR 0.16 を掛け、約 1,000 億円)。EV ÷ 営業利益は谷の利益で割ると跳ねるが、床は資産で測っており二重に下げていない。
確率:建設需要の縮小、減損、運営事業の失敗が同時に起きる筋書き。買収で積んだ資産の重さが、下値を深くする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
前田建設工業・三井住友建設の建築(再開発・データセンター・工場など)
| 数量国内建築市場(兆円・実質、推定)×シェア(%) | 価格価格指数(今の値段=1。物価と労務費で名目に上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 49.8 | 1.00 | 4,977 | 221 |
| 10 年後 中立 | 55.7 | 1.34 | 7,469 | 359 |
取り方:国内の建築市場(民間非住宅・集合住宅・公共建築)を実質で約25兆円と推定し、グループの取り分を約2%とした(三井住友建設は2025年9月から連結で、前期は半年分)。売上4,977億円から逆算した。価格は物価並みの指数。 全社の営業利益 758 億円は、5 セグメントの合計 696 億円に、その他 154 億円(東洋建設株の譲渡益を含む)と本社費を足した値。
土木
前田建設工業・三井住友建設の土木(道路・橋・ダム・シールドなど)
| 数量国内土木市場(兆円・実質、推定)×シェア(%) | 価格価格指数(今の値段=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 26.5 | 1.00 | 2,649 | 260 |
| 10 年後 中立 | 30.2 | 1.34 | 4,047 | 332 |
取り方:国内の土木市場を実質で約25兆円と推定し、取り分を約1.06%とした。三井住友建設の連結は前期は半年分。国土強靱化と更新需要が数量を支える。価格は物価並みの指数。
舗装
前田道路の舗装・合材(アスファルト合材の製造販売と舗装工事)
| 数量工事込みの施工量(合材換算、万t・推定) | 価格合材 1 t 当たりの工事込み売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 640 | 4.41 | 2,822 | 213 |
| 10 年後 中立 | 563 | 5.91 | 3,327 | 240 |
取り方:売上2,822億円を、合材換算の施工量640万t(推定)で割って1 t 当たり約4.4万円(工事込み)とした。国内の合材需要は長く減少傾向なので、数量は中立でも細る。価格は物価並みに上がる。
機械
前田製作所などの建設機械(コンプレッサ・発電機)
| 数量販売台数(万台・推定) | 価格1 台当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 263 | 395 | 19 |
| 10 年後 中立 | 1.4 | 352 | 500 | 25 |
取り方:売上395億円を、年間約1.5万台(推定)で割って1台当たり約263万円とした。数量は国内需要が横ばいで、価格は物価並み。
インフラ運営
コンセッション・風力・バイオマス・水ingの運営(水処理)など
| 数量運営案件数(売上2.5億円規模に換算した件、推定) | 価格1 件当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 2.49 | 374 | −17 |
| 10 年後 中立 | 780 | 3.34 | 2,606 | 222 |
取り方:前期の売上374億円(水ing未連結)を、150件相当×1件2.49億円とした。水ingの運転管理拠点(300以上)は、売上規模で換算した件数に含めて数量を増やし、価格には混ぜていない。換算は推定。 数量は実物(運営案件の件数換算。水ing の連結で増える分を含む)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
リスクと懸念
利益の質と一時の益
今期の純利益には、東洋建設株の譲渡益やキオクシア株の評価益といった繰り返さない益が混じる。見かけの PER が低いのはこのためで、ならした利益で測ると倍率は大きく変わる。評価益は株価次第で、逆回転もありうる。来期以降は、この益が消えて利益が大きく落ちる年が出る。決算の見出しの数字だけで会社を判断すると、実力を取り違えやすい。
買収の重さと財務
日本風力開発・三井住友建設・水ingと、3 年で大型の買収を続けた。代金は主に借金で賄い、成長投資も最大 2,500 億円が続く。金利が上がる局面で利払いが増え、買った会社が稼げなければ減損という形で損が出る。
統合効果の実現
三井住友建設はマンション工事の採算悪化で苦しんだ後に傘下に入った。会社は統合効果を含めて事業利益 1,000 億円を掲げるが、不採算案件の処理、人材の流出、文化の違いで、効果が遅れたり出なかったりする恐れがある。統合の遅れは、人材の流出や不採算案件の追加という形で数字に出てくる。
建設の景気循環と利益率の平準化
直近は設計変更の獲得が利益を押し上げた。この効果は続かず、民間の建築発注が落ちれば受注価格の競争も強まる。資材・労務費の上昇を価格に転嫁できない年は、利益率が一気に落ちる。利益率の 1 ポイントの違いは、グループ全体で 100 億円を超える営業利益の差になる。
運営事業の立ち上がり遅れ
インフラ運営は直近で赤字で、国立競技場など開業初年度のSPCは損失が出た。再エネの開発・運営費用は先行する。水ingは営業利益が小さく、買値に見合う稼ぎを出すまで時間がかかる。買値が高ければ、のれんの減損という形で投資の失敗が表に出る。
公共投資と人口減の構造要因
舗装や土木は公共予算に依存する。人口が減る地方では道路や橋の維持費の負担が重く、10 年先に予算が絞られる可能性がある。舗装の合材需要は、長く減り続けている。予算の動きは、数年のうちに受注の量と価格に反映される。
保有株と資本政策
保有株の評価益が株価に左右される構造は、決算のぶれを大きくする。自社株買いを積極的に行わず、買収に資金を回す姿勢が続けば、ROE の改善は進みにくい。資本の使い道を見る投資家には、この点が株価の評価を左右する材料になる。
今後の分かれ目
- 運営事業の利益が数年のうちに 200 億円を超える
- やや楽観〜楽観の筋書きに近づき、運営事業の評価が高まる。ROE が資本コストを超える見通しが立てば、倍率の見直しが起こる。
- 三井住友建設の不採算案件が追加で出て、統合効果が見えない
- やや悲観の筋書きに近づく。建築の利益率が 4% を割り、買収の判断に疑いが向く。
- 国内で深い景気後退が来て、民間の建築発注が止まる
- 10 年の悲観に近づく。公共投資が下支えするため需要は急には消えないが、借金の重さで株価の戻りは遅れる。
- 水ingを軸にウォーター PPP の運営権を複数取る
- 運営事業の売上と利益が計画より早く伸び、中立から強気側へ確率が動く。
- 会社が自社株買いを大きく始め、保有株を売って借金を減らす
- 資本の使い方が改善し、ROE の改善が早まる。財務の不安も和らぐ。
- 大手や同業が TOB を提案する
- 本質価値とは別に、買収の上乗せ分だけ株価が上振れる。ただし本質価値への織り込みはしない。
見ておくもの
- 建築・土木・舗装の受注と、設計変更の獲得状況(受注時の利益率)
- 三井住友建設の統合効果(事業利益の積み上がり)と不採算案件の処理
- インフラ運営(水ing・風力・コンセッション)の売上と営業利益の推移
- 純有利子負債と自己資本比率、利払いの増加
- 保有株(キオクシア関連)の評価益の動きと、売却・自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の PER 7.6 倍・PBR 0.95 倍を見ずに決めた。今期の利益は東洋建設株・キオクシア株の益を含むので、ならした純利益 600 億円前後に置き直し、ROE(自己資本は今の値+期間の純利益−還元で流す)は 6〜7% と資本コスト 8.25% 未満。このため正当化 PER は 1÷k の約 11.8 倍が上限で、その 8.5〜9 割に置いた(強気は 9 割、やや強気は 8.8 割、中立は 8.5 割)。堀は普通(1/2)とした。純現金ではなく純有利子負債 2,123 億円で、余った現金は分けない。水ingの取得(912 億円)は FY27 の借金増として純利益の利払いに入れた。キオクシア関連の評価益は自己資本には残るが利益には繰り返さないので、含み益として別枠で足していない(足せば中立はやや上がる)。同社は国際会計基準(IFRS)でリースはすでに BS に載っており、新リース会計基準の形変わりはない。悲観は市場の PER・PBR でなく、稼ぐ力(純利益 17 億円)がほぼ無い前提で、水ingの取得額と一時益の残りを足した売れる資産の概算(約 1,000 億円)で置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。