結論
フロンティアインターナショナルは、企業イベントや展示会、店頭販促を企画から現場運営まで引き受ける会社である。筆者の結論は「割安」だ。今の時価総額約122億円に対し、10年後の事業価値と株主還元を現在に引き直した本質価値は、確率加重で約161億円となる。差は約32%であり、利益だけでなく厚い純現金にも一定の支えがある。
10年先も人が集まるイベントは必要とされる。ブランドが消費者に商品を試してもらう場、企業が顧客と直接会う場、展示会で新製品を披露する場は、情報を画面に映すだけでは代替できない。同社は企画だけでなく会場施工、スタッフの手配、当日の運営まで担い、顧客が失敗を避けたい大型案件で実行力を売っている。2027年4月期第1四半期には広告主との直接取引比率が5割を超え、広告代理店への依存も徐々に薄れ始めた。
ただし、売上のすべてに同じ将来を与えるべきではない。広告素材の制作、販促キャンペーンの事務局、デジタル施策の運用は、AIエージェントによって必要工数が減る可能性が高い。さらに、現場の仕事にも労務費や施工費の上昇、大型案件の採算変動がある。高い営業利益率を当然のものとは考えず、10年後の中立ではイベント実行の売上拡大と制作業務の縮小が併存すると見ている。
純現金約74億円は魅力だが、その全額を今日の株主が自由に引き出せるわけではない。大型案件には立替費用や預り金が伴い、買収にも資金が使われる。創業者の議決権支配も強い。それでも、配当性向を50%程度まで引き上げた実績は評価できる。弱い堀を強い堀と見誤らず、悲観側に37%の確率を割り当ててもなお、現在の値付けには安全域が残るという判断である。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主にとって魅力的なのは、需要が一時的に落ちても事業を存続させられる財務余力と、顧客の大事な一日を失敗なく実行する能力である。企業の発表会や展示会は、開催日に間に合わなければ後から取り戻せない。現場の段取りを任せられる会社には価値があり、同社が直接顧客を増やしていることは、その評価が一定程度高まっている証拠だ。
しかし、優れた実行力と長期の独占的な稼ぐ力は違う。案件が終われば次の競争が始まり、競合や広告代理店による内製化もある。制作や広告運用にはAIエージェントという新しい競争相手が現れる。価格を上げても受注量が減らないという継続的な証拠が乏しい以上、会社全体を強い堀の持ち主とは認定しない。十年後も必要な現場の仕事を持つことと、現在の収益率を保証できることは別の話である。
株主のものになる利益を考えるときは、純利益から現場運営の資金、採用と育成、システム更新、買収の追加負担を意識したい。設備を大量に抱える会社ではないが、イベントの立替費用や人件費は先に出ていく。純現金が潤沢でも全額を遊休資産として数えるのは誤りだ。逆に、実務に必要な資金を確保した後の余剰分には確かな価値がある。
買収が本当に株主の得になったかは、売上規模の拡大だけでは判断できない。買収した会社が親会社の顧客を獲得し、グループ全体の利益率と一人当たり付加価値を押し上げたかが問われる。筆者は、AIに弱い仕事への拡張が続くことより、直接顧客を増やして現場で稼ぐ部分を太くすることを高く評価する。現時点の値段には安全域があるが、その安全域を守るのは現金残高ではなく、経営陣の資本配分の規律である。
何で稼ぐ会社か
会社の仕事は、企業が顧客と接する現場を丸ごとつくることだ。新製品発表会、展示会、ポップアップストア、体験型キャンペーンなどで、企画、デザイン、施工、スタッフ手配、当日運営を組み合わせる。発注者は広告主や大手広告代理店であり、案件ごとの制作・運営費が売上になる。材料や外注人員の費用も受注額に含まれるため、売上高と会社自身が生み出す付加価値は同じではない。
会社の事業説明では、エクスペリエンス、ヒューマン、デジタル・テクノロジーの三つの領域を示している。一方、有価証券報告書の法定報告セグメントは「プロモーション事業」の一つであり、三領域の売上高や利益は個別に公表されていない。本分析では経済性の違いを明確にするため、現場イベント・空間施工、店頭販売支援・現場人材、企画・販促制作、デジタル制作・広告運用の四つに再分類した。現在の数量と単価は、子会社の売上や案件規模の開示を使った推計であり、会社が公表した実績数量ではない。
現場の厚みを示すのがグループ会社の存在だ。店頭販促や人材手配を担うフロンティアダイレクトの2026年4月期売上は約59億円であり、イベント制作を担うNPUの売上は約40億円だった。NPUへの持分は50.2%で、グループの売上と親会社株主に帰属する利益が必ずしも同じ割合で増えるわけではない。これらの会社を組み合わせることで、企画だけを請け負う競合とは違う一括受注ができる。
近年の変化は、広告主から直接仕事を受ける割合の上昇である。2027年4月期第1四半期の直接取引比率は52.8%となり、利益率にも改善が見られた。ただし、同四半期の売上の過半は受注額3,000万円超の案件によるもので、数件の受注や採算の変化が利益に大きく響く。仕事の性質は毎月定額を受け取るソフトウエア会社ではなく、案件が終わるたびに次の仕事を勝ち取らなければならない受託業である。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、複雑な催事を期限までに実行する現場力にある。大勢のスタッフ、会場、施工会社、出演者、顧客の担当部署を同時に動かす仕事では、実績のある受託先を選ぶ合理性がある。会社が示す登録人材基盤は約4万2,000人規模であり、現場を安定して回す能力を支える。しかし、登録者が多いことだけで価格決定権が生まれるわけではなく、案件ごとに別の会社へ発注できる余地も大きい。
本物の堀、つまり値上げしても顧客が離れにくい仕組みがあるかは、なお検証が必要だ。長期契約に縛られた顧客や、規制によって乗り換えが難しい顧客が大半という事実は確認できない。イベント単価の上昇にも、独自の値上げ力ではなく資材費や人件費の転嫁が含まれる。広告主との直接取引が増えている点は良い兆候だが、解約率や継続案件の単価上昇を示す継続的な開示がないため、堀は「普通」と評価する。
財務は明確な長所である。2026年4月期末の自己資本は約98億円、純現金は約74億円に達する。2019年以降は赤字期がなく、過去8期のROE中央値は約14.5%だった。ただし、2022年4月期の営業利益31億円から2024年4月期には12億円まで下がったように、催事需要の山谷による利益変動は大きい。直近期のROE約12.7%だけを将来に延ばすのは危うい。
2027年4月期第1四半期は、売上増に加えて粗利益率の改善が営業利益を押し上げた。その一方で、人員拡充に伴う人件費も増えている。案件が大きくなれば原価管理に失敗したときの損失も大きい。経営者が規模より利益率と回収条件を重視し続けられるかが、今後の増分投資収益率を左右する。買収による成長と営業努力による成長を区別し、取得した会社への投資額に見合う利益が出ているかを追う必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
イベント需要そのものは回復している。日本イベント産業振興協会の推計では、2025年のイベント関連産業は約1兆1,478億円、周辺産業まで含めると約3兆1,798億円だった。電通の分類では、企業の販促イベント市場は4,748億円に達する。ただし、2025年は大阪・関西万博など大型催事が重なった年であり、二桁成長を10年間続く平常時の伸びとはみなせない。
主な競合にはTOW、博展、セレスポがあり、広告会社の電通グループや博報堂DYグループにもイベント制作機能がある。TOWの年間売上は約187億円、博展のイベント関連売上は約194億円、セレスポの年間売上は約151億円という規模感である。本分析の現場イベント売上推計165億円を企業販促イベント市場4,748億円と比べると約3.5%になるが、各社で下請け売上やイベント以外の売上が混ざる。したがって厳密な市場シェアではなく、競争上の規模を知るための粗い参考値である。
店頭人材の比較対象となる人材派遣市場は約9兆7,962億円と大きい。ただし、事務派遣や技術者派遣を含むため、同社の店頭販促売上推計65億円との比率約0.07%は市場支配力を意味しない。デジタルマーケティング市場約3,672億円に対するデジタル関連売上推計24.5億円の比率も約0.7%にすぎない。企画制作については広い販促・広告関連市場が対象となり、正確なシェアを示す統一統計はない。
10年の実質需要は、現場イベントで緩やかな増加、店頭スタッフで横ばい近辺、制作・広告運用では減少という違いが生まれると考える。人口減少は来場者とスタッフの確保を難しくするが、企業が商品体験に予算を使う動機を直ちに消すわけではない。物価上昇を顧客へ転嫁できても、施工費や人件費も上がるため利益率の自動的な改善にはならない。
最大の構造変化はAIエージェント代替だ。販促資料、バナー、運用レポート、事務局の連絡業務は人が何時間働いたかで料金を請求しにくくなる。一方、展示会場を組み立て、来場者を誘導し、販売員が商品を実演する仕事には人と現物が要る。フロンティアインターナショナルがこの二種類の仕事をどの比率で持つかが、広告制作を中心とする会社との最も大きな違いである。
資本政策と M&A
資本配分の基本は、成長投資と配当の両立である。2026年7月公表の事業計画資料では、配当性向の目安を原則50%とし、事業拡大に応じた増配とM&Aを通じたROE向上を目指すとしている。実際、配当性向は2024年4月期の35.6%から、2025年4月期50.2%、2026年4月期50.4%へ上がった。もっとも、過去5年間の中央値は50%未満であり、長期にわたる高還元の実績が確立したとまでは言えない。
会社の成長方針は買収、事業譲受、個別プロジェクトへの投資、ベンチャー投資を併用するものだ。ガイアコミュニケーションズ、マックスプロデュース、NPUなどをグループに加え、2026年にはKTパートナーズからデジタル関連事業を譲り受けた。異なるサービスを持つ会社を束ねて直接顧客を増やす構想には意味があるが、買収した会社の利益と投下資金を対応させた増分ROICは、開示情報だけでは十分に検証できない。のれん償却や非支配株主への利益配分も株主価値を見る際に無視できない。
2027年4月期の会社予想は売上301億円、営業利益21.1億円、親会社株主に帰属する純利益13億円である。これとは別に、複数年度にわたる売上・営業利益・ROEの達成水準を拘束的な数値目標として約束した中期経営計画は確認できず、「中期目標の数字の約束なし」と判断する。配当性向50%には明確な方針がある一方、DOE、総還元性向、自社株買い額について同じ水準の数値の約束はない。
2026年10月19日に公表した中間配当の導入は、年間配当予想の増額ではなく支払時期の変更である。同日には立会外分売の予定も公表され、流通株式の改善を図っている。創業者が議決権の過半を支配する構造を考え、余剰現金の株主への戻り方は帳簿価額の75%と評価した。50%とするための厳しい条件には当てはまらないが、すべてが速やかに還元されると考える証拠も不足している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
企業は広告の接点をデジタルだけに依存できなくなる。画面上の情報がAIによって大量生産されるほど、消費者が実際に触れ、試し、人と話す体験の差別化価値はむしろ高まる。イベントの現場は広告制作と異なり、生成AIだけでは実行できない。同社には会場、スタッフ、施工、企画を一体で管理してきた実績があり、顧客が一括発注する相手として選びやすい。
直接取引比率が5割を超えたことは、収益構造の改善を期待させる。広告代理店を経由する案件より顧客の意思決定に近づけば、案件の上流から参加し、企画と実行の両方を受注できる。2027年4月期第1四半期の粗利益率改善は、その方向が数字にも現れ始めた例である。多数の現場スタッフを束ねる力も、大手顧客からの繰り返しの発注につながりうる。
M&Aを通じて展示会、空間制作、デジタル連携の機能を増やせば、一社では請け負えなかった大型案件に参加できる。TOW、博展、セレスポのような競合が存在する市場だからこそ、業務を横断する提案力がある会社にはシェアを奪う余地がある。純現金の厚さにより、景気の谷でも採用や買収を続けられることも有利だ。
この見方では、AIによって縮小する制作業務を無理に守る必要はない。企画の事務作業を効率化し、会場で実際に価値を生み出す部分へ人材を振り向ければよい。現場の受注件数と大型案件の単価がともに伸び、買収先との協業が機能すれば、営業利益は現在を大きく上回る。配当も利益に応じて増え、企業価値と受け取る現金の両方が株主に報いる展開が考えられる。
慎重な見方
イベント会社の競争優位は、顧客から見れば思ったほど強くない。大手広告代理店には企画力と顧客基盤があり、専門の制作会社や施工会社には現場の経験がある。顧客は案件ごとに発注先を選び直せるため、一度大型イベントに成功しても、次の仕事の価格決定権までは手に入らない。直接取引が増えても、単価と利益率を守れなければ受注の拡大だけが残る。
2025年のイベント市場の成長には、大阪・関西万博などの大型催事が含まれている。この需要を長期の平常値と間違えれば、人員と外注体制を膨らませすぎる。催事が減った年には、採用した社員の人件費や拠点費用が残る。資材や会場費の値上がりが先行し、発注者への転嫁が遅れれば、売上を伸ばしながら利益が減ることもある。
AIエージェント代替は、デジタル制作だけでなく、イベント企画書、進行台本、販促素材、集客施策、問い合わせ対応にも及ぶ。従来は複数人で数週間かけた仕事が短期間で済むようになれば、顧客は同じ報酬を払い続けない。広告代理店の内製化も進み、現場以外の付加価値は圧迫される。大きな案件ほど、顧客が複数社の見積もりを比較し、削れる作業を削ろうとする。
買収による売上の積み増しにも危険がある。取得費用を払った後にAIで制作業務の収益が細れば、のれんの減損や再編費用が生じる。少数持分のある子会社では、子会社の利益がすべて上場会社の株主に帰属するわけでもない。純現金は事業を守るが、過半の議決権を持つ創業者の意向によっては配当ではなく次の買収に使われる。この不確実性を無視して強い成長会社の値段を払うべきではない。
どちらに重みを置いたか
現場イベントの実行機能と財務の余力では前向きな見方が勝る。しかし、案件ごとに発注先を選び直せることと、買収で拡大した制作機能がAIエージェント代替にさらされることは軽視できない。楽観・やや楽観を合計32%、やや悲観・悲観を37%とし、やや下側へ重みを寄せた。中立の段階で制作・運用数量の減少を反映しているため、同じAIリスクを資本コストの寿命加算で再び罰してはいない。それでも厚い純現金と配当方針を踏まえた本質価値は現在の時価総額を上回り、「割安」という結論になる。最大の反証は、イベント現場の受注まで長期的に失い、買収で現金を減らしてしまう場合である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 2,675 円240 億円(+ 還元の換算額還元の合計 775 円69 億円)。 今の値に割り戻すと 1,801 円161 億円、今との差 +40.8%、 期待の年率 +12.2%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 5,571 円499 億円 | 1,256 円113 億円 | +433.7% | +21.4% | 819 円73 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,029 円361 億円 | 988 円89 億円 | +292.2% | +17.1% | 1,003 円90 億円 |
| 中立 | 31% | 2,683 円240 億円 | 804 円72 億円 | +172.6% | +12.4% | 1,081 円97 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,062 円95 億円 | 558 円50 億円 | +26.7% | +2.9% | 389 円35 億円 |
| 悲観 | 13% | 875 円78 億円 | 335 円30 億円 | −5.4% | −0.6% | 157 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,675 円240 億円 | 775 円69 億円 | +169.7% | +12.2% | 3,450 円309 億円 |
今の株価時価総額 1,279 円115 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 12% 大型体験イベントで直接顧客を獲得し、現場の強さが際立つ 利益 31 億円 · PER 14.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 5,571 円499 億円
企業がデジタル広告だけでは消費者の関心を集めにくくなり、商品を試す場や実物に触れるイベントへの投資を厚くする。同社は広告主との直接取引をさらに増やし、会場施工と運営までまとめた大型案件で競合との差を広げる。TOWや博展との競争は続くが、買収先の制作機能と人材調達網を組み合わせることで、従来より大きな案件を継続受注できる。
現場イベントの案件数が大きく増え、複雑な施工と運営の比重が高まって単価も改善する。店頭人材は登録人材の稼働率と顧客数が増え、人件費の上昇を顧客料金に転嫁する。販促資料やデジタル広告の制作数量はAIエージェント代替で減るが、利益全体に占める割合が小さくなり、現場の成長がそれを十分に補う。
経営陣は高額買収を避け、既存顧客への追加提案と必要な小型買収を優先する。利益は株主還元にも回り、財務の厚さが保たれる。案件の原価管理が改善して全社営業利益が50億円を超え、同社が体験型プロモーションの有力な総合実行会社として一段上の地位を築く展開である。
- 体験イベント・空間施工・現場運営:数量 860(年間のイベント・展示・店舗体験案件数(件、推計))× 価格 0.42(案件1件当たり売上(億円))→ 売上 361 億円・営業利益 40 億円。現場案件は現在の1.43倍。直接顧客と大規模施工の比率が上がり、単価は物価を上回って改善する。
- 店頭販促・販売支援・現場人材:数量 10,200(年間の稼働人月(人月、推計))× 価格 0.01(人月当たり受注売上(億円))→ 売上 108 億円・営業利益 8 億円。人月1.13倍、料金1.47倍。採用・教育と稼働率改善で人件費上昇を吸収する。
- 販促企画・PR制作・キャンペーン事務局:数量 700(年間の制作・運営受託案件数(件、推計))× 価格 0.06(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 42 億円・営業利益 3 億円。AIエージェント代替により案件数は現在以下の0.93倍。単価は据え置く。
- デジタル施策制作・広告運用支援:数量 460(年間のデジタル施策・制作案件数(件、推計))× 価格 0.05(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。AIエージェント代替により案件数は現在以下の0.92倍。効率化による採算改善のみ織り込む。
倍率:k7.75%、長期g2%。余剰現金60億円の税後利息0.84億円を純利益から外した事業純利益30.46億円を、事業自己資本150.5億円で割るとROE約20.24%。堀は普通で超過ROEの半分が残るとし、RONIC約14.00%。正当化PER=(1-g/RONIC)/(k-g)=約14.91倍。時価総額は30.46億円×14.90587倍+60億円×戻り方0.75。
確率:大型イベントの受注拡大、直接取引比率の上昇、買収先の連携、採算改善が同時に進む必要がある。実現余地はあるが、案件型の事業で10年間連続して成功するには条件が多いため12%とする。AIに弱い制作・運用数量はこの筋書きでも現在以下とする。
やや楽観 20% 直接顧客が増え、イベントと店頭支援が堅調に拡大 利益 23 億円 · PER 14.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 4,029 円361 億円
体験型イベントへの企業の支出は、景気の変動を挟みながらも増えていく。顧客は大手広告代理店を通す場合と直接発注する場合を使い分け、同社は後者の関係を広げる。NPUなどの空間制作機能が大型案件の受注に貢献し、現場案件数と平均単価がともに増える。ただし、競合のTOWや博展も同じ需要を狙うため、圧倒的な価格決定権までは手に入らない。
店頭人材は登録スタッフの稼働率が改善し、販売員の教育と配置の質が評価される。顧客への料金転嫁は進むが、増えた売上の一部はスタッフへの賃金として支払われる。販促企画とデジタル運用は、AIエージェントによる制作・報告の自動化が進み、仕事量が減る。現場の仕事で増えた利益が制作業務の減少を十分に補う構図である。
買収は既存事業と連携しやすい会社に絞り、取得後の利益改善が着実に進む。営業利益は現在より大きく増え、会社は配当性向の方針を維持する。成長のかなりの部分を株主が受け取れる、堅実な上振れの10年である。
- 体験イベント・空間施工・現場運営:数量 780(年間のイベント・展示・店舗体験案件数(件、推計))× 価格 0.39(案件1件当たり売上(億円))→ 売上 304 億円・営業利益 29 億円。案件数1.30倍、平均単価1.42倍。直接受注の増加と施工能力の拡張を反映。
- 店頭販促・販売支援・現場人材:数量 9,600(年間の稼働人月(人月、推計))× 価格 0.01(人月当たり受注売上(億円))→ 売上 94 億円・営業利益 6 億円。人月1.07倍、名目単価1.36倍。賃金上昇をおおむね料金に転嫁する。
- 販促企画・PR制作・キャンペーン事務局:数量 615(年間の制作・運営受託案件数(件、推計))× 価格 0.06(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 37 億円・営業利益 2 億円。AIエージェント代替で案件数0.82倍。単価は据え置く。
- デジタル施策制作・広告運用支援:数量 400(年間のデジタル施策・制作案件数(件、推計))× 価格 0.05(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。AIエージェント代替で案件数0.80倍。単価は据え置く。
倍率:k7.75%、長期g2%。余剰現金50億円の税後利息0.70億円を除いた事業純利益22.30億円、事業自己資本136.5億円から事業ROE約16.34%。堀は普通でRONIC約12.04%、正当化PER約14.50倍。時価総額は事業純利益×正当化PER+余剰現金50億円×戻り方0.75。
確率:足元の直接取引増加と子会社連携が一定程度続き、現場イベントで市場以上の成長を取る筋書き。大型案件の採算まで順調に改善するとは限らないため、楽観より実現しやすい20%とする。
中立 31% 現場イベントが伸びる一方、制作と広告運用が縮む 利益 16 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,683 円240 億円
企業の発表会、展示会、ポップアップストアは10年後も続く。消費者が実際に商品へ触れられる場所には価値があり、現場の施工と運営を一括で任せたい顧客も残る。ただし、2025年の大型催事が生んだ市場の伸びは繰り返さない。TOW、博展、セレスポや広告会社との競争を経て、同社の受注件数は緩やかな増加にとどまる。
イベント単価は資材、人件費、会場費の上昇を受けて名目で上がる。利益率は一段の改善を当然視せず、採用費用や外注費も増えると考える。店頭人材は人口減少で働き手が確保しにくくなり、稼働人月はわずかに減る。単価上昇がこれを補うため売上は増えるが、粗利益の大部分を独占できるわけではない。
販促企画とキャンペーン事務局では、AIエージェントが素材制作や連絡・集計業務を肩代わりし、案件に必要な人手が減る。デジタル施策でも運用レポートや素材制作の自動化が進み、既存の受託単価を維持するのが精いっぱいとなる。会社は現場に強い事業を残しながら事業構成を変えていく。配当性向の方針を守り、必要な再投資を続けた結果、利益は緩やかに増えるが、ROEは資本の蓄積によって現在より低下する。
- 体験イベント・空間施工・現場運営:数量 670(年間のイベント・展示・店舗体験案件数(件、推計))× 価格 0.37(案件1件当たり売上(億円))→ 売上 247 億円・営業利益 19 億円。現場案件数は1.12倍、価格は1.34倍。実質需要の緩やかな伸びと物価並みの料金転嫁を想定。
- 店頭販促・販売支援・現場人材:数量 8,700(年間の稼働人月(人月、推計))× 価格 0.01(人月当たり受注売上(億円))→ 売上 84 億円・営業利益 4 億円。現場稼働人月は0.97倍。価格は1.34倍で、賃金や管理費の上昇をおおむね転嫁する。
- 販促企画・PR制作・キャンペーン事務局:数量 510(年間の制作・運営受託案件数(件、推計))× 価格 0.06(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 31 億円・営業利益 1 億円。AIエージェント代替による制作・事務工数削減で数量0.68倍。成果報酬化の証拠がないため価格は据え置く。
- デジタル施策制作・広告運用支援:数量 325(年間のデジタル施策・制作案件数(件、推計))× 価格 0.05(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 16 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替により運用・制作案件数は0.65倍。料金を物価に合わせて上げる力は見込まない。
倍率:k7.75%、長期g2%。余剰現金40億円の税後利息0.56億円を純利益から控除し、事業純利益15.24億円と事業自己資本131億円からROE約11.63%を計算。普通の堀で超過収益の半分が残りRONIC約9.69%。正当化PER=(1-g/RONIC)/(k-g)=約13.80倍を採用。事業価値約210.35億円に余剰現金40億円×0.75の30億円を加える。
確率:現場イベントの必要性は持続するが、市場シェアの大幅な拡大は前提にしない。2025年の万博関連の需要増を長期化させず、AIに弱い販促制作・デジタル運用の数量をそれぞれ0.68倍と0.65倍に下げた中心シナリオ。31%を配分する。
やや悲観 24% イベント受注が伸び悩み、広告制作の自動化が進む 利益 6 億円 · PER 12.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,062 円95 億円
大規模イベントへの投資が一巡し、企業は催事の費用対効果を厳しく測るようになる。広告主は施工とスタッフ配置を別々の専門会社へ発注し、一括受託を武器とする同社の価格決定力が弱まる。TOWや博展との競争も激しくなり、現場案件数が減る。資材や人件費は上がるものの、料金への転嫁は十分に進まない。
店頭スタッフの仕事は残るが、人手不足で採用・教育の費用が増える。現場稼働人月が減るため、管理部門の固定費を賄う余力が小さくなる。販促企画とデジタル制作では、AIエージェントが定型の制作・分析・報告を担い、従来型の受託案件が大きく減る。残った仕事も顧客側がAIで代替できる部分について値下げを求める。
M&Aで取得した会社との協業は十分には進まず、新しい売上を獲得するための営業費用が増える。経営は配当を続けるが、利益の減少に応じて還元額も下がる。それでも豊富な現金により資金繰りが行き詰まる可能性は低く、催事会社としては存続する。株主にとっては利益の大きな減少と資本効率の低下に耐える10年となる。
- 体験イベント・空間施工・現場運営:数量 500(年間のイベント・展示・店舗体験案件数(件、推計))× 価格 0.34(案件1件当たり売上(億円))→ 売上 170 億円・営業利益 7 億円。案件数0.83倍、単価1.24倍。大型催事の反動と料金転嫁の遅れで利益率が縮む。
- 店頭販促・販売支援・現場人材:数量 7,500(年間の稼働人月(人月、推計))× 価格 0.01(人月当たり受注売上(億円))→ 売上 68 億円・営業利益 2 億円。人月0.83倍、料金1.26倍。採用と教育の負担が残り、利益率が低下する。
- 販促企画・PR制作・キャンペーン事務局:数量 375(年間の制作・運営受託案件数(件、推計))× 価格 0.06(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 21 億円・営業利益 1 億円。AIエージェント代替で数量0.50倍、価格0.93倍。残存案件の利益も薄い。
- デジタル施策制作・広告運用支援:数量 275(年間のデジタル施策・制作案件数(件、推計))× 価格 0.05(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円。AIエージェント代替で数量0.55倍、価格0.92倍。制作・運用報酬に値下げ圧力がかかる。
倍率:余剰現金22億円の税後利息0.308億円を除いた事業純利益6.092億円、事業自己資本126億円からROE約4.84%。k7.75%以下なので成長による超過価値は認めず、PER上限1/k=約12.90倍を採用。事業純利益×PERと余剰現金22億円×0.75の合計で評価する。
確率:2025年の大型催事需要の反動、顧客の内製化、AIによる販促業務の削減が重なりやすい。現場受注の価格競争と外注費増加も起きるが、会社の物理的な実行力と純現金は残る筋書きとして24%とする。
悲観 13% 主要顧客を失い、制作事業と現場事業が同時に衰える 利益 1 億円 · PBR 0.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 875 円78 億円
イベントの現場は残るものの、同社は大手顧客との継続的な関係を失う。広告代理店の内製機能や専門の施工会社が案件を獲得し、同社は利益率の低い下請け業務を引き受けることが多くなる。大型案件の獲得を優先して価格を下げた結果、売上が減るだけでなく利益率も低下する。固定的な社員の人件費と管理費が残り、現場の採算が悪化する。
AIエージェントは販促企画書、広告素材、運用レポート、問い合わせ対応の多くを代替する。顧客は制作・運用の外注費を大きく減らし、既存の事業形態では受託先が見つからなくなる。店頭の人材需要も縮み、稼働率が落ちる。過去に取得した会社の一部は統合効果を生まず、再編や事業撤退の負担が生じる。
営業利益はほぼ失われ、事業の収益力だけでは高い株主価値を正当化できない。経営は事業規模を縮めて現金を守ろうとするが、雇用や顧客との契約を直ちに整理することはできない。過去の利益から行った配当は残るものの、その後の還元は細る。十年後の企業価値を支える中心は将来の成長期待ではなく、回収可能な現金と換金可能な資産になる。
- 体験イベント・空間施工・現場運営:数量 330(年間のイベント・展示・店舗体験案件数(件、推計))× 価格 0.32(案件1件当たり売上(億円))→ 売上 106 億円・営業利益 2 億円。主要顧客の喪失で案件数0.55倍。競争激化で価格も物価上昇を十分に反映できない。
- 店頭販促・販売支援・現場人材:数量 5,900(年間の稼働人月(人月、推計))× 価格 0.01(人月当たり受注売上(億円))→ 売上 49 億円・営業利益 0 億円。人月0.66倍、料金1.15倍。稼働率低下と労務費負担が重なる。
- 販促企画・PR制作・キャンペーン事務局:数量 220(年間の制作・運営受託案件数(件、推計))× 価格 0.06(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 12 億円・営業利益 −1 億円。AIエージェント代替で数量0.29倍。価格も下がり、残存固定費で赤字化する。
- デジタル施策制作・広告運用支援:数量 160(年間のデジタル施策・制作案件数(件、推計))× 価格 0.05(受託案件1件当たり売上(億円))→ 売上 7 億円・営業利益 −1 億円。AIエージェント代替で数量0.32倍。事業縮小の費用が利益を圧迫する。
倍率:事業ROEは資本コスト7.75%を大幅に下回る。稼ぐ力による価値より回収可能資産の価値を重視し、現在の自己資本98億円の0.8倍で78.4億円と評価する。10年間に積み上がる将来の自己資本133億円へ倍率を掛けてはいない。現在の純現金73.7億円と追加の正味回収資産約4.7億円が床となる。現金をPBR価値に重ねて足さない。
確率:大型イベントの失注、競合への顧客流出、AIによる制作業務の急減、買収先の不振が重なる構造的敗北の筋書き。現場そのものの需要が完全には消えず、現在の純現金も厚いため倒産を中心にはしないが、現実に無視できない13%とする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
体験イベント・空間施工・現場運営
展示会、企業イベント、ポップアップストア、会場施工と当日の運営など、物理的な体験を完成させる仕事。企画に付随する作業のうち現場での実行価値が中心の部分を含む。
| 数量年間のイベント・展示・店舗体験案件数(件、推計) | 価格案件1件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 600 | 0.28 | 165 | 15 |
| 10 年後 中立 | 670 | 0.37 | 247 | 19 |
取り方:法定報告セグメントは単一で案件件数・平均単価の開示もないため推計。NPUの年間売上約39.9億円、連結売上299.5億円、会社が示すエクスペリエンス領域、2027年4月期1Qの大型契約構成を手掛かりに、現場イベント・施工の売上を165億円と仮定した。実際の大型・小型案件の件数分布は不明であるため、年間600件×平均0.275億円という分析上の換算単位とした。2025年企業販促イベント市場4,748億円に対する参考シェアは約3.5%。売上も案件数も会社開示の内訳ではない。
店頭販促・販売支援・現場人材
店頭の販売員、受付、施設・店舗運営、展示会スタッフなど、顧客との対面業務に人材を配置する仕事。現場の人月が数量であり、事務作業の一部だけがAIの影響を受ける。
| 数量年間の稼働人月(人月、推計) | 価格人月当たり受注売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 9,000 | 0.01 | 65 | 3 |
| 10 年後 中立 | 8,700 | 0.01 | 84 | 4 |
取り方:フロンティアダイレクトの2026年4月期売上約59.4億円を下限の手掛かりとし、グループ内の同種業務を含め65億円と推計した。価格は1人月約72.2万円、数量は年間9,000人月、平均約750人相当という換算。会社が示す登録人材約4万2,000人は稼働人月ではなく、直近の臨時雇用人数とも一致しない。人材派遣市場約9兆7,962億円に対する参考比率は約0.07%だが、対象職種が異なるため厳密なシェアではない。
販促企画・PR制作・キャンペーン事務局
広告主向け販促案の制作、キャンペーン事務局、宣伝素材・進行台本の制作など、企画と人の作業時間によって報酬が決まる部分。AIエージェント代替の影響を強く受ける。
| 数量年間の制作・運営受託案件数(件、推計) | 価格受託案件1件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 750 | 0.06 | 45 | 2 |
| 10 年後 中立 | 510 | 0.06 | 31 | 1 |
取り方:イベント現場、店頭人材、デジタル業務を除いた販促企画・制作・事務局の独立した経済価値として45億円を推計し、年間750案件×平均600万円と換算した。イベント受託の中に含まれる企画費との重複を避けるため、現場イベント領域からはこの部分を除く。公式の独立売上や案件数の開示はない。広告制作・運用に準じるAIエージェント代替型であり、中立数量は10年で0.68倍、価格は据え置く。
デジタル施策制作・広告運用支援
デジタル媒体のプロモーション、素材制作、運用報告、デジタル施策の実装と支援。顧客の記録の正本となる基幹業務ソフトではなく、制作・運用サービスを中心とする。
| 数量年間のデジタル施策・制作案件数(件、推計) | 価格受託案件1件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 500 | 0.05 | 25 | 1 |
| 10 年後 中立 | 325 | 0.05 | 16 | 0 |
取り方:会社のデジタル・テクノロジー領域とデジタル関連事業譲受の内容を踏まえ、連結売上のうち24.5億円を独立した制作・運用売上と推計した。年間500案件×平均490万円という数量・単価は分析上の換算で、公式開示ではない。2025年デジタルマーケティング市場3,672億円に対する参考比率は約0.67%。独自データ基盤や規制対応による強い乗り換え障壁は確認できず、AIエージェント代替型として中立数量は10年で0.65倍、価格は据え置く。
リスクと懸念
AI エージェント代替による制作・運用の収益縮小
販促企画、広告素材の制作、キャンペーン事務局、デジタル広告の運用・報告は、人が作業した時間に対する報酬が減りやすい。AIエージェントが顧客企業や広告代理店の内部で使われれば、従来の外注案件そのものが消える。現場イベントは直接代替されにくいが、企画業務が受注額に含まれるため影響は完全には切り離せない。中立で制作・運用数量を大幅に減らしても、実際の代替速度がそれを上回る危険がある。
大型案件の集中と採算変動
2027年4月期第1四半期には3,000万円超の契約が売上の過半を占めた。大型案件は一括受注による付加価値を高めるが、失注した場合の売上減も大きい。開催日直前の仕様変更、施工費の増加、外注先の人手不足、事故対応などは後から料金に転嫁しにくい。案件数が増えても粗利益率が下がれば株主利益は増えず、過去の最高利益を将来の恒常的な稼ぐ力とみなすのは危険である。
M&Aと非支配株主持分
同社は買収と事業譲受を成長戦略の柱にしている。取得会社の顧客や人材を生かせれば強みとなるが、取得価格が高かったり、管理コストやのれん償却が増えたりすれば資本効率を下げる。NPUのように非支配株主持分が存在する会社では、連結営業利益の増加がそのまま親会社株主の利益にならない。新規買収の件数ではなく、買収後の現金創出力と投下資本に対する利回りを検証すべきである。
現場人材の確保と費用転嫁
イベント施工、展示会運営、店頭販売には多くの現場人材が必要である。人口減少に伴い採用と教育の費用が上がり、繁忙期に十分なスタッフが確保できなければ受注機会を失う。価格に転嫁できた場合でも、賃金や外注費の上昇をそのまま上回る利益が残るとは限らない。登録人材の人数だけでなく、実際の稼働人月、稼働率、受注単価と人件費の差を見る必要がある。
純現金の過大評価と資本配分
2026年4月期末の純現金は約74億円と厚いが、催事運営には立替払い、売掛金回収までの資金、納税資金が必要である。翌第1四半期に現金残高が大きく減ったことからも、残高全額を自由に還元できる現金とみなせない。さらに創業者が議決権の過半を支配しており、資金が配当ではなく買収へ向かう可能性がある。誤った買収で現金が失われれば、現在の割安判断を支える資産面の安全域も縮む。
顧客の内製化とイベント市場の反動
大手広告代理店や広告主自身が企画・進行管理の人材を抱えれば、外部に任せる仕事の範囲は狭くなる。TOW、博展、セレスポなどの競合も、広告主との直接取引を増やそうとしている。2025年の市場拡大には万博など一時的な大型催事が含まれ、10年先の実需成長を示しているとは限らない。催事需要の反動と内製化が重なれば、案件数と利益率が同時に下がり、現場業務という強みまで侵食される。
今後の分かれ目
- 広告主との直接取引比率が継続して上昇し、粗利益率も複数年度で改善したら
- 大手広告代理店への依存低下と値決め力の改善が実証されたとみる。現場イベントの案件数と利益率を上方修正し、やや楽観側の確率を増やす。直接取引の増加だけで利益率が改善しなければ評価を変えない。
- 現場イベントの受注件数が増えず、売上増の大半が買収と資材費転嫁によるものだったら
- 事業の実質数量が伸びていないため中立のイベント数量を引き下げる。連結売上の増加を競争力の向上と誤認せず、買収先の利益貢献と投資額を確認する。
- 制作・販促事務局・デジタル運用の人員と外注費が減り、顧客からの受注額は維持できたら
- AIエージェントを効率改善に転換できていると判断する。ただし、AIを自社の有償商品として販売した実績が確認されるまでは、制作・運用数量の増加を楽観シナリオへ加えない。
- 制作・運用の受注単価が下落し、顧客がAIによる内製化を明言し始めたら
- AIエージェント代替の進行が中心想定より速いと判断する。企画制作とデジタルの数量・価格を下げ、やや悲観・悲観の確率を見直す。ただし同じ理由で資本コストを追加的に引き上げない。
- 大型M&Aの後にのれんが増え、親会社株主利益や営業キャッシュフローが伸びなかったら
- 買収資金の効率的な再投資ができていないとみる。余剰現金の額を引き下げ、買収先の利益率と非支配株主持分を確認し、長期価値を再計算する。
- 配当性向50%前後の維持に加えて自社株買いが継続し、余剰現金の株主還元が実証されたら
- 現金の株主への戻り方を0.75から1.0へ見直す余地が生じる。発行済株式から自己株式を除いた株数の実減少を確認し、譲渡制限付株式報酬による自己株式処分と買い戻しを混同しない。
見ておくもの
- エクスペリエンス領域の大型受注件数と案件平均単価。会社が独立した数量を開示した場合は推計値を置き換える。
- 広告主との直接取引比率、3,000万円超の大型契約比率、連結粗利益率の推移。
- フロンティアダイレクトの売上、現場稼働人月、登録人材数と実際の稼働率。
- 制作・PR・デジタル運用の売上と外注費が、AI導入後にどう変化するか。
- 新規M&Aの取得価格、のれん償却・減損、非支配株主利益、買収先の営業利益とキャッシュフロー。
- 純現金、前受金・買掛金・売掛金の季節変動、営業キャッシュフローと配当総額。
- 配当性向50%の継続、自社株買いによる実質的な株式数の減少、立会外分売後の株主構成。
- 日本イベント産業振興協会のイベント市場統計と、TOW・博展・セレスポの案件動向および利益率。
倍率と資本コストの決め方
2026年10月22日の株価と株数による時価総額は約122.46億円。株価を筋書きの出発点とはせず、法定単一セグメントの売上299.5億円を、現場イベント、現場人材、販促制作、デジタル制作の実物数量×価格へ再構成した。各領域の売上・利益内訳と案件数は開示されていないため、子会社売上と市場規模を使った推計であり、精度上の限界が大きい。利益率は実行業務の競争とAI代替を踏まえ、10年中立で全社約6.7%とした。倍率は市場のPERや同業のPBRを使わず、k7.75%、長期g2%、事業ROEとRONICから決めた。楽観から中立までは正当化PERの上限をそのまま採用し、やや悲観は稼ぐ力、悲観は純現金と換金可能資産の床で評価した。悲観の時価総額78.4億円は推定資産の床を下回らず、時価総額と10年間の還元額の合計108.4億円も現在の時価総額を下回る。新リース会計基準の適用後も、営業利益は家賃を費用とする比較可能な形で考え、固定の賃借負担が消えるとはみなしていない。確率加重した10年後の時価総額と還元の現在価値は約161.38億円で、現在との差は約+31.8%。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、循環0%、価格競争+0.5%、純現金-0.25%、寿命0%を加えた7.75%。個別のM&A失敗や大口案件の採算リスクは資本コストでなく筋書きと確率に反映する。